機械たちは明日に夢を見るか?   作:akuriru14

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5-2 『Star drops』

 

 「ぐるるああああああああ!」

 「ひぃいいいいいい!?」

 

 公園の一角にあったゴミ箱へゴミ全てを押しつけ、街へと再び繰り出した俺たちだったが、どこへ行こうもすれ違う人々が悲鳴を上げて逃げだしていた。

 

 あのゴミ箱は強く押し込んだせいか、取り出せるかも分からない程に固くなっていたが、まあもう関係ないだろう。押し込んだのは俺じゃないし。

 

 先ほどから俺の目の前で彼女は奇声を発しているが、あれは目に映った人をなりふり構わず威嚇しているわけではない。

 絡まれた人には気の毒ではあるが、彼女なりに努力して聞き込みをしようとしてるだけなのだ。

 

 彼女は極度の人見知りらしい。クレープを口にした彼女がたどたどしく話してくれた。

 最初は食べ物を食べている時だけ人間に戻る化物かと思ったが、あの時は少し落ち着けたお陰で話せるようになったらしい。

 

 緊張するとパニックになり普段のような振る舞いが出てしまうと語っていたが、その時に一人で帰れると告げても彼女は俺を解放してくれなかった。

 

 心配しているのは事実らしく、正義実現委員会として送らせて欲しいと言われてしまった。

 

 「アッァぁぁぁ!?…………」

 『どうするユウリ、このままだと永遠に解放される事はないぞ』

 

 永遠ではないと思うが、先生が言う通り本当にこのままだと時間だけが食われてしまう。

 隙を見て一度だけ彼女から離れて逃げたのだが、振り切れたと思えばすごい形相をした彼女に突然見つかったのだ。

 

 入り組んだ路地に逃げ込み振り切ったと思ったが、彼女の直勘かそれとも脚の速さだろうか。

 

 見つかった理由も分からずその場は「いつの間にか逸れてしまった」何て誤魔化したが、攫われたと勘違いした彼女に離れるなと目をつけられてしまった。

 

 「まず、あの恫喝じみた聞き込みをやめさせる。そして人が少なそうな所へ行くしかない、……あのままじゃ目立ちすぎる」

 

 また新しく生徒を見つけた彼女は、ずんずんと歩いて向かおうとするが、彼女の服を掴んで引き留めた。

 かなり筋力があるのか掴んでから俺に気づくまでに、地面に引きずった痕が線のように真っ直ぐに残った。

 

 「――ぁああががががががが?」

 「一旦黙って着いて来い」

 

 振り返った彼女の右腕を掴み、来た道を戻る様に引っ張って歩いた。

 拒否する意思はないのか小さい声で呻くだけで、嫌がるような素振りは見せなかった。

 

 ペットを飼う人はこんな気持ちなのかと思いながら小道へと逸れ、道沿いに小川が流れる通りへと出た。幸い人の気配がなく自然と口から息を漏らした。

 

 ここなら大丈夫だろうと彼女の様子を見ると、目を見開きながら顔を青くさせるという奇怪な表情をしていた。

 腕を放してやるとそのまま手で顔を覆い、膝を地面に落とした。

 

 「……どうして私は、……迷子を送り届ける事も」

 「まず俺は迷子じゃないんだが」

 「――っァ!?」

 

 手を顔から離して驚いているが今しがた話したばかりだ。

 パニックになるのはこの際もう良いとして、そうなる前に話した事ぐらいは聞いていて欲しい。

 

 「なら、……家はどこなんだ?」

 「……あーそうだな、親から知らない人に教えるなって」

 

 親が居た記憶などないが今この場では居る事とした。だがまあ、俺が生まれている以上居ない訳がないだろう。ただ、絶対にろくでもない奴なのは間違い無い。

 

 それでいいのか彼女は深く追及しなかった。だけど、口から息を吐いてるだけなのか、掠れた動物の声みたいなものを出すのは、どういったリアクションなのだろうか。

 

 すっと彼女は立ち上がり、骨を鳴らすように首を右へ左へと伸ばす。音はなってないし長い黒髪が揺れては顔に掛かったため、見た人が恐怖で腰を抜かすんじゃないかと思う風貌になった。

 

 「ならせめて、……近くまで送らせて欲しい」

 「……それならいいけどよ」

 

 この際、目的地だった星の雫の付近まで行って別れれば良いかと考えたが、彼女の不穏な印象を見て真反対の方へと歩き出した。

 

 いつもの服に着替えて建物を無視して急行すれば、日が沈む前には店に着くこともできるだろう。

 

 先導するように俺は前を歩き、その後ろを彼女はひたひたと付いてきた。

 暗いわけではないが日の当たらない小川の側は少し涼しく、流れが穏やかで川の底が見えるほど水が綺麗だった。

 

 歩く俺と彼女の空間は足音だけのとても静かなもので、話すことの無い俺とコミュニケーションが苦手と言う彼女じゃ、弾む会話もないだろうと思っていたが以外にも彼女の方は会話を切り出した。

 

 「わ、わ、私の事怖くないのか?」

 

