先生から重要な話があるとの連絡を受け、急いでシャーレに向かう
電話でもよくね?と思ったが、なにやら安全な場所で話がしたいのだとか
「待てええええ!折川酒泉んんんんんん!」
「ぶっ殺せええええ!」
にしても、電話越しからでも感じられるほど相当焦っていたな……
重要な話………色彩かゲマトリア関連か?
「おらぁ!その額に穴空けてやるよぉ!」
「死ねっ!!!」
危なっ………まあ、とりあえず考えるのは後でいいか
今は先生の所に向かうことだけを考え─────
「くたばれえええええ!」
「日頃の恨みだああああ!」
─────……いや、まずはコイツらを片付けてからじゃないと駄目だな。このままだとシャーレまでついてきてしまうだろう
いやぁ……今日はやけに絡まれるなぁ……
風紀委員が恨みを買うことなんて珍しくもなんともないけど、今日はいつにも増して酷いな……
まあ、負けることはないだろうから一人一人確実に処理して─────
「見つけたぞ!折川酒泉だっ!」
「いつもいつも邪魔しやがって!」
「ただちょっと校内で温泉開発しようとしてるだけじゃないか!」
「おらあ!大人しく殴らせろおおお!」
「ここからいなくなれええええええ!」
「もう暴れることができるなら何でもいい!」
「ザヨゴオオオオオオオ!!!」
「リミットオーバーアクセルシンクロオオオオオオ!」
「風紀委員を潰せえ!」
「ぬるぽ」
「本来のゲヘナの在り方を取り戻せ!」
「ガッ」
「捨ててしまったあああああああ!」
「喋るなああああああ!」
「風紀を乱す自称風紀委員め!」
「二度と表に出られないようにしてやるよぉ!」
「だとしてもおおお!貫けえええええ!」
「逃げるなあああ!女を堕とした責任から逃げるなああああああ!」
──────なんか数多くねえ!?こんな恨まれてたっけ俺!?
これ全部倒していけってのか!?そんなの付き合っていられるか!
色んな建物を経由し、なんとか敵を撒く!………いや、いっそゲヘナから離れよう!
思い切ってトリニティに引き返す!そうすればコイツらだって好き勝手できな……い……よな?
いや、でもゲヘナの不良にそんな常識があるのか……?
「メガ・キヴォトス・ランチャーを使………外れた!?」
「落ちろカトンボォ!」
やっば……!躊躇ってる場合じゃねえ!
ここは確実に撒く!その後トリニティに逃げる!そうすれば俺がトリニティに逃げたと気づくこともトリニティで暴れることもないだろう!
これが我が逃走経路だ!逃げるんだよォ!ゲヘーナー!
「わあ~ッ!!なんだこの男──ッ」
──────────
────────
──────
はぁ……はぁ……はぁ……!こ、ここまでくれば平気だろ……!
ゲヘナの連中は撒いた上、電車やバスなども利用して確実に距離を取った……!そして今はトリニティ!
もう俺を妨げる者は誰一人────あ、先生に会えないじゃん
…………やっべ、遅れるって連絡しとかないと
しかし……いくら〝ゲヘナ〟とはいえ、流石にさっきのは物騒すぎないか?なんか普段以上に血の気が多かったぞ、連中
………まあいい、今日は運が無かったんだろう……そういう事にしておこう、今は考え事をするのすらしんどい
「………そんなに疲れてるんだ?」
さっきまで命懸けの鬼ごっこしてたからな……精神的にも肉体的にも限界だ……
「………じゃ、じゃあ……そこの公園のベンチで一緒に休む……?」
それいいな………ジュースでも飲みながら休むか、秤さん
「うん、そうしよっか」
…………え?秤さん?なんでここに?
「任務帰り………だったんだけど〝トリニティに凄い形相のゲヘナ生が入ってきた〟って連絡がきて、それでここまで………」
…………ご、ごめんなさい……
「う……ううん、気にしないで。私も酒泉に会えて嬉しかったから」
そ、そうですか……ありがとうござ……い…ます?
