〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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パパになった酒泉とママになったイオリ─ばにたす─

 

 

 

 

 

「……そうか……子供を預かっているのか……」

 

────はい、カイナって名前なんです

 

「うぅ?」

 

「面倒事に巻き込まれやすいのもそれを見過ごせないのも相変わらずか……」

 

 

公園のベンチでカイナにミルクを与えている横でフッと笑いながら錠前さんが呟く

 

ここに来るまでの道中でカイナは人見知りだということを説明したからかベンチの端っこから語りかけてくる

 

……因みに俺と錠前さんの間には銀鏡さんが座っているのだがさっきから無言でどこか警戒している様子だ

 

 

 

「……」

 

────……気になるんですか?カイナのこと

 

「あ、いや……こんな小さな身体に命が宿ってるのかと思ってな……」

 

 

 

ちょっと重いことを考えているなって思ったけど、ベアトリーチェの下でずっとばにたす教育されていたのならこういう状況に触れる機会も眺める機会も無かったのかもしれない

 

錠前さんはうずうずしながらカイナを見つめ、かと思えば時々表情を暗くしながら視線を逸らしている

 

 

 

────もしかして触ってみたいんですか?人見知りなんであんま長くは無理ですけど……ほんのちょっと触れ合う程度なら……

 

「……い、いや……そんなことは……」

 

 

 

此方の言葉を否定しようする錠前さんだが、何度も何度もチラチラと視線を向けておきながら〝興味ない〟は無理があると思う

 

 

 

────……ねえ、錠前さん。ちょっとお願いがあるんですけど……この子の人見知り改善に付き合ってくれません?

 

「……は?私が?」

 

────具体的にはこの子と触れ合ってあげてほしいというか……

 

「な、何言ってるの!?」

 

突然の俺からの提案に錠前さんはポカンとした表情を浮かべ、銀鏡さんは大きな声を発してからベンチから立ち上がる

 

すると、先程までの警戒心が明確な敵意となって錠前さんへと向けられる

 

 

 

「こいつに触らせるって本気で言ってるのか……?」

 

────え、ええ……そうですけど……ほら、カイナだってあんな激しい人見知りを抱えたままだと将来困るかもしれないでしょ?だから今の内にほんの少しでも俺達以外にも慣れる練習をしておかないと……

 

「で、でも……」

 

────俺か銀鏡さんがあやしながら錠前さんにそーっと触ってもらえば大丈夫だと思いますし……

 

「そういう事じゃなくてっ!こいつは酒泉を────いや……酒泉が大丈夫だと判断したなら何も言わないよ」

 

 

 

何か言いたげに言葉を詰まらせる銀鏡さんだったが、一旦落ち着こうと大きく呼吸をした後にその口を閉じてしまった

 

銀鏡さんが何を考えているのか俺には分からなかったが、その隣に座っている錠前さんは納得した様に頷いた

 

 

「……いや、やめておこう……私の様な人間の汚れた指で触れるわけにはいかないからな」

 

────……あ、そゆこと?

 

「……そ、そうだよ……だって、酒泉を直接殺しかけた張本人なんだぞ?警戒するなっていう方が難しいよ……」

 

 

 

どうやら銀鏡さんは錠前さんがカイナに何かしないか心配だったらしい

 

俺はもう普通にアリスクと接してるから〝彼女達は安全だ〟って理解してるけど、他の人達にとってはそうはいかないのか

 

 

 

「……酒泉、銀鏡イオリの言っていることは正しい。むしろ彼女の反応の方が一般的なものに近い」

 

────大丈夫ですよ、錠前さんはもう悪さするつもりないでしょう?……〝悪さ〟つっても、あれだってベアトリーチェがいなければ起こす必要も無かった事ですし

 

「……だとしても私自身の心が納得していないんだ、酒泉を殺めようとしたその手で幼い命に触れるつもりなのか……とな」

 

────……錠前さんはさっき自分の手を〝汚れてる〟って言いましたけど、別に誰かやっちまった訳じゃないんでしょう?俺だってこうして生きてますし……だからまだ汚れてませんよ

