絶対にろくでもない奴だと思った。スラムにも居たがこの手の類は、馬鹿みたいにしつこく、関わるだけで不幸になる。
「おいっ、放せッ俺を巻き込むな」
「お願いしまずっ、私、追われででぇ」
泣き顔を押しのけ、引きはがそうとするが、細腕からは考えられない力で決して離れようとしなかった。
「関係ないだろ!なぜ追われているんだ!?」
「…………金を返せって」
「しょうもねえじゃねーか!」
無理やり足を動かして引きずるが、それでも縋るように足に絡みつく彼女の跡が地面に残るだけだった。
全力で引きはがしてしまおうかと思ったが、それよりも彼女が言う追っ手が見えてしまった。
ヘトヘトになりながらも追ってきたであろう彼女は、俺たちの目の前まで来ると膝に手をついて、ヘルメットの中で息切れを起こしていた。
何か喋ろうとしているが咳き込むばかり、息をしずらそうなヘルメットを被りながら追ってくるからだ。
「ヘルメット外したら?」
「ハァ……ヘルメットは、ハァ……外さない」
「そうか」
やがて落ち着いてきたのか、膝から銃に手を運ぶと銃口をこちらに向けた。
何故か誇らしげに顎上げたと思えば、彼女は声を張り上げて狭いこの路地に蛮声を響かせた。
「なんてったって、私はヘルメット団だからだ!!!」
「見れば分かるだろ」
「そのヘルメットに、アナタ苦しめられていましたよね?」
「うるさいっ!」
なんてツイてない日だろう。馬鹿2人に挟まれるなんて、これでは俺まで馬鹿になってしまう。
もう無視して逃げるには遅くなってしまった。
わらわらとヘルメットを被った生徒たちが現れ、一本道で挟まれる様に囲まれる。
この集団は本当に何処にでもいるな。団員どうしで見分けがつくのだろうか、ここに来てから毎日同じ人に会っている気分だ。
「用があるのはそこの阿保だけだ。さっさと渡してもらおうか」
「ああそうしてくれ、知り合いでも何でもない、迷惑だから持って行ってくれ」
驚いたような拍子で此方を向いた彼女は、今にも泣きだす様な顔をしていた。
「嘘ですよね!?ここまでして助けてくれないんですか!」
「お前はもっと助けを乞う方法を考えた方がいい」
俺らが言い合っている姿が面白いのか、ヘルメットを着けていても彼女たちが笑っているのが分かった。
仲間割れしているとでも思っているのだろう。俺からしてみれば何も面白くない。
足元で騒ぐ彼女を顔を掴んで黙らせる。やつ当たりだが彼女が発端なのだから丁度いいだろう。
「まあまあ、お二人仲が良さそうなので一緒に来てもらいますか」
その場の全員の銃が持ち上がり、いくつもの銃口が俺達をその場に縫い付けた。
背筋に何かが走るのを感じ、顔から手を放して両手を無抵抗に挙げた。
彼女は俺から解放されるも束の間、周りから銃口を向けられている事に気づいた。
威圧されたのか顔が徐々に青ざめていったが、それでも彼女は俺の足を離す気はないらしい。
「ひぃいいい、私たちは彼女の元で地下労働でもさせられるんです!もうおしまいなんですぅぅ」
「……はぁ、お前一人で土にまみれてろ」
完全に怯えてしまった彼女を力づくで振り払って離脱しようと思ったが、彼女は小声で俺に語り掛けてきた。
「まってください、こう見えて私すごい特技あるんですよ」
「……言ってみろ」
気になって聞いてしまった。少し持ったぶった言い方だったからじゃない。
事実、脚を離さないほど手は冷たく怯えている。
怯えてる姿を周りに見せ、密かに交渉して臆してない振りをする彼女が、俺さえ口説ければ助かるだろうという意地汚さが、見ていて嫌いじゃなかったからだ。
「――にはははっ!、何故か私どんな暗号や電子ロックも、ちょいってやるだけで解けるんですよ」
