機械たちは明日に夢を見るか?   作:akuriru14

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6-5『where there's Karasu there's Toki』

 

 「笑わせるなッ!」

 

 ベノムマキアが両手を振り上げたのを見え、後方へと下がりコユキの下へ合流する。トキも同じ考えだったのか俺と同じくぴったりと動きについてきた。

 

 「餓鬼が一人増えたところで所詮は()()()()。マキアを降せない以上、お前らの手なんぞ届きやせん!」

 

 難しい言葉を使うものだ。意味は知らないが何となく馬鹿にされているのは分かる。

 

 コユキの襟を掴んで起き上がらせると、彼女は脇腹を拳で小突いた。どうやら土壇場で助けた時に、瓦礫の中に放り投げたのが気に食わなかったらしい。

 実際普通に助けてやろうと思ったのだが、あの場から避ける素振りの見せない奴が居たせいである。責めるなら彼女を責めるべきだ。

 

 「その前に私を足蹴にしたのも彼女のせいですか?」

 「……おい、お前壊す方法知らないのか?」

 「ちょっと!無視しないでくださいよー!」

 

 ベノムマキアの肩にあるランチャーのハッチが開き、ミサイルが直情へと飛び上がりこちらに降り注ごうとしている。

 傍にあった瓦礫で振り払おうと考えたが、銃を構えたトキを見て彼女に任せてみることにした。

 

 数回の発砲の後、俺たちに迫ろうとしていたミサイルのひとつが爆散した。爆風が続く他のミサイルをも巻き込んで連鎖的にいくつもの爆発が空中で起こった。

 

 動きが単調で一直線に向かっているとて、よく当てられるものだ。見ていたコユキも感嘆の息を漏らしていた。

 

 「……まず、アルカナを外します」

 「アルカナ?」

 「ドクターの作ったエネルギー機構です。その力がコックピットを中心に機体全体を覆っているため、まずはそれを外さない限り外部から受ける衝撃を緩和されます」

 

 「既に2本が破壊されてますので、……あとせめて3本は破壊したいです」、その言葉を聞いてやはり背中に生えた物が重要だと分かった。

 

 彼女を入れれば三対一、背中を取る事は簡単だろう。俺は特に細かい指示など出さず、先に狙われた奴が注意を惹いて背中を取れた奴が破壊するように言った。

 

 俺とトキは左右に分かれる様に離れ、取り残されたコユキはどっちに行くか迷った末にその場からあまり動かずに身を隠した。

 

 「――これでいいかな、トキ……さん?、聞いていい?」

 「なんでしょう?」

 「さっき言っていたアルカナの事」

 

 ベノムマキアに狙い撃ちされているコユキを他所に、俺は周囲に寄せられた瓦礫の山の影を縫うように駆ける。何故か少し言いよどんだモエが通信機に声を入れるとトキの声も入った。

 

 「私が見たデータの中でアルカナの名前は確かにある。だけど装備として形になった物は見つからなかった」

 「……私もドクターの開発の全ては知りません。おそらくメインデータがあるのは彼の手元だと思います」

 

 先にベノムマキアの背中を取ったのは俺だった。飛び出した鉄柱を足場にして高所を取ると、背中に残っているアルカナを撃つ。

 しかし、被弾した鉄格子が火花をまき散らすだけで中を砕いた様子はない。

 

 4門の機銃が俺を見据えて弾丸を打ち出す。即座に瓦礫の山を下り、飛来する銃弾を回避する。機銃の数を減らしておいてよかった。

 

 「だけどアルカナ開発の概要と記録は残ってた」

 「……そういう事ですか」

 「ねぇ、あの中身のは……」

 

 近づこうとしている俺を警戒してか奴は振り返って正面を俺に持ってきた。やはり背中にあるアルカナを破壊されては困るらしい。

 

 だが振り返って死角を作った奴の脇をあの金髪の少女が抜けていった。アルカナを守る鉄格子の目は小さく、ベノムマキアも回るように動いている。それでも彼女は走りながら狙いを定めていた。

 

 「その記録通りだと思います。アレは、人の……、生徒の身体が使われています」

 

 銃弾は鉄格子を抜け、その先で赤熱するアルカナに被弾する。俺の視界からではボタボタと赤い液体が地面に広がって見えた。傷を受けた場所が吹き出る様子はまさしく出血のしてるようだ。

 

 「ドクターは生徒の持つ堅牢さや膂力を求め、生徒自身からそれを得ることが出来ないかと考えたのがアルカナです」

 「へぇ、じゃあ、あれは死んでいった奴らの血か」

 『ユウリ』

 

 先生が俺の名前を呼んだ。だが、その先の言葉が無いことに先生は言外に俺へ注意していると思った。何か言い方が悪かったのだろうか?