 

「……だが、お前の身体には傷痕が残っているだろう?」

 

────痛みはもう感じませんし日常生活を送るのに支障はありませんよ

 

「……それはただの傷痕ではない、嘗ての私の過ちの証明だ」

 

 

 

身体の傷なんてどうせ服着てたら見えないだろうに……そりゃあ、これを見た誰かが悲しんだり不快な思いをするってんならちゃんと気にして隠したりはするけどさ

 

でもそれ以外だと実際に身体機能に悪影響が出てる訳でもないし特に気にする必要はないと思う……が、錠前さん的にはそうもいかないんだろうな

 

……まあ、どうしても自分を責めてしまう気持ちも分からなくはない……俺も〝似たような経験〟があるし

 

 

 

────……もし俺の事を殺し損ねた錠前さんの手が汚れているってんなら……俺の手だって汚れてますよ

 

「……お前が?冗談だろう?」

 

「そ、そうだよ!酒泉は誰も殺そうとした事なんて……!」

 

────ありますよ、ミレニアムの生徒を1人殺そうとしました

 

「……え?」

 

 

 

場の空気が凍てつき、静寂が訪れる

 

それでも今更話を止めるべきではないだろうと判断して話し続ける

 

 

 

────そのミレニアムの生徒は下手に使えば多くの人間を傷つけてしまう程の強大な力を持ってましてね、だからその力を制御できずに暴走してしまった場合は俺がその子を殺そうと考えていました……まあ、結局その時は来なかったんですけどね

 

「……お、驚かさないでよ……そういう理由があるなら先に言ってよ……」

 

「……その行為は他の者達を助ける為に必要な行為だ、お前の考えは間違っては────」

 

────じゃあ錠前さんは?

 

「……私?」

 

────錠前さんだって家族を助ける為にベアトリーチェに従ってたんでしょう?誰かの為に他の誰かを殺そうとしたって点においては俺だって同じです、だったら俺の手だってカイナに触れる資格がありません

 

「……私はお前を殺しかけた、お前の場合はその子に手すら出していない……大きな違いだろう」

 

 

 

意地でも自分を認めたくないのか、俺のことは擁護するものの自分の行いに関しては厳しい評価を下し続ける錠前さん

 

勿論殺人はいけない事だしどんな事情があろうと〝仕方無い〟の一言で済ましていい問題ではない

 

だが、そうは分かっていても手を汚さざるを得ない状況だってある……そして錠前さんがそのパターンだ

 

 

 

────……俺はその子を殺してませんし錠前さんも俺を殺していません……こうも言えますよね?

 

「……」

 

────別に〝錠前さんに罪はない〟とまでは言いませんよ?悪い事は悪いですし……でも、そんなもん言い出したら〝あれも悪かったこれも悪かった〟って自分の過ちばかり数え始めちゃいますよ

 

「……それの何がいけないんだ?」

 

────俺達に必要なのは前に進む事です、なるべく同じ過ちを犯さないようにする為に過去の失敗から学んで成長していかないと……そして!これがその為の第一歩!

 

 

カイナを片腕で抱き、もう片方の手でガラガラを持ってあやす

 

きゃっきゃきゃっきゃとはしゃぐカイナを見守りながら意識は錠前さんの方へと向ける

 

 

 

────誰かの命を奪おうとしたことを後悔しているのならまずは命に触れてその尊さを知ってください、この経験はきっと錠前さんの為になるはずです

 

「……命の……尊さ……」

 

 

ガラガラに夢中になっているカイナは錠前さんの方を一切見ようとはせず、その手でガラガラを掴もうと両手をふらふらと動かしている

 

それを見た錠前さんはベンチからゆっくりと立ち上がって足音を立てないように静かにカイナに近寄ると、カイナを威圧しないように身を屈めてから震えている人差し指をそーっと近づける

 

アリウスの中ではトップの実力を誇る錠前さんが赤子相手に怯えている光景がどうも可笑しくて妙な笑みが浮かんでしまうが、それを気取られないようにすぐに笑みを押さえる

 

