パパになった酒泉とママになったイオリ─出会い─
────銀鏡さん!こっち!
「分かってる!」
2人の風紀委員からフードを被った獣人が逃げている
……この日、1つの通報があった
その内容は〝ゲヘナの不良生徒が裏の武器商人と取引をしている〟というもの
これを潰す為に一番現場に近かった酒泉とイオリが緊急出動し、その取引現場を押さえた
だが、捕まえられたのは生徒のみ、肝心の商人は裏道等を利用して器用に逃げ回る
しかしそれでも執拗に追い回され、いよいよ廃工場まで追い込まれた
「ぐっ……!行き止まりか……!」
「追い詰めたぞ!これで終わりだ!」
「しまった……!やられる────なんてなぁ!」
獣人の男が叫ぶと、突如廃工場のドラム缶の中から1台のロボット犬が飛び出してくる
身体には爆弾の様な物が巻き付けられており、それが意味するのは即ち────自爆攻撃
ロボット犬がイオリに突撃したのを確認すると、男は懐からスイッチを取り出してそのボタンを押そうとする
だが、イオリは一瞬もロボット犬の方を見なかった
「これで終わり────あれ?」
次の瞬間、1発の銃弾によって爆弾の起爆スイッチが弾かれる
獣人の男は呆けた声を出しながら射線を逆に辿る
すると、そこにはスナイパーライフルを構えている酒泉が立っていた
「残念だったな!ウチの狙撃手が見逃すはずないだろ!」
「ぐぅ……!?」
その隙にイオリは男の後ろに回り込み、足を引っかけてから組み伏せる
武器を取り出す暇もなく制圧された男は恨めしそうにイオリを睨むが、抵抗の手段を失ったせいか一瞬で闘志を失う
「さあ!お前が今まで取引してきた生徒の情報を全部吐いてもらうぞ!」
「だ、誰がテメェらなんかに……!」
────はいはーい、続きは取調室で……ね?
「あーぶぅ!」
「ああ、今すぐ仲間を呼んで学園に送って───ん?」
酒泉の声にイオリが返事を……する直前、別の人物が先に声をあげた
その酒泉もイオリも顔を見合せ、首を傾げながら声のした方向を見つめる
すると、その視線の先にあったドラム缶から少しずつ人らしき影が近づいてくる
そしてドラム缶の中からは────
「だぅ!」
────……は?
「……赤ちゃん!?」
銀色の産毛が生えかけていて、小さなヘイローが浮かんでいる全裸の赤ちゃんが出てきた
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「ぅあ!あー!」
────おお、よしよし……良い子良い子
「きゃう!」
────残念ながら野郎のほっぺを触ったところで気持ちよくもなんともないぞー
「……そう、あの子が保護した赤ちゃんなのね」
「う、うん……とりあえず犯人を連行しないといけなかったし、あの現場に居たってことは何か事件にも関係してるかもと思って……」
「それで連れてきた……と」
執務室にて、きゃっきゃと騒ぎながら楽しそうに身体を揺らす赤子を風紀委員達が見つめている
頭の上にはちっちゃくヘイローが浮かんでおり、その赤子が暴れる際に小さな手足をぶつけられた酒泉はその肉体が普通の赤子よりも強靭なものであると理解した
「とりあえず一番最初に行うべきなのは警察への連絡でしょうけど……」
────んー、キヴォトスの場合は……ヴァルキューレ?
「……いえ、今回は〝大人〟が管理する警察組織に連絡するわ。赤子の命が関わるような問題を私達子供の判断だけで簡単に決める訳にはいかないもの」
「……親御さんが見つかればいいのですが」
深刻な表情で赤子を見る一同
場の空気が重くなる中、それを変えようとしたのかアコが笑顔で赤子に近づく
「それにしてもこんな可愛らしい赤ん坊を置いていってしまうなんて、貴女のご両親は何を考えているのでしょうかねー♪」
「……ぅ……」
「?」
「ぅあああああっ!!ああああああう!!」
「!?」
ニコニコしながら赤子の頬を突っつこうとしたアコだが、直後にその赤子が大声で泣き叫んだ
いやいやと両手両足を振ってアコから離れ、その顔を酒泉の胸元へと埋める
「アコちゃん……子供を脅すのはやめなよ……」
「は、はい!?」
「見事に嫌われてますね……行政官」
「なっ!?わ、私はこの子に何もしてませんよ!?」
────多分服装にドン引きしたんじゃないっすかね
「この服のどこが可笑しいと言うのですか!!?」
───えっ
慌てふためくアコを下がらせて今度はチナツが近づく
幼稚園の先生が子供に接する時のような柔らかい笑みを浮かべながら顔を近づけて語りかける
「先程は行政官が失礼しました、でも私達は怪しい者ではありませんよ♪」
「おぎゃああああああ!おぎゃああああああ!」
「えぇっ!?」
────そんな……火宮さんまで拒否られるなんて……
「怒った時の雰囲気が怖いからかな……」
「イオリ?」
「冗談!冗談だから!」
アコと違いまともな服装である自分まで拒まれ、チナツは思わず動揺してしまう
赤子をあやすのに失敗した2人に溜め息を吐きながらも、今度はヒナが赤子をあやそうとチャレンジする
「自分で言うのもなんだけど……こういうのは身長が小さい私の方が怖がられないかも────」
「うあああああああ!ぅあああああっ!!」
「……ち、近付く前から泣かれてる」
「……」
────……ふ、雰囲気だけで相手を圧倒するとは!流石は空崎さん!キヴォトス最強の生徒!
