機械たちは明日に夢を見るか?   作:akuriru14

3 / 29
2-1『気の抜けたジュース』

 

 朝日を見た後、俺はミレニアムサイエンススクールという学園を探索していた。

 

 『ミレニアムは科学技術に富んだ学園だ。キヴォトスでミレニアム製と謳うだけで、信頼と納得ができる程の技術力がある』

 

 言い方を見るに、それぞれ学園ごとに特色があるのだろう。

 それを裏付ける様に頭上にはモノレールと言われる鉄の箱が走り、ちょくちょくと俺の脇を色んな小型機械が行きかっている。

 進むにつれて人の数が増えていく、廃墟で見たオートマタとは違う人間味のあるアンドロイド達や、毛が生えた犬猫の種族の人たちも居る。それを含めても、大半が頭にヘイローを掲げた少女達が一番多かった。

 

 彼女たちをよく見ると地域柄なのか、不健康な程線が細く、肌の色が病的に白い人が多い。

 そして殆どの少女達が拳程の大きさの板を、食い入るように見つめながら歩いている。不用心で隙だらけだと思ったが、そんな彼女たちの傍には当たり前の様に銃火器があった。

 種類や形は点でバラバラだが、見る限りの全ての生徒たちが手の届くところに銃を置いている。

 

 先生が言ってた様に、キヴォトスは過激なところかもしれない。

 

 「……でも、常に気を張っている訳じゃないな」

 

 人の流れを観察しながら歩いていると、対面に2人組の生徒が見えた。談笑に夢中なのか俺の事が視界に入っていない。

 丁度いいカモを見つけ、早々と彼女達の間に肩を割り込ませた。体格の差はあったが倒れることは無かった。

 

 「んで、今日の――痛っ」

 「おっと、悪い」

 「……いや、こっちこそ前を見ていなかった」

 

 二言交わしてそのまますれ違う、振り返ると俺が少し見上げる形で目が合った。表情を見てわかる、この少女達は危険意識が薄い。

 互いに足を止めずそのまま距離を離れ、彼女達が振り返るのをやめたのを確認して走り出した。

 

 いくつかの角を曲がり、ポケットから彼女達の物を取り出した。何か入っていると思った場所に手を滑らせたが、あったのは彼女達が見ていた板と小銭入れだろうか。

 中には硬貨が数枚入っているが、俺はキヴォトスの通貨の価値を知らない。

 

 「これ何が買えるんだ?」

 『……240円、安いパンなら2つ買えるんじゃないか?』

 「しけてんな」

 

 ポケットに小銭をしまい入れ物は捨てて、板くるくると回していると独りでに液晶が光った。

 明るくなった画面には4桁の数字と青空の映した写真が表示されていた。適当に画面を触れば板が震えるのと同時に暗証番号を求められた。

 

 「先生、これは?」

 『それは携帯通信機だ。その中でもスマートフォンと呼ばれる高機能な携帯電話だ』

 「……通信機器ねぇ」

 

 画面に出てきた数字を適当に押すと4回目で携帯が震え、打ち込んだはずの数字がリセットされた。つまり、この4つの数列の暗証番号を解かないと使えないのだろう。

 

 道行く人達はこれと同じ物を見つめていたが、あれは連絡を取り合っていたという事だろうか。

 どうしようかと考えていると、携帯を持っている右手が違和感を感じた。

 

 指先が少し熱を持ち始め、咄嗟に携帯を手放そうとしたが、それよりも早くバチバチと手から携帯へ、電気が走った。

 驚いて手を離した携帯は地面を転がり、明るかった画面は真っ暗なものへと変わった。

 

 「何だよいったい」

 『拾って確認してみろ、使えるようになっているはずだ』

 

 先生の仕業だと知り、口からため息が漏れた。携帯を拾いなおすとまた画面が明るくなり、暗証番号を求められることなく画面が変わった。

 細々とゴチャついている画面だったが、その裏は灰色猫の写真が映っていた。持ち主は猫が好きだったんだろうか。

 

 「今何をしたんだ?」

 『ハッキングしてロックを解除したんだ』

 「はっきんぐ?」

 

 初めて聞いた言葉をそのまま聞き返せば、言葉を選んでいたのか遅れて返事が来た。

 

 『……私が中に入って乗っ取ったと思えばいい』

 「なるほど?」

 

 そんな事も出来るんだなと軽く思って居たら、先生は朝焼けを見るために入った建物も、俺が知らないうちにハッキングしてたらしい。

 

 だけど、建物に入る時は今の様な現象は無かった。機械の事は全く分からないが、何か理由があるのだろうか。

 

