〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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酒泉「は?俺がピアノを?」マコト「ああ」 その4

 

 

 

今世で〝自分は不幸だ〟と心の底から思ったことは一度もない

 

……そりゃ、何もしてないのに自分が事件に巻き込まれた時は〝どうして俺が〟とか思ったりもするけど、それでも本気で自分の境遇を呪ったことなんてなかった

 

それは生まれに関しても言えることだ

 

誰かに産んでもらったのか、それとも突然この世界に現れたのか

 

それすら分からず捨て子として生を受けてしまったが、その後は孤児院に拾われるという大きな〝幸運〟に恵まれた

 

……実験体として売られそうになったとしても、何も持ち合わせていなかった俺が自分の脚で歩けるようになるまで育ててくれたんだ

 

そんな人に出会えた時点で相当運が良い方だったんだろう

 

孤児院から逃げ出した後だって俺はずっと幸運だった

 

ゲヘナに拾われ、前世で好きだった推しに出会い、更には風紀委員に……大切な仲間達に出会えた

 

他校にも友達はできたし、頼れる先生もキヴォトスにやってきた

 

この世界に十分満足している、不満なんて一切ない

 

これ以上求めるのは高望みというもの

 

そう、俺は幸せだ。間違いなく幸せ者なんだ

 

 

 

『うおおおお!強化フォーム初登場だぞ!酒泉!』

 

『お父さん……子供より盛り上がってどうするのよ……画面が見えなくて酒泉が泣いちゃったでしょ?』

 

『えっ……?あ、ああ!?ごめん!ごめんなぁ!?ちゃんと録画してあるからさ!なっ!?』

 

 

 

 

……幸せ……なんだ……

 

 

 

 

『あら?どうしたの?酒泉……お腹が空いた?もう、この後夕御飯なんだから我慢しなさい?』

 

『……酒泉、酒泉、こっちで父さんと一緒に内緒でポテチを────』

 

『言っとくけどそれやったら食後のデザートのアイスは無しだからね』

 

『────悪いな酒泉、父さんはいつでも母さんの味方なんだ』

 

『……酒泉、今回我慢できたらお父さんの分のアイスも食べていいわよ』

 

『そんなっ!?』

 

 

 

 

……そのはず……なのに……

 

 

 

 

『……よし……しっかり寝て────脚を掴まれた!?』

 

『……しゅ、酒泉?俺は父さんじゃなくてサンタさんだぞ?だから離そうな?な?』

 

『ま、待て!そこは……いたたたたっ!?髭が!?付け髭がぁ!?』

 

『悪かった!父さんが悪か───じゃなくてっ、サンタさんが悪かった!だから解放してくれぇ!』

 

『あちゃー……バレちゃったのね……』

 

 

 

 

……どう、して

 

 

 

 

『酒泉、こんな時間にどうした?………明日の運動会が楽しみで眠れないって?』

 

『はぁ……酒泉…………………実は父さんもだ!!!』

 

『早く寝ないと明日のお弁当のおかずお父さんの分だけ梅干しオンリーにするわよ』

 

『あっすみません』

 

 

 

 

こんなにも

 

 

 

 

『また明日な……酒泉』

 

『お休み……酒泉』

 

 

 

 

 

……こんなにも……苦しいんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迎え撃て!敵は一人だ!」

 

「奴の身体は脆い!一発でも脚に当たれば────ギャフンッ!」

 

「うわあっ!?テンプレな悲鳴を上げながら仲間がやられたぞおおおお!?」

 

 

数の差を物ともせず折川酒泉が敵陣に切り込む

 

本来、彼の肉体で敵地に乗り込むのは自殺行為のようなものだが、その弱点を被弾しないことを前提とした戦闘スタイルで補っている

 

 

「こうなったらまずはナイフを握る手を撃ち抜け!あれは奴の生命線でも────っぅ!?」

 

 

敵の狙いが定まる前に自らナイフを投げつける酒泉

 

その刃は敵の首───の横を通過する

 

 

「そんな……!自分から手離すなんて────っあ!?」

 

 

一瞬の怯え

 

酒泉の〝眼〟が当然それを見逃すはずもなく、直後に彼女の額にスナイパーライフルから放たれた弾丸が直撃する

 

