おじさん編の続きです
錠前さんが俺の右目を優しく包み込むように手で覆ってくる
感触だけでも分かる、戦う為だけに鍛えてきたのであろう手だと
そんな手が、今は何かに怯えて震えている
何秒、何十秒、何分経ったか分からないが、暫くしてからゆっくりと手を離すと〝よかった……〟と安堵する
「本当に……なんともないんだな……」
………どういうことだってばよ
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〝会いたい〟
その一言だけをモモトークに送られてきた俺は、錠前さんに会うためにすぐにトリニティへ向かった
だってよ、あの錠前さんが何の説明もせずに〝会いたい〟しか言わなかったんだぜ?何か緊急事態でも起きたのかと思うだろ?
それで待ち合わせ場所の公園に向かってみたらさ………いきなり抱きつかれたんだよ、しかも────
『すまない……私のせいで……!』
────なんて、泣きながら謝られたんだぜ?おかげで俺の脳は宇宙猫状態よ
そんでまぁ、そこから暫く抱きつかれた状態のまま慰めてたんだけどよ、そしたら急に
『………右目に触れさせてくれないか』
って言われて俺はゾッとしたね
え?俺の眼球をどうするつもり?って思ってたらどうやら違ったみたいで、別に直接触るって訳じゃなかったらしい
………そんで冒頭に戻るって訳だ
「………すまない、情けないところを見せてしまった」
いや、別に構いませんけど………何かあったんですか?
「……不安になってしまってな」
錠前さんは目線を落としながらそう呟くが……不安って何が?俺の右目に何かあんの?
しかしまあ、錠前さんの深刻そうな表情を見る限り、それなりに重要な事なんだろうな
………で?結局、何が不安なんです?
「……私が……切り裂いた……」
……はい?
「私が……酒泉の右目を切り裂いたんだ……!」
あーそっかそっか、なるほどね
俺の右目を切り裂いちゃったかー、だからそんなに落ち込んで─────
─────……んー?なんかおかしくねー?
「最初はただの夢だと思っていた……だが、同じ夢を見れば見るほどにその時の感触がより鮮明になっていくんだ……!」
「私に手を差し伸べてくれた酒泉の目を……私は……私は……!」
「私達を救おうとしてくれたお前の目を奪ってしまったっ!お前を深い憎悪の中に閉じ込めてしまったっ!」
おおう……そんなに深く落ち込まなくても……
百合園さんの予知夢と違ってただの夢だし、そこまで心配しなくても大丈夫でしょ
現に今こうして俺の右目は健在なんだし、どれだけ実感が込もってようと夢は夢だ
まあ……俺と錠前さんが和解せずに敵対し続けていたならそういった事も〝あり得たかもしれない〟が……
俺と錠前さんが戦う理由なんてもうないんだから、今後夢と同じような展開になる可能性は万に一つも存在しない
「……自分でも滅茶苦茶な事を言っているのは分かっている……だが……こうして直接目の状態を確かめた今でも〝あれは現実だったんじゃないか〟と思ってしまうんだ」
………大丈夫ですよ、絶対にそんなことは起こり得ないんで
それとも何か?俺が錠前さんに簡単に目を切られるほど弱い人間だと?
「い、いや……そういうつもりで言った訳じゃ………」
ですよねぇ?だって……錠前さんが俺に勝てる可能性なんて数パーセントしかありませんもんねぇ?天地がひっくり返ろうとそりゃ無理ですよ
「……むっ………流石に侮りすぎだぞ、私だって任務外の日でも訓練は続けているんだ」
へえ?じゃあ勝負してみます?……と言っても、錠前さんは監視されてますし、ゲーセンとかバッセンとかその辺のものになるでしょうけど……
「……いや、私は……」
………あっ、やっぱ無しで
錠前さんって全部下手そうだからなぁ………
「………良いだろう、その挑発にあえて乗ってやる」
そういって立ち上がると、すぐに目的の場所まで向かおうと急かしてくる………これでちょっとでも気が紛れてくれればいいんだけどな
………アリウス時代の錠前さんなら、こんな挑発には乗らなかっただろうなぁ……
年相応の感情を手に入れてくれたようで本当に良かった
それにしても………この前の小鳥遊さんとの出来事といい、最近よく妙なことが起こるなぁ……
………あっ、それで思い出した。そういやあの後の事だけど………後日、何故か小鳥遊さんにお詫びとしてクジラのぬいぐるみを渡されたんだよな
なんでクジラ?とも思ったけど、断るのもなんだか申し訳ないし素直に受け取っておいた
あとついでにクジラのシールも渡された、携帯に張っ付けておいた
「何をしている酒泉、早く行くぞ。それともまさか………自分から挑発しておいて、今更怖じ気づいたのか?」
ふ……ふざけやがって………
後悔しやがれ─────っ!!!!
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普通に勝った
「………実銃なら負けなかった」
ガンシューティングでボコボコにされた錠前さんは言い訳を吐く、情けない奴!
