〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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パパになった酒泉とママになったイオリ─最後─

 

 

 

「だぁ!やぁ!」

 

「テレビを蹴らないようになー」

 

 

 

日曜、7:28

 

テレビの前で何かを期待しながら待機しているカイナを抱きながら銀鏡さんが呟く

 

カイナの手にはデンシャオーのソフビが握られており、目の前のテレビの画面には特撮番組のオープニングが流れている

 

因みに現在放送中の番組にデンシャオーは登場しないのだが、カイナ的にはヒーローが出てきたらそれでいいらしい

 

 

 

「……お?ちょっとだけオープニング映像変わったか?」

 

────ん?……ホントだ、先週主人公の強化形態が登場したからその分も追加されたんでしょうね

 

「ふーん、そういうのもあるのか……」

 

 

 

特撮好きあるある・前の週で新形態や新敵が登場すると次の週からオープニングの変更点を探し始めてしまう

 

男の子はパワーアップが大好きだからね、しょうがないね

 

 

 

「しかしまあ……出会った当初は人見知りが激しかったから結構大人しい子かと思ってたけど、まさか本当はこんなに元気な子だったなんてな……」

 

────未だに他の人には慣れてない部分もありますけど、結構早い段階で改善の兆しが見えてきましたし俺達の元を去った後も心配無さそうですね

 

「そう……だな……ねえ、酒泉」

 

────はい?なんです?

 

「今日で最後なんだよね」

 

 

 

躊躇なく流れをぶっ切る一言が銀鏡さんの口から飛び出してくる、ここで何の事かと聞き返すほど寝ぼけてはいない

 

銀鏡さんが言ってるのは……カイナと過ごせる時間の事だろう。残された時間は今日だけ、明日の放課後にはカイナを連れて初めてカイナと出会ったあの廃工場で側近さんと落ち合う予定だ

 

その為に空崎さんには連絡を入れておいたし休暇も貰った……俺としてはカイナを帰したらそのまま風紀委員としての仕事を始める予定だったけど、空崎さん曰く〝心を整理する時間も必要だろうから〟との事だ

 

……本当に何から何までって感じだな

 

 

 

「へしん!へしん!」

 

「変身って言おうとしてるのか?……相変わらずの成長スピードだな」

 

────うーむ、やはり天才……このまま色んな言葉を覚えようとするところを見守ってあげたかったけど……

 

「……それはもう私達の役目じゃないしな」

 

 

 

俺達の出番はもう無いだろう

 

これからカイナは本当の父親の言葉を聞いて、背中を見て、愛情を受けて、それで成長していくんだ

 

……でも、完全に忘れ去られるのも寂しいし一緒にヒーローショーを見にいった事ぐらいは……ほんの少しだけでもいいからうっすらと覚えていてほしかったり?

 

 

 

「……それで?今日はどうするの?カイナと触れ合える最後の日だけど……」

 

────……このまま家でのんびり……ってのは?

 

「……賛成、私もそれ言おうと思ってたよ」

 

 

思い出を作りに行くのも悪くないけど、最後はカイナが慣れ親しんだこの家でのんびり過ごす事にした

 

銀鏡さんも最初からそのつもりだったのかカイナを抱きしめながら微笑んだ……かと思いきやギョッとした表情で目を見開いた

 

 

 

「うあああっ!あうああああ!」

 

「カ、カイナ!?どうして泣いてるんだ!?」

 

「まぁま!まぁま!」

 

 

 

突如カイナが大声で泣き出し、その手を振ってテレビの画面をペチペチと叩く

 

すると、先程まで画面に映っていた特撮作品に登場する2号ヒーローがボロボロの状態で倒れていた。恐らく大好きなヒーローが敵に負けたから泣いているのだろう

 

2号ヒーローに勝利した敵が高笑いをし、笑い声が響く度にカイナの泣き声が共鳴する様に大きくなる

 

 

「え……ええっ!?もう負けてる!?いつの間に!?」

 

────銀鏡さんがカイナに優しく微笑んでいる間に敵幹部に一撃でやられてましたよ、強化形態で

 

「早っ!?てかパワーアップしたのに負けたの!?」

 

────1号以外の強化形態なんて大体そんなもんですよ

 

 

 

