某サイトで見た〝便利屋ヒナちゃん概念〟のパチモンです
この世界では中学時代ヒナちゃんは〝これからも支えてくれる?〟とか酒泉君に聞けていません
風紀委員長を辞めて便利屋になったヒナちゃんと風紀委員長(仮)になった酒泉君
「……まだ誰か執務室に残って────っ」
あっ……こんばんは、天雨さん
「……酒泉、貴方……また残業していたんですか?」
……空崎さんだってやってた事ですよ
「………これで何日目ですか?」
……初日です
「……そこのゴミ箱の中を見るに……三日ほどでしょうか?」
………他の人達には言わないでください
「……そうやって委員長のように溜め込んでも、委員長のように耐えきれなくなるだけですよ」
………すいません
「……そもそも一年の貴方に委員長代理など最初から無理な話だったんですよ」
……でも、俺以外が委員長の時のゲヘナの荒れっぷり、見たでしょう?
「それは………」
ただでさえ空崎さんの圧倒的な〝力〟を目の当たりにしても完全には押さえつけられないってのに………空崎さんが風紀委員長を辞めた瞬間にやりたい放題ですよ
だったら空崎さんの次に強い俺が纏めるしかないでしょ?…………まあ、ちょっと生意気な言い方ですけど
「……いえ、それは事実ですので気にしていません」
………すいません、今日だけは残業見逃してくれませんか?今日中に終わらせないと万魔殿のタヌキがうるさいんで
「……貴方にまでちょっかい掛けてるんですか、あのタヌキは」
まあ、空崎さんの味方は全員嫌いなんじゃないですか?あの人は
「………あとどれくらい仕事が残ってるんですか?」
ここに置いてある書類全部です
「今日中に終わるとは思えませんが………このまま泊まり込みでやるつもりですか?」
………はい
「………仮眠室、ちゃんと綺麗にしていますか?」
………はい?
「今日は私も泊まり込みで手伝います」
……天雨さんまで付き合う必要はないっすよ、それに仮眠室のベッドは一つだけですし……
「………二人で入ればいいでしょう」
……マジすか?
「マジです…………とにかく、拒否は認めませんので」
ええ……横暴……まあ、俺が床で寝れば────
「体調を崩されても面倒ですので、貴方もちゃんとベッドで眠ってください」
────……考えときます
「………」
……わ、分かりました
「それで良いです…………酒泉」
……はい?
「貴方は……………委員長のように何も言わずに居なくならないでくださいね?」
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「どうしてこうなるのよおおおおお!!?」
少女の叫び声が路地裏に響く
後ろからは武装した大勢の生徒達が鬼の形相で追いかけ、少女達は────便利屋68は全力でそれから逃げる
「あはははは!鬼ごっこだ~!」
「鬼ごっこにしては物騒すぎるけどね……どうする?社長」
「わ、わわわわ私が爆破させてきましょうか!?」
「だ、駄目よ!そんな事したら余計に目をつけられちゃうでしょ!?」
「え~?アルちゃんアウトローらしくな~い!」
割りと余裕そうな会話をするものの、追跡者との距離は少しずつ近づいていく
……そもそも何故彼女達が追われる事になったのか、それは三日前まで遡る
便利屋68に一つの依頼が持ち込まれた……それは〝盗まれたカイザーグループの機密文書の奪取〟だ
アビドスの一件以来、互いに関わることのなかったカイザーグループと便利屋だが、何故か一切の脈絡なく突然元カイザーPMC理事(現オクトパスバンク営業)が便利屋にやってきて上記の依頼を話した
どうやら機密文書の輸送中にカイザーグループに恨みを持つ者達が輸送車を襲撃し、それを奪い取ってしまったらしい
幸いにも機密文書自体はそこらの爆発物じゃ壊せないほど強固なパスワード式金庫に保管されているらしいが、それでも時間をかけてじっくりと削られる可能性は十分にある
元理事も多くの兵と共に犯人達を追いかけたが、どうやら敵戦力が想像以上に多かったらしく(それぐらい恨みを買っているとも言える)返り討ちにされてしまったのだとか
そこで彼はかつて協力関係を結んだ者達の中でもトップクラスの実力者である便利屋を頼ることにした
便利屋側も最初は怪しんだものの、丁度タイミング良く………良く?懐が寒かった社長さんが調子に乗ってこの依頼を受けてしまった
そこまでは大したトラブルもなく、事前に作戦の準備をした上でそのトップクラスの実力を余すことなく発揮し、見事に機密文書を奪い返した………問題はその後だ
機密文書を受け取った元理事は約束通り便利屋に報酬金を渡す──────ことなく、代わりに銃口を突きつけた
