〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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シスターフッドのピュアピュア修道士君(比較的)

 

 

 

 

『いいかい酒泉、神様にはあまり期待するんじゃないよ』

 

 

 

それが俺を拾ってくれた〝ばあちゃん〟の口癖だった

 

ばあちゃんと言っても別に直接的や間接的な血の繋がりがある訳じゃない。そもそも俺は人間でばあちゃんは鳥人だ、ならば何故他人である俺とばあちゃんが一緒に暮らしているのか……はい、ここから誰得な俺の過去編はーじまーるよー、はーいよーいスタート(棒読み)

 

俺は幼い頃、とある孤児院で育てられた。その孤児院の経営者達は別に子供達に本当の親の様な愛情を与えてくれるわけじゃなかったけど、かといってネグレクトしてきたわけでもなかった

 

作業の様に子供達の世話をして、作業の様に食事を与えて、作業の様に子供達を寝かしつける……それだけだ

 

ただ、それでも俺にとっては間違いなく経営者達は善寄りの人達だった。何故なら愛情を与えられなくても俺が生きていく為の食事や寝床は用意してくれたのだから

 

だから彼等に感謝はしていたし、自分の境遇に対して特に不満も感じていなかった────俺がワケわからん大人達に売り飛ばされそうになるまでは

 

ヘイロー無し、男子生徒、出生不明、何がアイツらの興味を引く要因になったのかは知らんが、どうやらその大人達は俺を引き取ろうとしていたらしい……大金と引き換えに

 

その取引の前日に運良く大人達の会話を盗み聞きできた俺は貯めてきたお小遣いを持ってすぐに孤児院を抜け出した

 

どうして俺を売ったのか、子供を簡単に捨てられるほど情も無いのか、ならば何故孤児院の経営をしている?

 

頭の中でずっと繰り返し浮かび上がる疑問を投げ掛けることもなく、ただひたすら孤児院から離れる為に走り続けた……ってのは大袈裟か

 

勘違いされないように先に言っておくが、俺の逃走劇はアニメや漫画の様に山あり谷ありの展開ばかりだった訳ではない

 

盗み聞きしてからすぐに孤児院を抜け出したから時間的には比較的余裕があったし、金だって貯めてきたのを持っていったからバスや電車等の交通機関だって利用できた

 

むしろ楽に移動できる場面の方が多かっただろう

 

しかしバスに乗る際に1つの悩みが生じた、内容は別に深刻でもなんでもない〝右と左、どっち方面のバスに乗ろう〟というものだ

 

その時の選択で俺が選んだのは右、理由は特にないが結果的にトリニティ方面に近づいてばあちゃんと出会えたのでその選択は正しかったのだろう

 

もしゲヘナ方面に移動してたらゲヘナ学園に通ってたのかなーとか思わんでもないけど、それはもう過ぎた事だし俺は自分から好んであんな荒れた学園に通うような狂った精神も持ち合わせていないのでこの話はするだけ無駄だろう

 

話は戻ってトリニティ方面のどっか適当なバス停で降りた後の話、俺は適当な場所に設置されていた町の地図を見て何の特長もない小さな公園で1人ぶらぶらと歩き回っていた

 

さて、この後はどうしようか

 

孤児院に戻る?それは論外だ

 

1人で生きる?金も権力も力も無いのに?

 

ヴァルキューレとは違う大人の警察に頼んで保護してもらう?……そうしよう!

 

次に預けられる施設がどんな場所になるのかは分からないが、少なくとも子供を売るような施設なんて俺が元居た場所ぐらいだろう、今度こそきっと大丈夫なはず

 

早速未来に希望を見出だした俺はうっきうきの明るい笑顔でスキップしながら警察署に向かい始めた……訳じゃないんですわこれが

 

頼れる友達も両親も前世に置いてきてしまった俺は心細さを感じながら独り寂しくトボトボと一番近い警察署方面の電車に乗りに行こうとしていた

 

 

『なんだい?ガキのくせに随分とショボくれた顔してんねぇ……』

 

 

公園を出てからまだ10メートルも歩いていない段階でいきなり話しかけられた

 

茶色い羽毛、真っ黒の目、どこか老いを感じさせるような立ち振舞い、この相手こそがさっき言った鳥人のばあちゃんだった

 

その時の俺は余裕の無さから〝いえ、別に……〟とか素っ気なく答えていた気がする、しかしばあちゃんは初対面の俺の襟をぐいっと掴んで無理やり引き留めた

 

 

『そんな死にそうな顔してるガキ、見過ごす訳にはいかないよ』

 

 

ばあちゃん、俺、既に死んだ後です

 