悲しいことに近年の特撮ではよくある話だ、主人公以外のヒーローがパワーアップしても次の話でいきなり床ペロするなんてざらにあるからな……なんなら主人公の最強形態すらすぐに負ける場合もある

 

まあ、一番悲惨なのは2号の強化形態が完全に雑魚狩り用になった時だけどな

 

TV本編の終盤や劇場版での活躍が雑魚戦闘員を倒すシーンしかなかった場合、それだけで〝なんか活躍しょっぱくね?〟って言われるようになってしまう

 

 

「……うぁ……だぅ……」

 

「だ、大丈夫だよ!きっとこの後逆転するはずだからさ!」

 

 

 

カイナを励ます為に〝ねっ!酒泉!〟と同意を求めてくる銀鏡さんだが残念ながらその可能性は低い

 

こういうパターンの場合は主人公もその仲間も全員敵にボコられた後、なんやかんやあって最後に登場した主人公の新フォームでたった1人で逆転するパターンが大半なのだから

 

という訳でカイナが応援していた2号ヒーローがリベンジする機会はもう訪れないだろう……再生怪人として登場しない限りは

 

 

 

「うぅ~……」

 

────カイナ、特撮が好きならこの試練を乗り越えるんだ……推しの不遇期間に耐え続けるというこの試練を……!

 

「……あぃ」

 

「余計に落ち込ませてどうするのさ……もう……」

 

 

 

しわくちゃになった電気鼠みたいな表情で落ち込むカイナを撫でながら銀鏡さんが俺をジト目で睨んでくる、恐らく〝ちゃんと慰めろ〟とでも言いたいのだろう

 

しかしこれは特撮を愛する者なら誰もが避けては通れぬ試練なのだ……今の内にこの悔しさを味わっておくのだ……

 

俺の推し達なんてクリスマスの日に真実と共に闇に追放されたりクイズ王の手によって姉を怪物に変えられて闇堕ちしたり融合した人工知能と殴りあってゴートゥーユートピアしたり10周年記念作品で殺されたりしたのだから、推しの不幸に耐えるメンタルを持たなければ推し活はできない

 

……まあ、俺は推しの不幸に耐えられるメンタルを持ち合わせていなかったから原作介入してしまったんですけどねぇ!

 

 

「うぅ……はふぅ……」

 

「……あっ」

 

────ん?どうかしました?

 

「……カイナ、おねしょしちゃった」

 

 

 

しょわぁ、と微かに聞こえてくる音

 

どうやらメンタルと連動して膀胱も耐えられなかったらしい、これがレモンエナジーかぁ……

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

 

 

 

 

 

「ほーら、こっちだぞー」

 

「ぅ?……だうー」

 

「うーん……やっぱり駄目かー……」

 

 

 

特撮系のオモチャ……ではなく、星のマークのガラガラでカイナを釣ろうとする銀鏡さん

 

しかしそのガラガラは買ってから時間がそう経たない内にカイナが飽きてしまったやつだ……それを何故今更?

 

 

 

「いや、なんか懐かしくてさ……時間的には1ヶ月くらいしか経ってないけど」

 

 

 

そう言いながらガラガラを振るも、カイナは一切反応を示さずにヒーローのぬいぐるみを叩いて遊んでいる

 

 

 

「折角買ったのに途中から使わなくなったよなぁ……」

 

────ベビーカーとか哺乳瓶は全部最初に買ったやつをそのまま使えてるんですけどね

 

「……うん、本当に色々買ったよね」

 

 

 

母親の様な暖かい眼差しで部屋の隅を見つめる銀鏡さん、そこにはカイナを育てる為に俺と銀鏡さんが2人で買ってきた子育てグッズが置かれていた

 

先程述べたベビーカーに俺が買ってきた子育て本、オムツの替えにふかふかのおくるみ等、この日まで何度もお世話になってきた沢山の……グッズが……

 

 

 

「最初に買いに行った時は便利屋に絡まれたりしたよね」

 

────ああ、なんか銀鏡さんが生んだ子みたいに思われてましたね……

 

「……そういえばあの時、鬼方カヨコがやけに酒泉に突っかかってたよね」

 

────単純に驚いてただけでしょ

 

「……それだけならいいけどね」

 

 

 

あの時は本当に大変だった、陸八魔さんが目を白くさせながら大声でパニクったせいで他のお客さんから注目を集めたりそのせいで店内に居たゲヘナ生達に噂されたりと散々な目に遭った