 「んで、これで何が出来るんだ?」

 『主に連絡を取り合う物だが、何か調べることが出来たり、地図などを見ることもできる』

 

 こんな小さい機器で、それらが出来るのは凄いのだろうが、全部俺には必要ない物だった。連絡も、地図も、調べることも全部先生がいるのだがら。

 どっかジャンク屋探して売ってしまおうか、使い道が指の上でクルクルと回す玩具にしかならない。

 

 『ユウリ、中に電子通貨が見つかった。その携帯で金銭を払うことができるぞ』

 「へぇ、いくら?」

 『5000円程だ、パンが35個ぐらいの額だ』

 「よし、一番近い店に行こう」

 

 仕組みは知らないがこれ1枚が財布だと分かれば、俺にとって十分だろう。人の間をするすると抜けて、先生の案内を聞きながら颯爽とその場を後にした。

 

 

 ◆

 ◆

 ◆

 ・

 ◇

 ◇

 ◇

 

 

 先生が案内したのはコンビニエンスストアと呼ばれる、色んな種類の物を取り扱っている小売店だそうだ。24時間営業しているらしく、大体の人は困ったらここに来るそうだ。

 透明なガラスの扉の上には青いフォルムで店名が白く刻まれており、名前はエンジェル24と言うらしい。

 外側の壁はすべてガラスで中に入らなくても、店内の様子を伺うことができる。

 

 「24時間やってる店は初めて見た」

 

 近づくと勝手に開くドアを通り、棚に並べられた商品達をゆっくりと見て回る。箱や包みに入った色とりどりの商品を見ていくが、見たことない物だらけで食べ物かどうかも分からなかった。

 

 ふと物騒な物が目に入り足を止めた。そこには大きさごとに分けた銃弾と弾倉、手榴弾などが棚1つ分陳列されていた。

 

 「おい、銃が売ってるぞ」

 『キヴォトスでは定番だ。誰もが使う消耗品な故に買い手が多い』

 

 常識の違いに衝撃を受けながらも店内を周り、親しみ深いコッペパンを見つけることが出来た。

 棚に置かれていたもの全部を手に取り、そのまま出口に向かった。

 

 『待て、そのまま行ったら唯の窃盗だ』

 「……そうだったね」

 

 先生に止められカウンターへと寄る、程なくして水色のエプロンをつけた生徒がやって来た。

 パンを全てカウンターに置き、携帯も一緒に上へ出す。

 

 「それで、どうやって払うんだ?」

 「え?」

 

 突然喋り出した俺に、店員は少し驚いていた。そうだった、先生は俺以外の人には見えないし、聞こえないだろう事を考えてなかった。

 

 それが起きてから此処までの癖で、店員の前でつい話しかけてしまった。

 彼女は俺に何と言ったか聞き返してくるが、返答に困って話さない俺を見て、首を傾げている。

 

 『……私が今から言う事をそのまま復唱しろ』

 

 伝わらないが心の中で「分かった」と返事した。

 それから先生の言葉をそのまま復唱し、時折り来る指示に従って会計を進めた。

 店員からパンの入った袋を手渡され、それを受け取ると袋の音を立てながら逃げる様に店を出た。

 

 店から出るや否や袋から1つ包を取り出す、見た事ない文字で何か書かれていて読めないが、透明な包の中がパンだと丸わかりだった。

 

「これ普通のパンだよな?」

 

 パンを押すと俺が知っているものより遥かに柔らかい、それでいて表面が焦げ1つない綺麗な土色だ。

 

『普通のパンだが、それは中にジャムが入っている』

「これジャム入っているのか」

 

 ぱっと開け方が分からなかったが、指先で引き裂くように力を入れると、余りにも簡単に開いてしまった。

 力を入れすぎたのか中に入っていたパンは、大きく裂けた所から地面に落っこちた。

 

「ありゃ、開け方が悪かったか?」

 

 足元に落ちたパンを拾い上げ、マスクを上にずらしてそのままパンに齧りつく。

 初めて食べたキヴォトスのパンは、ふやかさす必要がないぐらい柔らかくふわふわとしていた。

 俺が知っていたパンとはまるで違い、あっという間に手から無くなった。

 

「何か初めて飯を食べている気がする」

『目を覚ましてからずっと腹を空かしていたからな』

 

 次へ次へと食べ進める。何個か種類が違う物もあったが、違いがあまり分からなかった。

 空になったゴミをその辺に捨てながら、当てもなく食べ歩く。

 

「……そういえば、先生は俺が盗んだりする事は嫌か?」

 

