機械たちは明日に夢を見るか?   作:akuriru14

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駝–1 『bottling for girls』

 二人はとうに寝静まったのかとても静かな夜だった。何とか身体を休めようとハンモックで休んでいると、ふと湧き出した軽い空腹感が俺の目を覚させた。

 

 おちおち気を休める事も出来なくなり、食べ物を求め手当たり次第に部屋の中を漁り始める。

 

 部屋中に散らばるゴミを隅に追いやっていくと、まだ未開封の段ボールの箱を見つけた。

 中身が分からなかった俺は躊躇なく破り開けると、中に入っていたのはモエが好んで食べる棒付きの飴が大量に入っていた。

 

「これシュトリヒの奴か?」

 

 1つ適当なの物を選んで紙を剥がし口の中に入れると、砂糖を直に舐めているとはいかないが、それに近しい程の甘味が舌に張り付いた。

 こんな物を好んで食べ続ければ身体に何らかの支障をきたしそうだ。

 

 それでも癖になるようなこの甘さが、彼女が四六時中舐めている理由なのだろう。

 奥歯で軽く砕いてみるとより味わい深くなり、どことなくオレンジの香りが喉奥から感じる。

 

「……これで良いか」

 

 俺はその箱をハンモックの近くへと運んだ。

 

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 朝日が昇り窓の外も明るくなった頃、俺の目前には目を尖らせた表情で睨みつけてくるモエが居た。

 

 「ねえ、それ私のだよね?」

 「そうなのか?俺の部屋に置いてあったぞ」

 

 彼女は箱の中を覗くと額に青筋を浮かべた。食べ物の恨みは怖いと聞いたことがあるが、それは本当の様だ。

 このままだと手を出されそうな雰囲気を感じ、ハンモックから降りてポケットから、食べなかった飴玉を彼女に手渡した。

 

 手を受け皿の様にして受け取っていたが、3回目程で手から零れて床に落ちた。

 ポケットの中が空となりハンモックに戻ろうとすると、彼女は困惑と怒りを混ぜた様な声で俺に問いかけた。

 

 「これ殆ど同じ味なんだけど……」

 

 サイダー、コーラ、ソーダ味と彼女が名を上げるそれらは、俺が一度口に入れたものの食べる事が出来なかった面々だ。

 

 「……ああ、食べられなかったからやるよ」

 「いや、そもそもこれ私が買った奴」

 

 戻り際に箱から飴を取ろうと思ったが、箱の中は溢れんばかりの食べ終わった飴の紙だけであり。

 手を突っ込んでガサガサと探してみるがもう無くなってしまったようだ。

 

 まあ空腹感も収まった事だしもう良いかと思い、ゴミ箱となった箱を倒れぬよう優しく蹴って壁に寄せた。

 

 「それにストックが無くなっちゃったんだけど」

 「また買えばいいだろ」

 「……そうだ」

 

 モエは手に持っていた飴を近くにあった机へ移すと、俺にスマホの画面を見せてきた。

 映っていたのは建物の写真だったが、倉庫のような景観で入口に大きな看板がつけられていた。

 

 下へスクロールするとその倉庫の詳細が書かれており、ここ直近でお菓子専門の大型スーパーがDUの方で出来たらしい。

 フロアガイドを見てみると確かにかなり大きい施設のようで、殆どの客が大量購入を目的として訪れると記事書かれていた。

 

 「……それで何だ?」

 「付き合ってよ買い出し」

 「嫌だ」

 

 そんな事だと思って食い気味で断ったが、彼女はそれを無視して襟元を掴み引きずって俺を外へ連れ出そうとした。

 なされるがままの俺ではなく、部屋の扉を通った所で足を入口に引っ掛けて抵抗する。

 

 何で俺を連れていく必要があるんだ。買い物ぐらい一人で言ってくればいいと、締まりつつある首を耐えながら言うと彼女は手を離した。

 

 「私一人じゃ運ぶのに限界があるの、リーダー居れば余裕でしょ」

 

 つまり俺は荷物持ちって訳だ。どんだけ買うつもりか分からないが女の買い物に態々付き合いたいと思わない。

 

 「第一俺がそんな一般人の居る所に行ったら、通報されて買い物どころじゃないぞ」

 「普段の装備で行くはずないでしょ。私たち顔隠しているんだから気づかれる事ないよ」

 「なおさら行きたくない」

 

