先生を後方の安全な場所に待機させ、風紀委員だけで現場に向かう
そこで見たのは右腕と左脚が欠損した酒泉の姿でした
『いやっ……いやあぁぁ!目を覚ましてください!返事をしてくださいよ!酒泉っ!』
『嘘……だろ……なんで酒泉が……』
『か、身体が……そんな……!』
『どうして何も言ってくれないんですかっ!また煽ってくださいよ!また生意気な口を利いてくださいよ!』
『────っ!アコ行政官!イオリ!今すぐ酒泉君を病院まで運びます!手を貸してください!』
『こ、このまま!?応急措置とかは……!?』
『このレベルの欠損だと何をしても焼け石に水にしかなりません!今は一刻も早く病院へ……!』
『……やだ……死なないで……貴方までいなくならないで……!』
部下達が酒泉を救おうとする中、私は酒泉の身体に縋り付くことしか出来なかった
『たすけてっ!だれか、酒泉をたすけてくださいよぉ……!』
『アコ行政官!酒泉君は絶対に助かりますから!だから今は……』
『なんで……どうして……!約束、したのに……いなくならないって……言ってた、のにぃ……!』
『くっ……ごめんアコちゃん!ここで待ってて!チナツ、私達だけで先に酒泉を運ぶよ!』
『は、はい!』
自分の愛した者ばかり居なくなる、そんな現実に絶望した私はただひたすら泣き続けることしかできなかった
脚に力が入らず、口からも指示どころか泣き言しか出ない
……そんな状態でも憎しみや怒りだけはハッキリと残っていましたが
むしろそんな状態で〝彼女達〟と出会ってしまったのがいけなかったのでしょう
『な、何よコレ……ここで何が起きたのよ!?』
『酷いね……周囲の建物が全部瓦礫に変わってる』
『……気を引き締めた方が良さそうだね?』
『ア、アル様は私が護ります!』
『……アコ?』
背後から聞こえてくる声
それに釣られて後ろを振り向くと、そこには便利屋………と、私達の元・委員長が立っていた
『貴女は……ねえ!ここで何が────』
恐らくアルさんはここで何が起きたのか私に問おうとしたのでしょう
ですが、彼女は言葉を止めてしまいました
『────え……?』
『……は?死体?……いや、まだ生きてる』
『な、あ……ぇ……?』
『一体誰の……』
『─────嘘』
困惑、怯え、それぞれ反応する中、委員長が一歩前に踏み出した
『嘘だよね、酒泉』
『……っ』
その言葉で便利屋の全員が察した、誰が被害者かを
『ねえ、違うよね?アコ、この人は酒泉じゃないよね?』
『………は?』
『だって、私まだ、謝ってなくて』
一言一言言葉を途切らせる委員長、その様子からどれほど混乱しているのかが分かる
でも、私はそんな委員長に
『……なんで今、ここに来てしまったんですか』
『……え?』
自身の怒りと憎悪をぶつけてしまいました
『なんで彼がこんな目に』
『ずっと頑張っていたのに、ゲヘナの為に働き続けていたのに』
『委員長の穴を埋める為に自分の好きなことも全部全部封じて、身体も時間も犠牲にして必死に戦ってきたのに』
『委員長が……貴女達が楽しそうに笑っている横でっ!彼は苦しみながら無理やり笑顔を作っていたのにっ!』
……分かっています、この件で委員長に非は一切無い事は
巡航ミサイルを撃ったのはアリウス、なら恨むべき相手もアリウス
それでも叫ばずにはいられなかった
酒泉から全てを奪おうとする世界への……頑張っている彼に褒美を与えるどころか更に苦しめようとする世界への怒りを
そんな彼の苦しみの原因となっている連中が何も知らず感情のままに暴れていることへの怒りを
『それなのに、どうして……どうして貴女は〝そこ〟にいるんですかっ!ヒナ委員長!』