 

「くそっ!?囲んでるのにどうして当たらない!?」

 

「落ち着いて撃てよ!奴はただでさえ当てにくい的なんだ!」

 

リーダー格を一瞬で倒されて混乱する不良達

 

代わりに指揮を取った者もまたすぐに倒される、それの繰り返し

 

 

「ヒッ……!?」

 

 

酒泉と目の合った一人の生徒がハンドガンを構える

 

〝どうせ当たらないだろう〟

 

〝撃ったとしても相殺されるだけだ〟

 

それはある種の信頼、酒泉の実力を知っているが故の諦め

 

現に酒泉はとっくに銃口をその生徒に向けており、敵の銃を握る手を撃ち抜く準備ができている

 

あとは引き金を引くだけ、そして────折川酒泉の指が止まった

 

「……えっ?」

 

 

異変に気づいたのは酒泉自身、そして目の前の彼女だけ

 

気が抜けたのか、気づいていないだけで負傷していたのか

 

それとも────ただの〝練習〟のしすぎか

 

酒泉は想定外の事態に目を見開くが、そんなことをしても弾丸は止まらない

 

放たれた弾が一直線に酒泉の顔に迫る

 

そして─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い液体が宙を舞った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「……これで治療完了です……とはいえ、怪我自体はかなり軽微なものでしたが」

 

────ありがとうございます、氷室さん

 

 

 

ぺたり、とガーゼを酒泉の頬に張り付けるセナ

 

彼女は無表情のまま、咎めるような口調で酒泉に語りかける

 

 

 

「貴方の肉体は私達と違って不慮の事故の一つで簡単に崩壊してしまう代物です、戦闘の際には常に最高のコンディションで最善の注意を」

 

────いやぁ……いつもは余裕なんすけどねぇ……

 

「……貴方が死体としてここに運ばれたら委員長が悲しみます、それをお忘れなく」

 

────………すいませんでした、ちょっとでも体調がおかしいと感じたら今後は戦闘を控えます

 

「そうしてください」

 

 

 

セナの冷静な態度の裏にヒナを思いやる心を感じながら、酒泉は己の行動の浅はかさを反省する

 

 

 

「……ところで、今回暴れていた生徒達についてですが………治療中に妙な事を口走ってました」

 

────〝万魔殿の議長の期待を裏切ってなるものか!〟……ですよね

 

「はい、恐らく今回の騒動の原因は………まあ、いつもの事ですからわざわざ言う必要もないでしょう」

 

────……あのタヌキ、俺が目を離してる隙に下らねえ嫌がらせを……

 

「……酒泉、あまり血を上らせないように」

 

 

 

俯いたまま拳を握る酒泉

 

そんな彼に対してもセナは病人相手と同じように対応する

 

 

「……先程、貴方が怪我をしたと委員長に連絡しました」

 

────え゛っ

 

「貴方程の実力者がそこらの問題児に怪我を負わされた理由は私には分かりません。本当に油断しただけなのか、単に相手の戦略が貴方を上回っていたのか、それとも………その疲労状態の身体と酷使された指が原因なのか」

 

セナの視線が酒泉の指に向けられると、酒泉は無意識の内にそれを背中に隠してしまう

 

 

「一度、彼女と話し合うことを勧めます。病は気からとも言いますので……では、私は薬品の補充に向かいますので」

 

 

未だに隠し事をしようとする酒泉に対してセナは溜め息を吐き、用は済んだとばかりに背中を向ける

 

そのまま医務室の扉に手を掛けると、軽く頭を下げて部屋から出ていってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

やってしまった、完全に油断した

 

ピアノ練習と風紀委員の活動の両立は流石に厳しかったか

 

………それとも俺が力不足だっただけか

 

空崎さんほどの実力者ならサクッと敵を倒しつつ練習時間も確保できたのだろうか

 

万魔殿の奴等がまた大人しくしてくれるならと思ってパーティーのオープニング担当を引き受けてみたが……そもそも俺ごときの実力で〝風紀委員会の役に立ちたい〟と思うのが間違いだったのかもしれない

 

……なんか……最近マイナスな事ばかり考えてしまうな

 