 

 「……内容は分かりません。当時、支援者が同席するたび私たちは席を外されていました」

 「支援者ねぇ……」

 

 こんな男を嬉々として支援する奴が居るのか。人の屍を利用する辺り恐らくソイツもまともではないのであろう。

 

 突如、ベノムマキアのは両腕を開くように地面に落とし回転し始める。床を削りながら横から迫る腕を見て、その場で跳躍して瓦礫を支点にしてワイヤー放ち壁に向かって移動する。

 

 身を返して壁に足をつけると、腕で床を削りながら次第に回転速度を上げるベノムマキアに向かって飛んだ。

 タイミングを見計らって向かった先は背中のアルカナに他ならない。横殴りの様に向かって来たソレに向かって蹴りを放つと、根元から折れ曲がって中身があふれ出した。

 

 「残り4本……ばぁ熱っちぃ!?」

 

 中身の液体は回転による遠心力のせいか、外に向かって勢いよく飛びる。掛かった足が熱く焼かれるような痛みを訴え、俺も遠心力の力を貰ってアルカナから離れる。

 

 「バチが当たりましたね」

 「よくあれを直接破壊しようと思いましたね。火傷しますよ」

 「……静かにしろ」

 

 皮膚に触れた所を確かめると、液体そのものはすぐに剝がれたのか熱を少し持っているものの火傷は見られなかった。

 

 「……業腹だがやむを得ない」

 

 操縦席に居る男が静かに呟く。恐らく聞こえたのは注意していた俺だけだろう。

 何をするつもりなのかとすぐに構えると、ベノムマキアの胸の中心が開いて何か鳴動し始める。開いた胸の周囲が弱い赤い光を放ち始め、次第に濃く眩しい物へと変わっていく。

 

 「おいっ!何か来るぞ!」

 「――ッ!狙いを絞らせないでください!」

 『ユウリ、あの時のエネルギー放射だ!』

 

 トキの鬼気迫るような声が聞こえる。ワイヤーを壁に突き刺して上りながら横へと動き続ける。

 先ほどから身に迫る緊張感が消えない。だからこそ、感覚的にわかる。奴が狙っているのは俺だ。

 

 開かれた胸の機械が高速で回転と続け、広がろうとしていた光が収束し始める。発射するタイミングを予測することは出来ない。故に自分の直観にすべてを託した。

 

 ベノムマキアを注視する。操縦席を囲んでいた青色を持ったガラスが少し薄くなっている。その奥に座っている男、ドクターの顔が鈍く光った。

 

 「――ッ!」

 

 ワイヤーを巻き取りながら強引に引っ張り、壁際を真下に向かって急行下する。次の瞬間、この空間がすべて赤い閃光に包まれた。

 

 俺は連絡通路で見たものがもう一度来ると思っていた。だが、床へと激突し見上げた先にあったのはあれよりも二周り程太かった。

 

 俺を狙ったレーザーは被弾する事なく壁を穿った。4秒ほど放たれていただろうか、その光が消えると余波となって熱が地上に叩きつけられる。

 

 だがすぐにその熱は入ってきた外気によって冷まされた。壁に大きく穴が生まれ、その先に真っ暗な夜空と月が室内へと顔を覗かせた。

 

 横なぎに放たれる事を危惧して真下に回避したが、彼は直線で撃っただけのようだった。

 

 「……リーダー?」

 「生きてる」

 

 コユキの声が聞こえ、心配されたのかと思い返事する。

 

 「レーザー、かっこ良くないですか?」

 「……くひひ、ああぁ……、欲しいなぁ射出機だけでも取り出せれば……」

 「いい加減にしろ」

 

 信頼されていると思って受け取るべきなのか、誰一人俺の事ではなくレーザーに夢中だ。

 

 「分かります。レーザー兵器、……いい響きですよね」

 

 ……お前もそっち側だったか。

 

 喜ぶべきことなのか、誰一人あの兵器に恐怖感を覚えないらしい。

 だがあれに狙われる身にもなって欲しい。一度目だけならまだしも、これで命の危険を感じたのは二度目だ。

 

 「おい、あれ何度も打たれちゃ溜まったもんじゃない」

 「一度撃てばしばらくは使えない筈です」

 「なるほど、どれぐらいだ?」

 「……規模によりますが、3分ほどかと」

 

 思っていたより短い。このペースでアルカナを破壊するとしても、あと4回ぐらいは撃たれる事になる。

 この場にいる人数丁度だ。今から一人1回づつアレを避けて貰う事にしよう。

 

 「恐らく狙われるのはまた貴方ですよ」

 「……くそったれ。アルカナを剥がせば簡単に破壊出来るのか?」

 

 俺が出合い頭にかました一撃が、精々装甲をめり込ます程度。アルカナがなければ装甲を貫いて中の根幹ぐらいは破壊出来るだろうか。

 

 「アルカナを破壊するにつれて緩和が弱くなります。……ですが残る複合装甲を破壊する余力はありますか?」

 「……シュトリヒ、持ってきた爆薬は?」

 「あるけど圧倒的に量が足らないね。決め手になる程の火力はだせないよ」

 

 分かっていたが状況が余り良くないな。真っ向から削りきる方法しか見つからない。

 

 このまま作戦を決めあぐねれば、またあのレーザーが撃てるようになってしまう。

 見た感じ発射動作に時間が掛かるように見えたが、俺は何となく発射する規模によるものだと考えた。

 

 できれば接近したとしても長期戦はしたくない。強引にいけばアルカナを2本は破壊出来ると思うがリスクが大きい。

 

 俺の直観が早期的な決着を望んでいた。理由などない。

 

 「……爆薬なら、まだあるかもしれません」

 「ホントッ!?」

 

 モエが興奮した様子で声を上げた。トキは出荷予定だった物が今日、俺たちが来た事によってまだ輸送されていない可能性があると話す。

 エンペラー製の爆薬と聞いて思い出したのはゲヘナでの一件だ。高速道路を軽々吹き飛ばす爆弾なら破壊出来るかもしれない。

 

 「ラパン、シュトリヒを連れて探してこい。それまでに俺たちはアルカナを剥がす」

 「了解です!」

 「……まぁ、私もそれに従いましょう」

 

 曲りなりにも敵だった彼女も異論はないようだ。

 あっちの二人組は手元に残っていた爆薬で出口をこじ開けると、モエはコユキの肩を借りながら出て行った。コユキの方が体格が少し小さいため、発見できたとしてもここまで持ってくるのは大変そうだ。

