〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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if世界~トリニティルート~その3

 

 

 

 

「さて、これで今後の流れはある程度決まったわけだが………君は本当にこれでいいのかい?」

 

はい……というよりも、俺からしたら百合園さんの方が心配なんですけどね

 

「私が?」

 

百合園さんの暗殺に失敗したって情報が流れたら、また百合園さんが狙われるんじゃないかって……

 

「なに、心配することはない。一度失敗したからってそう簡単に再挑戦できるはずがない、それはむしろ我々に暗殺者を捕らえられて情報を抜き取られる危険性に繋がるからね」

 

それならいいんですけど……

 

「さっきも説明した通り、君は暫くの間表立って動けなくなる。君と親しい者達の心に傷を与えたまま姿を消すのは君にとっても辛いはずだ」

 

……まあ、正直に言うとめちゃくちゃ辛いですけど……でも必要なことなんで

 

それに〝極一部〟の人達には伝えるんで、きっとその人達が組織の統制をしてくれたら何とかなりますよ

 

「……今からでも君の役目を私が引き受けることもできるが────」

 

あ、それは無しで、百合園さんが死んだと思われたら本格的に聖園さんが止まらなくなるんで

 

「………それは君が死んだ場合でも同じだと思うんだが」

 

人質としてしか見ていない男が死んだところで「駒が一つ減った」ぐらいにしか思わないでしょ、あの人は

 

「君はもう少し自分に向けられている感情の重さを自覚した方がいい………まあ、この先の未来のことは君の方が詳しいし君の判断に任せるが……」

 

とりあえず話は終わりましたんでそろそろ帰りますね

 

「おや?何か予定でもあるのかい?」

 

はい、この後古関さんの所に行かないといけないんで……

 

「………そうか」

 

じゃあ、この辺で………

 

「……少しだけ待ってくれないかい?」

 

はい?なんです─────

 

 

 

 

「えいっ」

 

 

 

 

 

─────か?

 

…………!?!!?ゆ、ゆゆ百合園ささん!?な、何してっ!?

 

「何って……こうして君に抱きついてるだけだろう?」

 

そ、それは知ってますよ!?だから何で……!

 

「暫く会えなくなるのだからこれぐらいは良いだろう?」

 

いや、その〝これぐらい〟が俺にとっては山よりも大きいと言いますか……!

 

「………心細いんだ」

 

………え?

 

「未来に縛られていた私を解放してくれた君に会えなくなるのが………もっと分かりやすく言おうか?寂しいんだ、だから暫くこのままでいさせてくれ」

 

……ま、まあ、百合園さんがそうしたいなら……

 

「……君は温かいな」

 

そ、そうですかね?

 

「もう少し強くしてもいいかい?」

 

ど、どうぞ……

 

「んっ………酒泉、君も同じ様にしてくれないかい?」

 

え、ええ……?

 

「……嫌かい?」

 

………ええい!ままよ!

 

「ふふっ、感謝するよ………ありがとう」

 

………

 

「………もう少し強く」

 

………はい

 

 

 

 

──────────

 

 

「……もう少しだけいいかい?」

 

 

──────────

 

 

「あとちょっとだけ………」

 

 

──────────

 

 

「本当にこれで最後だから………」

 

 

──────────

 

 

「………もっと」

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

無駄に豪華で無駄に長い廊下をゆっくり歩く

 

別に全力で走ってもいいんだけど、もしナギちゃんやセイアちゃんにバレたらお小言言われちゃうし……

 

多分セイアちゃんに関してはバカにした様な笑いもセットで付いてくるだろう

 

……まあ、そんなセイアちゃんにはほんのちょっとだけ怖がってもらうんだけどね

 

「さて、と……そろそろかな」

 

サオリの話だと明々後日辺りにでも計画を実行するみたいだけど……

 

「……その前にちょっとだけセイアちゃんと話しておこっかな」

 

ナギちゃんから聞いた話だと、とっくに使われなくなった旧会議室に向かったらしいけど………

 

 

 

「……ね、……てし……」

……に……気に……よ

 

 

「……ん?」

 

 

廊下の奥……曲がり角の先から声が聞こえてくる

 

この声は酒泉君と……セイアちゃん?

