テスタマキナ・サルタティオ   作:アジの干物@ディープにゃん

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四話までを書き換えてあります


4.負け犬《アンダードッグ》と呼ばれる男 Vol.4

 魔力(エーテル)(ファーネス)が開発される前。

 古き良き剣と魔法の時代。淀んだ魔素(マナ)がダンジョンと怪物を生み出していた頃。

 人々の中に魔導士(ソーサラー)と呼ばれる職業の人間がいた。あまたの術式を修め魔法を行使する彼らは、その力をもって偉業を成し、畏怖と敬意を集めた。

 そんな彼らも魔力(E)(F)が開発されると、緩やかに姿を消していった。魔力(E)(F)は最高位の魔導士(ソーサラー)よりも、遥かに莫大な魔力(エーテル)を生成出来たからだった。

 個人の資質で変わる魔力(エーテル)生成量。歴史上最高の魔導士(ソーサラー)達でも、ミドルクラスのマギア・マキナに搭載される魔力(E)(F)の生成量と比べて、半分が限界だったと言われる。

 故に技術と知識を残して、魔導士(ソーサラー)を名乗る者はいなくなった。

 

 

 

『アニキ、コウセイさん間に合いませんでしたね』

「こればっかりはな。しょうがねえ」

 

 猫の耳を生やした若い獣人のロクが、残念そうな表情でベイアーに話しかける。

 ベイアーは溜息をついて答えた。

 大きな巨人の騎士が三体と、それよりも少し小さな騎士が六体。テスタ・マキナの群れがコウセイの救援に向っていた。ベイアーのパーティーと合流した他のライダー達だ。

 型式名称カーターホフ。

 群れの中に混じる、三体のスラリと細い騎士然とした巨人。ミドルクラスの人型テスタ・マキナは、ベイアーのパーティーで使用している機体達だ。十四メートルもある全長と長い槍を持つ機体の一つに、ベイアーは搭乗していた。

 機体を走らせながらレーダーを睨む。

 最初に出て来たマギア・マキナの反応が消えて、逃げて来たテスタ・マキナの反応も消えた。

 テスタ・マキナが途中で止まったのは機体の不調か。その所為で後ろから来たマギア・マキナにやられてしまった。可哀想だが森に入って、あそこまで逃げて来られただけでも上出来だった。ライダーには悪いが、今は脅威として残るマギア・マキナへの対応が優先だ。すべてが終われば遺体の回収もできるだろう。

 ベイアーは周囲の機体へ外部スピーカーで話しかける。

 

「もうすぐ頂上に着く。いいか。デュラハンに乗っている奴は、先行して来るミドルクラスには手を出すな! 死ぬぞ。ミドルクラスは俺達がやる。いいか、絶対に手を出すなよ!」

 

 ベイアーのパーティー以外はすべてデュラハンだった。デュラハンでミドルクラスの相手をさせるのは、死ねというのと同義だ。スモールクラスとミドルクラスでは、大きさも性能差もあり過ぎる。

 ベイアーは自身とロクとでコウセイの援護をしつつ、ミドルクラス五体を倒すつもりだった。

 後方のスモールクラスのマギア・マキナは、カーターホフに乗っているベイアーの仲間のハドとデュラハンで対処させる手筈だ。

 テスタ・マキナの群れは、コウセイが昇っていた丘の上までたどり着いた。

 森の方から銀色のガルムが駆けて来るのが見える。後ろを五体の黒いバーンゲイズが追跡している。

 もう少しでコウセイのガルムが、丘の麓に着くタイミングで通信が入った。

 

『ベイアー、バーンゲイズは俺が片付けておくから、増援の対応を頼む』

「おいおい、そりゃあ無茶、でもないか。お前達なら出来なくもないだろうが……」

『大丈夫だ。知ってるだろ?』

 

 ベイアーは難しい顔をして考え込む。わざわざ五倍の戦力と一人で戦うとは、どういう事か。何か理由がある。

 コウセイは真剣な顔で自分が出した提案の理由(わけ)を告げた。

 

『出来るだけそこに戦力を残しておきたい。後についてくるスモールクラス以外に、森から増援が来る』

「なるほど」

 