 

 なるべくこのまま姿を隠した状態で時間を稼ぎたかったが、見上げた上空にミサイルの軌跡が見えた。誰かを狙ったものではない、広範囲に落として俺たちを炙り出すためのものか。

 

 すぐに跳ね起きて回避に専念する。奴もなりふり構わなくなったようだ。

 

 「そこかッ!」

 「……お前の大切な施設なのに、自分でボロボロにしていいのか?」

 

 俺たちが居るのは円柱型の建物だが、二度撃たれたレーザーのせいで、壁がもう三割消えてしまっている。

 

 「しようと思えば何処だって研究は出来る!……立て直したって良い、お前が手に入れば今回の損害以上の価値を得られる!」

 

 彼女より俺が前に出てヘイトを得るべきだろう。ベノムマキアの腕が届く範囲に入り、操縦席に居る奴へ向かって引き金を絞る。

 

 拡散した弾丸が奴を包むような弾幕を作るが、かすり傷にもなりやしない。返される機銃や爆撃が当たらぬよう回避を続けるが、面で制圧するような攻撃は避けるのに限界があった。

 

 「お前たち生徒を見ていると実に嘆かわしくなる」

 

 分かっていたが避け切れなかったミサイルが傍で爆発を起こす。

 直撃を避け咄嗟に身を守るが、強い衝撃と爆炎が全身を包んだ。熱を払いながら地面を転がり、それでも止まって的にならぬよう走り続ける。

 

 「一端の理性もない子供が、キヴォトスで私たち大人より力を持って幅を利かす」

 

 裏を取ったトキがアルカナに発砲するが、分かっていたのか奴は後ろ手に回した腕で銃弾から守った。流石に何度も同じ手が通じる程甘くないようだ。

 

 俺への攻撃が手薄になり余裕が生まれる。背中にあるアルカナには届かないが、装備である機銃かランチャーには手が届く。

 

 加速するように地面を蹴った俺は腕と地面の隙間に滑り込む。ベノムマキアの胸を足場にし、肩まで駆け上がった。

 多くは壊せないと思い、欲張らず右肩に一門残っていた機銃を破壊し離脱する。

 

 着地を狙った攻撃が俺に向かって放たれるが、ワイヤーで着地位置を変えてやれば当たる事はない。

 

 「可笑しいと思わないか?本来、社会とは子供の物ではなく大人の物だ!」

 

 アルカナの赤熱した液体が地面に落ちる。だが破壊したのと同時にトキが腕に払われ、弾かれた体が壁際まで吹き飛び衝突する。残りは3本。

 

 距離を取ったまま隙を伺うが目の前に再び赤い光が集い始め、放たれたレーザーが地面に傷跡を作りながら俺へと迫る。

 

 今まで見た中で一番細い、だが俺の体をのみ込み全身を焼くには十分だ。その場から駆け出し逃げるが、その足跡をなぞるように熱を持った光が追いかける。

 

 「やがてこの兵器が完成すれば、たとえ連邦生徒会だろうと俺を止めることは出来ない!」

 

 跳び上がりワイヤーを使って立体的に回避する。しつこい事にレーザーは止まらず、周囲に線を描くように溶かしていく。

 

 どんどん増え続ける壁の穴を見て、残りのアルカナを全て破壊する方法を思いついた。

 

 「この俺が、このキヴォトスの頂点に立つのだ!」

 「お前みたいなクズが上から物言ってんじゃねーよ」

 「……何?」

 

 追いかけていたレーザーが残光を残して消える。 

 壁に縫い留める様に両腕のワイヤーを放ち、落ちないよう壁に張り付いた。

 

 「自力じゃ敵わないから生徒の力を利用してる癖に、何がキヴォトスの頂点だ。子供の手を借りてるような奴が、背伸びして驕る姿は痛々しいだけだぞ」

 「黙れッ!!」

 

 ベノムマキアから大量のミサイルが射出される。もしかして残っていた全部を撃ち出したのではないだろうか。

 

 追尾するミサイルを壁伝いに回避するのは難しい。だがやるしかない、なぜなら壁の損傷を増やすことが俺の作戦だからだ。

 

 足を壁から放して落下し、弾みをつけてワイヤーを強く引けば、体は更に上の方へと昇っていく。

 なるべく傷のない壁を渡って移動し続けるが、次第に失速した俺はミサイルに囲まれ、爆風に煽られると共に地面へと落下した。

 

 肺が押しつぶされ、全身が衝撃と熱で苦しかった。だがパラパラと砕けた壁とその揺れ感じてほくそ笑んだ。

 

 「その憎たらしい口を消し炭にしてやりたくとも出来ないのが忌々しい。……代わりに全身を焼いてやろう。さすれば流石のお前も起き上がれないだろう」

 

 視界の端でまたあの光が見えた。再び彼はレーザーを放つ気だろうが、俺はその場で動くことなく天井に向いていた。

 

 体は痛むが動けないわけではない。ただ奴の視界が下に向いている方が好都合だから動かないのだ。

 

 地面に横になっているせいか揺れが直に伝わってくる。その揺れは段々と激しくなっていくが、彼は自分の乗っている機体の揺れだと思って気づかない。

 

 「そうやって見下して負けるんだ、お前は」

 「…………揺れている?、まさか――」

 

 天から落ちてきた瓦礫がベノムマキアの肩に衝突する。それもひとつやふたつじゃない。

 

