機械たちは明日に夢を見るか?   作:akuriru14

19 / 29
6-4『where there's Karasu there's Toki』

6-4『where there's Karasu there's Toki』

 

 何の面白味もないぐらい白く染まった空に、水平線の先まで真っ平らな大地。

 

 目を開けたらそんな光景が広がっていた。と言うよりも初めから此処にいた様な、そんな意識の切り替わりを感じる。体験した事のない不思議な感覚だった。

 

 地に足着く感触はあるのに、夢を見ているようにふわふわと体が軽かった。

 

 この光景を俺は見たことある。時折、思い出す事があった記憶の世界だ。

 どこまで進んでも変わる事ない、不毛で乾いた地面が続くあの場所。

 

 しかし、あの記憶と違った所がここにはあった。いや、あの何もない光景からしてみれば、大量に違う所がありすぎた。

 

 「すげぇ散らかってる」

 

 足元に落ちていた銃を1つ拾い上げる。()()()()()()()アサルトライフルだ。

 俺の銃ではない、誰の銃かも覚えていない。でもそんな物が足元に、いや見える景色の隅々に散らかす様に捨てられている。

 

 銃だけじゃない、弾や薬莢に加え弾倉、瓦礫に廃材と割と見知った物が只々乱雑に捨て置かれている。

 

 流石に見て気づかないほど鈍くない。全部、俺が体の内に仕舞っていた物たちだ。

 

 「こんな風になっていたのか」

 

 どこまであるのか気になり、宛もなく歩き始める。地面に散らばる銃弾を踏んで転ばない様に、足元を注意しながら周りを散策し始めた。

 

 かなりの量だ。そういえば最近ジャンク屋に行った記憶がない。

 

 「近々、売り払うべきか」

 

 一体どれほどの不良や警備員たちが犠牲になったのだろうか。

 何とも不憫な奴らだ。きっとその中には俺から2、3回と取られた奴も居そうだ。

 

 ずっと先までこの様子で続くと思っていたが、遠くの方で少し雰囲気の違う物が見えた。

 俺の記憶に全く無い物だった。何故か、とても気になって視線が離せない。

 

 足は自然とそれに向か出す、初めの内は大きな瓦礫か何かだと思っていた。しかし、近づくにつれてそうではないと分かる。

 

 しかし、鮮明になったとしても、一体それが何なのかはまるで分からない。ただ歩くたびに大きくなっていき、目前まで迫る時には自分よりも何十倍も大きさになっていた。

 

 そっと触れてみるとただの鋼鉄なのが分かる。上向かって緩やかにカーブを描きながら大きく膨らんでおり、それに合わせるように端の角が削られたように丸みを帯びている。

 

 よく見るとおかしい事に場所によっては、風化して錆が出来ている所や、くすまずに光を反射するほど真新しい所がある。

 それだけではなく、鉄や銅やアルミなど素材からして違う物で出来ていたりと、継ぎ接ぎのようで統一性がない。

 

 殆どは薄鼠色に塗られているのに、穴抜けの様に色が変色しているせいでモザイク模様の様になっていた。

 

 叩いてみるとかなりの分厚いが、中には空洞があるような反響音が聞こえる。

 手を添えながら外周を回ってみるが、すぐに壁は途切れてしまった。

 

 裏側を覗くと、中はただの空洞で何もありやしなかった。

 

 少し下がって俯瞰してみると、不思議な形をしていた。空洞は1つだけでは無く、大きさはバラバラだが数がいくつもある。

 

 それは、まるで何か1つの断面のように見えた。きっと集合住宅なんかを縦に切れば、似たような形になるんじゃないだろうか。

 

「気になるか?」

「……ッ!」

 

 突如後ろから声をかけられ、その場を蹴って振り返った。

 

 俺と全く同じ灰色の服装に、肩で切り揃えられた短い黒髪。

 落ち着いた大人の様な冷たさを感じるその声は、今の今まで散々聞いた事のある少女の声だった。

 

「……せん、せい?」

「ああ、この場所で会うのは……()()()()()()

 

 普段聞く頭の内に響くような感覚が無い為か、直で話す分しっかりとした音で、いつもと受ける印象が少し違った。

 

 余計なノイズが減った分、今の自分と同じ声に近づいたのだろう。

 同じ姿なのだから声が似てしまうの道理だと思うが、その場に立っている先生と顔を見合わせると鏡の前に居る気分だった。

 

 唯一、先生との違いは目の形と瞳の色だろうか。

 

 俺は橙色の瞳で少しツリ気味の目をしている。だからか、いつもコユキがむくれている様に見えると言われる。

 

 比べて先生は平たくて赤色に染まっている。

 ただ、眠たげな眼をしてると言うよりか、ただ茫然と目を開けている人形の様な、生物らしさを感じられない瞳だった。

 

 先程から先生は俺の方を向いているのに、一向に俺と目が合わないのだ。

 

