僕には五人の姉がいる。それぞれ性格も違えば…顔立ちも全然似てない。
――――――
「雨かぁ…」
窓の外の景色を眺めながら帰りの事を考える。今日は傘を持ってきていないからなるべく強くない方がいいんだけど。
そんな僕の望みとは裏腹に雨音は窓越しでも聞こえてくるほどに大きくなってくる。
授業が終わり、SHRが終わっても雨は弱まる事を知らずに振り続けている。カバンを傘代わりにすれば帰れないこともないかなと頭をよぎったけど、さすがに家まで遠すぎる。ここから歩いて30分近くは掛かるぐらいの距離。近くのお店で傘を買うという選択肢も考えなくはないですが、どう考えてもお金が足りない。ポケットに手を突っ込んで小銭を手に掴んで引き上げると…小銭の合計は125円しかなかった。さすがに傘を買えるわけないよね。
「誰か来れる人いるかなぁ」
僕はスマホで家族全員に向けて「暇な人がいたら傘を持ってきてくれませんか?」と送った。無理そうだったらちょっと学校で待ってみて、それでもダメそうだったら走って帰ることにしようかな。
すると送ってから1分もしないうちに一人の姉さんから『行けるよ。すぐに行くから待っててね』と連絡が来た。それに『お願いします』と送って、僕は姉さんを待つことにした。
姉さんたちはそれぞれ忙しいから来れないって言われることもかなり覚悟していたんだけど。
三十分ぐらい待っていると…
「ごめ~ん。ちょっと遅くなっちゃった」
「あ~やっぱり弟くんは可愛いな」
「マリンの弟くんって世界で一番だよね!どんな子よりも可愛いし、カッコいいしさ!」
「マリン、あんまり興奮して鼻息が荒くならないようにね」
「ボクたちの…弟って本当にいい」
まさかの姉さんたちが勢揃いで迎えに来るとは思ってもいなかった。だって来てくれるって言ってくれたのは『そら姉さん』だけだったし。それにまず、全員が一緒にいるところを見ることは少ない。それぞれ忙しくて夕食でさえも全員で食べたりしないぐらいなのに。
「な、なんで?」
「え、やっぱり迷惑だったかな。ちょうど弟くんから連絡をもらった時に皆で家に居たの。それでこの後は何も予定がないから皆で行こうみたいな話になったの」
「全然、迷惑じゃないですよ。逆にちょっと驚いてしまって」
「すいちゃんたちの弟に何もするなって圧でも掛けてこようかな」
「それはさすがにやめなって、すいちゃん!もう皆、下校していると思うけど残っている人もいるだろうし、そんなことされたら明日、弟くんが色々と被害を被ることになると思うし」
本当にフレア姉さんの言う通りでそんなことをされたら……と想像するだけでもいやだ。
そんなことを話していると急に手を握られた。
「マリンはいつも弟くんのことが大好きですよ~」
「え…ど、どうしたんですか!?」
「一緒に居られる時に手を繋いでおかないとマリンの弟くん成分が持たないんですよ。なのでこういう時はいいですよね?」
「…わ、わかりましたからそんな目で僕のことを見ないでくださいよ!」
「ず、ずるい!!ボクだって!!」
そんな声が聞こえて来るとすぐにもう一つの方の手も繋がれた。
「…かなた姉さんまで…」
「ボクだって弟くんと手を繋ぎたいもん!」
「いや、僕と手を繋いでも良いことないですって。それに僕って汗っかきなので気持ち悪いと思いますよ」
「ボクはそんなこと気にしないよ。弟くんの汗だったら……といか、弟くんのものならどんなものでも」
そう話す、かなた姉さんにちょっと寒気がしてしまった。だってちょっと不敵な笑みを浮かべていますし、これで恐怖を覚えない方が無理な話。
でも、視線を隣に移しても同じような光景が広がるだけ。
「二人とも、あんまり弟くんのことを困らせちゃだめだよ」
さすがのそら姉さんだけあって…マリン姉さんもかなた姉さんも残念そうな顔をしながらも離してくれた。やっぱりうちの長女は…そら姉さん。個性の手段と言ってもいいような集まりをまとめてくれるのはそら姉さんですし。
