機械たちは明日に夢を見るか?   作:akuriru14

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6-2『where there's Karasu there's Toki』

”ぽーん”と扉の奥からくぐもった音が聞こえる。待たされの身だった俺は音の出所を見つめていた。

 

 エレベーターの扉はゆっくりと開き、人の姿が徐々に見えてくる。

 ゆるゆると手を振るウサギのお面を着けた少女だった。

 

「乗ってください、私たちは執務室に向かいますよ」

「……?、ああ」

 

 エレベーターに足を踏み入れると後ろで扉が勝手に閉まった。内は思っていたよりも広く、俺たち程小柄であれば10人程は乗る事は出来るだろう。

 

 乗る前から気付いていたがモエの姿が見えず、「シュトリヒは何処に?」と尋ねると彼女は一人で隔離された別棟に向かったと知った。

 

 「あいつ一人で大丈夫か?」

 「私もそう思ったんですけどね。いざとなったらハックしたドローンとタレットで対処するって言ってましたよ」

 「それで俺たちは?」

 

 今回は目的が複数あるため二手に分かれて行動する事になったらしい。俺たち2人は執務室から会社の情報と、ここで作ろうとしている兵器の情報の奪取。

 モエは先に開発施設へ向かい侵入経路の確保と、実際の兵器を確認するそうだ。

 

 コユキがエレベーターのボタンを押しながら答える。部屋が静かに揺れ、上へと昇っていく圧力が僅かながら感じた。

 

 「あとこれ、もうインカム忘れないで下さいよ」

 

 渡されたのは耳に掛けるタイプの通信機だ。

 

 ある日、モエがいつの間にか用意していた物だ。俺が文句を言うのを見越してなのか、特殊部隊などで使われる高性能の物だと言っていた。

 実際あると確かに便利なのだが、それでも耳元に感じる異物感がうっとしい。

 

 「マスクもしてるから邪魔なんだよなぁ」

 「私だってお面つけてますよ。一応、あっちも何かあった時、連絡が来る筈なので外さないで下さいね」

 

 あいつ本人に戦闘能力が無いので、本当に何かあった場合終わりじゃないか?

 

 俺一人じゃ情報やらデータやらは集められないので、まだ機械に強いコユキを付けたんだろうけど。

 

 「まあ良いか」

 「何がです?」

 「何でも無い、ほら行くぞ」

 

 開いた扉から通路が見えるのと同時に駆け出す。執務室まで向かう道中、ドローンたちとすれ違ったが微動だに動かず、警報が鳴る事もなかった。

 大体いつも何かしらのアクシデントが起こるモノなのだが、もし起こるならアチラ側だろうかとそんな予感がした。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 液晶の上を絶え間なく行き交う文字列と、先ほど一人静かに入ってきた出入口。

 それを私は交互に目をやりながら、手元の指を一心不乱に動かしていた。

 

 気まずいのもあり、少し強気で大丈夫だとリーダーの方にあの兎を送ったが、彼女たちはしっかり合流できたようだ。

 

 扉の解錠を進めながら、此処から分かる情報だけでも探そうと、施設の情報をあちこちから引っ張り出す。

 

 車の入構記録から人員移動の指示、ここ最近で挙げられた報告書など。目につくもの全てを斜め読みして分かったのは、製造過程で()()()()生まれた武器を何処かへと売買している事だ。

 

 「……全てエンペラー側からの商談。時期、個数もバラバラ」

 

 モニターから顔を上げて、自分の横でそびえ立つ入口を見つめた。

 

 施設の図を見てもこの建物が開発施設の筈、しかし搬入や搬出の為の出入り口にしては余りも大きすぎる。

 

 リーダーに解除してもらった警備システムとはまた別のシステムで動いている。

 そして中へ入る方法2つしかなく、近くの別棟から伸びる連絡通路か、このバカでかい搬入口しかないのだ。

 

 銃器などの小さな物を通すだけなら過剰であり、常に運送車両が行き交うほど作っても売ってもない。だとするなら、この大きさでなければ完成品が通れないという事。

 

 それすなわち、此処で作られているのは――

 

 「大型破壊兵器……」

 

 エンペラー社は新技術に重きを置いている会社だ。大型兵器を開発できる技術力と資金はあるだろう。

 しかし、大型兵器の開発なんてあの()()()()()()()()()()()()()

 

 古くから大型兵器の生産や開発は厳しく、どこの企業も進んで作ろうとしない。それは犯罪への抑制と治安維持の観念から、全ての学園や地区に課せられた厳しい規則があるからだ。

 

 日々起こる銃撃戦に大型兵器が簡単に投入されるようになれば、一般人や生徒はともかくキヴォトスという都市そのものが崩壊する。

 

