「……申し訳……ありませんでした」
ん?何がです?
「まさか本当にこんな事になるとは………これも全て私の考えが甘かったせいです……」
桐藤さん……
「私が……私が酒泉さんとセイアさんの言葉を信じていれば────」
俺はむしろ安心しましたけどね、俺のことを疑ってくれて
「────え?」
もしあの時、無条件で俺の話を信じていたらそれは〝聖園さんを疑う〟ってことですから
だから桐藤さんが聖園さんのことをちゃんと大切に思ってるんだなって分かって安心しましたよ
「…………」
ティーパーティーの三人は確かな絆で結ばれている、それは決して〝お友達ごっこ〟なんかじゃない
それならきっと、今からでも元の関係に戻れるはずです
「酒泉……さん……」
まあ、とりあえず聖園さんが事を起こす前にチャチャッとアリウス取っ捕まえてちょっとでも罪を軽くしますよ
白洲さんが来てくれたことで以前よりも情報の精度も上がりましたからね
「……本当に申し訳ありません、本来ならトリニティの問題はティーパーティーである私が解決しなければならないのに……」
いやー……これに関しては俺と百合園さんが特殊だっただけなんで仕方無いと思いますよ?
「ですが……」
……そんな思い詰めないでくださいよ桐藤さん、こっちの事は俺に任せてください
全部終わったら聖園さんにお仕置きして、それでまた三人で椅子に座れるように頑張ればいいだけなんですから
………そうですね、お仕置きの具体的な内容は〝三食ロールケーキ生活〟なんてどうですか?
「……ふふっ、面白いことを言いますね?」
そうですか?初めて会った時に見た、桐藤さんが聖園さんにロールケーキぶちこんでる光景に比べたら大したことないですよ
「あ、あれは忘れてください!誤解されないように言っておきますけど、普段からあんな事をしている訳ではありませんから!」
冗談ですよ冗談………でも元気になって良かったです
「あっ……まさか、この為に?」
いや、単純に桐藤さんをからかおうとしただけですけど
「……もう、そういう余計なことは言わなくていいんですよ」
ははっ……あ、そういえばあの話ってどうなりましたか?
「補習授業部ですか?それなら問題無く立ち上げられました………でも最初から犯人が分かっているのに、何故立ち上げる必要があるのでしょうか」
んー……まあ、俺の我儘ですかね?
「酒泉さんの?」
なんとなくあの四人には一緒にいてもらいたいんですよ、それが白洲さんの為にもなりますしね
「そうですか……酒泉さんのことですから、きっと私には見えないものが見えているのでしょうね」
そんな感じです………っと、もうこんな時間か……
「少し話しすぎましたかね……では、私はそろそろこの辺りで」
外も暗いんで途中まで送ります………って言いたいところなんですけど……
「酒泉さんは今は迂闊に外出できませんからね………そのお気持ちだけでも十分ですよ」
すいません……
「……酒泉さん」
はい?
「貴方には色々と重荷を背負わせてしまいましたね、私がミカさんの心にちゃんと向き合っていたら……」
桐藤さんストップ、またネガティブ入りかけてますよ
「……すみません」
あと〝背負わせてる〟って言いましたけど、その言い方は間違ってますね
「え……?」
正しくは〝俺が自分の意思で勝手に突っ走ってるだけ〟です、だから桐藤さんもそんなに責任感じないでください
聖園さんが帰って来たらいつもの三人でロールケーキを食べる、桐藤さんはそれだけを考えていればいいんですよ
「………そう、ですね」
……なんだか説教っぽくなっちゃいましたね、ごめんなさい
「い、いえ………その、でしたら酒泉さんも一緒にどうですか?」
……俺?
「はい、いつもの三人と言っていましたけど……その、もしよろしければ酒泉さんも……」
あー……気持ちは嬉しいんですけど遠慮しておきます、せっかく元に戻った三人の邪魔をするのも申し訳ないので……
「………鈍感ですね、これはミカさんも苦労するわけです」
え?何がです?
