僕には六人の姉さんがいる。それぞれが個性の塊のような人たちなので本当に退屈することはなくて、とても優しい姉さんたち。
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その日も僕はいつものように仕事に行こうとしていた。
でも、今日は姉さんたちが全員朝早いこともあって朝食は別々。僕はちょっとだるい体をどうにか起こして…キッチンに行くと『レンジで温めてね』という手紙と共に朝食が置かれていた。
僕はその朝食をレンジでチンをしている間に箸やコップなどを用意している。やっぱり体は重く感じて…いつもよりも動くのに二倍以上も力を使う。
「念のため薬を飲んでおこうかな」
学校に行って誰かに移したら悪いし、さすがにこのまま一日過ごすのは辛い。
そして食事を済ませ、薬も飲んでから家を出た。
体が重いし、だるいし、確実に起きた時よりもひどくなっている。
「やっぱり今日は休んだ方が良かったかな」
そう考えたところで考えることを止めた。これ以上、思考を巡らせたところで意味がない。今はもう学校に行くことだけでいい。
そしてどうにか死に物狂いで学校に着くと同時に辺りが急に白くなり、瞼も重くなり、体が動かなくなった。地面に膝を付き、そのまま倒れた。
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目の前が暗闇だったのに…どこからか自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
それに答えるために瞼を少しずつ開けていく。
「あ、よかったぁ…」
視界がはっきりしてやっと…その声の主の顔がよく見えるようになった。
「クロヱ姉さん」
そして辺りを見渡すとここが学校の保健室だということがすぐに分かった。そこで自分が倒れたことを思い出せた。
「大丈夫?気持ち悪かったりしない?なにかして欲しいこととかない?」
クロヱ姉さんは畳みかけるように問いかけて来るので、僕はまず落ち着いてくれるように話す。
「僕は大丈夫です。僕の方よりもクロヱ姉さんの方こそ大丈夫なんですか?」
僕が言ったことが理解できていないようでクロヱ姉さんは首を傾げている。
「いや、今日はお仕事で遅くなるって言っていた気がするので」
「そんなの途中で止めてきたに決まってるじゃん!」
「…す、すいません…」
「弟くんが倒れたのに仕事なんかしてられるわけないよ。飛んできたもん」
まさか…姉さんたちに迷惑まで掛けちゃうなんて。これなら家で静かに寝ていた方がまだ姉さんたちに迷惑を掛けずに済んだかもしれない。
「ごめんなさい」
「なんで謝るの?」
「だってクロヱ姉さんにも迷惑を掛けちゃって」
「なんで迷惑なの?」
「だってお仕事を途中で止めてきたんですよね」
「そうだよ」
「それは僕がこんなことになっちゃったからですし」
「お姉ちゃんが弟のことを心配して来ちゃいけないの。それって当たり前のことじゃない。だから弟くんが謝ることもお礼を言うこともないの。沙花叉と弟くんは姉弟だし、どんなことでもお互いに支え合うんだからさ」
「ありがとうございます」
「だからお礼は言わなくていいって。沙花叉はただ弟くんが心配で来ただけだし」
それから少ししてポルカ姉さんとそら姉さんが保健室に入ってきた。
「あ、おとうとくん…」
「元気そうで良かった」
「心配を掛けちゃってすいません」
「ううん。私は弟くんが元気そうで本当に良かった。連絡をもらった時は急に倒れたって聞いたから何か変な病気になっちゃったんじゃないかってすっごく心配だったんだよ」
「ほんとそれ。ポルカなんかそらちゃんから「弟くんが学校で倒れちゃって保健室に運ばれちゃったみたい!」って連絡が来た時は意識が飛びかけたもん」
ポルカ姉さんに関してはこっちの方が心配になっちゃうレベル。でもそれぐらい姉さんたちに心配を掛けちゃっていたんだと思うと、やっぱり申し訳ない。
「ちょっと熱っぽいのに薬だけ飲んで登校しちゃって。それが悪かったみたいでしっかりと家で寝てればこんなことにはならなかったと思います。本当にごめんなさい」
「私としては弟くんが無事ならいいよ。でもこれからはもうちょっと自分のことお労わってあげてよ。私たちもなるべく弟くんに無理をさせないようにするけど」
「僕は大丈夫です。今回はちょっと疲れが溜まってて倒れちゃっただけですから」
「それがだめだって。正直、ポルカも弟くんの変化に気付けなかった。ポルカも他のお姉ちゃんたちも弟くんに無理だけはしないで欲しいんだよ。頑張るのは良いことだと思うよ。でもそれを抱え込んで一人で解決しようとか思わなく大丈夫だよ。それにいざという時はポルカが弟くんのことを助けてあげるからさ。それがお姉ちゃんとしての責任だからね」
「ありがとうございます」
本当に姉さんたちには感謝しかない。
不思議そうな顔でクロヱ姉さんがそら姉さんに問いかける。
「あ、そう言えば…こんこよとかは?」
「こよちゃんならもうちょっと掛かりそうで、スバちゃんとすいちゃんならもうこっちに向かってるって」
それを聞いて僕は固まってしまった。
「え…姉さんたち、皆ここに来るんですか?」
そんな僕の問いに対してポルカ姉さんが答えてくれた。
「そりゃもちろんそうでしょ。弟くんが倒れたって聞いてここに来なかったらお姉ちゃん失格だよ」
「そ、そんなことはないですって」