 さっきのスリは何か言ったり聞いたりする間もなくやったが、先生は非道な行為に何か思うのかが気になった。

 

『何も思わない訳ではないが、基本的に私は君に何かを強制しない。君が思う様に行動して構わない、何かあれば私を頼ればいい』

 

 正直な所、先生は否定的な事を言うと思ったが、あっさりと認めてくれた事に驚いた。

 それほど俺を尊重してくれているのか、それともキヴォトスでは日常的なものなのか、そんな事を考えていると、いつの間にか人集りの多い大通りに出た。

 

「ここは?」

『直ぐ近くにモノレールの出入り口がある。だから此処に人が集中するんだ』

 

 人が行き交う通りを見ながら、最後のパンを頬張って、残ったゴミを纏めて近くの茂みに投げ捨てた。

 ここまで人が多いと近づいても不審に思いづらく、人混みに紛れて後を追いづらい。恐らく簡単にスル事ができるだろう。

 さっきの携帯にはまだ金は残っている故に、やる必要があるかと考えていると、広場の端で止まっている生徒が目に入った。

 

 不用心に肩がけの鞄を足元に置いており、携帯を少し見つめては周りをキョロキョロと見ている。

 その様子は何かを探してるか、人を待っている様に見えた。

 

 前の俺だったら狙わなかった。その日が過ごせるのなら、無闇にリスクを増やしてまでやらなかった。

 でも今の俺は以前の俺ではない、その事が経験にあったリスクを軽視させた。

 先のスリもそうだ、先生の存在や今の身体能力が、根拠のない安心感になり軽率に行動してしまう。

 

 それでも俺はマスクを下し、フードを深く被りながら彼女達に近づくのだった。

 

 

 ◆

 ◆

 ◆

 ・

 ◇

 ◇

 ◇

 

 

 両肩に肩がけの鞄を背負い、人混みを抜けて走り続ける。

 探索している時から思っていたが、ミレニアムは道が広く、道路が殆ど直線だ。そのせいか、路地裏や細道が滅多にない。

 何度目かの角を曲がりに後ろを振り向き、誰も居ない事を確認してから走りを緩めた。

 

「はぁ、かなり離れたから出会う事はないだろう」

『……君が古典的な方法で、置き引きをするとは思わなかった』

「あんなの引っ掛かる方が悪いだろ」

 

 俺がやったのは唯、指差して彼女達の視線を誘導しただけだ。待ち人を探してると踏んで、声をかけて適当な所によそ見をさせる。

 その隙に地面に置いてあった鞄を、とって逃げる。

 誰にでもできる簡単な方法で、引っ掛からないと感じたら、実行しなければ良いだけで済むのが良い。

 

 まあ、盗まれた事にすぐ気づかれ、追われる事になってしまうのが、最大で致命的な欠点ではある。

 盗めるとこまで良いのだが、逃げ道や人混みなどを上手く使わないと追いつかれてしまう。

 しかしこの走力で振り切れるなら関係ない、運が余程よくない限り追ってはこれ無いだろう。

 

 彼女達から盗んだ鞄を開けると、中に入っていたのは大量の紙に、今持っている携帯より大きい携帯。

 そして、先ほど行ったストアと同じロゴの袋が入っていた。早速手を入れて中を漁ると、液体の音がする缶と堅すぎパンと書かれた謎のパンが入っていた。

 

「何だ堅すぎパンって」

『キヴォトスで人気のパンだ。レパートリーも多く、それは特に買われる事が多い抹茶ソーダ味だ』

 

 俺が買って食べたパンは、信じられない程に柔らかかった。それを何故また堅くしたのだろうか、俺には分からない。

 

 中身は見えないが袋の上から触ると、指2つ程の大きさの固形物が何個か入っている。指で軽く押してみると確かに堅い。

 

 味もよく分からなかった。これが本当に人気なのだろうか。

 ソーダの味は知っている。しかし、抹茶というものは知らない。でも恐らく茶ではあるんだろう。それとソーダを混ぜた味がするパン。

 

 そっとカバンの奥にソイツを眠らせ、缶を取り出してみる。引っ掻き傷の様な絵が描かれ、中を揺すってみると、やはり液体しか入ってない感触がある。

 

「飲料が入った缶、何が入ってるんだ?」

「それは妖怪MAX、糖とカフェインを過剰に入れられた清涼飲料水だ」

「……ジュースって事か」

 

 試しに飲んでみようと思ったが、缶切りが手持ちにない。怪力で穴を空けようと思ったが、先生が缶に付いているツマミを使えば、簡単な穴が開らけれる事を教えてくれた。

 指を上手く引っ掛けてツマミを持ち上げて反対に倒すと、空気の抜ける音と共に缶に小さい穴が開く。そっと香りを嗅いでみると、何とも言えない甘い匂いした。

 

