機械たちは明日に夢を見るか?   作:akuriru14

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4-1『迫る、3シュトリヒの導火線』

 

 誰も居ない部屋にポテトチップスを齧る音だけが響く、ハンモックから腕が垂れ落ち、指先がポテチの袋を掠めた。

 

 右往左往した手のひらがやっと袋の中に入り、鷲掴みにしたポテチを口いっぱいに詰め込む。

 ジャガイモだと思えない程軽い食感に、海苔の香りと塩味の余韻がまた次の手を誘った。

 

 そして口に残る油と海苔をリンゴジュースで流す、しょっぱさを掻き消す淡い甘さがより引き立った。

 

 そうやって過ごしていると、バタバタと聞こえる足音と共に、静かだったこの部屋の扉が突然開かれた。

 

 「見てください!私達ネットニュースに載ってますよ!」

 「ネットニュース?」

 

 ニコニコと楽しげに言うものだから、さぞかし良い報告だと思いかけた。

 体を少し起こし指先を舐めながら、コユキに読んで貰った。

 

 「ブラックマーケットを荒らす謎の二人組!ですって!」

 「何でお前は嬉しそうなんだ」

 

 続く話は確かに俺達であろう内容だった。

 カジノ爆破や強盗、爆破に関しては1回しか起きてないが、強盗はこの前ので4回目になる。

 

 確かにこれだけ好き勝手やっていれば、噂になるのも時間の問題だったか。

 

 「リーダーの事も書かれていますよ」

 「……どんなふうにだ?」

 「主犯格の名はカラス、名の通りの機動力で壁を蹴り宙を駆け、銃も使わずに喰らいつく姿は、まるで獰猛な猛禽類!」

 

 カラスどこ行った?猛禽類だとカラスじゃ無くなるだろ。

 それにコユキは俺の事をカラスとは呼ばなくなった。何処からその偽名を聞き出したんだ。

 

 「情報提供は匿名のスケバンからですね。しかも、果し状の様なメッセージも書かれていますよ」

 

 アイツかよ、一度しか会ってないのにまだ根に持っているのか。

 顔を合わせないようにしたいが、アイツとよく似た服を着てる奴はしょっちゅう見かける。出くわさない事を祈ろう。

 

 最近、銃を回収するのに手間が掛かるようになった理由がこれだったか。

 今でもあのジャンク屋に銃を売りに行っているが、そろそろあの店に持っていくのも危険だな。

 

 「ちなみに私は、脱兎の如く走る白兎って書かれています。かっこよくないですか?」

 「褒められているか微妙なラインだぞ」

 

 そう言ってもコユキは嬉しそうで、そのままソファーへ飛び込み部屋に埃が舞った。

 

 「でも、ここまで情報が出てくると、後方支援の出来る人が欲しくなりますね」

 「後方支援?」

 「はい、セキュリティなどの端末を放置しているので、カメラとかに残ってしまうんですよね」

 

 何となく先生は出来ないかと思うと、何も言わずとも否定された。

 ロックの解除やセキュリティの薄い物なら大丈夫らしいが、情報工作などは出来ないらしい。

 

 「お前は出来ないのか?」

 「やれない事は無いですけど、後方支援ってつまらないんですよね」

 

 じゃあなんだ、後方支援をしてくれる人を探しにでも行きたいのか?

 キヴォトスの論理感は未だに把握したわけじゃないが、犯罪行為を嬉々として手伝う奴がそんなに居るだろうか。

 

 しかし、コユキが言いたい事はそうじゃないらしい。

 態々回りくどい言い方で話しているが、彼女が持ってきた話はニュースだけではなかったようだ。

 

 「先日、私がルーレットで遊んで――」

 「長そうだから分かりやすく言え」

 

 もったいぶった喋り方が鬱陶しくて話を切った。

 コユキはわなわなと震えていたが、しょうがないと思ったのか再び話し始めた。

 

 「今晩、ゲヘナ郊外の所で兵器の密売が行われるんですよ。それを奪い私たちが売れば多額の資金になると思います」

 「……売れるのか?それに、最初のセキュリティの話はどうしたんだ」

 

 「まず1つ、カイザーが運営している闇銀に売ります」

 「そして2つ、密売が行われるであろう現地は多少のガード兵は居ると思いますが、足を残したくない彼等は付近一帯のセキュリティを切る筈です」

 

 普段何も考えず動くコユキが、尤もな考えを話す所を見て意表を突かれた。

 だが、思えば普段のコイツは阿保だが、俺より頭が良かった事を思い出した。

 

 セキュリティの話をしたのも分かったし、支援の要らない方法なのも理解できたが、カイザーの闇銀行に持って行ったとして足がつかないかが心配だ。

 