 常に身に着けているガントレットとこの上着、マスクなどを外したら落ち着かなくて堪ったもんじゃない。

 それに今着ている服装以外で持っている衣類が無いのだから無理だ。

 

 『ラパンの服を借りればいいのではないか?』

 

 行かない理由を探しているさなか、先生は解決案を頭の中に提示してきた。

 確かに同じサイズであろうコユキの服だったら着られるだろうが、進んで女性ものである彼女の服を借りようとは思わない。

 

 「行こうよ、きっと楽しいよ」

 

 上から見下ろすように言う彼女は楽し気だった。手間でしかないただの買い物で、どうしてそこまで意気揚々なのだろうか。

 嫌だなと思いつつモエの飴を食べつくした手前、誰でもない彼女の誘いを断るのは無情すぎるだろうか。

 

 「……はあ、ちょっと待ってろ」

 

 立ち上がりコユキの部屋に向かう、彼女の部屋は俺の部屋の真上だ。

 何の変哲もない扉が並ぶ中、彼女の部屋の扉には白い兎のシールが貼ってあった。

 

 「おい起きてるだろ」

 「っわあ!、何ですか!急に入ってこないでくださいよ!、せめてノックしてから……ちょ――」

 

 「くひひ……」

 

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 ◯

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 ●

 

 モエが行きたがっていた施設はアジトを出て車で小一時間程の所にあった。

 

 車から駐車場に降りて腰を逸らすと、背骨から子気味良い音が鳴った。

 彼女が運転する車はコユキの運転とは違い安心感があったが、やっぱりずっと同じ姿勢で座りっぱなしは辛い物があった。

 

 「この車買ったのか?」

 「そうだよ、武装が剝がされて安くなってた」

 

 振り返ると暗めな砂色の様な車体が目に映る。そこら辺を走る乗用車とは違う軍用車両、モエ曰くハンヴィーという名前らしい。

 

 「安いって言ってもそれなりの値段するし、燃費も悪いから大事に使ってよ」

 「俺じゃなくてラパンに言え」

 

 周囲を見渡すとそれなりに人が居るのか、半数以上の駐車スペースが埋まっていた。

 チラホラ見える人影を見ると内心構えてしまう。やはり外でマスクを着用していないのは、かなりの違和感があった。

 

 元々俺の持つ装備なんてガントレットとマスクぐらいだったが、全部をアジトに置いてきたので今の俺は本当に丸腰だった。

 

 「くひひ……いつもと違うリーダーが何か新鮮すぎて違和感」

 

 結局コユキに借りようとしたのは良いが、女性物の服を着るのは抵抗があった。

 何故か進んでスカートを履かせようとしたコユキを一蹴し、何とかショートパンツとTシャツを見つけ、少しでも顔が見えないようにキャップ帽を奪う様に借りてきた。

 

 「いいから早く買うもの買って帰るぞ」

 「はいはい」

 

 ゆっくり車から歩くモエを急かし先を歩かせ、俺たちは菓子専門”スナックヒルズ"に足を踏み入れた。

 

 「……すごい甘い匂いがする」

 

 元々は倉庫だったのだろう天井がかなり高く、お菓子であろう商品は箱詰めされたままであり、輸送した物をそのまま置いてあった。

 

 お菓子をその箱ごと買う客が多く、それに伴ってか此処で使うカートもかなり大きかった。

 俺が扱うには使いづらく見えにくいが何とかなるだろう。片足だけカートの脚部に乗せて軽く地面を蹴って押し進む。

 

 「ここはフードコートもあるからね。一通り見て回ったら食べていく?」

 「……少しだけな」

 

 なるべく早く帰りたいところだが、ここまで来たら寄り道しても変わらないだろう。

 

 流石に此処にヴァルキューレの奴らは居ないだろうし、DUの区域なら余程の馬鹿じゃなければチンピラ達もいないだろう。

 

 「おい、止まれ」

 

 唸るような低い女性の声が俺たちの足を止めた。振り返ると一人の生徒が此方を睨んでいる。

 

 獣のような耳がツンと天を差し、毛先を切りそろえて短くされた金髪の生徒。

 フォーマルな服装でネクタイを締めた姿はあまり見かけない物だが、腕を通しているその腕章と雰囲気で彼女がヴァルキューレの生徒だと分かった。

 

