コユキに買いに行かせた昼飯を食べ終え、隅に置かれたハンモックに揺られていると、部屋の中でチリンと音が響いた。
「何してんだ?」
「にはは、気になりました?これですよ、これ!」
コユキが見せて来たのは、手のひらサイズの壺とサイコロだった。
2つのサイコロを壺に入れ、ひっくり返しながら机に置くと彼女は一声揚げた。
「さぁ!丁か半か!」
「は?」
「……もしかして、チンチロを知らないんですかぁ〜?」
近くにあったボトルを拾い投げつけた。僅かに残った飲料が重りになり、コユキの額へと命中した。
「あだた、ちょっと揶揄っただけじゃ無いですかー!」
「それでチンチロって何だ?」
ハンモックから降りて側に寄ると、彼女はひっくり返していた壺を持ち上げた。
中に入っていたサイコロの目は"2"と"6"だった。
「今みたいにサイコロを振って、出た目の合計が偶数だったら丁、奇数だったら半。それを当てるんです」
「……なるほど」
『偶数とは2つに均等に分けられる数だ。奇数は分けれない数』
なるほど、それを当てるって事か。
今出た目が2と6で、それを合わせると…………8になる。
「――じゃあ今のが"丁"って事か?」
「そうですけど、何か長かったですね」
「……んで、そのチンチロをやってる理由は?」
それはですね!と言いながら、コユキは立ち上がり話し始めた。
「今日の夜、チンチロの賭博場が行われるんです。なので、今の内に目を慣らしておこうかと」
結局ギャンブルかと、呆れてハンモックに戻ろうとすると、コユキは俺を引き留めた。
以前、二人でカイザーの裏カジノを潰したせいでどこも入れなくなったと言う彼女は、めげずに遊べる賭博場を探したのだと。
別に止めやしないから、行ってこいと思ったがそれだけでは無く。
俺について来てもらって、何かあった時のために護衛して欲しいとの事だった。
「今まで散々遊んでたんじゃ無いのか何を今更」
「大手の所と一緒にしちゃ駄目です!。最悪、その場で弾丸が飛んでもおかしくありません!」
俺を説得してまで行きたいのか、熱く語り続けるコユキに押され、行くべきかどうかを考える事となった。
以前程ではないが。俺はまだ見かければ襲う程度に銃を売ってはいる。
その金もコユキに任せているのだが、主に食費のせいでハイペースに消費しているらしい。
何でか金を預けるために口座を作ったらしく、それを管理しているコユキがそう言っていた。
あの時得た大金もまだ残っているはずだが、彼女は稼ぐと言うよりは、運の絡む遊びが好きなんだろう。
しかし、その手の場所はしっかり胴元が勝つように出来ている。
俺の食費が無くなられても困るし、止める為にも同伴する必要はあるのかもしれない。
「分かったよ、行けば良いんだろう」
俺は机の上にあったサイコロを手に取った。
◯
◯
・
●
●
「ここが会場のはずです」
コユキと共に来た場所は、広い屋敷だった。入り口の門からして大きく、長屋門と言うらしい。
コンクリやガラスで出来た街から一転、舗装されていない道と木造の家が並ぶ通り。
あまり気にしてはいなかったが、この雰囲気の差は学園違いだろう。
キヴォトスで木造はすぐに壊れそうだし、火種から燃え出したら大火事まで発展しそうだ。
門を抜けた先には、二人の生徒が銃を持って構えていた。
二人は制服に見えない恰好で、襟を胸の前に重ねた袖丈の長い服、先生は和服だと言った。
鼻の長いお面を此方に向け、俺達に気がつくと一人が呼び止められた。
「おい、お前ら、……交代するには早く無いか?」
「いや違いますよ!、私達は参加者です!」
勘違いするのも分かる。確かにコユキのお面と彼女達のお面は雰囲気が似ている。
「そうか、なら入場料を払ってもらう」
「えっ、入場料取るんですか!?」
「テラ銭を取らない代わりに、賭博場へ入る際に金を取るようにしている」
そもそも入るのに金を取るらしい、コユキは不満そうな雰囲気を出していたが渋々払っていた。
「よし通っていいぞ」
「くっ、早速軍資金が減りました」
「いくら持って来たんだ?」
「100万です」
持ってきた額に驚き声が出かけたが、寸での所で飲み込んだ。
負けてくれるなよと思いつつ中に入ると、既に始まっており、賭博場は熱気に包まれていた。