 過去、大型兵器として連邦生徒会から認可されたのはあの”ゴリアテ”だけ。だが、あれも私が生まれるかなり昔、その時代だから許された兵器。

 

 今もなおゴリアテを見かける事が出来るのは、今のキヴォトスの技術力から見れば性能の低く、中型兵器に近いほど比較的小柄なため。たとえテロなど使われたとしても制圧しやすく、無力化することが容易だからだ。

 

 止まりかけた指を無理矢理動かす、シャツが背中浮いた汗で張り付いた。私達はかなりヤバい依頼を受けてしまったのかもしれない。

 

 ……いや、まだそうだと決まった訳じゃない。

 

 だが、もし……、この先にもしそんな大型兵器があるとすれば、とそう考えると思わず()()()()()()抑えきれなかった。

 

「くひっ、……くひひひひ」

 

 早々と動く指が罪のない決定キーを強く叩く、重々しい扉が唸り声を挙げながら一人分の隙間を作った。

 

 衝動的な興奮で背筋の震えを抑えきれない。私の頭の中では依頼そっちのけで、どうにか兵器を持ち帰れないか考え始めていた。

 

 ノートパソコンをたたみ移動する。居ないと判ってはいるが、ゆっくりと静かに中を覗いてから中へと侵入した。

 

 人感センサーがあるのか、ひとりでに明かりが室内を照らされた。

 

 中は円柱状に空いた広い空間だった。何のためか分からないパーツや開け放たれたコンテナケースが放置され、整頓されている様には見えず研究所とは思えないほど雑然とした風景。

 

 壁や床からむき出しの太いパイプや配線が中心に向かって伸びている。

 その先で囲むように掛けられた作業用の細い足場と、部品を運ぶための大型クレーンとアームが設置されていた。

 

 「ハハッ、……嘘でしょ」

 

 その兵器は空間の中央に静かに鎮座していた。ここはこの兵器()()のための場所なのだ。

 

 もし振るわれればビル1つは崩せそうな太い腕、それに見合った厚い装甲を纏う胴体。人の形を模したロボットだ、誰が見たって理解できるだろう。

 

 ゴリアテの3倍以上はでかい、だがどうしようもない程に未完成だ。

 

 「これじゃ、()()()()()

 

 腰より下に当たるであろう部分がない、その事実に私は地面に膝をつきけかけた。

 

 兵器自体に移動手段がないのであれば、牽引するなりで運ぶしかないのだがこの巨体では無理だろう。

 

 当初の依頼をこなすとすれば破壊するしかない。

 もちろん、可能性を考えて爆薬は持ってきてはいが、破壊するには明らかに量が足りない。

 

 一か所に集中すれば破壊とまではいかずとも、一部機能に損壊を与える事は出来る。しかし、それでは依頼を達成した内に入らないだろう。

 周囲を見渡しながらロボットへと近づく、重機を動かすための操作盤を探すためだ。そこからこの区画のシステムに入れば、何かしら妙案が浮かぶと考えたかた。

 

 「あれかな?」

 

 ロボットのすぐ傍にポツンと、半透明なモニターと入力盤らしきパネルがあった。駆け寄って足元を見れば、床が他の場所とは材質が違った。

 

 入力盤に触れれば、駆動音と共にこの区画にある全ての機械が動き出した。

 ただのシステムチェックだと思うが、稼働し始めた機械たちの音で少し冷や汗をかいた。

 

 目のまえにあったモニターが光る。

 向こう側が微かに見える様なただの板だったが、電源が入ると画面として不足ない明るさを放っていた。

 

 ホログラムディスプレイ?妙に拘った物を使っている。たかだか作業するためのモニター1枚に大がかりだ。

 

 パスコードを求められたが、搬入口から区画全体が割れている為、セキュリティとして何の意味もなかった。

 

 「”Venom(ベノム)-machia(マキア)”……っと」

 

 ロックが解除され機械の操作や、兵器の状態からエネルギー供給など、用途様々な情報が並ぶ。

 

 完成度は3割って所だろうか、機体その物も未完成だが動かす為の動力も宛が決まってないらしい。

 

 見覚えのある文字を見つけ僅かに口角が上がった。

 

 破壊する方法を探るも一向に見つからない。せめてデータの複製をしようと自分のノートパソコンを手に取った時、頭より上から物音が聞こえた。

 

 「ヤバッ、不味い」

 

 荷物を両手にその場から慌てて離れる。電源を落としてから逃げるなんて余裕はなかった。

 

 開いていた近くのコンテナの中へ滑り込み、上がった息を静かに抑えながら整える。

 

