「………で?どんな感じかな?」
目の前でニマニマしながらそう尋ねてくる大バカアホゴリラ、こいつなんてもん飲ませやがるんだ
大体、もしその薬の効果が本物だったらどうすんだよ………ヤンデレになった俺とか需要ないだろ
「特に……変わってない……のかな?」
当たり前だろ……そう簡単に自分の性格変えられちゃ堪ったもんじゃないっすよ
「なんだ、つまんないなぁ………」
人の身体をなんだと思ってんだ、この女……!
そんな事ばっかしてると本気で嫌われるぞアンタ……
「そ、その……もしかして……本気で怒った……?」
……今更この程度で怒る訳ないでしょ、ったく……
「あ、あははは!だよね!酒泉君にはそんな度胸無いもんね!」
……なんかムカつきますけど……まあ、いいです
とにかく!これからは俺以外にはこんな事しないでくださいね!?
「分かってるよー……もう、そんな叫ばないでよ……」
本当に分かってます?いいですか、ハッキリ言いますけど─────
──────アンタのことを受け止められる人間なんて、俺以外に居ないんですからね?
──────────
────────
──────
「……………」
彼の口から出てきた思いもよらない言葉に、身体が硬直する
俺以外に居ない……?それって、酒泉君は私を受け止めてくれるってこと……?
「ね、ねえ……それってどういう────」
ったく……さっきから人をからかうような事ばかり言って……
他の人ならとっくにキレてますからね?俺だからこそ、聖園さんに付き合ってられるんですからね?
「…………」
普段の彼なら絶対に言わないであろう言葉を浴びせられ、思考まで止まってしまう
酒泉君って、私に対してこんなに素直だったっけ?もっとこう……生意気な……
……いや、私が普段から彼に対してだけ素直になれないのも悪いんだけどさ?
「……あ、あはは!今日はやけに素直だね?そんなに私のことが大好きなのかな?」
いつものように彼をムキにさせようと挑発してみる、こう言えば彼は間違いなく否定してくるけど……
─────……ええ、好きですよ……それが何か悪いんですか?
「………………え?」
今、なんて言った?好き?私を?
どうしよう……凄く嬉しいはずなのに、今は脳が理解を拒んでいる
心のどこかで、ずっと待ち望んでいたはずなのに……
「えっと……酒泉君の好きって……そういう意味?」
………ええ、そうですよ。一人の男としてって意味です
「……そうなんだ」
……どうしよう、いきなり告白されちゃった
でも、なんでこのタイミングで?ちょっとおかしいよね?
突然素直になったのも謎だし………一体何が起きてるの?
「……やっ、やっぱりそうだったんだ!私のことが大好きだったからこそ、今までずっと素直になれなかったんだね!酒泉君は!」
……アンタは?
「え?」
そういうアンタはどう思ってるんだよ、俺のこと……
「………そ、それは……」
此方を射抜くように真っ直ぐ見つめてくる酒泉君
ど、どうしよう……なんて答えれば……!そりゃあ私だって、す……すき……………………悪くないと思ってるけどさ?でも、いきなりそんな事聞かれても困るじゃんね?
こ、ここは一時撤退!後日、お返事をしよう!そうしよう!
「……ね、ねえ。この話の続きは今度しない?私、用事思い出しちゃった☆」
………逃げるつもりですか?
「し、仕方ないじゃん!私にだって心の準備が必要なんだし………」
……まあ、今回は見逃してあげますよ
溜め息を吐きながらやれやれと言ったように首を振る酒泉君
なんか凄いムカつく……
「………じゃ、じゃあ今日はこの辺で解散ってことで────」
………待ってください、因みにその用事ってのは……誰かに会いに行くことですか?
「え?えっと……う、うん!そうだよ!セイアちゃんとナギちゃんに会いに行くんだ!」
本当はそんな約束なんてしてないけど……ここは適当にでっち上げておかないと
「だ、だからまた今度二人で────」
その二人に会いに行くだけならすぐに終わりますよね?俺もついていきますよ
「─────え?」
別に疚しい話とかじゃなかったら、俺が一緒に居ても問題ないですよね?
