ようIf ~2年生編~   作:たいたく

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本日2話目です。


1年生の思惑

 入学してしばらく経ち、新入生たちにも高度育成高等学校の在り方が理解できた頃。

 1年生たちもまた、次の大きな特別試験に向けたグループ作りの真っただ中にあった。

 A、B、Cの3クラスの意見は対他学年を重視したもので合致しているが、Dクラスの宝泉和臣が承諾していない。

 そして期日を迎える今日、状況打開のため4クラスの代表が集まることになっていた。

 

「んじゃ話し合い始めない?」

 

 そう提案したのは1年Aクラスの高橋修。

 他の1年生メンバーでは、Bクラスから八神拓也、Cクラスからは宇都宮陸。

 そしてDクラスからは宝泉和臣が今回の話し合いに参加していた。

 

「俺は綾小路とヤれればそれでいいんだよ」

 

 宝泉の口から飛び出たのは、およそ話し合いに似つかわしくない発言。

 

「あ~そっか、まだあの試験続いてんだっけ」

 

 思い出したというように高橋が口を開く。

 この場に集まった生徒は全て裏で動いている特別試験を把握している。

 その特別試験の内容とは、2年Dクラスの綾小路清隆を2学期までに退学させた生徒に2000万プライベートポイントが与えられるというものだ。

 4月にその試験をクリアしようと天沢一夏、七瀬翼、宝泉和臣が挑み、そして失敗したのは記憶に新しい。

 

「一先ずそれは後にしてくれませんか宝泉くん。?まさかそんなことを言うためだけにここへ来たわけじゃないでしょう?」

 

 裏の特別試験の話よりも、目の前の特別試験の話をしようとの八神が進める。

 だが宝泉が止まることは無い。

 

「もしそうならどうするよ?」

 

 八神を試すような発言。

 

「ならば消えろ。協力する気のないクラスに作戦を教える道理は無い」

 

 宝泉の傲慢な態度に抑えが効かなくなったのか、宇都宮が強く睨みつける。

 

「そうか、よ!」

 

 突然俊敏な宝泉のパンチが宇都宮を襲う。

 一瞬で眼前まで迫った宝泉の拳だったが、宇都宮はギリギリで回避することに成功した。

 

「クッ……」

 

 しかし何の前兆も無く繰り出された拳だったためか、避けた宇都宮は軽く体勢を崩す。

 

「とうとう動いたか、宝泉」

 

「ほう……?」

 

 避けられるとは思っていなかったのか、宝泉は嬉しそうに笑う。

 体勢を戻した宇都宮の視線は、単なる見せかけではなく必要に応じこの場で戦う決意も見て取れる。

 

「和臣やめろって!」

 

「馴れ馴れしく名前を呼ぶんじゃねぇよ、殺すぞ」

 

 止めに入ろうとする高橋すらも威圧し、宝泉は宇都宮へ顔を向ける。

 

「中々どうして、動けるじゃねぇか」

 

「次はこちらから行くぞ」

 

 もう話し合いは無駄だと悟った宇都宮が、宝泉へ詰め寄ろうとする。

 

「止めて下さい、宇都宮くん」

 

 だがここで八神が止めに入る。

 普通の生徒なら間違いなく腰を抜かすであろう、宝泉の圧。

 だが八神はそれをおくびにも出さない。

 

「ハ、お前に止める権利があるのかよ」

 

「いえ、止める権利はないでしょう。ですが理由はあります。なのでこうしてお願いしているんです」

 

 柔らかい物腰で八神は言う。

 それが功を奏したのか、ようやく宝泉が話し合いの席に着こうとする。

 

「そうかよ、それで?話し合いを始めようじゃねぇか」

 

「ふざけているのか、貴様」

 

 今までの出来事を無かったのかのように振る舞う宝泉。

 当然受け入れることが出来ないと、宇都宮は反発する。

 

「まぁまぁ陸。せっかく和臣がそう言ってくれたんだし、話し合いを始めようぜ」

 

 そんな宇都宮を止めたのは高橋。

 彼の心情はあくまで、全員仲良くだった。

 

「……分かった。ここは修の顔を立てるとする。感謝しておけ、宝泉」

 

 宇都宮がそう強気に返すが、宝泉は軽く笑うだけだ。

 

「では落ち着いたところで、改めて話し合いを始めようか」

 

 紆余曲折あったが、無事に話し合いは始まる。

 

「僕は1年生で力を合わせて強力な『4人グループ』を1つ作る必要があると考えている。2年生や3年生を相手にしても絶対に負けないと言い切れる生徒たちを結集させてね」

 