自分の想像以上に精神的疲労が大きかったのか、そんな冗談を考える程度の余裕は残っていたものの、やはり返事をする余裕はなかった

 

だから俺を公園のベンチまでズルズルと連れ戻すばあちゃんに抵抗できなかったのも仕方ない事だった

 

 

『ほら、とりあえずこれ食って元気だしな』

 

『ありがとうございま……生のごぼう!?』

 

 

ばあちゃんはレジ袋から生のごぼうを取り出してそれを俺に押し付けると〝話したくなったら話しな〟と俺が口を開くのを待ってくれた、生のごぼう食っただけで話したくなるわけねーだろ

 

ちなみにばあちゃんは俺の隣でクリームパン食ってた、そっちください

 

 

『そんな顔したって駄目だよ、これはアタシが自分で働いて得た金で買ったやつなんだからねぇ』

 

 

それごぼうだって同じだろと思いながら自分の残り残高を見る。残りは7800円程、子供が持つ金額にしては十分すぎる

 

これぐらい残ってるなら俺も菓子パンを幾つか買った上で警察に行く為の金はしっかり残しておけるだろう

 

俺も菓子パンかなんか買って腹拵えしてから出発するか、そんなことを考えながら空腹と精神的疲労と肉体的疲労のせいでやけに重く感じる身体を無理やり立たせながらどっかのコンビニでも探そうと歩き始める

 

 

『まあ、お前がアタシの仕事を手伝ってくれるってんなら買ってやらなくもないけどねぇ』

 

『いえ、結構で────』

 

『今なら三食寝床付き、着替えだって用意しとくよ……まあ、その代わりアタシと一緒に暮らすことになるけどねぇ』

 

 

最後の言葉を聞いた瞬間、身体が固まる

 

どうして出会ったばかりの子供に衣食住の提案を?それじゃあまるで俺が家出してきたと分かってるみたいな────

 

 

『居場所を失った奴ってのは全員決まっておんなじ顔をすんのさ、宝物を目の前で壊されちまって今にも泣き出しそうな……そんな顔を』

『……たったそれだけで?』

 

『過去にお前に似たような顔の奴を引き取って一緒に暮らしてたことがあるからねぇ』

 

『……引き取って?』

 

 

もしやこの人も孤児院の経営者なのか

 

その可能性が頭に過った途端、つい最近孤児院の経営者に売られそうになった事もあって自然と身体が警戒態勢に入ってしまう

 

しかしばあちゃんはそんな俺の考えを否定するかの様に首を横に振った

 

 

『アタシは別にガキ共を育てる仕事をしてるわけじゃないよ、言っちまえばただの趣味さ』

 

『趣味って……』

 

『この歳になってくると他にやりたい事が無くなってくるからねぇ』

 

『……今は何歳───あ痛っ』

 

『レディに年齢を聞くもんじゃないよ……最近八十代になったばかりのピチピチギャルさ』

 

『それでピチピチギャルなら俺はまだ母さんの腹に居ますね』

 

『ガキのくせに口が回るじゃないか』

 

 

頭をガシガシと雑に撫でまわされ、髪の毛がぐしゃぐしゃにされる

 

しかし俺の方も〝やめてください〟と口では言っているものの、その手を無理に振り払おうとはしていなかった

 

前世の父親や母親とは違う人間じゃない鳥人の手、それでもあったかくて撫でられると胸がポカポカするところは同じだった

 

 

『……さっき言ってた〝仕事〟って……どんな内容ですか?』

 

『おや?興味が湧いたかい?』

 

『……とりあえず話だけでも聞こうと思って』

 

『そうかい……まあ、仕事と言ってもそんな難しい事を頼む訳じゃない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『殆ど人の来ないちょっとボロっちい聖堂の掃除を頼みたいだけさ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そこまで大きくない山の中を歩いていると建物〝らしき〟シルエットが見えてきた

 

 

『……さっき〝ちょっとボロっちい〟って言ってましたよね?』

 

『ああ、それが?』

 

 

完全に縁から外れている木の扉、歪に穴の空いた割れた窓ガラス、蔦が巻き付いた柱、座っただけで崩れそうな長椅子の数々、恐らく野良猫達がぶちまけたであろう糞

 

明らかに〝ちょっと〟の範囲を越えているであろう聖堂に連れてこられた俺は思わずドン引きしてしまった

 

 

『……ちょっと?』

 

『ちょっとだよ』

 

『ちょっとかぁ……』

 

 

チラッと部屋の隅を見れば蜘蛛の巣が張られており、その様子からこの聖堂が暫く手入れされていない事を悟る

 