 

そのせいで未だに学園内で〝風紀を乱した風紀委員夫婦〟とかコソコソ言ってくる奴が何人かいる、絶対に許さんぞ陸八魔アル

 

 

「でも、他の地区で会った人達も皆便利屋みたいな反応してたよね……例えばトリニティの人達とかも」

 

────まあ、制服着た学生同士が赤ちゃん抱いてたらそりゃ目立ちますよね……しかもゲヘナ生がトリニティで、ですからね

 

「あの時も色んな人に絡まれてたよね……全員女の子だったし」

 

 

 

最後の言葉に関しては特に関係ないと思うが、銀鏡さんはその部分だけやけに強調してきた

 

キヴォトスで暮らす〝人間〟の男女比率を考えると特に珍しい事でもないのでそんな気にする必要はないと思うが……何故か尻尾が不機嫌そうに項垂れているので余計なことは言わんようにしよう

 

 

「酒泉に告白してた子とか元ティーパーティーの人とか……アリウススクワッドのリーダーとも話してたし、この1ヶ月だけで酒泉の交友関係の広さを思い知らされたよ」

 

────ミレニアムの人達にも会いましたからね……

 

「……言っとくけど、酒泉はゲヘナ学園の生徒なんだからな!」

 

「だぁ!」

 

 

 

当たり前の事を叫ばれて一瞬だけ困惑したがこれはゲヘナの風紀委員としての自覚を持てという意味なのだろうか、他校に現を抜かさずにゲヘナを優先しろ……的な?

 

そんな事言われなくても俺はゲヘナ以外の学園に行くつもりはないし、ゲヘナ以外に通ってる自分の姿も想像できな……あ、でもミレニアムはちょっと気になってるかも

 

だって、ほら……ミレニアムの技術力があればカッチョイイロボットとか作れそうじゃない?

 

……アバンギャルド君?あれは……まあ……とてもユニークなデザインと名前だと思います、はい

 

 

 

「……へ、返事は?」

 

────ん?ああ……分かってますよ、まだ卒業もしてないのにゲヘナを離れるつもりはありませんよ

 

「…………卒業したら離れるのか?」

 

────いや、特にその予定も……おや?もしかして寂しがってたりします?

 

「ち、違う!ただの好奇心だから!」

 

 

 

ちょっとからかい混じりに聞いてみたら想像通りの反応が返ってきた、やっぱり銀鏡さんはツンデレ要素が強い気がする……いや、別にそこまでツンツンしてる訳じゃないけどさ

 

……ちょっとのツン要素に加えて褐色、銀髪、ツインテ、エルフ耳、尻尾付き、ドジっ子、不憫、更に今だけ限定で学生お母さん……か

 

 

 

────……銀鏡さん、ちょっと属性盛りすぎでは?

 

「ぞ、属性?何の話?」

 

「う?」

 

 

 

個人的には同僚感が強かったから今まであんま意識したこと無かったけど、こうして改めて考えてみると……銀鏡さんって魅力的な要素が多いな

 

この短期間の共同生活でそれを知ったというか、元々知ってたけど再認識したというか……特に銀鏡さんが泊まった日なんてめっちゃドキドキ────やめておこう、信頼して泊まってくれた人に邪な思いをぶつけるもんじゃない

 

 

 

────……そ、そろそろお昼ですし何か食べません!?

 

「……なんか……露骨に話を逸らされた気が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

 

 

 

「お?今日はオムライスか?」

 

「おむ?」

 

────ええ、チーズ入りのね

 

「へぇ……思ったけど、酒泉って結構料理得意なの?」

 

────人並みですよ、人並み

 

 

 

独り暮らしだから勝手に手慣れてくるだけであって、もし〝プロ並みの料理を作れ〟って言われてもそのリクエストには応えられない……それぐらいの腕だろうという自覚は持っている

 

まあ、焼き加減とかはご自慢の目を使ってかなり精密に目視できるけどな。それだけはそこらのプロにも負けない自信がある

 

 

 

「……くぅ?」

 

「ありゃ?」

 

少し離れた場所で料理を見つめていたカイナのお腹からくぅーっと可愛らしい音が聞こえる、カイナもそろそろご飯の時間か

 

冷蔵庫の中から人参ペーストとカボチャペーストが乗ったお皿を取り出し、それを熱くなりすぎないように電子レンジで軽く暖める

 