「気になる……ってか、……何か色々聞きたい事だらけだ」

 

 今見ていたコレもそうだが、この空間の事も、先生の事も俺は殆ど何も知らない。

 口に出そうとした疑問が、悩み過ぎて喉奥に消えてしまう。一体何から聞くべきか、そもそも答えてくれるのだろうか。

 

 ない頭を捻り始めてすぐ、気を遣ったのか先生が口先を切った。

 

 「まず此処は、君と私の世界。君の存在を過大解釈しその内側に、物を置ける空間を作った」

 

 俺は先生の話を黙って頷いた。多分、深く聞いても理解できない。

 

 「そうやって元よりあった場所だが、今は互いの精神空間として機能を持たせ、活用しながら共生している形だな。君と私が共存するにはこの方法しかなかったと思える」

 「……やっぱり先生と俺は此処で出会ったのか?」

 「そうだ」

 

 あの時折見える瞬きのような短い記憶。あれが俺の忘れてしまった記憶のひとつなのだろうか。

 

 あの記憶の光景と比べると周囲が散らかってはいるが、主に目に入る景色はあの光景と全く同じだ。

 どこまでも続く乾いた大地とただ白く染まった空。ただ、このふたつだけが良く印象に残っている。

 

 「こんな銃とか落ちてなかった気がするけど、これは俺が仕舞ってた奴か?」

 「そうだ、かなり散らかっているが、()()ようにも置く場所がなくてな。辺りに置いとくしかないのだ」

 「……載せる?」

 

 言葉の違和感に気づきそう聞くと、先生は俺に背中を見せて、あのモザイク柄の大きな鉄の塊の方を向いた。

 

 「本来であれば、アレに積まれる筈だった」

 「あれは、……なんだ?」

 「何?」

 

 俺が分かっている様に話を続けようとした先生は、驚きながら振り向いた。声は驚いているように聞こえたが、表情は何か変わっている様には見えなかった。

 

 先生が何かを言おうとして口を開いたが、すぐに閉じてまたジッと俺の顔を見た。先生と同じ顔だと思うが違うように見えるのだろうか。

 

 だが、そのまま「そうか」何て言って一人納得した様子だった。

 

 「あれは、……船だ」

 「フネ?」

 

 ――船。人や物を乗せ水面を割いて突き進む道具だ。

 人の力だけでは決して運ぶことが出来ない量や重さの物を乗せ、吹く風と波に揺られながら遠くへと運ぶ。

 

 先生は淡々と流れるように説明した。何も変わらない、俺の疑問に答えてくれる。いつもの話し方だ。

 でも、その船を見つめながら話す先生の雰囲気は、それ以外にも思う所があるように感じた。

 

 「アレが水の上に浮くのか?」

 「船と言ったが、アレは船として三割も完成していない」

 

 話しながら船へと近づく先生に合わせ、俺も後ろを歩いてついて行く。

 先生はその船の表面を手を伸ばすと、ゆっくりと撫でる様に表面をなぞった。

 

 大事な物なのか、労わるように手を動かす姿は、俺にとっては少し意外なものに感じた。

 先生は俺に手を貸してくれるが、優しく接したり労ったりと甘やかす事はないからだ。

 

 先生に()()を求めた事はない。俺はそのドライさが先生を先生たらしめる所だと思っているし、そこが気に入っている部分でもあるからだ。

 

 でも何故か、そうやって生き物の様に船を撫でる姿を見ていると嬉しく思えた。

 

 「未完成なんだな」

 「ああ、そうだな……だが」

 

 

 「私は、未完成のままで居て欲しいと思っている」

 

 

 先生の声はハッキリと聞こえた。

 しかし、だだっ広いこの空間に反響する事なく、空気に溶けていく様に四散して消えていった。

 

 なんで、とは言わなかった。雰囲気に押されたのもあるが、俺が口を開く前に先生は言葉を続けたからだ。

 

 「それより、まだここに居ていいのか?」

 「あっ?……ああ、そうか俺ッ!?」

 

 先生の言葉が呼び水となって、直前の記憶を思い返す。

 避ける事の出来なったか空中で、迫るコンテナに打たれて壁と強く挟まれた。その瞬間がフラッシュバックし、体が硬く強張って右手が震えた。

 

 幸いどんな痛みと衝撃だったかは曖昧で朧気だ。もし鮮明に覚えていたら、この場で胃の中身を吐き出していただろう。

 

 咽ない程度に呼吸を繰り返し、体の震えが止まる事をひたすらに待ち続けた。

 

「落ち着いたか?」

「……体の方はどうなっているんだ?」

 

 慎重に思い返せば肉や骨が潰れたような感触はあった。見るまでもなく俺の本体は重症な筈だ。

 しかし、先生は俺の考えとは裏腹なあり得ない事を言った。「そうでもない」……と。

 

 「既に損傷個所は癒えてきている。そもそも君が思っているより怪我を負っていない」

 「アレを受けて?」

 