「……ど、どうしたの?」
い、いや……何でもないです……?
「そう?」
……今の秤さん、少し変じゃなかったか?
具体的には言えないけど……なんか、いつものからかう感じの笑顔じゃないような……
……気のせいか?
「……あの……そんなに見つめられると、その……照れちゃう……かも」
……すいません
「あっ……その、嫌だった訳じゃないんだけど……」
……やっぱり変だ、普段の秤さんだったら〝そんなに見つめてどうしたの?もしかして………私に気があるのかな?〟みたいな感じでからかってくるはずだ
俺が絶対に勝てない相手、そんな秤さんがここまでオドオドしているとは……何かあったのか?
「ま、また見つめてる……」
んー……おかしいぞ……
「そ、そんなにずっと見つめられると────」
「────私が酒泉に会えたことへの嬉しさでニヤついてるのがバレちゃう……」
……え?今なんと?
「……え?もしかして……声に出てた……?」
………はい
「………うぅ……」
突然顔を赤くしたかと思えば、そのまま俯く秤さん
……な、なんだ?何が起こっている!?スタンド攻撃か!?
そ、それとも、これもからかいの一種か!?何が嘘で何が本当なんだ!?
「……その顔、私の言ったことを疑ってるの?」
へ?
「た、確かに会う度に〝ただからかってるだけだ〟と思われても仕方無いようなことは言ってるけど………でも、あれは全部本当のことだから………」
………それって、つまり?
「その……〝酒泉の反応が面白いから〟っていうのもあるけど……それ以上に、私にしか見せないような表情をしてほしくて……それで……」
それで?
「あぅ……あ、あまり見ないで……」
…………
「……だ、黙るのも駄目」
かわ─────ッッッッッッッッッ!!!
………っぶねぇ……!あまりの変わり様に情緒がぐちゃぐちゃにされるところだった……!
え?これって本当のこと?マジでいつものからかいとかじゃないの?
この人、俺と会う度にそんな乙女なことを考えていたの?強すぎない?
「……な、何か言って……」
そう言いながら俺の服の裾をぎゅっと握って………だ、駄目だ!パワーが違いすぎる!
誰だよこの人をお姫様とか言ってた奴は!ただの天使じゃねーか!?
お、落ちケツ……俺は風紀委員だ……!そう簡単に焦ったりはしないぞぞぞ……!
イメージしろ、空崎さんの姿を!感情に身を任せて風紀を乱すようなことをした俺を蔑む表情を!
……よし、多少は冷静さを取り戻し────
「……今、他の娘のこと考えた」
秤さんはムッとしながらも、今度は俺の腕に抱きつ────抱き?抱きつ?ん????なんか柔らかくね???お??お??
「………わ、私以外のことは考えちゃ駄目……だから……」
理解不能!理解不能!理解不能!理解不能!
秤さんはね、俺にデレデレしないし、余裕を失わないし、常に俺の上に立ってなくちゃいけないの
「………ま、まだ信用できない?じゃあ……こ、これならどう?」
そう言って顔を赤くしながらつま先を立たせ、俺に顔を近づける
え?これは……まさか─────
「あー!ズルいですよ!姫ちゃん!」
「………監視付きだってこと、忘れてない?」
────甘酸っぱい空気をぶち壊したのは、一匹の大型犬の鳴き声だった
「ヒヨリ、ミサキ………もう着いたんだ」
「わ、私達もここから近かったので……そ、それよりも!何をしようとしていたんですか!?」
「……随分と姫らしくない行動だね」
走り寄ってくる槌永さんとその後ろを歩く戒野さん
槌永さんの方は明らかに焦っているような表情だが、戒野さんの方は………どういう気持ちの顔これ
……いや、本当にどういう気持ちだ?めっちゃ真顔なんだけど
「も、もしかして………お二人は付き合って────」
「そんな訳ないでしょ……大体、何時そんな関係が深まるような時間が取れるの?殆ど監視付きでしか行動できないっていうのに……」
「で、ですよね………」
「むぅ……なんでミサキが答えるの?」
「だって、実際にそうでしょ?」
「まあ、そうだけど………ミサキの言う通り〝今はまだ〟付き合ってないよ……?」
「………は?」
秤さんはもじもじと人差し指を合わせながら此方をチラッと見てくる
破壊力エグくない?俺の耐久がTORMENT仕様じゃなかったら一瞬でゲージが削りきられていたわ
「……酒泉、これはどういうこと?」
いや、どういうことかと聞かれましても……むしろ俺が聞きたいですよ
「こんな姫、今まで見たことないんだけど………絶対何か変なことしたでしょ」
本当に何もしてませんって!?ただ秤さんが俺をからかってるだけとか、そういう可能性だってあるでしょう!?
