〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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パパになった酒泉とママになったイオリ─ロリコン─

 

 

 

日曜日、現在時刻7:24

 

 

 

「う~……」

 

「……あれ?おかしいな、カイナが好きだったやつなのに……」

 

 

 

イオリがお星さまの絵柄のガラガラを振るが、カイナは興味無さそうにそっぽを向いてはいはいで去っていく

 

飽きてしまったのだろうかと思いながらガラガラを玩具箱に仕舞い、今度は子供向け番組のキャラクターのぬいぐるみ等を取り出してカイナに近づける

 

だが、カイナはそれすらも無視して1人で床をゴロゴロと転がり始めた

 

 

 

「こらこら、頭ぶつけちゃうだろー?」

 

────銀鏡さーん、お昼出来ましたよー……あれ?カイナは何やってるんです?

 

「いや、それが……どうもオモチャで遊ぶの飽きちゃったみたいでさ」

 

────えー……早くないですか?最近買ったばっかなのに

 

 

 

酒泉はエプロンを脱ぎながらカイナに近づき、イオリの代わりにガラガラを振る

 

しかしカイナはガラガラをちょんちょんと数回突っついた後、再び興味を失くして別の方向へとはいはいで去っていった

 

 

 

「ほらな?」

 

────うーん、これじゃ泣き出した時とか大変ですね……

 

「何か代わりになる物があればな……」

 

────じゃあ、また2人で育児用品買いにいきますか?

 

「そうだな、また予定を合わせて……ん?」

 

「だぁ?……あーい!」

 

 

 

テレビの前で元気よく手を振りながら叫ぶカイナ、そのテレビの画面に映っているのは酒泉が毎朝日曜に欠かさず視聴している特撮番組〝マスクヒーロー〟シリーズだった

 

ヒーロー達がオープニングに合わせて戦い、敵怪人を蹴散らす度にカイナの手の振りが大きくなる

 

時には小さな手でパンチの様な動作を繰り出し、ヒーローがキックするシーンでは自身も同時に足を前に出す

 

 

────……これだ!

 

「えっと……何が?」

 

────特撮ですよ、特撮!もしかしたらカイナは特撮に……いや、特撮は無理でも女児向けの〝キヴォキュア!〟シリーズにハマるかもしれませんよ!

 

 

 

酒泉は近くの戸棚から1枚のポスターを取り出すと、それをカイナとイオリの前に広げる

 

ポスターに写っているのは赤い鎧のヒーロー、タイトルは〝マスクヒーローデンシャオー〟と書かれていた

 

 

 

「これは……ヒーローショーか?」

 

────はい、来週の土曜日にミレニアムのテーマパークの方でやるみたいなんですけど良かったらカイナを連れて一緒に行きませんか?

 

「そうだな……カイナが新しく夢中になれる物も探してあげたいし一度行ってみよっか」

 

 

こうして2人の予定はあっさりと決まり、この日は他に考える事もなかったのでのんびりと過ごしたのだとか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……因みに何故日曜の朝からイオリが酒泉の家でカイナと戯れながら朝食までご馳走になっているのかと言うと、なんとなく自然な流れでイオリがカイナに会いに来ただけである

 

この光景をどこぞの委員長が直接目撃していたら事情を知っていても脳が破壊されたかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『くそっ!このままだと押し負けちまう……頼む、会場の皆!俺に力を貸してくれ!』

 

『みんなー!私の合図に合わせてデンシャオーを応援するよ!せーの……』

 

 

『頑張れー!デンシャオー!』

 

「「「「がんばれー!デンシャオー!」」」」

 

 

 

ステージの奥の巨大な画面にビームの映像が移り、怪人の手とヒーローの手からビームが出ているかの様に振る舞う役者達

 

子供達の声援が大きくなる度にヒーロー側のビームの映像が大きくなり、その勢いは徐々に怪人側のビームを押し返していく

 

 

 

「が、がんばれー……デンシャオー……」

 

────ほら、銀鏡さん!もっと大きな声で………がんばれー!デンシャオー!

