今、私のクラスはピンチを迎えている。
それは個人の分析だけでなく他のクラスから見ても同じだろう。
私は甘い。
様々な人にそう言われたけど、今もクラスメイトを守る考え方が間違っているとは思わない。
だけど結果が付いてこない。
今回の試験だって、私はどうやってクラスメイトを守るかしか考えられない。
もし次に退学者が出るような事態になれば、その時に退学するのは――。
「綾小路くん……」
誰にも聞かれない自分の部屋で、私はそう呟いてしまった。
私が最近気になっている男子生徒。
1年Dクラスに所属している彼は、余り目立つことを好んでないように見えていた。
だけど4月の特別試験。
彼は今後も他の誰にも出来ないであろう全教科で満点を出した。
そして何故か私を助けてくれる、不思議な人。
綾小路くんのことを考えると胸に違和感が走る。
今夜の彼との会話で何か分かるのだろうか。
神崎との話を終えたオレは、寮へと戻っていた。
今のCクラスの在り方について、苦悩を繰り返していた神崎。
一人で出来ることには限りがある。
神崎はそれを理解しているからこそ、オレを頼って来たんだろう。
だが今日オレが見た限りでは、Cクラスには成長出来る可能性がまだまだ残っている。
「綾小路くん……いる?」
ドアが数回ノックされ、透き通るような声が聞こえた。
待ち合わせしていた時間より数分早いな。
「入ってくれ。鍵は開けてある」
オレがそういうと、ドアから現れたのは一之瀬。
「約束通り来たよ、綾小路くん」
シャワーを浴びたのだろうか、一之瀬からは甘い香りが漂ってきた。
「こんな時間に呼び出して悪いな」
「全然大丈夫だよ」
「取り敢えず、座ってくれ」
そういいながら、オレは今座っているベットの隣へと手招いた。
「ゆ、床で大丈夫だよ」
一之瀬はそう断ったが、客を床に座らせるわけには行かない。
次は座布団位は買っておこうと誓う。
「それだとオレが困るんだ」
「困るの!?」
「ああ」
状況が理解出来ていない一之瀬を無理やり座らせる。
すると自分の心境を悟られまいとしたのか、話を振って来た。
「それで……話って何かな?」
「特別試験でオレとグループを組んで欲しい」
「私と、綾小路くんでってこと?」
オレの提案に対し、一之瀬は想像していたより驚かなかった。
こうなることを見越していたのか、あるいは可能性の1つとして頭に入れていたのか。
だがその上で足を運んでくれたということは、他に何か理由があるようだな。
「ああ。一之瀬の優秀さは学年の誰もが認めるところだからな。一緒に組めればと思ったんだ」
今回は一之瀬の判断で決めてもらう必要がある。
「聞きたいのはそうじゃなくて……綾小路くんがそれだけで私を選ぶとは思えないもん」
他にも優秀な生徒はいると、一之瀬は遠回しに言ってくる。
取り繕った言葉程度では抑えられないか。
オレは予定通り南雲との勝負について話した。
「え!?綾小路くん、負けたら退学しちゃうの!?」
「そうなるな」
負けたら退学、そう口にしたところで一之瀬が詰め寄って来る。
「だ、駄目だよそんなの!」
「そうならないよう力を貸してくれると助かる」
「……私よりもクラスの皆と協力した方がいいんじゃないの?」
一之瀬ならではの疑問。
だがオレの着地点は決まっている。
今回オレが実力を見せておく必要があるのは堀北でも南雲でも、月城やホワイトルーム生でもない。
一之瀬達Cクラスだ。
「オレは自分のクラスの誰よりも、一之瀬の方が信頼出来ると思ったから話したんだ」
ここでオレは一之瀬の強さと弱さを刺激する。
南雲との勝負を知ってしまった一ノ瀬は断れない。
「っ!?え、あ、綾小路くん!?」
顔を真っ赤にして、必死に表情を隠そうとする一之瀬。
そこには羞恥といった感情が見られた。
「一之瀬がオレと組んでくれるなら、最低でも上位3グループを約束する」
一之瀬はどこまで見えているのだろうか。
返答次第では、一ノ瀬は次のステップへ登れるかもしれない。
そしてこの二週間という長期に渡る試験。
スペックよりも信頼が大事になる場面は多く存在するだろう。
「わ、私も……綾小路くんなら信頼出来るよ」
「ありがとう、一之瀬」
一之瀬はこれ以上言葉を発さなかったが、彼女の抱えている問題が解決したわけではない。
彼女達は成長する必要がある。
もし化けるようなことがあれば、堀北達にとって強敵になることは間違いないだろう。
翌日の朝。。
オレは学校に行くための身支度を済ませた後、携帯を開いた。
個人のメールに学校からの通知が届いている。
そしてそこには『試練』と書かれたアイテムが与えられたことが記載されていた。
嬉しい誤算とはこのことだろう。
鳴りを潜めていた注目が再び復活するのは避けられないが、特殊カードは取引にも強く出れるしこのカードであれば欲しがる生徒だって少なからずいるはずだ。
逆にこのカードを簡単にトレードしてその相手が上位に入るようなことがあれば、オレの責任になることは目に見えていたりもするのだが。
因みに残り2枚存在する特殊カードの行方だが、『増員』はCクラスの朝倉麻子に『無効』はAクラスの矢野小春の手に渡ったようだ。
堀北が手に入れるか龍園が手に入れるかは分からないが、まず間違いなく龍園が『増員』を手に入れるだろうな。
