〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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酒泉「は?俺がピアノを?」マコト「ああ」 その3

 

 

 

 

『はぁ……はぁ……くそっ!あの不良共どこに逃げ込みやがった!?早く見つけないと……!』

 

『………空崎さんは多忙の身、今日ぐらいは空崎さんに頼らずゆっくり休ませないと────』

 

『────……ん?なんだ?この部屋』

 

『……ピアノ、か。旧校舎にこんな物が………』

 

『……よく見ると日誌とかも落ちているな…………なるほど、誰かが昔ここで練習していたのか』

 

『………ピアノ…………母さん………』

 

『────って、ボーッとしてる場合じゃねえ!さっさと不良共を捕まえにいかないと……!』

 

『……………』

 

『……今日の活動が終わったらまた来てみるか』

 

『………まだ弾けるかな』

 

『……………』

 

『…………父さん……母、さん……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムーッ!ムーッ!」

 

「何を言いたいのか大体分かりました………つまりフウカさんは私達と共に美食の道を歩みたいと、そう伝えたいのですね!」

 

「むううううううっ!!!」

 

 

口元を布で塞がれているフウカ、そんな彼女の心の声を(勝手に)代弁するハルナ

 

フウカは縄で縛られているせいで満足に動けない身体を必死に捩らせて〝解放しろ〟とアピールする

 

……当然、美食研究会がそれを素直に聞き入れるはずもないが

 

 

「ねえねえ!後ろからまた風紀委員の車が来てるよー!早いねー!」

 

「早いねー!……じゃないでしょ!?今にも囲まれそうなほど追い詰められてるじゃない!?」

 

 

イズミが指差した先には複数台の車が今にも追突してきそうな勢いで迫ってきていた

 

後部座席に座っているジュンコはいつ潰されるかと怯えながらもっと速度を出すようにと大慌てする

 

 

「もっと速く走れないの!?このままだとぺしゃんこにされちゃうわよ!?」

 

「残念ながらこれ以上は出ませんわ……ですが!ご心配なく!」

 

「何か策でもあるの!?」

 

「ふふふっ……ジュンコさん、逆に考えるのですよ……私達以外を全員蹴落とせばいいと!アカリさん!」

 

「りょうか~い☆」

 

 

 

カチカチと怪しげな音を鳴らす巨大なバッグ

 

アカリがそれを両腕で振り回して思いっきり後方に投げると、空中で丸い何かが散らばりながらそのまま地面に落下する

 

「先輩!連中が何かを地面に捨てました!」

 

「一体何を────ば、爆弾!?総員退避!退避ぃぃぃぃぃ!!!」

 

 

風紀委員達が気づく頃には既に遅く、ピーッという起動音と共に中規模の爆発が複数発生する

 

 

「これで一安心ですね☆」

 

「ま、また風紀委員長をキレさせそうな事を……」

 

「ですが、これで追っ手は全員────」

 

「……あれ?まだ誰か追ってきてない?」

 

 

ホッと一息吐く美食研究会の面々だが、イズミの言葉に全員が視線を後ろに向ける

 

爆炎の中を突き抜ける車が一台、油断して速度を落としていた美食研究会の車(元は給食部の車)の横に一瞬で追い付いた

 

 

「……やはり来ましたわね、我が美食道に欠かせないスパイス!」

 

 

それは、何度も銃口を向けあい、何度もぶつかり合ってきたハルナの宿敵にして友にしてライバル(どれもハルナからの一方的な評価)

 

 

「────折川酒泉っ!」

 

 

その叫びに呼応するかのように車の窓から酒泉が顔を出す

 

 

「山の頂上で食べるおにぎりが極上の一品に変わるように!全力で走った後の水道水が天然水みたいに透き通るように!試練を乗り越えた後の食事というのは何よりも尊く美しいもの!さあ!今日こそ貴方を打ち破り、そして─────えっ?」

 

 

長々と語り続けるハルナに向かって四角い箱が投げられた

 