 ギッ!……なんて。何か喉に詰まらせたような音がしてから、長い間を空けてやっと彼女は俺に問いかける。

 

 「みんな私を見ると怯えた顔を……する。生徒も、大人も、…………子供も」

 

 人見知りでパニックになると出てしまうという獣のような奇声、合わせて恐ろしく見えてしまうその見た目は確かに大体の人は怖がるだろう。

 

 本人が自覚しても治しようがないその欠点は、彼女にとってはコンプレックスになり、見た目に反したその少女の様な精神に、周囲からの畏怖を帯びた視線は辛いのだと思った。

 

 だがそんな話を聞いていると単純な疑問が俺の中で生まれた。

 

 何故、彼女は正義実現委員会に入っているのだろうか。

 

 「……そ、それは、……その」

 

 「……人を、蹴散らすと、……爽快感が、……あって」

 

 前言撤回、コイツは見た目通りの戦闘狂だったようだ。

 

 昔、貧民街で無差別に殺人や暴行する輩など、その手の類いの物好きは話に聞いた事はある。だが、実際に見た事はない一度もない、むしろあったら抵抗する間もなく殺されていただろう。

 

 少し重くなった足を前に出しながら後ろを振り返る。彼女は顔を俯かせ逃げるように視線を流れる川へと向けていた。

 

 言えば人から避けられることを理解しているらしい。態々正直に言わなければいいものを、でもそれを言うのが彼女の誠実さなのだろうか。

 

 彼女はそう言っているが、きっと本人は何だかんだ真摯に、そして真面目にやっているのではないかと思う。

 何せ出会ってすぐの関係だが、今もただ空回りしているだけで、困っている人を助けたいという善人らしい人の良さが時折見えるのだ。

 

 だからこそ、その行動と誠心に反し意図してない印象と姿で周囲から疎まれているのは、傍からみて心底生きにくそうだと思った。

 

 「そんな他人の目が気になるのか?」

 「ひ、人を守る側の私が、……人を怖がらせるのは、良くないと思う」

 

 徐々に細くなっていく声に合わせ足を止めた。俺が止まった事に気づいた彼女は、視線の先が川から俺へと変えた。

 

 人に何か余計な事は言いたくないし、こうやって誰かを励ましたりするのは柄じゃない。

 

 「……だけど公園で戦わずに済んだじゃないか」

 

 俺から見れば彼女は敵で、そんな相手を気を使ったりしたくないのだが、彼女の様に先入観や見た目でレッテルを貼られ、思い悩むさまは俺も少し思うところがあった。

 

 「それはお前を恐れたからだ」

 「……」

 

 返事は帰ってこなかったが、その目はしっかりと俺を見ていた。そのままジッと静かで居れば、ただ猫背なだけの少女にしか見えない。

 

 話は終わりだと正面に向き直り歩き始める。俺と彼女の空間はとても静かなもので、2人分の足音だけが聞こえる。

 

 

 

 

 目的であった店の方向と真反対に進み続け、遂には道が川沿いから離れた頃。後ろから追いかけて来たのか、俺たちの事を誰かが大声で呼び止めた。

 

 「ツルギさん!」

 「!?……」

 

 見えたのは彼女の知り合いらしい。同じぐらいの背丈の生徒が銃を両手で持ちながらパタパタと走って向かってくる。

 服装からして彼女と同じ正義実現委員会の者だろう、だがツルギと比べ平凡そうな少女で、走り方からして鈍臭さが滲み出ている。

 

 目の前まで来たその生徒は肩で息をするほど疲れ果ていて、何か喋ろうとしているが息が切れて何も話せなかった。

 一方、大声で呼ばれた彼女はまたパニックを起こしており、見えない何かに首でも絞められているのか、喉から声とも言えぬ何かが聞こえてきた。

 

 この段階でもう俺は立ち去りたかったが、早急に姿を消したら不審に思われると考え、二人が落ち着くまで待つ事にした。

 

 「はぁ、……ツルギさん銃も持たずに何処行っていたのですか。先輩が心配して探していましたよ」

 「せっ、……せせ先輩は何と言って?」

 「また事件に巻き込まれていないかと」

 

 汗を拭いながら疲れた表情を見せる彼女の顔は、果たして走り疲れたものかツルギの事か分からなかったが、起こす側だと思われてないだけマシなのだろう。

 

 彼女は落ち着かないツルギの様子には慣れているのか、そちらを一目見たのち俺に視線を向けた。

 

 「それで貴方は?」

 「あーー、……その人が無理矢理着いてきたんだ。家も近いし引き取ってくれないか」

 「……分か、りました?」

 

 彼女は一瞬驚きの表情を見せたがすぐに怪訝な顔に変えた。

 何か可笑しな事を言っただろうか、ちゃんと説明すると長くなってしまう。詳しく聞きたいならツルギに聞いてほしい。

 

 「じゃあな、ツルギ」

 「……!?」

 

 彼女たち二人を残すように、自然にその場を離れようとする。ツルギは少し急な顔をしていたが、流石にもう要らないと言えば、もう追うそぶりは見せなかった。

 

