ようIf ~2年生編~   作:たいたく

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最初の特別試験が一番難解なの笑う


無人島試験の始まり
無人島サバイバル特別試験


 恵との大きな進展があってからひと月が立つ。

 もう6月の中旬が近づいてきた。

 4月末の特別試験以降、新たな特別試験もなく普通の学校生活を送っている。

 オレを狙っているであろうホワイトルーム生の動きも見られない。

 気になったことと言えば天沢の一件くらいか。

 だがあれ以降特に目立った接触もない。

 

「おはようございます、綾小路先輩」

 

 そんなことを考えながら登校していると、後方から声をかけられる。

 相手は1年Dクラスの生徒である七瀬翼だった。

 そしてそれは、オレがアクションを起こしてくると読んでいた一人。

 礼儀正しく、立ち止まって挨拶をしてくる七瀬。

 

「ああ、おはよう」

 

 立ち止まっている七瀬に合わせ、こちらも少し立ち止まる。

 七瀬は顔を上に向けると、太陽の光を遮るように腕を上げた。

 

「良い天気、ですね」

 

「そうだな。それにしても久しぶりだな」

 

 すれ違うことはあっても、会話を交わすことは久しい。

 

「はい。1か月程ご無沙汰していました」

 

 なぜオレがアクションを起こしてくるかと読んでいたか。

 理由は多くあるが、宝泉との出来事が一番の理由だ。

 あそこまでの行動を起こせば、次回のハードルなんてあってないようなもの。

 七瀬がホワイトルーム生だとすれば、道連れの選択肢を選んでくることもあるだろう。

 

「綾小路先輩には申し訳ないことをしたと思っています」

 

 オレが足を戻し歩き出すと、同じく歩き始めた七瀬が謝罪の言葉を口にした。

 どうやらオレが想像していたよりは、彼女に思うところがあったようだ。

 

「恨んでいますか?私のこと」

 

 ここで恨んでいないと口にすることは簡単だ。

 特別試験だから仕方のないことだった、と言えば相手も黙るしかないだろう。

 ここで敵対の意志表示をしてみるのも悪くないか。

 

「恨んでいないと言ったら信じてくれるのか?悪いが、七瀬だけでなく1年生の全員を信用していない」

 

「それは……」

 

 七瀬が言葉に詰まったところで、こちらから新しい質問を投げた。

 

「試験はまだ続いているのか」

 

「……はい、試験はまだ継続しています。期限は2学期が始まるまでです」

 

 それが本当か嘘かは定かではない。

 もしそうだとすれば、七瀬や宝泉がこの1か月半沈黙していたことに少し引っ掛かりを覚える。

 

「私が接触してこなかったことが気がかりじゃありませんか?」

 

「気にならないと言えば噓になるな。何か裏で画策してるんじゃないかと不安にもなる」

 

 どうやら七瀬が誘導したいのはこの辺りのようだ。

 現在の自分の立ち位置、考えをオレに教えたいといったところか。

 

「策を講じても簡単には通用しないことが前回で確信出来ましたから。目的を知られた以上、日常生活で綾小路先輩を退学へ追い込むことは極めて難しいですし」

 

「こちらとしては恐ろしい思いだけどな。学年が違う以上、警戒するのにも限度がある」

 

「……そうは思えません。先輩は全教科でも唯一の満点を取っていましたし」

 

 取ってつけたような理由を並べる七瀬。

 だが本当にそうは思っていないようだった。

 学校の玄関が見えてくる。

 お互いに別れの言葉が近いことを意識してくるころ。

 

「それでは、綾小路先輩」

 

「ああ。またな、七瀬」

 

 そういうと、七瀬は笑顔で頷き去っていった。

 七瀬と別れたのち、オレは思考を切り替える。

 今オレが警戒すべきなのは、誰が、何人、特別試験について知っているのか。

 少なくとも七瀬の言った期限にまでは、何かしらのアクションがあるはず。

 そう考えながら、教室へ向かった。

 

 

 

 

 