『事実なら此処キヴォトスにおいて稀有な才能だな』
「……それで何が出来るんだ?」
「えっ!え~と、……銀行強盗とかですかね?」
銀行は知っているが行った事がなかった故に、今ままで盗みに行くことを考えて居なかった。
もし、彼女がそれを出来るって言うなら、銃を攫う必要もなくなるのではないだろうか。
彼女が言った電子ロックや暗号たる物を俺は知らないが、今の彼女からは嘘を言っているようには見えない。
誰かに何か頼って動くのは好きじゃないが、試しでいいから一度なら信頼してもいいんじゃないだろうか。
例え彼女が嘘を言ってたとしても、今の俺と先生が居れば何とかなるはずだ。
「俺に掴まれ」
「よっしきたー!」
「ッお前ら撃――」
どいつもコイツも撃つまでが遅い、指示を出すぐらいなら自分で撃てばいいのだ。
挙げた両手からワイヤーを上へ撃ち出し、建物の屋上へと飛び上がる。
いつもの感覚で体を引き上げたが、2人だと挙動が流石に変わり、予想以上に高く飛び上がってしまった。
脚を掴んでいた彼女は次の瞬間ビルよりも高い上空に、放り出されると思っていなかったのか。状況を理解できず呆然したが、一瞬で宙に居る事に気づき悲鳴を上げた。
「――――ウァ?」
「舌噛むなよ」
「うあぁああああーー!?」
驚いて脚を手放してしまった彼女の制服の襟元を掴み、どうしようもないので付近の屋上端に着地した。
彼女だけ宙づりになり首が閉まっただろうが腹いせだ。
気絶する前に屋上へ放り投げ転がった。やはり見た目相応に軽い、他の奴らと違って銃も持っていないが、撃つことができないのだろうか。
「ぐえー、舌も首も逝かれるところでしたよ」
「銀行強盗に付き合ってもらう、名前は?」
「にははは、本当にやるんですね!面白そうなのでいいですよ」
見ているだけでムカついてくる顔に、声変わりも終わってない幼い声が鼻につく。
でも、先生が言ったんだ友達を作れって、渋々になるがしょうがないだろう。
「私!コユキって言います!」
「俺は、……カラスと呼んでくれ」
「え、カラス??」
今はこれで良いだろう、いつか名前を呼んで欲しいと思える日が来ればその時に。
壁に設置された室外機や、小窓の縁などを足場にしながら道路へと降りる。
降り終わってから着いて来られるのか疑問に思ったが、俺と全く同じルートでコユキは降りてきた。
「……?、もしかして心配してくれました?」
「いや?それよりお前は銃を持たないのか?」
「あ〜前使ってた銃は売ってしまったんですよねー」
ブラックマーケット内で銃が高騰し、目先の金欲しさに身一つになってまで売ったらしい。
何に使ったのかと聞けば、ギャンブルに全て宛てたのだという。
もしやと思い借金もそれが原因かと問うと、コユキは覇気のない笑いをし、明後日の方向を向いた。
彼女の目は遠い青空を虚空に見つめていた。やはり、助けるべきでは無かった気がした。
「いや!そもそも彼女達のルーレットがおかしいんです!」
「沈んだり燃えたり激しいな」
揚々と俺の前を歩いたと思えば彼女は、指を道の奥へ指しながら振り返った。
「あっ!そうだ、盗むなら私が行ってた裏カジノに行きませんか?」
「カジノ?」
「そうです!施設内はよく入り浸っていたので構造も分かります!」
彼女が金を溶かしたであろう賭博場、どれ程の規模か分からないが、これと言って狙う場所を決めていたわけでもない。
場内を把握していると言うなら、動きやすいうえコユキも乗り気だ。
それに表立って営業している銀行よりも、非公認で運営しているカジノの方が、警備が薄いのではないだろうか。
「じゃあそこにしよう」
「決まりですねっ、じゃあさっさと奴らから、私の金を奪い返しに行きましょう!」