 「お、お前、名前は?」

 「……ああ、親から言うなって言われてるから、もし次()()()()言うよ」

 「……そうか、あと」

 「なんだよ?」

 「銃は持っといた方が良い、……それだけだ」

 

 確かにそう俺も思うがあまり気が乗らないのと、コレと言った銃が見つからないのだ。しかし、彼女の言う通り、トラブル防止の為にも銃を見えるところに所持した方が良いだろう。

 

 「それもそうだな」と言い残し彼女達の視界から消えるよう、一番近かったの道へと逃げ込み徐々に歩くスピードを上げて俺は立ち去った。

 

 変わった奴だったが嫌いではない。でも、ツルギという生徒とはもう出来る限り会いたくはなかった。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 「ハスミ、悪いんだがツルギを探してきてくれないか」

 「ツルギさんを、……ですか?」

 

 午後の授業が思っていたより速く終わり、密かに考えていたクレープを買いに行こうと廊下を歩いていた私は、正義実現委員会の先輩と偶然出会った。

 

 「ああ、アイツも早くに来てね。すぐに戻ると言っていたのだが、まだ帰ってきていないんだ」

 「……また街中で戦闘でも起こしたのでしょうか」

 

 それはないと思う、と先輩はかぶりを振って答えた。

 先輩は単独での戦闘を避けさせるために、ツルギに銃を置いて行かせたようだった。

 

 あのツルギなら銃がなくても、そこらの不良なら簡単に制圧出来てしまいそうだが、彼女の事を考えたうえの行動らしい。

 先輩もそう考えているのか、心配している様子はなかった。

 

 私やあのツルギも正義実現委員会に入ってまだ日が浅い。だけど、今も私とツルギはセットで扱われる事が多かった。

 

 その理由は分からなくもないが、別に特段ツルギと仲が良いって程でもなかった。ただ、一番最初に組んだバディが彼女と言うだけ、そこで初めて会った時私だって少し怖かった。

 

 「ツルギさんは何処を巡回すると言ってましたか?」

 「中央通りから少し遠いが第四噴水公園の方だ」

 

 彼女が向かった先を聞いて、少しだけ心が弾んだ。そこは私が行こうと思っていたクレープ屋のある公園だったからだ。

 

 彼女を探しに行くだけなら、正義実現委員会として働いている内に入らないだろう。少しはしたないかもしれないが、探すついでに買い食いをしても問題はないはず。

 

 先輩に了承の意を伝え、急いで自分のロッカーへと向かった。この時間ならまだ売り切れる事はないだろう。

 

 「あっ、何か半裸で走り回る生徒が出たらしいから気をつけてねー」

 

 ロッカーの扉を開きノートや授業用BDが詰まった鞄を投げ入れる。貴重品と”Justice”と書かれた腕章をポケットに入れ、自分の愛銃と共に学園の外へ小走りで出ていく。

 

 やはりクレープ屋に向かう生徒が多いのか、いつも人数が少ない通学路に少し活気を感じた。

 

 「……本当にこっちに向かったのでしょうか」

 

 少し言い方が悪いかもしれないが、彼女の凶相はただ道を歩くだけでも悲鳴が挙がる。

 実際の彼女は少し不器用なだけなのだが、人は第一印象が9割と何かの本で書いてあった。しかし、すれ違った人にそれを理解してもらうのは難しいだろう。

 

 あがり症で人見知りなのも奇行に拍車をかけてしまう故、殆どの人が怯えて彼女を避けて逃げる。

 私や知人、小さい子供などには人見知りが多少マシになるのだけれど。幼い子だとツルギの顔を見た途端泣き出してしまうだろう。

 

 軽く周囲を探しながら目的地である噴水公園に着いたが、園内はポツンとキッチンカーが目に着くだけでツルギの姿は見えなかった。

 

 「……やはり居ませんね。お店に少し立ち寄ってから周囲を探してみましょうか」

 

 意気揚々と彼女を探しに来たというテイでやって来た私だったが、店の前まで来ると銃を地面に落とし絶望で立つ尽くした。

 

 目の前に書かれた"SOLDOUT"の文字と、可愛らしい立て看板が私に理不尽な現実を叩きつけ、午後のおやつに浮かれていた心を挫いた。

無理やり

 「……そんな、こんなにも早く?」

 「あ~……悪いなお嬢ちゃん、ちょっと前来た女の子に全部買われてしまってな」

 「ぜ、全部!?」

 

 店主の顔を見ると嘘を言っているようには見えず、そんな自分勝手でモラルもない輩が居るのかと私は憤慨した。

 あってはならないことだと、一刻も早く取り締まるべきだと、胸の内を憤怒で赤く燃やした。だが、それを知らない店主は思い出すかの様にしみじみと呟いた。

 

 「すげえ子だったよ、あそこまで食いっぷりが良いとな!」

 

 来るなり素っ頓狂な事を言い出す生徒だと思い止めようとしたが、全部その場で食べるって言うものだから本当に焼いてやったのさ。

 