 まだ知らぬ自分自身の回復力と頑丈さに思わず声が出た。

 

 キヴォトスの生徒たちは確かに頑丈だ、だけど薄っすらと残っている記憶を踏まえても、あの一撃を受けて軽傷かつすでに治っているのは余りにも異常だ。

 

 俺から見れば生徒たちは人の垣根を超えている。

 キヴォトスでは彼女たちは人と呼ばれているが、そこに俺を含めていいのか悩む程に逸脱している。

 

 俺は彼女たち以上に人ではないと思う他がない。

 

 目の前の彼女は当たり前だと言わんばかりに淡々としている。俺が疑問で顔をしかめても先生は何も言わない。

 

 出会った時から先生は俺と先生自身の事を頑なに話そうとはしない。

 先生の方から小出しでよく分からない不可思議なを見せてくる癖に、その詳細や原理を俺に説明する事は一度もなかった。

 

 「……先生」

 「なんだ」

 

 尋ねるべきだと口が開けるが声に出せず、音にもならない微かな息だけが口先が掠めた。

 

 俺は俺自身の事を聞きたかった。何故俺が生きているのかも、この人とは思えない体の事も、先生の事も全部。

 

 でも、口に出せなかった。記憶が戻ればいつか分かるとかそんな理由じゃない。

 知らない真実とか未知を知ろうとする事が、自分の中で大きな不安と恐怖感がひとつの塊を作り喉を塞いのだ。

 

 聞いてはいけないと、知らないほうが良いと、先生が押し黙るのだから聞いては駄目だと。自分の中のもう一人が俺を止めようとする。

 

 妥協するための理由が頭へと浮かんでくる。俺は一体、何を怖がっているのだろうか?。

 

 「……」

「……」

 

 掠れ声を最後に、時間が止まったかの様に辺りを静寂が包んだ。

 陽が存在せずただ明るいだけのこの場所は風が吹く事すらない。俺たち以外に、この世界は何もひとつ動くものはない。

 

 「……恐らく、聞きたい事が山ほどあるのだろう。その疑問持つことは間違っていない。だから怯える必要はない」

 

 先生の声が聞こえて、俺は顔を上げた。考え込んでいるうちに、いつの間にか顔が俯いていたらしい。

 

 怯えている。先生にはそう見えるのだろうか。

 自分でも分からずその場から動く事が出来なかった。

 

 「恐れたのだろう。私にソレを尋ねて今のこの日常が、関係が、崩れてしまわないかと」

 「……分からない」

 

 努力して返事した声は、限りなく小さなものだった。

 虫の鳴き声のような言葉は先生に聞こえただろうか。何なら聞こえなくたって構わなかった。

 

 先生との関係を危惧しているだけじゃない。それはきっと俺が怯えている理由の半分だ。

 

 あとの半分はきっと、知った時に後悔してしまうのではないか。と余りにも貧弱な理由。

 なのにそんな自分に相反して、俺自身の感覚が知るべきだと、知らないままでは駄目だと考えている。

 

 「不安にさせて悪いとは思っている。だから、私に気遣う必要など無いのだ、これは私の我儘なのだから」

 

 「我儘」そう、オウム返しの様に口から小さく吐き出し、頭の中で響くように繰り返された。

 先生の言う我儘が俺には何の事なのか全く分からなかった。

 

 「私と君の事、それを話さずにいるのは私の目的を達成するためだ。私の勝手な我儘で、私の責任だ」

 「でも、……先生は俺に知って欲しくないんだろ」

 

 少し自分が感情的になっている。さっきまで蚊も鳴く様な声しか出なかったのに、この口からはしっかりと捻くれた返事が飛び出した。

 

 「ああ、出来る事なら知らぬままで居て欲しい。でも、知るべきかどうかを決めるのは、私ではなく君なんだ」

 「……もし、俺が知ったらどうするんだ?」

 「どうもしない。この先何があろうとも、君との関係を変える事はないと思っている」

 

 俺自身がこのキヴォトスで勝手に調べる分には良いと、先生は言ってくれているのだろう。

 

 先生は俺の事を嫌わない。ただそれを知って安心する自分に、少しの不甲斐さと腹立しさを感じた。

 結局、強くなったのは体だけで、俺自身は前の頃と変わってないのだろう。

 

 縮こまって硬くなった肩が軽くなり、圧迫されたかのように感じた胸の息苦しさが少し和らいだ。

 

 落ち着いた思考にふと浮かび上がるものがあった。先生と出会ったあの日に話してくれた内容。俺とした約束を果したいと告げたあの話だ。

 

 先生はそれを果たすため、俺に知って欲しくないと思っているのなら、止めるべきではないのだろうか。

 

 「私の我儘で、窮屈な思いをして欲しくはない。君にはもっと……自由に生きて欲しい」

 「なら、俺が先生の目的の邪魔になっても?」

 「……ああ、君の事を嫌うことはない」

 