 一口飲んでみるかと、口を付けて缶の底を持ち上げようとすると、中のジュースが小さい音で弾けている音が聞こえた。炭酸水だと気づき、久しぶりの物だと思いながら口に入れた。

 

「――!ぶふぁっ!」

 

 舌に触れたのと同時に俺はジュースを吹き出した。恐る恐る飲んだお陰で、口に含んだのが少量になり助かった。

 最初に感じたのはバチバチとした刺激、ジュースが触れた所のすべてが痛く、口の中で静電気が起こり続けたのかと思った。

 

『急にどうした、気管にでも入ったか』

「……いや、……俺の、……知っている炭酸とは全然違った」

 

 過去に捨てられたソーダ水を飲んだことがあったが、それと比べれば何十倍も強い炭酸だった。咳き込んだ呼吸を整えていると、後から薄っすらと甘かったんだなと味が少しわかった。

 

「はぁ、これは飲めない」

『ユウリにはまだ早かったか』

「……笑ってる?」

『いいや?』

 

 袋の中にはこれがまだ、もう1つあるがこれも一緒に捨ててしまおうか。適当にそこらに放ろうとすると、後ろから大声で呼び止められた。

 

「あっ、居た!君でしょ私の携帯取ったの!」

 

 マスクを付け直してから振り返ると、見覚えのある顔が俺を見て睨んでいた。

 嘘だろと驚いていると、彼女の後方からゾロゾロと生徒たちが現れた。

 先頭の子は少し息だけを切らしているが、後から追ってきたのであろう3人は、手を膝について息も絶え絶えになっている。

 すでに疲労困憊の彼女達も見覚えがある、俺が携帯を掏った2人だ。

 

「何故追ってこれた?」

 

 置き引きした現場からはすでにかなり離れていたし、完全に振り切れたと確信していた。

 

『……恐らく、どちらかの鞄に追ってこれる物が、入っているじゃないか?』

「……?」

『鞄の中に現在位置を特定できるものが入っているんだ』

 

 よく分からなかったが、彼女たちが俺を追ってこれた理由が、この鞄にある事だけは分かった。鞄を放棄して逃げるか、追ってきた物を見つけるか動かないと駄目だ。

 片方は紙だらけだがもう一方は、よく分からない機械部品でどれを追ってきたか分からない。

 

「ねぇ!携帯、あなたが持っているんでしょ!」

「知らんな」

「どう見てもそれ私たちの鞄でしょ!」

「あわっ、頼むそれがないと進級試験が……」

 

 彼女たちは既に、俺に向けて銃を抜いている。比べて俺は素手だ、今の距離で突っ込めば先に撃たれるだろう。逃げても同じだ、次の角までが直線のうえ遠い。

 走って逃げるのは無理だな。周囲の建物はかなり高い、一発で屋上までは行けないだろう。

 手に持っていた缶を足元に置き、両肩にあった鞄もずり落とした。そのままゆっくりと、抵抗する意思がないように両手を挙げる。

 

「悪かったよ。ほらこれでいいだろう?」

「……そこから少しずつ、後ろに下がって」

「分かった分かった、だから撃つなよ」

 

 彼女たちは銃を俺に向けながら近づいてくる。俺は2歩下がった辺りで声をかけた。

 

「そういえば、この缶ジュースは誰のだ?」

「私」

「そうか、……じゃあ、返すよッ!」

 

 地面に置かれていた中身が残った缶を、一番前に居た彼女へと蹴り飛ばす。

 周囲に中身をまき散らしながら飛んでいく缶は、彼女の横を通り過ぎて、一番後ろの子に当たった。

 

「あだっ!?」

「これで目眩しのつも――!」

 

 こちらに向き直した彼女の顔に鞄がぶつかる。機械部品入りの方を投げたから、地味に痛いはずだ。

 俺の抵抗に気づいて彼女達が行動を起こす前に、俺は既に鞄を1つ拾って前へ投げていた。

 

 残った鞄を拾って走り出し、彼女達との距離を詰める。一人の生徒がこちらを狙い発砲したが、察して跳躍して回避する。

 銃を撃った生徒の頭上へ跳ねた俺は、彼女の顔に膝を入れてそのまま押し倒す。そのまま銃を奪い隣に居た生徒へ引き金を引いた。

 

 「いっ、痛だだだ――」

 

 初めて人を撃ったが、制服に傷がついただけで、飛び散る様な血しぶき何て起こらなかった。

 