つい反射的にそれを受け取ってしまったハルナはそれをまじまじと見つめる

 

中からは先程アカリが投げたバッグと同じようにカチカチと音が聞こえてくる

 

 

「なっ……まさか、爆弾!?」

 

「あり得ませんわ……まだフウカさんが此方に乗っているというのに───っ!?」

 

 

いつもフウカが拉致される度に速攻で駆けつけてきた酒泉、そんな彼がまさかの救出対象ごと爆破するという強引な手段を使った

 

その事実に驚愕し、ハルナはその四角い箱を投げ捨てるのが一手遅れてしまった

 

そして次の瞬間、カチッという音が止むと同時に四角い箱が膨らみだし────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………はい?」

 

 

まるでビックリ箱のように中から〝ハズレ〟と書かれたぬいぐるみが飛び出してきた

 

 

「ハ……ハルナ!酒泉が!」

 

 

ジュンコが声を上げた瞬間、いつの間にか風紀委員会の車の屋根に移動していた酒泉が大きくジャンプする

 

走行中にも関わらず車の後部にダンッ!とバランスを崩すことなく見事に着地した酒泉

 

足下で焦っているジュンコや呑気に拍手しているイズミ、前の座席でビックリ箱を持って唖然としているハルナや片手で運転しながらも銃口を酒泉に突きつけるアカリ

 

酒泉はそんな彼女達に目も暮れずゆっくりとしゃがみ、フウカの身体をお姫様抱っこのような形で持ち上げて車から飛び降りる

 

そう、酒泉は最初から攻撃するつもりなど無かった

 

目的は最初から一つ、愛清フウカの救出

 

 

「ふ……ふふっ……」

 

 

理解した瞬間、ハルナの口元から笑みが溢れた

 

それは自身を騙した事に対する怒りか、それとも自身の考えを上回った事への歓喜か

 

彼女と関わりのある者しか理解できない笑い声を出しながら、フウカを優しく地面に下ろす酒泉に対してハルナはギラギラとした瞳を向けた

 

 

「やはり貴方は一筋縄では行きませんね……そうこなくては!折川酒泉────」

 

「あっ、タイヤ撃たれました」

 

「えっ」

 

 

だが、酒泉はそんなハルナに全く視線を向けることなくタイヤを狙撃した

 

直後、走行中の車がフラフラと揺れ始め、ハンドルの効きが悪くなる

 

更に最悪な事に数十メートル先には急カーブ、ガードレールを越えてしまった場合は岩壁に激突してしまう

 

 

「アカリさんっ!ハンドルを!」

 

「もう切ってます……よっ!」

 

 

ハルナが指示を出す前から既に行動していたアカリ

 

彼女のハンドル捌きにより、ガードレールに直撃する寸前で辛うじて横向きで停止する車

 

 

「ナ、ナイスドライブでしたわ……アカリさん……」

 

「とても刺激的な体験ができましたね☆」

 

「それはいつも味わってるでしょ……って!そんな事よりもこの状況、どうすんのよ!」

 

「うわーん!いっぱい集まってきちゃったよー!」

 

 

車から降りる美食研究会を取り囲む風紀委員達

 

だが、こうして追い詰めたとしてもそう簡単に捕らえられるほど彼女達は甘くない

 

 

「うふふ……安心してください、ジュンコさん。代わりの足ならちゃんと用意してありますわ」

 

「……一応聞いておくけど、まさか風紀委員会の車を奪うとかじゃ……ない……よね?」

 

「……?ええ、そうですけど……それが何か?」

 

「あっ、やっぱり……」

 

 

拉致、略奪、器物損害

 

もはや恐れるものは何もないと言わんばかりにあらゆる罪を犯そうとする彼女達に対して風紀委員の敵意が強まる

 

だが、そんな事など意に介さずハルナは銃を構える

 

 

「さあ!私達の美食道を妨げる事は何人たりとも許されないと彼女達に────」

 

 