 ――壁が、天井が、この建物が崩壊を始めた。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 頂点を目指しているだけあるのか俺の予想に反して、建物の崩壊による衝突程度じゃアルカナは折れなかった。

 

 しかし、払い除ける様な抵抗も虚しく、物量には勝てなかったのかベノムマキアは次々降る瓦礫に埋もれて姿を消した。

 もう此処は室内とは呼べない程解放感溢れる場所に変わってしまった。隔てるものが全て崩れ落ち、その中でも施設の中央にあたる場所だけが僅かに盛り上がって山になっている。

 

 「……今の、貴方がやったのですか?」

 「……ああ」

 

 さすがの彼女も例に漏れず、生き埋めになりかけていたが、自分の身と共に守る様に降り掛かる瓦礫を全て()()()()()()()()()()()()

 

 本当はあまり人には見せたくは無かった。

 

 だが彼女は既に、俺の体から電気を放出する所を見られている。だから、一度も二度も変わらないと思った。

 

 「……一応、感謝はします」

 「貸しひとつな」

 

 背後に居る彼女が起き上がる。今、彼女がどんな顔をしているか俺には分からなかった。

 

 近くにある落下してきた瓦礫から鉄筋を抜いて構える。両手共に一本ずつ持った細長い鉄筋は真っ直ぐな物とは言えず、捻じれる様に歪み不格好だった。

 

 ベノムマキア事態は生き埋めになっただけで死んだわけではない。俺の耳には今も埋もれたまま何かが駆動している音が聞こえる。

 

 「何か来るぞ」

 

 僅かに盛り上がった瓦礫の隙間から光が漏れ出す。それは一方向のものではない、覆われた全ての瓦礫の隙間から突き抜けるような眩しい光。

 

 「アルカナ、エネルギー波状放出」

 

 一瞬、足元が揺れるのと同時に目の前で赤色の光が爆ぜた。地面の瓦礫がせり上がり、赤色の光が丸みを怯えて膜のように広がりながら俺たちの方へと急速に迫る。

 

 見て直ぐ避けられるものではないと判断した。右手の鉄筋を投げ捨て、踵を返しながらトキの腹を肩に担いだ。

 

 あの光に巻き込まれて打ち上がった瓦礫が、徐々に形を小さくしながら消えていく。それから逃げる様に一目散に走った。

 

 「おい!あれ何処まで追ってくるんだ!」

 「分かりません!」

 「使えねえッ!」

 

 倒壊した建物が全て無くなる勢いで広がると思っていたが、前に後ろ目で見た球状の光が一瞬僅かに綻んだ。

 

 俺は返答も聞かず一言残して彼女を投げ捨てた。反転し向かいだって、俺たちに覆いかぶさろうとする瓦礫の壁に向かって跳び上がる。

 

 踏めそうな足場を直感的に選び駆け上っていく。天辺に位置していた瓦礫を踏み光の中心の上空へと飛び込んだ。

 近づくにつれ空気が急激に熱を帯び始める。目の前の触れるか否かの間際で赤色の光が霧散した。

 

 「なっ!?」

 

 奴は膜が晴れると同時に現れた俺を見て驚く。慌てたベノムマキアは直ぐに動き出したが、打ち落とそうと出された腕を避け背後まで降下する。

 

 持っていた鉄筋をアルカナを囲う金網の穴へと突き刺す。先が尖っているような鋭利ではなくとも、表面を砕いたような手ごたえはあった。

 

 そのまま地面に降り立ち、すぐにその場を跳躍した。足元の地面がベノムマキアの手によって抉られる。

 

 「終わりにしてやる!」

 

 掴んでいた地面を奴は俺に向かって振り上げた。捲れ上がった土は僅かだが、投げられたそれらは正確に俺を狙っていた。

 

 空中に居た俺はワイヤーを近くの地面に撃ち込んだ。しかし力強く引くと同時に、確かに刺さっていた筈のワイヤーが抜けてしまった。

 

 『地面が柔らかい、ある程度の硬度がなくてはそうなる』

 

 「嘘だろ」、という暇もなく俺の体に土が衝突する。

 確かに柔らかいのか痛みは殆ど無く、分かっていた事もあり地面へ落下しては直ぐに起き上がる。だが、足元が暗い影に染まるのも早かった。

 

 「あだっ!?」

 

 頭上から落とされた手によって地面に押しつぶされ、そのまま全身をきつく締め付けられた。体が持ち上がり視界が晴れると目の前にあの男の姿が見えた。

 

 「残念だったな。俺の勝ちだ!」

 

 全身が強く握り潰すような圧力が掛かる。僅かに軋むような圧迫感はあるが痛むほどではない。

 

 「はっ、なせっ!」

 

 抜け出そうと手の中で腕を押し広げ体を抜こうとするが、自分の両腕を外に出すのが精いっぱいで下半身が抜け出せない。これは……、骨を外しもしない限り抜け出せない。

 

 絶えずに力を入れの指を捥ごうとするが想像以上に硬い。ベノムマキアの胸のハッチが開き赤い光を帯び始める。

 

 「悪いがそのまま頭を焼かせて貰うぞ!」

 「――ッ!」

 

 ――コイツッ!機体ごと俺を焼くつもりか!

