特別試験が公開されてから初めての週末。
オレはある人物に呼び出されていたため、ケヤキモールへと足を運んだ。
「来たか、綾小路」
「副会長が俺に一体どんな用件ですか」
待ち合わせしていた人物とは、生徒会副会長の桐山だ。
「今日は少し長く時間をもらうことになる」
そう言うと桐山は歩くよう誘導し、オレもそれに合わせて歩き出す。
「……綾小路、すまない」
「どうしたんです?」
突然の謝罪。
堀北を生徒会に入れる際、オレは同席していた桐山の様子を確認していた。
桐山があの時点で何かに迷っていたことは間違いない。
だが今の桐山は、どこか吹っ切れたような印象を受ける。
「俺はお前の敵になる腹積もりだった」
本音を隠さずに桐山は伝えてきた。
だがオレに話すということ、つまり。
「やはり決着はついていたんですね」
「……流石に堀北先輩が気にかけていただけのことはある」
「桐山副会長は南雲生徒会長の手に落ちた。それでいいんですね?」
遠回しにしか話されていないので、オレは直接確かめることにした。
「ああ、そうだ。だが綾小路、お前の成したテストでの偉業。それに次の特別試験に控える南雲との勝負……お前を見ていて決心がついた」
南雲との長い戦い。
結果は桐山の敗北だったようだ。
それでも何かの決心がついたと桐山は言う。
それが桐山に取ってプラスかマイナスになるかは、この後の言葉を聞いて決めるとしよう。
「俺はな、最近までどこか自分が特別だと思っていたんだ。尊敬する堀北先輩から南雲について任され、副会長の地位まで上り詰めた。自身にならないはずがない」
桐山のこの学校での現在の立ち位置は、そこらの生徒では決して到達出来ない域だ。
しかし、上には上がいる。
そう気づくまで時間がかかってしまった。
「だがAクラスに上がれない、改革は許してしまう……そして南雲との最後の対決ではついぞ軍門に下った。抗えなかったんだ、Aクラス行きのチケットの誘惑に」
抗えなかったと桐山が漏らす。
現在の3年生のクラスポイントの差は歴然だ。
もしAクラス行きのチケットが手に入るなら誰だろうと縋りつく。
当時のことを思い出しているのか、桐山の独白は止まらない。
「堀北が生徒会に入りたいと申し出てきた時は焦った。俺が堀北先輩と繋がっていたことが露見するのでは、とな」
「自分の立場が危うくなれば不安になるのは仕方がないのでは?」
「不安になると同時に……気づけたんだ」
そう言うと、桐山はこちらを見る。
その顔に迷いは無かった。
「俺はこの学校で全力を出せているのか」
オレは目を見開く。
間違いない。
桐山は学と同じ視点に立っている。
「全力の行動の果てに待っていたのが敗北であれば、俺は受け入れ成長することが出来るだろう、と」
もちろん勝つに越したことは無いがな、と付け加える。
「今までは全力を出せていなかったと?」
「そんなことはない。だがこの疑念が生まれたということは、そういうことなのだろう」
Aクラス行きが確定している桐山。
だがそれ以上に重要なものを見つけたようだ。
「確定しているAクラスでの恩恵を捨ててでも、ですか?」
「ああ。俺は卒業まで全力で戦い続けるだろう」
淀みなく言い切る桐山。
まだ言いたいことがあるようで、間髪入れず続ける。
「それに、この視点に立って気づけたこともある」
桐山に見えたものは自身に対することだけでは無いようだ。
「気づけたこと、ですか」
「南雲のことだ。俺の先の考えが当てはまるとするなら……誰よりも成長出来ないのはあいつだろう」
「全力を出す必要がないのが現状ですからね」
南雲は3年を支配してしまった以上、この学校ですることが無くなってしまった。
もしかすると今回の無人島試験は、南雲が全力を出せる相手を見つける狙いがあるのかもしれないな。
「だが綾小路……お前になら南雲の相手が務まるかもしれないと、生徒会室でのやり取りを見て漠然とそう思った」
「もし相手になったとして、桐山副会長の理論で行くなら南雲生徒会長はオレとの戦いで成長するのでは?」
「それは困るが、悪くは無い」
そう小さく笑った桐山。
敵対していながらも、桐山は南雲に対しどこか情のようなものが湧いていたのだろうか。
「では俺は行くとする。今日は話を聞いてくれて感謝する、綾小路。この礼は後日させてくれ」
満足したような表情の桐山はそう言い、軽く手を上げるとこの場を去った。
桐山の心境の変化には驚かされたが、苦悩を繰り返し見事飛躍して見せた。
結果こそまだ出ていないものの、間違いなく南雲体制にヒビが入ることを予感させる。
3年生では南雲の行く末にしか興味が無かったが、新しい楽しみが出来たな。
オレはそう思い携帯の電源を付け、時間を確認した。
そろそろか……。
「どうやら面白い話をしていたようだな」