 彼女はカツカツと足音を立てながら歩み寄ると、目の前まで近づきその獰猛な目つきで俺を見下ろした。

 

 何でこんな所にヴァルキューレの生徒が居るんだ。てか、俺が何かやったか?もしかしたら気づかれたのだろうか。

 

 

 いざとなったら逃げられるよう身構えていると、彼女が口を開こうとしたその時、背中を追うように現れたもう一人の生徒が金髪の頭をはたいた。

 

 「その押し方はあぶ――ガッ!?」

 「うぉい!?ただの一般生徒を威圧するんじゃないよ!!」

 

 突然現れたと思えば叱り始めた生徒も同じ制服を着ており、殴られていた金髪は後頭部を摩りながら説教を受けていた。

 

 恐らく言うならば上司と部下なのだろう、彼女たちを見てそうおもった。

 だが、俺たちの事を忘れているのか今だに話は終わらず、俺たちはただその様子を見ていた。

 

 「すいません!この新米は悪気無いんですけど本当に目つきが悪くて、怖がらせてしまいましたよね?」

 「……すいません」

 

 やっと俺たちのことを思い出したのか、俺と目が合うと先輩であろう彼女は金髪の頭を鷲掴みにし二人して頭を下ろした。

 

 たしかに威圧感があったが謝罪する程ではなかった。しかし、それを言うのも何か違う気がして返す言葉を悩んでいると、モエが俺の横に立って代わりに返答した。

 

 「くひひ、気にしなくて良いよ。この子そんなヤワじゃないし」

 「……そう言ってもらえると助かります」

 

 顔を上げた二人から逃げる様に顔を帽子のツバで隠すように俯く。

 彼女たちの事はモエに任せてこのまま立ち去ってくれる事を祈っていると、目つきの悪い方の生徒が地面に片膝を突き目線を俺に合わせた。

 

 「しかし、カートを乗って蹴るように移動するのは危険です。なので施設内ではなるべく手で押して歩く様にお願いします」

 「……分かった」

 

 未だに目つきの悪さは改善されていなかったが、俺の事が印象に残られても困るので素直に返事する。

 それで満足なのか金髪の生徒は頬を緩めたが、俺が顔を覚えられる前にモエの背中に隠れると、勘違いしたのか彼女はショックを受けていた。

 

 「なに呆けてるんださっさと買って帰るぞ」

 「はい、すいません」

 「……ヴァルキューレもこういう店に来るんだ?」

 

 ふらっと立ち上がった彼女は先輩の所へ帰ろうするが、それを何故かモエは引き留めた。

 

 「いえ、部署内の生徒達へ差し入れをと先輩に言われ、この様に付き合わされまして」

 「ふーん、ならドーナッツでも買うのかな?」

 「そうですね、買うのは先輩なので分かりませんが恐らく」

 

 何のための会話か分からないが、聞きたい事を聞けたのか、モエは満足そうな顔をして会話を切り上げた。

 

 「では、お気をつけて」

 

 先輩の跡を遅れて小走りで向かう彼女だったが、追いつくとまた頭をひっぱ叩かれていた。

 その様子を見守り、ある程度離れた事を確認してから俺はモエから離れた。

 

 「何で引き止めたんだ?」

 「んー?、ちょっとね」

 

 くひひっと笑いながら誤魔化そうとするが、きっといつもの症状なのだろう。今は何も持って無いからやめて欲しいところではある。

 

 怪訝な目も関せずモエはカートに近づくと、カートのハンドルから俺を軽く押し退けて交代する。

 

 「私が指示するから商品乗せてってよ」

 「……そうするか」

 

 彼女の横に着き並ぶように歩く、少し歩幅が違うせいで少し早歩きのようになるが、カートを押して歩くよりは楽だった。

 

 それから、アレもこれもと選ぶ彼女のお菓子をカートに載せ買い物をしていたのだが、結局車に載せられる量ではなくなり、店から発送してもらえる事となった。

 

 店員から用紙を渡され、商品の番号と数を書けば出口に用意してくれるらしい。

 

 カートで運ぶ必要はなくなり楽にはなったが、施設内はとても広く飴ひとつ取っても何十種類とあり、他のお菓子も見て回るとそれなりの時間がかかる。

 

 「リーダーの分の用紙も貰っとく?」

 「……いや、適当に俺の分も書いといてくれ」

 「んー、了解」

 