 

 急いで脱出しようと藻掻くが掴まれた手と自分の体に余裕は一向に生まれない。

 暴れている拍子に装甲の隙間に手が入り込んだ。俺は無我夢中でそれをひっぺはがし、強引に装甲を千切り取った。

 

「おらあああッ!!」

 

 手から露出した上半身だけで俺の手ほど分厚い装甲を振り投げた。狙いは胸のハッチだったが緩やかな放物線を描いて操縦席へと向かっていった。

 

 分厚いガラスが割れる時、きっとこれに似た音が鳴るのだろうか。パリン……何て軽く軽い音ではなく、岩壁を砕いたような響きの後、バキバキと残響を長く残した。

 

 俺の手から放たれた装甲は操縦席のガラスへと深く突き刺さっていた。もう少し深く突き刺さっていれば奴の顔を削ったのかもしれない。

 

 突き刺さっていた物が抜け落ち、空いた隙間から奴の肉声が漏れて聞こえた。

 

 「……流石に今のは肝を、――――ッ!?」

 

 言葉を遮るように二枚目の装甲が突き刺さる。光が集う中心の胸を狙っているのだが、私怨かそれとも偶然か奴の下へとしか飛んでいかない。

 

 俺を掴む腕が揺れて狙いがブレてしまうが、しつこく3枚目の装甲に手を伸ばし始める。今投げたのは人差し指の物、次は中指の装甲だ。

 

 「人の話を!最後まで聞けないのかお前は!!」

 『アルカナの数を減らしたおかげか、機体全体が遥かに脆くなっているぞ』

 

 樹皮を剥がすように手に取った装甲を投げ続ける。だが、ベノムマキアの体に浅い傷を残すだけで止まる気配がない。

 

 胸へと集積したアルカナのエネルギーが風を起こし、周囲の風が機体に向かって吹き荒れる。次第に勢いを増す風の音がやけにうるさく感じた。

 

 投じた最後の一枚が風に煽られて地面へと転がる。俺の近くに剥がせそうな装甲は無くなってしまい、もっと身長があればと今ばかりは言わずにはいられなかった。

 

 「ハハッ!此処までだな。お前さえ処理できれば残りは何ら脅威ではない!」

 「……ッ」

 

 立ち込める風切り音に紛れて奴の笑い声が耳元へ届く、神経が痺れる程の何かが俺にこの場を脱しろと訴えていた。

 

 この感覚は覚えがある。過去にスリで追われ捕まり、体を押さえつけられた時と似た痺れだ。だとしたら非常に不味いだろう、その後死ぬかと思うほど顔と体を殴りつけられた覚えがある。

 

 装甲の剝げた指元を叩き折ろうと拳を振り上げる。しかし、振り下ろす事は無くそのまま形のまま固まった。見上げた先の夜空に星とは違う小さな光が動いて見えたからだ。

 

 やけに風の音が騒がしいと思っていたが、俺が気づかなかっただけで音の発生源はベノムマキアだけではなかった。

 

 「あれは、飛んでいるのか?」

 「まさか……」

 

 ソレは俺が居る所より遥かに高い所で飛んでいた。

 3枚の羽根の2対が高速で回転しており、頭上まで来ると緩やかにUターンし空に浮かぶように静止した。

 

 向きからして後方になるだろう所が上下にゆっくりと開く、端から見えたのは風で遊ばれる桃色の毛先だった。

 

 「リーダー!何とか衝撃に備えてください!」

 「……は?」

 

 コユキは少し慌てた口調で真下に顔を覗かせた。風に煽られて落ちぬ様に中で何かにしがみついているようだが、此処からでは全く分からない。

 

 「くひひ……じゃあリーダー、行くよー」

 

 シュトリヒの声を聞いて察した俺は、慌てて開こうとしていた機体の指を自分の身に引き寄せる。

 

 コユキが奥へと隠れると代わりに細く長い箱が姿を現した。

 開いた口から吐き出されるように全体が空中に放り出され、ベノムマキアと俺に向かって落下を始める。

 

 あの空を飛ぶ機械の中を殆どを占めていただろう箱を見て、今さっき感じた痺れとは別の危機を感じた。身軽になったのか落とすだけ落としてそそくさと遠くへと逃げようとするコユキ達を見て叫んだ。

 

 「オイッ!これ絶対ヤバイ奴だろ!」

 「……シュトリヒさん。今落とした奴この前のと同じ物って言ってましたけど、リーダーは大丈夫なんですか?」

 「んーー?まあリーダーなら大丈夫でしょ。……まぁ、あるだけ詰めたし、()()()()7、8()()()()()()()()()

 

 粘ついた笑いと共に聞こえた内容に「いい加減にしろ」と返したかったが、このまま起爆すれば流石に爆発に巻き込まれる。

 

 逃走は間に合わない上に脱出できない状況だ。何とか俺だけ爆風を防ぐ手段を見つけなければいけない。

 

 『落ち着けユウリ、爆薬の量が増えたとしても威力が素直に比例するわけではない』

 「じゃあ実際どれぐらいなんだ?」

 『……2倍ほどだろうか』

 「結局ヤバ……うぉっ!?」

 

 ベノムマキアが空を仰ぐように動き出し、その勢いに不意を突かれて舌を噛みかけた。見れば狙いを俺から空へと変えたようだ。

 

 「馬鹿共め!、このまま起爆する前に燃えてしまえ!」

 

 それは奴の身だけではなく、俺の事も助ける事になるのだが良いのだろうか。

 

 しかしこうなってくると、起爆しない方が俺の身は助かるが肝心のベノムマキアの破壊できず、起爆してしまえば破壊出来たとしても俺の身にまた被害を被るだろう。

 

 レーザーを発射しようとするその直前まで俺はどう動くかを考えようとしたが、遠方に光るノズルフラッシュを見て答えが決まってしまった。

 

「先生、地面に落ちてる奴を全部」

『了解した』

 