そしてハルナ達が給食部の車から離れて戦闘態勢に入った瞬間、先程投げつけられたビックリ箱の〝更に奥に隠されていた爆弾〟が爆発した

 

 

「はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ……流石ですね、酒泉さん。私をこうもアッサリと欺くとは……」

 

「凄い……アフロ頭でかっこつけてる……」

 

 

まるでギャグ漫画世界の住人のようにチリチリになった頭で堂々と胸を張るハルナ

 

そんな彼女をフウカはジト目で睨み付ける……が、話しかけられている張本人である酒泉は無言のままだ

 

「もう……レディからの称賛を受けても無反応とは……つれませんわね?」

 

「アンタ達が暴れたから疲れてるんでしょ………はぁ……ごめんね?酒泉君……毎回こんな事に巻き込んじゃって……」

 

────……ああ、いえ……大丈夫です

 

「………酒泉君?」

 

 

申し訳なさそうに謝罪する彼女に対してもどこか素っ気なく対応する酒泉

 

様子がおかしいと思ったのか、フウカが身を屈めて下から酒泉の顔を覗き込む

 

 

「……本当に大丈夫?なんだかいつもより────」

 

 

〝調子が悪そう〟

 

そう伝えようとした瞬間、突如酒泉の身体がフラつく

 

「ちょっ……!?」

 

 

前のめりに倒れる酒泉の身体を咄嗟に支え、その頭を肩に乗せるフウカ

 

 

「ど……どうしたの!?体調でも悪いの!?」

 

「も、もしかして……ご迷惑をお掛けしすぎて……」

 

 

フウカは〝熱は無いか〟と思って酒泉の額に手を当てて確かめてみるが、特に異常は感じられない

 

それを見ていたハルナも自分達の行動のせいで疲弊させすぎたかと心配するが……

 

 

 

 

 

 

ぐうぅう~

 

 

 

 

「……えっ?」

 

「……はい?」

 

 

誰かから聞こえてくる腹の虫の鳴き声

 

フウカとハルナは互いに顔を見合わせ、互いに首を横に振る

 

 

「……と、なると……」

 

「……酒泉君?」

 

 

二人の視線が酒泉に集中する

 

 

 

 

────腹が……減って……

 

 

 

 

気まずそうにポツリと語り始める

 

 

 

────昼は……馬鹿共が暴れるから……でも……練習しないと……

 

「れ、練習……?何の……?」

 

────昨日は……温泉のせいで……だから夜は適当に食べて……その前も……

 

「えっと……?」

 

────今日は朝……しっかり食べようと思ったのに……美食が……テロリストがぁ……

 

「………」

 

 

 

バラバラに発せられる酒泉の言葉をどうにか頭の中で繋げようとするが、イマイチ理解できないフウカ

 

だが、暫く間を置いてから〝よし〟と一言呟くと……

 

 

 

「酒泉君、ちょっと失礼するわね」

 

────………え?

 

「よいしょ……っと!」

 

 

 

先程とは逆に今度はフウカがキヴォトス人特有の力で酒泉を軽々とお姫様抱っこした

 

 

 

「まずはお腹を満たしましょう?話はその後でじっくりと聞かせてもらうから……練習の事とかもね?」

 

────でも……

 

「大丈夫!栄養とかもしっかり考えてあげるから……ね?」

 

 

未だにボソボソと呟きながら遠慮しようとする酒泉

 

だが、フウカはそれを適当に聞き流しながら食堂に向かって歩きだした

 

 

 

「もう……酒泉君は私達と違って身体が頑丈じゃないんだからあまり無理しちゃ駄目よ?」

 

────風紀……サボりたくない……

 

「それで体調を崩して休む事になったら本末転倒でしょ?風紀委員会には私が伝えといてあげるから……」

 

────……練習は……それだけは内緒で……

 

「もう、仕方ないわね………その代わり私にはちゃんと全部教えてね?」

 

「あの、フウカさん?もしよろしければ私の分も……」

 