賭けて遊んでいるのは、身なりの良い大人から何処でも見かけるヘルメットの生徒。
居るのは十人とそこらだったが、年齢区別なく参加していた。
「私、木札に交換してきますね」
「あ?、……ああ」
取り敢えず賭けるのはコユキなので、会場の端から雰囲気や流れをの見る事にした。
進行はあの真ん中の人だろうか、底の深い小さな笊とサイコロを持ったサラシを胸に巻いた生徒。
しきりに声を張り上げており、それを聞いた参加者が自分の前に木札を出していく。
「丁!」「半!」「半だ!」「半!」
「よろしいですね?。……いざ勝負!」
「――シソウの半!」
会場が悲鳴と歓喜で埋め尽くされる。木札を回収される者、賭けた枚数と同じ枚数を貰う者。
二択を当てれば二倍になるというシンプルな賭博だ。
だが、これでは運営がは余り儲からないのではないだろうか。
だからこそ、何かしらイカサマしていると感じるもので、コユキが来るまで身構えて観ていると、ゆっくりと俺の横に近づいてくる大人が居た。
「ご参加なさらないのですか?」
「……ツレの付き添いだからな」
「成程」
片耳の先が切れたように無くなった猫耳の大人だった。
この会場から少し浮いた雰囲気を持った老体だが、俺から一言聞くと入り口の方へと帰っていった。
「何だったんだあの爺さん」
そこに入れ違いとなる形で、コユキが布包みを片手に帰って来た。
「交換してきましたよー!」
「……俺はここで見てるから行ってこいよ」
一緒にやらないんですか、と言葉を無視して壁に寄りかかる。
コユキは少し考えていたが、あまり気にしては無いのか、テケテケと人がいる方へと混ざりに行った。
『彼女は勝つと思うか?』
「ないな」
あの大きな包みが木札なら恐らく、誰よりも木札を持っている事になる。
それでいてコユキはあの性格じゃ、標的にされるだろう。
「まあ、キリの良いところで止めるよ」
◯
◯
・
●
●
そして今、コユキは持っていた木札の半数以上を失っていた。
「うああぁあー!、 リーダー!!」
情け無く泣きながら俺を呼ぶコユキだが、彼女の手はしっかり"丁"に賭けていた。
「――イチロクの半!」
「うあああぁああー!!!どおじでえー!?」
泣くぐらいなら辞めて逃げれば良いのに、どうして彼女は賭け続けるのだろうか。
出だしは悪く無かったが、先の一件から負け込むようになってきた。
この賭場のローカルルールがあったらしく、コユキはそれに巻き込まれてから流れが悪い。
「胴元に利益が無さすぎると思ったがそういう事だったか」
このチンチロの"ピンゾロ"と"ロクゾロ"には、特殊なルールがあった。
ロクゾロは場に木札を一番多く張った奴が3倍の一人勝ち。
ピンゾロは場に張られた木札を、全て壺振りが得るようなっていた。
特にロクゾロが厄介でコユキは一度それを当ててから、高額で勝負する回数が増えた。
そしてまだ当たればまだマシなのだが、そういう時に限ってピンゾロか、もしくは外れてしまうのだ。
さらにコユキが少額で勝負すれば、誰かしらがロクゾロで勝ってしまい熱くなる始末。
どちらも普通に考えれば、あまり出ない目であるが余りにも作為的なものを感じる。
彼女も8回連続で負け続けているのだから、疑うべきなのだがもう冷静ではないのだろう。
「参加者に胴元側の奴がいるな」
『出目を操作できれば、焚きつけたり毟る事も可能だろう』
だがまだ分からない、壺にサイコロを入れてから賭ける以上、コユキの動きを見てから出目を変えることができない。
何となく誰が偽客か目星を付けられるが、あからさまな賭け方をしている奴が居ないため何も言えない。
それに分かった所で此処は彼女達のシマ、イカサマを指摘しても有耶無耶にされるだけだろう。
「まだ少し残っている内に帰らせるか」
『思ったより冷静だな、敵討ちはしないのか?』
「俺の金も使ってたらしたかもな」
まだ続けようとするコユキの頭を鷲掴みにし、彼女の手を止めさせる。
「うぐっ、待ってください私はまだ戦えます、終わってません!」
「それは勝機を見出してから言うべきだ、帰んぞ」
無理やり引きづってでも帰ろうとしたが、隣の席の大人が俺らに聞こえるように呟いた。
「ふっ何だ、もう逃げるのかガキ」
「キーー!せめてアイツ殴ってから帰りましょうよ!」
「誘いに乗ってどうする、お前がボコボコにされて終わりだぞ」