 焼いた端からどんどん消えていく様はすごかったが、俺の方が一枚上手だったな。彼女の食べるスピードより、俺が焼き上げる方が速かった。

 

 「それでも何だかんだ小一時間ぐらいで全部食べられてしまったって訳さ」

 

 満足げに鼻の下を書く店主は清々しい顔をしていた。……店の方が納得しているのならしょうがないですね。今日は駄目でしたが、また次の機会に来るとしましょう。

 

 「すまんな嬢ちゃん、楽しみにしてくれていたんだろ」

 「はい、でも大丈夫です。……少しぐらい残して欲しかった気持ちはありますが」

 「……へへっ、少し熱くなっちまってな」

 

 銃を拾い本来の目的であったツルギの捜索を再開しようと、踵を返そうとすると店主から呼び止められた。

 振り返ると店主は車から降りてこちらに何かを持ってやってくる。差し出された手に素直に手を出すと、手のひらの上に小さなカップを置かれた。

 

 「これは?」

 「生地は無くなったが、中身のトッピングは少し余っていたんだ」

 

 渡されたカップの中はパフェの様にクリームを主軸とした果物が乗せられていた。下地にはカスタードも使われており、余り物で作ったとは思えないクオリティがあった。

 

 「頂いてもよろしいのですか?」

 「ああ、お代なんて取らんよ」

 「……ありがとうございます」

 

 カップのサイズに見合ったプラスチックのスプーンをもらい、何処か腰を下ろして食べようかと思ったが、このサイズなら今ここで食べてしまった方が良いだろう。

 

 はしたないと自分でも感じたが誰も周りに居ないこともあり、スプーンを生クリームへと差し込んだ。

 果物と共に掬い上げ口の中へと運ぶと、果物のフレッシュな香りと生クリームのふわりとした甘さが広がった。

 

 「美味しいです」

 「……ありがとうな。やっぱり食べてもらった人に、美味しいって言ってくれると俺も嬉しいよ」

 

 その言葉にちょっとした違和感を感じ、首をかしげると店主は恥ずかしそうに小さく笑った。

 

 「いやな、ほらここの生徒たちは良い所のお嬢さんが多いだろう?」

 

 店主が話した内容に私はスプーンを加えながら頷いた。

 

 トリニティはミッション系に近い学園であり、布教や伝道を重んじており、上下関係や規律なども厳しい。また治安の良さなどに惹かれ引っ越す人も多く、その多くは富裕層の方であるのが殆どだ。

 

 その上に作られた気品や優雅さはあるのだが、それで閉鎖的なグループが生まれ、僅かな違いなどで排他的なったり、開拓的な行動などを嫌いありのままの文化や風習に固執する人も多い。

 

 私も最初の頃は目上の先輩がとても怖くて萎縮していた時期もあった。

 

 「皆んなって訳じゃないんだけどな、ほら殆どの生徒が持ち帰って食べるだろ?」

 「……そうですね。基本的に外で食べるにしても、何処かに座って食べるようにはしています」

 

 特に厳しく指導されている訳ではないのだが、食べ歩きなどは事故など考慮して禁止されている地区もある。だから殆どの生徒は持ち家か、テラスなどスペースを借りるかして机を挟む事が主流だ。

 

 「嬉しい事に数多くの生徒が店に来てくれる。だからちゃんと美味しい物が作れている、と思ってはいるんだけどな」

 

 目の前で食べてもらって、美味しいって、思った気持ちのありのままを、ちゃんと受け取れるってのはすごく嬉しいもんなんだ。

 

 「お嬢ちゃん達にはあまり関係ない話だけどな」

 「……いえ、私もそれに近しい事を思った時があります」

 「ホントかい?」

 「ええ」

 

 正義実現委員会に入って初めの頃に、市民の方に感謝された事があった。ああやって誰からか感謝されるのは初めてで、今でも記憶に残っている。

 

 「……ごちそうさまでした」

 「ああ、ゴミは貰うよ」

 

 空になった容器を受け取ろうと店主は手を出してくれたが、無償で頂いてゴミまで捨ててもらうのは気が引けた。

 確かこの公園にはゴミ箱があった筈、そこに捨てれば良いだろう。

 

 「いえ、これぐらいゴミは私に捨てさせてください」

 「あっ、いやっ」

 

 ベンチの横に置かれたゴミ箱を見つけ中に投げ捨てようと寄るが、ゴミ箱に近づくにつれて違和感が生まれた。

 

 「……えっ?」

 

 格子状のゴミ箱を側面から見たとき、中は空っぽなのだと思った。私が上から覗き込み最初に想起したのは、機械にプレスされたプラスチックの姿だった。

 

 ゴミ箱の入り口としっかり水平に押し込まれ、下手に触れば溢れるのではないかと思えるほどゴミを入れる余地がない。

 

 もはや何のゴミかも検討がつかず、これはゴミ箱ではなくゴミ箱の見た目をした円柱ではないだろうか。

 

 「それなぁ、クレープ買った子の後から来た友達が、出たゴミ全部を押し込んでしまってな」

 「こ、これを人の手で!?」

 

