僕には三人の姉さんがいる。
姉さんたちは過敏になり過ぎている。数日前に僕が知らない人と食事に行ったことがちょっと引き金を引いてしまったらしい。でもその人はどこかの事務所のスカウトさんでなんか…色々と説明された気がするけど適当に受け投げしていたこともあってあんまり覚えていない。でも何となくアイドルのスカウトのようなものをされたのは覚えている。
そしてそれを姉さんたちに言ったら「知らない人について行っちゃだめってボク言ったじゃん!」「弟くんはとってもカッコいいし、可愛いからスカウトされてもおかしくないかも」「だから沙花叉は言ったんすよ!外に出しちゃだめだって!」と反応はそれぞれだったものの全員が一致していることがあった。
それは『今度から知らない人の誘いに乗っちゃダメ』だということ。
僕は高校一年生の十六歳。まだ十六年しか生きていないけど高校生ともなれば友達と遊びに行ったり、買い物に行ったりと一人で判断して動くことも増えて行くような年代。そしてそんな年の人間が姉から『今度から知らない人の誘いに乗っちゃだめ』と言われるものなのかな。
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今日はお洋服やお総代などを買うために姉さんたちと町へと繰り出していた。
「なんで囲んでくるの?」
「ボクたちがしっかりと守っていないと誰に攫われちゃうか分かったもんじゃないからね」
「いや、誰も僕なんか攫いませんって」
「沙花叉が安心できないの!!弟くんは絶対に沙花叉の側から離れちゃだめだからね!」
「だから大丈夫ですって」
「ううん。弟くんはとっても魅力的だから」
アズキ姉さんまでこの二人みたいに。かなた姉さんとクロヱ姉さんに関してはいつも過保護気味なのでそこまで驚くことはないんですが、アズキ姉さんはある程度自由を与えてくれると思っていた。
「前にスカウトの人に言われたのだって初めてでしたし。たぶんその方が話し掛けてきたのもただの気の迷いですよ」
「気の迷いなわけない!!ボクたちの弟は世界…いや、銀河で一番可愛いもん!!」
「そうだ、そうだ!!沙花叉の弟よりも可愛い奴なんてこの世の中にいるわけない!」
「たぶん気の迷いじゃないと思うよ。アズキの目から見ても弟くんはカッコいいし」
うちの姉さんたちは身内だからかなり贔屓目に見てくれているんだと思う。それに自分のことは自分が一番分かってる。僕は取柄と呼べるようなものがないただの高校生。
「姉さんたちは僕のことを高く評価し過ぎですよ」
「絶対にそんなことない。沙花叉、知ってるもん。弟くんがモテてること!」
もし、モテてたら今彼女の一人ぐらい居てもおかしくないはずですよ。高校に上がってから一度も彼女が出来たことないんですから。
「だ、だって昨日も女の子と一緒に帰ってたよね!沙花叉は見逃さなかったよ!」
「さ、さかまた、それ本当!?」
「本当。沙花叉も目を疑ったし、嘘であって欲しいと思ったけど……いくら目をこすっても弟くんが女と一緒に帰ってるところにしか見えなかったよ」
クロヱ姉さんとかなた姉さんが僕の方を静かに見て来る。
「はい、帰りましたけど帰っただけですよ」
ただ同じ方向だから一緒に帰っただけ。それ以上でもそれ以下でもない。
かなた姉さんとクロヱ姉さんが納得していないようで頬を膨らませてこっちを見て来る。そして次にアズキ姉さんが最近のことを尋ねて来る。
「弟くんってバレンタインデーっていくつチョコもらったの?」
「四つぐらいですかね」
「え、そんなことボクたちに言ってなかったじゃん!」
「いや、バレンタインデーのチョコを態々姉さんたちに報告はしなくてもいいかなと。ホワイトデーになったらただお返しをするだけですし」
「そういうのは沙花叉たちに報告してよ!」
「しませんよ。それに僕がいくつ貰ったとしても姉さんたちに関係ないですよね」
「関係あるもん!」
「どう関係があるんですか?」
「沙花叉は弟くんのことを何でも知りたいもん。どんな些細なことでも頭の中にインプットしておきたい!」
やっぱりクロヱ姉さんは少しおかしい。これはずっと昔から思っていたことだけど、今日再確認できた。やっぱりクロヱ姉さんはおかしいんだ。
「僕のことなんか知ってもクロヱ姉さんに何も得はないですよ」
「得とかじゃなくて弟くんのことだったら全て知りたいの!」
知っても…と思ったがこれ以上、クロヱ姉さんに何を言っても無駄だと思って言いかけた言葉を飲み込むことにした。
「弟くんはアズキのこと好き?」
「…そ、それはもちろん、好きですよ。姉ですし」
「ううん。姉とかじゃなくて一人の女性としてどう?」
まさかアズキ姉さんからそんなことを言われるとは思っていなかったので…すぐに答えが出るはずがなかった。
「……」
僕だけではなくて他の姉さんたちも驚きの表情を浮かべていた。
「でどうかな?アズキのこと好き?」
「…魅力的な女性だとは思いますよ」
さすがにストレートに『好き』というのには抵抗感があったので少し濁した。これは仕方ないですよ。実の姉に対して、女性として『好き』として言ってしまったらもう今までの関係でいられなくなってしまうんじゃないかと思ってしまったから。
アズキ姉さんは僕の答えを聞いて、静かに笑顔を浮かべた。
「そっか。弟くんにはアズキのことがそう見えているんだね、ありがと」
「…ど、どういたしまして」
たまに誰も予想できないようなことをするのが、アズキ姉さん。
そしてさっきまで固まっていた二人の姉さんがついに動き出した。
「え、沙花叉のこと好き!?」
「ぼ、ぼくのことは!?」
「…姉さんたちはとても魅力的な方だとは思いますよ」
「クロヱお姉ちゃんのことが好きだよね?」
「魅力的だとは思いますよ」
「好きだよね?」
「魅力的です」
クロヱ姉さんはどうしても僕に言わせようとして来るけど、僕は絶対に言わない。
そしてその後もかなた姉さんとクロヱ姉さんはどうにかして、僕に言わせようとしてきたけど全てかわすのだった。
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