俺に殴ってもらうつもりだろうが、誰が他人の喧嘩に参加すると言うのだろうか。
しかし、この感じだと常に煽られていたのだろう。コユキはその手に弱そうだ。
「二人そろって腰抜けか、さっさと帰って枕元で泣くんだな」
「好きに言えカス」
言い返すとそいつは少し怯んだが、すぐ嘲笑的な顔に戻った。
周りを見ると賭博の進行は止まっており、人が負けた所を見て面白いのだろうか、野次たちは俺たちがどうするか観賞していた。
食い物にするような視線が俺達の居心地を悪くさせ、早々とその視線を無視して出口に向かいたかった。
「いいんですか、負けたままで?」
「お前なあ」
ついにコイツまで煽り始めたか。
「このまま帰ってもご飯の味がしませんよぉ、あの人達にやり返して美味い飯食べたくないですか?」
「……」
確かにどうせなら、気分良く飯が食べたい。ご飯を噛んでいるときに、こいつらの顔が出てきたら不味くなりそうだ。
「変われ、ラパン」
「らっ!?、ラパンってやめてくださいよ!かっこよくないじゃないですか!」
「カモよりマシだろ早くどけ」
コユキを無理やり引きずり出して、場所を取って変わる。
隣の奴もサイコロ振ってる奴も、笑っていられるのは今だけだ。
「……では宜しいですね?――入ります!」
壺の中に入れられる瞬間まで、彼女が持つサイコロを凝視する。1つ、細工できるとしたらまず、彼女が狙った出目にする事が出来る可能性。
それと俺が考えるに、他にあるとしたら壺の中のサイコロを動かす仕掛けがある可能性。
前者は彼女の技術、テクニックの話で俺からすれば出来る事は何もない。もし後者なら付け入る隙がきっとあるはず。
それまでは様子を見続けるしかなく、周りが張っていくなか、俺は隣の奴が何を張るまで張らなかった。
「僕は今回、丁にしとこうかな。君は賭けないのかい?」
「……丁だ」
奴と同じ所に張り、勝負の結果は"丁"、だけどこれだけじゃまだ分からない。
次も、その次も隣の奴と同じ所に張り続けると、奴も俺が合わせている事に気付いたらしく、顔を歪ませていた。
「……半だ」
奴はここで大量の木札を張り何か仕掛けようとしているのが分かった。
賭けた木札は手元には戻せない、だが増やすことができる。
だから、俺は奴よりも多く木札を張った。もし奴がロクゾロだと知って賭けているなら、上乗せしてくるはずだ。
案の定、彼は俺より多くなるように賭けなおした。それを見てから此方もある木札全てを賭けた。
「えっ、ここでオールインするんですか?」
コユキが耳元に不安そうな声で囁く、もしイカサマがあるなら絶対使うはずだ。
俺達をまだ舐めて甘く見ているこの間に勝負で決めてしまいたい。
「丁」
「――ふっ、馬鹿め」
「黙れ」
彼は上乗せしてこない、つまりここから出目を変える事ができる手段がある。
「よろしいですね?……いざ勝負!」
壺振りの様子を見るが動きはない、じゃあイカサマは壺その物か、それともサイコロか。そもそも初めから半かピンゾロの可能性もある。
それだけは無いと信じながら、壺に伸ばされた手を見る。
誰もが壺を注目している中、俺は澄ましていた耳に微かに土を擦る音が聞こえた。
「――イチロクの半!」
「……ふっふっふ、お前の負けだ」
余程面白かったのか、隣で静かに笑い続ける彼だが、俺はそれを無視してその場を立ち上がった。
コユキは驚いて俺を見ていたが、俺だって僅かに驚いていた。イカサマは思った以上に原始的な物だった。
「おっおい、何だ、手を出すと言うのか?」
「お前ではない」
ゆっくりと壺振りの彼女に近づき、右手を振り上げて狙いを定める。
彼女は呆気にとられその場から動けず、殴られると思ったのか目をつぶって怯えていた。
周りに居た運営も慌てて俺を取り押さえようとしたが遅かった。
勢いをつけた拳は彼女には向かわず、目の前の床へ突き刺さった。
壺とサイコロが跳ね、会場に板の割れる甲高い音が心地よく響いた。
「えっ、……何してるんですか」
突然の行動にコユキが真っ当な質問を投げかけるが、俺は黙って床下で掴んだ
拳1つ分では絶対通らない大きさ、強引な力に周りの床に罅が入っていき、また床板が割れるのと同時に正体が露になった。
「――ギャッ!」
「これは一体何なんだろうな」