そうしている間にも錠前さんの人差し指はカイナの頬の手前まで近づき、ほんの少し動かしただけで接触する距離で止まる

 

やがて覚悟を決めたかのように深呼吸をし、恐る恐る人差し指を動かす

 

 

 

「……っ、…!?」

 

「だぁう?」

 

 

 

ぷにっ、と頬が沈むと同時に錠前さんがその指を離す

 

カイナは触れられた際に錠前さんの方を向いたが、ガラガラを視界に入るように移動させるとすぐに意識がそちらに向いた

 

 

 

「なっ……しゅ、酒泉!今……頬が……!」

 

────柔らかかったでしょう?

 

「ぷにって……ぷにってしたぞ……!?」

 

 

 

錠前さんの口から〝ぷにっ〟て言葉が出てきた事に少しだけ驚くが、本人の感銘を受けた様な表情を見るとすぐに微笑ましい気持ちになる

 

 

 

「それに頬も温かいような……大丈夫なのか!?赤子だぞ!?」

 

────赤ちゃんの平均体温は高めですからね、カイナの場合はずっとこれぐらいの体温なんで発熱してるって訳じゃないですよ

 

「そ、そうなのか……?」

 

 

 

今度は小さな手を優しく握ると、その感触も気になったのかふにふにと親指で赤ちゃんの手の甲を撫で回す

 

 

 

「ぜ、全体的に脆いな……大丈夫なのか?そんな身体でキヴォトスで生きていけるのか?」

 

────だから赤ちゃんが成長するまで家族が護るんですよ、錠前さんだって秤さんと会う前からそうしてたでしょう?

 

「あ、ああ……だがミサキもヒヨリも赤子ではないからな……」

 

────でも力を持たない子を護ってたのは事実でしょう?それと同じですよ

 

「……そうか……誰かが弱き者を護り、そうして護られて成長した子が今度は別の誰かを護る……命というのはそうして繋がっているんだな」

 

 

命を育てて尊さを知る、それは人間に限った話ではないと俺は思ってる

 

例えばそれはペットの犬や猫だったり、或いは子供の頃に育てたカブトムシや自由研究用のアサガオだったり

 

そういった経験が無いまま成長したのか……もしくはそういった経験はあるけどベアトリーチェの教えのせいで〝虚しい〟と思うようになってしまったのか

 

 

 

「これが……命か……」

 

 

 

……まあ、どちらにせよ今回の出来事を切っ掛けに錠前さんが前に進めるようになったのならそれでいい。これを機に色んな事を学んでどんどん成長してもらいたい

 

どれくらい成長してほしいのか具体的に言うと……汚い大人に騙されて無給で働かされたりしないぐらいにだな

 

……まあ、その辺は原作と違って秤さん達も一緒に暮らしてるし大丈夫……かな?それに働くにしてもトリニティの監視の目があるから汚い大人は近寄れないだろうしな

 

 

 

「………」

 

────……ね?大丈夫そうでしょう?銀鏡さん

 

「……むぅ」

 

 

 

ふと銀鏡さんの様子が気になって声を掛けてみれば複雑そうに錠前さんを見つめていた

 

宝物に触れるかの様に慎重にカイナと触れ合う錠前さんを見てなんとなく安全だと思っているのか、銀鏡さんは横から邪魔するような真似はしていない

 

 

────前までの錠前さんの物騒な人柄は環境のせいもありましたから、こうして普通の環境に身を置けばただの強いポンコツ少女に早変わりですよ

 

「ポ、ポンコツ!?」

 

「まあ……確かに若干アコちゃんっぽい雰囲気とか出てるけど……クールに振る舞っておきながらどこか気の抜けてそうなところとか特に」

 

 

突然流れ弾を食らった天雨さんには申し訳ないが確かにそういうところは似ているかもしれない

 

ただし、天雨さんの場合は大体空崎さん関連の出来事がトリガーとなってポンコツに変身することが多いけどな……それ以外の時は基本的にめちゃくちゃ優秀だ

 