 最近はリーダー達に付いて移動することも増え、置いて行かれながらも走っているため体力が増えたと思っていたが、ほんの数十メートルを全力で走るだけでかなり限界だった。

 

 足音がコンテナの外で響く、外から見えないよう静かに覗き見ると、移動式の足場の上に人影があった。

 

 「ぁ!」

 

 一度見たことある姿故に声が出かけた。カメラの映像に映っていたあのドクターだった。

 

 「……はて、消し忘れたのだろうか?」

 

 そりゃ不自然だろうなと独り心の中で毒づく。気づかれてもすぐに私の場所が分かる様な状況ではないが、静かにホルスターに掛かっている拳銃へ手を伸ばした。

 

 普段滅多に撃たないため命中させる自信は微塵もないが、握っとくだけで心の安心感が少し違うのだ。

 

 「ここ数日睡眠を取ってないのが祟ったか?……今日は早めに切り上げるか」

 

 幸いにも気づかれなかったようで安心する。しかし、あの様子だとしばらくはここで息を潜めるしかないだろう。

 

 パソコンを開き彼女たちの様子を伺うと丁度今、執務室のカメラに2人の姿が映っていた。この手際ならあっちは先に終わるはず、それなら少し情けないが支援を求めるべきだろか。

 

 少し悩んでからメッセージを送る手を止めた。外のあいつは恐らくあのロボットに気を割いている。

 

 周囲には死角になりそうな物やが散乱しているし、隙を伺いながら隠れて移動すれば脱出できるのではないだろうか。

 

 「くひひっ、……よし」

 

 考えが決まった。支援を求めるより一人でこの窮地を脱したほうが後も良いし、何よりどこぞのゲームみたいで、スリルがあって面白そうだ。

 

 荷物を背負い彼の方を見れば、足場の上にも操作盤があるようで、このコンテナも視界に入っていないだろう。

 

 今が好機だと。音がならぬよう忍び足でロボットのパーツの影に向う。一つ一つ移動しては姿を隠し、気づかれぬよう何度も彼の目線を警戒しながら出口を目指した。

 

 足音を鳴らせないため、全力疾走とまでは行かない速度で進む。息を止めているせいか、それとも緊張のせいか次第に呼吸が荒くなってきた。

 

 いやこれ、興奮しているだけだ。だって、何だか楽しくなってきた。

 

 「はぁ、すぅぅぅ……はぁ」

 

 自分より何倍も大きい部品の影から様子を伺う、奴も移動しながら作業しているせいで度々死角が変わるのだ。

 

 安全を確認し、そして息を整えていざ出ようとした瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「えっ?」

 

 僅かに顔を出して振り向けば、作業用の大きなアームがコンテナを掴んでいる。

 

 「……空だな、この前注文した物はどこに置いたか」

 

 その言葉と共にどこか遠い所にコンテナが捨て置かれる。派手に投げ捨てた訳ではないが、繊細な動きが出来ないのかコンテナが地面を引きずる音が聞こえた。

 

 向かおうとした物陰がなくなり。少し戻って遠回りするしかないと、引返そうとすれば再び物を動かす音が響く。

 

 「……不味い」

 

 奴は探し物が見つからないのか、手当たり次第に物を取っては適当な所へと移動させる。せめて()へ隠れようと一番近くのコンテナに逃げ込もうとするが、頭の上にモーターの様な駆動音が聞こえた。

 

 「噓でしょ」なんて言葉を言う暇も無く咄嗟に部品を掴んだ。すぐに地面が遠くなり、落ちたら流石に無傷でいられない高さになった。

 足元の光景が流れ、地道に進んできた道のりを一気に戻される。私の孤独なスニーキングミッションは白紙になった。

 

 「あー……」

 

 部品を挟んで反対側で声が聞こえる。幸いにも角度的に私の姿は見えていない。落下しまいと指と腕に力を入れ続けているが、着々と限界が近づいてきていた。

 

 頼むから早く降ろしてくれとそう思っていたが、それは叶わぬ願いだった。

 

 「ああ、これだ」

 

 突然部品が回される。振り落とされないよう堪えたが、その際に顔を軽く打ち付けた。

 

 「ぐへっ!?」

 「ん?」

 

 何故か声が背中側から聞こえ、痛みで顔を顰めながら振り返ると目が合ってしまった。

 

 「……」

 「……ぁの、降ろしてもらっても?」

 

 本当にあと数秒で手が離れてしまいそうなほど限界であった。彼は手元の操作盤に触れるとアームが動き、勢いをつけてからアームを止めた。

 