「今から行くのか?」
「そうですね、夜の方が人が増えますので!」
行きますよ。と言って駆け出す彼女に俺も後を追う、足に自信があるのか颯爽と走る姿は様になっていた。
俺にとっては緩い速度だが、急かしてバテられても仕方がない。
そのまま彼女に案内される様に、俺達はカジノへと向かった。
こうやって誰かの跡をついて移動するのは、少しばかり新鮮だった。
◆
◆
◆
・
◇
◇
◇
「ここのドアが一応裏口だったはずです」
コユキに案内されて着いた場所は、人が住んでいる気配がない寂れた住宅街であった。
家と家の間にあるブロック塀の隙間、一人通るのが精々な不自然な隙間を抜けると、周囲と比べて明らかに風化した様子がない鋼鉄の扉があった。
耳をあてて扉の奥を確認してから、ドアノブをゆっくりと回す静かに扉は開いた。
扉の先は非常灯が足元を照らし、階段が地下へと続いていた。
「どうして裏口何て知ってるんだ?」
「負けたあとにいつも、此処に捨てられてましたから」
小声で尋ねると帰ってきたのは、情けない理由だった。
顔を見ると悔しそうに口を曲げていた。お面で顔の下半分しか見えないが分かる。
「待て、そのお面はなんだ?」
「素顔じゃマズイかなって、どうです?」
コユキが着けているのは、鼻から上だけを隠すウサギのお面だった。
白を基調としているが、赤色や黒の模様がつけられており、お面だけ見ると良いものに見えた。
「道中、足を止めたのはこのためか」
「たまたま露店で見つけただけですけどね」
感想を聞きたがってたが、コユキが言う通り素顔さえ隠せているなら、それでいいのではと思った。
互いに音を立てない様に階段を降りると、同じような扉もうひとつあった。
だが扉にはロックが掛かっており、傍には数字が掛かれたパネルがあった。
コユキが任せてくださいと言わんばかりに前出ると、悩む素振りも見せずパネルを触ると、3秒もかからず錠の回る音が鳴った。
そのまま彼女は自慢げな顔を、俺に向けながら扉を開けて見せた。
「どうです?」
「……知っていたのか?」
「何となく分かっちゃうんです」
スタッフ用の通路にコユキが先導して進んでいく。
金庫の場所は知っているらしく、事務所を探せばそこにあるのだとか。
そう言いながら彼女は通路の角から顔を引っ込めて少し頭を悩ませていた。
「どうした?」
「……実は、いつも締め出されるときに、よく通路を通っていただけで、どの部屋が何の部屋かは知らないんですよねえ」
「……手当たり次第に部屋を確認するのはリスキーだな」
幸い耳を立てるとやはり警備が少ないのか、周囲に人は少ないが部屋の中になら人の気配がする。
誰か一人取っ捕まえて吐かせてみるか。適当な部屋のドアを開けようとしたが、先生がそれを止めた。
『待て、金庫に向かうのなら私が案内できる』
つい返事してしまいそうになるのを抑えて、先生の話にうなづいた。
コユキについて来いと前に立ち、先生の指示を聞きながら移動する。
廃墟の時もそうだったが、先生はどうして地理を把握しているのだろうか。
恐らく先生は俺と全く同じ景色、全く同じ音を聞いてるはず。俺も同じ事が出来るのだろうか。
「場所がわかるんですかぁ?」
「勘」
お前も同じだろうと訝しむコユキを適当にあしらう。先生の事は説明できないうえ、話したとしても俺が変だと思われるだけだ。
業務員用の通路と聞いていたが、それにしては広かった。この広さなら遊びに来ている客達がいる所もさらに広いのだろうか。
「裏カジノにしてはデカく無いか?」
「そりゃそうです、ここのカジノはブラックマーケットの中で一番大きいはずです」
やけに詳しいコユキに話を聞いてみれば、このカジノは表向きは違うが、カイザーコーポレーションが、手を掛けているので規模が違うのだと。