 そう言う先生はやっぱり何も表情が変わらない。だから何も分からなかった。判らなかったけど、俺は静かにこくりと頷いた。

 

 この時、何を思って頷いたのか自分でも理解していない。

 スラムを独りで生きていた俺にとっては、誰かに甘えた事なんてなかったのだから。

 

 「……もう、行くべきだろう」

 

 恐らくもう目が覚めるのだろう。何となく今ここに居るのが夢の中の様で、俺の意思ひとつで目を覚まそうと思えば出来る気がした。

 

 目が覚めればあの施設の壁の中だろうか。

 

 ベノムマキアも健在で、あの金髪の生徒も居る。正直、こんな分の悪い戦いは続けたくない。

 

 逃げてしまいたい。俺1人ならどうにでも抜け出せるはずだ。だが、彼女たち2人を残して逃げる事に少し躊躇ってしまう。

 

 前なら理が非でも捨て逃げる自分が居たはずなのに、俺は弱いまま弱い所だけが増えていく。

 

 死にたくない。あの気色の悪い男の思い通りになりたくない。

 

 「……先生、俺は……逃げても良いのだろうか」

 

 ゆっくりと目を閉じると視界は瞼で塞がれた視界は真っ暗になった。

 自分の話した言葉が何処か遠くで反響する。

 

 「君の自由にすると良い」

 「……そうか」

 

 

 「だがひとつ、私の口から言うのなら、……今()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 閉じたばかりの瞼を開くと薄暗い天井が見える。叩きつけられた際に壁一枚突き抜けて、その先の廊下の壁にもたれかかっていた。

 

 顔に触れればマスクは外れておらず、擦れたような跡は残っているが傷らしい傷は出来てはいなかった。かなり頑丈なのだなと思ったが、これも不明な物のひとつだった。

 

 『自由に、思うがままに、……君のしたい事があるのなら、私はその助力になろう』

 

 身体を少し起こすと軋む様な痛みを感じるが、確かに痛む場所は軽傷だとばかりの物だけだった。

 

 「――――!、――――――!!」

 

 声が聞こえる。嘆き叫ぶような痛々しい声だ。しかし起きたばかりのせいか、ハッキリとは聞き取れなかった。

 膝に手をつきながら起き上がり、腰を反らして伸ばすように天を仰いだ。

 

 何処から来た風が俺の背中を押した。ぶつかった風は脇を通り抜け、穴の先へと向かって抜けて行く。

 

 少し悩んで俺は、そんな風を理由にして前へと足を進めた。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 お腹に突然の衝撃を受け、煙で覚束ない視界の中地面を転がった。

 私をフォローする気で助けてくれるのは有難いのですが、やり方がいつも雑で素直に喜ぶ事が出来ないです。

 

 すぐに起き上がり体勢を立て直しますが、さっきまで追ってきていた金髪の生徒が見つからない。

 

 私一人では簡単にやられてしまう。

 早くリーダーの所へと戻らなければと彼女を探す。だが、視界にその姿を見つけたのと同時にリーダーの姿は、鉄の箱と共に薙ぎ払われた。

 

 「リーダー!?」

 

 振られたコンテナが壁を砕き、周囲に轟音を打ち鳴らした。放射状に広がった罅の大きさが威力を物語っており、中心には穿たれたような穴が生まれていた。

 

 「しまったな。流石にミンチにはならないとは思うが、死んでなければそれで良いか」

 「……確認しますか?」

 「いやいい、残りを処理してからだ」

 

 とても冷静で淡々とした言葉だった。余りにも巨大な一体と、見るからに素人ではない一人の少女が私に向いた。

 リーダーが負傷した所は見たことがない。しかし、仮にアレが私だったら、どこかが潰れて千切れたって可笑しくない。

 

 無線を飛ばしても一向に返事が返ってこず、私は彼女たちを睨んでその場から駈け出した。

 

 「シュトリヒさん!リーダーが!」

 「――見てたって!」

 「何か方法無いんですか!?」

 

 

 

 物陰から出していた顔を引っ込めて画面に戻すが、そこに映ってるのは無慈悲に書かれたエラーメッセージだけだった。

 

 ラパンから貰ったデータも解析したが、現状をどうにか出来る情報は何もなく、ただ悍ましい情報を知り得ただけだ。

 通信機から流れる彼女の声が私に訴えかけている。だが、本当に何も出来る事が見つからない。

 

 苦しむ彼女の声とこの危機的状況が、キーボードに添えた手を震わして動かない。

 

 ベノムマキアはもう外部から遮断されており、独自のシステムで動いている。もう破壊する他ないが、このチームの要であったリーダーが消えてしまった。

 

 この場に残ったのは私とラパンだけ、でもこの状況ではどうしようもない。

 

 「流石に……、も、もう駄目かも……くひひ」

 「笑ってる場合じゃないですって!」

 