 プレス機とタメを張る腕力を持っている者を人と呼んでいいのだろうか。そう思った時、脳裏に長い黒髪を持った知人が獣の様に笑いながら駆け抜けた。

 

 「もしかしてその生徒私みたいな制服を着ていて、首に赤いチョーカーを着けてませんでしたか!?」

 「何だい君も知り合いだったのかい?」

 

 詰めるように彼女の事を聞くと、店主はたじろぎながら答えてくれた。

 

 先輩の言っていた通り、ツルギはこの公園まで来ていたらしい。しかし、クレープ買った生徒と友達と言うのはどういう事なのだろうか。

 たまたまこの公園で偶然友人に出会ったのだろうか。それともクレープを買い占めた事について注意していたとかだろうか。

 

 ……それはないだろう、私は頭を振った。

 

 「二人でお店に来ていたのですか?」

 「いや最初は小さい子が買いに来てな、軽食を買いに一度離れて戻ってきたら、黒い服の子と一緒にベンチで食べてたよ」

 「一緒にベンチで、……ですか」

 

 彼女との日常会話はいつも仕事の事ばかりで、私が知らないだけで誰かと交友関係を持っていてもおかしくはない。ですが、小さい子となると少し謎な関係な気がします。

 

 小柄でクレープを大量に食せる生徒、自分の身の回りには勿論いないし話にも聞いたことがない。いや、今は考え込むより跡を追った方がいいだろう。

 

 「どちらに向かわれたか分かりますか?」

 「あ~どうだっけなぁー、そこの道に出てを右に行ったと思うぞ」

 「ありがとうございます!」

 

 手に持っていたカップをゴミ箱の上に置き、店主に頭を下げてから公園を出て右に曲がる。

 

 もしこの道なりは進んだとしたらいずれ郊外に出てしまう。もしそこまで遠く行ってしまったのなら、今日は諦めて帰るしかない。

 

 

 

 暫く小走りで移動し続けているが彼女たちの姿どころか、何故か人の気すら見かけなくなっていた。

 

 そんな時、ポケットに入れていたスマホが着信音を鳴らした。足を止めずに急いで出ると気だるげな先輩の声がスピーカーから流れた。

 

 「もしもしー、ツルギちゃん見つかったー?」

 「いえ!、公園に居たのは確かなのですけど」

 

 緩やかな下り坂を勢いを残しつつ下っていく、転ばぬように気を付けながら。

 走るのはあまり好きじゃない、体力がないのもあって息が既に切れかかっている。

 

 「なんかねー、公園から離れた住宅街の方で、狂暴な生徒に恫喝されたって通報入ってたよー」

 

 ほぼ確実にツルギだと私は思った。恐らく報告をくれた先輩も同じように思っているのだろう。

 

 「七番地区の方ですか?」あの公園の近い住宅街は二つしかない。

 「残念、九番ー」間髪入れずに返答される。どうやら私は二択を外したらしい。

 

 「分かりました!すぐ折り返します!」

 「うん頑張っ――」

 

 まだ何か言おうとしていた気がしたが、通信を切ってスマホをしまった。方向を変え右へ曲がり、九番住宅街に向かいながら頭を働かせる。

 先ほど口にした糖分が脳へと使われる事だろう。

 

 人とコミュニケーションを取るのが苦手な、あの彼女が他人にアクションを取った。

 理由は分からないが必要だと思った故の行動だろう。

 もし、今もそうしているのならまだ騒ぎが起きているハズ。それがないという事は恐らく、何処か人気の少ない所へ移動したのではないだろうか。

 

 七番地区と九番地区の間には、それ程大きくない川が挟む形で通っている。

 通りから外れた静かな場所だったはず、もしそこに居なければ飛んで反対側の方だろうか。

 

 「しかし、あのツルギが何をしているのでしょうか」

 

 誰かを追っている?……もしくは何かを探しているとかだろうか。

 彼女が戦闘以外の仕事をこなした所なんて見た事がありませんが大丈夫でしょうか。

 

 静謐とした川沿いの道を足音で騒がせながら進む。

 周りには彼女どころか人の姿すら見えず、また当てを外したと思ったが、道が川からそれで直ぐの所に、ついぞようやく知っている制服とその後ろ姿が見えた。

 

 「ツルギさん!」私は思わず反射的に大声で呼び止める。静かな街並みに皿を割ったように音がよく響いた。

 その声に振り返った者が二人居た。ツルギとその隣にいる小柄な生徒、黒髪で一回り大きい()()の制服に腕を通している彼女だ。

 

 目つきが少し悪く、むくれた表情とその佇まいが、その年頃の少女にしては少し変わった印象を感じた。

 二人の近くに駆け寄りツルギに小言の一つや二つ言いたかったが、口から出てくるのは疲労を込めた息だけだった。

 

 やっと息が整ってきた頃、ツルギに尋ねてみれば時間がかなり経っていた事に気がつかなかったようだった。

 ぎこちなく謝るその様子に今度はため息が出た。

 