『カイザーコーポレーションとは多岐に渡って事業を展開している大企業だ。あまり良い噂は見つからないがな』
頭にあまり入らなかったが、ブラックマーケットで1番大きい事だけ分かった。
割とコユキの事は馬鹿だと思っていたが、存外頭が良さそうな雰囲気があった。
事務所は同じフロアにあった。他の部屋と何ら変わりないドアで、聞き耳を立てても音はしなかった。
「中には誰もいないようだ」
「慎重ですね〜、居ないなら入っちゃいましょ!」
臆する事もなくコユキは扉を開け放ち、中に入っていく。
疑う事を知らないのか、もし居たらどうする気だったのだろうか。
部屋の中は一部を除いて平凡な物だった。
小さいテーブルを挟んだソファが真ん中に置かれ、その奥に大きめの机がある。
して、そこから幅を空けた壁には、丸い重厚な鉄の扉があった。
ほぼ壁の様に埋め込まれており、開けるだけで部屋の中で邪魔になる程大きかった。
コユキはそそくさとソレに近づいていったが、俺は部屋の隅にあった植物が気になった。
雰囲気を作るためか部屋に置かれた、俺と等身大程の植物、触れてみるとツルツルとしており本物では無く、見かけだけの作り物の植物だった様だ。
何故かこの部屋に入ってから視線を感じる。身を震わす程の危険は感じないが、何故か気が休まらない。
「なにしてるんですか!ほら開けるの手伝ってください!」
コユキの方を見ると、考える事もなくロックは開けられたようだが、扉そのものは開けられないらしい。
既に金庫の扉を開けようとしているが、扉そのものが重いらしく、少し動いた形跡はあるがそこかは動かせていなかった。
「何やってんだ変われ」
「これもしかすると、二人がかりでも開かな――」
肩で息を吐きながら手を離す彼女に変わり、俺が開けようとしてみると、たいして力を入れずとも、扉は簡単に開いた。
金庫の中はメタリックな箱が積み上げられており、金庫内の壁にも何かあるのか、ダイヤルがひとつひとつに区分けされていた。
箱の中が気になり金庫内に入るが、振り返るとコユキはこちらを見ながら固まっていた。
「なんだよ」
「……名前、カラスじゃなくてゴリラの方がお似合いですよ?」
「殴られたいのか?」
「にははは、冗談に決まってるじゃないですかー」
そういって入ってきたコユキは、真っ直ぐ箱に近づくと金具外し、箱の反対側に行くよう俺に顎指した。
「ほら行きますよ、せーの!」
息を合わせて重い蓋をずらすと、中に入っていたのはこれ以上無い程に敷き詰められた札束だった。
あまりの光景にコユキは声にならない様子で歓喜し、ポケットに札束を入れようとしていた。
かくゆう俺も、コユキと同じように興奮していた。
しかし、徐々に冷静になると運ぶ手段が無いことに気づいた。
俺の鞄に詰めたとしても十五個も入るかどうかだろう。
この札束ひとつに何枚あるか分からなかったが、先生が一括りで100万になると教えてくれた。
『その箱の大きさだと一箱で5億は入っているのではないだろうか』
「……ごおく?」
『パンが400万個買えるぐらいだ』
ついに先生の説明を聞いても分からない額の金を、俺達は手にしているらしい。
そんな金額を詰めた箱が金庫内にまだいくつかある。
運ぶ事が叶わないのが悔やまれるが、持てる分だけでも遥かに高額な収入になる。
「あれっここの箱少し雰囲気が違いますね」
鞄に急いで入れていると、いつの間にかコユキは別の箱に目をつけていた。
彼女が目の前にしていたのは、大きめなアタッシュケースで、現金が入っていた箱とは違い、暗めな灰色で波模様がついた物だった。