今度はフレア姉さんが近づいて来た。うちの中でもフレア姉さんは冷静な方で学生時代は男女ともに人気があったとマリン姉さんから聞いたことがあるぐらい。でも、それは身近で暮らしている僕も分かる。クールなところがあって、顔立ちも整ってるし、人気が出ない方がおかしいですし。
「それにしても弟くんが傘を忘れちゃうなんて珍しいね。確か、家を出る時に持って出ていくみたいな話をしていたからてっきり持っていったもんだと思ってたよ」
「持って出るつもりだったんですが、ちょっと忘れてしまって」
「そういうところを含めて、私は弟くんのことが好きだけどな」
「え……///」
「一番末っ子なのに一番しっかりしていると言っても過言じゃないのにたまに抜けているところがあって、甘えて来ることがある。そのギャップだけでも私は最高で大好きだけどな!」
フレア姉さんはなぜかちょっと興奮気味だ。その興奮に押されてしまって、僕は数歩後ずさってしまった。
「そ、そうですかね…」
「そうだよ!!私は弟くんことが大好きだよ」
別にこれは今に始まったことではないんですよね。フレア姉さんはほぼ定期的に『好き』だと言ってくる。別にそれが迷惑だってことはないんだけど、やっぱりいつまで経っても慣れない。
「え…」
僕は瞬時に危険を察知してすぐにその場から距離を取りたいという思考に陥った。その理由は僕の髪の毛を誰かが後ろから触れているから。
「え~~フレアだけずるいよ~すいちゃんだって弟くんのことは世界で一番大好きだよ」
その声だけで…犯人は分かった。
「あの、すいせい姉さん」
僕が振り返るとそこには何もしていないというような顔をしている、すいせい姉さんの姿があった。
「どうしたの?」
「急に髪の毛に触れるのだけは止めてくれませんか?」
「え、弟くんの髪ってとてもサラサラで触りやすいんだもん!それに触っていると弟くんの大事なところに触れている感じがしてとても心地いいの」
なんかそれを聞いた瞬間に寒気がしてしまった。自分の姉さんとはいえ、さすがにその感覚は共有できないし、ちょっと気持ち悪い。
「すいせい姉さんはもうちょっとスキンシップを抑えてくれると有難いです」
「それは弟くんでも聞けない頼みだよ。すいちゃんはキミにスキンシップをするのが一番楽しいし、そのために毎日頑張っていると言っても過言じゃないし!」
「それはすぐにでも止めてもらいたいですね」
いや、もっと他の生きがいを見つけてくださいよ。
「無理かな。それぐらいにすいちゃんは弟くんに夢中だもん。もし、弟じゃなかったらすいちゃんの旦那さんにしたぐらいだもん」
そう話している、すいせい姉さんの目は『ガチ』だった。冗談を言っている感じゃなくてマジ。それが本当に怖いんですよ。すいせい姉さんの『愛』というか、僕に対しての気持ちは姉弟の範囲を簡単に飛び越えて来そうでやっぱり怖いんですよね。
「あ、あの…ちょっと距離を空けてもらってもいいですか?」
「え~~すいちゃんは弟くんとはなれたくないよ~」
距離を取ろうとするよりも先にすいせい姉さんが僕のことを抱きしめる方が早かった。抱きしめられるとすいせい姉さんの匂いが全身を包んでくる。
「はなさないよ~もうずっと、キミはすいちゃんのものだよ」
そんなすいせい姉さんだけど、そら姉さんに「弟くんのためにも放してあげて」と言われると不服そうな顔をしていたものの、放してくれた。
やっぱりそら姉さんはすごい。
「本当に皆、弟くんのことが大好きだよね」
「…そ、そうですかね…」
「そうだよ。ちょっと弟くんに執着し過ぎかなぁとは思ったりもするけどね。特にすいちゃんはね」
「そうですね」
それに関しては同意ですね。すいせい姉さんに関しては本当に放れて欲しい。今更、素直に放れて欲しいと言ったところで放れてくれるわけない。
「みんな~そろそろ帰るよ~」
そら姉さんがそういうと同時にそれぞれが傘をさし、僕もそら姉さんから傘を渡してもらってさす。
「すいちゃんと相合傘しない?」
「しませんよ」
「え~」
そんなやり取りをしながらも…僕と姉さんたちは帰路に付いた。
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