機械たちは明日に夢を見るか?   作:akuriru14

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5-3『Star drops』

 

 木を裂くような音が鳴る。共に背中から戸を突き破り外へと飛び出ると、店の正面道路に転がり出た。

 

 店の中で動き回るには余りにも狭く、彼女の銃弾を避けている内に自然と外へと向かったのだ。

 

 背中を地面に打ち付けながらも地面に立て直すと、俺の後を追うように店の中から黒い獣が飛び出てくる。

 

 「くぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」

 

 昼間の生悪女どもはコレを正面に相手していたのか。それは顔を青くしてとっとと逃げたわけだ。

 開き切った瞳孔と悪魔の様な歪んだ笑み、人とは思えない奇声を上げながら獣の様に立ち振る舞う姿は、ここの生徒たちから怪物と呼ばれるに相応しいだろう。

 

 風を裂くような音と共に彼女の翼が翻り、それと同時に銃に弾の込められた音が聞こえ、慌ててその場から横へと回避しようとする。

 

 こちらに銃を向けられるのと同時に銃声が表道に木霊した。俺の横を通った放射状の弾に戦慄しながらも、距離を取ろうと足を停めずに離れようとするが、彼女は俺が引いた分距離を詰めて来る。

 

 「クソッ、速いなッ」

 

 俺を外した弾丸は時にガラスや壁を削り、街の景観を崩していき被害が広がっていく。それでも、前のめりに詰め寄る彼女は攻める手を一向に緩めない。

 

 何とかして星の雫を手に入れて帰りたい所だが、相手は彼女1人だというのに俺が打てる手段はほとんどない。

 

 相手が普通の人間であればすぐにでも話は終わる。弾切れになるタイミングを狙い、飛び込んで距離を詰めて無力化する。

 ダブルバレルの銃2丁であるなら計4回の射撃を待つだけなのだが、彼女は荒々しい雰囲気とは裏腹に技巧派だった。

 

 獰猛で激しく攻め立て続ける彼女の影には、その状況を維持し続ける為の立ち回りと技術がある。

 

 「――ッ!」

 

 片方の弾を撃ちきった隙を見て、彼女が破壊した地面の破片を投げつけるが、当たり前のように最小限に体を逸らして回避される。

 

 本当なら蹴りでもかましたいのだが、俺が銃を持っていないと分かっているのか、彼女は常に弾を1つ残し近づけさせてはくれない。

 

 そして片手に一丁ずつ銃を握っているにも関わらず、驚くほどリロードが早い。一瞬の一呼吸で薬莢を捨て、袖の内から弾を取りだすのはまだいいだろう。

 だが彼女は時折、取り回しが悪くなると銃を投げ、腰から延びる自身の翼に握らせていた。

 

 そんな曲芸師の様な器用さが彼女にあるとは思わなかった。手のように繊細な動きが出来るとは思わないが、事実上腕が4本あるようなものだろう。

 

『今の彼女は先行して一人しか居ないだけだ。手こずれば時期に援軍が来るぞ』

「分かってる」

 

 店から離れるように移動しているがそれも時間の問題か、腰のポーチに手を伸ばし中に入っている手榴弾を掴み取る。

 ポーチから抜き取る同時に自然とピンが外れた。目も向けず手に取った為どっちを取ったか分からなかったが、丁度欲しかった方を手に取っていた。

 

 落とさない程度に握る手を緩めトリガーを外す、モエから押し付けられるように貰った物だがこの時ばかりは少し感謝した。

 

 息を整え頭の中で秒数を数えながら弾丸避けつつ、相手する彼女と自分の立ち位置を調整する。袖が余る服装をしているため、相手から見れば、俺の手の中に何があるか分からないはずだ。

 

 今だ、と破裂する直前で俺は彼女に向かって閃光弾を投げつける。閃光弾は彼女との目が合うその間に投げ出され、つんざく様な破裂音と眩むような光を放って弾けた。

 