 

 

「しかし君の反応はとても面白かったな……女性を抱きしめたのはあれが初めてかい?」

当たり前じゃないですか……あんなの百合園さんが初めてですよ……

 

 

 

「………え?」

 

 

 

「私が初めて………ふふっ、そうか………ふふふ……」

 

何すかその笑いは………一度も女性を抱きしめたことのない非モテ野郎とでも言いたいんですか

 

「いや、なに………君はそのままでいてくれよ?」

 

二度と女性に触れるなと!?

 

 

 

 

 

 

「…………ふーん?面白そうなお話してるね?」

 

……聖園さん

 

「おや………どうしたんだい、ミカ?」

 

 

 

楽しそうに会話している二人に話しかけると、セイアちゃんはいつも通りに、酒泉君は何故か複雑そうな顔で返事をする

 

………さっきまでセイアちゃんに色んな表情見せてたくせに

 

 

「べっつにー?偶然通りかかったから挨拶しただけだよ?」

 

そうですか、じゃあ俺は用事があるんでこれで

 

「あれー?セイアちゃんとは仲良くお話してたのに私とは話してくれないんだー?」

 

「まあ待ちたまえ、彼にも彼の予定があるんだ」

 

「………そういえばセイアちゃん、さっき抱きしめられたとか言ってなかった?もしかしてセイアちゃんと酒泉君ってそういう関係なの?」

 

いや、別に────

 

「さて、どうだろうね?」

 

────百合園さんっ!?

 

「………へぇ?でも酒泉君とセイアちゃんじゃ、立場的にも釣り合わないんじゃないかな?それにほら、セイアちゃんってよく小難しい話するけど酒泉君の単純な頭じゃ理解できないんじゃない?」

 

「そんな事はないさ、酒泉は私の〝理解者〟だからね。同じ痛みと同じ苦しみを共有できる唯一の存在さ」

 

「それ前も言ってたよね、セイアちゃんの予知夢に映らなかったからってそんな気に掛ける必要ある?」

 

「別にそれだけが理由ではないさ、共に過ごしていくうちに心が惹かれていってもおかしくはないだろう?」

 

「ふーん?でもそれってセイアちゃんが一方的に抱いているだけの感情だよね?自分より目上の人にそんな思いをぶつけられるなんて酒泉君も困っちゃうんじゃないかな?」

 

「どうかな?酒泉は優しく私のことを抱きしめ返してくれたよ?」

 

「………嫌々だった可能性だってあるよね?ねえ、酒泉く─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?酒泉君?」

 

「おや、私達が口論している間に行ってしまったみたいだね」

 

「………わざとでしょセイアちゃん」

 

「さあ?」

 

「でも全部本心だったよね」

 

「……………さあ?」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「しょ、消臭……っです!」

 

ちょっ!?や、やめ……スプレーかけないで!?

 

「お、大人しくしててください……!」

 

 

約束通り古書館に来たら何故か古関さんに消臭スプレーをかけられた、解せぬ

 

え?俺そんなに臭い?毎日風呂入ってるし毎日体洗ってるけど?

 

 

「しゅ、酒泉さん、一体どこに何しに行ったんですか……何ですかこの不愉快な臭いは……!」

 

そ、そんな……そこまで言わなくても……

 

「は、腹が立つと言いますか……何かモヤモヤすると言いますか……うぅ~!」

 

おわっぷっ!?

 

 

とうとう原液を直でかけようとボトルのキャップを外す古関さん

 

………これでも本には絶対にかからないようにしてるんだから大したものだ

 

 

「と、とにかく……すぐにその臭いを消すのでじっとしててください……っ!」

 

ま、待ってくださいよ!具体的にどんな臭いなのか教えてくださいよ!今後の改善の為にも!

 

「そ、それは………よく分かりません………」

 

えっ

 

「……あ、あれ?冷静に嗅いでみたら別に臭ってはこないですね……」

 

えっ

 

「な、何で私はこんなことしてるんでしょうか……」

 

えっ

 

「た、確かにあの時、何か凄く嫌な感じがしたのですが……」

 

………とりあえず上着脱いでいいですか?アルコール臭いんで

 

「うえ?………あ、あわわわわ……ごごごごめんなさい!」

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

おお……凄い、トリニティの歴史がたっぷり詰まってる……!

 

「で、できるだけ古いのから選びましたので……」

 

こんなに用意してもらえるなんて……ありがとうございます、古関さん!