………機密文書を盗まれたのは本当だった、しかし元理事はそれはそれとして便利屋への復讐も同時に行おうとしていたのだ
それだけなら〝何も問題なかった〟
便利屋の実力ならカイザーが相手だろうと問題なく倒せる………のだが、そこは流石のトラブルメーカー陸八魔、なんと戦闘中にヘルメット団やらスケバンやら大勢の人間を巻き込んでしまった
結果、何故かその全ての恨みを買い………
「てめええええ!!!待てやああああ!!!」
「ラブ隊長の仇いいいいい!!!」
「逃げんじゃねええええ!」
「な、なんか増えてない!?」
「ここに来るまでに何人も巻き込んでるからね……」
後ろを振り向く度に少しずつ増えていく追っ手
白目を向きながら走るという器用な事をやってのけるアルだったが、その体力は限界が近づいていた
『………皆、伏せて』
アル達の通信機から冷徹な声が聞こえてくると、それと同時に全員が身体を屈ませる
頭上を通るは紫の弾丸、一発一発が背後の追っ手の意識を刈り取っていく
逃げようとした者にも回避しようとした者にも等しく平等に襲いかかる
やがて背後から悲鳴が鳴り止むと、漸く弾丸も飛ばなくなった
「……大丈夫だった?」
一人の少女が銃を下ろして便利屋に近づく
黒羽を縮ませて手を差し伸べると、アルはその手をとってゆっくりと立ち上がり、ホッと一息吐いた
「え、ええ……貴女が居てくれて本当に助かったわ─────ヒナ」
「……気にしなくていいわ、これが私の仕事だもの」
そう返すと、少女は静かに微笑んだ
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空崎ヒナは苦労人である
……いや、苦労人なんて言葉が生易しく感じるほどの苦労人───過労人と言っても過言ではないだろう
毎日毎日何度も何度もゲヘナで暴れ狂う暴徒共を鎮圧し、上層部のタヌキからの嫌がらせにも耐え、その上で、膨大な量の書類仕事をこなしている
勿論、これ等の仕事はヒナ一人でこなしている訳ではない………が、それでも風紀委員長であるヒナに割り振られる仕事の方が他と比べて圧倒的に多いのは言うまでもないだろう
更には他人に甘えられないヒナの性格上、弱音を吐くことも出来ずにそのストレスを溜めるばかりだった
………一応、中学時代に唯一甘えられる相手────折川酒泉という少年がいたのだが………ヒナが高校一年の時、その相手は中学二年
つまり、同じゲヘナ学園で働くには二年も待たなければならなかったのだ
そしてその間の月日は空崎ヒナという少女の不安定な精神を削っていくのに十分すぎるほど長かった
結果─────空崎ヒナは折川酒泉と数ヶ月共に働いた後、誰にもその悩みを打ち明けることなく姿を消した
そしてヒナは清々しい解放感と全てを投げ捨てた事への罪悪感、そして何もするべき事がない虚しさを抱えながら、死人のような顔で適当な場所をふらついていたところを─────便利屋68の陸八魔アルに拾われた
そもそもヒナのストレスの原因である生徒達の一部には便利屋も含まれているのだが、当時のヒナにはその事を責める気力すら無かった
だが、アルも風紀委員に迷惑を掛けていた自覚はあったのか、その罪悪感からヒナのメンタルが回復するまで自身の職場に置くことにした
………そして、便利屋という〝自由〟な立場は、いつも〝不自由〟だったヒナの心を一瞬で開かせた
最初はぎこちなくしていた彼女も、今ではすっかり便利屋の〝切り札〟としてその力を振るっていた
(……楽しい)
自身の愛銃・デストロイヤーの整備をしながらヒナは思う
(毎日が……楽しい)
風紀に縛られ、暴徒に悩まされていた日々から一転
自分達の事務所に流れ込んでくる依頼を受け、ただそれを解決するだけでいい
何度か赤字になることもあるが、それでも永遠に解決できないであろうゲヘナの治安問題の相手をするよりは万倍もマシだ
何よりも……
『貴女は後始末なんて考えなくていいのよ!そういうのは私の仕事なんだから!』
(……彼女の下は心地良い)
風紀委員会に所属していた頃は考えられなかった〝頼れる上司〟
そんな存在から与えられる思い遣りは間違いなくヒナの精神を回復させていた
(皆……)
………だが、それと同時に残してきてしまった者達への罪悪感もこみ上げてくる
(イオリは突撃ばかりして罠にかかってないかな、チナツがストッパーになってくれると安心なんだけど……)
(アコは優秀だからあまり心配はないけど………でも、時々暴走するから……)
一度顔を思い浮かべると次々と自身の心情が溢れだしてくる
心に余裕が出来たせいか、最近は同じようなことを繰り返している
(酒泉は………)
そして最後に思い浮かべるのはいつも同じ
何も言わずとも昔から自分を支え続けてくれた少年の顔