 「ちょっと、いい加減にしなよ!」

 

 鞄をぶつけられた生徒が、いつの間にか立ち上がって此方を向いていた。

 銃をその場で手放して前へと転がり込む、発砲音が鳴り俺の居た所に銃弾が翳めた。

 転がりながら立ち上がって、缶1つでダウンした生徒の襟元を掴む。それを盾にしながら、銃を撃ち続けている彼女へ接近する。

 

「ちょっ、痛だっ、やめッ」

「あなた人の心ないわけ!?」

「撃っているのはお前だろ」

 

 弾切れで銃撃が止まった瞬間に、掴んでた少女を遠心力で回って投げ飛ばす。避らけれなかった彼女は、投げ飛ばされた少女とぶつかり、2人で道を転がり動かなくなった。

 動ける奴が居なくなった事を確認して、この場から離れようと思ったが、1ブロック先の十字路から地面を滑るように何かがやってくる。

 

 ミレニアムに来て見かけた、中心にガトリング砲がある腰ほどの大きさをしたロボットだ。正面から来る3台だけかと思えば反対からも現れ、気づけば9台のロボットに囲まれていた。

 

 「……け、警備ボット、ひったくりです」

 

 振り向けば俺に撃たれて地面に伏したまま、虫の息の状態で俺を指さす生徒が居た。まだ意識のある奴が居たのか、頑丈すぎて加減が分からない。

 15発程の銃弾を至近距離で受けているにも関わらず、多少の傷と意識が僅かに残る程度なのか。

 

 『ヘイローを見ると良い、彼女達の意識のない間は現れない』

 「なるほどね、4人やったと思ったけど1人だけなのね」

 

 最後、投げ飛ばした奴以外全員に意識がある。しかも、最後の奴はほぼ何もしていない、頑丈さに個人差がかなりある様だ。

 

 「……ピピピッ、鎮圧対象を複数確認、全機一斉掃射」

 「嘘でしょ!私たちも!?」

 

 ロボット達が持っている砲塔が一斉に回りだす。周囲に安全な場所はない、彼女達を盾にしても意味がない、地上で避ける方法はない。

 撃たれる前に垂直に跳び、近くの建物の壁へワイヤーを撃ちこむ。鳴り響く銃声の嵐のなか、身体を上空に引き上げ近くの壁に足を着けてぶら下がった。

 

 目下を覗けば銃弾が至る所で飛び交う中、巻き添えを食らった彼女たちは既に意識を失っていた。道路や標識が一瞬で穴だらけになり、近くにあった店のガラスまで割れていた。

 

 「割と小さいのに地面がボロボロだ。廃墟に居た奴より威力がある?」

 『タレットと奴が撃った弾が違うのだろう。……廃墟にある物を使っているのであれば、今のキヴォトスで使われる物の方が優位だろう』

 「……哀れだな」

 『言ってる場合か?タレットはまだ君を狙っているぞ』

 

 先生の言葉に反応してタレットを見れば、次第に加速していく砲塔すべてが俺を見ていた。

 急いでワイヤーを巻き上げ屋上へ駆け上がっていく。

 俺を鎮圧さえできればいいのか、通った壁をなぞる様に銃弾が追ってくる。俺の背後では、割れるガラスと砕けた壁がさぞかし綺麗に舞ってる事だろう。

 

 向かってくる銃弾から逃げるように屋上に滑り込んだ。鞄の中に手を入れ、中にある物を手当たり次第に掻き出す。

 大量の紙や見たことない形した機械などを、辺りにばら撒きながらビルの間を飛び越えていく。

 

 残ったのはコンビニの袋だけになり、鞄を閉じようとしていたら地上から何かが飛んでくるのが見えた。

 次の建物へ飛んでしまっている俺は、飛んでくる物体を避ける事に間に合わず、丸い液晶に顔を打ち付けた。

 

 「――うっ、クソッ」

 

 勢いを失った俺は地上に向かって落ちていく。痛みに耐えながら何とか目を開けると、地面はすでに目前まで迫っていた。

 ワイヤーは間に合わないと感じ、咄嗟に鞄を下敷きにした。鈍い音と衝撃が身体に響いた。

 

 鞄1つで何とかなる高さではなかったが、打ち付けた腕が痛みと共に痺れるだけで俺は生きてるようだ。かなりの衝撃だったはずが、興奮のせいか痛みを余り感じなかった。

 何とか体を起こすと、プロペラで丸い液晶を着けた箱がこちらを見ていた。廃墟でみたドローンとは違った物が浮いているように飛んでいる。

 