「ハルナ、アンタ達は牢の中で反省してなさい」

 

「あっはい」

 

 

 

今まで見たことがないような冷たい視線を浴びせられたハルナは一瞬で黙ってしまった

 

そしてフウカの背中を見送った後、ハルナは自身の隣で目を光らせている風紀委員に酒泉の事を尋ねる

 

 

「あの……彼はいつもあんな感じで?」

 

「……いや、あそこまで疲れてる事は滅多にないんだけどな……大丈夫かな、アイツ」

 

「……流石に罪悪感が湧いてきますわね」

 

「それじゃあ今後は大人しくしててくれるか?」

 

「そうですね……今日ぐらいは牢の中で静かに……」

 

「今日だけなのか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────♪~~~♪』

 

『……〝前〟と比べるとだいぶ劣るけど……趣味で弾く分には問題無さそうだな』

 

『よく覚えてたなぁ、俺……もしかしたら自分で思っている以上にピアノに興味を持っていたのかも────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『すごいすごーい!酒泉ってピアノ弾けたんだー!』

 

『────っ!?誰だっ……イブキさん!?いつの間に……!』

 

『ねえねえ!他にも弾けたりするの!?』

 

『それは……いや、それよりもなんでイブキさんが旧校舎に……』

 

『えっとね、実はマコト先輩達とかくれんぼしててね……』

 

『……それでわざわざ旧校舎まで?』

 

『うん!ここなら絶対に見つからないんだー!』

 

『……そっか、でも一人で人目の無い所に行くのは危険だから……あまり長居しないようにするんだぞ?ここは極稀に物騒な連中が逃げ込んだりするからさ』

 

『はーい!』

 

『うん、素直でよろしい』

 

『それにしても……すっごく上手だったね!酒泉のピアノ!』

 

『そう……か?平均レベルだと思うけど……でも褒められると素直に嬉しいな……』

 

『もしかして昔からやってたの?色んな曲弾けるの!?』

 

『昔から……まあ、昔からではある……かな?』

 

『そうなんだ!それじゃあ酒泉は音楽が大好きなんだね!』

 

『いや、好きっていうか……ただ関わりがあっただけっていうか……』

 

『イブキも音楽大好きだよ!好きな曲はねー……きらきらぼし!』

 

『……えっ?』

 

『酒泉はどんな曲が好きなの?』

 

『好きな……曲……?』

 

『うん!』

 

『………………』

 

『……?』

 

『……そっ…か……こっちにはもう無いのか……俺の好きな作品も……その曲も……』

 

『……酒泉?どうしたの?』

 

『……いや、なんでもないよ』

 

『でも……泣いてるよ?』

 

『っ……』

 

『どこか痛いの?イブキが〝痛いの痛いのとんでけー!〟ってしてあげよっか?』

 

『……気にしないでくれ、ちょっと欠伸しちゃっただけだから』

 

『そう……?』

 

『……じゃあ、俺はそろそろ行こっかな。イブキさんも気をつけて帰るんだぞー』

 

『えっ?もう帰っちゃうの?』

 

『ああ、そうだけど……』

 

『……そっかー……』

 

『……もしかして何か用でもあったか?』

 

『ううん、そうじゃないけど……でも……ピアノ、もっと聞きたかったなーって……』

 

『あー……それはー……』

 

『でも、わがまま言うのもよくないよね……』

 

『………いや、今日はもう風紀委員の活動が終わった後だし構わないぞ』

 

『えっ……?本当!?』

 

『でも、日が暮れ始めたらそこで終わりだからな?そしたら万魔殿に帰るんだぞ?』

 

『うん!分かった!』

 

『じゃあ……まずは〝きらきらぼし〟からだな、これなら今の俺でも弾けるだろ』

 

『えっ!?いいの!?』

 

『今の俺はイブキさん専用のピアノ演奏家だからな……じゃあ、弾くぞ?せーの────』

 

 

 

 

 

 

 

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