 その急制動に振られて限界に近かった手が離れた。その動きに付いていけなかった私は、彼の足元に背中と頭を叩きつけられた。

 

 「これはこれは……、こんなに早いとは思いませんでしたよ」

 

 私にゆっくりと近づき、地面に転がったままの私を見下ろした。本当に予期してなかったのか、少し上ずった声だったが彼はどこか嬉しそうな様子だった。

 

 「見た覚えのない奴だ。……裏方で支援していたのはお前か」

 

 彼の手元には1枚のタブレット端末しかない。流石に油断しすぎている。

 仰向けに伏したまま拳銃を抜き、狙いをつける事なく引き金を引こうとしたが、銃声と共に横から腕を弾かれる。

 

 「つ!?」

 

 意識外からの痛みと衝撃で拳銃が手から放してしまい、弾かれた勢いのまま足場の外へと向かっていった。

 

 足場の網目という小さな隙間から落ちていくのが見えた。痛みを抑えながら横を向けば、ロボットの肩から機銃が飛び出しており、その銃口が私を捉えていた。

 

 一応、静かに手の平を上げて降伏の姿勢はとる。

 

 「……さて、気づかれる事なく此処まで来られた事は讃えようか」

 

 映像で見た通りの上からの物言い、もしリーダーなら一言返していただろう。だが生憎、私にはこの状況で減らず口を漏らすほどキモは大きくなかった。

 

 「そのまま静かに拘束されてくれれば、手荒な事はしない」

 「……本当かなぁ?」

 

 あの執務室のやり取りを観ていなければ、このまま捕まって救援を待つのも手だった。この男は、私達を生きて返す気なんて無いのを知っている。

 

 表沙汰に出来ないような悪行を、1つもしていないと言える会社や企業、そんな物はキヴォトスでは稀有だ。

 

 もしあるなら中小企業でも小さい所だろうか。規模が大きさに比例するように大きく成れば成る程。その影に見合った数の悪行が積まれている。

 

 しかし、それ加味しても生徒を殺してまで隠蔽を謀るのは過激だ。

 

 「信用に有無など関係ないだろう。今の君は選ぶ事の出来る状況ではないのではないか?」

 「かもね。けど私をひっ捕らえた所でどうすんのさ?リーダーは人質とか絶対気にしないよ」

 「……そうか、なら……他の価値を引き出すだけだ」

 

 鈍く光る藍色の電光が彼の唯一の表情を静かに灯す。見ていて全く変化を感じられない顔と、声色を聞いて感じる彼の情緒が全く一致しない。

 相反する違和感の様な物が、彼の気味悪さに拍車をかけていた。

 

 アンドロイド達の中には、自身の機体を改造する人がいる。オートマタなどの兵器の改修とは違い、金に余裕を持った大人しか出来ない。

 かなりのコストがかかるし、コア(心臓)と相性が悪いと悪影響を呼びかねないからだ。

 

 それでも、改造する奴はするのだ。仕事の為か機体を大きくして、生活の為か動かなくなった足を新しい物へと入れ換える。

 

 眼の前のこいつは、何を理由に顔から表情を取ったのだろうか。

 

 「……キヴォトスで拷問は禁忌だよ。知らないの?」

 「情報なんかじゃない。それよりも魅力的な物が君達にはあるじゃないか」

 

 「君は見なかったのか?この兵器が完成された時の姿を」

 

 突然熱が入った彼はかぶりを振って、まるで役者の様に語り始める。

 

 「知っているか?私達は君らとは違い、身体的な成長と言う物が存在しない」

 

 知っている。アンドロイドである彼らと、生徒である私達じゃ体組織から産まれ方まで、全て違うのだから。

 

 「そのせいか権力や肩書なんぞの社会性や、立ち振る舞いや思想など、精神的な成熟に重きを置きたがる」

 

 この場には私一人しか居ないというのに、広場で演説してるかのように声を張り上げた。

 

 「だが、私は違う!」

 

 進化する事を諦めた奴らとは違い、私は圧倒的なまでの力を手に入れる。

 

 水を与えれば育つような成長性を求めているのではない。いつか風化し錆びゆく身体を捨て、未来永劫に力を奮い続ける。

 

 どんな時代に成ろうとも頂点で在り続ける事ができる。そんな不滅な身体を自分の手で作り出し!