 

「い、いえ……お役に立てて良かったです……」

 

 

 

古関さんは照れているのか本で顔を隠している……まあ、赤く染まってる頬がはみ出てるけど

 

でもこれだけあれば手掛かりの一つくらいは見つかるかもしれない

 

表立って堂々と行動できるうちにアリウスと接触できそうな場所を見つけておきたい

 

 

 

「あ……あの、酒泉さんが探してるのってアリウス関連のこと……ですよね?」

 

……え?何で分かるんですか?

 

「しゅ、酒泉さんが昨日読んでいた本には大体トリニティの歴史が記されていたんですけど……その中でも酒泉さんが集中して読んでいた本全てにアリウスのことが載っていたので……」

 

俺ってそんなに集中してました?

 

「は、はい………その、また集めておきましょうか?今度はアリウスについて書いてある本に限定して」

 

んー……いや、遠慮しておきます、暫く来れなくなりそうですし

 

「……え?そ、それってどういう意味ですか!?」

 

いや、プライベートな用事でちょっと遠くに出かけるっていうか………暫く戻れないんですよね

 

「あ、そういう意味でしたか………よかった」

 

よかった?

 

「へぇあ!?な、何でもないですっ………ではこれでっ!」

 

 

そう言うと慌てて離れていく古関さん

 

………あ、転んだ

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

古関さんに別れの挨拶をしてから古書館を出た俺はのんびりと帰路を歩いていた

 

それにしてももうこんなに暗くなったのか、集中しすぎたな……

 

辺りを見渡しても下校中の生徒もほとんどいな───

 

 

 

 

「お、遅い!どれだけ待たせるのよ!」

 

 

 

 

───え?下江さん?

 

 

「こんなに遅くまで調べ物なんて……ほ、本当に変なことしてないでしょうね!?」

 

 

なんて顔を赤くしながら怒ってる下江さん

 

……何でこんな所に?

 

 

「さ、さっきの手当て、まだ最後まで終わってないでしょ?」

 

〝さっきの〟って……あれからそこそこ時間経ってるぞ?

 

「い、いいから!続きやるから早く脱ぎなさい!」

 

そう言って無理やり服を脱がせようとしてくる………せめて物陰でやってほしい

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

「ね、ねえ……結局酒泉ってミカ様とはどういう関係なの?」

 

彼の背中の傷をガーゼで覆いながら問いかける

 

 

「ミカ様って明らかに酒泉のこと気に掛けてるわよね?」

 

………ただの知り合い程度だよ、あの人にとっても俺にとってもな

 

「………またそうやって誤魔化す」

 

 

彼はいつもそうだ、勉強の時は分かりやすく教えてくれるのにミカ様やセイア様との関係を聞いた時だけはぐらかす

 

………あ、勉強といえば

 

 

 

「そ、そういえばさ……この前、また勉強教えてくれるって言ってたでしょ?」

 

あー……確かそれは下江さんの成績が下がったらとかじゃなかったっけ?

 

「それなんだけど……そ、その、私、また成績下がっちゃったみたいで……」

 

……え?何で?

 

「それは……その……」

 

まさか……勉強サボってたな?

 

「………そ、そう!それよ!」

 

いや、そんな堂々と答えられても……

 

 

 

呆れた様な視線を向けてくる酒泉

 

し、仕方無いじゃない!自分からわざと成績落としたなんて言えるわけないでしょ!

 

 

「と、とにかく!約束は守ってもらうわよ!」

 

あー……それは……

 

「もしかして……迷惑、だった……?」

 

……いや、そんな事ないよ、よし!じゃあまた勉強会やるか!

 

「う、うん!」

 

私の我儘を笑顔で受け入れてくれる酒泉、彼はいつも私の味方をしてくれる

 

酒泉は私ならエリートになれるって信じてくれて、私なら先輩達みたいに強くなれるって信じてくれて……

 

だから、私はそんな酒泉の期待に応えないといけない

 

……そしてその過程を近くで見守っててほしい、貴方の信じた人が成長していく姿を

 

 

 

「………ねえ、酒泉」

 

ん?

 

「私、もっと頑張るからさ……だから、その……これからも一緒に居てくれるよね……?」

 

……ああ、当たり前だ

 

「……!ありがとう……酒泉」

 

 

いつもと変わらない彼の答えに安堵しながら手当てを再開する

 

何となく背中にピタリと手をくっつけてみると、何故か心が温かくなってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後だった、折川酒泉が死んだという訃報が届いたのは

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