〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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酒泉「飲んだらヤンデレになる薬?」ヒナ「………」

 

 

 

 

……あっ、もしもし?空崎さん?

 

『酒泉!?無事なの!?怪我はない!?』

 

うおっ……ええ、何もありませんけど……

 

『……良かった……!』

 

えっ……あの、どうかしたんですか?

 

『……〝酒泉と連絡が取れなくなった〟って先生から……それに、酒泉が大勢の生徒達に追われていたって情報も入って……』

 

ああー………すいません、ちょっと携帯使う余裕がない状況でしたので……もう解決したんで大丈夫ですよ

 

『……本当に?本当に解決したの?』

 

ええ、あとは先生に会いに行くだけなんで────

 

「……もう行っちゃうの?」

 

はい、俺ももう少しお話したかったんですけど、流石に時間も遅くなってきたんで……

 

「……そう、次はいつ会えるの?」

 

んー……まだ予定が決まってないので分かりませんけど……まあ、その内連絡しますね────調月さん

 

『……………は?待って、なんで酒泉が調月リオと一緒に────』

 

「分かったわ………でも、その代わり最後にもう一度頭を撫でてちょうだい。それで我慢するわ」

 

……はいはい

 

「んっ………ありがとう」

 

『………酒泉』

 

ん?何ですか?

 

『私も一緒に行くから、ミレニアムの外で待ってて』

 

え?でも────

 

『拒否権は無いから………じゃあ、そういう事だから』

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

……あっ、おーい!こっちですよ空崎さーん!

 

「すき」

 

は?

 

 

 

 

 

本日初の生空崎さんとの会話です

初手告白?今日だけで二回目なんだけど?

 

たった一言のシンプルな言葉、それだけなのに何故か理解するのに時間が掛かってしまった

 

……え?何が好きだって?俺に向かって言ってるの?

 

……まあ、今日は色んなことがあったからな。こんな事態にも多少は慣れた

 

その経験を活かして、ここは冷静に対応を───

 

 

 

「すき」

 

 

 

 

────二回攻撃?あの……それって俺に対して……でしょうか……?

 

「うん、すき」

 

……仲間として?異性として?

 

「どっちも、すき」

 

語尾に〝すき〟って付けるの止めません?

 

「ごめん、すき」

 

とりあえず喋り方戻しましょっか?

 

「分かった、だいすき」

 

 

はー待て待て、なーんにも分かってねえじゃん、〝すき〟が〝だいすき〟になっただけじゃん、思わず俺の中の日下部さんがまた出てきちゃったじゃん、頼むぜ風紀委員長

 

普段のクールな空崎さんは何処に行ってしまったんだ

 

……でも、この言葉も聖園さんに盛られた薬の影響なんだよなぁ

 

 

「ところで……酒泉は先生と何を話しに行くの?」

 

いや、何やら重要な話があるとかで……出来れば他の人には知られたくないらしいです

 

「酒泉一人で会いに行くってこと?」

 

はい

 

「浮気?」

 

 

そうはならんやろ、その発想だけは絶対に有り得ないだろ

 

女性の知り合いに会いに行くならまだしも………いや、そもそも俺と空崎さんってそんな関係じゃないし……

 

 

「私も一緒に行くから」

 

いや、流石に約束を破る訳には………あの先生が〝重要な話〟って言ってるんですよ?

 

しかも、俺と一対一で話したいって向こうから呼び出してくるなんて………何かあったに違いありませんよ

 

「……駄目、私も一緒に行く」

 

何でそこまで警戒してるんですか……空崎さんだって先生のことは信用してるでしょ?

 

「それとこれとは話が別、相手が誰だろうと酒泉は渡さない」

 

 

ヤンデレ薬の効果ってすげー………あの空崎さんがここまで感情を表に出すんだもんなぁ……

 

 

「……とにかく、一人でシャーレに行くのは駄目。仮に先生は安全だったとしても、他の女の子もシャーレに居るかもしれないから」

 

ナンパ野郎じゃないんですから………そんなすぐに他人を口説いたりしませんよ

 

「他人じゃなかったら口説くんだ」

 

いや、今のは言葉の綾っていうか……

 

「………私だけじゃ物足りないの?」

 

 

空崎さんは小さい身体で迫ってくる

 

此方の顔を見上げながら両手でぐいっと顔を引っ張られ、今にも顔がくっついてしまいそうなほど引き寄せられる

思わず魅入ってしまいそうなほど力強い紫の瞳、此方を包み込むような暖かい両手、そして美しくも可愛らしい整った顔

 

更には俺のような汗臭い野郎なんかとは違い、年頃の女の子らしい清楚な香り、そして薄く頬を染める空崎さんの吐息を感じる

 

このままだと俺は理性が崩壊する─────などと、その気になっていたお前らの姿はお笑いだったぜ!