 

「しゃおー!」

 

「どうして酒泉は恥ずかしくないんだよ……」

 

 

童心に帰ってるから……ですかねぇ……

 

俺が今カイナを抱っこしているみたいに昔はこうして父さんの膝の上でヒーローを応援してたなー

 

 

『ぐっ……ま、まだまだぁ!人間ごときに負けるかぁ!』

 

『なにっ!?こ、この力は……ぐぅおおお!?』

 

 

 

そしてヒーローのビームが怪人を飲み込んだ……かと思えば突如、ステージに真っ黒な煙が撒かれる

 

その煙が晴れると少しずつ怪人の姿が露になってきたが……先程よりも衣装の装飾が変わっていた

 

 

 

『はぁ……はぁ……驚いたぞ、まさか人間ごときにこの姿まで追い詰められるとは……!』

 

『なっ……あの姿は……!?』

 

 

 

「おお……なんか変わったぞ……?」

 

────あれはマスクヒーローデンシャオーの21話で初登場した幹部級の怪人のみが変身できる進化形態ですね、主人公を初めて完封した強敵ですよ

 

「ヒーローショーの応援で敵が倒れないどころかパワーアップする展開があるのか……ていうか話数まで覚えてるの?」

 

 

銀鏡さんは困惑しているが俺だって正直ちょっと驚いてる、だってこういう展開って大体観客の〝がんばえー!〟でトドメまでいく筈だろ?

 

……でも、あの形態が登場したという事はヒーロー側も……

 

 

 

『はっ!今更そんな姿に怯えるか!こっちだってまだ奥の手が残ってんだ!』

 

 

 

今度はヒーロー側が黒い煙に飲み込まれ、暫くして再び姿を現す

 

そこには予想通りの姿に変身したヒーローが立っていた

 

 

 

「お?なんかヒーロー側も姿が変わったぞ?」

 

────あれは22話で登場したデンシャオーの強化形態ですね、デンシャオーはあの姿で目の前の幹部を……いや、見てのお楽しみですね

 

「だー!だうあー!」

 

 

 

ネタバレ、ヨクナイ

 

そう思いながらカイナの手を握って共に純粋な心でヒーローを応援することを決めた

 

 

『負けるなデンシャオー!』

 

 

でんしゃおーがんばえー!

 

「ばえー!」

 

「童心に帰りすぎだろ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんていうか……事前知識無しの割には結構楽しめたな……」

 

────男の子は心にヒーローが宿ってますからね

 

「誰が男の子だ!誰が!」

 

「ぱぁぱ?」

 

「違うって!女だから!ママだから!」

 

 

 

ヒーローショーを見終えた帰り道、軽い冗談を交えながらゆっくりと歩く

 

あの後、折角テーマパークに来たのでヒーローショー以外にも何か堪能しようと観覧車等の赤ちゃんでも乗れるようなアトラクションを選んで乗ってきた

 

暫くすると銀鏡さんの腹の音が鳴ったので「わ、私じゃない!鳴ったのは酒泉の腹だ!」……いやどう聞いても銀鏡さんの方から「酒泉の!」……失礼、俺の腹が鳴ったので昼食にしようという事になった

 

予め調べておいた周囲の飲食店の中から互いに意見を出し合った結果、外にもテーブルが置かれているイタリア料理店にした

 

イタリアと言えばピザ、ピザと言えばアンチョビだよな……あの塩気がチーズにも合うんだよな、うん

 

「それよりも酒泉、さっき買ったの試さなくてもいいのか?」

 

────おっと、そうだった……はい、カイナ!デンシャオーだぞー?

 

「ぅあ?しゃおー?でんおー!」

 

────でんおーだと別の作品になるからデンシャオーって呼ぼうなー

 

 

 

 

ヒーローショーが終わった後観客全員にプレゼントされたデンシャオーのソフビ

 

それをカイナの前でふりふりと揺らすとガラガラの時とは違って興味津々に手を伸ばしてきた

 

 

 

「うー!だーっ!」

 

「気に入った……のか?」

 

────そうみた……痛っ、そうみたいです……痛っ……カイナ、そんな雑に振り回すなら取り上げるぞ?