「つまり俺たちはこの特別試験でクラスポイントを競い合わない、ということか」

 

 宇都宮が理解したのを確認して、八神は続ける。

 

「学年同士での協力を難しくさせているルールだからこそ、残り時間が少ない2年生や3年生は、この特別試験の機会損失を受け入れ難い。だけど僕たちにはまだまだ2年以上の時間が残されている。だからこそ、あえてクラスポイントのことは捨てるべきだ」

 

 1年生のAクラスからDクラスまでのクラスポイントの開きは最大でも300ほど。

 慌てる必要は無いと八神は説いた。

 1位を取ることこそが大事だとも。

 

「僕たち1年生にだけ与えられた『4人までの小グループ』作り。この部分をみすみす捨てる必要はない。貴重なハンデを捨ててしまうのは余りにもったいないよ」

 

 そして学年で団結して戦う意思の統一が欠かせないとも説明する八神。

 もし1クラスでも溢れてしまえば、あの手この手で勝ち上がりを阻止してくることは明白。

 4クラスで完全協力体制を作れる以上、その理想形を目指すべきだと言う。

 

「いいぜ、協力してやっても」

 

 あっさりと八神の提案に乗る宝泉。

 

「ただし、空いた2枠にはDクラスの生徒を入れること。それが条件だ」

 

 しかし付け加えられた条件を素直に受け入れることは出来ない。

 

「なに?」

 

 自分たちのクラスだけが得する可能性を持った提案に、当然宇都宮は嫌悪感を示す。

 

「貴様……」

 

 横暴な態度を取る宝泉に苛立ちを見せた宇都宮だったが、そこに待ったがかかる。

 

「落ち着いて下さい、宇都宮くん。今は学年が統一することが最優先ですから、この提案を受けてもいいと考えます」

 

 宝泉は八神が了承したことを確認すると、背を向けた。

 まるで話し合いは終わりとばかりに。

 

「では最後にもう1つ。僕ら1年で団結しておくべきものがあります。報酬アイテムは揉めないよう学年全体で微調整し、最大の効果を発揮できるよう統一させましょう。下位に沈みそうなグループに能力不足の生徒を集め半減カードを持たせることも重要ですからね。それにも承諾していただけますよね?宝泉くん」

 

「好きにしな……だが、俺が言ったことを忘れるんじゃねぇぞ」

 

「Dクラスの生徒2名はちゃんと入れますのでご安心を」

 

 八神は分かっていますよ、とばかりに宝泉に向けて返答した。

 しかし宝泉にとってはそれより重要なものがある。

 

「違ぇ。俺と綾小路との勝負を邪魔すんなっつってんだ。もし邪魔しやがったらテメェらから潰してやるから覚悟しとけや」

 

 綾小路との対決への飢え。

 宝泉が自分自身の手で直接決着をつけることを望んでいるのは明らかだ。

 しかし、そんな宝泉の脅しに屈さず八神は言う。

 

「それには同意しかねますね」

 

「俺の邪魔をするつもりか、あぁ?」

 

「必要があれば止むを得ないと言うことです。先に話した通り僕たちは最強の『4人グループ』を作ります。その中に宝泉くん、間違いなく君は入るでしょう。そして、最強の『4人グループ』を作るメリットは1位を取れるということ。それにそぐわない行動はしないで欲しいんです」

 

 大切なのは1位を取ることと、八神は改めて念を押す。

 一方で、宝泉はそんな八神の発言が可笑しかったのか薄く笑う。

 

「ンなもん分かってんだよ。上手くやりゃあイイってことだろ?」

 

「はい。試験に影響しないと思えばとやかく言うことはありません」

 

 宝泉はそういうと、この場を去っていく。

 その後宇都宮から抗議の声が上がったが、八神の説得により渋々納得させられ話し合いの場が解散した。

 

 

 

 

 

 翌日の放課後、ケヤキモールのカフェ。

 

「急に呼び出して、用件は何?」

 

「おまえを呼び出したのは、次の無人島試験のことだ。俺と組めよ天沢」

 

 大柄な男は1年Dクラスの宝泉。

 向かい合う天沢に、無人島試験のメンバーになれと催促する。

 

「いいよ。組もうか、宝泉くん」

 

「……何考えてやがる?」

 

「えぇ~やだなぁ。そっちが組みたいって言ったからOKしてあげただけなのにぃ」

 

 天沢が提案にあっさり食いついてきたことに、宝泉は訝し気な視線を送る。

 