 ベイアーは納得した。カーターホフのレーダーにはまだ写っていない為、どの程度の規模か分からないが、コウセイは追加の増援に対しての備えとして、ベイアー達を残しておきたいのだろう。

 

『ミドルクラスの反応が三つ、森の中を移動している。速度が速い。多分バーンゲイズだ』

『バーンゲイズならば森から出れば、速度も上がりましょう。デュリハスとの乱戦中に合流されれば、被害が大きくなりましょうな』

 

 ベイアーの機体と通信で繋がっていたハドにも、コウセイとの会話が共有されていた。通信を聞いていたハドは、コウセイの懸念を状況を想定し口にした。彼自身も自分の言葉に納得し、長い左右の耳を上下に動かしながら頷く。

 

『ああ、そうだ。ハド』

 

 コウセイはハドの予測を肯定する。丘の上のテスタ・マキナの戦力ならば、デュラハン九体には手を焼かないだろう。バーンゲイズが追い付くまでに倒しきれるはずだ。

 

「分かった。こっちは何とかする」

『コウセイ。君の配慮に感謝する』

『ああ、頼む』

 

 ベイアーとハドの言葉にそれだけ告げて、コウセイは通信を切った。

 

「聞こえていたな。作戦を変更する。バーンゲイズはコウセイに任せる。俺達は残りのデュラハンと増援を相手取る」

『無茶ですよ、アニキ! 一人でバーンゲイズを五体も相手取るなんて!』

 

 コウセイの提案を受け入れたベイアーとハドに、ロクが反論する。

 ロクはベイアーとコウセイの仲を知っている。親しい友人として、尊敬できる仲間としてお互いを尊重していることを知っていた。そのベイアーがまるでコウセイを見捨てるような真似をするとは、思いもしなかった。

 ロクは赤く染まった顔を険しく強張らせ、まだ何かを言おうとしていた。

 ベイアーとハドは、サブモニターに映ったロクを呆けた顔で見ていた。突然怒り出した若いライダーに困惑していた。怒鳴られた年長二人はしばし動きを止めると、お互いに年若いライダーの勘違いを解こうとする。

 

「落ち着け。ロクお前、まさかコウセイが負けると思ってないか?」

『そりゃそうですよ。いくらコウセイさん達だからって、あの数はやばいですよ。勝てるわけがないですって』

『いや、バーンゲイズが五体程度なら、コウセイ達は勝つぞ』

 

 ベイアーは根本的な認識の差を実感する。ハドが言うようにコウセイ達なら勝てる。その事実をロクは知らなかった。だからここまで怒っているのだ。

 

「ハドの言う通りだ。お前はまだ知らなかったかもしれないが、コウセイ達はあの程度の数では負けん。大丈夫だ」

『でも……』

 

 それでも言い募るロクに対し、ベイアーは明るくも何処か新年な声音で語りかけた。

 

「ロク。お前がそうやって言うのは、俺の教えが根っこにあるんだろうな。一人でマギア・マキナと戦う時は、同数か多くても二体までにしろ。三体いたら戦いは避けろ。四体以上いたのならば逃げて報告しろ。無理はするな」

『そうですよ。アニキが俺に教えてくれたんじゃないですか」

「そうだな。俺の経験からの話だがな。ロクお前はまだ渡りを経験してなかったな?」

『マギア・マキナの大量発生する現象ですよね。うっす。まだあったことは無いです』

「さっきの経験ってのも、七年前の渡りで俺とハドが、しでかした失敗から学んだんだ。あの頃調子に乗っていた俺達は、しっかりとした情報収集もせずに依頼に繰り出して、九体のマギア・マキナの集団に囲まれちまった。何とか二人で二体ずつ倒しはしたが、そこで機体が動かなくなっちまった」

『それでどうしたんですか』

操縦席(コックピット)が破壊される前に、コウセイとエリシアが助けに入った。奇襲気味だったとはいえあいつらは、五倍の敵に勝って見せたよ」

 

 ベイアーは懐かしそうに、何処か遠くを見る眼で話す。あの時助けられてからコウセイ達との付き合いが始まった。

 