普段ならむしろ万魔殿への怒りの方が勝るが……何故か今はそんな気になれない

 

……いや、本当は分かっている、自分が落ち込んでいる理由なんて

 

ピアノを弾いていたのはイブキさんに見つかった時まで、それ以降は色んな事件が起きたせいで触れる余裕がなかった

 

けど、こうして再び触れる機会が訪れたせいでまた思い出してしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

〝前世〟のことを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

切っ掛けは自分が好きだった曲を再現しようとしたことだった

 

自分の好きなものがこの世界には何一つ存在しない、そんな虚しさを埋める為に自分でもなんとかしてみようと努力していた

 

けど、頑張れば頑張るほどむしろ虚しさが強くなる一方で、根本的な解決には至らなかった

 

それでも諦めきれなかった、前世の曲を再現するのを

 

………認めたくなかったのかもしれない、〝もう二度と会えない〟と

 

〝一生この虚しさと付き合っていかなければならない〟と

 

……そうして無理矢理練習し続けた結果、精神的にも肉体的にも疲労して愛清さんや氷室さんに迷惑を掛けるなんてな

 

もし俺が選んだ曲が〝今世の曲〟なら昔を思い出すこともなく、こんな思いをせずに済んだのだろう

 

この点に関しては万魔殿に責任は一切ない、完全に俺の自業自得だ

 

………それでも……弾きたかった、忘れたくなかった

 

まあ、そんな個人の感情を優先したせいで空崎さんに心配を掛けてしまったのは〝何やってんだ馬鹿野郎〟って感じだけどな

 

こうして勝手に抱え込んで周りに迷惑を掛けてると……なんだか空崎さんと喧嘩する前の自分に戻ったみたいだ

 

あの時はどこか自分に対する興味が薄く、仮に自分が死んだとしても〝空崎さんが幸せならそれでいい〟なんて考えていたりもしたな

 

………別に本気で死にたいなんて思った事はない、俺には自殺願望なんて全く存在しない

 

自分自身に対する〝異物感〟だってとっくの昔に消えている

 

〝折川酒泉はこの世界の人間なんだ〟と、キヴォトスで生きていく覚悟だってある

 

……ある……けど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今世を受け入れることはできても、前世を切り離すことはできない

 

どうやら俺は自分で思っている以上に未練がましい人間だったみたいだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────嫌だ

 

 

 

なんで俺なんだ

 

 

 

────いやだ

 

 

なんで俺だったんだ

 

 

 

────いや……だ……

 

 

 

どうして俺が死ななきゃいけないんだ

 

どうしてあんな中途半端なタイミングで

 

もうすぐ発売の新作ゲームがあった、次の週は友達と映画を見に行く約束があった

 

そういえばバイト先の先輩から借りてた漫画があった、高校生活を続けている内に好きな人とかできるのかなって楽しみにもしてた

 

 

────しにたくない、しにたくなかった

 

 

 

大人になって、誰かと結婚して、子供の顔を父さんと母さんに見せて

 

そんな未来があったのかもしれない

 

案外そんな機会はなく、のんびり一人で趣味の道を歩いている

 

そんな未来もあったのかもしれない

 

 

 

────あいたい

 

 

 

でも、それはもう起こり得ない話になってしまった

 

俺の好きな作品はもうないし、俺の大切な人達にはもう会えない

 

 

 

────かえりたい

 

 

 

受け入れるしかない、いやだ、うけいれたくない

 

寂しいに決まってるだろ、おれはまだ子供だ

 

かぞくに会いたい、ともだちと遊びたい

 

あやまりたい、しんでごめんなさいって父さんと母さんにあやまりたい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そうだ、俺がこの世界に来た理由は前の世界で死んだから

 

じゃあ、俺がこの世界で更に死んだ場合はまた別の世界に……元の世界に戻れる可能性は?

 

………何度も言うが、俺に自殺願望なんてない

 

何があろうとこの世界で天寿を全うするつもりだ

 

………でも、もしも、仮に、万が一、何かしらの不慮の事故が起きて俺が死んだら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────俺が死んだら……もしかしたら……また、皆に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……酒、泉……?何を……言ってるの……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

みられた

 

最悪なタイミングで、一番会いたくなかった空崎さん

 

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