「ガッ!?……」

 

 ()()()()()()()()見届けた俺は、彼女がその光を直視した事が見て分かった。

 

 今まで逃げていたが反転して一足で彼女との距離を詰める。

 浮いた体をひねり回した脚で蹴りを放つ、動きの停まった彼女の首を狙ったが、野生の勘か首よりも先に割り込まれる形で銃を差し込まれた。

 

 ただ、その程度で止まるような威力ではなく、彼女の体は鈍い肉の叩く音と共に蹴り飛ばされた。

 

「……かなり力を込めた筈だけど」

 

 銃を間に噛まされたが普段相手している不良達のよりも、気持ち2倍程の力で蹴りを入れた筈だった。

 なのに、地面を数回転がった先で彼女は銃を離さず立ち上がろうとしていた。

 

 盾に使われた銃は銃身が曲がっており、もう使う事は出来ないだろう。

 それでも、まだこれからと言わんばかりに笑みを深め歓喜とも言えそうな奇声を発している。

 

 まるで無傷の様に振舞ってはいるが、少しばかり足取りが重そうにも見える。だが、その程度なのだ。

 

『鉄鋼板に穴が開くほどの威力だったが、……あの様子だと電車に轢かれもしない限り駄目かもしれんな』

 

 今にも飛び掛かってきそうな彼女だが、こちらの様子を伺っているのか少し落ち着ている。

 俺の方はゆっくりとしている余裕はなく、ポーチからもう1つの手榴弾を取りだした。貰った手榴弾は2種類しかなく、これで最後だ。

 

 ピンを抜くと同時にその場に落とし、地面に転がした。そして噴き出る空気の音と共に足元から煙幕が上がり始めた。

 

「さすがに付き合いきれない」

 

 煙は僅か数秒で道を仕切れるほど広がり、既に視界を白く浸食し始めた。モエは広がるのが早いが、晴れるのも早いと説明していた気がする。

 

 警戒して正面を向き合いながら後方に下がる。視界から彼女の姿が消え、煙に包まれるのと同時に地面を駆る音が聞こえた。

 

 煙に包まれ自分の記憶を頼りに建物の屋根へワイヤーを放ち地上から脱出する。地面から跳んだ瞬間、そこを彼女が通ったが空振りで終わった。

 

 視界が開けて目の前に煙の山が目に入る。慎重に屋根に足をつけると背を向けて、しっかりと踏み込めるか足元を確かめた。

 

 彼女ならこの程度じゃ撒けない、()()()()()()()

 

 周囲に耳を傾け、失敗できないと強張る心臓を何とか押さえつける。

 乱れのない落ち着いた呼吸、近づいてくる激しい足音、地面を蹴る音、窓枠に触れた音。

 

 そして、俺の真横に。

 

 「らぁあッ!!」

 

 踏み込み、振り向いた先に拳を放った。確かめた筈の足元が砕ける。

 打つ場所なんて選ぶことは出来ず、避けられぬよう何よりも早くと拳を振るう。

 無我夢中で彼女がどんな表情してたかさえ見なかった。

 

 だけど、手に伝わるこの肉を押す感触だけが確かな手ごたえとして感じた。

 

 「ぐぎゃッ!?」

 

 人の悲鳴か怪しい物が聞こえ、そして遠ざかる。道を挟んだ反対側の建物へと激突したと思うと、3階の壁から一番下まで削る様に崩れて落下した。

 

 上空に飛び出してしまった俺はそのまま地上へと着地して、崩れた瓦礫の中に彼女が居る事を確認した。

 

 「……消えてるな」

 

 近づいてよく見てみれば、半身を瓦礫に埋もれさせながら白目を剥いて気絶していた。

 流石に手から離れてしまったのか、すぐ近くに折れた彼女の銃が落ちている。

 

 緊張の糸が解けて興奮が徐々に落ち着いていくのを感じ、自然とため息が溢れた。

 