 教室へ到着した後、オレは自分の席でHRが始まるのを待つ。

 暫くして茶柱が教室へやってきた。

 どうやらいつもとは違うHRが行われるようだ。

 

「全員揃っているようでなによりだ」

 

 出血を確認した茶柱が、モニターに映像を映すためかタブレットの操作を始めた。

 

「おまえたちに、今から一足早い夏休みのバカンスについて説明する」

 

 一瞬、顔を見合わせた生徒たちは甘い言葉に喜びを表現しそうになる。

 

「8月4日から8月11日までの7泊8日間、おまえたちはこの豪華客船で自由に夏休みを満喫することが出来る。劇を見るのも、食事に舌鼓を打つのもいいだろう。そして、船上で特別試験を行うようなことも一切しない」

 

 つまり純粋な、まさにバカンスが約1週間約束されているということか。

 だがこの実力至上主義の学校が、甘い蜜をタダで吸わせて来ることはない。

 それはこのDクラスだけに留まらず、この学校に在籍している2年生以上の共通認識だろう。

 突然、モニターの画面がブラックアウトする。

 

「流石に学習しているようだな」

 

 感心するように、茶柱は笑みを浮かべた。

 バカンスの話を最初に持ってきたのは、1年前のDクラスとは異なることを証明させたかったのだろう。

 

「だが安心しろ。今日明日に始まる、いつもならそういう流れだが残念ながらしばらく先だ。特別試験は夏休みに行われる」

 

 気になる点としては、前もって説明するにしてもあまりに早すぎる時期であること位か。

 ともかくここまでの流れを見れば、否が応でも生徒たちの脳裏に浮かんでくる特別試験が1つある。

 恐らく全員の思考が一致したと思われるタイミングで、茶柱の言葉によってそれが具現化された。

 

「おまえたちには『無人島サバイバル』に参加し、競い合ってもらう」

 

 蘇るのは去年の記憶。

 各クラスが与えられた限りあるクラスポイントをうまく使って競い合い、クラスのリーダーが誰であるかを当てたり、拠点の占有でのポイント取得などのルールを用いた特別試験。

 結果的にみれば、オレたちは1位という輝かしい成績を収める事が出来た。

 だが過程が上手くいった訳ではない。

 早期のリタイア者、男子と女子での壮絶な内輪揉め。

 クラスが一丸となって挑むことが出来たかと言われれば、答えは間違いなくノーだ。

 しかし今は違う。

 そう考えれる生徒の目には、やる気が満ちていることだろう。

 

「全員去年の無人島サバイバル試験を思い出しているだろうが、今年行われるモノはこれまでとは一線を画したもの。どの特別試験よりも過酷かつ厳しいものになるだろう。無論得られるクラスポイント、プライベートポイントは極めて大きなものになる」

 

 過酷かつ厳しいものになるとのことだが、去年と比べどんな変化が加わるのだろうか。

 

「まずは日程から詳しく説明していこう。後ほどおまえたちの端末でもダウンロード、確認ができるようになるため、この場でメモを取る必要はない」

 

 再び点灯したモニターに特別試験に関する日程を表示する。

 

 

7月19日 グラウンドに集合し、バスで出発 港より客船に乗り込み移動

 

7月20日 特別試験開始 試験の説明、および物資の受け渡しなど

 

8月3日  特別試験終了 順位の発表を船内にて行い、それに合わせて報酬を支給 

※8月のプライベートポイントは無人島試験の結果を適用後支給する

 

8月4日  船上クルージングで終日自由行動

 

8月11日 港に到着 学校へと戻り解散

 

 

 終業式が16日の金曜日。

 その3日後に出発する日程だった。

 しかも特別試験の期間は前回の倍。

 

「さて話を本題に移そう。去年も行った無人島サバイバル試験だが、もっとも異なる点は『規模』の違いと言える。試験期間が2週間であることに加え、使用する無人島は以前より面積も大きい」

 

 海上に浮かぶ上空から撮影された無人島が映し出される。

 

「そして、同学年だけでなく全学年で競い合う形を取る」

 