人参がメイン、カボチャが食後のデザートだ……まさか学生の内から離乳食を作ることになるとは思わなかったな

 

……なんか前にも似たようなこと考えてたな、学生の内からどうのこうのって

 

まあ、別に嫌な気分はしないしなんならカイナのお陰で我が家も賑やかになったからな。それに、この子育て経験だって将来どこかで役立つかもしれないし……いや、どこかでって何だよ

 

子育てスキルが役立つ機会なんてそんなの俺が誰かと結婚して奥さんが子供を生んだ時か、俺がベビーシッターか幼稚園の先生になった時とか限定されてるだろ

 

 

 

「酒泉?もう持っていっていいか?」

 

────……あ、どうぞ

 

 

 

そんな事を考えていると暖め終わっていたお皿を銀鏡さんが電子レンジから取り出していた

 

カイナもいつの間にかソファの上に移動させられており、そこから目を輝かせながらキッチンを見つめていた……飯の匂いを嗅ぎ付けたか、愛らしい食いしん坊め

 

 

 

「ほら、ぱぁぱが作ってくれたご飯だぞー」

 

「あー」

 

「こらこら、もうちょっとふーふーするから待っててなー」

 

 

 

口を開いてまだかまだかと待つカイナだが、銀鏡さんは念には念をとあまり熱く温めすぎてはいない人参ペーストを更にふーふーして冷ます

 

そうして適温になった人参ペーストをゆっくりとカイナに食べさせた瞬間、カイナの表情がだらしなくほにゃりと溶ける

 

 

 

「まー……」

 

「おお……本当に美味しそうに食べるな、カイナは……」

 

────こりゃ感情豊かな子に育つかもしれませんね……あ、オムライス出来たんでカイナの食事が終わったら俺達も食べましょう

 

「うん、分かっ……あ、やっぱり先に食べてていいよ、もうちょっと時間掛かりそうだし」

 

赤ちゃんは俺達みたいな身体が成熟した子供とは違う、何をするにしても当然時間が掛かる……勿論、食事も

 

けど銀鏡さん1人にカイナのお世話を任せるのは申し訳ないし、銀鏡さんにはできればオムライスの中のチーズがとろとろの内に召し上がって頂きたい

 

という訳で、オムライスが乗ったお皿とスプーンを持ってソファへ向かう

 

 

 

 

────銀鏡さん

 

「うん?何?」

 

────あーん

 

「……え?」

 

それは公園でサンドイッチを食べさせてもらった時と同じ行動、つまり〝あーん〟である

 

片方の手が空いていないならこうすればいいって銀鏡さん自身が行動して教えてくれたんだからなぁ?

 

 

 

「えっと……そ、その……本気?」

 

────銀鏡さんだって昨日同じ様なこと俺に対してやったでしょ?まさか恥ずかしいとは言いませんよね?

 

「……昨日、無理やり押し切ったの怒ってる?」

 

────むしろ感謝してますよ、だからこそ……ねえ?

 

 

 

笑顔のままオムライスを掬ったスプーンを口元に近づければ、銀鏡さんは頬を染めながら視線をうろちょろさせる

 

ふっふっふっ……昨日、俺がどれほど恥ずかしい思いをしたのかその身を持って知るがいい……!

 

 

「じゃ、じゃあ……い、いただき……ます……」

 

しかし此方の予想とは裏腹に思っていたよりアッサリと受け入れられてしまった

 

銀鏡さんはぽかんとする俺に構わずモグモグと数回オムライスを咀嚼してから飲み込み、どこか照れくさそうに呟いた

 

 

 

「その……美味しいよ……」

 

────そ……そっすか……

 

「……うん」

 

 

1つ、気づいたことがある

 

これ、あーんする側の方が恥ずかしいのかもしれない……

 

 

「あー!あーん!」

 

 

互いに気まずい雰囲気を感じながら黙りこくっているとカイナがオムライスに手を伸ばして口をパクパクさせていた

 

でもカイナにチーズ入りオムライスは流石にまだちょっと重たい気がするので……離乳食を卒業してから食べさせて────ああいや、その時はもう俺はいないのか

 

仕方ないからここは我慢してもらうか……

 

 

 

「ぶぅー……!」

 

「ほら、カイナはこっち食べような」

 

「あみゃぁ……」

 