 「はぁ、流石にこんなのが何人も居たりしないよな?」

 

 もし居たら諦めて逃げよう。化け物だらけの学園に居たくない。

 

 踵を返して駆け出そうとした瞬間。

 

 悪寒と恐怖で形作った怪物が、俺の肩を掴んだような気がした。

 

 思わず前に一歩踏み出し、首を回して後ろを振り向く、そこに()()()と笑う彼女が居た。

 

 気絶していたはずの彼女が何故と思う瞬間、背面に強い衝撃を受けた。銃声と共に体を吹き飛ばされ、半ば飛びかけていた意識が地面を転がる衝撃で覚醒する。しかし、出来る事なら覚醒しないでいて欲しかった。

 

 くまなく全身を細い槍で貫かれたかの様な、高層ビルの上から叩きつけられたかの様な。

 一瞬の出来事だったが、そんな傷みと衝撃が俺の背後から襲いかかった。

 

 「カッ……!!、アァ……ッ!!」

 

 かつてないほど痛みに悶えながら何とか右目を開けるが、そこは間近になった地面が涙でぼやけて映るだけだった。

 

 多少痛みには慣れていると思っていた。しかし、想像以上に銃に撃たれる事は痛かった。

 口から不規則な息が行きかい、肺が強張って呼吸がしにくい。

 

 『おい!しっかりしろ!!』

 

 誰よりも近くに居るはずの先生の声が遠くに聞こえる。先生が焦っている所は初めて見たかもしれない。

 

 「出血はどうだ?」なんて軽口を言いたい所だがそんな余裕もないうえに、背中が今どうなっているかなんて聞かなくとも自分で分かっていた。

 

 未だに痛みの余韻が残る体に鞭を打って体を何とか起こす。俺の事を撃った張本人を見れば、埋もれた体を引きずりだそうと藻掻いていた。

 

 さっきまでの迫力は消え失せ、口から血を多少流しており、脱出と模索しているが体が思うように動かせないでいる。

 

 その様子に、先の一撃は決して軽くなかったと確信を得たが、ならば目を覚まさないで欲しかったと胸の内で毒づいた。

 

 「おい、大丈夫か!ツルギ!」

 

 複数の足音が聞こえ時間切れかと思い、立ち上がろうとするがまだ時間がかかりそうだった。強烈な痛みを受けたせいか頭が少しぼんやりとして意識が緩い、指先や足先の感覚が鈍くて体を動かしにくい。

 

 誰かが彼女の所に駆け寄る、同じ制服をした生徒だ。俺の方に目線を当てながらも、近くで彼女の様子を見て心配しているようだった。

 

 「無線を置いて先走るんじゃない。……奴が主犯で間違いないな?」

 「…………は、はい。軽率に近づかない方がいいでです。見た目以上に腕力が強く、一撃で骨と内臓をやられました」

 

 その一言で俺を取り囲む生徒たちが小さな悲鳴と共に距離を空けた。

 どうやら彼女が怪我するというのが滅多にないのだろう。ボソボソと「あのツルギさんが」何て言われている始末だ。彼女は仲間からも恐れられているらしい。

 

 「お前ブラックマーケットの……、遂にトリニティにまで足を伸ばしてきたか」

 「……?」

 

 殴られた本人は知らなくとも、あの先輩は俺の事を知っているらしい。警戒しないでくれた方が楽なのだが、もう名を知られずに寝首を掻くのは難しいか。

 

 『ユウリ、退くなら今の内に逃げるべきだ』

 

 分かってる、奴は重症ですぐには復帰しないだろう。この場に居る他の奴なら追ってくることも恐らくない。

 逃げることは可能だ。でも、何故かそれを理解して逃げようとする気が起きない。

 

 ツルギの視線は未だに俺から外れてない、射抜くような鋭い目つきは今もなお戦意をむき出しにしている。そしてどこか笑っている表情は何故か()()()()()()ようにも見えた。

