この素晴らしい世界に漂流を   作:想いの力のその先へ

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第六話 ハイテクサマナー

 クリスと何だかんだのすったもんだがあったものの、なんとか平和裏に終わらせることができた圭は安堵のため息をはいていた。

 

「はぁ…………」

「えっと、ごめんね……?」

 

 本当に勘弁してほしい。そんな想いを込めてジト目でクリスを見る。

 もしここが人気のない路地裏でなければ先ほどの状況も相まって、圭の社会的評判は悲惨なことになっていただろう。

 それが阻止できただけマシ、という考えもできる、が。そもそもクリス――幸運の女神-エリス――が早とちりしなければ背負う必要すらなかった苦労であり、その分の怨嗟をはいても許される筈だ。

 そんな圭の負の念を感じたクリスは顔をひきつらせる。

 

「あ、はは……。許して、ほしいなぁ。なんて――」

「それだけで許される、とでも……?」

「…………ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁい!」

 

 人気のない路地裏、そして建物の合間から覗く青空にクリスの謝罪が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 しばらく米つきバッタのように土下座を繰り返していたクリス。彼女の行動を流石にあわれと思ったのか、圭は深々とため息をはいたあと――。

 

「わかった、わかりましたから。もう、顔をあげて……」

「……許してくれる?」

「許します、許しますから……」

 

 これ以上責めたところでこちらが疲れるだけだと思った圭は、クリスを許すこととした。

 圭から許しを得たクリスは安堵の表情を浮かべ立ち上がる。

 

「よかったぁ、ありがとうケイさん」

 

 その緩くなった表情から、本当に彼女が安心していることが見て取れた圭は苦笑いを浮かべる。

 

「まったく……。変なところで疲れたよ……」

「あはは……」

 

 圭の愚痴に、クリスは誤魔化すように乾いた笑い声を出す。そして、彼女は疑問に思っていたことを口にする。

 

「でも、どうしてここにアナーヒターさまが? それもデビルサマナー? に関係あるの?」

 

 可愛らしく小首をかしげるクリス。圭としては、最初にその質問をしてくれれば。と思わなくもなかったが、それはともかくとして彼女の疑問に答える。

 

「アナーヒターは私の仲魔だよ」

「……仲間?」

「ちがうよ、仲魔。仲間の悪魔って意味だよ」

「……………………あくま?」

 

 圭の説明、その意味がわからなかったのかクリスは目をまんまるくして頭の上へ大量の疑問符が飛んでいる。

 まぁ、それも仕方ない。なにせ、この世界と圭たちの地球では悪魔の概念自体が異なっているのだから。

 そのこともあり、圭は当初の予定どおりクリスに悪魔の概念を説明することにした。

 

「えっと、ね――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 自身の世界――主に女神転生的な悪魔について説明した圭。その説明を聞いたクリスは目をぱちぱちしながら驚いていた。

 

「えっと、つまりケイさんの世界では、悪魔というのは邪悪なるものという意味じゃなくて、人間以外の存在、特に伝承や都市伝説で語られる者たちだって、こと――?!」

「……なんか、驚き方がおかしい気もするけど。まぁ。そういうことだね」

「だからアナーヒターさまも悪魔という括りに?」

「うん、まぁそう言った意味では天使や神さまだって悪魔扱いだからね」

 

 圭の言葉を聞き、ショックを受けるクリス。言外にお前も悪魔だぞ。という宣言を受けたのだから、悪魔を毛嫌いしているクリス(エリス)からすれば半ば死刑宣告に等しいだろう。

 実際、今も彼女は私が悪魔、悪魔……。と、放心してぶつぶつ呟いている。

 それを見た圭は、流石にかわいそうだったかな。と少し罪悪感を覚える。しかし、同時にこれが事実なのだから仕方ない。べつに、これは先ほどの仕返しでも、意趣返しでもないのだから。

 それはともかくとして、基本的な悪魔の説明を終えた圭は、いよいよ本題である悪魔召喚師、デビルサマナーについて説明をはじめる。

 

「それでデビルサマナーについてだけど……。まぁ、身も蓋もない言い方をすれば読んで字のごとく悪魔と契約し、召喚が可能になった術師全般のことだね。私の場合は――」

 

 そう言いながら圭は己の得物であるサックスを掲げる。

 