 

 

不機嫌そうな顔をしたかと思えば人参ペーストを口に含んだ瞬間にご機嫌になった、かわいい

 

 

 

「……そ、それで?酒泉はいつ次のオムライスを食べさせてくれるの?」

 

────えっ

 

「見ての通り私はカイナの食事の世話で忙しいからさ……だ、だから……ね?」

 

 

 

ちらちらと此方の顔色を窺いながら口を小さく開ける銀鏡さん……俺はこの人のからかい耐性を舐めていたのかもしれない

 

結局、カイナの食事が終わるまで気まずい思いをしながらあーんを続けることになったとさ

 

めでたしめでたし……めでたい?めでたいのか?美少女へのあーんが役得的な意味ならめでたいけど……結果的に俺も恥ずかしい思いをしたしプラマイゼロくらいだろう

 

……いや、でもプラスの方が勝っているか

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

……と、まあ……そんな事もあったが今日は特に何事もなく時間が進んでいった

 

一緒に特撮を見て、一緒に遊んで、一緒にご飯を食べて、その後は適当にダラダラして

 

代わり映えのしない日常をいつも通り過ごしている内に外は暗くなっていき、夕御飯も2人と一緒に食べてテレビでも見ながらまたダラダラと……そんな風に気を抜いていた俺に銀鏡さんが一言

 

 

『ねえ、今日も泊まっていい?』

 

『いいっすよ』

 

 

 

以前にも同じ様な会話はあったけど今回はその時と違って取り乱すことはなかった

 

男女同じ屋根の下という状況のせいで胸の高鳴りは相変わらずだったけど、それでも以前よりも落ち着いていられたのは……やはり……俺も銀鏡さんも思いは同じだからだろう

 

最後、今日で最後だ……カイナと一緒に寝られるのは

 

だから俺は銀鏡さんの泊めてほしいというお願いを断らなかったし返事だってアッサリと返すことができた

 

 

 

「うー?ぱぁぱ?」

 

 

 

深く考え込む俺の顔を心配そうに覗き込むカイナ、その頭を撫でながら微笑みかければカイナは心地好さそうに目を細める

 

心配するなと伝えるように作り笑いを浮かべ続けていると風呂場の方からぴちょぴちょと水滴の音が聞こえてきた、恐らく銀鏡さんがシャワーを浴び終えたのだろう

 

銀鏡さんが風呂から出たら次は俺の番、そして俺も風呂から出たら歯磨きや着替えの用意など明日に備えての準備をして、そして最後に…………就寝の時間だ

 

カイナと会話できる時間も残り僅か、今日でこの関係も終わりだ

 

 

 

 

────なあ、カイナ……俺が父代わりで幸せだったか?

 

「……?」

 

 

 

何となく呟いてしまった言葉に対して首を傾げるカイナ、まだ複雑な言葉の意味なんて分からないだろうしその反応も当然か

 

しかし返事が来ないとは分かっていても己の口から勝手に言葉が出てきてしまう

 

 

 

────カイナ、お前は明日には本当の父親の元に帰ることになるけど……俺が見てない所でも元気に育つんだぞ

 

「あい?」

 

 

 

裏社会の人間はそう簡単に表に姿を現さない、生きてきた痕跡を消して雲隠れなんて事もあり得る……だから、カイナとも一生再会できないかもしれない

 

それでも本当の父親が存在する以上は帰さない訳にはいかない、だって子には親が必要なのだから

 

 

 

────物は大切に扱えよ、デンシャオーのソフビみたいに雑に振り回しちゃ駄目だからな

 

────人見知りは大分改善されたしあまり心配はしてないけど……まあ、友達作りも頑張れよ

 

────ミルクもあまりねだりすぎないようにな、その小さな身体で飲み過ぎるとゲーしちゃうからな

「だぶー?うぅー…………あいっ!」

 

 

 

今の言葉も当然全て理解できていないのだろう、だというのにカイナは少し唸り声の様なものをあげた後に元気よく返事をしてくれた

 

その幼い姿に心を打たれ、カイナを抱きしめる腕に力を込める

 

苦しめないように優しく、それでいて愛情を伝えられるようにしっかりと、カイナの体温を感じながら────

 

 

 

 

「……酒泉、上がったよ」

 

────了解っす

 

 

 

 

 

ああ、これで本当に最後なんだな

 