 「それも恐らく大丈夫です。この取引はエンペラーテクノロジーが持ちかけたので、むしろ喜んで買い取ってくれると思います」

 

 カイザーに引き続き似たような名前の企業が出て、全く分からなかったが先生が簡単に教えてくれた。

 

 『エンペラーはカイザーよりも大きくはないが、同時期に創立した新技術の発見や研究開発を主とする企業だ』

 「エンペラーはカイザーを目の敵にしているので、会社間での揉め事が度々起きるらしいです」

 

 彼女は先生の存在を知らないのでどうしようもないのだが、2人同時に喋るのは止めてほしい。

 

 「こんな会社ですよ」と言いながら携帯の画面を見せてくる。

 そのページには大きく会社のロゴが書かれていた。角ばった機械チックな足を持つイカが頭に葉っぱの冠を着けていた。

 

 「イカだ」

 「イカですね。カイザーがタコなのでそこら辺も意識してると思います」

 

 床に置かれたポテチの袋を手に取り、底を持ち上げて残りを口に流し込んだ。

 バリバリと噛み砕きながら考えを纏め、俺はその取引を横取りする事にした。

 

 「そうだな、悪くないがどうやって運搬するつもりだ?」

 「にはは!そうですね、ちょっとこれ見てください」

 

 彼女は窓の方に駆け寄って俺を手招いた。何だろうかと近づいて窓から見下ろすと、下に見覚えのない車が止まっていた。

 使われていた形跡が見て分かる黒塗りの車。車体の窓から中の様子が見えないが、それ以外は普通の物だった。

 

 「お前が持ってきたのか?」

 「はいっ、下に車庫があるので1台あっても良いと思って、これ使ってゲヘナに行きましょうよ」

 「運転できるのか?」

 「任せてください、結構自信あるんですよ」

 

 この時の俺はきっと、車に乗った事が無くて少し興奮していたのだろう。だから、彼女の「自信がある」という言葉を疑わなかった。

 今すぐにでも乗りたいのか、コユキは目を輝かせ部屋を出て行こうとする。

 

 「ゲヘナまで少し遠いですし、試走も含めて今から向かいません?」

 「……別にいいが取引は夜だろ、早すぎないか?」

 「先に現地に侵入して、地形を把握した方が良くないですか?」

 

 本当に今日のコユキは押しが強い、俺は口が回る方じゃないし何を言っても行く流れになりそうだ。

 分かったよと頷くと彼女は喜びながら階段の方へと駆けていった。

 

 車1つでそこまで興奮出来る何て幼稚だと思ってたが、俺自身も人の事が言えないだろう。

 窓枠に手を掛けて外へと身を乗り出して下へと降りた。

 

 車の前に着地しを彼女を待っていると、指先でくるくると鍵を回しながらやってきた。

 コユキが運転席に乗り込むのを見て、俺は反対側に乗った。

 

 外から見た窓ガラスは曇っていたが、車内からだと少し暗くなっただけでしっかりと外の景色が見えた。

 

 「中からだと普通に外が見えるのか」

 「見えなかったら運転できませんよ」

 

 彼女から当たり前の様に言われた。だが、それもそうだ。

 

 鍵を差し込み回すと車がエンジン音と共に車体が揺れ。ブルブルと震えるような振動が足元を震わした。

 音が少し騒がしいと思ったがこういう物なのだろうか。

 

 「よく乗っていたのか?」

 

 いざアクセルを踏もうとした彼女に、遅すぎる疑問を聞くと呆けた顔で返された。

 

 「いえ、初めてですけど授業で習いましたし、点数も良かったんですよね」

 「……待て、本当に大丈夫だろうな!?」

 

 俺の心配は動き出したエンジン音にかき消され、不安要素を乗せた車は動き出した。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 俺達は落下して炎上した車を見ていた。

 

 正面から潰れる形で地面へと衝突した車は何が原因か、息を着く暇もなく燃え上がり、火だるまへとなった。

 

「……私のせいではありませんよ?」

「どうだか」

 

 初めの内はコユキが運転する車に恐怖心があったが、案外上手いもので慣れてしまえばそんな恐怖は無くなった。

 

 だがゲヘナに向かう途中、下道から高速道路に乗り換え、高低差のある道路へと道に入った。

 高速に入ったコユキは調子に乗って速度を上げ続けていたが、それでもまだ問題はなかった。

 

 そしてゲヘナに入った途端、目の前の道路が爆発し崩れたのだ。

 

 ハイスピードで走っていたせいか、ブレーキを踏むも間に合わず車は空中に飛び立ち落下したのだ。

 落ちる前にドアを蹴破ってコユキと共に車外に脱出したが、下の道路と高低差が充分に無ければ間に合わなかった。

 

