冒険者ギルドで登録を行った圭。その中で、まさか職業に
「あの、えっと……。ケイ、いえケイさま?」
圭に向かって揉み手をしながら近づいてくるアクア。その顔、というよりも瞳は通貨単位のエリスと化しており、彼女が何をしたいのか察した圭は顔をひきつらせている。
「あの、もしよろしければ――」
「そぉい!」
「あいったぁ――!!」
アクアが何事かを言う前に、させるものか。とばかりにカズマはショートソード――もちろん、鞘に納めたまま――を一閃。アクアをどつき倒す。
不意打ちを食らうことになったアクアは、そのまま受け身を取ることも出来ず前のめりに倒れ、顔面を床へ強かに叩きつける結果となる。
「……うわぁ」
その一連の流れに、今度は別の意味で顔を引きつらせる圭。
しかし、その程度ではダメージにもならないのか、がばりと即座に起き上がるアクア。そして彼女は下手人であるカズマに詰め寄る。
「ちょっと、このヒキニート。いきなり何するの! 今回もすんごく痛かったんですけど!」
「お前こそ何やってんだ! いくらなんでも冒険者なりたての人へ、たかりにいくやつがあるか!」
「いっぱい持ってるしちょっとぐらい良いじゃない!」
「良くないわっ!」
そして、本人を除け者にして口論を始めた二人だったが――。
公共の、しかも冒険者の邪魔になりそうな場所で、そんなことをするのが許される訳もなく。
「ハイ、オフタリサン」
「なんだ、よ……」
「なによ――!」
側にまで近づいていた警備員に掴まれ、そのままぺいっ、とギルドから投げ出される二人。
「あ、ははは……」
圭は二人の末路を見て乾いた笑みを浮かべると、クエストを受けるため掲示板を物色するのだった。
あの後、結局ギルド職員やルナの助言を受け、圭はカズマたちが受けている常設クエスト、ジャイアントトードの討伐を受け、アクセルの街へ来る前、カズマたちと出会った平原へと舞い戻っていた。
「うん、ここにカエルたちがいるって話だったけど……」
確かにカズマたちと出会った時にはジャイアントトードはいた訳だが。
「見渡す限りの平原、だね……」
モンスターどころか野生動物すら見当たらない平和な光景。それを見て嘆息すると、圭は目を瞑り、耳を澄ませる。
――木々が風で揺れる音。
――遠くで鳴く小鳥のさえずり。
――そして、地面で起きる不自然な地響き。
「……っ! 足元!」
僅かに聴こえてきた地響きは圭の足元からであった。
それに気付いた圭はバックステップ!
直後、地面が爆発し、中からジャイアントトードが現れた。
現れたジャイアントトードを見て不敵な笑みを浮かべる。
「……奇襲なんて、思ったより頭が良いのかな?」
そう言いながら、彼女はサックスを構えるのであった。
カズマは焦っていた。
警備員に一度、アクアとともに外へポイ捨てされた後、しばらく二人して頭を冷やして再びギルドへ向かったのだか。
そこで圭が既にクエストを受け、しかも平原へ向かったという話を聞いたのだ。
いくら圭が強いとは言っても、ジャイアントトードに囲まれたら手数の差で捌ききれず、ぱくり、と食べられる可能性だって否定できない。
さすがのカズマでも恩人がそんな目にあうのを許容できるほど人をやめてないし、たとえ僅かでも手伝いくらいは出来る筈だ。
……もっとも、それとは別に圭もカエル討伐のクエストを受けた、ということで一緒に戦えばクエスト完了できるかも。という下心もなきにしもあらずだが。
「ちょっと、カズマさん! ……待ちなさいったら、このヒキニート!」
後ろで自称女神――この際だから、もう駄女神でも良い気がする――が騒いでいるがそれどころじゃない。
「急げアクア! 圭のやつ、もうカエルとやりあってるのかもしれないんだぞ!」
その言葉でアクアも最悪の事態を想像したのだろう。
心なしか走るスピードが早くなった気がする。
もう少し、もう少しで平原にたどり着く。
いた!
あの後ろ姿は間違いなく、圭だ。
そして、彼女がバックステップを踏んだ瞬間、地面が爆発するように膨れ上がり中からカエルが、ジャイアントトードが現れた。
「まじかよ――!」
最悪だ。結果としてカズマの危惧する通りとなってしまった。
いくらなんでも、あんな至近距離では回避することもままならない!