此処にいる運営と同じ服装の生徒、左右の手には携帯式の小さいライトと細い針を持っていた。
大方、それで床下から出目を弄っていたのだろう。
周りは騒然としており、負けていた者は声を荒げて文句を言い、勝ってた者はその場をそそくさと逃げようとしていた。
「こっ、これは……」
「イカサマ、だよな?これは駄目なんじゃないか?」
目の前の彼女に詰め寄り、脅して金をせしめようとしたが、騒がしかった会場はたった一言で静かになった。
「これはこれは、何と床下にまで忍び込んでいた盗人を捕まえてくれるとは」
声が聞えた方に振りむくと、そこに居たのはさっき見た耳が欠けた爺さんだった。
彼が手を軽く手を鳴らすと、取り巻きが俺の掴んでいた床下の生徒を拘束し、何処かに連れて行かれた。
「へぇ、ここのスタッフと同じ格好してたけど?」
「盗人ですから忍び込むために手に入れたんでしょう」
「シラ切るつもりか、誰が見てもイカサマしてた様にしか見えないが」
老人は俺の前まで来ると、壺振りと周りの運営に何か指示を出しはじめ、床に開いた穴を塞ぎ始めた。
「確かに疑いたくなるのは分かりますが、本当に彼女が私達の手の者である証拠はないでしょう?」
まともに取り合う気がない、面倒くさくなり本当に事を荒立てようかと思ったが、彼は1つの提案を話し始めた。
「ですが、床下まで侵入者が入ったのも此方の不手際、ですので今回の賭博で負けた者は私が補填致しましょう」
「――その上で此処にいらっしゃる皆さまだけで、3倍づけの最後の勝負を致しませんか?」
負けた金の返却に勝てば3倍づけ勝負。その言葉に周りの者は息を呑み、この場の皆が先のイカサマを水に流そうとしていた。
これ以上何か言っても今度は俺達がアウェーになってしまう。負けた分戻ってくるなら十分だろう。
「コユキ、俺達は帰るぞ」
「勝てば3倍ですよ。二人で両方分かれて賭ければ絶対勝ちますよ」
コユキのその考えを聞いて納得してしまったが、同じく聞いていた爺さんがルールを1つ足した。
「では皆さんに最初賭けてもらい、最後の一人になるまで勝負を続けたいと思います」
さすがに一人勝ちとなると、腰が引けるのか周りの人達は参加するか悩みだした。
ある者は腰を上げて帰ろうと、コユキは言わなきゃ良かったと地面に崩れていた。
「その代わり5倍づけに致します」
その一言で皆が席に着き木札を賭け始めた。本当に此処にはギャンブラーしかいないらしい。
「どうします?」
「帰……いや、勝負しよう」
意外そうな顔をしているのが下半分の顔でも分かる。だが、やはりどうせなら最高の気分で飯が食いたい。
それに、俺の中で1つ思いついた事があった。どうせまたイカサマするのだから先に手を打っていても良いだろう。
「勝負する前にそのサイコロを見せてくれ、あんな事があったんだ信用がない」
「……いいでしょう」
壺振りからサイコロを貰い、上に持ち上げ観察し、手で握り感触を確かめたのちに彼女へと返した。
彼女も返されたサイコロを確認して何もないと分かると、あっという間に直った床と台のある方へ戻ろうとしたが彼女の足は止められた。
「ワシが振ろう」
「お、親方自らですか?」
そう言って爺さんは和服を脱ぎ、上半身だけ晒した姿で台の方へと向かった。
俺も元の席に戻り、運営から補填された木札を確認してから、残っていた物と合わせて全部の木札を場に出した。
「しっかり5倍で払われるんだよな?」
「……ええ、当たれば」
老人はハッキリと答えた。何か策が彼にあるのだろう。
隣に居た大人は床をぶち抜いたのを見て怯えてしまったのか、俺の事を相手せず黙りこくって目も合わせずにいた。
「――!さあ張った張った!」
老人とは思えない声量で始まるチンチロ、サイコロは壺に吸い込まれ台の上へと叩きつけられた。
「半!」「半!」「丁!」「丁!」
さすがに5倍は外せないのか、熱が今までと全然違う。
そうやって見ていると、コユキがどちらにするか聞いてくる。
言葉を返すようにどっちが良いかとコユキに聞くと”半”と答えた。
「半!」
「えっ本当に運頼みですか?外しても私のせいにしないでくださいね」
「まあ見てろよ」
余裕そうなあの爺さんの顔を引っぺがす。
「よろしゅうござんすね?。……いざ勝負!」
ひっくり返されていた壺が開けられる。