そして────そんな連中と共に姿を現した委員長への怒りを
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「……ふぅ……残りの仕事は明日でいいでしょう」
カチ、カチ、と時計の針が進む音だけが聞こえる部屋で現・風紀委員長は────天雨アコは静かに呟いた
かつて敬愛する上司が、その次は愛しい少年が座っていた椅子から立ち上がり、静かになった委員長室を見渡す
「……こんなに寂しい部屋でしたっけ」
2人、この部屋から居なくなった
折川酒泉は病院から動けず、空崎ヒナは……自分の部屋に籠った
5人揃うことの無くなった部屋でボーっと立ち尽くしていると、ガチャリと部屋の扉が開かれた
「アコちゃん、ちょっといい?」
「………イオリ?今は訓練中では?」
部屋に入ってきたのは銀髪の少女
彼女は銃火器を幾つか持ってテーブルの上に置いた
「実は風紀委員で使ってる訓練用の装備なんだけど、その幾つかがボロボロになっててさ………確か倉庫の方に予備の装備があったでしょ?これからはそれを使わせてもらえないかなーって」
「ああ、その事ですか………それでしたら思い切って全ての装備を一新してしまいましょう」
「一新って……もしかして先月くらいに届いた最新式のやつ?」
「はい」
酒泉が抜けた分の戦力を埋める為、アコが軍事企業から取り寄せた最新の装備と兵器
膨大な資金を必要とするそれは万魔殿からの資金援助によって購入に成功した
「……アイツらさ、よく協力してくれたよね。アコちゃんってばどんな交渉したの?」
「大した事はしていませんよ?私はただ〝酒泉が抜けた今、ゲヘナ中の問題児の相手をするのが厳しくなってくるかもしれない〟とお願いしただけですから」
尤も、アコはその言葉の後に〝仮にイブキさんが戦闘に巻き込まれた場合、今の私達では救出できないかもしれません〟と付け加えたのだが
そして、その言葉の意味は今後のゲヘナで起こるクーデターの鎮圧及び、風紀維持活動の放棄とも取ることができた
………羽沼マコトが恐れているのはアコからの復讐、つまり────イブキが巻き込まれることだった
(あんな幼い子を巻き込むつもりなどありませんが……まあ、利用できるなら利用してしまいましょう)
イブキが人質として使えるのならば利用しない手はない
〝今の〟アコはその程度の事に罪悪感など感じていなかった
「……アコちゃん?どうしたの?」
「ああ、いえ……少々考え事を……」
「……疲れてるんじゃないの?確か今日の酒泉のお見舞いはアコちゃんが行くはずだったけど………大丈夫?」
「いえ、本当に問題ありませんから……」
深く何かを考え込むアコを見て勘違いするイオリ
「……それよりも貴女の方こそ大丈夫なんですか?戦闘関連の仕事では酒泉が抜けた分も働かせてしまってますけど……」
「まあ、万魔殿の奴等も何故か協力してくれてるし大丈夫だよ。戦闘後の報告とかはチナツがやってくれてるし」
イオリに疲労が溜まっていない事と万魔殿に対する脅しの効果がしっかり確認できた事に安堵するアコ
しかし、直後にイオリは視線を下げて呟いた
「……でも、ちょっとだけ寂しいかな」
「………寂しい?」
「酒泉がさ、どこにも居ないんだ。2人で並んで突撃したり背中合わせで戦ったり………何度も近くで聞いてきたはずの声が突然聞こえなくなっちゃったんだ」
「イオリ……」
「ねえ、アコちゃん。もしだよ?もしも私がもっと強ければ────」
「────委員長も酒泉も、2人ともいなくならなかったのかな」