「……い、いや……その……それが、すっごく重大なお話でさ!セイアちゃんとナギちゃんにしか話せないような────」
…………あ゛?
彼の表情が変わる
その目は怒りや疑い、そして悲しみが交じっていた
そんな目のまま、ゆっくりと私に近づいてくる
「……しゅ、酒泉君?顔が怖いよ?そんなんじゃ、女の子が皆離れて────」
────んな事はどうでもいい………俺には話せないのに、その二人には話すのかよ……
「だ、だって……そういう約束だし………別に酒泉君のことを信用していない訳じゃ────きゃっ……!?」
次の瞬間、突然酒泉君に押し倒された
「いたたっ……もうっ!そんなに怒らなくても………っ!?」
一言文句を言おうと身体を起こそうとするが、そうはさせまいと馬乗りされる
酒泉君はゆっくりと私に顔を近づけ、そのまま体重を掛けてくる
その瞳は餌を前にした獣のようにギラギラと輝いていた
「……酒泉……君?待って、ここが私の部屋とはいえ、ちょっと暴れすぎなんじゃ……」
……そんなに俺は頼りになりませんか?
「……え?」
酒泉君は私の身体の上に力なく倒れ込み、耳元で囁いてくる
─────俺、聖園さんの為ならなんでもします
今はまだ弱いですけど……いずれ聖園さんよりも強くなってみせます
あらゆる脅威から聖園さんを護ります、何が起ころうと聖園さんから離れません、だから………俺を……俺を捨てないでください
俺にはもう……貴女しか……
異常なまでの私に対する執着心、そして狂ったように口から吐き出される愛情の言葉
これって、もしかして────
(さっきの薬………効果あった?)
ようやく合点がいった、全部あの薬のせいだったんだ
(………でも、ここまで効果が強いなんて)
あの酒泉君が私に夢中になっている、ずっと風紀委員長のことばかり気に掛けていた酒泉君が………私だけを見ている
………薬の力に頼るのはいけない事だってのは分かってる、けど………困ったなぁ………
(手放したくないなぁ…………)
「………うん、頼りにならないね」
───ぇ……?
「酒泉君程度じゃ全然駄目、何の役にも立たないもん☆」
酒泉君の声がか細くなるが、容赦なく追撃する
「この問題は貴方じゃ……ちょっと力不足かなぁ……?ナギちゃんとセイアちゃんにしか解決できそうにないし……」
……そんな……俺、頑張りますから!どんな指示だろうと従いますっ!
「そんな事言われても、無理なものはねぇ………あっ!でも、コハルちゃんや先生なら平気かも!ねえ酒泉君、その二人連れてきてよ☆」
……は?
「あっ、コハルちゃんとは会ったことないんだっけ?じゃあいいや、私が自分で連れてくるからさ………先生も一緒に呼んじゃおっと!」
ま、待ってくださいよ……どうして俺だけ─────
「あれ?まだ居たの?何の役にも立たなそうだし、もう帰ってもいいよ?」
絶望したような表情で縋り付く酒泉君
でも、これじゃまだ駄目
これだけじゃ足りない
「どうしたの?早く行きなよ………私には酒泉君なんて必要無いからさ☆」
「……あれ?もしかして……悲しんでるの?でも、駄目だよ」
「貴方じゃ絶対に私の力にはなれないし、そもそも………貴方に興味ないの、私」
「それが分かったら、さっさと─────っっっ!?」
突如、息苦しくなる
上手く呼吸ができず、声が詰まり、口の端から涎が出てくる
私の首には、男の子らしく鍛え抜かれた二つの手が掛けられていた
「あっ……っっう……っ!」
────ふざけるな……俺はアンタのことしかみていないっつーのに……何でアンタだけ他の奴等にっ!!!
「……ぐぅ……っ……はっ……ぁ……!」
もういい……俺のことしか見られないようにしてやる……!無理矢理にでも俺の物にしてやる……!
