〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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酒泉「は?俺がピアノを?」マコト「ああ」 その5

 

 

 

「死ぬって……どういうこと……?」

 

 

空崎さんが声を震わせながら詰め寄ってくる

 

 

「どうして……どうしてそんな言葉が出てくるの……?」

 

 

……マズイ、しくじった

 

こんな事を呟くんじゃなかった

 

こんな弱音、吐き出すんじゃなかった

 

ずっと抱えているべきだったんだ

 

 

「ねえ……黙ってないで何か答えて……?」

 

────……違うんです、別に俺は死にたい訳じゃなくて、死んだ後の事を考えていて……

 

「なら、どうしてそんなことを考えていたの?」

 

 

絶対に逃がさないと言わんばかりに射るような視線をぶつけられる

 

つかつかと俺の方に歩み寄ってくると、小さな手で胸ぐらを掴まれる

 

 

「答えて」

 

 

そのままグイッと引っ張られて顔が近づく

 

一見怒っているだけに見えたが、微かにだが空崎さんの目の端が涙で濡れていた

 

「……答えてよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────……故郷のことを……考えていたんです

 

 

 

ポツリと、力無げに呟く

 

全部は話せない、一部だけだ

 

言いたくないけど、空崎さんも悲しませたくない

 

 

 

「……故郷?それって酒泉の?」

 

────そうです、俺がゲヘナに来る前の……俺の居場所です

 

「……それがどう死ぬ事と繋がるの?」

 

────……その故郷、無くなっちゃったんですよ。人と一緒に

 

「……無くなった?」

 

 

 

駄目だ、上手く言葉を選べ

 

 

 

────俺の世話をしてくれてた人が死んで……育った場所も人が離れていって……

 

「………」

 

────恩人も帰るべき居場所も同時に消えて……

 

「酒泉、何を隠しているの?」

 

言葉が詰まる

 

 

 

「どうしてそんなに言葉を選んだような喋り方をするの?本当は別の理由があるの?」

 

 

 

俺が何かを隠していると一瞬で見破った空崎さん、彼女の眼光が強くなる

 

……なんで、なんでこういう時に限って迫ってくるんだ

 

 

 

「酒泉にだって踏み込まれたくない事の一つや二つはある……それは理解している」

 

────……なら、この場は見逃してくれません?

 

「それはできない、だって一人で抱え込んでいる状態の酒泉を放っておくと私の知らない所で勝手にボロボロになっていくから………心当たりが無い訳じゃないでしょ?」

 

 

調印式、アリウス自治区、ミレニアム

 

いくらでも思い浮かんできてしまう

 

 

「今の酒泉を放ってはおけない、酒泉の触れてほしくない部分に触れてしまっても……それで嫌われることになっても……」

 

「……それでも、酒泉が一人で苦しみ続けるよりはいいから」

 

 

……降参だ、今の空崎さんを言いくるめられる気がしない

 

 

 

────空崎さんの言う通り、確かに俺は一部真実を隠しながら話していました……それについては謝ります

 

────でも、大切な人達に会えなくなったというのと故郷が消えたというのは本当なんです

 

「……ごめんなさい、無神経だったわ」

 

 

俺が隠し事をしたせいで話がややこしくなったというのに、自分の責任かのように頭を下げてくる空崎さん

 

本当にこの人に自分の心を打ち明けてもいいのか?今みたいに余計な心労を掛けるだけじゃないのか?

 

 

 

 

────もう二度と俺の大切な人達に会えない……でも、俺が死ぬ事があればあの世で会えるかもしれない

 

────さっきの〝俺が死んだら〟って発言はそんな根拠もない下らない妄想に飲み込まれたが故に出てきてしまった言葉なんです

 

 

 

 

だというのに、自分の口が止まらない

 

〝ここまで来たなら空崎さんも巻き込んでしまえ〟

 

〝他人に吐き捨ててちょっとでも楽になれ〟

 

そんな自分勝手で最低な思いを抱きながら、解決する事はないであろう悩みを空崎さんにぶつけてしまった

 

 

 

 

────別に今の環境に不満がある訳じゃない、むしろ満足しています

 

────新たに出来た大切な人達……風紀委員会の皆に出会えて、先生と働けて、他校の人達と縁が出来て

 

 

 

 

止めろ、それを空崎さんに言ってどうする

 

助けでも求めるのか?こんなどうしようもない問題の?