終始俺は周囲を警戒していたが、何かしてる様子は誰にも見られなかった。
だから俺の考えは両方合っていたのだろう。
もう1つの方法、イカサマではなくの技術的に狙った出目を出すという事。
――でも、先にイカサマをしたのはそちらだ。
「ろ、……ロクゾロ!?」
会場が大いに荒れる、ロクゾロと言う事はこの勝負、一番多く賭けていた奴の勝利。
――つまり俺達の勝ちだ。
「かっ!、勝ちましたよおおおー!」
コユキが歓喜に打ち震えているなか、爺さんは驚愕した表情のまま顔を青くさせていた。
恐らく本来の壺の中はピンゾロだったのだろう。それが何故かロクゾロになっていたらこうもなるか。
爺さんの前にあった壺とサイコロを蹴り飛ばし、顔の目前まで迫って詰める。
「しっかり払うのだろうな?」
「くっ……ガァッ!、お前たちコイツらを抑えろ!」
周りの襖が一斉に開き、お面を着けた生徒達に囲まれる。
このまま争ってもいいが、傷は避けられないし金がどこにあるか分からない。それに、腹が減ってしまったので帰りたい。
近くにあった木札を手に取り、爺さんの目の前に持ってくる。
客も、コユキも静かになったこの会場で、俺だけが平然と動いているように見えるだろう。
目の前に持ってきた木札を両手で摘まむように持ち、親指と人差し指だけで紙を破くように引き千切る。
「爺さん、耳……片方だけじゃ見栄え悪いから、もう片方も千切っとくか?」
この精一杯の脅しでこの場を何とか出来ないものか、さっきから向けられている銃のせいで、体がざわついてしょうがない。
思った以上に木の板を簡単に千切った事が脅しになったのか、数秒の沈黙の末に爺さんは消えてなくなりそうな細い声で折れた。
「……金を、……コイツらに渡してやれ」
これで駄目だったらコユキが無傷では済まなかった。
◯
◯
・
●
●
「それでいくらになった?」
「にははは!なんと1000万です。やっぱり来てよかったじゃないですか!」
奴らからもらったアタッシュケースを、ぶんぶんと振りながら喜ぶコユキ。
彼女は結局遊んでいただけで、俺のおかげだと思うのだが自分の手柄の様に喜んでいた。
「にしても結局、最後のアレは何だったんですか?」
「さあ?あの爺さんが失敗したんじゃないか」
そう言ってコユキには適当に誤魔化した。
本当の所は、サイコロを確認させてくれた時に俺のサイコロとすり替え、壺の中で俺の中に仕舞ってすぐ元の場所に、出目が6になるように出しただけだった。
見ていた奴らの殆どは驚いてサイコロの出目しか見ておらず、サイコロの状態までには気が付かなっただろう。
本来のサイコロよりも色あせた物になり、バレる前に蹴り飛ばしたがその先で簡単割れる程に木で作られたサイコロが腐っていた。
「そうなんですかね?」
「それより帰ってきたらすぐ飯があるよう、今の内注文しといてくれ」
「えー、だったら帰りどっか食べていきましょうよ」
「おでんならいいぞ」
この前コユキと一緒に食べに行ったきりで、久しぶりに行こうと思ったがコユキが渋った。
2日前も、4日前も食べたからって、なら今日行ったって良いだろうに。
「はあ、牛丼でいいですか?」
「ああ、それでいいよ」
コユキは「今度、個室で食べられる店探しときますね」何て子供をあやす様に言いながら携帯を取り出した。
軽く彼女の尻を蹴り飛ばして先を歩いた。
「痛ったいですね、別にそこまで素顔を隠す必要あるんですか?」
「……いざという時の為」
何となくずっと隠して居たくて、理由は感覚的で俺にも分からない。
「リーダーは外している時の方が、可愛げがあるんですけどねー」
「うるさい、早く歩けラパン」
「本当にラパンにするんですか!?普通にコユキって呼んでくれて構わないんですけど!」
小走りで追って来たコユキが隣で抗議する。こう言う小動物感があるから舐められるんだと、そう思いながら彼女の抗議を無視する。
「取って食われなくなったら名前で呼んでやるよ」
「言いましたね!今度は一人でしっかり勝ってきますから!」
彼女ならギャンブルなんてせずとも稼ぐことが出来そうなものだが、普通に稼ぐだけじゃ彼女はつまらないのだろう。
後日、コユキは一人で意気込んでギャンブルしに行ってたが、しっかり負けて帰ってきた。
「やっぱりラパンだな」
「うわあぁあー、初めはちゃんと呼んでくれたのにー!」