(……逃げ出した私に失望してないかな……)
……失望されているかもしれないという恐怖、それが酒泉の顔を思い浮かべる順番が最後になる原因だった
何度も自分の為に現場を駆け回り、何度も書類仕事を手伝ってくれた彼
なのに、何も伝えずに勝手に姿を消した自分に対して恨みを抱いていないか
「そんなに気になるなら会ってくればー?」
「……え?」
目の前から声が聞こえ、顔をあげるヒナ
そこにはムツキがいつも通りのからかうような笑みで立っていた
「……もしかして、声に出てた?」
「は、はい……バッチリ……」
「ちなみに今日だけじゃないよ」
おずおずと手を上げるハルカ、更に追撃を加えるカヨコ
そんな二人を見てヒナは恥ずかしげに顔を伏せるが、突如ガタンっ!という音が聞こえて顔を上げる
視線の先ではアルが指をヒナに突きつけて大きく口を開いた
「……ヒナ!貴女、今度休暇を取りなさい!」
「……え?」
突然休暇を与えられたことに困惑するヒナだが、アルはお構い無しに話を続ける
「いつまでも昔の事を引きずって仕事に支障を来されても困るもの!そうやってウジウジしてるくらいなら直接話し合ってケリをつけてきなさい!」
昔のようにヒナに怯えた表情ではなく、上司らしい尊大な態度で言葉を突きつける
(………言っちゃったあああああ!!!怒ってないわよね!?暴れないわよね!?)
………が、内心ガクブルだった
ヒナがゆっくりと立ち上がった瞬間、アルの身体がビクッと跳ねる
それを見てもヒナはクスリと笑うだけで、文句の一つも言わなかった
「……社長……いえ────陸八魔アル……ありがとう」
「えっ!?」
「私に気を遣ってくれたんでしょう?………そうだよね、このまま逃げてばかりじゃ駄目だよね」
「……分かった、近い内に話し合ってみるね」
脳が揺れる
視界がぶれる
口の中に鉄の味が広がる
身体中が痛む
朧気な意識の中、辛うじて見えた光景は火の海と化したトリニティ
………大丈夫だ、委員長代理の俺が巡航ミサイルで狙われるのは分かっていた
だからこそ先生も天雨さんも……全員後方へ待機させておいた
あとは敵を撃退するだけ……だから立ち上がらないと
「……まだ意識があるのか」
「く、苦しそうですねぇ……」
「…………」
「……姫、一応離れといて」
あれ?身体が動かないな……何でだ?両足はあるのに……立ち上がれないぞ?
「………止めておけ、苦しむ時間が長引くだけだぞ」
血を流しすぎた?ダメージを受けすぎた?
でも、腕は動くから何とか身体を起こして………
「………止めておけと言っているだろう」
おかしいな……左腕は辛うじて動くのに右腕がうごかないぞ
そもそも、おれのみぎ腕はどこにいった?………ああ、あんな所でぐちゃぐちゃになってたのか
あたりどころがわるかったのかな………はやくとりにいかないと
「……どうする?先生の居場所を吐かせるどころじゃなさそうだけど」
「……もういい、これ以上は無意味だ」
だめだ、てが、とどかない
あしだけでもなんとか……うごかさないと
「……ここからは手分けして探すぞ、合流地点は分かっているな?」
「……了解」
……あ?なんでひだりあしがはなれて……そっか、ほとんどちぎれてたんだ
ならしょうがないか……うごけないならなにもできないもんな……
……………あしおとが、とおざかる
………………さむい
さむい
さむい
さむい
さむい
……さむい
………きょう、は………さむいなぁ……
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「あ、あら?通行止め……?トリニティ近くで事故でも起きたのかしら……?」
「あ、アル様の道を阻むなんて……!」
「どうするハルカちゃん?やっちゃう?やっちゃう?」
「ムツキもけしかけようとしないで………それで?どうするの?社長」
「うーん、そうね……とりあえず遠回りして行きましょう。貴女もそれでいい?ヒナ………ヒナ?」
「………えっ?ご、ごめんなさい……聞いてなかったわ」
「……緊張してるの?」
「うん……酒泉に……皆にどう謝ろうかなって」
「そんなの直接会ってから決めればいいんじゃなーい?アルちゃんだってよく勢いに任せて行動するし!」
「ア、アウトローに計画なんて不要なのよ!」
「さ、流石です!アル様!」
「最近〝アウトロー〟って言っとけば何でも解決すると思ってない?」
「こ、細かい事はいいのよ!………とにかく!謝罪の言葉を考えるよりもまずはお互いの感情をぶつけ合うのが先よ!隠してたこと全部さらけ出しちゃいなさい!」
「……うん、そうしてみる………ありがとね、社長さん」
「な、なんかむず痒いわね……」
「…………待っててね、酒泉」