 

 まだ少し間延びする意識に何かが渦巻く。不快感、なぜ上手く事が進まないのだろうという憤り。

 

 納得できないという、稚拙な思いが俺に短絡的な手段を選ばせた。

 痛くて、不快で、腹立たしくて、こんな目にあったのだから晴らさなければ気持ちが悪いのだ。

 

 使えなくなった彼女の銃が目に入る。必要だ、やり返すための武器が、出来る事なら握りたくない。

 でも必要だ、このキヴォトスで生きていくには、ここに住む彼女たちと同じ武器を手に取る必要がある。

 

 「先生」

 

 誰にも聞こえないような小さな声で呼びかける。余り好意的ではないのだろう、幾分の間を得て先生も静かに言葉を落とした。

 

 『……分かった。ならば、意識を――』

 

 折れた散弾銃に手をかざす、俺の動きは彼女たちには奇怪に映るだろう。

 そういえばあの日拾った銃も散弾銃だったな。少し前の記憶に浸る瞬間、俺の意識はブラックアウトした。

 

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 

 歩いている、ただ乾いた大地をひたすらに。

 

 どこまで行こうと変わらない地平線、塗りつぶした様に白く染まった空。

 冷えているわけじゃないのに冷たいと感じる肌の痛み。

 

 裸足で歩く足は痛みも感じず、もうずっと寝ても食べてもいない。だけど、体の周りから削り取るような痛みと冷たさだけが苦しい。

 

 なぜ生きているのだろうか。

 

 「――――――――?」

 

 ずっと静かな世界の筈、誰かが後ろから話しかける。振り返ると人がいた。……人なのだろうか、コイツはなんだ?

 

 「――――――――?」

 

 何か喋っているが知らない言葉だった。辛うじて同じ事を言っている事は分かるのだが、それ以外は何もわからない。

 そのまま茫然と見つめると、また同じ言葉を話し出す。一度言い終わると静かになり、しばらくするとまた話し出す。

 

 それを何度か繰り返した後俺は顔をそらし、そいつを無視してまた歩いていた方向へと足を動かした。

 

 「……寒い」

 

 体が冷えるような光景ではないが、何故か体が寒くて仕方なかった。

 

 歩き出しても後ろから聞こえる声は止まなかった。

 

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 

 「――……ぁあ?」

 

 視界が真っ暗な事に気づき慌てて目を開く、そこには近くなった地面があった。

 

 跳ね起きるように体を起こすと、正面には戸惑っている様子の生徒とツルギが居る。

 恐らく気絶していたのだろう。意識が無かったのは数秒程だろうか。

 

 『大丈夫か?』

 

 地面へ打ちつけたのだろう額に手を当てながら、小声で大丈夫だと返事した。マスクの表面を摩ってみるが、傷もなければ傷みもなかった。

 

 それより気絶した瞬間見たあの光景が、俺の中で大きな衝撃を呼んでいた。夢にしてはリアリティがあり、思い出すには少し頭を悩ませる。

 

 体を少し捩ると右手で何かを硬く握りしめている事に気づいた。

 二度目のが驚くような不思議な現象である事には変わりなく。驚きで手がを一瞬跳ねたが、それと同時に求めた物がある事で安心もあった。

 

 「い、いったい何が?」

 「目がぁ!目があああああ!!」

 

 意識を失う前と比べ周りずいぶんと騒がしい。

 

 そういえば彼女達は何が起こっているのか見ていたのだろうか。俺の常識ではありえない事なのだが、キヴォトスではよくある事だったりするのだろうか。

 

 『いや、()()()しか恐らく出来ない』

 

 しっかり超常現象だったらしい。だが、この場で見えた者はいないと先生は言った。

 この”変換”をする際、俺は意識が消えてしまう故に見る事は出来ないのだが、俺中心に周囲へ多少なり放電と閃光を放ってしまうらしい。

 気絶している間はずっと起こるらしく、今だと4秒ほど放ち続けたせいで彼女達は驚いているらしい。

 