 そのまま遅れた理由であろうその生徒にも尋ねるが、彼女はさらっとツルギを突き出して、名前も詳しい事情も聞けぬまま立ち去ってしまった。

 

 「……あの子銃を持っていないのですか?」

 「ああ。だけど、……上級生に囲まれて強気に喧嘩を始めようとしていたんだ」

 

 「それは、……凄い子ですね」言葉を少し選びながらそう答えた。

 実際は中等部の生徒だったりするのだろうか。外見の印象より冷めていて、男性のようなぶっきらぼうな物言いをする子だった。

 

 「そう言えばツルギさん、この後にある私達の巡回ですけど……」

 「?」

 「指定されていた地区と、真反対の場所に来ているので急がないと……」

 

 尻すぼみに小さくそう告げると、彼女は慌ててその白い肌を青白くさせた。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 夕日の明かりに染められつつある住宅の屋根を蹴り、当初の目的であった”星の雫”に文字通り一直線に向かっていた。

 

 道すがら見つけた小川に、制服を詰めた鞄を投げ捨てる。()()()()と鞄が川の底へ沈んだが少し経てば浮き上がってしまうだろう。

 

 しかし、今はしっかりと処理する時間すらも惜しかった。揺れるフードを深く被り直し、暗くなりつつある空を睨んだ。

 

 「クソッ、アイツのせいで大分遅れた」

 『……何故そんな急ぐ必要があるんだ?』

 

 実の所、先生が言う様に急ぐ必要はない。ただ、あの二人がそろそろ起きる頃合いなのが少し嫌なのだ。

 

 「二人を差し置いて一人で来たのに、()()ついていたらダサいだろ」

 『……なるほど?』

 

 目的の店が視界に入り、裏手側へと回り屋根から飛び降りる。

 速度の落とし方が杜撰だったか、足先が屋根を勢い良く掠め、屋根の破片と共にも地面へと降下した。

 

 沈んでいく太陽が店の裏手道に影を差していき、個人の物であろう小さな灯が勝手に光が灯った。

 まだ少し明るく何の助けにもならないが、しばらくすれば足元だけを確かに照らす様になるだろう。

 

 周囲を警戒しながら店の勝手口に手を掛ける。音がならないよう静かにひねり確認してみれば鍵は掛かっていないようだった。

 

「……不用心だな?」

 

 そっとドアに聞き耳を立てると直ぐ側で人の声が聞こえた。数人の若い女性の声がワチャワチャと何か喋っており、それを大人の男性の声が一喝する。

 

 しかし、力強く年季を感じるその声を持ってしても彼女達は止まらない。

 

 それもそうだろう、途中からだが会話を察するにこいつ等は()()だ。

 

「だ~か〜ら~!、定価より高く買ってやるから出来上がっている物を寄越せって言ってるだろ!!」

「やらん!!、此等はもう買い手が決まっておる。それにお前達のようなロクでもない奴に売りはせん!!」

 

「……このジジイッ!」誰かの声と同時に物音がし、床に何かが転がる音が響いた。

 店の中はどうやらとても面倒な状況になっているらしい、まさか盗みに入る前に強盗に遭ってるとは、有名になるとこうも大変なのだろうな。

 

 店の外周を見ても中には入れそうなのは正面と裏口だけ。星の雫その物を探さないといけない事も考えると、気付かれずに侵入しても意味が無いだろう。

 

「恩でも売って強請るか?」

 

 たかだか数人程度なら問題なく鎮圧出来るし、手に入りそうに無いなら、そのときは俺が強奪すればいいか。

 

 出口に近づいて来る足音が聞こえ再び屋根へと身を隠す。

 すぐに開け放たれたドアからはスケバン達がゾロゾロと流れ出て、何かを荷物を担ぎながら近くに停められていた車へと移動し始めた。

 

 星の雫なのだろうかとよく見てみれば、その数ある荷物の中にロープで拘束された年寄りが見えた。

 二人がかりで運ばれており、目は開き意識はあるようだが、抵抗出来ないのかそのまま車両へ載せられようとしている。

 

 理由は分からないが誘拐することになったらしい。

  

「この爺さんは必要なのか?」

「ああ、軟禁して作らせる事にする。それより早くここから逃げるぞ」

 

 それはずいぶんといかした考えだ。

 

 ここらで助けるべきだと判断し屋根から飛び降りた。

 車両から出てきた二人のスケバンの生徒を狙い、片手で頭を掴み地面へと叩きつける。

 

「「――ッ!?」」

 

 意識外から、地面にめり込むほどの力で、頭部に衝撃を与えると大体の奴は動かなくなる。

 キヴォトスに来て得られた教訓の一つだ。

 

 その物音に振り返ろうとした生徒の一人に手を伸ばし、長く結われた後髪を乱暴に掴み取る。そのままその場で身体を回転させ、他のスケバンを巻き込みながら壁へと衝突する。

 

 他所の建物の壁に罅が広がり、その場に崩れ落ちた生徒を車から離すよう遠くへと蹴り飛ばした。

 物の数秒で店裏に立っているのは俺だけになった。

 

  「んんんッ!!、んーんん!」

  「あ?」

 