 

 

「……まあ、完全に信用するのは無理だけど……とりあえず今はちょっとだけ信じてあげるよ」

 

「……すまない、感謝する」

 

「だけど!また酒泉を傷つけるような事があれば今度こそ許さないからな!」

 

「ああ……安心してくれ、そんな機会は二度と訪れないからな」

 

 

 

一応の納得はしてくれたのか、銀鏡さんはそれ以上錠前さんを責めることはなかった

 

……のだが、代わりに不機嫌そうな表情を俺に向けてきた

 

 

 

「……ていうか、カイナの前でいきなり重い話を始めないでよ」

 

────うっ……す、すいません……言葉の意味は分からないだろうし大丈夫かなって……

 

「まあ、赤ちゃんの頃の記憶を覚えてる人なんて殆どいないけどさ……そこら辺の事もちゃんと注意してよ?」

 

 

確かに銀鏡さんの言う通り子供の前でするような話じゃなかったな、もっと気を遣わないとな……

 

 

 

「はい!雑談もここまで!この後何か食べに行くんでしょ?だったらもう移動しようよ」

 

「あっ……」

 

「まぁあ!まま!」

 

「ほら、そっちだって買い物の途中だったんでしょ?」

 

 

 

銀鏡さんがカイナを抱き上げて立ち上がると、ついさっきまでカイナに触れていた錠前さんが名残惜しそうに一瞬だけその手を伸ばす

 

しかし銀鏡さんに言われて本来の目的を思い出したのか、錠前さんは〝そうだったな〟と呟いて立ち上がる

 

 

 

「姫達への土産を探している途中だったな……」

 

────さっきのケーキ屋では何も買わなかったんですか?

 

「ああ、結局何を買うのか決められなくてな……他の店も少し回ってみる事にした」

 

────……ねえ、何が食べたいのか直接秤さん達に聞いてみるのは駄目なんですか?

 

「……まあ、それも考えてはいたが……」

 

────……さては何も言わずこっそり買ってきて喜ばせようとしてましたね?

 

「……悪いか?」

 

 

 

フイッと気恥ずかしそうに顔を逸らしてスマホを取り出す錠前さん、どうやらサプライズ的な事を考えていたらしい

 

どこか悔しそうに歯噛みしながら通話をボタンを押すのを苦笑しながら見つめていると、いつの間にかカイナをベビーカーに乗せていた銀鏡さんが肩を軽く叩いてきた

 

 

 

「ほら、向こうは大丈夫そうだし私達も行こうよ」

 

────そうっすね……錠前さん!俺達もそろそろ行きますねー!

 

 

 

「それでミサキとヒヨリにも意見を……ん?ああ、またな」

 

 

 

既に通話を始めていた錠前さんに別れの挨拶を伝え、そのまま手を振ってから立ち去ろうとする

 

 

 

「それで?何食べる?」

 

────んー……さっきスイーツ食べ損ねたんでパフェでも食べに行きます?

 

「デザートだけで昼食を済ませるつもりなの?」

 

────俺は余裕ですけど?……なんて、流石に銀鏡さんを無理やり付き合わせてまで食べようとは思いませんよ

 

「ビックリした……流石の酒泉も昼ぐらいは普通に食べたいよな」

 

────いや、ぶっちゃけ昼食どころか1日中スイーツだらけでも普通に食えますけど

 

「えぇ……」

 

 

 

 

「姫、どうした?……酒泉の声?確かに近くに居るが……もう帰るぞ?」

 

 

 

 

「……で?結局何にするの?」

 

────……麺類とか?なんか突然味の濃いつけ麺が食べたくなってきました

 

「本当に突然すぎるな……じゃあラーメン屋でも探すか?」

 

 

 

 

「カイナを連れて銀鏡イオリと……ああ、カイナというのは酒泉と銀鏡イオリが共に育てている赤子の名前だ」

 

 

 

────ラーメン屋か……確か駅の近くにそれっぽい暖簾があったような……ちょっと調べてみますね

 

「うん、お願い……ん?どうしたんだ、カイナ?空の哺乳瓶なんか引っ張って……」

 

「だぅあー!あだー!」

 

 

 

 

「……?いや、何も嘘は吐いていないぞ。カイナは酒泉と銀鏡イオリの……代われ?だが、2人にも予定が……ま、待ってくれアツコ!どうしてそんなに冷たい声色をしているんだ!?」

 

 

 

「……まさか、またミルクか?」

 

────さっき与えたばっかですけど……足りなかったんですかね?