 

 

 「私は!最強のアンドロイドになりたいのだ!!」

 

 

 話を引っ張った果てに彼の口から出てきたのは、幼い少年の様な荒唐無稽な夢だった。

 口から放たれた彼の夢は、広い空間の中を何度も木霊して、やがてそっと静かにどこかへと消えた。

 

 元来、どんな人でも幼少期の頃は無垢で無知であるゆえ、思い返そうとすれば忘れたくなるような、そんな夢を持ってる人も居るだろう。

 

 しかし、成長という過程を得て、時が経つほどに大人に近づいていく。長くも短いその時間は、幼き夢を胸の奥底に仕舞うには十分で。

 

 いつしか、夢という淡く不鮮明で大きな物が、目標や目的なんて現実的で身近な物にすり替わってしまう。

 

 誰だって、無垢なまま汚れずに生きる事も、無知のまま賢くは成る事もできない。

 

 だけど眼の前に居る彼は、大人で在りながらも子供のままだった。

 

 知識と穢れを理解した少年が狂気を生み出し、邪魔な論理感を消し去った。何も分からないあの顔は、彼の全てを外に露見させない為なのだ。

 

 

 「私はこの兵器を誰にも超えられない物にする。その機能の一端に……」

 

 私は理解に近い共感が出来てしまった。これがリーダーやラパンなら理解されないだろう。

 

 「――――(生徒)たちの力が欲しい」

 

 私に向かって手が伸びる。瞬間、全身に冷水を浴びされたかのような寒気がした。全身が動かなくなって息が喉の奥で詰まる。

 

 「……〜ッ!?」

 

 今自分が息を吸えば良いのか、それとも吐くべきなのか分からなくなった。悍ましい何かに私は地面に抑えつけられている。

 

 「君たちの持つその……ガッ!?」

 

 身の丈が自分より大きい大人が迫る威圧感の中、早く来てくれと願っていた保険が、彼の頭に体当たりして突き飛ばした。

 

 外から駆けつけた勢いでぶつかったのは、施設外警備用のドローンだった。

 

 「ナイスッ!」

 

 体の硬直はもう無くなっていた。彼が怯んでいる隙に起き上がり、手に持っているタブレットを奪い取ろうと掴む。

 

 今はこれさえ無ければロボットは動かせない筈、現に起き上がった私に銃弾が飛んでこない。

 

 しかし手から抜き取ろうともするも、力を込めて引っ張るが、タブレットは彼の手から離れる素振りが微塵も無かった。

 

 「くそッ!離せ!」

 「そ……っちこそ、離しな……さいよ」

 

 向こうは片手でこっちは両手なのに、このままでは先に根負けしそうだ。私の手を離れさせようと左右に振られ、少しずつ私の手から離れていこうとする。

 

 このままではジリ貧だと考え、切って残りの体力を全部込めて、めいいっぱい引っ張る事にした。

 

 「んぬぅ~~!」

 「ッ!、ならっ……くれてやろう」

 「えっ?」

 

 突然体が軽くなる。彼が手をいきなり放したのだ。

 

 後ろに体重と力を掛けていた私は、タブレットを片手にたたらを踏みながら背中から倒れこみ地面を転がる。しかし、それだけじゃ勢いは消えず顔や胸もぶつけた途端、体にふわりとした浮遊感を感じた。

 

 「噓っ!?」

 

 突然の落下感だが私は手すりの下から転がり落ちたのだと理解する。何があるかなんて見もせず、藁に縋るような思いで手を上に伸ばした。

 もはや本能だった、足場の端に触れると強く掴む。片手では支えきれずもう一方の手を使いたかったが、タブレットを持っているせいで使う事が出来ない。

 

 この高さから捨てるべきかと判断に悩んでいる間に、拳銃の音が頭上から響いた。音の出所は彼だったが、狙われたのはドローンの様だ。煙を吹きながら落ちていく姿が見える。私もアレと一緒に落ちる運命かもしれない。

 

 「はぁ、大人しくしていれば怪我はしなかったかもしれないのにな」

 「痛っ!」

 

 見下ろすように真上まで来た彼が私の手を踏みつける。落ちないように支えている手が痛みで痺れ、端から放してしまいそうになる。

 

 「この高さなら精々足を少し傷める程度だろう。すぐに回収してやる」

 

 駄目だ手がもう限界だ。浮いた足元を見て腰が竦んだ。……こんな時、リーダーならどうするのだろうか。

 

 「本命はあの小さき少女だが、君たちも無駄にはしない」

 

 お前何かにリーダーが捕まるわけないだろ。あの怪力を抑える物があるなら私だって普段から使いたい。

 何度あの小さい頭を叩いてやろかと思い我慢したことか、デリカシーが無くてガサツな所に文句を言っても、私達二人の事なんて聞きやしないんだから。

 

 それに、お前みたいな変態狂人に、易々と私達の身体に触られる程――――

 

 「……乙女の肌は安くないのよ」

 「何?」

 