「……そうなの?姫」
「……わ、私は……本気だけど……」
普段の秤さんと比べると似ても似つかない様子にその場の全員が驚愕する
なんだよこれ、今日だけで何回俺を驚かせれば気が済むんだよ………もしかして、ここで俺が調子に乗ったら〝ドッキリ大成功!〟って書かれた看板を風紀委員会の皆と聖園さんが持ってきたりする?
てか、今まで然り気無くスルーしてたけど……もしかして俺って今、告白されてる?
「………それだけはあり得ないから、姫の冗談を真に受けないで」
人の心を読まないでください、戒野さん………あとそんなすぐ否定しないでください、泣きますよ
「こんな女たらしに好意を抱く娘なんているわけないじゃん、仮に付き合ったとしても皆呆れてすぐ離れていくに決まってるでしょ…………最後まで付き添えるのなんて私情を持たない道具である私ぐらいだよ」
なんだろう、黒ひげ危機一髪感覚で言葉のナイフを突き刺すの止めてもらってもいいですか?
大体、如何にも俺がモテないみたいに決めつけてますけどこんな俺にだって好意を抱いて────
「………何?言いたいことでもあるの?」
………あの人の真剣な告白を俺のマウント取りに使うのは駄目だろ
……やっぱ何でもないです、どうせ万年彼女無しですよ俺は
「……待って、今なんで間が空いたの?」
別になんも言ってませんよ……とにかく、俺は秤さんには何もして「誤魔化さないで」………誤魔化してません
「……まさか……誰かに告白でもされたの?」
………ノーコメントで
「いいから話して」
……まあ、大体察してる通りですよ。ちょっとトリニティの生徒に……
「……それで?なんて返事したの?」
………この話、止めにしません?俺としてもあまり他人には語りたくは────
「………なんで?」
────はい?
「なんで隠す必要があるの?大体、他人ってなに?私と酒泉は〝持ち主〟と〝道具〟の関係でしょ?………まさか、その娘の告白を受け入れたの?だから私のことを捨てるって?だからもう他人だってこと?………ふざけないで、散々生きる理由を与えておきながら勝手に捨てるなんて許さないから。最後まで責任が持てないなら最初から拾わないでよ、そうすれば私はこんな感情を抱くこともなかったのに………………そうだ、だったら私が〝持ち主〟になればいいんだ。私が〝持ち主〟として〝道具〟である酒泉を管理すれば、少しは私の気持ちも分かるでしょ?……うん、そうしよう、そうと決まればまずは……首輪でも買ってこよっか。当然断らないよね?私との繋がりを無かったことになんかしないよね?………絶対に逃がさないから、やっと手に入れた体温を……暖かさを」
────あっ!これ聖園ゼミでやったところだ!