 

「いつも通りの量だけどなぁ……」

 

 

 

 

「ア、アツコ……若干機嫌が悪そうなのは私の気のせいか?……あ、ああ……分かった……」

 

 

 

 

────うーん……あんまり間隔を空けずにミルクを飲ませすぎるのは駄目だってさっきの育児教室でも言ってましたしもう少し様子を見てみましょうか

 

「だな、それからでも……ん?」

 

「すまない……少しだけ時間を貰えないだろうか……」

 

 

 

通行人の邪魔にならないように道の端っこで立ち止まっていると後ろから何者かが走り寄ってくる気配を感じ、銀鏡さんと2人で同時に振り向いてみる

 

すると、先程別れたばかりの筈の錠前さんが焦ったような表情で後ろに立っていた

 

 

 

────えっと……どうしました?何か伝え忘れてたことでも?

 

「いや、実はついさっきアツコに連絡したら突然〝酒泉と代わって〟と言い始めてな……少しだけ相手をしてもらえないだろうか?」

 

────……俺に?まあ、別にいいですけど……

 

 

 

錠前さんにスマホを手渡され、それを耳元に近づける

 

そして〝もしもし〟と声を掛けてみればすぐに返事がきた

 

 

『……もしもし?酒泉?』

 

────はい、酒泉ですけど……秤さんだよな?俺に何か用か?

 

『………』

 

 

 

聞こえてきたのは確かに秤さんの声、話を長引かせて銀鏡さんとカイナを待たせたくなかったので単刀直入に理由を聞いてみる

 

しかし秤さんは此方の問いに即答はせずに暫く黙り込む

 

 

『……ずるい』

 

────……何が?

 

『ずるい』

 

 

 

たった一言、漸く出てきた言葉はそれだけだった

 

流石にそれだけだと何も分からないし声もかなり小さかったのでスピーカーモードにしてから尋ねてみると、今度は不貞腐れたように吐き捨てられる

 

 

 

 

────いや、だから具体的に言ってくれないと……

 

『私も欲しかった、赤ちゃん』

 

 

 

一瞬でスピーカーモードを切る

 

正面を向いてみれば口を開けてポカンとしている銀鏡さんとその銀鏡さんの尻尾で遊んでいるカイナ、そして首を傾げながら何も分かってなさそうな錠前さんが

 

……聞き間違い、だよな?

 

再びスマホに耳を近づけようとすれば、銀鏡さんからジェスチャーで〝スピーカーに戻して〟と伝えられる

 

 

 

「……いや、多分聞き間違いだろうけど一応……ね?」

 

────よし、じゃあ……もう一度……秤さん?ちょっと電波が悪くて上手く聞き取れなかったんだけど……さっきなんて言った?

 

『私にも赤ちゃん生ませてほしかった』

 

 

 

聞き間違いじゃなかったしなんならさっきより言い方が具体的になってる

 

確かに具体的に答えてくれとは言ったけど気まずくなるような言葉までハッキリと言うんじゃない

 

 

 

『……酒泉、私と会ってない間にいつの間にかヤることヤってたんだ』

 

────ヤってません僕はまださくらんぼです、ジンバーチェリーです

 

『それとも会う前から既にそういう相手がいたのかな?』

 

────聖園さんみたいなこと言い出すなよ!?変な誤解生むから!?

 

『生んだのは誤解じゃなくて人間でしょ?』

 

 

 

何上手いこと言ってんだこの人

 

 

 

『……ねえ、酒泉』

 

────は、はい?

 

『私もママにしてよ』

 

────……あの、淡々と話を進めようとするのやめてくれないか?