それから少ししてスバル姉さんとすいせい姉さんが到着した。
まずスバル姉さんは横になっている僕の両肩を掴んできた。
「お、おとうとくん!!だいじょうぶ!?」
「大丈夫です」
「ほんとに大丈夫?」
「本当に大丈夫ですから。もう少し距離を取ってくれませんか」
姉さんたちに風邪を移してしまうわけにもいかないですし。
「スバルは離れない!」
「なんでですか?」
「だって弟くんがウソを言っているかもしれないもん!」
「いや…ウソついてませんって」
「だめ!スバルは離れない!」
それからしばらくスバル姉さんは僕にへばりついて全く離れなかった。でもさすがに僕が困っているのを見て、ポルカ姉さんとクロヱ姉さんが引き剥がしてくれた。
その時もスバル姉さんは「スバルははなれない!」と言っていた。
でも、あそこまでスバル姉さんに心配を掛けてしまったのは本当に申し訳ないと思う。
今度はすいせい姉さんが僕のベッドの近くまで来た。
「す、すいせい姉さん…」
「弟くん、体調は大丈夫?」
「あ、はい。心配を掛けてしまってすいません」
「ううん。弟くんが謝るようなことじゃないよ。誰でも体調が悪い時はあるしね」
すいせい姉さんは笑顔でそう言ってくれているが…なんかトーンはいつもよりちょっと低い気がする。
「それでお見舞いにね、このストラップを弟くんにあげる」
すいせい姉さんが差し出してきたのは小さな熊のぬいぐるみのストラップ。
「あ、ありがとうございます」
「うん。これからはもっと体調に気を付けるんだよ」
「…は、はい」
するとすいせい姉さんは離れていった。
隣のポルカ姉さんがぬいぐるみを見て、何か考えごんでいる。
「どうしたんですか?」
「うん、ちょっとね。そのぬいぐるみ貸して」
「はい、どうぞ」
「ちょっと失礼」
そう言ってポルカ姉さんは熊のぬいぐるみのお腹をハサミで切っていき、中の棉を取り出す。さすがに僕も驚き過ぎて何も声が出てこなかった。
「これでよしと……やっぱりか」
ポルカ姉さんは中から出てきたもの、小さな黒いものを見て何かを確信する。
「すいちゃん、いくら弟くんのことが心配だからって発信機を忍ばせるのはどうかと思うよ?」
え、発信機!?
「なに言ってるの、ポルカ?」
「どう見たってこれ発信機でしょ。大方、今回のことでもしも何かあった時のためだろうとは思うけど、これを弟くんに言わずにやるのはいくら姉弟という関係性であってもアウトだよ」
「うわぁ…さすがの沙花叉もそこまでしないっすよ」
「ちょっとこれはやり過ぎかな…」
クロヱ姉さんもそら姉さんもさすがにちょっと引いちゃってる感じがする。
「だ、だって弟くんが心配だし!!何かあった時にすぐに駆けつけないと助けられないじゃん!!」
「それはポルカも分かるよ。ポルカだって弟くんのことは心配だし」
「それなら!」
「でもさすがに盗聴器はだめだって。弟くんが良いよって言ったんならまだ百歩譲って良いけど、さすがに無許可で付けるのはだめ!」
それから少ししてこより姉さんが到着して全員が揃ってしまった。自分が倒れただけで六人の姉さんたちが駆けつけてしまったのがとても申し訳ない。
保健室に入ってきた、こより姉さんは息が上がっていた。
「はぁ…お、おとうとくん…だいじょうぶ……はぁ……はぁ…」
僕の方から見ればこより姉さんの方が大丈夫に見えないんだけど。
「こより姉さんは一度しっかりと息を整えてください。僕のために急いで来てくれたんだと思いますけど、そのままだと僕の方が心配なので」
こより姉さんは僕の言葉を聞き入れてくれて何度か深呼吸をして息を整えた。
「ふぅ~……弟くんは大丈夫なの!?」
「はい。大丈夫ですよ。こより姉さんにまで心配を掛けてしまってすいません」
「い、いや…よかったぁ…。弟くんに何かあったんじゃないかってここまでの道のりも生きた心地がしなかったんだよ」
「すいません。ただ倒れちゃっただけなので…」
そう説明するとさっきまで静かだった、クロヱ姉さんが言い返してきた。
「その倒れたってのが問題なんだって!!」
「そうだよ。弟くんが思っているよりも倒れたってのは深刻だとポルカは思うよ」
「そ、そうですかね」
自分的にはちょっと風邪気味だったので無理に登校しちゃったのが原因だと思うから、これからはそれを気を付ければ。
「ううん。私もこの感じだと弟くんのことが心配だよ」
「そ、そら姉さんまで…」
「スバルも心配!!次、倒れちゃったらスバルはもうどうすれば…」
「どうもしなくて大丈夫ですよ」
予想以上に姉さんたちの心配が深刻過ぎる。これは自分が倒れたことよりもどうすれば姉さんたちを納得させられるかが重要かもしれない。
「やっぱり弟くんにはしっかりと位置情報が分かるものを付けておいた方がいいとすいちゃんはおもう」
さすがに発信機を付けられるのは勘弁して欲しい。心配してくれるのは有難いですけど、そこまでされちゃうともう……。
その後は姉さんたちは『これからの僕をどうするか』という変な話題を初めた。なぜかその中で『もう一層、家に隔離しておいた方がいいんじゃない』とか『学校までは私たちで送り迎えをするのもいいかも』、『誰かお手伝いさんでも雇って学校でも弟くんの側に一人ぐらい付けておくのもいい』なんて話がされていた。
僕も必死に口を挟もうとしたが、姉さんたちがそれを許してくれるわけもなくて僕は姉さんたちの話し合いが終わるまで待つしかなかった。
感想があれば