それを手に取ると床に横にして下ろし、上向きになったパネルを見つめたと思うと、迷わず押し始めた。
何回か押すと空気が抜ける音と共に電子音が鳴った。
「にははっ!私の手にかかれば電子ロックなんて無力!これはお宝の予感がしますよ!」
コユキは目を爛々とさせながらケースを開けると、中に入っていたのは傷ひとつない新品の一丁の銃だった。
長い銃身に箱の様な丸みを帯びたフォルムの弾倉、俺らが使うには少し大きい銃がぴたりとケースに入れられている。
何故金庫の中に銃があるのか不思議に思ったが、彼女は思わなかったらしく、より一層目を輝かせ箱の中へと手を伸ばした。
「――それ以上、私の物に触れないで頂こうか」
突然の第三者の声に振り向くと、金庫の外に恰幅のいいアンドロイドが居た。
彼は指を鳴らすと部屋にヘルメット団が雪崩れ込み、金庫の入り口を抑えるように囲まれた。
やってしまった。浮かれて周囲の警戒を怠ってしまった。
コユキも俺も金庫口の傍に隠れるが、ただ一つの入り口を押さえられた時点で絶望的だ。
「私の金庫を開けたのは見事だが、それ以外が杜撰だな」
「ここのオーナーです。帰って来てたんですね」
「……俺らが入ったことにいつ気づいた?」
「この部屋に入った時からだ。あれで監視カメラに気がつかないとは」
監視カメラ?先生に聞くよりも先にコユキに視線を送る。
彼女は俺と目が合うと、舌を出して自分の頭を小突きながら笑った。
意味を知らないジェスチャーだったが、腹が立つので二度とやらないで居て欲しい。
「抵抗せずに出て来てもらおうか、今なら無傷で済ましてやる」
素直に出て行ったとしても、そんな優しくは無いだろう。傷は作りたく無いが最大限抵抗させて貰う。
反対側に居るコユキもその意気なのか、銃をケースから取り出して調整をしていた。
俺も何か武器をと、見た目が同じケースを施錠も関係無しにこじ開ける。
無慈悲な膂力になす術もなく、ケースは悲鳴を挙げて開かれた。
同じく銃が入っているものだと思っていたが、あったのは角ばった球だった。
片手で何とか掴めるほどの大きさの物が三個、投げたとしても余り転がらない形をしているが、似たような物を昔見た事があった。
何も無い空き地で俺よりも大きい子供達が、互いに蹴って転がして遊んでいた気がする。
綺麗に洗われた服をわざわざ汚して、石を踏んでも痛くなさそうな靴を駄目にするように使う。
楽しそうに駆け回る彼等を、何処からか見ていた気がする。富裕街の端での事だっただろうか。
「――さぁ、試し打ちです!」
コユキの声と共に金庫内に銃声が響く。束の間の感傷から呼び戻され、慌てて歪な球を手に取った。
見た目よりも重く使い用も分からず、手の上で転がしてみると一面だけ色が違う所があった。
『ユウリ、恐らくそれは――』
それを見てからは、もはや反射的な行動だった。
色が違う所を押し込もうとすると、浅く沈むと同時に電子音がなった。
「"――ppi"」
流石に気になったのか、乱射する上機嫌なコユキは、こちらを見ると顔色を変えた。
一度なった電子音は間隔を空けて鳴り続けていたが、次第に加速し始めその間隔を短くなっていった。
『そのまま爆発するぞ』
先生の一言を聞いて、無心で部屋の方へと投げ入れた。
「その爆弾は!」
「――!退避ッ退避ッーー!!!」
踏ん反りかえっていたアンドロイドを含め、ヘルメット団達は慌てて飛び退き、何人かは外まで逃げ出していた。
加速し続けた電子音はやがて、1つの音になり爆発すると思い身構えていた。
「pi――……脅威度は”0”!残念大外れ!」
床に転がった爆弾は音が止むとて何も起こらず、最後に若い女性の声が一言喋り動かなくなった。
「はーっははは、やはりミレニアム製と言えど所詮は子供が作った物だな」