 きっとリーダーならそうする。だからこれが私の置き土産だ。

 

 「くひひっ、アンタも足を傷めるかもね」

 

 指が限界な事もあり、すぐさま手を離して宙へと身を委ねた。遠くなっていく足場を視界に入れながら、私は起爆装置を怒り任せで強く握りしめた。

 

 

 

 頭の中では報復の爽快さと爆破の快感で埋め尽くされたが、隅の隅の僅かな隙間で必死に五点接地のやり方を思い出そうとしていた。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 「よしっ!これで終わりま――」

 

 執務室で作業を終えたコユキが何か言おうとしたが、被せるように鳴り始めた非常用ベルのせいで最後まで聞き取れなかった。

 

 すぐに男性のアナウンスが入り、侵入者と火災が起きた事を告げている。どこで何のせいで鳴り出したか分からないが、原因はきっと俺達3人はずだ。

 

 やっぱりいつも通り慌ただしく逃げる事になるのかと、ため息を吐くとインカムからノイズが走った。

 

 「ヘルプ!ヘルプ!ヘルプ!バレたうえに足やっちゃって逃げれない!」

 「今回はシュトリヒさんがやらかしましたね」

 「あれ前回も奴のせいでアラート鳴らしてなかったか?」

 

 そうでしたっけと首を傾げるコユキと一緒に笑うと、本当にヤバいのか冗談味を感じない返事が戻って来た。

 

 「言ってる場合じゃないって!!!」

 「……ラパン、こっちの作業は?」

 

 急いで向かってやるかと思い、コユキ見ればメモリーを片手に親指を立ててキメ顔をしていた。恐らくお面の下でむかつく表情をしているんだろうなと無視した。

 

 「すぐ向かう、何とか一人で頑張れ」

 「本当に早く来てよ!?冗談じゃないからね!」

 

 もうコソコソと隠れる必要ないと思い、ドアを蹴り開けてそのまま廊下へ走り出す。幸いこちらへ向かっている奴は通路には見えなかった。

 

 モエが向かったのは確か別棟の開発施設の筈、場所の所在をコユキに尋ねようとしたが察しの早い先生が、非常階段から下に降ればすぐ傍に連絡通路があると言った。

 

 非常出口の誘導灯が通路の奥に見えすぐに駈け出した。

 コユキも俺の側にしっかりと付いてきている。初めの頃は俺が合わせて居たのだが、いつの間にか速度を落とさなくても追い付けるようになっていた。

 

 鍵を開けるのも手間だと思い、その速度のまま蹴り開こうと考えるが、扉の先の階段から登ってくる音が聞こえた。

 

 「ラパン、開けたらすぐそこに何人かいるぞ」

 「了解です!」

 

 軽く跳んで扉に向かって両足で飛び蹴りする。鍵のボルトを断ち切れる音が響き、扉が屋外へと吹き飛んで向こう側へ落ちていった。

 蹴った反動で浮いた体のまま壁にワイヤー撃ち、腕の引く力と一緒にワイヤーを巻き取り外へと飛び出た。

 

 「なっ!?」

 

 階段の柵をも超えて扉と同じように俺も落下する。階段には兵士が3人居たが飛び出てきた俺に虚を突かれて、後から出てきたコユキへ反応が遅れた。

 

 彼らも銃を構えようとしたが、彼女のマシンガンから銃弾が飛ぶ方が速かった。

 3人程度なら助けは要らないと思い、ワイヤーを壁へと打ち直し、1階下の非常出口から室内へと飛び込んだ。彼らが開けたままのおかげで、また扉が一枚破壊される事はなかった。

 

 階段を下りてきたコユキと合流して連絡通路に向かう。他の兵士に接敵する事もなく、確かに走れば5分とかからずにそこには着いた。

 

 「人が余り居ないようでラッキーでしたね」

 「そうだな」

 

 ただ渡るだけにしては幅の広い連絡通路だ。さっきまでの施設内と雰囲気が少し違う。

 壁には三角模様でガラスが張られ、床と天井には正方形のタイル模様が別棟まで続いている。

 

 入ってくる僅かな夜の月明りを補うように、床の端には点々と照明が埋め込まれている。その通路の中央を走っていると、光が流れて少し綺麗に見えた。

 

 後ろからコユキの先の兵士の倒し方を自慢げに話しているが、通路の中腹程に来た頃一番奥の横開きのシャッターが微かに開いたのが見えた。

 

 立ち止まる同時に、右後ろから追ってきていたコユキに足をかけた。

 

「ウェぶへらっ!?急になん……」

 

 転んだコユキの頭上に銃弾が通る。そして遅れて聞こえる銃声、不意打ちによる頭への攻撃は当たり所が悪ければ一撃に気絶する。

 