 問題ないかと一瞬考えたが人が突然光ったり、電気を出したらそれはそれで可笑しいなと思った。

 

 「これが」

 『ああ、君の銃だ』

 

 木製のストックに銃の口径は変わらない、変化した点を挙げるなら銃身がかなり短くなった事と1つになった事だ。

 元々は彼女の銃だ、恐らく大部分の使い方は一緒だろう。リロード仕方も何回か見てたので分かる。

 

 『彼女と同じようにやってもいいが、君が使うならリロードなんてする必要がない』

 「どう言う事だ?」

 

 深く尋ねようとしたが視界に此方を向く銃が見え、横に飛んで回避する。聞いて覚えるより実践しながらの方が分かりやすいだろう。

 

 そのまま近くにいた生徒の腹を蹴り飛ばして、道沿いに並ぶ外灯へ向かって飛ぶ。ポールを手で掴むと、勢い残った体は外灯を中心にぐるりと回る。

 

 足元に居た生徒へと強襲して地面へと押し倒し、その顔に銃口を合わせた。初めの一発は彼女に撃つこととなった。

 

 引き金を強く引くと同時に銃口が跳ね上がる。思ってた以上の反動が手に伝わり、危うく手からすっぽぬける所だった。

 

 「死んで、……ないか」

 

 至近距離で撃たれて多少の傷だけで済むのは世界でも彼女達だけだろう。まあ、俺は世界を知らないが。

 

 その場に伏せ、その頭上に弾が通り過ぎた。動かなくなった生徒の足を掴み発砲元へ放り投げる。

 

 ブーメランのように回転して近づいてくる仲間を撃てないのか、それとも恐怖で腰が引けたか慌てて逃げ出す。寂しい事に受け止めて貰える仲間は居ないようだ。

 

 ワイヤーを地面に突き刺して加速し、後を追って割れた隊列の中へと飛び込んだ。

 崩れた陣形の中で手当たり次第に暴力を振るう。

 

 『ユウリ引き金を引いてみろ、撃てるはずだ』

 

 そんな訳ないだろ、薬莢を捨てるどころか弾を込めてすらいない。そう思いつつ、少し離れた手の遠い奴に狙いをつけて引いた。

 

 「ッぶぁ!?」

 

 先ほどとは違い手がブレる事もなく、狙いの生徒は銃弾に晒され吹き飛ばされた。さっき撃たれた俺もあんな感じだったのだろう。

 

 「……何故?」

 

 謎に思った俺は横目に手元を見ると、銃のレバー周りから腕の内へと何かが流動してるのが分かった。

 

 なるほどそういうことか。撃ちきった弾を体内に回収し、過去に拾い集めた銃弾を入れている。

 確かに俺しか出来ないだろうけど、周りから見れば無限に弾が出る銃に見える。

 

 やるなら少し手を加えないとあまりにも不自然だ。それに、

 

 「これいつか不発弾に当たるだろ」

 『……劣化してはいるが滅多にないはずだ』

 

 まだ残っている生徒に向けて続けざまに銃を打つ、指先1つで人の吹き飛ぶ様子を見ていると、殴る蹴るとは違ってかなり楽だと実感する。

 

 だけどそれと同時に、体の内側から冷たい物を押しつけるような。そんな焦燥感にも似た物が、引き金に触れるたび滲み出す。

 

 銃の苦手意識が悪化しそうだと思う反面、いづれ慣れてしまうのだろうと思った。

 

 「お前達落ち着け!1回引いて陣形を――、危なっ!?」

 

 突破された穴から混乱を起き、味方への誤射を恐れるのもあり彼女達は形勢を立て直すことができないでいた。

 

 リーダー格らしき生徒を狙うが、崩壊している建物の中へと逃げられる。

 その真横には既に起き上がったツルギが居たが、横を通り過ぎた弾幕に対してなんの恐怖も感じていない。

 