驚いたねぇ嬢ちゃん……奇しくも(聖園さんと)同じ構えだ……
「────ミサキ、あまり酒泉を困らせるな。これ以上借りを作る訳にはいかないからな」
唖然としていると、突然何者かが戒野さんの肩を掴んで後ろに引っ張る
グイッと勢いよく下げられた戒野さんは苛立たし気に後ろを振り向く
「………邪魔しないで────サオリ姉さん」
「……お前が酒泉に迫らないと約束するならな」
戒野さんは軽く舌打ちしながら錠前さんの手を振り払うと、此方を一瞥してからそっぽを向いた
「ちょっと気が昂っただけなのに、そんなに怒らなくてもいいでしょ」
「……本当にそれだけか?」
「………しつこい」
錠前さんは溜め息を吐くが、その間にも戒野さんへの警戒を緩めない
両者が暫く睨み合っていると、先に錠前さんから動き出した
………何故か俺の手を握って
「……サオリ姉さん?何をしているの?」
「元々我々は〝トリニティに現れた不審者の調査〟をしに来ていただけだ、酒泉が変な事を企んでいるとは思えないが………一応、本人の口から直接監視の者に何をしに来たのか説明してもらう」
「……だから、なんで手を繋いでいるの?」
「……?決まっているだろう?」
「その方がありとあらゆる〝脅威〟から酒泉の身を護れるからな」
当たり前のように言い放つが……脅威?脅威ってなんだ?
「酒泉の身を狙う者や酒泉を利用しようとする者から酒泉を護る………それだけじゃない。酒泉の隣に居座ろうとする者も全て私が見定める」
「この女は本当に酒泉と共に歩めるのか、いざとなった時に足を引っ張ったりしないか、ただ酒泉の戦闘能力や立場だけが目当てではないのか、それら全てを私自ら確かめる」
「生半可な者に託して酒泉を傷つけさせる訳にはいかないからな、相応しい者が現れるまで私が酒泉の隣で護り続け…………いや、いっそのこと私が酒泉の隣に立ってしまおうか」
「それならば〝一生を掛けてお前を護る〟という約束も果たせるしな………それがいい」
「その身に傷跡を残してしまった罪は一生消えることはない、ならば私のやるべき事は一生を掛けてでもお前を幸せにすることだろう」
「必ず護る、どんな手を使ってでも護る、誰を敵に回してでも護る、どれ程傷を負おうと護り抜いてみせる、だから………その身を私に委ねて────」
「サオリ姉さんだって結局は酒泉に迫ってるじゃん」
戒野さんが錠前さんの言葉を遮る
錠前さんはピクリと眉を動かすと、その鋭い目を戒野さんに向ける
しかし、戒野さんは一切物怖じすることなく喋り続ける
「償いだの何だの無理やり理由を作って、自分の願望や欲望を押し付けてるだけじゃん」
「………何?」
「それとも自覚してなかったの?だとしたら相当盲目なんだね」
「……ただ繋がりが欲しいだけのお前と一緒にするな、私は本気で酒泉を護ろうとしている………それだけだ」
「だから、それが自分勝手だって────」
少し離れた所から三人で喧嘩の様子を見ている
触らぬ神になんとやら、だ
「だ、大人気ですねぇ……」
「モテ期かな?………正直、来てほしくないけど」
すげー嬉しくないモテ期だな……
「でも、皆さんはそれだけ酒泉さんに恩を感じてるってことですから………」
まあ、それは嬉しいことだけど……ここまで変わるか?普通
………本格的にあの薬が怪しくなってきたな
「薬?何の話ですか?」
いや、なんも………でもまあ、槌永さんはいつも通りっぽくて良かったよ
「私は今のままでも満足していますから……えへへ」
……大丈夫ですか?熱でもあるんじゃ……
「さ、流石の私でもそこまで厚かましくはないですよ!?」
首をぶんぶんと横に振りながら否定してくる槌永さん
〝流石の私〟って……自分でも厚かましいって思ってたんだな……
「そう、私は今のままで十分に幸せなんです………酒泉さんから頂いた物で自分の心を満たせるのなら、それで…………」
「このまま行けば、いずれは私の全てが酒泉さんに頂いた物で………えへ、えへへ」
「ああ………でも、できれば愛情も貰いたいですねぇ……それと酒泉さんの視線も、酒泉さんの興味も、酒泉さんの隣も、全部全部、全部─────」
「ヒヨリ、流石にそれは見過ごせないよ」
「─────あっ、姫ちゃん………えへへ、冗談です………えへ……」
「………誰が一番危険なのか、見誤っていたかも」