 

俺だってやられっぱなしじゃないんだよ!今までの弱い自分とはお別れをした!

 

うおおおおおおお!領域展開!無名空処!

 

説明しよう!無名空処とは、自分の頭の中にマイクロビキニ姿の無名の司祭を無限に思い浮かべ続けることで理性を保つ必殺技だ!さっき調月さんに抱きしめられた時に覚えた!

 

今、俺と空崎さんの間には〝無限の無名の司祭〟が流れている!これがある限り、俺の理性が崩壊することはない!ああ、酒泉の勝ちだ

 

「確かに私の身体は他の娘と比べて小さいけど………」

 

 

そう言って空崎さんは俺のことを抱きしめ────なんだと!?

 

こ、この人………〝適応〟しやがった……!

 

 

「でも………その欠点が気にならないくらい酒泉が満足できるように頑張るよ?」

なんかとんでもない事を言われてるような気がするが、今はそれどころではない

 

この場をどう切り抜けるか、どう理性を維持するのかが一番重要だ

 

 

「仕事も生活も、全部私が支えて………ううん、やっぱり酒泉は私の帰りを待ってくれたらそれでいいよ。大丈夫、絶対に不便はさせないから」

 

またヒモかあ、(尊厳が)壊れるなぁ……聖園さんにも似たようなこと言われたんですけど……

 

「………聖園ミカに?」

 

はい……俺ってそんなヒモに見えます?

 

「…………あの女………!」

 

 

空崎さんの声のトーンが落ち、纏うオーラが急にどす黒くなった

 

あっ、この空気あれだ……俺が何かやらかした時と同じやつだ……

 

「……それで?酒泉はなんて答えたの?」

 

……え?まあ……適当に誤魔化して逃げ出しましたけど……

 

「……逃げたのは正解、だけど……ハッキリと断るべきだった」

 

 

若干怒りながら、此方の胸に顔を埋めてくる空崎さん

 

お?甘えん坊二号か?よーし、ここは今日一日で鍛えられた俺のお父さんパワーで────

 

 

「………他の女の匂いがする」

 

 

────あれれー?思ってた反応と違うぞー?

 

「しかも一人じゃない……匂いが複数ある……酒泉、今日だけで何人と会ってきたの?」

 

え?なんでそんな事を………

 

「いいから答えて」

 

……まあ、構いませんけど

 

まずは聖園さんでしょ?

 

「アウト」

 

早くない!?もう少し聞いてくださいよ!?

 

「……それで?次は?」

 

次は……風紀委員の皆ですね

 

「……全員怪しいけど、まだ許容範囲」

 

そんで次は………またトリニティに戻って、アリウススクワッド全員でしょ?

 

「大体分かったわ、トリニティを破壊する」

 

なんで!?物騒なこと言わないでくださいよ!?

 

「………次」

 

えっと……そのままトリニティで正実の子と食事して、その前に色々あって一瞬だけ百合園さんと顔を合わせて

 

………で、最後に白洲さんとゲーセンで遊んでトリニティを出ました

 

「2アウト」

 

……あの、3アウトになるとどうなるんですか?

 

「……で?ミレニアムでは誰と会ってきたの?」

 

答えてくださいよ!?怖くなったきたんですけど!?

 

「いいから早く」

 

………その………天童さんとケイ、そしてモモイさんに会いまして……

 

「……最後に調月リオに会った………と、これで3アウトだね、酒泉」

 

 

 

ニッコリと微笑みながら耳元でそう囁かれる

 

……え?何されんの?一体何が始まるんです!?

 

 

「大丈夫、ちょっと私以外見れなくするだけだから」

……具体的には何を?

 

「私の部屋に閉じ込めて毎日顔を合わせるだけ」

 

なーんだ!それだけなら別に大した事じゃ────

 

………毎日?空崎さんの部屋で?それって監禁では?