 扉からかなり距離があるように感じるが、避けなかったら確実にヘッドショットだったな。

 

 「助けるにしても他に方法ありましたよね!?」

 「お前の話を止めるにはこの方法しかなかった」

 「せめて助けるためにしてください!」

 

 赤くなった鼻を指でさすりながらコユキが起き上がる。流石に彼女もこの遮蔽物の無い場所で、転んだままでは居たくないようだ。

 

 「第三連絡通路にて侵入者と接敵、銀羽(ギバナ)の鴉と白兎《シロウサギ》の二人です。……はい、了解しました」

 

 真っ黒に塗られたシャッターの隙間から、彼女は体を露わにした。一度見た姿と情報で彼女が誰かが分かった。

 

 目元が全く見えないバイザーに紺色の制服。肩よりも長く伸びた金髪に機械の様な起伏の少ない無機質な声。彼女の手には白塗りのアサルトライフルがあり、コユキを狙ったのは彼女で間違いないだろう。

 

 アジトで見た映像に映っていた副隊長とやらだった。

 

 「怪我の方は如何ですか?……はい、……はい、……兵士達をそちらに、……了解しました。お願い致します」

 

 人一人分空いたシャッターはすぐさま閉まった。彼女をこの通路に残したまま。

 

 それは2体1だと言うのに彼女一人で十分だと言う事だろうか、それともここに人数を割けない理由があるのだろうか。

 

 嫌な予感がする。彼女からはトリニティで出会ったあの怪物の様な圧力はない。しかし、隙の無い彼女の雰囲気が気づいたら足元を掬われるような感触を感じた。

 

 あのシャッターは流石に蹴り破る事は難しそうだ。コユキが居れば普通に開けられそうだが、なら初めて彼女をどうにかする必要がある。

 

 「リーダー聞こえる!?後5分持つかどうかなんだけど」

 「……連絡通路で面倒臭そうのに捕まった。あと15分ぐらい耐えれるか?」

 「15!?」

 

 モエの絶望感漂う声が聞こえるが、すぐに終わる様な相手には見えない。何とか二人掛りで急いで倒すしかないな。すまないとは思うが、彼女にはそれまで一人で耐えてもらうしかないだろう。

 

 「……あっ不味い、コイツ等ドローン達のシステム落としたんだけど!」

 

 いや、やっぱり駄目そうだ。

 

 「別の道から向かってやれるか?」

 「……さっきの階段から降りて資材搬入口から入れば、10分もかからない気がします」

 「行ってやれ、俺が残れば追わない筈だ」

 

 コユキは俺と目を合わせると少し考えて来た道を戻って行った。見送ってはやれなかったが、俺の代わりに副隊長殿が見送ってくれただろう。

 何故か彼女は去っていくコユキを撃つことも、追うそぶりも見せなかった。俺だけを残す方が彼女にとって都合良いからだろう。

 

 段々と遠くなる足音が聞こえなくなり、通路内が無音となり静まり返った。

 彼女はスカートのポケットから何か取りだすと、俺の背後で重々しい騒音をたてながらシャッターが閉まった。

 

 ……コユキを先に行かせ、この場から逃げるように後を追うかと少し考えていたのだが、流石に相手もそれなりに分かっていたようだ。

 

「任務を開始します」

 

 マズルフラッシュが見えるのと同時に横に駆け出す。

 先ずは距離を詰めなければ何も始まらない。跳ねて壁を渡ろうとしたが、足を切り返して斜め前と方向転換する。

 

 銃弾が跳ねようとした場所を通り過ぎた。フルオートで追いかけるというより、バースト射撃で俺行く先を狙っている様だ。

 

 動きを読まれぬ様にと不規則に地面を滑走する。

 銃弾を見れば狙いの正確さが分かる。俺が察知して前もって避けなければ、今頃ボロボロにされていただろう。

 

「ッ!」

 

 一発も当たらずに距離を詰められた彼女は、口元を苛立ち気に少し歪ませた。彼女はその場から動き出し距離を取ろうとする。

 

 離されないように彼女へ迫ろうとするが、近ければ回避するのが難しくなり、多少なりとも大きく避けてしまえば距離は縮まらず。

 

 強引に詰めようとすれば、絶対と言っていいほど頑なに拒否しようと銃を撃ち続ける。

 

『これでは千日手だな』

 

 先生が何か言ったが分からなかった。

 

 移動しながら発砲してる癖して狙いがブレる事がない。それでいて俊敏さが落ちる事もない、コユキと追いかけっこでもすればいい勝負になりそうな程だ。

 