 コユキを肩から降ろそうとすると、足元に不安を感じその場から飛びのいた。

 間髪あけずに続けざまに周囲が爆発し、地面を抉るような音に空気が震えた。

 

 「おい!、ゲヘナってのは紛争地域か何かか!?」

 「う~ん、言いえて妙ですね」

 

 地面から立ち上る爆炎と土煙から逃げ回り、安全だと思える場所まで退避すると、削れた地面に槌を担いだ生徒達が一斉に現れた。

 

 「開発だぁーー!!」

 「今の内に資材を運び込め!!、すぐに風紀委員が来るぞ!!」

 

 黒を基調とした布地に赤色を挿し、鉄帽を被った少女たちが慣れた手つきで地面を削り始める。

 何処から重機まで現れ、数秒前まではただ崩壊した道路だったものが、目の前で形を変えて建物が作られようとしていた。

 

 その作業風景を観察していると、また地面から爆発が起こるがそれと同時に、地中から勢い良く何かが噴き出した。

 

 「温泉だぁーー!」

 

 何が嬉しいのか周りに居た生徒達は喜びの声を上げて、その周りを取り囲むように集まりだした。

 

 その場に白い煙が立ち上り僅かながら此方まで流れてくる。自然と鼻に入ってきた匂いは、独特な物だった。

 塩っぽい匂いにナマモノの様な鼻に少し残る匂い、そして水気を含んだこの煙はただの水蒸気だと分かった。

 

 「なるほど温泉開発部でしたか、だとしたらさっさと逃げましょう」

 「温泉開発部?じゃあ彼女達はここに温泉を作ろうとしているのか?」

 

 肩から降りたコユキは服を叩きながら、街中へと入ろうとする。俺は彼女の背中に付いて行った。

 

 「彼女達はキヴォトスでも有名で、そこかしこ無許可で温泉を作り、邪魔であれば周囲の破壊活動までします」

 「……何のために?」

 「えっ、多分温泉が好きだからじゃないんですかね」

 

 温泉を作る為ならリスクと手段を選ばないテロリスト。コユキは彼女達をそう呼んだ。

 ゲヘナは校風的に破天荒で変わった生徒が多く、認可されずに活動する部活やサークルが多数あるらしい。

 

 「ですので、彼女達の近くには大体ゲヘナ風紀委員も居ます。なので早くこの場から逃げた方がいいですね」

 

 また、そんな治安の悪い学区内を、取り閉まるのがゲヘナ風紀委員会だという。

 荒くれ者どもを制圧できる風紀委員という組織は、キヴォトスでも屈指の規模と戦力を持っているのだとか。

 

 キヴォトスの生徒達は皆、割と好き勝手自由に過ごしていると思っていたが、俺が過ごしている周りが無法地帯なだけで、善良でまともな生徒も居るものなのか。

 

 だが生徒主体で生活しているこの街で、自ら律して生きているなんて、それはそれで変人な気がしないでもなかった。

 

 「どうします?このまま徒歩で取引現場まで向かいますか?」

 「時間は?」

 

 コユキは携帯を取り出して何か確認すると、此処から歩いて1時程、取引そのものは2時間後と言った。

 やけに具体的に話すが彼女はその情報をどこから手に入れたのだろうか。

 

 「それを話そうとしたら、リーダーが話を折ったんじゃないですか」

 「……今更だけどその話、本当なんだろうな?」

 「実際、隣で聞きましたからね確かな物だと思いますよ」

 

 何故隣に居たのかを軽く聞くと、カジノで遊んでいたら偶々隣で話していたらしく。狙っていた訳じゃないがその話しを盗み聞いて、今回の作戦を思いついたらしい。

 

 「お前、また一人でギャンブルしに行ったのか」

 「ぐっ!、……ですけどその日勝ったお陰で車が買えたんですよ」

 

 成る程、だからこんな事故に巻き込まれたのか。

 

 コユキの不運に巻き込まれたと分かった所で溜息を吐き、頭を切り替えて運搬方法を考える事にした。

 

 車が炎上してしまった以上、運ぶ手段がなくなり取引現場に行ったとしても持ち帰ることができない。

 俺の中へと仕舞うのは秘密なうえ、劣化する以上使い物にならない。だが、これから新しく車を用意するのも時間に間に合うか怪しい。

 

 どうすればいいか頭を悩ませていると、簡単な方法が浮かび上がった。

 

 「そうだ、運び込むための車をそのまま奪おう」

 「……確かにそうですね!、卸す前に車両ごと奪えば楽に進みます」

 