「いえ、ただ〝真夜中にこうして一人で会いに来た〟という事実を踏まえて考えてほしかっただけですので……では、また明日」
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「……遅かったな、ミカ」
アリウス自治区に繋がるカタコンベから少し離れた場所、そこでアリウス所属の生徒・錠前サオリが辺りを警戒しながら待っていた
「………久しぶりだね、サオリ。あの暗殺計画から少し経っちゃったね」
「……一度失敗した以上、迂闊に行動する訳にはいかなかったからな」
そう返答するサオリに、ミカは無言で近づく
「……?一体なん─────っが!?」
サオリが口を開いた瞬間、ミカの手がサオリの首に襲いかかる
「その話なんだけどさぁ……私、ちょっとセイアちゃんを脅かすだけでいいって言ったよね?」
「ぐっ……ぁ……なに、を……」
「それなのに、セイアちゃんを脅かすどころかさぁ………どうして酒泉君が死んでるのかなぁ!?」
「っ………!」
ミカが首を絞める手に力を込めると、サオリは苦しそうに悶える
「……元はと、言えば……ぐっ……お前、が、持ち込んだ……計画、だろう……!」
「………っ」
サオリの言葉に身体が固まり、その手を離すミカ
呼吸を整えながらサオリは更に言葉を続ける
「仲間を裏切る事を選んだ時から覚悟はしていたはずだ、こうなる可能性があることを………仲間を傷付けたくないのなら最初からその選択をしなければよかっただけの話だ」
「……別にそんなんじゃないよ、彼って結構強いから手駒にするにはちょうどいいかな~って思ってただけ」
「それなら先に話を通してくれ、そうすれば此方も作戦を考え直したものを……」
「うるさいなぁ……分かってるって、それで?次の手はどうするの?」
「………もう一度アズサに任せる。百合園セイアの襲撃には失敗したが、唯一アズサの顔を目撃している折川酒泉の殺害には成功しているからな」
「………念のため言っておくけど、セイアちゃんに関しては殺すんじゃなくてちょっと脅かすぐらいでいいんだからね?もしまた失敗したら……」
「分かっている、アズサにもよく言い聞かせておこう」
「……あっそ、それなら良いけど」
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折川酒泉の訃報から暫く混乱が続いたが、時間はそれが静まるまで待ってくれない
調印式が近づくに連れ、折川酒泉の訃報を上書きする様に少しずつ問題が重なっていく
今後のゲヘナとの関係、調印式における各組織の役割、そして少し前にキヴォトスの外からやって来た〝先生〟の存在
トリニティが片付けなければならない仕事は山程あった、特に先生の待遇については丁重に扱わなければならない
先生と同じ〝ヘイローを持たぬ者〟がある日突然殺害されたのだ、それも当然の話だろう
言い方は悪いが、世間はいつまでも故人になど構っていられないのだ
…………しかしその故人を忘れられぬ者達も当然存在する、特に彼と関わりの深かった者達は
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「あ……アズサちゃん、その計算式ちょっとだけ違いますよ」
「え?……あ、本当だ」
「でも以前よりも正解してる問題の数が多いですよ、その調子です!」
「うふふ、もし全問正解できましたら……ご褒美を差し上げましょうか♡」
「あ、あはは……良かったですねアズサちゃん……」
阿慈谷ヒフミは普通の少女である
人より突出した才能がある訳ではないが、かといって何も出来ないという訳ではない
しかしそんな彼女にも長所がある、それは交友関係の多さだ
相手が誰であろうと優しく、そして穏やかに接し、友達のためなら体だって張る
そんな彼女に心を惹かれた者は大勢いる、そしてそんな彼女の長所は補習授業部においても効果を発揮していた………一人を除いて、だが
「それにしても、自習を始めてから結構時間が経ちましたね……少し休憩にしませんか?」
「私はもう少しいけるけど……」
「あらあら、頑張りすぎるのも良くありませんよ?たまにはゆ~っくりと身体を休めませんと……ね♡」
「さ、さっきから何か言い方がおかしくないですか……?」
「あら?ヒフミちゃんは一体何を想像したのでしょうか?」
「い、いえ!?別に何も変なことは考えていませんよ!?」
「確かに、戦士にも休息は必要だと言うし……うん、わかった。休息しよう」
「そ、そうですね………それじゃあ、皆で休憩にしましょう!」
そう言うと各々がペンを置いて姿勢を崩す、それぞれが休もうとする中────
「…………」
────カリカリと一人だけペンを動かす音が聞こえる
「コハルちゃん?休まないんですか?」
その音を出している者……下江コハルにヒフミが話しかける
「…………」
「コ、コハルちゃん?」
「…………」
「コハル、ここで休まないと後々疲れが来るぞ」
「…………」
「あら……勉強熱心なのは良いことですけど、少しは休まないと────」
直後、パタンッというノートを閉じる音と共にコハルが机の上の教科書をカバンに仕舞いはじめる
「コ、コハルちゃん、どうしたんですか?この後先生が────」
「………私には必要無いから」
「コハル、何処へ行くつもりだ」
「別に、一人で集中できる場所に行って勉強の続きをするだけ」
「それなら皆で勉強した方が………」
「私はアンタ達と違って休んでいる暇は無いの」
そう言い残すとコハルはカバンを持って教室を出ていった
何者にも関与させないと言わんばかりの態度に、ヒフミ達はその背中を見送ることしかできなかった
「コハルちゃん……」
「…………どうやら彼にはお仕置きが必要みたいですね♡」
「……え?彼?」
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「そう、私には休んでる暇なんて無いの」
「もっと勉強して、もっと強くなって、もっと賢くなって」
「それでエリートになって………そしたら、きっと……」
「………酒泉も褒めてくれるはず、酒泉も喜ぶはず」
「………酒泉、も……帰って、くる……はず……」
「死んで……ないもん……酒泉は、生きてる……もん……」
「き、きっと……そうよ、成長した私の前に現れて……ま、またいつもみたいに褒めてくれるもん……」
「やくそく……したもん……うぅ……ずっといっしょに……ひぐっ……いてくれるって……」
「わたし、こんなにがんばってるんだよ?だ、だから……っ」
「ぐ……うぅぅ……はやく……はやくかえってきてよお……!」
「やだよお!しゅせん、またあいたいよお!」