『あの二人ってそんなに強いんですか』

『ああ、強いぞ』

 

 ロクの疑問にホドが自信をもって答えた。ベイアーとホドは実際に目の前であの戦いを見ているから知っている。

 ロクはもう怒りを感じてはいなかった。二人がコウセイ達を送り出したのは勝てると信頼していたからだった。ロクの顔は先ほどとは別に、怒りではなく羞恥心で赤くなる。

 

「ロク。お前はアドミスで最強のライダーは誰だと思う?」

『それってあれですか。酒場で良く話される俺の考える最強のライダー』

「そう、それだ」

『いやっ。ちょっと分んないですね。コウセイさんの事もあるんで』

「そうか。そんじゃまあ、俺の考える最強のライダーを聞いてもらおうか」

 

 ベイアーはその野性的で濃い顔をニヤリとさせて言った。

 

「アドミスで最強のライダーはコウセイとエリシアだと、俺は思うね」

 

 言葉に込められた自信と信頼をロクは感じ取り、二の句を告げられなかった。そんな二人に横から声がかけられる。

 

『デュリハスが来たぞ』

「やっとか」

 

 ホドの言葉通りにデュリハスが、ようやく丘の近くまで来ている。

 ベイアーは周りのライダーに大声で号令を出した。

 

魔法兵装(マギウェポン)の起動を始めろ。射程範囲に入ったら上からぶちかましてやれ! 最初の斉射で出来るだけ敵を減らすぞ! 頭の自爆攻撃だけは気を付けろよ!」

 

 戦闘が始まる。

 

 

 

 ガルムと五体のバーンゲイズが、命懸けの追いかけっこ(キャッチアンドラン)をしている。犬の口から火球吐き出されると、その度に狼から放たれる魔法弾が迎撃していた。機体の性能差があるのか、互いの間にある距離が段々と伸びていく。

 その遥か後ろで巨大な騎士達の戦闘が始まっている。

 

「始まりましたね」

 

 後方からの炎撃弾(フレイムキャノン)を警戒していたエリシアの目に、戦闘で生じる閃光と爆炎が映る。かなりの規模を爆炎が吹き飛ばしているのが見える。同時にレーダーからデュリハスの反応が、四つ消えた。

 

「ベイアーの奴、派手にやったな。半分近く吹き飛ばしたぞ」

 

 コウセイは戦闘中だというのに暢気な様子で感想を述べる。その顔は何処か面白そうにしている。

 

「良くこれだけの数を一度にたおせましたね」 

「中央が密集していたからな。そこへ上手い具合に全機の魔法兵装(マギウェポン)を撃ち込んだってところか。ミドルクラスを三体含んだ一斉射だ。地面には大穴が空いているだろうな」 

 

 レーダーに映る反応は、デュリハスの集団が中央で分断された様子を表している。集団の先頭を移動していた三体と最後尾の二体。

 爆発の中心から離れる動きをしていた先頭はともかく、後方の二体は爆発に向って移動していたから、それなりの損傷を受けているだろう。

 

「参ったな、思ったよりも向こうの戦闘が、終わるのは速そうだぞ」

「そうでしょうけど。何か問題でも?」

「こっちは任せろ! とか強そうな雰囲気出しておいて、先に戦闘が終わったベイアー達に手伝ってもらうとカッコ悪いだろ?」

「そんな理由ですか」 

「男なんてそんなもんだって」

 

 クツクツと悪戯をする子供の様な顔でコウセイが笑う。

 その言葉にエリシアは呆れたような溜息で答えた。

 

「十分に距離も取った。ここならベイアー達を巻き込む事も無いだろう。そんじゃ、こっちも始めますか」

 

 ガルムは速度を緩め反転すると、バーンゲイズと向き合う。

 近づいてくるバーンゲイズを他所に、コウセイが話し出す。

 

「俺の分の魔力(エーテル)魔法兵装(マギウェポン)へ回す。全部の術式を炎撃弾(フレイムキャノン)に。接近するまで向こうの動きを牽制してくれ」

「良いですけど、多分迎撃されて、避けられますよ?」

「ああ、それで良い。接近さえできれば、後は何とかするさ」

 