 作戦が決まった所で彼女が手に持っていた携帯を奪い取り、画面の地図を直に盗み見る。

 コユキはびっくりして慌てて携帯を取り返そうとしたが、俺が顔を掴むと抵抗しなくなった。

 

 俺が見たいのは周囲の情報だけで、表示されていた場所を一瞥するとすぐに彼女に返してやった。

 

 「何ですか一体!、うら若き乙女のスマホを覗くなんて!」

 「地図を見ただけだろ、ほら行くぞ」

 

 怖くもないコユキの怒りを無視して目的地に向かう。

 俺じゃ一度見ただけで地図を覚えること何てできないが、しっかり先生は俺の意図が分かっていた。

 

 『どうせなら高所に居た方が良いのだろう?、この先にある外付けの非常階段を登ってくれ』

 

 遠くに見えた階段へ向かって歩き出すと、何だかんだ文句言いながらコユキも付いてくる。

 

 「……ちなみにどういった手順で奪うんですか?」

 「いつも通り、大体その場の流れだよ」

 「ですよねー」

 

 先生の言った非常階段に近づくと、簡単な錠がされていたが右手で握っただけで開いた。

 

 「相変わらずのゴリラ」

 「カラスと呼べ、ラパン」

 

 先ほどの仕返しのつもりで言ったのだろうが、俺も返し言葉で食用兎と呼んでやった。

 後ろで随分とご立腹の様子だったが、彼女を無視して階段を登り始めると、文句を言いつつもちゃんと付いてきた。

 

 階段は簡素な物で、一段登るたびにスチール板の音が響く。

 後に遅れて鳴るコユキの足音が何だか不思議な感じで、それは屋上に着くまで続くのだった。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 日が沈み、俺は時間が来るまで屋上に寝そべって、月が雲に隠れては顔出す姿をただ眺めて待っていた。

 

 「あっ来ましたよ」

 

 小声で話すコユキに並んで塀から顔だけ覗くと、明かり1つ無い倉庫の周りに複数の車が止まっていた。

 周りには照明と呼べるものは一切無く、車達のライトだけが目立つように真っ白に光り、すぐ近くの倉庫の扉へと紺色の影が蠢いていた。

 

 その実態を確認しようと目を凝らすと、2台のトラックの傍で守るように、屋根もドアもない車が護衛していた。

 ここにあるのが全てか分からないが、見えるだけでも7台はある。

 

 砂に塗れた様な緑色で染められたその車体が走る姿を見ると。過去に似たような車が町の中を走っていた時期を思い出した。

 

 「あの車は……」

 「ん、あれはジープじゃないですかね」

 「よく知っているな」

 「授業を受ければみんな知ってます」

 

 普段過ごしていて兵器や銃に博識だと感じていたが、まさか学校で習うものだとは思わなかった。

 

 トラックは倉庫の中へ入っていき、続いてジープも数台入ってはいったが、数台程は入口周辺を守るように残っていた。

 

 「エンペラー社の私兵っぽいですね」

 「なんかゴツイな」

 

 全体的に白と紺のカラーリングのアンドロイド。

 持ってる武器はよく見かける物だが、体が全体的に大きく重ねた装甲が堅牢な雰囲気を作っていた。

 

 警備を無力化して入るのは諦めて、隣接された工場から入る事にした。

 コユキの肩を静かに叩き移動する。視覚、足音に気をつけながら工場の屋根の上まで移動する。

 

 見つからない様に隠れつつ、侵入出来そうな所を探していると、外の光を入れる為の窓を見つけた。

 

 地上からじゃ遥かに届かない高さだが、屋根から飛び降りれば関係無いだろう。

 静かに屋根から落下し、擦れ違った窓枠に手を伸ばしてしがみついた。

 

 開かなければ別の方法を探そうと思っていたが、運よく窓に鍵は閉められていなかった。

 

 「……よっと」

 

 中を覗くとただの廊下で人の気配を感じなかった。

 窓を全開し半身を入れた所でコユキに合図を送り、飛び降りてきた彼女の手を掴んで中へ侵入した。

 

 「流石に施設内にまで警備は居ませんね」

 「……」

 

 この工場はもう稼働してないらしく、長い間放置されていた様だ。朽ちかけの扉に澱んだ空気感、少し廃墟の事を思い出した。

 

 俺が先頭を歩きその後をコユキは追う。扉越しに聞き耳を立て、最大限警戒しながら倉庫の方へ移動していく。

 コユキの考え通り、扉もロックされておらず、カメラも動いてない様に見えた。

 

 順調かと思えたが、先ほどから進むにつれ何処か違和感を感じた。口では言い表せない、もやもやとした予感が胸の内で増えていく。

 