 そういえば彼女は殴り返したいと言っていたな。俺の思っていたのとは違うが、きっとその形の方がこのキヴォトスの生徒らしいだろう。

 

 一発の銃弾は俺が作った隙間を通り抜け、奴の顔へと直撃し一瞬の悲鳴と共に崩れた。本当に上手いもんだ。自分の拳ではないが、これで彼女の胸の内も晴れることだろう。

 

 ベノムマキアは空を見上げたまま胸に集まった赤い光を放とうとはしない。それでも、打って変るように青い閃光が辺りを一瞬だけ埋め尽くした。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 「けほっ、ごほっ!――クソっ、本当に頭おかしいだろアイツ!」

 

 全身を包んでいた鉄の繭が剥がれ地面へ転がる。外はベノムマキアの残骸が炎をあちこちへと伸ばしており、次第に時がたてば消えそうな勢いだが、燃え盛る炎が黒い煙を作り出しては夜空へと舞い上がらせていた。

 

 視界の殆どが火の海だ。何か液体そのものが燃えているのか、何もない地面がただ燃えているのは不思議な光景だった。

 

 振り返ると白かった筈のベノムマキアの装甲は黒く煤だらけになっていた。

 

 「本当に頑丈だなコイツ」

 

 起爆する瞬間、俺はベノムマキアの手の中で身を小さくさせ、一度投げ捨てていた装甲を全て回収し、盾になるよう全方位へと出したのだ。

 

 僅かな隙間を瓦礫や土で埋めたせいか、見た目がさながら卵か虫の繭のように楕円状になっている。

 

 外の空気は熱くて息苦しさを感じる。さっさと彼女たちの下に戻り、二人共々張り倒してやりたかった。だが、それよりも向かったのは最後にあの男の頭を撃ちぬいた彼女の所だった。

 

 「確か、……あっちか」

 

 爆風はかなり広範囲に及んだのか他の施設が一部崩壊し崩れている。あの時見えたノズルフラッシュの位置を頼りに、まだ火の手が及んでいない炎の合間の通って行く。

 

 『なるべく姿勢を低くして煙を吸わない方がいい』

 「……?。分かった」

 『だが、君なら何ともない筈だがな』

 

 爆心地から離れるほど火の手の数が減っていき、押し出された瓦礫の山を越えると炎の姿はどこにもなかった。

 

 彼女の姿を探すように足を踏み入れると、死角にあった物陰から手が伸びたのを感じ、後ろ手に腕を掴み適当な所へと放り投げた。

 

 「くッ!……」

 

 少し長い金色の髪がふわりと舞うと、彼女は空中で姿勢を取り戻して地面に足をつけた。俺は彼女を見据えて警戒したが、思っていた追撃が来ずただ互いに目を見合わせるだけだった。

 

 「……何故、私の所へ?」

 

 少しの沈黙の後彼女は小さく口を開けた。炎の明かりも遠く、施設全体が半壊したせいか光となるものは月明かりだけだった。元より目が良い俺は明るさ何て関係がなく彼女の顔はよく見えた。

 

 「顔を見に。……スッキリしただろ?」

 「……少し、胸のつっかえが取れたと思います」

 「そうか」

 

 本当にただそれだけだった。彼女は報復しても意味何て無いように言っていたが、俺はそうだとは思わない。

 

 俺は幸福と不幸は均等に訪れるべきだと思っている。

 

 幸福のまま死にたいとは言わない、ただ生きている内に、どんな悪運や不幸に付きまとわれようとも、その数と同等ほど幸福が必ずあるべきだと俺は信じている。

 

 もし幸せのひとつも感じられず、不幸であるまま死んで終わってしまうが常なら。そんなの世界、あまりにも冷たくて、残酷で、無常すぎる。

 

 だから俺は泥水を啜り惨たらしい姿になろうとも、あの町の中で必死に生き続けていたのだから。

 

 「……何ですか」

 「いや、何でもない」

 

 きっと彼女を助けてしまったのは、認めたくなかっただけなのだろう。俺には及ばないが、彼女だって良い人生を送ってるとは思えない。

 

 空からまた風を切る音が聞こえる。彼女たちが乗っていた機械がこちらへと近づいて来ているのが分かった。

 

 俺の場所を何故知っているのか分からないが、迎えに来てくれるのなら楽でいい。……それに、あの機械には少し興味があった。

 

 「リーダー!」

 

 真上まで来たその機械は徐々に高度を落とすと、目の前の地面から少し浮いた頭の高さ程で止まる。回る羽根が下に風を送り出し、地面へとぶつかった風が俺たちへと吹き荒れた。

 

 正面はガラス張りになっておりそこにモエの姿がある。俺はコユキが居る後方の開いた所へと向かって飛び乗った。

 

 「来たなこの野郎」

 「ひええぇえ、待ってくださいよ私だってちょっとは止めたんですよ!」

 「ちょっと?」

 「ちょちょ痛いです!痛ッ!いやマジで痛あああああ!?」

 

 彼女の小さな耳を両方軽く摘まみながら、互いに反対方向へと引っ張ってやる。痛みから逃れようと必死に藻掻いているが、俺に何したって放させることは出来ない。

 

 その様子を奥から見ていたのか、振り返ったモエの姿があった。ケラケラと笑っているが、お前は後でコユキ以上の目に合わせるからな。

 

 「怒んないでって、それよりこんな大爆発を起こしたんだから、すぐにでもヴァルキューレが飛んで来るよ」

 「……ずらかるぞ。依頼主に報酬を受け取りに行く」

 「はーい」

 「ちょっ本当にッ、もう放してくださいって!」

 