「……そんな褒められ方されても嬉しくない」
ヒナは落ち込みながら赤子から離れるが、それでも赤子はえぐえぐと未だに泣き続けている
それを静めようと酒泉が頭を撫でたり背中を優しくとんとんと叩いたりすると、赤子の泣き声が少しずつ明るいものへと変わっていく
「もしかして人見知りなのか?」
────いやぁ……赤ちゃんの時から性格反映ってされるんですかねぇ……?
「でも、こうも他の人に懐かないとなぁ……」
「だうあっ!だっ!」
「……イオリや酒泉とは普通に接してますね」
「そういえば……」
イオリと酒泉だけ赤子に近づいても何も拒絶反応を見せない事に疑問を抱く一同、その視線は楽しそうに赤子をあやしている2人に集められる
赤子の方もイオリの頬に手を伸ばしたりと積極的に触れ合おうとしており、酒泉もそんな赤子の手を握って肌に直接触れたりと他の者達と違って平然と接している
「私達と御二人の違いってなんでしょうか……」
「……スナイパーなのに突撃してる事とか?」
「……つまり単純な人間にしか懐かないのでは?」
「はあ!?アコちゃんだって委員長の事になると思考回路が単純になるじゃん!」
「何度も同じ罠に掛かってる貴女に言われたくないですぅ!」
「……3人とも子供達の前で喧嘩しないで、また泣き出しちゃうから────」
「……まぅ……まぁ……」
「……待ってください、何か様子が……」
ギャーギャーと言い争いを始めるアコとイオリ、2人の喧嘩で子供がまた泣き出さないかと心配したヒナが赤子の顔を覗き込む
すると、赤子は口をぱくぱくと開け閉じしながら手を伸ばし始めた
「まー……ぅあ……ま……まぁ……」
「……なんだ?何か気になるものでもあるのか?」
「ぅ~……まぁ~……」
────……ま、まさか……尻からもう1人のベイビーが生まれそうなんじゃ……!
「えっ!?こ、ここで!?」
「医務室にオムツってあったっけ……」
「ざ、残念ながら……今すぐお手洗いに連れていかないと!」
────わ、わかりました!
最悪の事態を想像して焦り出す一同、酒泉は慌てて赤子をトイレまで運ぼうとして────突如、赤子がイオリの服を掴む
「まぁま!」
「な、なんだ!?いきなり何を────え?」
「……はい?」
「……今、なんと?」
「……〝まま〟って言ったの?」
「まーま!まま!」
突然笑顔で口を開いたかと思えば衝撃的な言葉を吐く赤子に驚愕する一同
だが、赤子はそんな固まった周囲の空気など関係ないと言わんばかりに無邪気な笑顔のまま、今度は自身を抱いている酒泉を見上げる
「ぱぁ!」
────……パー?じゃんけんでもしたいのか?俺はパーを出したぞ?
「ぱー!ぱー!」
────日本語でおK
「ぱぁ!ぱぁぱ!ぱぱぁ!」
────……え?
〝ぱぱ〟
風紀委員の聞き間違いでなければ確かにそう発していた
その言葉をハッキリと聞き届けたイオリと酒泉は互いに顔を合わせる
「……えっと……酒泉、今〝ぱぱ〟って呼ばれた?」
────銀鏡さんこそ、さっき〝まま〟って……
「ぱぁぱ!まぁま!」
2人の疑問に答える様に赤子が再び同じ言葉を発し、それを聞いた瞬間にイオリと酒泉の頬から冷や汗がダラダラと流れてくる
互いの顔に向けて震えている人差し指を向けると、アワアワと口を開きながら大きな声で叫んだ
「酒泉がパパァ!?」
────銀鏡さんがママァ!?