 『気をつけろユウリ、他に侵入者が居る』

 

 突然聞こえた先生の声に足を止め周囲を警戒する。穴の開いた天井から垂れた配線に、埃の乗っていないドアノブ。

 そして、そのドアに続く潰された埃の足跡に、今となってやっと気が付いた。

 

 『さらに、残念な事に一部セキュリティが起動している。まあ、今は機能していないようだが』

 

 どうやらコユキの考えは外れていた様だ。しかし、先生の話をそのまま考えるなら、先に来た侵入者の仕業という事になる。

 

 俺達のように忍び込んでいる事を考えると、そいつも目当ては取引される兵器か。

 

 「どうしたんですか?いきなり立ち止まって」

 「俺たちの他に侵入者が居る」

 

 コユキは驚き声を挙げそうだったが、自分で直前に口元を押さえた。

 

 この建物には人の気配がない、居るとすれば倉庫の方だろうか。あるいはここ以外の周辺の建物。

 

 出来れば不安要素を除いてから向かいたいのだが、取引が終わってしまっては元も子もない。

 横槍が入る事を覚悟した上で強奪するしかないか。

 

 「このまま倉庫に向かう、警戒しながら動くしかない」

 

 コユキが黙って頷いたのを確認し、静かに扉を開け周囲の音を探りつつ進む。

 床に残る足跡はやはり倉庫の方へと向かっており、息を潜めながら移動していると、物音が聞こえた。

 

 音の出所へを追うように扉に近づき僅かに開くと、扉の先に止められたトラックとジープが見えた。いつの間にか倉庫の前まで来ていたらしい。

 

 倉庫の中は1つの照明しか使われておらず、その真下でエンペラーの兵士が誰かを待つように立っている。

 どうやらまだ取引は始まってないらしい、彼等は待ちぼうけを食らっているようだ。

 

 扉の隙間を広げ、暗闇に紛れながら倉庫の中へ身を滑り込ませた。倉庫内には足跡がないが必ずどこかに居るはずだ。

 

 倉庫内にはシートを被った荷物が点在し、伸びたその影が倉庫の隅々をより暗い闇へと変えていた。

 闇の中に身を沈ませトラックの荷台へと近づいていく。幸い、そこには兵士は一人も居なかった。

 

 2台のトラックを前にすると、コユキは口元を歪ませトラックへ指さした。

 何事もなくここまで来てしまった事で、察してしまったのだろう。嫌そうな表情だけで言いたい事が何となく分かる。

 

 二手に分かれ俺が右のトラックへ、彼女はもう左のトラックへと向かう。

 彼女が静かに開けて入る様子を真似て自分も入ると、中に明かりはなく厳重に固定された箱がいくつもあった。

 

 それぞれ名前らしき物が書かれているが、俺では読むことは出来なかった。

 

 『……見た事のない兵器だ。形状的に爆弾だとは思うが』

 

 先生も知らなかったらしいが、警戒していた俺はそれどころでじゃなかった。

 カタカタと何かを叩く音、恐らく荷台の奥に一人誰かが居る。

 

 「……まさか俺の方とは」

 

 こういう時はいつも悲運に愛されたコユキが選ばれるのだが、今日はどうやら俺を選んだらしい。

 

 気配を消して、奥へ奥へとゆっくりと進む。

 荷物の向こう側に揺れるヘイローが見え、気づかれぬ様に覗くと、画面に向かって指を動かしながら独り言を喋る、深緑の覆面を被る生徒がいた。

 

 周りに一切の警戒もしないで、ただひたすら画面と向き合って作業をしている。

 ただ、彼女は何故か息が荒く恍惚とした雰囲気だった。

 

 「後は起爆までの猶予を作って…………良しッ、後は戻るだけ」

 

 今、目の前に居るのが別の侵入者だろう。だけど、警戒していた雰囲気とはまるで違い、盗っ人と言うよりは不審者に近かった。

 

 「……くひひ、エンペラーが作った新種爆薬、一体どれ程の威力なんだろう」

 

 その場で立ち上がり体を震わす彼女。その背後に近づき、飛びかかるように腕を回して首を締め上げた。

 

 「――ッぐ!?」

 

 触れたくない気味の悪さがあったが、普段のように力づくでやって仕舞えば、外に音が漏れる可能性があった。

 一度きつく締めてから、言葉を話せる程度まで緩めて彼女に目的を尋ねた。

 

 「……外の奴らじゃないね、だけどこんな事してる暇h――ッ!?」

 

 素直に本題を切り出さなかった彼女に、有無を言わさず強く締め上げると、観念したのか小声で話し始めた。

 

 抵抗が短くて良かった。身長差のせいで維持するのが辛かった。

 