 次の弾倉を入れ替える瞬間を狙う事にした。何度か入れ替えたのを見たので、銃弾の装填数はもう覚えた。

 

 意識して彼女を目で捉えていると。銃口から瞬く火の光が眩しく感じる。彼女が動くたびに、金色の長い髪の上を光沢を流れていく。

 

「今だな」

 

 最後の銃弾を回避するのと同時に、一直線に前へと飛びこんだ。

 手を伸ばせば届く距離、色の濃いバイザーでも、至近距離までくれば微かに目元が分かる。

 

 それは落ち着いた目をしていた。動揺する様子がまるで感じられず、彼女の雰囲気通りの無機質さだと思った。

 

 振りかぶるため足をまた前へと踏み込む。何故か目の前の彼女からは危機感を感じられない。

 

 これは――――、彼女の性格から来るものじゃない。

 

 「……ドクターの言う通りですね」

 

 まだ彼女の銃は俺に向けられていた。

 

 「――ッ!」

 

 踏み込んでいた足で横は飛ぶが、撃たれる方が早かった。

 悪あがきで身体を捻り射線に対して被弾面積を減らそうとしたが、努力虚しく抉られる様な鈍痛が肋骨の辺りを強く叩いた。

 

 横跳びで宙に居た俺は着地する気力も無く、痛みに悶絶しながら地面に転がった。

 

 「ガッ――ァっ」

 『立てユウリ!まだ来るぞ!』

 

 先生の大声を聞いて急いで顔上げた。彼女のスカートがひらりと捲り上がり、その下にあったホルスターから拳銃抜き取った。

 

 反射的に後方の壁にワイヤーを撃ち、張力と足の力でその場を蹴った。

 火花が眼の前の床を散らしながら追いかけてくる。一発も当たらなかったのは運が良かった。

 

 背中から不格好な着地をし、手をついて姿勢を低くしたまま前に向き直る。彼女は既に拳銃を仕舞って弾倉を入れ替えていた。

 

 「……はぁ、はぁ……俺の、……癖か?」

 

 リロードをし終えた彼女は、俺に再び銃口を向けて答えた。

 

 「支給されたデータとドクターの考察です。その中には貴方と白兎の戦闘資料から、犯罪行為の手順まで明記されてました」

 

 後方支援をしている人物の可能性も示唆してましたが、先の爆発はその方の仕業と言う所でしょうか。

 

 「用意周到だな」

 「いえ、そうでもありません。襲撃がここまで早いとは思っていませんでした。お陰様で常駐していた隊員だけでは手が足りません」

 

 会話で稼ぎ痛みが止むまでの時間を作る。コユキやモエは被弾しても軽く済ませるが、俺はまだ痛みに抵抗が無いせいか一発貰うだけでもかなりキツイ。

 

 身体の頑丈さは余り変わらなさそうだが、何で奴らたちはそうケロッとしているのだろう。

 

 「ですが、いくら埒外の怪力だとしても素手相手に敗けません。一対一なら尚更勝つ事なんて不可能です」

 

 コユキも言ってたな。このキヴォトスで銃を持たないのは珍しいと。

 

 俺の資料を貰ったと言っていたが、口振りから察するに彼女は()()()()

 

 つい先日の事だ。情報が来てないのも仕方ないだろう。危機的状況とまでは思ってはいないが、コレは彼女に付け入る1つの隙だった。

 

 「残念だな」

 

 痛みはもう十分に引いている。撃たれた場所に違和感も何も無い。

 立ち上がって肩から先をだらりと力を抜く、つんのめる程の前傾姿勢でありながら顔は下げない。

 

 俺がこのキヴォトスめ見てきた中で、一番脅威的に感じたのはあの怪物だ。だから、奴を戦い方を参考にする。

 

 もう俺のやり方は、あの町での戦い方は、キヴォトスでは通用しない。既知となり不意を突けないような小細工に意味はない。

 

 それに俺は、怯えながら隅を走るネズミで在りたくない。

 

 内から外へと腕を振り払い、広袖が靡くと同時に布地の先が空気を叩いた。

 その手には俺の()()がしっかりと握られている。

 

 「……何処から銃を」

 「お前は、知らないだけだ」

 

 狡猾で空を往々と羽ばたく、あの黒き鳥の生態を。

 

 「……俺の、……カラスの鉤爪を」




ブルアカ3周年ですね。石が7万近く会ったはずなのに1万程しか残って無いです。不思議ですね。


アビドス3章が自分的にすごい嬉しかったのですが、場合によってはプロットを書き直そうかと思っているので怯えてます。あれこれ改変と独自解釈してるので今更なのですが。
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