 「こいつらは……」

 『ミレニアムの警備ドローン、先回りされていたようだ。モタモタしていると増援が来るぞ』

 「……分かってる」

 

 さっきまで良い気分だったはずが、次第に燻るような鬱憤が出始めてきた。やつ当たりの様な感情が、身体の何処かで尻尾を出そうとしている。

 監視するように周りに浮かぶドローン達。左右に展開しているドローンに、両手を向けてワイヤを射出した。

 ワイヤー刺さった2体のドローンを、背負いこむように振り返って地面に叩きつける。それだけで、いとも簡単にドローンはスクラップへと変わった。

 

 叩き潰された様子を見て、距離を取ろうとしたドローンに壁を蹴って接近する。箱の頭上で回転するプロペラごと、踵から地面へ蹴落とした。

 まだ空中に居る俺よりも高く飛び上がったドローンが居た。逃さまいとポッケに入っていた携帯を取り出し、身体を捻り弾丸に迫る速度で携帯を投擲した。

 俺の手から放たれた携帯は、一直線にドローンへ直撃し、事切れる様にプロペラは回転をやめて地面に落っこちた。

 

 「……あっ」

 

 急いで落ちてきたドローンを確認すると、今もなお俺が投げた携帯は刺さっていた。画面は罅割れているが、液晶が光っていて安心した。

 しかし、回収しようと手を伸ばすと、ドローンが火花を放ちだし煙を吹きながら発火した。

 急な炎上を恐れ携帯から離れると、燃ゆる炎の中でも健在だった携帯は、次第に枠ぶちが黒ずみだし、回収するよりも早くドローンの爆発と共に消えた。

 

 「……よし、これで全部だな。逃げるならどこに向かえばいい?」

 

 また盗めばいいのだ、気にする必要はないと心に言い聞かせて切り替えた。

 

 『ミレニアムを出てDU方面に向かえばブラックマーケットがある』

 

 ブラックマーケット、恐らく闇市の事だろうか。名前の印象的にそんな場所なんだろうと思った。

 過去にあった勢力争い、出所不明な物品の売買などのイザコザが頭を過ったが、ここで追われ続けても嫌だし行ってみる価値はあるだろう。

 

 「分かった行こう」

 

 追手が来る前に屋上へ登り、先生の案内に従ってブラックマーケットへ逃走した。

 

 ◆

 ◆

 ◆

 ・

 ◇

 ◇

 ◇

 

 明るくなった頃から今を考えるに、昼過ぎぐらいだろうか。

 結局、郊外に近づくにつれて建物の高度は下がり、住宅街に入ったあたりで地上を歩く事にした。

 

 「ブラックマーケットまでどれぐらいだ?」

 『このまま歩いて行くなら、着く頃には夕方だろうか』

 「かなり遠いな」

 『キヴォトスは広大だからな、電車を使った移動が一般的だ』

 

 あの、どうやって動いているか分からない鉄の箱の事だろうか。

 固定された道しか走れなさそうだったが、何度も頭上を通っていた時に見ていた。

 確かにあれで移動出来れば、こうやって歩いて行くよりは早いだろう。

 

 しかし、走って向かわないのには理由がある。鞄から残された唯一の戦利品である、謎のパンを食べるためだ。

 

 袋を破く様に開くと、中には小さい棒状に作られた堅すぎパンが入っていた。

 薄緑色した長方形のスティックで、一口で食べられそうな大きさの物が8個入っていた。

 

 「……全部同じ大きさだ」

 

 あれほど振り回したり、衝撃があったというのにだ。少し欠けてるものもあるが、粉々に砕けたり潰れてない事に驚いた。

 

 手に取ってみると、中が詰まっているのか見た目よりも少し重い。ほのかに鼻を通る清涼感に、後を引かない爽やかな香りがした。

 

 「本当に食べれるのかこれ」

 

 咥えて、歯で挟みゆっくりと噛み切ろうとしたが、いつまで経っても歯は進まない。石でも齧っているのかと錯覚する程に堅い。

 

 『そのままま口に含んでふやかせば食せるだろう』

 「そのつもりだ」

 

 パンを咥えながら住宅街を練り歩く俺は間抜けな物だろう。

 ここに来るまでも無関係な所で発砲音が聞こえた。先生が言うようにこれから毎日聞く羽目になりそうだ。

 

 さっきの嵐のような銃撃戦と比べれば、今は割とそよ風が聞こえそうな程に静かだ。

 まだ噛みきれぬパンの事を考えながら、まだ見慣れぬ太陽の日に目を細める。

 

 ふと、このパンが硬いと言うのに人気な理由が考えついた。

 撃った張ったの騒ぎの後でも潰れないでいる。それが理由じゃないのだろうか。もしそうだとしたら、と思うと何故か呆れてしまった。

 