 「奴らの作った新型兵器を使ってみたかっただけ、それだけだってば」

 「……お前も盗みに来たわけか」

 

 そのまま協力者の有無を聞いてから、このまま締め落とそうと考えていたが、彼女が抵抗とも思えぬゆったりとした動きで、床に置かれた画面を指差した。

 

 「別に盗みに来たわけじゃないよ、()()しに来ただけ」

 「は?」

 

 何故か楽しそうな声で返事する彼女は、俺の反応が面白かったのか、はたまた爆弾が爆ぜる所を想像しているのか。

 

 澱みなく動き続ける数列が、刻々と数を減らしていく。彼女の発言を考えるにこれが0になれば起爆してしまう。

 

 『爆発まで約17分、規模が分からないが此処にいれば碌な事にはならないぞ』

 「――ッ、おいっ!早くコレを止めろ!」

 

 拘束を解き彼女を爆弾の方へと蹴り飛ばす。彼女は数歩ほど転びそうな足取りでケースを掴むと、こちらを向きニヒルな笑みを浮かべていた。

 

 「もう無理だね。後からの信号を受け付けるように作ってないし」

 「此処に縛り付けてもいいか?」

 「ふふっ、それも悪くないかも」

 

 俺の言葉は脅しにもならないらしい。

 

 「……はぁ、はぁ……何て破滅的なんだろう」

 

 会話の途中だと言うのに、再びトリップしだした彼女から身を引く。

 ここまで来るとシンプルに怖い。クスリをやってる奴だってこんな事言わなかったぞ。

 

 こうなるぐらいなら、まだ荷台を狙った盗人の方がマシだった。

 自傷を顧みない変態と共に、爆発になんか巻き込まれたくはない。

 

 彼女の事を放って、もう1つのトラックへ向かう。

 このトラックを捨てる事に決め、コユキが乗った方を盗んで逃げる事にした。

 

 急いで脱出しなければと扉に触れようとした瞬間、ガタンと車体が震えた。

 エンジンが動き出し、車が前へ動いている事が分かる。

 

 だが、直ぐに止まったと思えば、荷台の壁越しに誰かの会話が聞こえた。

 

 「――――」

 「――、―――か?」

 

 不味いと思ったが隠れる場所もなく、徐々に側面の壁が持ち上がり、俺達は倉庫の灯り下に晒された。

 

 「これがドクターからの……」

 「……からの?」

 

 荷台から見下ろす俺に、此方を見上げる二人と目が合った。

 今、この場だけの時間が止まったような静けさの中、爆発へのカウントダウンだけが無機質に動いていた。

 

 「だッ、誰だお前達!!」

 「外の警備は何をやっとる!?、直ぐに捕えろ!」

 

 緊急事態を告げる兵士の声と、他者に知られるのが不味いのか、驚愕を叫ぶ大人の声が倉庫内を騒々しいものへと変えた。

 

 「――?、眩し」

 「お前達、噂のカラス共だな?」

 

 突然、顔に光を当てられ視界が真っ白に染まったが、2秒も経たずして視界が戻る。

 目の前に居る兵士が、銃とライトを俺に向けている様だった。

 

 正直に相手する時間もないが、仲間と勘違いされている手前、腹いせに覆面の生徒も巻き込もうと肯定して頷いた。

 

 奥に居る彼女が俺を見て何か言いたげだったが、口を挟まないでいる。彼女も何かしら考えがあるのだろうか。

 

 「どうやってこの商談を嗅ぎつけたかは知らないが、此処から簡単に逃げられると思うなよ」

 

 いかにも怒り心頭な彼の言葉を聞き流し、もう一台のトラックを気に掛ける。

 コユキに今の状況を伝える術もないが、上手いことやってはくれないだろうか。

 

 エンペラーの兵士達は扇状に俺達を囲み、警戒と敵意を俺達に向ける。肌の上が落ち着かない感覚になるが、まだこれ程の人数なら簡単に抜け出せる。

 

 「無駄な抵抗はせず降りてもらおうか」

 『――爆発まで15分』

 

 先生がタイムリミットを告げる。実際の時間を聞くと少し焦るからやめてほしい。

 だが、コユキからのアクションをいつまで待って良いか判断ができない。

 

 何故かこの状況にまで及んで、投降を勧められるとは思わなかったが、多少気を逸らすことぐらいはできないだろうか。

 

 「ほら俺達は丸腰だ。だから少し質問していいか?」

 「答える必要はない」

 

 雰囲気を軟化させようと試みたが、間髪入れずに断られてしまった。取りつく島もないようだ。

 彼等との睨み合いが続き、一向に動く気配を見せない様子に疑問を感じた。

 