 乾いて引きつった笑いが出た。私の中の破滅願望が手を叩いて喜ぼうとしているが、いくら私でも()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 このまま奴らに捕えられて殺されてしまうのだろうか。そんな恐怖で頭と胸が苦しくなった。

 死にたくない、でも危険も承知で好きでやってきたのだ。これも因果応報という奴なんだろう。

 

 ポケットから飴を取り出して口に入れる。お世辞にも美味しいと言えない冒涜的な甘さが、私の舌を通じて頭に流れ込んできた。

 

 周囲がとても騒がしい、ラパンが必死に逃げ回っているのだ。彼女が捕まれば次は私の番だろう。

 見つかればお終いだろうし、走ることが出来ない私はここから逃げる事は不可能だ。

 

 楽しかったけどなぁ。ここで終わりか。

 

 飴を舐めているおかげか、段々と私は落ち着きを取り戻し始めた。余裕の出来た思考が見せたのは最近の出来事ばかりだった。

 

 これが走馬灯って奴だろうか。一人で悪さし始めて、彼女たちと出会って、あの汚ったない部屋で駄弁って、学生の本分も投げ出して遊び惚けた短い日々を思い出す。

 

 「……私が依頼の話何て、切り出さなければか」

 

 罪悪感なんて無いに等しいけど、ただ勿体無いと思える損失感があった。

 リーダーに付いていく日々は刺激的で楽しかったし、彼女本人がかなり変わっている事もあって私は好きだった。

 

 「でも、パソコン割ったのは許さないけどね」

 

 何て、もう気にしてすらいない事を格好つけて 独りごちる。

 確かに見ていて面白いものじゃなかったけど、私からすれば騙される彼女が悪いと思う所があった。

 

 「………………あっ!?」

 

 諦めきった頭の中にふと光明が差す。急いで体を起こしてキーボードに手元を急がせ、まだ残っている筈だと呟きながら施設の監視データを浚う。

 

 時刻と場所は覚えている。映像なんて要らないから、兎に角音声データをこの場所に流すことが出来れば。

 

 やけに静かになったラパンの様子を確認すれば、あの生徒に取り押さえられており必死に暴れていた。

 だが首に腕が回されており、外そうと藻掻いてはいるが早くしなければあのまま窒息するだろう。

 

 「……、あとちょっと……」

 

 ――――出来た!

 

 形振り構わず私は決定キーを叩く。起動したのはこの施設にあったスピーカーだ。

 

 最初流れたのは一瞬のざらついたノイズだった。

 時間重視でデータを持ってきたせいか、音がガビガビだと感じるほど音質が悪かった。

 

 それでも流れるその音声の内容は、皆しっかりと聞き取れるだろう。聞こえるのは数時間前に記録された、とある男たちの会話だ。

 

 下劣な男の笑い声に彼女を蔑ろにした会話は、何度も反響して辺りに響き渡った。

 誰しも、まるでそんな約束があるかのように、この場に全員が静かに聞いている。

 

 その音を遮るような真似もせず、持ってきた約3分の音声データを全て流れると。一度止まった音声は始めに戻り、繰り返して流れ始めた。

 

 だが、次の音声は最後まで聞く人は誰も居ない。なぜなら、当の本人が一番最初に口を開き音声を切り捨てからだ。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 「……どういう事ですか?」

 

 気が付けば私は兎の面をつけた生徒から腕を放してしまっていた。呆然とした頭の中にはスピーカーから聞こえる会話がずっと反響していた。

 

 私の声が消えた後聞こえる二人の男性の会話。聞きなじみのあるドクターと部隊長の二人の声だ。

 彼らの声だとまで理解しているのに、その会話の内容まではっきり認識したくなかった。

 

 見上げたベノムマキアの操縦席にドクターは居た。彼の顔は変わらない、鋼鉄で冷えた表情でただ私の言葉を待っているようだった。

 

 ドクターには私を拾っていただいた時から世話になっている。成果を出し続ければ復学を支援してくれると、そう言ってずっと世話になってきたのだ。

 

 何もしていない他企業の施設を破壊したり、研究資料を欲して盗みや研究者を闇討ちまでして、……必要だからだと、私は……見知らぬ生徒の命にまで手にかけた。

 

 「嘘ですよね、これは……この人たちが作った」

 

 これは奴らが作った音声なのだと。私たちを動揺させるために創られた偽物なんだと。

 

 「――――ッはっ!、はぁっ……本当です」

 「あなたに聞いてる訳では――」

 「本当の事ですッ!!私たちは警備を強化すると聞いたから、今日無理やりにでも来たんです!」

 

 怒りと混乱が綯交ぜになった胸が私の顔を酷く歪ませた。

 彼女が言う確証なんて信じる必要がない。だから、ただ、ドクターが違うと言ってくれればそれできっと。

 

 でも、視線の先の彼は私の思いとは裏腹にただ一つため息を返した。

 