「……そんなの、私にも言えることですよ。イオリが弱かったのではなく〝私達〟が弱かったのですから」
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────すいませんね、毎日毎日お見舞いに来てもらっちゃって……仕事だって押し付けちゃってるのに
「別に押し付けた訳じゃないでしょうに……気にしなくていいんですよ」
アコが病室を開けると、そこには片腕と片脚を欠損した少年────折川酒泉がベッドで横たわっていた
アコは近くの椅子に荷物を起き、もう1つの空いている椅子に腰を下ろす
「身体の調子はいかがですか?」
────まだ全身痛みますけど……でも、回復はしてるっぽいですよ
「なら良かっ───……いえ、良くはありませんね」
アコの視線が自分の腕と脚に向いていることに気づいた酒泉は、笑いながら残された手を振る
────いえ、別に悪い事だらけって訳でもないっすよ
「……はい?」
────実は、先生がミレニアムの知り合いに俺の義手義足を作ってもらうように依頼してくれたみたいなんです
「ミレニアム製ですか……それならかなり高品質な物が期待できそうですね」
悪いニュースだらけの日々、そんな中で久しぶりに聞いた良いニュース
2人の間に僅かにだが穏やかな時間が流れた
「明日のリハビリは何時からですか?私もお付き合いしますよ」
────朝の10時からです……けど……流石にこれ以上は天雨さんに迷惑掛けられませんので、普通に病院の人と……
「……酒泉、前にも言いましたけどその〝迷惑を掛けてる〟という考え方は止めてください。私は好きで手伝おうとしているんですから」
────……でも、実際に迷惑でしょう?片腕じゃ報告書も書けないし、片脚じゃ緊急時に速やかに行動することだってできませんし
「……酒泉」
────唯一の取り柄だったこの〝眼〟も戦闘自体行えないなら何の意味もないですし、今の俺はただの役立たず────
「やめてくださいっ!」
ヘラヘラと笑いながら自虐する酒泉、そんな彼の言葉を遮るようにアコが叫ぶ
アコの大声で静まりかえる病室、酒泉はばつが悪そうに頭を下げた
「……私達風紀委員は貴方の努力も苦しみも全て近くで見てきました、ゲヘナの風紀を守ろうとした貴方の思いを貴方自身が否定しないでください」
────……すいません
「全く……最近マイナス思考に陥りすぎですよ、貴方は」
────…………そういや、ゲヘナの風紀で思い出しましたけど……今って問題児共の相手はどうしてます?
重くなった空気を変える為に酒泉が話題を振ると、アコは溜め息を吐いてそれに答える
「今までと何も変わりませんよ、相変わらずどいつもこいつも暴れています………まあ、最新の装備を整えたお陰で以前より遥かに楽に対処できてますけど」
────へぇー……でも、よく万魔殿のタヌキが許してくれましたね
「………偶々機嫌が良かったのでしょう」
余計なことに巻き込まれないよう、口を濁すアコ
酒泉も特に疑問に抱かず、アコの言葉をそのまま流した
「……とにかく!貴方が風紀委員会に帰ってくるまでにはゲヘナ学園の治安を少しでも改善しておきますから、今はご自分の身の心配だけをしていてください」
────……でも、風紀委員に戻ったところで今の俺じゃ仕事は……
「貴方は何もしなくていいんですよ………もう、十分すぎるほど働いてくれたんですから」
治安を改善するという言葉に〝強引な手を使ってでも〟と心の中で付け加えながら酒泉の額を小突くアコ
だが、酒泉は表情を暗く落としながら呟く
────……何もしなくていいなら、俺って要らなくないですか?