 「ツルギ!応援を呼ぶから絶対に――」

 「先輩、そこ危ないです」

 「えっ――――」

 

 投げた白塗りの車が壁に激突と共に爆発した。崩れていた壁が更に広がり、立ち上る炎が美しかった壁と車の純白を黒く煤汚れにする。

 

 二人纏めて狙ったのだがツルギには簡単に避けられる。もう一人は静かになった所を考えるに当ったのだろう。

 

 いつも最初は穏便にしようと思っているのだが、最終的には悲惨な光景が生み出されるのは何故なのだろうか。

 

 「あとはお前だけだな」

 「……くはっ!ハーーハッハッハッハッ!!!」

 

 暖かな街灯が灯る夕刻にツルギの高笑いと燃え盛る音が響く。

 味方が皆やられたというのに笑う彼女は何を思っているのか。

 

 邪魔になると思いフードを下ろし髪を外に出す、火の粉を舞わせる陽気な風が後首を撫でた。

 

 彼女の背に炎の先端が轟と靡くの同時に前へ飛び出す。

 

 「ハァッハ!!」

 

 撃ち出したツルギの銃弾を跳んで回避する。背後を取るように正面の壁へと足をつけるが、彼女もその場から駆け出して二発目を俺に向けて撃つ。

 

 壁から地面へ、地上を駆けてはまた跳躍する。彼女を中心に円を描くよう立体的に回りながら移動し続ける。

 彼女も散弾銃を使っている以上、弾を避けるには大きく回避するしかない。

 

 彼女の銃をひとつ潰したおかけで、何度か隙らしい隙を探し、負けじと俺も撃ち返せば何発かは被弾した。

 しかし、負傷して動きにキレが無いにも関わらず、当たったとしても体の端ばかりで真に捉えることが出来ない。

 

 「痒いッ!!、痒ぃぃぃいいいいッ!!」

 「ッ!?、……くそッ!」

 

 彼女の銃弾が左肩から先に被弾する。興奮してるおかげか、痛みはさっきのよりマシだが自然と顔を顰めた。

 

 互いが動くたびに周囲の風景が凄惨な物に変わっていく、駆けるたびに捲れる地面に、通り過ぎる銃弾が壁を砕く。

 

 銃撃戦での経験の差だろうか。少なからず動きを読まれつつある。いくつもの銃弾が交差するたびに圧されつつあるのは俺の方だった。

 

 戦闘を好んで明け暮れた彼女と、被弾に怯え早期決着を好んだ俺じゃ分が悪い。長引けばいづれ競り負けてしまう。

 

 虚を突くような手はないか。

 

 騙し打ちはもう効かない、閃光と煙幕も使ってしまった。使える手立てはもう()()()()()()()()()()()()()

 

 「決めるしかないか……」

 

 軌道を変え地上を低くツルギに向かって飛ぶが、彼女も直線に向かってくる俺へ狙いを定めて銃を構える。それも両手にもった2()()()()をだ。

 

 『広範囲の掃射!』

 「ッ!?」

 

 ――いつの間にか銃を拾ってやがる!

 

 「ワタシの勝ちだぁあああ!」

 

 驚きで見開いた目の先で、銃口が火を吹いたのが見えた。前へと飛び出た俺は回避する事は出来ない。

 

 濃密な弾幕が視界を覆うように広がる。その細部まで見えてしまう自分の目が、すこし憎たらしいと感じた。

 

 

 

 だが、もとより回避する気は無かった。

 

 「――ぁ?」

 

 両手を前へ突き出し、()()()()()()()()を正面へと翳して盾にする。形が悪いものを3枚と重ね、手から離れてしまわないよう強く握りしめた。

 

 力を込めた指先が鉄板に沈むと同時、鉄板から強い衝撃が肩まで駆け抜ける。

 鐘を打ったかのような音と共に鉄板が自分側に強くへこみ銃弾の跡を残した。

 