「ぁ……♡はぁ……♡」
酒泉君が私の事しか考えてないっ♡怒りも悲しみも全部私にぶつけてるっ♡
駄目♡苦しいのに気持ちいいよぉ♡
「ぁ……はは……♡できるもんなら……やって……っ……みたら……?」
────このっ……!
「ガッ……!?ぅ……っ、オエッ……♡……っあはっ♡」
あっ♡本格的にマズイかも♡身体は私の方が圧倒的に強いのに、本能が抜け出すのを拒んでる♡
嬉しい♡このまま私を殺しちゃうほど私を求めてっ♡
もっと強く私を愛してっ♡
「ぁ……っ!ねえ、酒泉君……っ、この程度じゃ……かはっ………まだ、貴方を〝視て〟あげないよ?」
─────そうかよ、もっと強くしろってことかよ
「………っ♡」
苦しさがより強くなる
もはや自分がどうなるのかすら気にせず、ただ酒泉君からの痛みを全身で受け止める
簡単に突き放せる彼の身体を抱きしめ、その体温を感じながら私の意識は──────
「けほっ!けほっ!………え?」
──────途切れることなく、急に苦しさから解放される
「……しゅ、酒泉君?どうしたの?」
…………
「……も、もう終わり?この程度じゃ、私は貴方に興味なんて─────」
…………zzzzzz
「………は?」
彼から聞こえてくるのはイビキ、表情は気持ちよさそうにぐっすりしている
「もしかして………時間切れ?」
空崎さーん……むにゃむにゃ……
「…………」
明日は……何処に遊びに………んんー……zzzzz
「………むぅ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………で、これがその時の酒泉君の様子だよ☆」
くたばれえええええええええええ!!!
「あっはははははは!あ~……面白かったぁ……」
聖園さんのスマホにはスッゲーキモいこと言いながらスッゲーキモいムーブをかます俺が映っていた
こいつ……動画撮ってやがった……!つーか何処に隠してたんだよ!
「なるほどね~、酒泉君がヤンデレになるとこんな感じなんだ~………ふふっ!」
笑うなぁ!命が惜しかったら笑うなぁ!
「〝俺の物にしてやる〟………だってさ!あっはははははは!」
俺の目の前で堂々と腹を抱えて大爆笑するゴリラ界のお姫様
お前マジでいい加減にしろよ………おら!スマホ寄越せ!今すぐ動画を消してやる!
「あーげないっ!そんなに欲しかったら力ずくで奪えば?………まあ、酒泉君じゃ私には勝てないか☆」
ケラケラ笑いながら挑発してくるアホバカマヌケゴリラ大バカ女
……上等だ、そっちがその気なら、こっちだって本気でやってやるよ
「この動画、誰に送ろっかなー………あっ!貴方の所の風紀委員会に送ったら面白い事になるかも!」
…………
「それが嫌なら、暫く私に従ってもらおっかなー?それか、またこの薬を─────」
……なんでそんなこと言うんだよ……
「………え?」
俺は本気でアンタに思いを伝えたのに、なんでそんな酷いことを言うんだよ……!
「………酒泉君?」
そうかよ……結局アンタにとっては全部遊びだったんだな……
「い、いや……そういう訳じゃ────」
下らない言い訳はいらねえよ………もういい、こうなったら無理矢理にでもアンタを〝本気〟にさせてやる
「えっ!?そ、それってどういう意味!?何をする気なの!?」
何をするかって?そんなもん嫌というほど、その身体に教えてやるよ……!
「あっ……ま、待って……心の準備が……!」
………抵抗するな、またその首を締めるぞ
「あっ……だ、だめ……これ以上酒泉君に縛られたら………私、完全に堕とされて─────」
ほい、動画削除完了っと
「─────は?」
本気でそんな事するはずないでしょう………じゃっ、俺もう帰りますんで
「………」
ああ、それと一つ………今回の事は薬を飲ませたアンタが悪いですけど、一応謝っておきます
………首、すいませんでした
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お姫様が住んでいるとはとても思えない、そんな屋根裏部屋で魔女は首を触りながら一人呟く
「………もう一度飲ませたら、今度こそ─────」