 

「でも、その前に………匂いを上書きする」

 

 

何を考えているのか、そう問うよりも先に足払いを掛けられる

 

バランスを崩した俺は後ろに倒れそうになるが、それより前に空崎さんに腕を引っ張られる

 

そのまま俺は空崎さんの胸元に顔面からポフッと………ポフッと?

 

え?俺は今、何に埋もれている?何が俺のクッション代わりになった?

 

ドクンドクンと心音が聞こえる、これは………俺の心音だけじゃない……?

 

「……じっとしてて」

 

 

顔を抱きしめられ、より強く柔らかい何かを感じる

 

調月さんの時と似たような感触だが、違いを挙げるとするならば………今回はそれを顔で味わっているということだろう

 

 

「私は……その……色々と小さいけど、こうして思いっきりくっつけちゃえば嫌でも感じるでしょ?」

 

なあ、これってもしかして……………………胸?

 

え?胸?胸ってあの胸?あの伝説の?伝説って?ああ!それってハネクリボー?

 

やばい、状況が、理解、できない、たすけて、ねこはいます

なんで俺は空崎さんの胸とくっついているんだ?何故何故?何故?何故?

 

酒泉は既に少し錯乱している!モウヤメルンダ!

 

 

「………離れようとしちゃ駄目」

 

 

逃れようとすればするほど、より強く抱きしめられる

 

なあ、前世の俺……信じられるか?今、俺はこうして空崎さんの胸に埋もれているんだぜ?

 

……いや、埋もれる程はないけd「酒泉?」ごめんなさい何でもないです

 

てか、調月さんに抱きつかれた時も同じように慌てちゃったけど、もしかして………俺ってチョロい?

 

………い、いや!そんな事はないはずだ!むしろこんな美人さん達にくっつかれて理性を保ってるだけでも偉い方だろ!

 

 

「……これでもまだ反応してくれないの?」

 

 

バチクソ反応してます、顔に出さないようにしてるだけです

 

………と、心の中で言っておく。こんなこと直接言ったら流石にドン引きされると思うの

 

「……ねえ、どうすれば酒泉はずっと私の元に居てくれるの?」

 

……前にも言いましたけど、空崎さんが望む限りはずっと支え続けるつもりですよ

 

「そういう事じゃない………どうすれば四六時中、ずっと一緒に居てくれるの?」

 

いや、流石にずっとは厳しいんじゃ………

 

 

 

そう、俺にだって空崎さんにだって自分の生活があるのだ

 

物理的に離れないなんて………そんな事は不可能だ

 

どう説得しようか考えていると、空崎さんは俺を胸から離して小さく呟く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘つき」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一言、そう呟かれただけで身体が固まる

 

その視線は敵を追い詰めている時と同じような冷たい目をしていた

 

 

「ずっと私のことを支えてくれるって約束してくれたのに……それを破るんだ」

 

「待ってたのに……この学園に入学した時からずっと待ってたのに!」

 

「嘘つき!嘘つき!嘘つき!」

 

 

俺の服を掴み、身体を揺すりながら突然怒り始める

 

なんだ……何が起きた……?

 

 

「あっ……ご、ごめんなさい……つい……!」

 

「ち、違うの……本気で怒った訳じゃなくて……わ、私……酒泉に離れてほしくなくて……!」

 

「お、お願いだから捨てないで!他の人の所に行かないで……!」

 

「もう二度と怒らないから……!もう二度と迷惑掛けないから……!」

 

 

今度は泣いた!?一体どうなって────って、そんな事言ってる場合じゃねえ!?

 

空崎さん!お、俺は怒ってませんから!ちょっとボーッとしてただけですから!

 

 

「……ほ、本当?」

 

 

人見知りの幼児のように恐る恐る尋ねてくる空崎さん

 

肩を掴みながら〝本当です!〟と答えると、涙を拭ってから笑顔を咲かせる

 

 

「よ、良かった……私、酒泉に嫌われたら生きていけないもの……」

 

お、大袈裟では……?

 

「ううん、そんな事ない……私にとっては酒泉が全てだから」

 

 

な、なんだ……?今度は笑ってる……?