 

『酒泉がパパね』

 

 

 

大変だ、秤さんの耳が壊れて会話が成り立たなくなってしまった

 

……つーかそもそも秤さんはどうして突然子供を欲しがって────待てよ?もしかして元々そういう〝夢〟があったんじゃないのか?

 

原作でも先生をからかう時に子供の作り方を聞いていたし、実は無意識の内に本当に子供を育てたいという欲があったとか……

 

 

 

「なっ……ななななななに言ってんの!?」

 

 

銀鏡さんが突然俺の……というより錠前さんのスマホを横から奪い取ってまたスピーカーモードを切り、そのまま少し離れた場所まで移動してしまった

 

あ、因みに今のやり取りは銀鏡さんにも錠前さんにも筒抜けです

 

 

 

「しゅ、酒泉をパパに選ぶ必要なんてないだろ!?」

 

『あるよ、好きだもん』

 

「……だ、だとしても!こういうのは順序が……!」

 

 

何やら銀鏡さんが秤さんの返答に怒っているみたいだが、スピーカーを切られてしまったのでどんな内容の話をしているのか聞こえなくなってしまった

 

それでも顔を真っ赤にしているところを見るにからかい上手の秤さんに遊ばれているであろう事が窺える

 

 

 

『……じゃあ、順序さえしっかりすれば問題ないの?私が酒泉と付き合って、酒泉と結婚して、酒泉の子を成せば文句はないんだよね?』

 

「そ、それは……」

 

『言っておくけど私は本気だよ?マダムから解放されて漸く自分の望む〝未来〟を求める事が許されたのにその〝未来〟に必要な人が知らない間に私の手の届かない所に行こうとしてるんだもん、私だって必死になるよ……酒泉の隣に居るのが当たり前だった人には分からないと思うけど』

「………」

 

『……ごめんなさい、ちょっと言い過ぎた』

 

 

急に大人しくなった銀鏡さんを不安気に見守っているとふと視線が合った

 

……どこか複雑そうにジッと見つめたかと思えば、すぐに視線を逸らされてしまったが

 

 

 

『お互いに過ごしてきた環境が違うからこの辺りの価値観は分かり合えないと思うけどこれだけはハッキリと伝えておくね……私は酒泉を諦めないから』

 

「………じゃあ、私だって酒泉が隣にいる〝当たり前〟を奪われない為に────」

 

『だから最初は貴女と同じ様に酒泉の子供を生むところから始めるね』

 

「だから飛躍しすぎだって!?」

 

『男の子と女の子を1人ずつ、その後はどこか静かな町でお花屋さんを始めるんだ』

 

「勝手に妄想を始めるなぁ!」

 

 

 

なんか銀鏡さんの纏う空気が若干ピリピリし始めたかと思えばすぐにいつも通りの空気に戻った

 

何を話してるのか気になってきたな……

 

 

「……ん?ねぇ……今〝貴女と同じように〟って言った?」

 

『……そうだけど……』

 

「……何を勘違いしているのか知らないけど私、別に酒泉の子供を生んだ訳じゃないぞ」

 

『……え?』

 

「……もしカイナの事を言ってるんだったらあの子は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いな……」

 

────っすね……

 

「まぁま?」

 

────まぁまはもうちょっと時間が掛かりそうだから……いや、そろそろ移動したいし流石に呼び戻すか

 

 

ベビーカーに乗っているカイナに腕をちょんちょんと触られ、カイナが銀鏡さんを求めていることに気づく

 

電話を邪魔しない程度の声量で叫んで銀鏡さんを呼ぶと、銀鏡さんは手を振って小走りで戻ってきた

 

 

「ごめん、待たせちゃって……はい、これ返すよ」

 

「ああ……もしもし?姫か?用は済んだのか?……いや、姫が元々用があったのは酒泉か……どうする?また代わる────」

 

『サッちゃんのバカ』

 

「……え?」

 

 

 

いつの間にかまたONに切り替わっていたスピーカーモード、突拍子もなく襲ってきた突然の罵倒

 