「じゃあ理由くらいは聞いとこうかな。どうしてあたしと組みたいの?」

 

「テメェが綾小路を退学させることに躊躇わない度胸を持ってるからだ」

 

「まぁそんなことだろうと思ったけどさ。でももう無駄だと思うよ?」

 

「あぁ?無駄だと?」

 

「うん、無駄無駄。宝泉くんごときに綾小路先輩が退学させられるはずないし~。あたし無駄なことって嫌いなんだよね」

 

 ゴンッ、拳をテーブルに叩き付ける宝泉。

 だが天沢に驚くような気配も、怖がるような気配もない。

 

「俺が女になら手をあげないとでも思ってんのか?」

 

「全く思ってないよ。平気でぶん殴るタイプだと思ってるから安心して」

 

「だったら、下らねぇこと言ってんじゃねぇよ。それこそ時間の無駄だ」

 

「時間の無駄ねー。綾小路先輩をどうこうしようって考えてるこの時間がそうなんだけどなぁ」

 

 天沢の言葉に宝泉も思うところがあったのか、自らの考えを話す。

 

「……だがあと一歩だったのは間違いねぇ。それはテメェだって同じ見解だろ」

 

「あの時はね。でももう隠れるつもりはないみたいだし、どんな戦略立てても意味無いと思うケド?」

 

 先程から宝泉が感じていた違和感。

 その正体がやっと分かった。

 

「それだ。なんなんだ、テメェの綾小路に対する評価は」

 

「うふふ、知りたい?どうしよっかなー」

 

 どこまでも調子に乗った態度の天沢。

 宝泉自身、綾小路については強敵と評価しているが自分になら倒せる、潰せるとの絶対的な自信がある。

 だが同じように評価している天沢は、綾小路に対して尋常じゃない信頼を寄せているように見えた。

 

「だけどダメ~!宝泉くんには教えてあげませ~ん!」

 

「テメェ、あんまり舐めた口聞いてるとマジで殺すぞ、コラ」

 

 そんな宝泉に対しても、天沢はどこか上の視点から見ているようだ。

 自分に見えていない何かが見えている。

 それを確信させるのには、十分な会話。

 これ以上何を言っても話が進まないと悟ったところで、最初の疑問へと話題を戻す宝泉。

 

「で、何企んでる?」

 

「ん~、ホントに悪いことなんて考えてないのにな~」

 

「さっさと言えや」

 

「あたしも綾小路先輩と遊びたいから、かな」

 

 いつも笑みを浮かべていた天沢が、初めて本当の考えを口にする。

 それに気づいた宝泉はようやく話の席に着いたかと、自身のプランニングを口にし始めた。

 

「おまえと俺と七瀬、このグループで1位を取りに行く」

 

「ふ~ん、でもさ……あたしたち1年生は4クラスが協力して戦うって話じゃなかった?Dクラスの主力の2人の名前が聞こえた気がするんだけど?」

 

「それを判断するのはDクラスを仕切る俺だ。意味は分かるな?」

 

「堂々と雑魚を主力の代表として送り込む、ってわけね。全方位に喧嘩売ってくねー」

 

 宝泉が考えていたプランとは、天沢の言う通り主力を温存して順位を狙いに行くという物だ。

 間違いなく他のクラスからは敵対され今後動きにくくなるだろうが、それでも他のクラスの戦力を大幅にダウンさせ自らのクラスが万全の体制で挑めるというのは大きい。

 

「ま、確かに今回の試験の報酬は莫大みたいだしぃ―?確かに恨まれてもやる価値あるかもね」

 

 天沢にとっては1人で貢献度を稼げたと、クラスに貢献できる。

 だがその程度の見返り。

 一方失敗すれば、今後のクラスでの発言や行動に制限がかかってしまう。

 あまりにリスクとリターンが見合っていない。 

 

「あたしにとってクラスからの顰蹙を買うことはどうでもいい。むしろ勝てたらヒーローだし?でもだからって安売りはしたくないなぁ~」

 

 始めは無条件だったはずなのに、当然のように条件を突き付けてくる天沢。

 

「綾小路先輩と遊ばせてくれるって約束するなら、いいよ」

 

「綾小路をヤるのは俺だ。だがそれまでだったら遊んでいいぜ」

 

 あくまで決着をつけるのは俺だと、宝泉は言う。

 

「交渉、成立だね」

 

「安い買い物だったな、こっちからすれば」 

 

 ここに天沢、七瀬、宝泉のグループが誕生した。

文字数について。(今までは2000~3000)

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