 「トキ、……お前はもっとこの業界の事を、……お前が踏み込んだ社会を理解したほうが良い」

 

 ドクターの突き放すような言葉は痛みのない衝撃となって私の頭を揺らした。

 

 真っすぐ立つ事が出来ているのか分からないほど世界が歪み、倒れてしまわない様にと咄嗟に足を出す。

 崩れた平衡感覚の中では立っているのが限界だった。

 

 なのに、ドクターは聞いているかも分からない私に話を続けた。

 

 「お前は何も疑問に思わなかったのか?明らかに真っ当ではない任務を任され、本当に確約した事でもない約束事を守ってくれると」

 「し、しかしドクターが……」

 「学生証を剥奪されるまで至った生徒は信用が余りにも低い。それを何処かに復学させるなど、費用や保証建てを工面した所で転入を許す所など何処にもありやしない」

 

 ……それだって、あなたが否定してくれたのではないですか。

 私は悪くないのだと。今すぐにでもとはならないが、無実だったと証明出来る様にするって、元居たあの学校に返してくれると、言ってくれたのではないのですか。

 

 「今でさえ渋々出来損ないを他企業へと売りつけ、それを研究費に充てている中、お前の為に多額の資金を割くはずがないだろう」

 

 彼は声を大にして言い続ける。だとしても、今まで賃金として稼いできた物を使えばいいとドクターが……。

 

 「この一年間の……、今まで働いたお金は……」

 「お前の金?……そうだったな、お前の口座はこっちが管理していたな」

 

 彼の顔に入ったスリットの先に藍色の光がゆっくりと瞬いた。

 相手に感情や考えを伝わりにくくするためだと、表情を切り落としたあの鉄の皮。でも、部隊長の様に長く彼の傍に居た者は何となく彼の考えや意思が分かる。

 

 今、ドクターは笑っている。

 

 「お前の口座に金が入った事など一度もない」

 

 

 「この際、分かりやすく言ってやろう。――はなから、お前を復学させる気なんてさらさら無かった!」

 

  

 あの男の近くにいた人は皆分かっている。彼の性根の悪さは鉄の板一枚じゃ抑えきれていないと。

 それでも私は彼を善人だと思い、きっと助けてくれるのだと信じていたのだ。

 

 「……うっ、ッぁあ」

 

 糸が切られた人形の様にその場に膝をついた。もう、立ってはいられなかった。

 俯いた顔の先にはただ地面しか映らなかった。滲みだした視界のなかで床の輪部が形を崩した。

 

 騙された事に対して怒りよりもただ、悔しくて、悲しくて、苦しかった。

 だけど、この場で泣きわめくような惨めな真似が嫌で、抑えようとした喉が息を詰まらせて呼吸が不格好だ。

 

 「だがトキ、別に俺はお前を使い潰そうとしてるわけじゃない」

 「……ぇ?」

 「お前はそこらの生徒と違って有能だ。終身雇用と言う奴だ。俺の会社で面倒を見てやってもいい」

 

 ドクターの声が柔らかいものに変わる。諭すように話す彼は先の無常さが嘘の様に消えうせて、優しく穏やかに私を誘ってくる。

 

 だけど、彼の顔はどこまでも私を見ていなかった。もう私が、信用するしないの話ではなくなってしまったのだ。

 

 「……なら、……私を、……学校に返してください」

 

 私はずっとあの日常に戻りたくて頑張ってきた。この一年ずっと、また誰かと学園を共にし、同じ学友として日々を過ごせる事を願って。

 

 ただそれだけを胸に、来る日も来る日も彼が云う任務をこなしてきた。

 その内容が真っ当な物ではなく、汚れて腐りきった道のりだと分かっていても、絶えず歩き続ければいつか終わるのだと思っていたのだ。

 

 泣いて諦められるほど簡単な夢じゃない。

 

 「……此処の機密を持っているお前を、外部へ出すと思っているのか?」

 「私を、……学校に返してください」

 

 「分からんのか?此処を出ていけばお前を雇ってくれる会社も、学園もどこにも無いんだぞ」

 「私を、……学校に返して」

 

 「お前は多方面に傷跡を残してきた。此処だけじゃない、もうこの先ずっと数ある企業共から追われる事になる」

 「……もっと、……頑張りますから、私を……」

 

 「野垂れ死ぬ事なんてない、衣食住は今まで通り揃えてやる」

 「それでも……、私は――」

 

 

 ――また誰かと同じ通学路を一緒に歩きたいです。

 

 

 いつの間にか、繰り返すように音を発していたスピーカーは止まっていた。しんと静まり返った室内に私の声はよく響いた。

 

 彼の言う通りかもしれない。私が復学するのは保証人を立てたとしても難しく、もう此処以外の企業に雇って貰う事も困難だろう。

 

 だから、私はお願いする事しか出来ない。今以上に働けと言われれば働く、ここの内情なんて何処にも漏らさないと誓う。

 