 くぐもった人の声が車から聞こえ、そういえば意識はあったままだったなと思い出し、荷台まで向かいに行き口に貼られたテープを剥がしてやった。

 

「痛いわ!、もっとゆっくり剝がさんかい!!」

「うるさいな、助けて貰った人の態度か?」

「当たり前じゃろ!早う縄も解かんかい」

 

 剥がしたテープを元に戻してやろうか迷ったが、余り余計な時間は掛けたくないと思い、素直に縛って縄を解いてやると、車から飛び出して背中と肩を伸ばし始めた。

 

「あーー、肩が痛いわい」

 

 小柄なその老人はくるくると肩を回しながら俺を一瞥すると首を傾げた。

 

「しかし思うてたより早かったな」

「……早い?」

「通報してからそう1分も掛かってないじゃろ」

 

 通報の言葉の意味を理解するまで一呼吸要した。無抵抗に誘拐されていたのはそれ故の安心感のおかげか、奴ら慌ただしく出てきたのも納得だ。

 

 来るとしたら正義実現委員会の者だろうか、つい先ほどまで顔を合わせた奴の事が脳裏に浮かんだ。

 その事が上半身に得体のしれない寒気が表皮の上を騒立たせ、一刻も早く此処を立ちたい気分になった。

 

「この積まれた荷物は爺さんのか?」

「そうじゃ、いつも使っている材料も持って行こうとしておったわ」

「……星の雫もここに?」

 

 車の中に乱雑に置かれた荷物に指さして言う、爺さんは少し訝しんだ表情をしながら首を横に振った。

 明日の分にあたるその商品たちは店の倉庫に置かれているらしく、奴らはそこまで手を付ける余裕はなかったようだ。

 

「中の状況も確認したい、案内をお願いしてもいいか?」

「別に構わんがオヌシ、……一人で来たのか?」

 

「後から来るよ」と、あたかも自分は正義実現委員会の人間だと思わせるように、慣れた雰囲気で話すと爺さんは一拍空けてから裏口のドアを開けて中へ入って行った。

 怪しまれたのが分かったがバレた所で、年寄り一人何の障害にもならないだろう。

 

 開かれたドアから入った場所はバックヤードで、幅は少し狭いが角を曲がった先まであるほど奥があった。

 近くには簡易的な机と椅子があり、爺さんの荷物らしき物が白いストッカーの上に置かれている。

 

 奥へと進もうとする爺さんが左ての部屋の中へ消え、続くように自分も部屋の中へ入ると中は厨房の様になっていた中。

 バッドや調理器具等が散乱し、粉のようなものが広がるように床に散っていた。

 

 爺さんが誘拐されるまでの光景が何となく目に浮かぶ。発砲音なんて聞こえなかった為分かってはいたが、何かが破損するほどと言う程でもなく弾痕なんてものは何ひとつなかった。

 

「踏まない様にしてくれ」

「分かってるって」

 

 転がっている小物を踏まぬよう軽く足でどかそうとすると、振り向いた爺さんが睨みを利かせて来たので、床に転がる小物を拾い適当に机に置いた。

 それでも靴の裏に粉が付いて、床に足跡が縁どられるように模様が付いた。

 

「ちょっと待ってな」

 

 普通のドアとは違うスライド式の扉の前に立つと爺さんは胸元を漁り始めた。倉庫は厨房の隣に隣接しているらしい。

 取りだした鍵の束を爺さんは「これも違う、これも違う」と手に取って確認し始める。早くしてくれと声に出したくなったが、胸の内に抑え何とか我慢する事ができた。

 

「ああ、これじゃこれじゃ」

 

 鍵束から分けるように一本取りだすと、鍵穴に差し込み手をひねった。鍵を引き抜くと同時に扉を横を動かすと、厨房に少しひんやりとした冷気が流れ込む。

 

 最初は真っ暗だったが扉を開けると自動で中の照明が点いた。冷暗所の中に入るとロゴの入った段ボール箱が目に留まった、端から並べられ綺麗に整頓されている。

 

「わざわざ鍵を掛けているのか」

「帰る時だけじゃ」

 

 仕事を終わりにし帰ろうとした所に襲われたらしい。不運だなと少し笑うと爺さんも自傷気味に笑った。

 

 「それで欲しいのは星の雫か?」

 「……やっぱバレてるか」

 

 「制服も腕章もつけてないうえ、マスクまでつけておったら分かるわい」言われるとそりゃそうだと思った。

 気絶させてしまおうかと動くと、俺の言いざまに手を出してくるのが分かったのか、片手を持ちあげてふるふると手を振った。

 

「勘弁しておくれ、年寄りの体は脆いんじゃぞ」

「……なら黙って盗まれてくれるのか?」

「ワシ一人抵抗したところでな。もうすぐ正実の生徒が来るからな、それ頼みじゃ」

 

 面倒な爺さんだと思っていると先生が『しかし、よく襲われながら外部に連絡が取れたものだ』と独り言のように呟いた。

 