 

「やーや!」

 

 

 

デンシャオーのソフビを全力で振り回すカイナ、そのせいで俺の腕に何度か直撃している

 

 

「とりあえず1人の時には与えない方が良さそうだな……こうも雑だとすぐに壊しちゃいそうだし、好奇心で口に入れられたら大変な事になるからな」

 

────そうですね……はい、ソフビタイムしゅーりょー

 

「ぅあ!?やぁ!?」

 

 

 

乱暴に扱われているデンシャオーをカイナの手から救出して鞄の中に仕舞うと、カイナは怒りながら鞄に手を伸ばしてくる

 

泣き叫びはしないものの、それでも不貞腐れた様に手で鞄を叩いてくる

 

 

 

「しゃおー!しゃおー!」

 

────デンシャオーなら来週の日曜日までお休みでーす

 

「うぅー…!」

 

「とりあえずあやす時はその人形使って……ガラガラとかはどうする?」

 

────一応持ってた方がいいんじゃないですか?今度は特撮に飽きてガラガラに戻るかもしれませんし

 

「だな……まあ、ヒーローショーの効果はあったし今日は当初の目的は達成したって事で────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うえええええええっ!?酒泉が子供を育ててるうううううう!!?」

 

 

 

「……なあ、最近この展開多すぎないか?」

 

────……っすね

 

 

 

ゲヘナとトリニティで何度も経験してきた展開にうんざりしつつ銀鏡さんと2人で振り向いてみると、案の定背後に立っていた声の主が指を震わせながらこちらに突き出していた

聞き覚えのある声だったから何となく予想できていたが、まさか全員揃っているとは思ってなかった

 

 

「また酒泉の知り合いって事でいいんだよな?相手はちっちゃい子だしどうせそうに決まってるだろうけど」

 

────待ってください銀鏡さん、その言い方だと俺が小さい人ばかり狙って知り合ってるみたいな……

 

「……で?結局何者なの?」

 

 

 

俺の弁明を聞かず4人の小さな少女達に視線を向ける銀鏡さん、その前に聞いてください俺はロリコンじゃないんです信じてください

 

 

 

「そ、それはこっちの台詞だよ!貴女は誰なの!?どうして酒泉と一緒に子供を抱いてるのさ!?」

 

「ちょっとお姉ちゃん、いきなり初対面の人に喧嘩売らないでよ……」

 

「わぁ……とても小さいです……!」

 

「うぅ……ひ、人目が集まって……」

 

「こ、この……!」

 

 

 

周囲からの視線に怯える者、姉を制する者、小さな命に目を輝かせる者

 

その中でただ1人騒いでいる者────モモイさんは俺と銀鏡さんを交互に見つめてから再び叫んだ

 

 

 

「酒泉の変態ッ!!!」

 

 

 

俺はあと何回冤罪を掛けられればいい?ゼロは俺に何も言ってはくれない

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

 

 

 

 

「なーんだ、親戚の子だったんだ……それならそうと早く言ってよ!」

 

「酒泉が口を開く前にお姉ちゃんが勝手に叫んだんでしょ」

 

「ま、まあ……そういう言い方もあるよねー……」

 

 

目的地だったイタリア料理店で注文したピザを待っているとモモイさんが全く反省していない口調で話しかけてきた、ミドリさんが注意してくれなかったらその栗みてえな口を頬っぺたごと潰していたかもしれん

 

……さて、よく俺にゲームで挑んでは返り討ちにあってばかりのよわよわお姉ちゃんは置いといて……

 

 

 

 

────花岡さんはどうして紙袋を被ってるんだ?

 

「そ、その……実はこの辺りのゲームセンターでレトロ格ゲーの大会があって……優勝商品がその格ゲーの初代版のパッケージがプリントされたアケコンだったからそれが欲しくて……」

────ああ、それで珍しく外に……で?紙袋を被ってるのとどう繋がりが?

 

「ゆ、優勝できたのはいいんだけど……その……対戦中視線を集めちゃって……」

 

────注目されたって?……〝クイーン〟の方で出たのか?