 3枚で足りたことに安心しながらも、失った推力を取り戻すために再び地面を蹴った。

 自分の丈と変わらぬ鉄板を持ちながら前進し、そしてそれを押しつけるように彼女へと突進する。

 

 いわゆる、シールドチャージだ。

 

 「ガァッ!?」

 

 重ねられた鉄板が鈍い音を立てる。彼女からしてみれば、いきなり湧いて現れた鉄の板だ。

 それに気を取られ回避出来なかったのか、決して定かではないが、画して鉄板の向こう側で獣がうめき声を挙げた。

 

 衝突した状態で足を止めず前へと加速を続け、そのまま建物の壁へと向かって疾走する。

 

 やがて彼女は挟まれる形で激突し、壁を破壊して室内に入るのと同時に地面に押し倒した。

 

「――――!――!」

「こいつッ!」

 

 鉄板を押さえつけるとくぐもった呻き声が聞こえ、まだ意識があるのかと慌てて銃を自分の手元へ戻し脚で鉄板を抑える。

 暴れるように鉄板の下から顔を出した彼女へ銃を突きつける。

 

 「俺の勝ちだ」

 

 引き金を絞る。

 

 一度ではなく、何度も銃を撃ち続けた。狭い室内に銃声が鳴りつづけ繰り返す事8回。

 

 銃声が止んだ頃にはもう、部屋の中には少女が一人倒れているだけだった。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 キヴォトスで初めて感じる疲労感に身をくたくたにさせた俺は、部屋の扉を乱暴に蹴り開けた。

 

 「わあっ!?……ってリーダー今まで何処に居たんですか!」

 「おかえりー、行くならもう準備出来てるけど」

 

 「用は済んだ」と簡素に言いながら机に向かって俺は持っていた物を放り投げた。

 手から離れた青い包み紙の物体が机の中央に着地すると、そのまま端に向かって滑って行ったが落ちることはなく寸での所で止まる。

 

 それに近寄って確認する彼女達の様子に目もくれず、早々と自分のハンモックに向かった。

 飛び乗るように雑に乗っかったせいか、支えている支柱が小さく泣いて軋んだ。

 

 「これ星の雫じゃないですか!」

 

 コユキが驚きと喜びを併せたような声が挙げた。すぐさま彼女は包み紙を外して蓋を開けると、モエも興味ありげに中を覗いていた。

 

 「……リーダー、これどうしたの?」

 「盗ってきた」

 「まぁ、だよね」

 

 分かっていた様な顔をしてモエはソファに腰を下ろした。そしてコユキと同じく星の雫に手を伸ばすが、その手が止まり少し顔色を変えると手の行先をパソコンへと変える。

 

 キーボードを叩き出してしばらくすると、「うわっ」っと半目でこちらを向く。その目には多少なりとも呆れが含まれていた。

 

 「何?、正実相手に大立ち回りしたの?」

 「ああ、散々だったよ」

 

 不満そうなコユキの声を皮切りに、モエがネットニュースを読み上げるとコユキがやいのやいのと騒いだ。

 

 「え~~!、私たち抜きでそんな面白そうな事してたんですか!?」

 

 そんな羨ましい事じゃないと思うのだが、ちゃんと彼女達の分も盗ってきたというのに。

 狡い狡いと騒ぐコユキを他所に懐から星の涙を取り出す。

 

 結局、店に戻った俺は1つだけじゃ割に合わないと感じ、あのオヤジに一言告げて何個か貰うことにしたのだ。

 

 「あれ?何個取って来たんですか?」

 

 俺は黙って指を2本立ててコユキに見せた。

 

 「えーー、こういうの一人一個とかじゃないんですか?」

 「……さあ?俺は初めて聞いたが?」

 

 蓋をその場に捨てると中のお菓子が見えた。

 