 「だがらっ、ドクター私を――」

 

 目の前で自分よりも遥かに大きい機械が唸るような駆動音を立てた。

 

 顔を見上げて眩しいはずの天井が黒い影を私に落とした。振り上げられたベノムマキアの腕が、私の真上で拳を固く握りしてめている。

 

 影の中の涼しさか、それとも身に迫る悪寒か、私はその様子をただ眺めて肌で感じていた。

 

 「はぁ、ならもういい。面倒だ、纏めてパーツに回してやる」

 「なん……で……」

 

 直上にあったその鋼鉄の塊が弾みをつけて加速し始める。

 

 眼だけ動かしてみれば、あの兎の姿がいつの間にか消えていた。……どうやら下敷きとなって潰されるのは、私一人だけのようだ。

 

 振り落とされる拳が何だかやけにゆっくりだと感じた。死ぬ間際と言うのはこんな感じなのだろうか。

 

 何だか時間に余裕があるように思うのに、体は全くもって動く気がせず力を入れることが出来ない。

 ただドクターの言葉が私のなかで反芻して、その意味に打ちひしがれていた。

 

 ……そうか、駄目なのか。……駄目だったのか。目じりから溢れた涙が頬をなでるように流れる。

 

 初めから、私が学校に戻る方法なんて無かったのだろうか。

 

 

 「死ぬ気かお前?」

 

 

 

 私の目の前で、灰色のようにくすんだ小さな翼がはためいた。

 

 それは決して、人間が間に割り込んで鳴らしていい音ではなかった。

 彼女の足元の床が砕けて陥没し、受け止めた彼女の腕がベノムマキアの装甲を曲げ、その場でぴたりと止まった。

 

 「先生」

 

 彼女はもう一方の腕の手を頭上のソレに添えると一言呟いた。一瞬の出来事で呆然としていた私には、何と言ったのか聞こえなかった。

 

 次の瞬間、彼女の腕から電光が迸り目の前を閃光が瞬いた。

 ソレはまるで漏れ出した電流のように、何かを高速で千切るような音を立て、ベノムマキアの腕を這うように伝って表面を焦がしていく。

 

 「あッ?――ッガガガガガ!?」

 

 手から腕にかけて流れた電流が頭部にまで届いたのか、操縦席に居る筈のドクターが悲鳴を挙げた。

 動きを止めたベノムマキアの腕を彼女は胴体へと払う。かなりの衝撃だったのか、その腕は胸の辺りをめり込ませて後方へと仰け反った。

 

 「馬鹿みたいに硬ぇ」

 「リーダー!!」

 

 遠くから弾んだ声ふたつ彼女を呼んだ。一人は恐らく隠れているのだろうが、先ほどまで此処に居た筈の白兎は何故か瓦礫の中から這い出てきた。何故か私が手をかけた以上に負傷している。

 

 だが、彼女は仲間たちの声を無視して、振り返って私を見下ろした。手を伸ばせば触れられるほど近い距離、細い十字の切込みを入れたマスクが私を捉えて離さない。

 

 「……なん――」

 

 開いた口がすぐに痛みと衝撃によって閉じられた。顔に受けた衝撃を受け止めることも出来ず、元居た場所から三転して地に転がった。

 

 「えぇッ!?」

「……静かにしてろラパン」

  

 何が起きたか全く分からなかった。目元に付けていたバイザーが何処かに消え、天井に付けられた照明が只々眩しかった。

 だが痛み浸る暇もなく、胸倉の服を掴まれて無理矢理体を起こされる。

 

 再び視界に入った彼女を見てやっと、私は彼女に殴られたのだと理解した。

 

 「何で、避けようとしなかった」

 「……?」

 「ただ降り落とされるだけの鉄の塊。お前なら簡単に避けれたはずだ」

 

 ……避ける気が、なかった。

 

 私は彼女の質問の意味を理解できなかった。何故、私を助けたのかも。

 

 動かした舌先が痛み口の中で血の味がする。どうやら、さっきの一撃で舌を切ったようだ。

 彼女はたどたどしく喋る私の言葉を聞くと胸元を掴む手に更に力んだ。

 

 人外じみた力を隠したその小さな体は、何かを堪えるかのように静かに揺れている。

 

 「ここで死ぬ事が、あの時言っていた退けない理由か」

 「……もう、……いいんです」

 

 「騙されたのがそんなにもショックか」

 「……放して、ください」

 

 私の答えが気に食わなかったのか、彼女は乱暴に私を揺すった。

 先ほどまで私たちは彼女と戦っていたというのに、何をしたいのか理解が出来なかった。

 

 聖人よろしく、命を粗末にするなとでも言いたのだろうか。

 

 「……ただ、学校とやらに戻れないだけで死ぬ事を選ぶのか?」

 「……ッ!」

 