 耳から手を放すとコユキはその場で耳を抑えながら転がった。めそめそと小声で文句言っているが、この羽根の回る轟音の中でも俺には聞こえているからな。

 

 だからサイレンの音が僅かに聞こえる。俺は奥へと入ろうとして、外にいる彼女へと振り返った。すっかり忘れていたのだが、彼女に渡す物があったのだ。

 

 服の内から取り出す振りをして投げ渡す。気づいた彼女は慌ててソレを両手で受け取った。

 

 「俺が殴った時にすっ飛んでいっただろ。返してやるよ」

 「……。」

 

 徐々に地面が遠くなり周囲の景色が後方へと流れだす。外へと開いていた入り口がゆっくりと締まると、中は少しだけ静かに感じた。

 

 踏みしめる床がふわふわと感じ、何処かへと進んでいる感じが妙に体を掻き立てる。

 壁に外へと丸く膨らんだ小さな窓を見つけて顔を近づける。雲より高いってわけではないが、目下で右から左に流れる街の景色は見ていて飽きない感じがある。

 

 「この機械どうしたんだ?」

 「痛たた……、機械ってヘリの事ですか?シュトリヒさんが運転できるって言って拝借させて貰ったんですよ」

 「すげぇな……ヘリ、空飛んでやがるぜ」

 

 コユキの声が耳元の無線機から聞こえる。真上で回っている羽根がとんでもなく騒がしいため、マイク越しに話しているのだろう。俺にとっては彼女の声が重なって耳に届くだけだが。

 

 運転しているだろうモエまでも俺を見てる顔が生暖かい。二人とも表情は見えなくても、俺に対して妙に気を使っているのが少しばかり煩わしかった。

 

 「セキュリティが掛かっていた筈ですが、よくあの短時間で突破できましたね」

 「ラパンが一発で開けたからね」

 「そうです。これも私のおかげと言っても仮言では……」

 

 機内に見知らぬ()()()の声が通る。驚いて真横を向くとピッタリと俺にくっついて隣に居る、バイザーをつけた金髪の少女が居た。

 

 息を飲んで誰も言葉を話さない中、少しの間をヘリの音が埋めると次に口を開いたのは俺だった。

 

 「……何でここに居るんだ?」

 「それは貴方に殴られた借りを返してないからですが?」

 

 ……そういえばあの時そんな事を言っていたな。

 

 そう言っても、あたかも当然の様に隣に居る彼女に、俺に危害を加えようとする気配を感じない。本当に借りを返したいと思っているようには見えなかった。

 

 コユキとモエが驚いて悲鳴を上げるが羽根の音でかき消される。彼女は無線機のマイクを手で包むと俺だけに聞こえる様に口を開いた。

 

 「私の事はトキと呼んでください。リーダー」

 「……お前それ本名だろ」

 「トキと呼んでください」

 

 理由は分からないがやたら押しが強い。何でどいつもコイツも我が儘な奴ばかり集まってくるんだ。

 

 『中心に居る人物が一番我が儘だからでは?』

 「……お前、案外図太い性格してるだろ」

 「そうでしょうか?」

 

 薄暗い街並みに光が差し込み始める。何で付いてきたのか分からないでもないが、ここに居てもトキの願いが叶うとは思えない。そう尋ねると、トキは困った様にバイザーの位置を弄り始め押し黙った。

 

 「……私は、学園に通いたいので無く――」

 「……?」

 「――なんでもありません。……ただ、この借りを返すまで、此処に居させて貰いますからね」

 

 ……返せるものならな。

 

 俺たち4人を乗せたヘリは、サイレンの音とまだ燃え尽きぬ残骸から逃げる様に薄明の朝焼けへと溶けていった。

 

 

 

 「信じられませんっ!何ですかあのふざけた大人っ!」

 「ラパンうるさーい、あっおじちゃん卵ひとつ」

 「……あいよ」

 

 コユキに叩かれた机は上に置かれた皿や箸が僅かに弾ませた。汁の張ったおでんが静かに波紋状に波打つ、コユキはまだ今朝の事にご立腹だった。

 

 串打ちされた肉をフォークで抜き取り口に入れる。噛むとほんのりと湧いてくる肉の油が、おでんの汁の優しい甘さと溶け合って何とも言えない味だ。

 

 カツカツと音を立てて皿を小突いていると、ふと隣から俺の皿へと大根を入れられる。目を向ければトキが自分の大根を俺に移したようだった。

 

 「嫌いなのか?」

 「いえ、肉だけじゃなく野菜も食べたほうが良いですよ」

 「食えれば何だって良いんだよ」

 

 ブラックマーケットの寂れた商店街の真ん中、一仕事した後はいつも此処に来て飯を食うのが慣例になっていた。

 

 小さい屋台の暖簾の中は俺たち4人で一杯で、これじゃあ他の客は入ってこれないだろう。他の客を俺は見たことがないけども。

 

 「あれだけ危険な目にあったのに、報酬が減らされたの意味分かんないじゃないですか!」

 「カイザーからの時点で何となく察してたけどね。依頼も完璧って訳じゃないし、……くひひっ私は最後のアレが見れたから満足かなぁ」

 

 一番危険な目に合っていたのは俺だろ。単独潜入して、やたら腕の立つ用心棒を退けて、目的だった兵器を抑え続けた後に破壊する。殆ど俺の功績じゃねーか。

 

 そう口へ出さずに一人胸の内で毒づく。当の本人が隣に居る手前、目の前で行ってやるほど嫌味ではない。

 