腹を抱えながら部屋にまた戻った彼は、足で爆弾を小突くが何も起こらない。
「遊びはここまでだ。お前らさっさとコイツらを捕えろ」
「なら、もう一個やるよ」
そして今かと突入しかけた奴らの足元に、また一個爆弾を投げ入れた。
既に起動してから結構経ってる物をだ。
「pi――……脅威度は”2”!サヨナラ!」
瞬間、目の前で地響きの様な揺れと瞬きの閃光と共に爆ぜた。衝撃と音、両者はかなりのもので部屋の中は煙で充満していた。
◆
◆
◆
・
◇
◇
◇
「出るぞ!」
「分かってます!」
残りの1つを気づかれぬ様に
「ごほっ!ごふぉっ!奴ら生きて返すな!」
ジリリリッ――と通路に鐘が鳴り始響き、出口を目指して全力で逃走する。
「奴らだッ!抑えろッ!」
十字路の角から現れた彼女達は、俺らを見つけ次第に発砲した。
「俺が前に出る、しっかり当てろよ!」
金庫から拝借した鉄の板を前に持ち、そのまま彼女らの所まで突撃する。
この狭い通路じゃどう頑張っても被弾してしまうが故の選択だ。
顔の真横で弾丸が飛び交い、目の前で火花散るたびに衝撃で腕が震えた。
「奴を止めろ!」
より一層俺へ集まる銃弾に耐えながら、手の届く間合いまで近づいた。
怯えて逃げようとした奴を横腹を蹴り払い、壁に叩きつける。
動かなくなった彼女の襟元を手繰り寄せ、近くにいた奴に投げ飛ばす。
通路の先へと進めばまた現れるヘルメット団。手の届く範囲は俺が全て気絶させていく。
「コレ凄いですよ!恐らくDU非公認の改造銃です!」
「それはッ、良かったなッ!」
手早く無力化できているが、埒が明かずこのままじゃ一向に出口に着かない。
『ユウリ、裏口は諦めてメインフロアから出る方が早い』
「……おい!メインフロアに向かうぞ!」
「メインフロア?正面から出るんですか!?」
「そうだ」
正面出口の場所を知ってるコユキに先導してもらい、先頭を入れ換えながらメインフロアを目指す。
鉄の板は銃弾を弾くたびに、俺が投げるたびに形が歪んでいき、メインフロア前まで来た頃にはスクラップ同然だった。
さっきまで蓋だった物を投げ捨てると、困惑してる雰囲気を漂わせながらこちらを見た。
「もしかしてですけど、今までこうやって戦ってたんですか?」
「……そうだ」
走る勢いのまま非常階段の扉を開け放ち、メインフロアに出ると、不自然にまでも誰も居なかった。
正面はガラス張りで、出入り口の近くにカウンターがあり、吹き抜けで部屋の端にニ階まで続く階段があった。
「今のうちに出られますよ!」
「いやっ待――」
引き返そうと思ったが部屋の中央まで来てしまっていた。
俺が止めるより早くコユキが出口の目の前まで近づいた途端、全てのガラスを塞ぐ様にシャッターが降りた。
「ここまでにして貰おうか」
一階の全ての扉が開かれ、何処かで見た様なタレット達に囲まれる。
声がした方を見ればニ階から俺らを見下ろす様にオーナーが居た。
後から来るのはヘルメット団の彼女達。全て一斉に射撃すれば、例え天井に張り付いたとしても被弾は免れないだろう。
「……もしかして、ヤバいですか?この状態」
「……」
ゆっくりと後退り後ろ手にシャッターを軽く叩くと、堅くはあるがこじ開けられそうな気がした。
しかし、この状況ではそんな事を許してはくれそうにない。
「正直、業腹だが子供のイタズラで大事にはしたくはない。最後の警告だ、武装を捨てれば只の迷惑客としてヴァルキューレに突き出してやる」
「言ってる事が甘いな、最初とは大違いだ」
少しでも時間を稼ぐが、ここから状況を一転させる方法が見つからない。
コユキも俺の顔を見て行動を決めあぐねている。
「君達には分からぬだろうが、他所への風体ってのがあるのでな」
