結局あの後、圭はジャイアントトードをクエストの規定数討伐したこともあって、さっさとアクセルの街へと帰還していた。
「……はい、確かに確認しました。こちらが報酬となりますシドウケイさま」
まさか、朝方クエストを受理して昼には終わらせる。なんて芸当を新人――いくらステータスが高いとはいえ――が行うとは露とも思わず、担当のルナは内心、顔をひきつらせていた。
それでも表の表情にみせなかったのはプロの面目躍如といえるだろう。
なお、ギルドにたむろしていた冒険者パーティーたちはその限りではなく、露骨に顔をひきつらせている。
いくらジャイアントトードが冒険者にとってそこまでの驚異ではない、とはいえ家畜の牛などを丸呑みできるだけの能力はある。
そのことから驚異ではなくとも危険であることには変わりないのだ。
そんなモンスターを
「よぉ、新入り」
そんな期待の新人である圭に声をかける人物が現れた。その人物は――。
「あっ、あのときのモヒカンさん。この間はありがとうございました!」
モヒカン頭の世紀末っぽい服装の男。荒くれ者であった。
「よせよ、オレはあくまで伝えただけだ。その後の事はお前さんの実力さ」
「……あ、あはは」
荒くれ者に誉められ、照れ臭そうにしている圭。本来の世界に於いて仲間内では地味、とまではいかないがどうしても縁の下の力持ち、という役割が多かったことから誉められることもあまりなかったことで耐性ができてなかった。
もっとも、それもあくまで仲間内の話で単純な実力でいえば上澄みの端くれではあったのだが、流石にワイルドのペルソナ使いや、当代の葛葉ライドウ。死の体現者である魔人などと比べると一段落ちるのは当然だった。
それはともかくとして、クエスト報告を完了して一息ついていた圭。
そんな彼女に荒くれ者以外にも話しかけてくる者がいた。
「あっ、いたいた。ちょっといいかな?」
「はい……?」
声をかけられたことでそちらを向く圭。そこには銀髪で軽装の、ともすれば男とも間違われそうな女の子の姿が。
その子に見覚えがない圭は、不思議そうな顔で彼女を見る。
「えっ、と……?」
「あぁっ、そんな警戒しないで――」
焦りながら苦笑いする少女。圭からの不安を払拭したい彼女は捲し立てるように自己紹介する。
「アタシはクリス。盗賊をやってるんだ、期待の新人さん?」
「クリス、さんですか……? ……えぇっと、知ってるだろうけど、私は祠堂圭。デビルサマナーやってます」
唐突なクリスの来訪に訝しげにしながらも自己紹介をする圭。
対するクリスは、これで自己紹介は終わったとばかりに本題へ入る。
「そう、それ。その、デビルサマナーってやつ? アタシ、ちょっと気になっちゃってさぁ……。詳しく教えてくれない?」
このとーり、と拝みながら頼み込むクリス。そんなクリスにどうしたものか、と頭を悩ませる圭。
悩んでいる彼女に、クリスは一つ提案する。
「ほら、もしここで話しづらい、っていうんならどこか人の来ないとこでもいいからっ! 場所もアタシが知ってるから、さ。ねっ?」
小首をかしげながら、可愛らしくお願いするクリス。少なくとも、そこまでお願いするクリスに邪なものを感じなかった圭は――。
「……まぁ、いいですけど」
と、了承する。その答えを聞いたクリスは気持ちの良い笑顔を浮かべると。
「よかったぁ……。それじゃ、早速いこう!」
圭の手を取ると、引っ張るように二人でギルドを後にする。その二人と入れ違う形で今度はカズマとアクアがギルドへと帰ってくるのだった。
アクセルの街にある人気のない裏路地。そこにクリスと圭の姿があった。
クリスは圭の警戒を解くようににこにこ笑顔を浮かべて話しかけようとする。しかし、その前に圭がクリスへと疑問をぶつけた。
「それで、さっきの話――」
「それよりもクリスさん」
「……なにかな?」
「下手な芝居、やめません? ずっと殺気が漏れ出てますよ?」
「……へぇ?」
圭の指摘を受け、目を細めるクリス。
圭はなぜクリスがここまで殺気立ってるのかわからない。だが、少なくとも彼女が自身を歓迎していないことだけは理解できた。
そして、殺気に隠れているが、僅かに漏れ出るモノ。
(……どこかの女神、かな? にしてもアクアさんといい神威が小さい? それとも意図的に隠してる、か……)
思考を巡らせる圭。目の前の推定女神が何を目的としているのか不明な以上、油断するわけにはいかない。
それに殺気だってそうだ。なぜかクリスの殺気は圭ではなく、
その理由を知る由もなかった圭。だが、次なるクリスの言葉で否が応にも理解することになる。
「この世界に悪魔なんて屑、呼び出されても困るんだよね。ここは人の世界なんだからさ」
……あぁ、これはメシア教とかと同質の。と、嫌な納得を強いられる圭。
それほどまでにクリスから感じる悪魔に対する嫌悪感が凄まじかった。さらにいうなら悪魔の定義もこちらを違うようだし……。と、頭を抱えている。
そんな圭の態度に苛立ちを募らせるクリス。
「ねぇ、なんとか言ってくれないかな?」
「えっと、どう説明したらいいのかなぁ……」
途方に暮れている圭は、どうしたものか。と思案する。その結果、圭は――。
「――――」
無言で召喚器、COMPであるサックスを構える。思考を放棄して、仲魔へ説明を丸投げするつもりのようだ。
そして、それが悪魔召喚の儀式だと知らないクリスは頭に疑問符を浮かべる。
「ちょっと、なにするつも――」
クリスが質問する前に圭が演奏をはじめた。すると展開される召喚陣。そこで悪魔召喚の儀式だとはじめて気付いたクリスは慌てて止めようとするが、間に合うわけもなく。
「……マスター? 日に二回も召喚なんて珍し――エリス?」
「……へっ? うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!」
召喚されるアナーヒター。それを見て仰天するクリス、というなんとも間抜けな光景が繰り広げられることとなった。
「……なんというか、貴女。昔からそそっかしいところがあったけど」
「…………はぃ」
あきれた表情でクリスを見るアナーヒター。対するクリスは完全に借りてきた猫のようにおとなしくなっていた。
そんな二人(二柱?)を見て冷や汗をかく圭。そして圭は確認するように話しかける。
「それでアナーヒター? そこのクリスさんの正体は、この国の主神である幸運の女神エリスで、この地にたまたま降臨していた、と?」
「そう言うことになるわねぇ……」
そして、またため息を吐くアナーヒター。それを受け、怖がるように肩をびくつかせるクリス。そこに主神としての威厳はまったくなかった。
「とてもそうはみえないんだけど……?」
「うぐっ……!」
何気ない圭の言葉が、ぐさり、とクリスの胸に突き刺さる。
「まぁ、こんなんでも成績は優秀だったのよ、成績は……」
「あぐぅ――!」
アナーヒターの擁護に思わせた追撃で、さらにズタズタにされるクリスの心。実際、恥ずかしさと悲しさから滂沱の涙を流していた。
そしてクリスは先ほどまでの威勢はどこへいったのか、情けなくも圭にすがり付きながら懇願する。
「ケイさんっ、いえ、ケイさま! どうか、どうかこの事はご内密にぃっ――!」
端から見ればいたいけな少女をすがり付かせている女性。という構図に先ほどとは別の意味で冷や汗が止まらない圭。
そんな状況に圭は――。
「は、はは……。――この世界にはこんな人しかいない、のかなぁ……?」
と、途方に暮れるのであった。