「……は?」
────だって、ただの置物にしかならないじゃないですか……今の俺
「………貴方はまだそんな事を────」
────仲間の役に立てない俺が風紀委員会に居たところで、無駄に1人分の予算を消費するだけですよ。こんな敵にも味方にもならない奴なんて放っておいて皆さんは自分の青春を過ごしてくださいよ
「………」
────……これ以上、皆の足を引っ張りたくないんですよ
ジワッと瞳の端を濡らしながら語る酒泉
ポタポタと涙が零れ落ち、ベッドのシーツに染みが増えていく
────いや、そもそも最初から俺なんて必要なかったんですよ。何度問題児共を倒そうと、誰1人暴れるのを止めようとはしない
────なら戦う意味なんてない、同じ事の繰り返しならやるだけ無駄なんだ
────……いや、違う。俺が戦ってた理由は大好きな人を支えたくて………あ、それならやっぱり全部無駄じゃん、その人もう風紀委員じゃないんだし
────………あー……そっか、なんも出来なかったのか、俺。最終的にはゲヘナの問題児に嫌われて風紀委員の足を引っ張って片腕片脚失っただけか、しかも勝手に首を突っ込んだ結果で
「少し黙っててください」
直後、酒泉の口元に伝わる柔らかい感触
何が起きたと口を開こうと────開かない
それどころか酒泉は息を吸うことすらできなかった
「んっ……」
それも当然だろう、だって────酒泉の口に、アコの口が重ねられているのだから
「むぅ…んっ……ちゅ……はぁ、これで落ち着きましたか?」
────……は?
「……なんですかその反応は、私のファーストキスを差し上げたんですよ?もっと喜んだらどうです?」
呆然とする酒泉に対してムッと睨み付けるアコ
「足手まといだの役に立たないだの必要無いだの散々自虐して………良いですか!?今から私の想いを伝えるのでそのクソボケが詰まった耳でよーく聞いておいてくださいね!?」
「私が貴方を欲している理由は貴方を愛しているから!ただそれだけです!」
────………
「………以上!」
────それだけ!?
「それだけですよ!悪いですか!?」
何か重い理由でも言うのかと身構えていた酒泉は思わず叫んでしまった
それでもアコは堂々と答える
「仕方ないでしょう!?好きになってしまったんですから!」
────ちょっ……待って!?心の整理が……!
「ええそうですよ!大した理由なんてありませんよ!ただ貴方のことが好きで好きでしょうがないだけですよ!」
────ストップ!ストップ!
「とにかく!貴方は大人しく私に愛されていればいいんですよ!私はそれだけで幸せなんですから!」
喧嘩なのか告白なのか分からない展開に発展し、困惑する酒泉
だが、アコの涙を見てその表情は真剣なものに変わる
「それなのに〝俺は要らない〟……?ふざけないでください!」
「私には貴方しかいないんですよ!?そんな事にも気づかず……勝手に自分を否定して……!」
「私の大好きな人が私の大好きな人を否定しないでくださいっ!」
「そんなに存在理由が欲しいなら私が与えてあげますよ!これは委員長命令です!ずっと……ずっと私の隣に居なさい!片時も離れずに!」
涙を流しながら息を切らし、酒泉を睨むアコ
────……本当に俺で良いんですか?
「貴方がいいんです」
噛み締めるように、呟く
────右腕、無いですよ
「だったら〝あーん〟でも何でもしてあげますよ」
────左脚も無いです
「私とずっと手を繋いで歩いていればいいでしょう?」
────もう戦えないですよ?
「私が戦うので問題ありません」
────こんなのと付き合ってると天雨さんが周りの人達に馬鹿にされるかも
「それが私の想いと何か関係あるんですか?」
────もっと良い男が見つかるかも
「申し訳ありませんが、私はすぐに1人で突っ走ってその度に誰かを引っ掛けて帰ってくるクソボケにしか興味が湧かない性格ですので」
────後悔しない?
「後悔なら貴方を助けられなかった時点で十分にしましたよ」
────……俺を、捨てない?