 

 

────それでも、失ったものはもう帰ってこないんです。周りの人達に孤独感を満たされても……また、すぐに寂しくなって

 

────どれだけ今が充実してても、過去の暖かさが忘れられなくて

 

 

 

だからどうしろってんだ

 

空崎さんに何を求めているんだ、俺は

 

今すぐ口を閉じろ

 

 

 

 

────好きなんです、ずっと大好きなんです。何年経った後も、ずっとずっと

 

 

 

無駄だ、何を思おうと過去には戻れない

 

だから空崎さんを困らせるな

 

 

 

 

────………帰りたい、帰りたいです

 

 

 

どこに

 

 

 

 

────父さんと母さんにあいたい、皆とあそびたい

 

 

 

 

無理だ

 

 

 

 

────どうすればいいですか

 

 

 

 

諦めろ

 

 

 

 

────あきらめたくないです

 

 

 

 

諦めろ

 

 

 

 

────たすけてください

 

 

 

 

 

諦めろ

 

 

 

 

────空崎さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酒泉」

 

 

空崎さんが俺の両肩を掴む

 

何かを決意したかのように強く

 

 

「まずは………貴方が抱えているものを私に打ち明けてくれてありがとう、そして────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ごめんなさい、私じゃ貴方の悩みを解決する事はできないわ」

 

 

 

現実を突きつけられた

 

……分かっていた……けど

 

空崎さんの言葉にショックを受けている辺り、心のどこかで〝助けてもらえるかも〟と期待していたのかもしれない

 

 

 

「私じゃ酒泉に何かを〝与える〟ことはできても、酒泉が失ったものを〝取り戻す〟ことまでは不可能よ」

 

「私では酒泉が大切にしていた人達の代わりにはなれないし、その人達と全く同じ存在になれる訳

でもない」

 

 

そんなことは分かっている、けど向き合いたくない

 

なんで空崎さんはそんな事を言うんだ

 

 

 

「これから先、酒泉がどれだけ多くの人達に囲まれようと………酒泉が大切な人達を失った孤独感を埋めることはできない」

 

「酒泉がそれを自分で受け入れられない限り、その苦しみは一生続く」

 

 

 

頼むからこれ以上何も言わないでくれ、それかせめて甘い言葉だけを吐いてくれ

 

 

 

「私じゃ酒泉の悲しみや苦しみを理解してあげることはできない」

 

 

 

嫌だ、聞きたくない

 

 

 

「……酒泉を救うことも……できない」

 

 

 

聞きたくない

 

 

 

「だから────」

 

 

 

ききたくない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────私にできるのは……隣で酒泉を支え続けることだけ」

 

 

 

ピタリと、両の頬に手を添えられる

 

 

 

「私達がどれほど酒泉を必要としても、私達がどれほど酒泉を愛そうと、さっきも言ったように酒泉が現実を受け入れない限りは本当の意味で酒泉の心が満たされることはない」

 

「仮に満たされることがあっても、それは一時的なものに過ぎない。穴の空いた器に水を注ぎ続けるのと同じ………きっとすぐにまた孤独感が酒泉を苛むと思う」

 

 

 

小さくて、冷たくて……でも、どこか暖かい

 

そんな手に触れられている

 

 

 

「だから、私がずっと注ぎ続けてあげる」

 

 

空崎さんの指が、俺の涙を拭う

 

 

 

「何度酒泉の心が空っぽになろうと、器の穴を埋めるのにどれほどの時間が掛かろうと、私がずっと酒泉の隣で愛を注ぎ続ける」

 

「酒泉にとってそれは求めていたものじゃないだろうけど、それで少しでも酒泉の痛みが和らいでくれるなら………」

 

 

 

空崎さんは自分で何を言っているのか分かっているのか

 

こんな後ろ過去を向いてばかりの男の為に自分の時間を無駄にしようというのか

 