 「ああ、……そういうこと」

 

 声と共にパタン、と物音がした方を見ると覆面を着けた彼女が荷物を纏めていた。

 動く事を許さず、抵抗の素振りを見せられないこの圧力の中で、彼女は平然と鞄に物を詰めていく。

 

 彼女の言葉と動きで俺も理解することができた。

 恐らく、俺達が爆弾を背にしているせいで危険で撃てず、しかし警戒して近づく事もできない。

 

 遠い所から警告するだけで、何もしてこないのはそのせいか。

 

 「……この爆弾は、起爆するとどうなるんだ?」

 「……」

 

 やはり答えない彼らを動かすため、近くにあったケースを掴み、端の方を軽く握りつぶす。

 兵士達だけじゃなく、近くに居た彼女も息を呑んだのが分かった。

 

 手のひら一杯に握り込んだケースの端は。手の中で小石程の大きさまで小さくなり。ミシミシと形が変わる音を鳴らしながら、彼らに再び尋ねると喉から捻り出す様に答えてくれた。

 

 「……確かなら1つで5階建てのビルを、木っ端微塵にできると聞いている」

 「わあ、このサイズでそれは凄いね」

 

 荷台には適当に数えても30個以上のケースがある。それがひとつでも起爆したら他まで引火してしまう。

 

 爆弾の詳細を聞いて密かにまた彼女は、呼吸を荒くし出した。本当に巻き込まれても気にしないのだろう。

 

 これは、俺の思っている以上に遠くへ逃げなければ危険な気がしてきた。

 

 もうこれ以上は待つ事ができない。そろそろ俺から動くかと思ったその時、目の前に大量の缶が落ちた。

 ピンを抜かれたそれらの円筒は地面を跳ね、破裂音を鳴らすのと同時に白煙を噴き出した。

 

 「スモークグレネード!?」

 

 視界が煙に飲まれる直前、急いで握っていた塊を天井へ向かって投げ放つ。

 放たれた塊はこの倉庫ただ1つの明かりだった電灯に向かって飛び、まるで弾丸かの様にガラスごと電灯を粉々に割った。

 

 明かりが消え倉庫内は彼らの持つライトのみになったが、煙に反射して何も見えないだろう。

 視界不良で阿鼻叫喚となった隙に、コユキの居るであろうトラックへ向かい、窓の開いていた助手席に飛び込んだ。

 

 「遅ぇ!」

 「一番に言う事それですか!?」

 「車を出せ!爆弾が起爆するぞ!」

 「ぇえ!?」

 

 コユキは驚きながらもギアを変えてアクセルを踏み込んだ。タイヤが僅かに滑るがそれでもトラックは発進した。

 

 その間に彼女の懐に手を突っ込み、手榴弾を取り出す。突然服の内を弄られ、彼女は驚いて声を挙げて俺を睨んだが、すぐに運転に戻った。

 

 「そのまま出口に突っ込め!」

 「分かってますって!」

 

 視界がおぼつかない中でも、流石にトラックのライトには気付いたのか、轢かれぬよう一目散に逃げていく。

 

 トラックは出口に向かって加速していくが、爆弾を載せたトラックとすれ違う間際、衝突音が鳴りフロントガラスに何かがぶつかった。

 

 それはさっきまで話していた兵士の一人だった。

 

 「おい!車を止めろ!」

 「リーダー!何か張り付きました!」

 「気にせず走り続けろ」

 

 先程まで指示を出していた所を見ると、隊長格のはずなんだが、避けるのが間に合わず轢かれる直前でジャンプしたのだろう。

 

 「いや!、前が見えないんですって!」

 「――おいっ!辞めろ!、落ちるだろ!」

 

 ガラスを叩きながら車を止めるように要求してくるが、コユキの返事はワイパーで嫌がらせをする事だった。

 

 近づいてきた倉庫の出口に手榴弾をぶつけようと、窓から上半身を出して振りかぶる。

 これの使い方は先生とコユキに教えもらった。威力は知らないが爆発する瞬間に扉へ当てれば、こじ開ける事も出来るはずだ。

 

 しかし、手で掴んでいたはずの手榴弾が突如、誰かに抜き取られた。

 

 「それじゃ開かないって、コレ使いなよ」

 「ああ、サン――」

 

 トラックと擦れ違う間際、窓枠に跳んで掴んだのだろうか。見下ろすとドアにしがみつく覆面の彼女が居た。

 先ほどの揺れは一人じゃなくて二人のせいだったか。

 

 まさかの出来事に驚いたが、今はそんな場合じゃない。彼女に構うより先に扉を破壊する事を優先した。

 渡されたのは俺が持っていた丸みを帯びた手榴弾ではなく、黒いテープで包まれた長方形の物体だった。

 