 

「ううん、適当に作ったプレイヤーネームで出たけど……その、上手い人はプレイを見てるだけで自然と察してくるみたいで……」

 

「大会が終わった後、ユズの所に沢山人が集まっちゃったんだよね」

 

「それで逃げ出して紙袋で顔を隠したんだよねー」

 

 

 

そういう事情があったのか、俺はてっきりどっかの水着団のリーダーに憧れてしまったのかと……

 

 

「……それで?酒泉との関係はまだ聞いてないんだけど?」

 

 

銀鏡さんは肘をつきながら待ちくたびれたように溜め息を吐くと、ゲーム開発部の面々を順番に見ながら尋ねる

 

それを聞いたモモイさんはフフン!と何故か得意気にしながらも銀鏡さんの問いに答えた

 

 

 

「私?私は酒泉の友達だけど!」

「友達?まあ、酒泉の行動範囲を考えるとミレニアムに友達が居てもおかしくは……いや、でもミレニアムの知り合いなんてエンジニア部って人達が時々話題に出るくらいしか……」

 

「酒泉とは最近知り合ったばっかだからね!それでも2人でゲームの大会に出場するほど仲が良いけど!」

 

「どうしてドヤ顔してるのさ……」

 

「えっと……気にしないでください、お姉ちゃんマウント取ろうとしてるだけなので」

 

「ふーん……えっと、モモイって言ったっけ?私は銀鏡イオリ、酒泉が入学してからずっと一緒に仕事してる同僚だよ……よろしく」

 

「なっ!?」

 

 

 

今度は何故か銀鏡さんが得意気に微笑み、モモイさんがぐぬぬと悔しそうに唸る

 

何のマウントだよと思いながらも先程から一言も喋らない残り1人……いや、具体的には残り2人のゲーム開発部メンバーに視線を向ける

 

 

 

「わくわく……わくわく……」

 

「しゃおー!てんしゃおー!」

 

「ふ、触れました……!」

 

 

 

自身の感情を言葉で表しながら静かにカイナに手を近づける天童さん、指がカイナの頬に触れてもデンシャオーのソフビに夢中になっている故か全く気づく気配がない

 

 

「凄いです……アリスの人工タンパク質の皮膚とも他の皆さんの皮膚とも違った感触です!」

 

「アリスはすっかり赤ちゃんの方に夢中だね……」

 

「はい!アリス、初めて赤ちゃんに触れました!」

 

天童さんも錠前さんみたいな純粋に興味があったパターンなのか、表情を輝かせながらカイナに触れた指を優しく撫でている

 

愛おしそうに大切そうに、何度も何度もその感触を確かめるように

 

「赤ちゃんというのはこんなにも可愛らしい生き物なんですね!ステータスが魅力に極振りされてます!」

 

「う?……うぅ……」

 

────あー……悪い、天童さん。その子人見知りだからできればそっと接してあげてくれ

 

「あっ……ご、ごめんなさい……」

 

 

 

流石に近くで大声を出されると気づくのか、デンシャオーのソフビを振ってた手を止めて不安気な表情に変わるカイナ

 

それでも銀鏡さんがカイナを撫でながら〝よしよし〟と呟くと再び無邪気の笑顔に戻る

 

 

 

「……アリスも……アリスもあんな風に懐いてもらえないでしょうか……」

 

────銀鏡さんが懐かれてるのはお母さんだと勘違いされてるからって理由があるしな……すぐには無理だと思うぞ

 

「アリスもお母さんみたいにあやしたかったです……」

 

 

 

まあ、そもそも銀鏡さんがカイナにお母さんだと勘違いされてるのは色々と複雑な事情が絡み合ってるからだしな……天童さんには悪いけどそう簡単に他の人には懐かないだろうよ

 

 

 

「そうだ!アリス、良い方法を思いつきました!」

 

────良い方法?

 

「はい!酒泉!アリスをお母さんにしてください!」

 

────すいませんお会計お願いします

 

「えっ!?まだ注文された分が届いていませんよ!?」

 

 

 

咄嗟に近くに居た店員さんに声を掛けて会計を済ませようとする

 

何故かって?このまま店内に居ると周囲から冷たい眼差しを向けられそうだからだよ

 

 

「ねぇ……今の聞いた……?」

「あんな幼い子になんて事を……」

「おにロリキタコレ」

「しかも見た感じ既に妻子持ちじゃない……?」

 

 

 

ほら早速噂されてるぅ!!俺の人権がぁ!俺の人権そのものがぁ!