「危な――」
意味がないと分かっていても、思わず叫ぶカズマ。
しかし、その叫びは最後まで続かなかった。
圭の目の前にいるジャイアントトード。それが突如として顔全体から血液を噴き出し、倒れたのだ。
「「……は?」」
突然の惨状に呆けた声を上げるカズマとアクア。いくらなんでも意味が分からなかった。
だが、その声がどうやら圭に聴こえていたようで。
「あれ? 二人とも来てたんだ?」
と、不思議そうな顔で首をかしげていた。
圭はバックステップを刻みながら、バタバタとこちらに走ってくる足音について、実は既に認識していた。
しかし、それがどういった意図で近づいて来るのか分からなかったため、カエルの討伐を優先することにした。
彼女にとってサックスはCOMP、悪魔を召喚するための補助器の役割を持つのも確かだが、それ以上に彼女にとって武器でもあるのだ。
そして、サックスを。楽器を武器とするからこそ彼女は
彼女の
先ほどジャイアントトードを捜索するために、耳を澄ませたのもそうだし、カズマたちが走ってきたのを察したのもその一端。
圭は異常に耳が良い……という訳ではなく、MAG、生体エネルギーを使い聴力を強化していた。それによりあらゆる音を聞き分け、周囲を把握していたのだ。
それが彼女の
そして、攻撃的な能力を放つのに必要なのが、彼女の手に持つサックス。
圭は自身のMAG、生体エネルギーを体内に循環させ練り上げる。それはさながらフィクションで氣や魔力を爆発させるように。
そして、その練り上げたMAGをサックスにまとわせつつ演奏、否、音という名の衝撃波を放つ!
しかも、それだけではない。本来、音というものは周囲に響き渡る。言い換えれば拡散するものだ。
しかし、彼女が放つ衝撃波は別だ。
そも、カズマたちは圭が演奏したサックスの音に気付かなかった。それはなぜか?
言葉にするだけなら単純だ。
演奏したサックスの音。そのすべてを圭はジャイアントトードに到達するように
元々全周囲に拡散する音。それを一ヶ所に集束すればどうなるか?
その答えがカズマたちの見た光景。
衝撃を一点、ジャイアントトードの頭部に集中させることで脳震盪どころか内部を蹂躙。破壊し、その結果ジャイアントトードの顔から血液を噴き出させ絶命させた致死の一撃となった。
そして、目の前の敵。ジャイアントトードを仕留めたことで彼女は近づいてくる人物たち、カズマたちへ意識を割くことができ、ようやく彼らが近づいてきていたことに気付いた。
「あれ? 二人とも来てたんだ?」
まさかこんなところまで来ると思っていなかった圭はそんな声を上げる。だが、これは同時に好都合だと思った。
先ほどカズマの突っ込みで有耶無耶になったアクアの正体について知ることが出来るから。
先ほど、アクアはカズマに止められるまで、というよりも止められた以降も自身のことを女神だと主張していた。
……実は彼女、その事に関してあまり疑ってはいなかった。なにせ、アクアからほんの僅かとはいえ神威を感じていたから。
だが同時に、その神威の小ささからあまり力を持たない女神、もしくは半神あたりかと思っていた。
だから、圭は確かめることにした。
「ねぇ、アクアさん」
「どうしたの?」
「貴女、本当に女神さまなんだよね?」
圭の確認、それを聞いたアクアは下界へ――強制的に――降りてきてはじめて信じてもらえたことにガッツポーズしている。そして、それを証明するために改めて名乗りを上げる。女神としての自身の名を。
「そう、そうよケイ。私はアクシズ教の御神体にして水の女神アクア。まごうことなき女神よ!」
「水の、女神……」
女神アクアの名乗りを聞いて、やはり圭は聞き覚えがないと思う。
もっとも、ここは異世界。それ故神話体系が違う可能性は十分あり得る。しかし、もしかしたらただ単に圭の知識にないだけ、という可能性もまた否定できない。
もっとも、可能性だけ考えていたら切りがない。ならば、どうする?
それならば
「――――」
おもむろにサックスを構え、奏でる圭。
「ちょっ、ちょ――!」
それを見てビビるアクア。
先ほど、顔面から血を噴き出したジャイアントトードを見たのだから、さもありなん。
しかし、彼女の心配するようなことは起きず。
「な、なに……?」
「おいおい、なんだよありゃ?」
アクアとカズマ、二人は圭の足元に展開される魔法陣を見て疑問を覚える。いったい何をしようとしているのか、と。
その答えはすぐにもたらされた。
魔法陣が発光するとともに、まず水が大量に召喚され、それが中空に留まると人の形を形成していく。
「お、おぉぉぉ――――!!」
「…………?!」
それを見たカズマは興奮した様子で、対するアクアは形作られた
その女性はもはやほぼ全裸と言って良いほどの風体で、大事な部分のみ水流で隠しているという有り様。
また、背後には金色の巨大な板のようなものが複数浮かんでいた。
顕現した女性、美女と呼んで差し支えない
「あらマスター、何かご用事?」
「ええ、
現れたヒトガタをアナーヒターと呼んだ圭。
そう、彼女の名は女神-アナーヒター。
ゾロアスター教、ペルシャ神話に於いて川や水の神としての権能を持ち、同時に悪魔や暴君を打ち倒す軍神という側面を持つ女神だ。
アクアが水の女神だというのなら、同じく水の女神である彼女と面識があるかもしれない。
そう踏んだ圭は、
そして圭はアクアを指差す。
「――彼女のこと、知ってる? 水の女神らしいんだけど」
もし、アクアが邪神の類いであれば討伐する。それが