 俺に渡されてもキヴォトスの字は書けないのだ。先生が居るおかげで代わりに読んで教えてくれるのだが、書くのは今だに出来ないままだ。

 

 『今度時間ある時に教えるか』

 「……」

 

 勉学はつまらなくて好きではなく、とても断りたい所ではあった。

 

 常に楽しそうに買い物をするモエとの時間を過ごす中、初めの内はまだ面白かったが次第に飽きてきた俺は、モエからフードコートの場所を聞き出した。

 

 「私まだここら辺に居るから」

 「ああ、迷子になるなよ」

 「こっちのセリフ」

 

 飴の味で悩む彼女を置いて退屈していた俺は早々とフードコートへ向かった。幸い、少し距離があるだけで小走りで行けばあっという間だった。

 

 初めて見たフードコートは席が多くあり、その周りに小さな店舗がいくつもあった。周囲にある店舗全ての共用スペースらしく、カウンターから注文を受け取った人が好きに場所を選んで座っていた。

 

 「どれが何の店か分からんな」

 『すぐに彼女の元に戻るなら軽くつまめるものが良いんじゃないか?』

 

 多彩なバリエーションがあるパンケーキから普通のカレーライスなど、普通の食事を見かけるが俺の気分は砂糖を使った甘めな物が良かった。

 先生の簡略した説明を耳にしながら探していると、いくつもある店の中から目を引く物を見つけた。

 

 「先生あれは?」

 『ああ、たい焼きか丁度いいんじゃないか?』

 

 『気になるのなら試しに買ってみると良い』そう告げられた俺は店に近づくと、カウンターで立っていた生徒に懐から紙を1枚差しだした。

 

 「これで何個買える?」

 「え~餡子だと10個かな、……10個買うの?」

 「じゃあ10個」

 「餡子だけでいいの?」

 「いい」

 

 アンコという物を知らないが俺は二つ返事で返してしまった。

 

 店員は俺の手からお金を受け取ると、鉄板の上に並べられていた魚の模様をした手のひら程ある焼き物を紙袋に詰め始める。

 

 その様子を目の前で見ていると、最後に店員が1つ多く入れるのが見えた。数え間違えたのだと思い、その運にあやかろうと俺は黙った。

 

 「はいお待ちどうさん、1個おまけね」

 

 数え間違いではなく純粋な店員の厚意だったらしい。熱くなった紙袋を受け取ると、俺は黙って来た道をそそくさと戻った。

 

 手で抱えるように持った紙袋が揺れるたびかさかさと音を立てる。鼻に漂う焼き菓子の香ばしい匂いに耐えきれず袋の中から1つ手に取る。

 施設が広大なせいか入口には人が居たが、周囲には片手で数られる程しかいないため気が楽でよかった。

 

 鉄板から外されたばかりのたい焼きは、湯気が出る程に熱を持っており、触れている指先からじんわりと暖かくなった。

 

 我慢できず手に持ってしまった以上、そのまま見てるだけなんて出来るはずもなく、口を開きそのまま魚の頭を噛み切った。

 

 小走りだった足取りがゆっくりとしたものになった。

 さっくりとした食感だと思えば、噛み続けるとしっとりとして柔らかな皮。

 コレが餡子なのだろうか。焼けた小麦色の皮の中に入っている紫色を帯びたペースト状の物。

 

 腰の入った濃い甘さが舌に絡み、つぶつぶと感じる豆のやわらかな食感と風味を感じた。

 淡泊でプレーンな外側の生地が甘すぎる餡子を軽くし、甘美で調和のとれた一品へと仕上がっていた。

 

 気づけば手の内からあっという間に消えており、収まる事のない食欲はまた新たにたい焼を求め、自然と次を食べてしまうのは当然の事だっただろう。

 

 モエの元へ戻るころには既に紙袋の中は空になる勢いで摘まんでいると、何のお菓子か分からないパレットの隙間から何かが見えた。

 少し気になった俺は迂回して少し寄り道をすると、館内のオブジェとして置かれている大きな瓶が遠くから目に入った。

 

 遠くから見るそのオブジェは中身が入っている様に見えるが、此処からでは小さ過ぎて明るいパステルカラーの砂にしか見えなかった。

 

