僕には二人の姉さんがいる。
僕は高校に通う、高校二年生で学業に勤しんでいる。そしてそれなりに友人にも恵まれて学校での生活に不満は一つを除いて何もない。一つの不満というのは姉さんたちだ。
こんなことがあるのか分からないけど、僕の姉さんは二人共『教師』なのだ。
「ねぇ…弟く~ん」
「め……って離れてください!」
「え~お姉ちゃんはもっと弟くんを抱きしめたい~」
「メ、メル姉さんはここを学校だと知ってやってきているんですか?」
「別に学校でもいいじゃん。メルは弟くんのことが大好きだから抱きしめているだけだもん」
そんなことをこんな公の場所で言うなんて、僕の学校生活を壊そうとしているとしか思えない。
「周りの視線が痛いですし、早く離れてくださいよ」
僕は力尽くで抜け出そうとするも……抜け出せない。そしてビクともしない。僕ってそんなに力が弱かったのかと実感させられた。
「メルは離れない」
さらに抱きしめる力を強めてきて、僕は絶対に抜け出せない。さっきまでも無理だったのに。
「ど、どうしたら離れてくれるんですか?」
「メルが満足したら離れてあげてもいいよ」
「それって一体いつですか?」
「あと一時間ぐらいすれば…メルの弟くんゲージが半分ぐらいにはなると思う」
それだと一体いつまで僕は抱きしめられ続けられるのかと気が遠くなる。それにそれだと授業も始まってしまうし。
「それは待てないですね」
「でも、メルから抜け出せないよね。弟くんは」
確かにそれはメル姉さんの言う通りで僕には全然力がない。だから女性に抱きしめられてもそれを抜け出すことも出来ない。だけど、僕には最後の裏技があるんですよ。
「僕、メル姉さんのこと嫌いになりそうです」
「……」
これが僕の裏技。昔からメル姉さんの抱きしめる癖はあってそれから逃げるためにこの技を編み出した。これを言うとメル姉さんの頭はフリーズしてしまって抱きしめる力が弱まる。
そして結果的に今回もメル姉さんの抱きしめる力は弱まって、抜け出すことに成功した。
「嘘です。メル姉さんのことはずっと大好きですよ」
するとさっきまで止まっていたのが嘘のように動き出す。ゴーレムに魂が宿ったように。
「そうだよね。弟くんがメルのことを嫌うわけないよね」
そんな時に放送で『弟くん、保健室にきて』とあった。うちの姉さんたちはこの学校を何だと思っているのだろうか。僕を呼びだすなら別に携帯を使えばいいのに、態々目立つ手段を使って呼び出す。その真意は全くもって分からないけど、僕が恥ずかしい。
僕は皆からの視線に耐えながら保健室までやっと行き付いた。メル姉さんも僕の腕を抱きしめてきて、僕の自由を奪っていく。
「あのちょっと…放れてくれませんか?」
「だ~め~」
さすがにもう一度、あの手を使うとメル姉さんのメンタル回復にまた力を割かなくちゃいけなくなる。それにあれはあくまで一時的なものですしね。
僕は深呼吸をしてから保健室の扉を開けた。
「あ~弟くんにメルさま」
「ねぇ~ちょこ先生~弟くんがね、メルのことをいじめてくるの」
そう言いながらメル姉さんはちょこ姉さんに抱き着いた。それのお陰でやっと僕の腕は自由になった。
「弟くん、メル様のこといじめちゃだめ」
「いや、いじめてないですよ。僕の方がメル姉さんにいじめられていたと言っても過言じゃないですよ」
皆の前で抱き着いて来るという苦行。あんなことを繰り返されたお陰で僕の心は少しずつ鍛えられている気がするものの、今だに恥ずかしい。友達からはからかわれることがあったりするし…。
「それでちょこ姉さんはなんで僕のことを保健室に呼んだんですか?」
「そんなの決まっているじゃない!!」
ちょこ姉さんは両手を合わせて、こちらに笑顔。
これはだめな気がする。もしかしたら、保健室に来ちゃいけなかったかもしれない。だってちょこ姉さんが笑っている時に良い思い出がまるでない。
「ちょこたちが弟くんを堪能するため」
反射的にすぐ扉に駆けだしたものの、扉には届くことなくメル姉さんに捕まえられた。
「だめだよ、メルたちから逃げようとしちゃ」
「そうよ。ちょこたちはただ弟くんに色々としようとしているだけ」
「そ、それが怖いんですって!!あんまり乱暴なことはしないでください!」
「それは弟くんの態度次第よ。ちょこもあんまり弟くんに乱暴なことはしたくないの」
それから僕がどういう目に合ったのかは皆さんのご想像にお任せします。
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