ちなみにガンシューティングで遊ぶ前にも格ゲーとか音ゲーとか色々やってみたが、全部圧勝だった
え?初狩りなんかして恥ずかしくないのかって?結果こそが全てだし問題ない
「……次はアレで勝負だ、今度こそ……!」
そう言って錠前さんが指を差した方には……
……ああー……プリクラか、あれは別に対戦ゲームとかじゃ────
────待てよ?ちょっと良いこと思いついてしまったんだが?
………よし!錠前さん!その勝負、受けて立つ!
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「……しゅ、酒泉……本当にこれでいいのか……?」
ええ、そうですよ……くっ……!
「……何故笑っている?」
べ……別にっ?……ふっ……う……!
「……しかし、変わったルールのゲームだな────」
「────写真の中の自分達をより可愛く飾り付けた方が勝ちだなんて………」
………っ!……ふっ!
「……やはり笑っているだろう」
き、気にしないでください……思い出し笑いなんで……!
そ……それよりも、早くデコった方がいいですよ?他にも待ってる人達がいるんで
「むっ……そうだな、なら最後にこの猫の耳を……」
…………ぶふっ!?ぐっ……くぅ……!は、腹が……!
「………どうせ私は可愛くないさ」
あっ……いや、錠前さんは可愛いですよ?
「……そ、そう……か?」
そりゃあ、勿論。誰の目から見ても可愛いし美人ですし………その分、ポンコツ発揮した時のギャップが面白いんだけどな……
「そ、そんなに褒めないでくれ………一応聞いておくが、お前はどのパーツが私に似合うと思ってるんだ?」
え?勝負なのに俺に聞いたら意味なくないですか?
「………こっちは初心者なんだぞ、少しぐらいはハンデをくれてもいいだろう?」
まあ、良いですけど………じゃあ、この猫耳に合わせてこの猫髭とか?
「そうか、お前はそれがいいのか………よし、これで完成か?」
はい、後は決定ボタンを押すだけですね
「………押したぞ、いつ点数が出てくるんだ?」
…………あー……錠前さん……俺、一つ嘘を吐きました
実はこれ、対戦ゲームなんかじゃないんです
「………何?」
これ、ただ写真を撮ってそれを好きなように加工するだけの機械なんです
だから点数も何も出てきません、勝負もできません
「……何故、そんな嘘を────」
そんなの決まってるでしょう、錠前さんの撮ったプリクラをアリスクに見せる為ですよ
「……は?」
あ、ちなみにもう全員のモモトークに流しました
「なっ……なっ……!」
「何を笑っているのかと思えばそういう事だったのか!?」
良かったじゃないですか!もう既読ついてますよ!
「消せ!今すぐ消せ!」
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そっぽを向いている錠前さんにソフトクリームを手渡しながら機嫌を伺う
しかし返事がない、ただのしかばn……あ、ソフトクリームは受け取ってくれるのね
ごめんなさいってー……そろそろ機嫌直してくださいよー……
「……………一つだけ聞かせろ、プリクラ内で言っていた事も嘘だったのか?」
プリクラ内で?
「だ、だから……アレだ……その、かっ……かわ…………何でもない、忘れてくれ」
……ああ!アレは全部本当ですよ!流石に冗談でもそこまで失礼な事はしませんって!
「そ、そうか……」
やっと此方を向いてくれたかと思えば、今度は照れくさそうに口を開く
「………その、今日は色々と世話になったな………私の気を紛らわす為にここまで連れてきてくれたんだろう?」
……バレてました?
「お前の考えなどお見通しだ、そう簡単に出し抜けると思うなよ?」
でもさっき騙されて────
「それは忘れろ!………とにかく、今日は楽しませてもらった…………ありがとう、酒泉」
フッと微笑んでから背を向けると、帽子を深く被って歩き出す
……が、何故か途中で立ち止まって振り向いてくる
「……もし……もし、また悪夢に魘されるような事があったら、その時は………また頼ってもいいか……?」
心配そうに尋ねてくる錠前さん
………答えは決まってる
─────じゃあ、次に遊びに行く場所考えておきますね
「………ああ!」
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「お待たせしました!コハルちゃん!ハナコちゃん!」
「ごめん、目当てのスカルマン缶バッジが出るまでガシャポンを回してたら……思ってたよりも時間がかかっちゃって……」
「いえ、私達も二人きりで楽しんでいましたので♡ねっ?コハルちゃん♡」
「…………」
「……コハルちゃん?」
「……コハル?どうかしたの?」
「……えっ?」
「いや、ずっと何かを見つめていたから………」
「何か気になることでもあったのですか?」
「……なっ、なんでもない!それよりもハナコ!アンタも誤解を招くようなことを言わないでよ!二人で会話して時間を潰してただけじゃない!」
「あら?誤解とは………具体的にどのような?」
「うぇ?そ、それは…………………ああもう!そういうのいいから!早く行くわよ!ペロロ様の映画を観に行くんでしょ!?」
「あっ!?待ってくださいコハルちゃん!」
「……結局、コハルは何を想像していたの?」
「ふふっ♡アズサちゃんもそのうち分かりますよ♡」
「………?」
「……さっきの男の子……まさか、夢に出てきた………」