錠前さんの身体が固まり、声が震える

 

 

 

「……ひ、姫?どうしたんだ?何故そんな事を……」

 

『ポンコツ、言葉足らず、残念美人、ばにたす、すぐに騙されそう』

 

「待ってくれ、姫!私は何か怒らせるようなことをしてしまったのか!?頼むから教えてくれ!」

 

『……酒泉、混乱させちゃってごめんね……責任は全部サッちゃんが負うから』

 

────お、おう……そうか……

 

「そんな……姫……私はまた罪を犯してしまったのか……?」

 

 

 

今にも土下座しそうな勢いで両膝をつく錠前さんに通行人から視線が集まる

 

なんか此方も気まずくなってきたので軽くフォローだけ入れてから別れる事にしよう

 

 

 

────えっと……俺達はもう帰りますけど……その、錠前さんもここで落ち込んでいるより家に帰って秤さんと話し合ったらどうです?

 

「……あ、ああ……そうしよう……」

 

『酒泉、今回の件はちゃんと謝りたいからまた後でモモトーク送るね……それと、銀鏡イオリにも一言』

「………」

 

『今回は色々と誤解が絡まった結果暴走しちゃったけど……さっき伝えた想いは全部本当だから』

 

「……分かってるって」

 

 

 

秤さんは意味ありげにそう伝えると、銀鏡さんは目を細目ながら返事をした

 

それはまるで敵対者を発見した時のような、任務中にちょくちょく見る姿で……ん?

 

 

 

 

────銀鏡さん?この尻尾は?

 

「……尻尾?」

 

────いや、なんか俺の脚に巻き付いて……

 

「────っ!ち、違っ……これはアレだ!尻尾を動かしてたら偶然絡まっただけだ!」

 

────そ、そうすか……

 

「ほら!今度こそ用は済んだみたいだしもう行くよ!ベビーカーは私が押すから!」

 

「ぅだあ!いっぽ!しっぽ!」

 

────お、また新しい言葉を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

遠ざかっていく2人の背中を見届けるサオリ、その光景は見ているだけで彼女に暖かさを感じさせるものだった

 

この日、サオリにとって大きな出来事が2つあった

 

1つは生まれたばかりの〝命〟と触れ合えたこと、嘗て自身が奪おうとしたものの尊さを知って同じ過ちを犯すまいと改めて決意する事ができた

 

もう1つはイオリと酒泉の姿を見てサオリの見聞が広がったこと

 

自分が何になりたいのか、何を目指したいのか、それすら分からなかったサオリだが、酒泉とイオリの夫婦の様な姿を見て〝普通の女性〟への憧れを無意識の内に抱いていた

 

それはアリウスという鎖に囚われていたサオリにとっては大きな一歩だった

 

 

(私にもあんな未来が訪れるのだろうか……いや、そもそも望む事が許されるのか?)

 

 

未だに自己嫌悪と罪悪感に縛られてはいるものの、それでもプラスの方向に物事を考えられるようになったのは間違いなく成長と言えるだろう

 

(愛する者を見つけて、いずれ子を成して、それで……その者と生涯を────ん?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私は何故、酒泉の姿を……?」

 

『……サッちゃん?』

 

 

 

想像の中のサオリの隣に立っていたのが何故酒泉なのか、それに気づける程までに成長するのはもう少し時間が掛かるだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




おっす!オラ酒泉!

ミレニアムのテーマパークでヒーローの応援ショーがあるって話を聞いたから銀鏡さんとカイナを連れて向かったらその帰り道で偶然ゲーセン帰りのゲーム開発部に出会っちまったぞぉ!

そしたらモモイさんは妙に焦り倒すし天童さんは笑顔で〝アリスも酒泉の子どもが欲しいです!〟って言ってくるし、ケイさんに関しては何故かぶちギレてネクタイを引っ張ってくるしで何かてぇへんな事になっちまった!

次回、クソボケボール超!『身勝手(に修羅場を撒き散らすクソボケ)の極意!』ぜってーみてくれよな!
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