憎たらしい顔をして物を言う姿に不快感を感じつつも、オーナーが言った事を何とか理解しようとしたが、俺より先にコユキが反応した。
「高々二人に、ここまで荒らされた事を周知されたく無いんですね」
「そういうことだ」
やはりコイツ阿呆みたいな事してるが、地頭は俺よりも良さそうだ。
「さぁ、銃を捨てて貰おうか」
「……」
どうするかと俺を見るコユキに頷いてやると、手に持っていた銃を床に置き手の届かない場所まで蹴飛ばした。
余程気に入っていたのか、顔を見なくても伝わってきた。
「にはは……、気に入ったんですけどねぇ」
「そこのお前もだ」
「……俺か?もってねーよ」
素直に両手を挙げてみせるが、信じないオーナーは再度俺に警告する。いくら言われようがない物を捨てる事はできない。
顔を真っ赤にしてまで大声を上げる姿を見ていられなくなったのか、ヘルメット団の一人がオーナーに近づき耳打ちした。
何を聞いたか分からないが、動かなくなった彼は顔を青くさせ、一呼吸して落ち着くと会話を変えた。
「そこのピンク髪のお前、まだ何か持っているだろ」
「えっ!……ナニモモッテナイデスヨー」
彼は誤魔化したいのか、標的を彼女に戻した様だ。ただ、コユキの反応は持っている奴の反応だった。
誰とも目を合わせず冷や汗を流しているが、それで騙し通せる訳もなく。
「ほう、雑巾みたいになりたいなら最初から言えば――」
「あっ!なんかいつの間にポケットにこんな物が!」
機敏な動きでポケットから取り出したのは、俺がさっき投げた爆弾と同じ物だった。
もしかしてコイツ、事務所の部屋を抜ける時にどさくさに紛れ、床に落ちていた奴を拾っていたのか。
「ほらやはり持っていたな、意地汚い手を使う奴らだ。それも捨ててもらおうか」
当てずっぽうでいい気になって居るオーナーを尻目に、爆弾を見ると心無しか軽い不安を感じた。
「うぅ~、面白そうな物だったから拾ったのに使えずに終わってしまうとは」
彼女は名残惜しそうに爆弾を手放す、先ほど捨てた銃の所へと向かって投げられた。
それは緩やかな放物線を描き、地面へとゆっくり落ちていく。
途端、肩が震えるほどの緊張感が俺に走った。
何が最善か何が起きるか、頭の中に無数の考えが浮かぶが何も出来ず。
思考の海に呑まれ俺は、固まったまま動けずにいた。
そして地面へ落ちた爆弾は少し転がった後、銃にぶつかると独りでに音が鳴った。
「"――ppi"」
「あっ」
「えっ」
「は?」
その場の全員が息を呑んだ、一度動き始めた電子音は止まらない。
ここに居る全員が爆弾から逃げると思った。しかし、誰も動く事がなかった。
「みんなで心中でもすんのか?」
「あの程度の爆破なら2階まで届かん。滑稽だな、君達は無傷で帰る事ができないようだ」
爆発までの電子音が加速して、一刻の猶予もなくなる。
俺達を囲っていたタレットも、いつの間にか駆動音を鳴らして発砲しようとしていた。
シャッターをこじ開ける余裕はない、俺は一か八かの考えで爆弾の元へ走った。
「ッ!奴を撃て!!」
彼の合図で撃ったのは数人だけ、他は気を抜いて出遅れていた。
直線で走らず蛇行し銃弾を避ける。爆発する寸前の音の纏まり、全身の震えを抑えながらオーナーを狙って爆弾を蹴り上げた。
力任せに振り抜いた脚は真上を向き、狙いは大きくズレて天井へ。
突き刺さる程では無かったが、軽くめり込み罅を残した。
天井から地面へ向かいだした爆弾は、音声を一言残し閃光を放った。
「pi――……脅威度は”10”!大当たり!!」
先と比べ物にならない程の爆発音と衝撃が建物を揺らした。
煙で染まる視界の中で降って来たのは、身の丈以上の瓦礫の山だった。