「これを使って召喚する感じ、かな?」

「へぇ……」

 

 その説明に興味を引かれたのか、サックスをまじまじと見るクリス。

 

「これで召喚……?」

「正確にいうと、この中に仕込んである機械。COMPを使ってなんだけどね」

「COMP……?」

「うん、クリスさんも本来悪魔、というよりも人外の存在を召喚する難易度の高さはわかるよね?」

「まぁ、それはね――」

 

 圭の問いかけに苦々しく顔を歪めながら答えるクリス。

 本来、悪魔にしろ神にしろ、現世に降臨させるためには複雑な儀式に加え、悪魔であれば生け贄、神であれば供物が必要となる。

 それらを用意するのは簡単ではなく、召喚師というのは本来、かなりのベテランが様々な準備を行い、なおかつそれでも失敗の危険性があるという大変難易度の高いものだ。

 しかし、その儀式を簡略化し難易度を下げるものが開発された。それがCOMPだ。

 

 COMP、正確には『悪魔召喚プログラム』がどれだけ画期的だったかというと、儀式自体を完全にプログラミング化したことによって詠唱や魔法陣、召喚陣をデータ上に構築することにより失敗をなくし、さらに生け贄に関してもMAG、生体マグネタイトという生命エネルギーを捧げることによって生け贄の代替、即ち生け贄自体をも不要とした。

 それはつまり、機器さえあれば素人であろうとも悪魔を顕現させることができるようになった、ということであり――。

 

 それらの説明を聞いたクリスは顎が外れそうなほど口を開いて呆然としている。

 そして、しばらく経った後、正気に戻ったクリスはいやいや、と慌てて突っ込みはじめる。

 

「ちょ、ちょっと待って! なんて危険なもの開発してるの?! そんなことしたら最悪、世界が悪魔まみれに――」

「――するのが目的の一つだったみたいだからね……」

 

 疲れたような圭の呟き。それを聞いたクリスは絶句する。

 なぜ、そんなことを……。そう考えるのも無理はない。だが、それが必要なことだったのも確かなのだ。……ありがた迷惑なのも間違いないのだが。

 

「あの世界は悪魔召喚プログラムが開発される以前から既に悪魔たちは暗躍してたロウ陣営(天使や神)カオス陣営(悪魔や土着の神々)問わずに。そして、それに対して人間たちの戦力はあまりに少なかったの」

 

 むろん、その戦力が全部弱かった、などというわけではない。むしろ一部、ライドウを筆頭とする葛葉一族や現代社会に根を張った蘆屋家など単体で悪魔を撃退できる戦力は少なからずあった。

 ……だが、それだけだ。

 撃退は、できる。しかし国を、民を守れるか。と問われると難しい、という答えが返ってくるだろう。

 だからこそCOMPが、悪魔召喚プログラムが開発された。恐ろしくも頼もしい隣人、悪魔と手を携え、契約するために。

 それが圭も名を連ねる現代の悪魔召喚師。デビルサマナーの中でハイテクサマナーと呼ばれる者たちであった。

 

 そこまで聞いたクリスは情報量の多さに疲労困憊となっていた。が、それはそれとしてまだ確認しなければならないことがあった。

 

「……それで、ケイさんが知ってる仲魔にはどんな方がいたんですか?」

「えっと、私のじゃなくて知り合いの仲魔、で良いのかな?」

「……ええ」

 

 それを聞けば、デビルサマナーがどれほどの力を持っているのか分かるかもしれない。クリスはそう考えたのだ。もっとも、その考えをすぐに後悔することになるのだが……。

 

「えっと……。一応有名どころで言えばケルト神話の影の国の女王、スカアハと弟子であり太陽神ルーの息子であるクーフーリン。他には日本の主神、天照大神とか。あ、あと、仲魔とは少し違うけど熾天使のガブリエルや唯一神の側面の一つ、偽神-デミウルゴスとも会ったことあるし、キリスト教の聖母マリアを神降ろしできる人なんかもいたよ。その人は先輩なんだけど――」

 

 そこまで聞いた時点でクリスは既にいっぱいいっぱいだった。そのまま彼女は――。

 

「…………きゅう」

「あっ、ちょっ――!」

 

 目を回して気絶する。なんでそんなことを聞いたの、と自身を罵倒しながら……。

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