 その正体を知ろうとして、通路の真ん中に置かれたそのオブジェへ近づくと、それは見上げる程に高くそして大きかった。天井までには至らないがそれでもかなりの大きさだ。

 

 ここまで近づくと流石に中見の正体が分かる。遠くから砂の様に見えた小さな物体は飴玉だった。

 色とりどりの剥き身の飴玉が瓶の中身を埋め、ガラス張りの天井から入る日の光が、それを鮮やかな虹の様に輝かせた。

 

 曇りのないガラスの奥の光景が綺麗で、近くで見ようとしたがオブジェの周りには赤いベルトのパーテーションで囲われていた。

 

 「これ本物の飴なのかな」

 『恐らく本物じゃないだろうか』

 「どっちだと思う?。……くひひ」

 

 俺の独り言に聞こえるだろう疑問をモエは答えた。

 買い物は済んだのか後ろから密かに近づき、たい焼きへと伸ばされていた手を打ち払う。

 一瞬驚いた表情を見せたが、すぐにいつものにやけ顔に戻った。

 

 「何か此処の館長がどっかの学園に制作して貰ったらしいよ……はぁ」

 「へえ」

 

 誰が何のためにだとか余り興味の無い話だったが、隣に来た彼女が鞄を降ろし徐に開けたのを見て無視できない話へと変わった。

 

 「直径8m、高さ25mの空間に敷き詰められた大量の飴玉」

 

 何も知らない俺に説明するように、しかし俺の様子など気にしない独り言のように。

 彼女は折りたたみPCのボードを叩き終えると、頬に赤みを差し興奮した様子で俺に振り向いた。

 

 「それが一斉に散らばったら、どうなっちゃうと思う?」

 

 紙袋に残った最後のたい焼きを口に押し込み、袋の中腹辺りに穴を2つ開ける。

 呼吸を荒くしている彼女を見て、止める事を諦めた俺はその紙袋を頭に被った。湯気で湿り気のある袋の中は、たい焼きの香りがまだ残っていた。

 

 どうせ此処に来た目的の殆どはこれだったのだろう。だったらマスクぐらいは隠し持っておけば良かった。

 

 鞄からシート状の物を取り出したモエは、パーテーションを乗り越えガラスへと張り付けた。

 

 「ほら、ちょっと離れてて」

 「わ――」

 「ファイヤ!」

 

 もう我慢できなかったのか、返事も待たずに起爆した。慌てて紙袋が飛んで行かないよう頭の上で抑えた。

 

 広い室内に爆発音とガラスの砕け落ちる音が響き、爆薬があった所から大量の飴玉が流れ出した。

 飴玉同士が互いにぶつかり合いながら、フロア一帯へと広がるように転がっていく。

 

 穴の開いた水道管の様な躍動と、移り流れる色彩は間近で見る分には壮観だった。

 横を通ろうとした飴を手で掴み、口の中に入れるとしっかり甘い味がする、これはバナナだろうか。

 

 ガラスの瓶から流れ出る勢いは段々と弱々しい物となり、遂には穴の高さまで中身を残して放流は止まった。

 

 「……はあ、……はあ、……快感」

 

 涎をたらして立ち尽くす彼女を横目に見ながら、足元の飴玉をポケットにいくつかしまう。こんな大量にあるんだ、何個かくすねても気づかれないだろうし、もう些細なことだろう。

 

 「よし、逃げるか」

 「……リーダー頼んだ」

 「だと思ったよ」

 

 隣で腰砕けになっているモエを肩に担ぐ、警備員が集まってくる前に戻らなくてはいけない。

 逃げ出そうと一歩踏み出した俺は、床を覆いつくす飴玉を踏み付けその場で滑ってコケた。

 

 女子だと思えない口から漏れるようなモエの声が静かに響いた。

 

 「……リーダーは何味が好き?」

 「……おでん」

 「おでんかぁ、……飴とは絶対に合わないミスマッチ、何て破滅的……はあ、はあ……」

 

 俺たちはやがて集まった警備員とヴァルキューレから、何とか逃げ切りアジトに戻った。

 

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 ●

 

 後日、俺の部屋を埋め尽くすほどのお菓子が届いたが一週間程で無くなり。

 

 「リーダー」

 「行かない」

 

 彼女と二人で買い物は行かないと心に決めたのだった。

 

 




何か本当に駄目で多分これからも2週間に1話更新になると思います。
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