 

 

「もし酒泉が夜な夜な寂しさに苛まれていたとしたら毎晩私が抱きしめてあげる」

 

「酒泉が人肌恋しくなったら、私が手を繋いであげる」

 

「酒泉が涙を流す度に私が拭いてあげる」

 

「酒泉の傷が癒えるまで私が一緒にいるから」

 

 

傷が……癒えるまで……

 

 

「………だから、もし酒泉の傷が完全に癒えることが一生無いのだとしたら……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が一生隣に居てあげるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が卒業した後も、酒泉が卒業した後も」

 

「酒泉が大人になった後も、酒泉がしわくちゃのお爺ちゃんになった後も」

 

「ずっと、ずーっと」

 

「……いや、癒える癒えない関係なく一緒に居よっか。多少強引に迫らないと酒泉はすぐ遠慮するから」

 

 

空崎さんの言っていることは滅茶苦茶だ

 

そんなのいつ治るのかも分からない病気と一生戦おうとしているようなものだ………それも、家族でもなんでもない人の為に

 

 

 

「私は酒泉と一緒に喜びたい」

 

「酒泉と一緒に怒りたい」

 

「酒泉と一緒に悲しみたい」

 

「……幸福も不幸も、全部分かち合いたいから」

 

 

 

それなのに喜んでしまっている

 

空崎さんが巻き込まれてくれる事に対してどうしようもないほどに歓喜している

 

 

「貴方の笑顔を見せて」

 

「貴方の悲しむ顔を見せて」

 

「全部知りたいから、全部受け止めたいから」

 

「だから────貴方の涙を私に見せて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空崎さんの言葉はどれも根本的な解決には繋がらない

 

やはり俺の心の整理がつかない限り、一生抱えていく問題なのだろう

 

……それこそ空崎さんが言ったように一生解決できず、一生孤独感に苛まれることになるのかもしれない

 

ただ、まあ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空崎さんが隣に居てくれるなら、それも悪くない

 

そう思ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっと泣いてくれたね、酒泉」

 

────……空崎さん

 

「なに?」

 

────寂しいです

 

「うん」

 

────悲しいです

 

「うん」

 

────……慰めて、ください

 

「いいよ」

 

────手を、握って……ください

 

「もう握ってる」

 

────もっと、つよく

 

「ふふっ……はい」

 

────……そらさき、さん

 

「どうしたの?」

 

────もうちょっと、だけ……っ……いっしょに、いてください

 

「当然よ、ちょっとなんて言わずずっと一緒に居てあげる」

 

 

 

 

ああ、なんかもう面倒だ

 

ここで泣いてしまおう、医務室には俺達以外誰も居ないし問題ないだろう

 

涙と一緒に抱えているものを流して、スッキリしてしまおう

 

泣くことの何が悪い、俺はまだ親離れすら満足に経験できていない子供なんだ

 

これが問題の先送りだとしても、なんの解決にならなくても別に構わない

前世の事は少しずつ向き合っていこう

 

一日一歩ずつ……どころか一日数ミリメートル程度の歩みになるかもしれないが、それでも何もしないよりはマシだろう

 

ほんのちょっとでも、亀の歩みより遅くてもそれでいい

 

だって俺には

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隣で一緒に歩いてくれる人がいるのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、落ち着いた?酒泉」

 

 

 

────う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいいいいいいいいい!!!

 

────誰か俺を殴れえ゛え゛え゛!!!今すぐ俺の記憶を消せえ゛え゛え゛!!!

 

 

「可愛かったよ、酒泉」

 

 

 

────ふ゛う゛う゛う゛!!!ふ゛う゛う゛う゛!!!情゛け゛な゛い゛て゛す゛ね゛ぇ゛……折゛川゛酒゛泉゛……!

 

 

 

「………すみません、これはどういう状況ですか?」

 

「あっ……お帰り、セナ。酒泉の事は気にしないで、ちょっと照れてるだけだから」

 

 

 

────情゛け゛ね゛え゛折゛川゛は゛滅゛ひ゛ろ゛!!!

 

 

 

「……ちょっと?」

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