 夜を溶かして閉じ込めたような透き通った漆黒が丸みを帯びた形で並んでいる。手に取って天井の明かりで透かすと、その中に夜空の星々が浮かび上がった。

 

 これがお菓子だなんて信じられず、一体どうやって作られたかなんて想像がつかなかった。

 

 いざ口に入れようとすると、俺の側でコユキが俺に言い聞かせるように言った。

 

 「今度は一人で行かないでくださいね」

 「……ああ、そうだな」

 

 そしたら次はお前にあいつの対処を任せよう。コユキに任せてどうにかできる様な奴じゃないが、俺はもう相手をしたくない。

 

 「あれ?いつも着けてたガントレットはどうしたんですか?」

 

 よく見ているもんだと思いながら自分の手を見る。常時着けていたワイヤーを打ち出すあの籠手の姿はなく、その下で着けていた白い手袋が見えた。

 

 「……別の場所に置いてあるだけだ」

 「そうなんですね」

 

 それで満足したのかコユキはモエの所に戻ると、ネットに投稿すると言い出したがモエに止められていた。俺には分からないがSNSで自慢したいらしい。

 

 そんな2人の掛け合いを見ながら俺は菓子を口に投げ入れた。

 

 

 

 2時間程経つと俺の部屋は静かになった。モエは自室に戻りパソコンの前、コユキは自室に戻ってから何処かへ出かけた。

 

 俺は窓枠に腰掛けながらまだ菓子を食べていた。

 

 『……彼女の言うように一人一個で良かったのではないか?』

 

 3個目の星の涙を開けると、先生の諭すような声が聞こえた。

 確かに一人一個にすることも出来たが、少しでも多く欲しいと思った俺は3個目があることを隠していた。

 

 「一個じゃたりないから」

 『態々黙って隠さなくても』

 「……先生だって黙っていたじゃないか」

 

 ひとつ間が空いて何の事かと先生が首を傾げている事が分かった。

 

 空いている右手を空に向かって伸ばし、目を軽く閉じる。

 一呼吸入れてから手を握ると少し冷たい木の感触が手の内にあった。そこに握られていたのは俺の銃だ。

 

 反すように軽く上に投げ何度か手で遊んだ後、放った銃を掴むのを止めた。

 手の側をすり抜けた銃は地面へと向かって落ちていくが、地面へ衝突する寸前ふわりと粒子となって溶けた。

 

 「これも」

 

 腕に意識を向けると粒子状の何かが肘から指先までを覆い、端の方から音もせずに硬化していくと見慣れたあのガントレットの姿に変化した。

 

 裏表はいつも通り変わらず劣化している様子もない、少し重くなった腕を軽く振るえば手品の様に消え、手袋の着けた俺の手しかなかった。

 

 何故この2つだけ出し入れしても劣化しないのだろうか。

 

 『それは君の装備だからだ』

 「俺の装備?」

 『ああ、それに君の装備でも劣化しなくなったのは、トリニティで武器を作ったあの時からだ』

 

 先生の説明に少し納得するのと同時に、あの時に少し記憶が戻った事を思い出す。

 喜ぶと思いそれを先生に話すが、少し思っていた返事とは異なる声色をしていた。

 

 『……そうか、まだ何を話しているのか分からなかったのか』

 「えっ?……ああ、俺の知らない言葉みたいで、あれが先生なのか?」

 

 少し戸惑いながらも先生に尋ねる。今の先生とは考えられないほど姿、雰囲気も何もかも違った。

 

 『それは君と初めて会った時の記憶だろう』

 

 あれが、先生との出会い?

 

 朧げな空間でしっかりと細部まで見えた訳じゃなかった。でも、アレを見たとき俺は何故か()()()()()()顔をそらしたのだ。

 

 真新しく開けた箱から星の涙を取り出して口に入れる。

 

 星の雫は砂糖菓子だった。甘く、舌触りの良い菓子だった。

 

 

 

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