「……そのままジッとしててください」
また、酒泉の口が塞がれた
「……おや?」
「あ……」
病院を出たアコが一番最初に目撃したのは、ワインレッドのコートを纏う1人の少女
その少女はアコと鉢合わせた瞬間に怯えたような目をしたが、直ぐ様気を取り直して正面から見つめ返した
「あ、あの!酒泉の───」
「便利屋68の陸八魔アルさんじゃないですか……貴女もこの病院に何か御用でも?」
「え?そ、その……酒泉のお見舞いに……」
「そうですか……ですが、以前お伝えした通り我々風紀委員以外の方による面会は全てお断りしていますのでこのままお引き取りください」
無表情に、そして冷徹に突き放すアコ
だが、アルはそれでもと会話を続けようとする
「そ、それならせめて一言だけでも────」
「〝謝りたい〟……と?」
「──っ……そ、そうよ!」
「はぁ……それで?貴女は何を謝罪するおつもりですか?」
「……え?」
今更何を……アルはそう責められる事を覚悟していたが、その予想とは裏腹にアコはあっさりと返してきた
「だ、だから……酒泉の怪我の事を……!」
「彼の右腕と左脚の怪我はアリウスの放った巡航ミサイルによるものです、当時現場に居なかった便利屋68は事件とは一切関係ありません」
「そう……だけど……」
「貴女達が暴れようが美食研究会が食堂で事件を起こそうが温泉開発部が下らない理由で校内を破壊しようが、全て酒泉の怪我とは無関係です」
「………」
「例え貴女達が何も問題を起こさず酒泉の体力も万全の状態だったとしても、生身の人間が巡航ミサイルの爆発に耐えられるはずがないんですから………結果は何も変わりませんよ」
アコの言葉に何も言えず佇むアル
そのまま横を通り抜けてアコは病院から帰ろうとしたが、ピタリと立ち止まって再び口を開く
「私はこれで失礼させていただきますが……先程も申した通り、酒泉には絶対に会いに行かないでくださいね」
「……分かったわ」
「それなら良いですけど……ああ、それともう1つだけ」
「どうしてその罪悪感をもっと早く覚えてくれなかったのですか」
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(……彼の前以外では感情を抑えるように努めていたつもりですが……私もまだまだですね)
自宅への帰り道、アコは歯噛みしながらも平静を装って歩く
拳からはギリッと音が鳴り、怒りや悔しさが漏れ出てしまっている
「……なんで」
周囲に人は居ない、ならそれは誰に向けた言葉なのか
「なんで彼がこんな目に遭わなければならないんですか」
「欲望のままに好き勝手暴れていた連中が五体満足で、ゲヘナを守る為に戦っていた彼が右腕と左脚を失うなんて」
「どうして彼から奪うんですか、奪うなら他の暴徒共からでしょう」
「こんな……こんな理不尽な事、あっていいはずが……!」
一度溢れた憎悪が止めどなく流され続ける
この場に誰か通りかかればアコのその形相に恐怖を感じるほど、彼女の顔は怒りに染まっていた
「………罰は与えません、贖罪だってさせません、糾弾だってしません。便利屋にも、他の問題児共にも………」
「酒泉に謝って……そして罪を償って楽になる事など……!彼女達は一生己の過ちを後悔して苦しまなければ────」
このままだと全てを吐き出してしまう
道中でそれは不味いと判断したアコは大きく深呼吸して息を整える
「────っ……はぁ………少々取り乱しすぎましたか…………ん?」
それから数秒後だった、アコの携帯に連絡が掛かってきたのは
通話画面に表示されているのは風紀委員の名前、何か問題でも起きたのかと疑問に思いながら通話に出る
『………あっ!?も、もしもし!?委員長ですか!?』
「そうですけど……何をそんなに慌てているんですか?事件でも起きて────」
『大変です!捜索隊の1人がアリウスの生徒を発見しました!』
「────」
〝アリウス〟
その言葉を聞いた瞬間にアコの身体が硬直する
調印式襲撃から数日後、アリウスの拠点を探る為にトリニティの許可の下に派遣した捜索隊
ついに、その成果が出た
『その生徒は恐らく錠前サオリだと報告が………ですが、それと同時に少々気になる報告もありまして』