 

 

「私、酒泉に出会えて良かった。もし酒泉がいなかったら今頃私は………色んな物に押し潰されていたかもしれないから」

 

「自分の素直な感情を表に出すことが苦手な私を、初めて甘えさせてくれた大切な人…………それが貴方だった」

 

「だから、貴方にさえ嫌われなければ、私はそれで………」

 

 

 

……やはりおかしい、空崎さんの情緒が乱れている

 

そりゃ、空崎さんだって色んな感情を秘めているのは知っているが……それでもここまでコロコロと切り替わるもんなのか?

 

突然怒ったり突然泣いたり突然笑ったり……明らかに普通じゃない

 

………俺が飲んだのは本当に〝ヤンデレになる薬〟なのか?それ以外に変な効果はないのか?

 

 

 

「……ね、ねえ……どうしてまた黙るの?やっぱり……怒ってたの?さっきのこと」

……っ!考え事は後でだ!今は────空崎さん!俺んちでちょっと休憩していきませんか!?

 

「……え?どうして?」

 

今日の空崎さん、絶対疲れてますって!ここからなら俺の家の方が近いんで、遠慮せずに休んでいってください!

 

「……嬉しい?」

 

え?

 

「酒泉は……私が家に来たら嬉しい?」

 

………う、嬉しいです!泣いて喜びます!

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「どうも!!!謎の解説少女・Kです!!!」

 

「さて!皆さんお気付きだと思いますが……ヒナさんの様子がどこかおかしいと思いませんか?まるで人格が複数あるかの様に泣いたり怒ったり笑ったり……」

 

「その理由は至って単純!それは、彼女が多重人格だから………などではありません!彼女が酒泉さんに対して様々な想いを抱いているからです!」

 

「といっても、これまで会ってきた女の子達も全員酒泉さんに対して様々な想いを抱いていますが………ヒナさんはその比ではありません!」

 

「〝他の女と話さないでほしい〟〝酒泉を縛りたくない〟」

 

「〝私の隣に立ってほしい〟〝酒泉に戦ってほしくない〟」

 

「〝酒泉を閉じ込めたい〟〝酒泉に嫌われたくない〟」

「〝酒泉に依存したい〟〝弱い自分を見せて失望されたくない〟」

 

「今、挙げたのはほんの一部の例です!実際にはまだまだ彼女が抱えている感情はあります!」

 

「とにかく!それら全てがぐちゃぐちゃに合わさった結果、情緒不安定に────」

 

「コトリ?いつまで独り言を喋ってるの?」

 

「そろそろシミュレーションを再開しようじゃないか、この改修型アバンギャルド君に一番合うロマン装備を………ね」

 

「あっ!はーい!今行きまーす!」

 

「次はどうする?」

 

「そうだな……じゃあ、次の装備は〝V2X魔王アバンギャルド君・フルクロス・ルプスレクス〟だ!!!」

 

「その次は〝ウイングアバンギャルド君ノルン・ヴィダールですね!〟」

 

「どうせなら完全近接特化にしよう……〝アバンギャルド君・エピオン〟なんてどう?」

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

せ、先生……大変お待たせ……しました……

 

「……だ、大丈夫?随分疲れてるみたいだけど……」

 

大丈夫です……ちょっと聖園さんに変な薬飲まされて風紀委員の皆がバッチバチになってアリスクの喧嘩に巻き込まれて正実の生徒や白洲さんと遊んで何故か百合園さんに一瞬で顔を逸らされて天童さんに無理やり連れ去られてケイさんとモモイさんに襲われて調月さんを甘やかしてゲヘナに戻って空崎さんを寝かしつけてきただけですから………

 

「……こんな時間に呼び出して本当にごめん」

 

 

 

夜中の九時半、シャーレオフィス内にて

 

先生が凄く申し訳なさそうに謝罪してくるが、元はといえばハッキリと相手を拒絶できなかった俺の責任なので気にしないでほしい

 

……いや、悪いのあのゴリラだわ、うん

 

「……とりあえず、コーヒーでも飲みながら話をしよっか。砂糖多めだよね?」

 

あっ、はい。ありがとうございます

 

 

 

先生からコーヒーの入ったカップを渡され、それを飲む

 

温かい……やっと一息つける……

 

 

 

「さて、まずは君を呼んだ理由なんだけど………今日、変な薬を飲まされたって言ってたよね?」

 

ええ、聖園さんにやられましてね………幸い、身体に害があるような物ではありませんでしたけど

 

「その薬だけどさ……ミカは〝ヤンデレになる薬〟って言ってなかった?」

 

はい、よく知ってますね

 

「うん、薬を手渡した犯人を捕まえて問い質したからね」

 

 

苦笑いしながらそう答える先生

 

なんだ、もう捕まってたのか………ならこれ以上俺から言う事はないな

 

 

「それで、酒泉が飲んだ〝ヤンデレになる薬〟なんだけど………実はそれ、効果が違う別の薬と間違えてミカに渡してたみたいなんだ」

 

……え?効果が違う?