「おはようございます、綾小路くん」
学校へ行く途中、珍しい人物が近づいてくる。
1年Aクラスのリーダーの坂柳有栖だ。
特別試験での話をしに来たのだろうか。
「おはよう、坂柳。お前と会うのは久しぶりだな」
コツ、コツ、と杖をついてこちらに近づいてきた坂柳のペースに合わせて歩く。
「昨日は随分と忙しかったようで」
こちらの行動は筒抜けのようで、坂柳は笑みを浮かべる。
「私も一之瀬さんを狙っていたのですよ?先を越されてしまいました」
「それについてはすまない。だがオレは個人で一之瀬と取引しただけなんだ。クラスの思惑とは違う」
坂柳がどこまで把握しているかは知らないが、彼女の性格からして玩具を取られた程度にしか思っていないだろう。
薄々感づかれているであろう南雲との勝負。
最悪それに直接関与されなければいい。
「ですが綾小路くん。あなたの考えが読めません」
少し不機嫌そうに、坂柳は話し始めた。
「あなたが一之瀬さんに肩入れする理由は何なのでしょうか。あなたのことは誰よりも分かっていると思っていたのに、これでは幼馴染失格です」
「別にそんなことはない」
しかし、そんなオレの言葉を聞いて坂柳は嬉しそうに笑った。
「冗談ですよ。綾小路くんが意味のないことをするはずありませんから。間違いなく第三者が絡んでいるのでしょう」
内容は知らずとも、何が起きているのかは理解しているようだ。
流石は坂柳だな。
「悪いが具体的なことは聞かせられない」
「構いませんよ」
坂柳はそう言ってニコリと微笑むと、他愛のない会話に身を興じた。
気づけば学校の玄関。
結局特別試験については触れられなかったな。
そんなことを考えていると。
「特別試験について触れられなくて意外でしたか?」
どうやらタイミングを伺っていたみたいだ。
「ああ」
「フフ、これで汚名返上でしょうか?」
そんな思っているのか分からないことを口にする。
「冗談ですよ。ただ、今の私達には共通の敵がいますから」
月城理事長代理のことだろう。
あの時の勝負の結果について、坂柳は強く恨んでいるだろうからな。
「気を付けて下さいね、綾小路くん。と言っても不要な心配かもしれませんが」
そう告げると、坂柳は自分の教室へと向かって行った。
放課後に入ると、やはりと言うか予想していた人物から連絡がきた。
メールの受信欄を見ると取引は無事に成立したようだ。
試験開始の1週間前に話の席を設けるという。
オレは了承し、携帯を閉じた。
寮へと帰る途中、人が少なくなってきたタイミングで近づいてくる人物が1人。
「驚いてないね。最初からつけてることに気づいてた?」
その人物の正体はクラスメイトの松下だ。
松下とは二人きりで話すのは5月の夜以来。
それにしても、今回で後を付けられるのは2回目か。
「松下はストーカー気質があるな」
そう冗談交じりに言うと、松下は少し怒りながら理由を話し始めた。
「メールだったら綾小路くん無視するか、少なくともすぐには会ってくれなかったでしょ?」
「正解だ」
それがストーカーしても良いかどうかは別問題だと思うが、ひとまず頷いておく。
「綾小路くんだったら、どうして私が話しかけてきたか分かるんじゃない?」
こちらを試すように松下が聞いてくる。
十中八九特別試験のはずだろうが、このタイミングということに少し違和感を覚える。
グループの誘いなら昨日の段階からしておくべきだ。
だが今日と昨日では違う部分が1つある。
「成程な。建前が欲しかったわけか」
「え、今のでそこまで分かっちゃうんだ?本当に凄いね」
信じられない、といった風に松下が驚く。
昨日との違い、それは配られたカードしかない。
オレに与えられた『試練』というカードはメリットとデメリットの両方を併せ持つ。
手伝うという名目でオレとグループを組む算段だったのだろう。
最も、南雲との勝負がある時点でグループを組むことは不可能だったのだが。
「すまないが先約があるんだ。松下とグループを組むことは出来ない」
「先約があるなら仕方ない、か。気が変わったら連絡してね」
そういうと松下は足早に去っていった。
どうやら長話は向こうも本望ではなかったようだな。
ひよりと同じく、組みたいとの意思表示をすることが大事だと考えている口。
松下が優秀な生徒なのは間違いない。
直接話した機会は少ないものの、オレの中で高い評価を得ている一人。
自分の立ち位置を理解し、損得を計算した上で行動することが出来る。
間違いなくAクラスを目指すために必要な人材だ。
だがな松下。
お前は堀北同様、1つ大きな思い違いをしている。
女、女、女
文字数について。(今までは2000~3000)
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2000~3000
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3000~4000
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5000~10000
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10000以上