 私は思わず反射的に胸倉を掴むその手首を握り返していた。

 彼女の腕はとても細く骨に申し訳程度の筋肉と皮しかない。これであの怪力を持つことが不思議でしょうがなかった。

 

 力任せに潰さんばかりの勢いで握りしめるが、彼女は痛がる素振りすら見せない。だけど私は自分の手を放さなかった。

 

 今彼女は私の夢と覚悟を軽視した。ただ、それだけが私の逆鱗に触れたのだ。

 

 「貴方に!……何が分かるんですか!!」

 「お前が何も言わないからだろ!」

 「…………私にとってッ、……それが一番大事だったからッ!」

 

 口の中が切れている事も忘れ、怒りに任せて叫ぶ。彼女のマスクに血の斑点を作った。

 

 ベノムマキアは再起動中なのか、依然静かなまま動かない。遠くの彼女たちもただ黙って私の事を見ている。

 

 堰が切れた私は思っていた事を吐き出そうとして、今この立場と状況が惨めに感じて苦しかった。

 

 「こんな仕事何てやりたくなかった!だけど何処も行く場所がなかった!……私はもう一度またあの日常に戻って、誰かと机を並べたり、放課後どこか寄り道したり、隣に自分と同じ学友が居る。ただそんな学園生活を過ごしたかった!。それを私がどれほど求め――」

 「黙れッ!」

 「がぁッ!?」

 

 突然、大きく体を引っ張られ、額に彼女の頭が突き当たった。次は舌を噛むことは無かったが、彼女の額は鉄の様に硬かった。

 

 「お前の身の上話とか、どれほど学校に戻りたいだとか、そんな長い話は聞きたくない」

 「じゃあ!一体なん――」

 

 

 「俺は学校何て所に行ったことがない!!」

 

 

 何でお前が学校というものに固執するか分からない。

 

 誰かと一緒に過ごしたいと思ったことがない。

 

 だから……聞きたくない。

 

 彼女の声は目の前で聞くには尋常なく痛いほど大きかった。その痛みは、私の苦しさを何処かに消しやってしまうほどに。

 

 「さっきから見ていてイライラする。あの野郎も……お前も」

 

 口を開くも何と言えば良いか分からなかった。ただ、開けた唇の隙間から吹き込む空気が妙に鉄臭い。

 彼女と言い争うっている内に、いつの間にか涙は止まっていた。

 

 「騙されたのはお前の責任だ。どこまで行こうとお前が悪い。だけど、都合のいいように利用されて、やられっぱなしでいいのか?」

 「……やりかえした所で、……叶うんですか」

 「……?、…………。」

 

 この場にガチャガチャとした騒音と唸るような駆動音が戻る。ベノムマキアが時期に復活するのだろう。

 

 彼女は私の言葉を最後にし、長い沈黙を作る様に押し黙った。

 

 彼女はきっと報復するのが当たり前で、身の振り方を考えなければいけない様な環境で育ったのだろう。キヴォトスではそんな場所いくらでもある。

 

 でも、もし本当に彼女の言った事が本当なら、一度も誰の庇護も受けぬまま、その環境下で生まれて育った事になってしまう。なのに、彼女の言葉にはどこか説得力があった。

 

 「……自分の不幸を少しでも帳消しにするように、ムカつく野郎の顔を一発殴り返そうと思わないのか?」

 

 彼女は私に背を向けてベノムマキアの正面と向き合う。再起動を果たしたドクターの声が、音割れを起こしながら辺り一帯に怒声を放った。

 

 でも不思議な事に騒ぐ声は私の耳には入らず、背中越しの彼女の声が自然と聞き取れた。

 

 「……死ぬまで叶わないかどうかなんて分からないのに、ここで諦めるのか?」

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 「……待ってください」

 

 その声は今にも折れてしまいそうな細いものから変わっていた。俺の耳なら大の大人の見苦しい怒声の中でも聞き取れる。

 

 そのまま振り返ろうと思ったが、身の危険を感じて半歩ほど横へズレながら後方を向く。

 ヒュンッと風を切る音がして、自分の顔の横を彼女の拳が通った。

 

 彼女の澄んだ青い目が俺の顔を鋭く捉えていた。当たってやるつもり何てなく、何の真似かと聞くと彼女はさぞ当たり前かのように淡々と言った。

 

 「いえ、先ほど殴られたので殴り返そうかと」

 「……当たるかよ」

 「はい、全然当たりそうではないので……」

 

 彼女は床に落ちていた銃を片手に拾い俺の横に並び立った。どうやら彼女は、まだ死ぬ気は無い様だ。

 

 

 「先に殴れそうな方を殴ってからにします」

 

 

 

 




祝アニメ化ですね。とても嬉しいです。

アビドスもストーリー更新されて歓喜してたのですが、ちょっとプロット変えるべきか悩んでます。

まぁ、このペースだと変更箇所にまで漕ぎ着けるには1年ぐらい掛かりそうな様で。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。