 

「正しくは〝周囲の人間の心の奥底を引き出す薬〟らしいんだ、それが自覚ありでも無自覚でも……ね」

 

 

 

先生は気まずそうにそう言うが、正直納得できていない

 

だって、それじゃあ今日出会った人達は全員、俺に対してそういった感情があるってことじゃ────

 

……駄目だ、また考え事が増えた

 

 

「………って言っても、突然そんな事言われても困っちゃうよね。とりあえず詳しい話はまた今度にしない?酒泉も疲れてるだろうしさ」

 

 

 

確かに……今日は色々あって疲れたかも……

 

ていうか、既に眠いって……いうか……

 

じぶんで……おもってるいじょうに……ねむい……

 

「……大丈夫?疲れてるなら少し休んでいく?」

 

すいま……せん……おねがい……します………

 

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

 

 

 

 

部屋に入ってきたサヤに睡眠薬を返す

 

ラベルにはサヤの写真と共に〝ぼく様が作りました!〟と書いてあった

 

 

「ふぅ……これで良いのかい?サヤ」

 

「うん、これで大丈夫。あとはぼく様が開発したこの薬……〝薬を飲んだ人の周囲にいる人達が心の奥底で秘めている感情をさらけ出す薬………の効果を打ち消す薬〟を打てば全て解決するはずなのだ!」

 

「うわっ、凄いご都合主義………あと名前長くない?」

 

「じゃあ〝ワスレール君〟とかで」

 

「適当すぎる………」

 

 

ぐっすりと眠る酒泉をソファで横にさせながら、私はサヤから注射器を受け取る

 

 

「これを打てば折川酒泉は今日の出来事を忘れ、更には薬の影響を受けてしまった者達も自然な感じで少しずつ忘れていくのだ!………まあ、その為には折川酒泉が被害者達と直接接触したりしないといけないけど。しかも完全に忘れるまで定期的に」

 

「その辺は大丈夫、多少強引に理由を作ってでも皆に会わせるからさ」

 

 

酒泉の腕を掴み、慎重に注射を打つ

 

本人は全く反応せずに今も眠り続けている

 

 

「生徒を騙すなんて、酷く心が痛むけど………争いの火種は消しておかないと色彩対策どころの話じゃないからね、分かってくれ………」

 

「まあ、とりあえず一件落着って事で………」

 

「………サヤ?」

 

「うっ……冗談です、ごめんなさいなのだ……」

 

 

 

今日一日でどれ程の苦難に見舞われたのだろうか、酒泉の表情には疲労感が表れている

 

 

「君は色んな人に狙われやすいね、敵にも味方にも………いや、味方とのゴタゴタならまだマシなんだけど」

 

 

思い出すのは調印式、そしてアリウス自治区での事件

 

ヒナと私を護る為に囮役となり、その身一つで立ち向かった時の事を

 

………そして、そのせいでベアトリーチェに狙われてしまった時の事を

 

教育者として私が背負わなければならない責任すら、彼は〝自らの物だ〟と多くの物を背負ったまま進んで行ってしまう

 

その結果、何度も傷つき、何度も死にかけ、それでも前に進み続ける

 

〝大人だけには背負わせまい〟と、自分の隣を走るどころか一人で先に突っ走る事だってある

 

 

「君はよく私に〝無茶をするな〟とか〝一人で抱え込むな〟って言うけど………私としては君の方が心配だよ」

 

 

大切な生徒一人すら満足に護ることもできない、そんは自分に腹が立つ

 

どうすれば彼の力になれるのか、どうすれば彼を救えるのか

 

………何をしようと、彼が素直に言うことを聞いてくれるとは思えないが

 

 

(ああ……それならばいっそ─────)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────シャーレで保護してしまおうか………ずっとね」

 

「……せ、先生?」

 

「ん?どうしたの?」

 

「…………な、何でもないのだ!ぼく様は用事を思い出したから……これで失礼するのだ!」

 

 

 

 

 

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