 軽く握り込むと少し指が沈むほどには柔らかく感触は粘土に近かった。

 本当に扉を破壊できるか不安だったが、そんな考える余裕もなく急いで扉に投げつけた。

 

 投げられた爆弾は扉に張り付き、どうなるのかと思っていると、どこからか機械を取り出して2回握り込んだ。

 瞬間、前方にあったはずの扉が爆炎と衝撃で吹き飛び、破片や塵がガラスに叩きつけられた。

 

 「痛ぁ!?」

 

 ガラスに張り付いていた彼は背中一面に受けたのだろう。今にも振り落とされそうな体勢だが、それでも逃がしまいとする不屈さで耐えていた。

 

 煙をぬけ視界が晴れると、正面は違う建物が間近にあり、コユキは慌ててハンドルを右に切った。

 急な方向転換で体が車外へと引っ張られ、荷台のせいか車体が傾き片輪を浮かした。

 

 地面との距離が僅かに近づいたが、この程度なら余裕だった。だが、唐突に体に掛かる負荷が増えた。

 

 「ちょっ、お前離せ!」

 「せっかく脱出できたと言うのに、身を犠牲にしてまで他人の足を引っ張るなんて……くひひ」

 「こいつッ、たち悪すぎだろ!」

 

 上着を掴む彼女を振りほどこうとするが、手は万力かと思わせるほど硬かった。

 どうしてどいつもコイツも一度掴んだら離さないんだ。人の事は言えないが、小さな少女の手の何処にそんな力があるというんだ。

 

 ハンドルを戻して車体が平行になると同時に、タイヤが地面に叩きつけられ、その衝撃と共に彼女と俺は車内へ逃げ込んだ。

 倒れる様に引き込んだせいで彼女の下敷きとなってしまい、俺の方が小柄なせいか視界が何も見えなかった。

 

 「はやくどけデカ乳」

 「うわっデリカシー無ッ」

 「このまま逃げていいんですか?って誰ですかこの人!」

 「頭のおかしい変態だ」

 

 体を無理やり起こし前方を見ると、一般道に出ようとしており、他の車や標識に傷を付けながら走る荒々しい運転で視界が揺れた。

 

 「来た道でブラックマーケットに行け」

 「うん、多分あそこまで行ければ追って来ないでしょ」

 「分かりましたけど……」

 

 そういえばいつの間に張り付いていた兵士が居なくなっていた。

 車が戻った際の衝撃で落ちたのだろうか、執念深そうな奴だったが流石に追っては来られないだろう。

 

 サイドミラーから見る後方では、彼の姿は確認できなかった。

 

 

 ◇

 ◇

 ◇

 ・

 ◆

 ◆

 ◆

 

 

 地面に体を打ち付けながらアスファルトの上を転がりまわった。降り落される間際に跳んだお陰で轢かれずには済んだが、このままでは私の首が飛んでしまう。

 

 「総員!逃走中のトラックを追え!、逃がしてしまえば此処にいる全員の首が切られるぞ!」

 

 無線機に怒鳴るように指示を出すと了解の一言が返され、各員がジープやオートバイで敷地内から出て行く。

 絶対に逃がしはしない、やっと大尉まで上がってこれたのだ。ここに来て作戦の失敗何て報告できるわけがない。

 

 怒りで荒れそうになった呼吸を落ち着かせ、身体に付いた土を払いながら立ち上がった。

 

 自分の元へ車両が来る事を待つが、一向に来る気配がなく慌てて無線機に呼びかけた。

 

 「……申し訳ございません。現地に残ってる兵士はもう居ないかと」

 「何故!俺を乗せていかない!」

 

 無線機を地面に叩きつけるが、跳ねて転がり傷が1つ残っただけだった。

 コイツ等に任せきるには不安がありすぎる。何か追う手段が無いだろうかと、周りを見渡すと1台だけ残された車両が目に入った。

 

 少しノイズが混ざるようになった無線機から、車両を1台俺の方に回す報告が聞えたが止めさせた。

 

 「代わりの物を見つけた。お前たちはトラックを逃さないようにしろ」

 「――了解!」

 

 倉庫の中へと駆け寄って車内を確認すれば、車のキーは解除されたままであった。

 運転席に乗り込んでエンジンを掛けると問題なく動き出し、問題ない事を確認すると無線機から部隊へ指示をだした。

 

 「必ず後悔させてやる」

 

 未だ抜けきらない怒気を言葉に吐き出し、アクセルを踏み込んだ。

 

 




次こそは一週間以内に投稿します。(2敗)
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