 

 

「ア、アリスちゃん!?何を言ってるの!?」

 

「やめなよアリス!キヴォトスだろうとキヴォトスの外だろうと今の発言はアウトなんだよ!?」

 

「え……えっと……アリスちゃんはどうして突然そんな考えに至ったの……?」

 

「アリスがお母さんになればきっとカイナも懐いてくれます!そうすれば先程以上に仲良くなれます!」

 

 

 

花岡さんに尋ねられてズレた考えを口にする天童さん、しかしそのキリッとした表情から冗談ではなく本気で言ってそうだ

 

他の面々も流石にその考え方は不味いと思ったのか、必死に説得しにかかる

 

 

 

「ア、アリス?お母さんっていうのはそう簡単になれるものじゃなくてね……?」

 

「そ、そうだぞ!そもそも今の母代わりは私だ!」

 

「……えっと……一応聞いておくけど……アリスちゃんはお母さんになる方法を知っててさっきの発言をしたの……?」

 

「はい!知ってます!」

 

 

 

マジか、知ってて言ったのか

 

恐らくミドリさんは天童さんがお母さんになる〝具体的な方法〟を知らずに喋ってると思って改めて聞いたのだろう……てか俺もそう思ってた

 

でも、その〝方法〟を知ってて尚頼んできたってことは……

 

 

 

「大好きな人同士で結婚すればお母さんになれるんですよね!」

 

────あ、そういう……

 

「な、なんだ……誤解か……」

 

「……?違うのですか?」

 

「いや、結果的に考えると間違ってなくもないけど……うん……」

 

 

 

どうやら天童さんは少し逸れた覚え方をしているらしい……が、今回はそれに助けられた

 

今の会話を聞いていた周囲の客達からの視線も自然と当たりが柔くなってきたような気がする

 

 

 

「間違ってるなら正しい知識を知りたいです!アリス、お母さんになるのを諦めきれません!」

 

「……ご、ごめんね?私はちょっと分からないかなー……」

 

「わ、私も……」

 

「た、多分この場の誰に聞いても分からないんじゃないかな?」

 

 

 

ナイスだ!ミドリさん!これで天童さんが誰かに質問する事はなくなった!

 

 

「分かりました!ではアリス、自分で調べます!」

 

 

 

ポケットからスマホを取り出して素早いタップで操作する天童さん……ちくしょう!その手があったか!

 

奴に検索ボタンを押させるな────ッ!

 

 

「確認しました!」

 

 

 

間に合わなかったか……!

 

 

 

「アリスが自分で検索した結果……」

 

「ま、待ってアリス!ここでそんな事を言ったら────」

 

「────子供を生めば母になれると書いてありました!」

 

「い、言っちゃった……!」

 

 

 

遅かった、何もかも手遅れだった

 

こういう勘違いが交差している状況ではいつも決まって俺に被害が押し寄せてくるんだ

 

そして今回も恐らく────

 

 

 

「なので酒泉!アリスに酒泉の子を生ませてください!」

 

────すいませんこの店って催眠装置とかあります?できれば店内の人間全員の記憶を消せるくらい強力なの

 

「も、申し訳ございません……流石にその様な超兵器は……」

 

 

うんある訳ないよね、店員さん無茶振りしてごめんね

 

周囲の人達からの視線がまた厳しくなったのを感じてなんかもう考えるのが面倒になってきたなダルい

 

 

 

「ネットには〝大好きな人と繋がれば子が出来る〟と書いてありました!それならアリスは酒泉と子供を作りたいです!」

 

────それな

 

「いいんですか!?」

 

「酒泉!?何認めてるの!?」

 

────それな

 

「酒泉がとりあえず同意してくる大学生みたいになっちゃった……」

 

「お姉ちゃんの例えが細かすぎる……」

 

 

 

なんかもう説得するのすら面倒になってきた

 

先週もトリニティで同じ勘違いされるし似た様な流れで詰められるしでもういい加減に疲れてきた

 

こうなったら俺が何も言わなくても誰かが天童さんを説得してくれる筈だし、これ以上体力を使う必要はないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【────なりません】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな考えは、背筋を凍てつかせる声によってかき消された

 

 

 

「な、なんだ?急にアリスの雰囲気が────うわっ!?目の色まで変わってる!?」

 

────ああ、そういえば銀鏡さんは会うの初めてでしたっけ……この人の名前はケイ、天童さんの中に住むもう1人の人物です

 

「……えっと……要するに二重人格……か?」

 

────まあ、大体は

 

【私の紹介などどうでも良いです……それよりも酒泉】

 

────ん?……うおっ!?