そんな事を考えながらカイナを風呂上がりの銀鏡さんに預け、そのまま振り向かずに風呂場へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱ狭いね」

 

────まあ、3人分は流石に……しかもベッドインベッドもありますし

 

「うゆぅ……」

 

 

 

うつらうつらと目を開け閉じしているカイナをベッドの両端から見守りながら互いに言葉を交わす

 

俺も銀鏡さんもあの日着ていた寝間着と同じ姿、どうやら銀鏡さんは最初から俺の寝間着を借りるつもりだったらしい

 

 

「いっそ最初からダブルベッドでも買えば良かったかもね」

 

────それだとカイナが帰った後の寂しさが余計に強くなりそうですけどね……

 

「……それもそっか」

 

 

 

カイナの眠りを妨げないように小声で会話を続けていると、銀鏡さんは突然〝あっ〟と一言溢してから自身の口を塞いだ

 

 

 

「その……ダブルベッド云々の下りはそういうつもりで言ったわけじゃないから……」

 

────ん?〝狭かったからダブルにすれば良かったねー〟ってことでしょ?分かってますよ?……いてっ

 

「……ばか」

 

 

尻尾の先っちょで一瞬だけ腰を突かれ、チクッとした軽い痛みを感じた

 

突然の奇襲にネチネチと小声で文句でも言ってやろうかとも思ったけど間に挟んでいるカイナが眠れなくなる可能性も考えてやめておいた

 

 

「酒泉の周りの子達は大変だな……こんなクソボケを相手にしないといけないなんて」

 

────た、大変?何が?

 

「別に……ほら、もう寝るよ」

 

 

 

気になったことを尋ねてみても銀鏡さんは答えてくれず、それどころか毛布をガバッ!と被って背を向けてしまった……かと思えばすぐに正面を向き直してカイナの左手を握った、これがカイナと寝られる最後の機会だからだろうか

 

此方もカイナ用の小さなベッドに腕を潜らせてちっちゃな右手を握る、するとカイナはふへっと楽しそうな声を溢した

 

 

 

「……楽しかったね」

 

────……ですね

 

「私、カイナのお陰で色んな事が学べた気がするよ。母親としての在り方とか子供の育て方とか……それ以外にも子供が成長するところをこの目で見る事ができた喜びとか」

 

────俺もです……他には世の父母の苦労を知ることができたりと色々ありましたね

 

「……カイナの人見知りが改善されたのを知った時は感動したなぁ」

 

────一緒にヒーローの応援ができて楽しかったなぁ

 

「公園で一緒に遊んだのも楽しかったよね」

 

────……はい

 

「………」

 

 

 

互いに思い出を語り合っていると突如沈黙が訪れる

 

それは寂しさに堪えられなくなったからか、それとも他にも色々と思い出しているからなのか……そうして待っていると銀鏡さんは身体を横にして俺の顔を見つめてきた

 

 

「ねえ、酒泉。私さ……初めての子育ての相手が酒泉で良かったよ」

 

────……っ、はい?

 

「だってカイナとこんなに沢山楽しい思い出を作ることができたのは、きっと……酒泉みたいな優しい人が相手だったから」

 

────あ、ああ……そういう意味ですか……びっくりしたぁ……

 

「酒泉は?」

 

────……え?

 

「酒泉は……初めての相手が私でよかった?」

 

 

 

そう問われ、この日までの銀鏡さんとの間に起きた出来事を改めて思い浮かべる

 

2人で任務に向かい、そこでカイナと出会った

 

カイナを預かる決意をした俺に銀鏡さんは協力すると言ってくれた

 

何が必要なのか一緒にカイナを育てる為の道具を買いに行ったりした

 

必要な知識を身に付ける為に育児教室にも通った

 

特撮知識が全くないにも関わらず、カイナの為にヒーローショーに付き合ってくれた

 

調月さんの前で堂々と俺の隣に立つと宣言してくれた

 

一緒に寝たり、一緒に食事したり、ピクニックにも行ったりとこの短期間で多くの思い出が出来た。それらは全て銀鏡さんがカイナのことを愛してくれたからこそ生まれたものだろう

 

だとすれば俺の答えは決まっている

 

 

 

 

 

────はい、俺の隣に立ってくれたのが銀鏡さんでよかったです

 

「……そっか」

 

 

 

 

 

 

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