 向かい合うガルムが走り出すが、何時もよりその動きは鈍重だった。

 コウセイは先ほどまで機体を強化に使用していた魔力(エーテル)魔法兵装(マギウェポン)へ回す。ガルムとコウセイ、そしてエリシアの魔力(エーテル)を合わせた術式が発動する。

 今までで最大の大きさの火球が、五つ生成される。バーンゲイズの火球の三倍近い大きさのそれは、コウセイの号令を待ち空中を踊る。

 五体のバーンゲイズが射程内に足を踏み入れた瞬間。

 

「撃て」

 

 静かな合図が放たれた。

 一直線に五つの火球が天を駆ける。バーンゲイズの放った火球と接触すると、相手の術式を容易に消滅させ先へ進む。バーンゲイズの装甲ギリギリをかすめ外れる。

 ガルムの周りに再度同じ火球が生まれ、発射された。

 今回は先ほどとは別の結果となった。

 突然二体のバーンゲイズが固まった。

 側面から人の頭程もある緑の球体が、飛んできて当たったからだ。

 意図せぬ方向から与えられる衝撃に、二体は一瞬敵性反応を示した。その為迎撃が遅れ、回避が間に合わなかった。

 直撃した火球が大きな爆発になる。周囲の植物毎周辺を焼き払う。

 傍で密集していた植物──メロンの彷徨う(ワンダリング)野菜(ベジタブル)

 彷徨う(ワンダリング)野菜(ベジタブル)が、接近して来たバーンゲイズを敵とみなし攻撃を仕掛けたのだ。

 損傷するほどの威力が無い攻撃だったが、バーンゲイズの演算装置に隙が生まれた。

 

「あら?」

「ハハハッ! ちょうどいい一気に接近するぞ。魔力(エーテル)をこっちに回してくれ!」

 

 コウセイはこの機を見逃さなかった。魔法兵装(マギウェポン)に回していた魔力(エーテル)をガルムの身体強化術式につぎ込む。莫大な魔力(エーテル)魔銀鉱(マナシルバー)の神経を通して注ぎ込まれた精霊銀(ミスリル)の筋肉が、機体を加速させる。魔鋼鉄(マナアイアン)の骨格も筋肉の圧力に耐えられるまで強化された。

 凄まじい加速が操縦席(コックピット)を襲う。膨大なエーテルを力に変換して、金属の狼が大地を駆ける。テスタ・マキナがマギア・マキナの性能を上回る最大の理由。ライダーの魔力(エーテル)を受けガルムは、ほんの数秒で最高速まで達した。

 最高位の魔導士(ソーサラー)と同等の魔力(エーテル)生成量を持ったライダーを二人載せたガルムは、バーンゲイズの倍近い出力を誇る。有り余る出力を存分に発揮し跳躍する。

 その速度にバーンゲイズは反応できなかった。

 空中を飛び、爆炎の中から出て来たガルムが、一体目に爪を振り下ろす。胴体が潰れ半分にされた。装甲に筋肉と骨格、それに魔力(エーテル)(ファーネス)を抉る様に切り払われる。

 二体目には鎖が振るわれる。ガルムの強化された鎖とバーンゲイズの鎖が、大きな音を立ててぶつかり合うと、バーンゲイズの鎖がガラスの如く砕かれる。取って返したガルムの鎖が鞭のようにしなりバーンゲイズを打ち据える。周囲へ盛大に部品を撒き散らし、機能を停止した。

 その頃には三体目も魔力(エーテル)(ファーネス)を停止させていた。エリシアが円属して放った魔法弾を回避しきれず、胴体を撃ち抜かれた。

 

「まさかあんなことがあるとは。ありがとう彷徨う(ワンダリング)野菜(ベジタブル)。いい援護だった」

「そういう割には燃やしていますけど」

「尊い犠牲だった……」

「ところで何の彷徨う(ワンダリング)野菜(ベジタブル)だったんです?」

「ん? ああ、メロンだ」

「え、メロン食べたかったです」

「後で焼け残ったのを探せばいいさ。ベイアー達の所の援護に行くぞ」

「メロン……」

 

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