 つまり様々な面で前回を上回る規模で行われる。

 

「戦わなければならない相手も、過去最大級の数ということになるな」

 

 南雲が言っていたのはこのことか。

 ただ全学年であれば、すでに3年生を掌握している南雲が圧倒的なアドバンテージを得るな。

 それ以降の茶柱の説明をまとめるとこうだ。

 

・今日から7月16日金曜日いっぱいまでの約4週間の間、同学年から好きな相手を2人まで選び大グループ(6人)の元である最大3人の小グループを作る権利が与えられる。その後、難易度は高いものの試験中に大グループを作ることが出来るようになる(男女混合の場合3分の2以上を女子が占める必要がある)

※1年生のみ小グループは4人まで

・特別試験の内容は教えることが出来ない

・求められる能力は多種多様で、総合力が高い方が有利だが結束力の無視はできない

・上位グループにはクラスポイント、プライベートポイント、プロテクトポイントといった特別な報酬が与えられる(ただしクラスポイントはクラス数で均等に割られる)

・グループの順位は最後に脱落した生徒で決まる

・上位3グループが得るクラスポイントは下位3グループの学年から移動される(クラスポイントに関しては人数に関係なくクラス数で均等に分配される)

・下位5グループに属する結果になってしまった生徒たちは退学とする(最大30人)

・退学扱いになった場合、1グループ600万プライベートポイントを支払うことで救済とする(支払うプライベートポイントは人数で割られるため、6人グループなら1人辺り100万プライベートポイントとなる)

・試験が始まってからはプライベートポイントの貸し借りが出来ないため、乗船前の段階で自身の携帯に必要な救済ポイントを所持していること

 

 ざっくりとこんなところだが、このルール説明だけでは全容は見えてこないな。

 

「ここまででも色々と面倒な説明だったが、まだ説明することが残っている。これを見てもらおう」

 

 黒板のモニターが切り替わり、8項目が表示される。

 

 

基本カード一覧

 

先行……試験開始時に使えるポイントが1.5倍にされる

 

追加……所有者の得るプライベートポイント報酬を2倍にする

 

半減……ペナルティ時に支払うプライベートポイントを半減させる

  ※このカードを所持する生徒のみ反映される

 

便乗……試験開始時に指定したグループのプライベートポイント報酬の半分を追加で得る

  ※指定したグループと自信が合流した場合効果は消滅する

 

保険……試験中に体調不良で失格した際、所有者は一日だけ回復の猶予を得る

  ※不正による失格などは無効とする

 

特殊カード一覧

 

増員……このカードを所有する生徒は7人目としてグループに存在できる

  ※本試験開始後から効力が発揮され、男女の割合にも左右されない

 

無効……ペナルティ時に支払うプライベートポイントを0にする

  ※このカードを所持する生徒のみ反映される

 

試練……特別試験のクラスポイント報酬を1.5倍にする権利を得る

  ※ただし上位30%のグループに入れなかった場合グループはペナルティを受ける。また増加分の報酬は学校側が補填するものとする

 

 

「これは無人島サバイバル特別試験に影響を与える、各個人に1枚ずつあたえられる言わばアイテムみたいなものだ。一部を除き持っていて損をすることはないだろう」

 

 基本的には自分を守ることが出来るカードばかり。

 トリッキーなのが、唯一所持するデメリットを含んだ『試練カード』だろう。

 上位30%に食い込むのは簡単じゃないはずだ。

 

「各生徒はこの8種の中から1枚をランダムに得る。配布のタイミングは明日の朝で、得たカードは特別試験開始までの間、同じ学年に限り譲渡やトレードすることが出来る。誰が何を所持しているかはOAAで誰でも閲覧可能だ。買い取りたい生徒に売るもよし、買い集め1人で複数所持することも可能だ」

 

 追加で同じ効果の倍増はしないため、同じカードを2枚持つ意味は全くないと付け加えられた。

 どうやら今回の試験は下剋上が簡単に起きそうだな。

 

 