 パンを奥へ押し込んで力一杯に噛んで、やっと割る事ができた。口の中で砕けたパンは、舌の上に粉を置いたかの様な食感を残した。

 

 「……不味くはない」

 

 元より味が分かるような、高貴な舌を持ち合わせていないが。

 袋からまたひとつ取り出して口に含む、全部食べるには時間がかかりそうだった。

 

 『一人で一度に食べきる物ではないからな、日を跨いで食したり誰かと分ける事を想定しているはずだ』

 「……誰かと分け合ってか」

 

 そういう考えを聞くと、危険地帯と何ら変わりないキヴォトスでも平和である様に感じる。でも、俺は他の誰かと食べ物を分け合ったり、明日の分なんて言って残すことは無い。

 分け合うよりは独占する方が得で、今を必死に生きるには先の事なんて考えるのは無意味だった。

 

 『……ユウリは他人が嫌いか?』

 「誰だってそうじゃないか?」

 

 自分が相手に害を及ぼそうと考えている以上、相手も考えてない何て事は無いはずだ。

 

 『君に友達でも出来てくれれば、とは思うが』

 「……考えとくよ」

 

 スラムに居た頃もずっと一人で生きていたわけじゃない。共に生きていた輩が数人居た時期もあった。

 頭数がある事は何をするにも力になる。だから、居ない方が良いと思っているのとは違う、ただ少し億劫で気が乗らないだけなんだ。

 

 ひとつ、ひとつと食べ進め全部食べ終わった頃には、口の中はパサパサになっていた。

 

 「口の中がカラカラだ」

 『……この場で全て食べればそうなるだろう』

 

 少し悩んだ末に、残っていたもう一本のジュースを少しだけ飲むことにした。

 袋から取り出すと乱暴に扱ったせいか少し窪んでいた。二口程口に含んで吐き出せばいいかと思い、蓋を開けようとしたが栓が固く簡単には開かなかった。

 さっきは簡単に開いたはずなのだが、あまり気にせず指を強く引っ掛け強引に開ける。

 

 『待てユウリ、キヴォトスの炭酸は――』

 

 中々開かなかった缶の蓋が開いたと思えば、溜まり水を弾けさせた様な爆発が目の前で起きた。

 一瞬の爆発だったが周囲の物全てにジュースが飛び散り、一番近かった俺は顔にモロに被弾した。

 

 最初の爆発が過ぎた缶は噴水の様に感から噴き出していたが、すぐに弱まっていき中身が8割ほど減らしたうえで収まった。

 濡れた顔を拭い缶に口を付けて飲んでみると、痛くて飲めなかった炭酸が飲みやすくなっていた。

 

 「……これなら飲めるな」

 『ブラックマーケットに向かうより、先に何処かで洗った方がいいな』

 

 近くの公園に案内されながら、二度と炭酸は飲まないと誓った。

 

 ◆

 ◆

 ◆

 ・

 ◇

 ◇

 ◇

 

 『そのまま正面が公園だ』

 

 向かった先は公園で乾く前に着く程の距離だった。

 四方から囲むように植田られた木々に、申し訳程度の遊具とベンチ。

 中央に置かれた石造りの水道があった、蛇口を捻ると綺麗な水が流れ出て、地面に埋まっている金網へと流れて消えた。

 

 ジュースに濡れたマスクやガントレットを、水に晒すように洗っていく。乾いてくっつく前に着いたおかげで、簡単に汚れは流れ落ちた。

 

 上着も脱いで水に当てると同じように、するりと簡単に落ちた。水もジュースも染み込んでいる様子はなく、さらさらと上着の上を滑って流れて行くだけだった。

 

 「やっぱりただの布地じゃないな」

 

 上着を振って叩けば、水滴が飛んで直ぐに乾いた。

 洗った物達も着直して、公園を出ようとするとフードを目深に被った生徒とすれ違った。

 

 顔がよく見えない佇まいに意識してしまい、目で追いかけてしまった。

 黒色のパーカーに、猫の耳に合わせたフード。肩に掛けているスリングには、ピンク色に塗られたストックのマシンガンがあった。

 

 相手も同じことを感じたのか、お互い振り返るような形になった。

 そこでやっと彼女の顔を見ることができた、鼻と口を隠すバツ印を着けた黒いマスクに、外は黒色に対し内側だけがピンク色の髪。

 フードから覗かせる瞳は赤みがかっていて、俺を殺さんばかりの敵意を持って睨んでいた。

 

 「何見てんの?」

 