「………」
『対象は既にボロボロの状態で、まるで何かから逃げ隠れるように移動していたと……』
「………」
『……あの、もしもし?聞こえてますか?』
「ふっ……ふふ……」
『……?』
「あはっ!あはははは!」
『あの……委員長……?』
「ふふふっ!あはは……あははははは!」
突然笑い出したアコに電話越しで唖然とする風紀委員
一頻り笑い終えたアコは口元に笑みを浮かべたまま風紀委員に指示を出した
「ふふっ……失礼しました、漸くこの日が訪れたと歓喜してしまいまして……つい」
『そ、そうでしたか……』
「イオリとチナツには?」
『既に報告済みです、現在は委員長室で待機しています』
「分かりました………では、全風紀委員に出撃準備を済ませるように伝えてください。装備構成は大規模テロ対策用のC装備で構いません………ああ、それとアリウスとの戦闘で回収した〝あの爆弾〟の用意もお願いします」
『全風紀委員に……ですか?敵1人に対して戦力が過剰すぎるのでは……それに、全戦力を出撃させるとゲヘナで何か問題が発生した際の鎮圧などが……』
「それが何か?」
『……えっ?』
「私達が居ない間にゲヘナがどうなろうと、そんなの知った事ではありませんよ。それで何人怪我しようと何人死亡しようと………アリウスを滅ぼす事に比べたら些細な問題です」
『ほ、滅ぼす……?そんな、戦争でもするみたいな言い方……』
「戦争になんてなりませんよ、私達が一方的に叩き潰すだけなんですから………では、お伝えした通りにお願いします」
『……了解しました』
通話が切れた瞬間、再びクスクスと笑い出すアコ
その様子は笑いを堪えられない子供そのものだった
「やっと……やっと見つけました!アリウス生を!それもアリウススクワッドのリーダーである錠前サオリを!これで彼女にも酒泉と同じ思いを味わわせることができます!酒泉の痛みを!」
「まずは彼女の手足を……いえ、それよりも心が折れるような方法で……!」
「アリウススクワッドはあと3人いるはず……錠前サオリを捕らえた後は彼女達を捕らえて、そいつらの手足を錠前サオリの目の前で……!」
「自分達のやったことの愚かさを思い知らさなければ……!少しでも、少しでも長く苦しめて……!」
憎しみを抑えられず、もはや感情に完全に支配された少女
たった1人の少年の為だけに変わってしまった彼女は、何かを思い出したかのように手を叩く
「……ああ、そうだ。念には念を入れておきましょうか」
──────────
────────
──────
ドアの奥から人の気配を感じる
どうやら出掛けてはいないらしい……まあ、そんな気力も無いでしょうけど
「……このドアの奥がどんな状態かは知りませんが、まだ貴女が生きていること前提で話し掛けます」
あの事件の日から便利屋とも先生とも………誰とも関わらなくなった少女に語りかける
「風紀委員会は錠前サオリを発見しました、只今捕獲作戦の準備をしています」
「戦力的には我々だけでも問題無いと思われますが、念には念を……ということで更なる戦力の増強を考えています」
この機会を逃したら次はいつアリウスを発見できるか分からない、一度逃がした害虫ほど厄介なものは存在しないのだから
「……私が何が言いたいのか、もうお分かりですよね。貴女の力をお借りしたいのです」
「酒泉の腕と脚を奪ったアイツらに………復讐する為に」
部屋の中から物音が聞こえた
……やはり酒泉の名を出せば反応を示してくれるみたいですね
「お願いします、風紀委員会に戻ってくれとは言いません、手を汚してくれとも言いません。彼女達は私自身が1人1人直接この手で殺します」
「……ですから、今回だけ力を貸してください」
アイツらだけは絶対に逃がさない、酒泉の人生を奪った奴等がのうのうと生き続けるなど許していい筈がない
「お願いします」
その為ならどんな物でも、どんな者でも利用しよう
それが例え
「………空崎ヒナさん」
かつて愛した者だったとしても
ドアが開き、少女が見えた
壊れかけの人形のような、少女の姿が
「そう、すれば……しゅせんに……つぐなえるの……?」
「……ええ、彼もきっと喜んでくれますよ」
……ごめんなさい、ヒナ委員長────いえ、ヒナさん