少し遠くのベンチからこちらに声をかけてきた人物は、3年生の女子。
足を組み両手を広げ、ベンチの背においてリラックスしているようだった。
OAAで見た顔と名前、そして能力をすり合わせる。
名前は確か――
「3年Bクラスの鬼龍院先輩、ですよね」
「ああそうだ。話題の後輩に知られているとは、流石の私もテレるというものだな」
直接面識は無いため、話すのは初めてとなる。
まだほんの少ししか話してないが、中々に独特な性格をしているようだ。
「君は綾小路清隆だろう?一度君とは話してみたいと思っていたんだ」
そう言われるたオレだったが、この後桐山とは別の待ち合わせが控えてあるため断りを入れる。
「興味を持って下さって有難いんですが、この後待ち合わせがあるんです」
「それについては大丈夫だ。君が待ち合わせをしている人物とは南雲だろう?」
オレは少し驚く。
だが今日ここでの待ち合わせを知っているとなると、理由は1つか。
「立ち話もなんだ。ベンチにでも座ろうじゃないか」
「はあ……」
そう言って鬼龍院はオレをベンチへと誘う。
こちらの逃げの手は封じられたため、南雲の早めの到着に期待するしかないか。
「それで、オレとどんな話を?」
「何でもいい。君がどんな人間であるか探求できればそれで十分だ」
「探求ですか。それならアレはどういう意味だったんですか?」
「君と桐山との会話だよ、それ以外に無いだろう?」
こちらの意図を瞬時に見抜いてくる鬼龍院。
だが……。
「人の会話を盗み聞くなんて、中々趣味が悪いんですね」
「別に盗み聞いたつもりなんてないさ。普通の生徒より耳がいいだけだ」
それは盗み聞いたと言うのでは。
「何を知りたいんですか?」
「色々あるが……まず、君はどうやって桐山を変えたんだろうか?」
「オレは本当に何もしてないですよ。桐山副会長が気づいただけです」
今回オレは何かしたつもりは無い。
ただただ驚くことしかできなかった。
「それでは桐山が君に話した理由が不明だな。何かしらの動機があったと考えるのが妥当だろう」
だが鬼龍院がこちらを解放してくれる様子は無い。
会話を短縮するためこちらから仕掛けてみるか。
「オレと南雲生徒会長との勝負が原因だって言ってましたね」
「ほう?私が思っていたよりずっと賢い人物のようだな、綾小路」
普通の生徒に勝負のことを伝えても邪魔にしかならない。
だがこの場所に鬼龍院がいること。
それが意味することとは、南雲が指定した生徒だからに他ならない。
鬼龍院が事前に聞かされていたかは不明だったが、今の返答で明確になったな。
「まぁいい、桐山の件は一先ず置いておくとしよう。今私は君のことについて知りたいんだ」
「どうしてオレなんですか。学力の優秀な生徒なら他にもいますよ」
「勘だよ。私の勘が、目の前の君がただ者ではないと告げていたのさ」
するとようやくここで救いの手が入る。
「待たせたな、綾小路。それに鬼龍院も」
遅れてやって来たのは生徒会長の南雲。
指定する生徒を伝えるだけのはずなのだが、トラブルでもあったのか想定していたより来るのが遅かった。
「遅かったな。もう少し遅ければ私はこの後輩を拉致していたかもしれない」
「それは危なかった。可愛い後輩を守るのは先輩の務めだからな」
そう言って鬼龍院の冗談か本気か分からない発言を流す南雲。
「それにしても驚いたぜ。俺にも堀北先輩にも関心を示さなかったおまえが、綾小路に関心を持つとは思わなかった」
「君も何か勘違いしているようだが、私は人に無関心な人間ではないぞ南雲。興味の湧いた人間には必ず一度は声をかける。おまえも堀北学も、一度は関心を持った」
「それで綾小路はどうだったんだ?関心を持ち続けるに値する人間だったか?」
「ああ、そうだな。一先ずは興味が収まりそうにない。君の提案を受けてもいいと思える程に」
鬼龍院の発言に驚いたのか、南雲はこちらを見て口を歪ませた。
「だそうだ、良かったな綾小路。もう気づいているとは思うが、俺は鬼龍院を指定するつもりでいる」
明らかに今鬼龍院本人が決めたような発言があったのだが。
……なるほど、南雲が遅れてきたのにはオレと鬼龍院を遭遇させる狙いがあったのか。
「わかりました。こっちの指定する人物は一之瀬です」
「帆波を選んだのか?意外だな」
その先まで見えていなければ理由は分からないだろう。
「では鬼龍院先輩と一之瀬の順位で勝敗を決めるということで」
「ああ、楽しみにしてるぜ、綾小路」
その南雲のセリフを背に、オレは寮への帰路についた。
少し文字の量が少ないです!すみません!
文字数について。(今までは2000~3000)
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