 隣でちびちびと汁啜り見た目通りの大人しさで佇むトキだが、時折コユキとモエの方へと視線が流れており、本人は本人で気まずさを感じているようだった。

 

 「……思ったより出汁の味が強いですね」

 「分かるか嬢ちゃん。今日は関西風に作ってんだ」

 

 ……俺の気のせいかもしれない。やっぱり表情がイマイチ変わらない彼女の気持ちを読み解くことは難しそうだ。

 

 「また一人増えてえらく驚いたが、今度の子は真面目そうでいい奴じゃないか」

 「見てくれだけだ」

 「酷いです。あんな熱烈に誘ってくれたのに」

 「お前勝手に乗り込んできたよな?」

 

 ハンカチを片手に無表情で擦り寄ってくるトキを片手で押し返す。俺は良いから向こうで3人仲良く喋ってろと言っても中々聞き分け悪かった。

 

 その様子を見て何が面白かったのか、おっちゃんは静かに笑っていた。寡黙で不愛想な表情が笑っている所を見たのは初めてだった。

 

 滅多に変わらないその液晶はいつもより優しい表情をしている。アンドロイドである彼の方が、トキより感情を伝えるのが上手いんじゃないだろうか。

 そんな怪訝な思いが顔に出てしまったのか、目が合うとおっちゃんの表情は元の不愛想な物へと戻ってしまった。

 

 「……顔に出てたか?」

 「今日見てきた奴らの中で一番だったね」

 

 顔を見せない奴らはどいつもコイツもロクでなしだったよ。

 

 「……いやな、少し嬉しくてな」

 「客が増えた事がか?」

 

 素直に聞いてみるが黙り込んでしまい、返ってきたのは頷いたのか首を振ったのかも分からない曖昧な態度だった。

 

 誤魔化し代わりなのか俺の皿に巾着が2つ程入れられ、俺もそれを黙ってフォークで突き刺した。中に入っていたのは白く弾力のある物だった。

 

 「まあ、なんだ。結局お前たちは何の集まりなんだ?」

 「そうですリーダー!今こそ私たちのチーム名を決めるべきですよ!」

 

 やっと出た代わりの話題は俺たちの事だった。突然コユキが湧きだって会話に交ざってきたが、俺と同じく踏み台を使っているため足を滑らせかけていた。

 

 俺たちのチーム名?集団としての名前か、名が知れ渡ればその分目立つし俺は反対だったが、彼女たちは皆違ったらしい。

 

 「”フレミッシュ”何てどうですか?」

 「あの大きい兎?」

 「知らん、反対」

 「私は反対です」

 

 「”ツァーリ・ボンバ”ってどうよ?」

 「絶対に言うと思いましたよ」

 「知らないが絶対爆弾の名前だろ」

 「私は反対です」

 

 「……”フリーメイソン”」

 「ド定番な名前出てきましたね」

 「それ教科書で出てくる奴じゃん」

 「知らん、反対」

 

 代案も出さずに却下を続けていると俺の事を次第に無視するようになり、しれっとあの二人の輪に入ったトキ含め3人でキャッキャと話し始めた。

 

 彼女たちは何が何でも名前を付けたいらしい。分かっていると思うけど、リーダーは俺の筈なんだよな。

 

 「……何というか、……若いな」

 「いつの間にか出来た寄せ集めだからな、纏まりがあるはずもない」

 

 空になった皿を差し出すとまた他の具をよそってくれる。真面なのは俺とおっちゃんだけだ。

 

 このまま変な名前になるぐらいなら、付けないでいてくれた方が本当に助かるのだが、どうしてもって言うなら俺が決める。

 

 「えっ、じゃあリーダー決めてくださいよ」

 「まあリーダーが案があるならそれでいいしね」

 「割と何でも良いんです」

 「何なのお前ら?」

 

 少し頭を捻ると丁度今朝、それっぽい言葉を耳にしたのを思い出し、もうそれでいいんじゃないか考えた。奴らが名づけの様になってしまうが、それも含めて少しひねくれている方が俺の好みだった。

 

 「”烏合の衆”」

 

 屋台の中がしんと静まり返り、見れば3人とも同じようにが目を丸くしていた。割と良いネーミングセンスだと思うのだが、何故か彼女たちの反応はイマイチだった。

 

 みんな同じ感想なのか、それぞれ気まずそうに口を開き始めた。

 

 「……何というか、別に良いとは思うんですけど」

 「リーダー、なんか鳥好きだよね」

 「言葉の意味は理解していますか?」

 『よく難しい言葉を覚えられたな』

 

 「……あーもう、うるさい、うるさい、烏合の衆で決定な。ハイ、終わり」

 

 皿縁に口つけながら立たせて汁と飲み干すと、叩きつける様に皿を机に置いて屋台を出る。金は先に払ってるし、足りなかったとしても最後に店を出た奴が払うだけだ。

 

 慌てて暖簾をかき分けて出てくる彼女たちの事も待たない。どうせ後を追いかけて、横並びになって歩く事になるのだ。

 

 俺が先に先頭を走り、その後を彼女たちが追いかける。それが、いつもの事なのだから。

 

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 

 ラパン、シュトリヒ、トキ、そして俺ことカラスは今日この日から()()という間を共に過ごす。”烏合の衆”の名を持ち、報酬次第で犯罪も辞さない過激な犯罪集団としてキヴォトスを過ごした。

 

 

 

 

 ――その時の俺は、自由への代償と、……自分の持つ力の因果を理解していなかった。

 

 

 『Vol.1 空を知らぬ雛鳥たちのバードハウス』

 

 




全部で四部構成、この話で一部の前半です。
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