 不運だ、絡み方がチンピラのそれだ。俺の不注意のせいでもあるが、互いに見ていたのだからお互い様だろう。

 返事しない俺に苛立ったのか、少し俯いた猫背で此方に近づいてくる。

 

 「聞こえてる?何か用?」

 「……いや、知り合いに似ていたように見えたが人違いだったよ」

 

 適当な理由を付けて此処から去ろうしたが、背を見せると肩に手を伸ばされた気がして、弾かれたように距離を取ってしまった。

 見てみればやはり、彼女は肩に手を掛けようとしていたらしく、手が中途半端に浮いたまま固まっていた。

 

 「ふーん」

 「そっちが用がありそうだけど、何?」

 「……ちょっとね今金欠なんだよね」

 

 そう彼女が言ってから銃を構えるまでが早かった。

 ぶら下げていた銃を此方に向け、寸の間もなく発砲しようとしたが。弾が出るより前に銃身を地面へと踏みつけ、当たる筈だったであろう初弾は地面に撃ち込まれていた。

 さすがに驚いたのか目を見開いた彼女は、必死に銃を取り返そうとしていたが、全く動かない銃から手を放したと思うと、その場で回って蹴りかかってきた。

 

 「ちっ、放せ!」

 「危なっ」

 

 後方に跳んで回避したが、せっかく詰めた距離が無駄になってしまった。持ち直した彼女は大振りな機関銃を腰に構え、公園の中央から撃ち始めた。

 その場から周りにあった木々の枝に飛びつく、葉が付いたばかりの木が揺れて青葉が落ちる。葉がもっと付いていれば身体が見えにくいのだが、風がまだ冷たい季節ならしょうがないのかもしれない。

 

 「ちょこまかと!」

 

 木々の間を跳び続けている俺を狙って撃っているが、弾は俺が直前まで居た場所に通るだけでまだ一発も当たっていない。

 そして俺が枝を足場にしているせいで、通った枝が次々と撃たれ折られていく。可哀そうに彼らはもう花を咲かすことは無いだろう。

 手頃な折れた枝をどさくさに掴み、彼女の弾が切れたタイミングを狙って放った。さすがに、警戒していたのか半身で交わされたが視線が切れたお陰で、死角位置に隠れることができた。

 

 「金欠を相手しても損しかないし逃げるか」

 『……互いに一人だ。友達になってみてはどうだ?』

 「……冗談」

 

 気づかれぬように、静かに木の影から逃げ去ろうと思ったが、公園に彼女の声が響いた。

 

 「おい、出てこい!逃げる気か!」

 『お友達がお呼びだぞ?』

 「……はあ」

 

 俺だけだったら黙って此処を立ち去っていた。しかし、少しぐらいは先生の意向を汲んであげるべきかと思った。

 何を間違っても、出会って数秒足らずで襲い掛かってくる奴を、友達にしたいとは思わないだろう。

 

 「お前!名前は?」

 「はぁ?」

 「金も無い奴を襲った所で何も得られないからな、名前だけ貰っといてやるよ」

 

 発砲音と共に何処かの木々が倒れ、園内に地響きの様な音が響いた。彼女は手当たり次第に撃ちだした様だ。

 

 「――クソッ、キャスパリーグだ!次会ったら覚悟しとけよっ!」

 「……キャスパリーグ?」

 

 ただ名前を聞いた筈なのにヘンテコな名前が返された。小声で先生に聞くと、物語に出てくる猫の名前だと教えてくれた。

 何故と不思議に思ったが名前を隠すためだと分かり、俺も彼女に合わせる事にした。

 

 「じゃあ、……カラス、お前が猫だっていうなら、俺はカラスって事にしてくれ」

 「鴉?」

 「ああそうだ、じゃあな」

 「――ッ、そこか!」

 

 さすがに位置を知られたのか、直感に合わせて木から飛び降りると、そこにあった太い木の幹が穴だらけになった。

 ワイヤーまで使って公園の外へ飛び出して、民家の屋根に乗り移る。人が住む家の屋根は汚れで滑りやすいが、コツさえ知ってれば簡単に移動できる。

 

 『まあ、少しずつ増やしていこう』

 「……チンピラはもういい」

 『彼女はチンピラと言うより、スケバンだな』

 

 此処には服に付いたジュースをただ落としに来ただけの筈、それなのに何でこうなってしまったのか。

 ”キャスパリーグ”よく分からない名前だったけど覚えておく事にした。俺も鼠ではなくカラスを選んだ事ぐらいは覚えておく。

 

 『なぜ鴉と名乗ったんだ?』

 「……何となく」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。