 

【王女の身を汚そうとするとはどういうつもりですか】

 

 

 

突如制服のネクタイを掴まれて引っ張り寄せられ、鼻先がくっつきそうになる程の距離で威圧される

 

一瞬だけその綺麗な顔にドキッとしてしまうが、状況が状況なだけにすぐに胸の高鳴りが収まって代わりに大量の冷や汗が流れてくる

 

 

 

【貴方は先程王女の頼みを受け入れましたね?】

 

────いや、あれは……その……なんか色々と疲れちゃってつい……俺が何も言わなくても誰かが天童さんを止めてくれるかなって……

 

【問答無用です、如何なる理由があっても貴方が王女の身体を汚そうとしたという事実は変わりません】

 

「ま、まあまあ……ケイだってアリスの中から状況確認してたでしょ?」

 

「ほら……今回はアリスちゃんの知見を深める良い機会になったって事で……ね?」

 

 

首を引っ込めようとすればするほどネクタイが締まり、ネクタイを外そうとすればその手をケイさんに掴まれる

 

そんなケイさんを落ち着かせようとモモイさん達も声を掛けてくれるが、ケイさんの瞳は一切ぶれることなく真っ直ぐに俺を射抜いている

 

 

 

【以前から貴方にはロリコン疑惑が出ていましたが……まさかこんな街中で露にするとは……】

 

────俺はロリコンじゃないしそもそも同年代だ

 

【失望しましたよ、酒泉。王女のことを性の捌け口としてしか見ていなかったなんて……】

────どうして俺の周りには話を聞かない人しかいないんだ

 

「酒泉も人の話を聞かずに無茶ばかりするからじゃないか?」

 

────半分は当たっている、耳が痛………本当に痛いっ!?

 

【私との会話の最中に他の者に耳を貸すなど……今後一切、その様な無礼な行動は取らないように】

 

────は、はい……すいませんでした……

 

【いいですか、話を戻しますよ……確かに貴方はロリコンで鈍感でクソボケですぐに人を誑し込む尻軽女ならぬ尻軽男ですが、そんな貴方でも王女が慕っている相手であるというのもまた事実】

 

「ゲヘナ以外でもその評価なんだ……」

 

【ですからここで1つ私から提案を……王女と身体を重ねるのは許可しましょう。ただし、人格は私のまま行為をしてもらいます】

 

────銀鏡さん、その〝ゲヘナ以外でも〟の部分が気になるので後で詳しく……話……を……?

 

 

 

 

今、ケイさんの口から衝撃的な言葉が飛び出してきた気がするけど……気のせいだよな?

 

 

 

────……えっと……ケイさん?もう一度言ってもらっても?

 

【何度も同じ事を言わせないでください……子を成す為に身体を重ねるのは許可しますが、人格は私のままで────嫌です!人格もアリスのままがいいです!」

 

「うわぁ!?目の色が戻った!?」

 

 

再び表面人格が天童さんに戻った事で銀鏡さんが驚愕するが、俺としてはさっきの発言の方が驚きだ

 

だってあの言い方だとエ駄死は許されるみたいな言い方じゃん……いや、絶対に手は出さないけど

 

 

「アリスは酒泉と子供を作りたいです!人格もアリスのままじゃないと駄目です!」

 

【くっ……お、王女!いけません!身体を許すのは百歩譲っても、心までその男に捧げるなど……!】

 

「ケイの言う事なんて知りません!アリスには関係ないです!」

 

【王女!私は王女の為に……犠牲になるのは私だけで十分です!王女に身を裂かれる痛みを味わわせる訳にはいきません!】

 

「目の色が……赤と青が高速で切り替わってる……」

 

「アリスちゃんもケイちゃんも落ち着いて……し、視線が……さっき以上に集まってるから……!」

 

 

 

同じ顔の少女が同じ肉体の中で言い争っている光景

 

しかし客からの視線は最早天童さんに向かうことはなく俺を捉え続ける

 

さて、今度はどこまでロリコンの名が轟くかな?はははははっ!………はぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……い、今の内に……カイナ!カイナ!」

 

「だーぅ?」

 

「わ、私のこと〝ママ〟って呼んでくれない?それか〝お母さん〟とか────」

 

「……お姉ちゃん?何してるの?」

 

「────っ!?べ、べっつにー?なんでもー?」

 

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