カード概要とルール

基本カード、特殊カード共に同一学年でトレードが可能

クラス内でのトレードは不可であり、一度所有者を変更させると再トレードは不可能

 

 

「また特殊カード3種は学年毎に1枚ずつしか存在せずランダム配布だ。そのため1つのクラスが偶然特殊カードを3枚持つといったことも確率としては起こるだろう。以上だ」

 

 ようやく無人島試験についての説明が終わりを迎えたようだ。

 茶柱も疲れたのか、ふぅ、とため息を吐き教室を後にする。

 だが大変なのはここから。

 しばらくは生徒の奪い合いになるのは避けられない。

 優秀な生徒からグループを作っていき、逆に位置する生徒は取り残されていく。

 しかし、今回の特別試験においては何を持って優秀と判断するか。

 そこも重要な点になるのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 放課後になると、オレは予定していた場所へと足を運ぶ。

 

「待ちなさい、綾小路くん」

 

 教室から出ていこうとするオレを呼び止めたのは堀北だ。

 こちらの行動を予想していたのだろう。

 

「どこに行くつもりなの?」

 

「……生徒会室だ」

 

 隠してもすぐにバレるので、正直に行く当てを伝える。

 

「そう……まさかとは思うけれど、何も言わないで行くつもり?」

 

「音沙汰がなかったからな。もう話は終わったものと思っていた」

 

 オレが南雲の勝負を受けるのは決定事項だ。

 堀北に何を言われようがオレが行動を変えることはないだろう。

 

「勝手に終わらせないでくれるかしら。話をしなかったのは試験の内容が謎だったからに決まっているでしょう?」

 

「なら解決だな。試験の内容は分かっただろ?」

 

 適当にあしらえないのは承知の上で、会話を拒否する姿勢を見せる。

 

「勘違いしないでちょうだい。私が言いたいのは勝負の有無じゃないわ」

 

 それの意味するところは1つ。

 堀北は報酬について言及したいのだろう。

 

「あなたが勝負するからには当然勝ってくれるんでしょう?なら少しでも報酬は多い方がいい」

 

 激励のように聞こえて、そうではない。

 

「これ以上南雲からの譲歩は無いと思うぞ」

 

「そうじゃないわ……今回の試験、報酬を底上げ出来るアイテムがあるでしょう?明日配られるカードだけれど、あなたには試練のカードを持っていてもらいたいの」

 

 つまり堀北の言いたいこととは、勝負するからには勝て、そして報酬は最大限頂く。

 もし負けてもオレひとりに全て背負ってもらう。

 

「カードはどうやって手に入れるつもりだ?」

 

 当然の疑問を投げる。

 オレの出せるプライベートポイントは20数万程度。

 あまり当てにされるのは困る。

 

「……なんとかして見せるわ。それだけの見返りがあるもの。理想はクラス内に配られることだけれど……最低条件として同じ特殊カードは欲しいわね」

 

 どうやらこちらの負けは想定していないらしい。

 傲慢で強欲。

 オレを最大限使いたい堀北にとって、むしろ今回の勝負は好都合だったのかもな。

 

「オレの退学が心配じゃなかったのか?」

 

「あなたを認めたのは兄さんよ。負ける事は許さないわ」

 

 何故堀北が許さないのか。

 だが特に断る理由はない。

 堀北にはこちらの力を知ってもらう必要もあるしな。

 

「じゃあオレは行くぞ」

 

「分かっていたことだけれど、否定しないのね。……私も同席した方がいいかしら?」

 

「大丈夫だ」

 

「そう。それじゃあ終わったら教室へ戻ってきてくれるかしら。試験の作戦を立てたいの」

 

「そのくらいなら構わない」

 

 そういって再びオレは生徒会室へと足を動かし始めた。

 先程の堀北の考え方。

 いつもの慎重な堀北ならあり得ない発言。

 どうやら試されていたのはこちらの方だったのかもしれないな。




綾小路のまとめ情報に、さらに分かりやすく追記しました。
皆さんが理解しやすくなるよう最大限頑張って書いたつもりです。
今回は6000字

文字数について。(今までは2000~3000)

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