 同じことを思った俺もよく通報出来たものだと尋ねる。

 以前から何回も似たような事があったらしく。対策として押すだけで通報が入る装置をいくつか設置したらしい。

 

「この店に押し入る奴らはみんな、星の雫を求めておったからの」

「一年も待ってられないからな」

 

 悲し気に哀愁をまとわせつつ爺さんは手前の箱に近づいた。

 膝を折って腰を少し降ろすと封をしてあったテープを強引に破き、箱の中から包み紙に包まれた小箱を取りだす。

 

 照らされた夜空の様な深い紺色に、白い水玉の様な模様が描かれたその包み紙には商品名や店名も書いては無かった。

 

「これが星の雫か?思ってたより小さいな」

 

 外観の大きさは恐らく俺の両手で包めば殆ど隠れてしまう程に小さい。爺さんはそれを大事そうに表面を指で少しなぞった後、振り返り俺に差し出した。

 

「これひとつで勘弁してくれぬか」

「……」

 

 実の所一人で着てしまった為運ぶ手段がなく、かさばらない程度の数しか盗む気はなかった。

 目的は水晶や宝石の様なこの菓子の味を知る為であり、常に悩まさせる空腹感を満たすためじゃない。

 

 爺さんがひとつなら許してくれるというなら黙って受け取るだけであり、拒否する理由なんてないのだが、曲りなりにも犯罪者相手に向こうから差し出してくる構図が少し不思議に感じ言葉に迷ってしまった。

 

「やはり駄目か?」

「いや良い、それだけ貰って俺は逃げさせてもらう」

「……ワシが言うのもアレじゃが本当によいのか?」

 

 欲を言えばあるだけ持っていきたいに決まっている。だけど持ち帰る事が出来ないのだから少量だけで我慢する他ないのだ。

 少し前に食料を持ち運べないかと試した事がある。結果は食べられない程ではなかったが、無残にも劣化してしまっていた。

 

「星の雫がどんな味なのか気になっただけだからな、数はそんな要らない……かさばるしな」

「……変わった奴じゃな」

 

 あの二人には悪いがどんな味だったかだけ教えてやろう。

 差し出された星の涙に手を伸ばす、爺さんの様子は少し俺を奇異な目で見ているだけで、何か裏を掻こうとしている雰囲気は全くない。

 

 なのに、どういう訳か体の芯から冷えるような寒気がした。

 

 見える視界のすべてに目を回し、自分の身に何が迫っているのか何の危機か見つけようとする。

 

 「最近の若い奴らはみんなSnsめ――」

 『ユウリ!』

 

 先生の声が聞こえるのと同時に近くの壁に罅が入った。

 亀裂はそこから波紋状に広がり、その中心から砕けて何かが壁の一部と共に室内へ入ってきた。

 

 「――――アアアァァ!!」

 

 間一髪、咄嗟にその場から後方へ飛び退き、瓦礫とその人物の衝突を避ける。冷暗所に砂煙が舞い、壁に開いた穴から冷気が逃げてゆく。

 

 「嘘だろ……」

 

 中へ突撃してきた時に一瞬見えたシルエットが、冗談であって欲しいと口角を僅かに上げさせた。

 黒色の制服に赤を差した制服、獣の様な前傾姿勢に長い黒髪。晴れつつある煙から見えている刺々しい翼。

 

 あの時出くわした時からずっと纏わりつくような予感がしていた。まさか本当に一日に二度会う事とになるとは思わなかった。

 

 「くけッ!、けけけけけけけけ!!」

 

 外から壁ぶち抜いて突撃してきたのは、学園の反対側に居るはずの怪物だった。

 だらりとしていた腕がしなる様に動いたと思えば、彼女は離れて見ていた俺に銃を突きつけた。

 

 あの時には所持してはいなかった物だった。水平ではなく垂直に2つ並んだ銃口に木製のストック、記憶が正しければ散弾銃のはずだ。小銭稼ぎでチンピラ達から回収する時に見た事がある。

 

 ただそれを片手に一丁づつ持って扱っている奴を見た事はない。

 

「おいおい待てよ、いきなり物騒じゃねーか」

 

 緩く両手を上げ、抵抗する気はないとポーズを取った。ここは強盗の犯罪現場ではあるが、決して俺やったわけではない。

 

 場合によっては強奪も辞さない気では居たが、来たばかりのコイツには知った事ではないだろう。

 少し時間を稼いでさっきの星の涙を手にして逃げようと、状況を伺おうとして俺は爺さんが視界から消えたことに気がついた。

 

 しかし、少し探してみればすぐに見つかった。

 被害を貰わない様に俺は避けた場所には爺さんも居た。だから、爺さんが壁の残骸にまみれて床に転がっているのは俺のせいではないだろう。

 

 先ほど貰い損ねた星の雫もそこにある。しかし、通報を受けて飛んできた彼女からして見れば、やったのは俺に見えなくも――

 

 「それやったの俺じゃなくておま――」

 「ギギッ!、――話は牢屋で聞いてやるよ」

 

 彼女の銃は火を噴いた。やはり人の話を聞くことはないらしい。

 




凄い遅れました。
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