因みにその蜘蛛の巣には蝶々が数匹引っ掛かっており、その巣の上部から蜘蛛がゆっくりと身動きの取れない蝶々に近づいていたが、別に自然界の弱肉強食の掟を崩すつもりはないので普通に見捨てる

 

あの蜘蛛は今の俺と同じ立場だ、俺が蝶々を助けてしまったら今度は蜘蛛が〝今日の食い扶持はどうしようか〟と悩む羽目になってしまうだろう

 

 

『別に今日だけで聖堂全体を綺麗にしろって訳じゃないさ、毎日ちょっとずつ掃除を続けてくれたらそれでいい』

 

『……ある程度綺麗にしたら?』

 

『安心しな、その後も衣食住の面倒は見てやるよ』

 

 

勝手に蜘蛛に共感して〝頑張れよ〟なんて思っているとばあちゃんが仕事内容を説明してくれた

 

ちょっとずつ掃除するだけ、たったそれだけで生きていくのに必要は物を用意してくれる。なるほど、これは確かに破格な条件だ

 

……正直、誰かの世話になるというのならここで断って大人しく警察を頼るという手もあった

 

そうして俺が元々暮らしていた施設とは別の施設に預けてもらった方が……まあ、自由時間はある程度縛られるかもしれないけどそっちの方が待遇は良かったかもしれない

 

 

『……あの』

 

『ん?』

 

『……本当にいいんですか?』

 

 

だというのに、俺はばあちゃんに遠慮がちに聞いてしまっていた

 

あの時ばあちゃんを頼ったのは、全てを前世に置いてきてしまった俺が〝家〟という居場所と〝家族〟という近しい繋がりを無意識に欲していたから……なのかもしれない

 

……尤も、一緒に暮らすことを選んだからといってばあちゃんが俺を家族だと思ってくれるとは限らないのだが

 

 

『ガキが遠慮なんてするもんじゃないよ、ガキならガキらしく堂々と元気に喋るもんだよ!』

 

『いづ……はい!ここで働かせてください!』

 

『それでいいんだよ、それで!』

 

 

背中をバシッ!と強めに叩かれ、それに背中を押されたかの様に大きな声で頼み込む

 

するとばあちゃんは俺の態度に満足したのか、豪快に笑いながら頷いた

 

 

『よし!そうと決まれば早速これから……えっと……名前は?』

 

『今更!?……えっと、酒泉です』

 

『酒泉!これからお前が暮らすことになる家まで案内するよ!』

 

『ありがとうございます……えっと……』

 

『アタシの名前は水鶴みつる……だけど名前で呼ぶ必要はないよ!アタシのことは〝ばあちゃん〟とお呼び!それと敬語もやめること!』

 

『は、はい?』

 

『〝ウチで暮らす以上、他人行儀に接することは許さない〟……これは今まで育ててきたガキ共全員に守らせてきたルールだ』

 

 

最後のルールに関しては一瞬だけキョトンとしてしまったけど、別に嫌だったわけでもないしむしろ嬉しかったから素直に頷いた

 

これが俺がばあちゃんを〝ばあちゃん〟と呼ぶようになった切っ掛けだった

 

 

 

 

 

 

 

 

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『ほら、さっさと上がりな』

 

『お、お邪魔します……』

 

『……違う、そこは〝ただいま〟だ』

 

『……ただいま』

 

 

 

先程の聖堂の次に案内されたのが同じ山の中に建てられていたばあちゃんの家……つまりこれから俺が暮らすことになる場所だった

 

所々ヒビが入っているものの、生活するにあたって大して影響は無さそうな外壁

 

錆びてはいるが特に気にする程でもないポスト

 

内装に関しても普通の茶色い廊下に普通の茶色い階段に普通のリビング……エトセトラエトセトラ

さっきのオンボロ聖堂とは違って外も内も極めて普通の二階建ての家、何か挙げるとすれば少々古さを感じさせるぐらいか

 

 

『酒泉、お前の部屋は二階の一番左の空き部屋だよ。とりあえずそこに荷物置いてから下りてきな』

 

『あっ……はい、わかりました』

 

『〝わかりました〟じゃなくて〝わかった〟だ、返事は?』

 

『……わかった』

 

 

ばあちゃんに言われるがまま二階に上がり、一番左の部屋を開ける

そこにはベッドと勉強机以外の物は置かれておらず、他には何も────いや、1つだけあった

 

『……なんだこれ?』

 

 

ポツンと壁に掛けられていたのは天使達に称えられている神様らしき老人の絵

 

さっきの聖堂といい、もしかしてばあちゃんはそういった存在を信仰しているのだろうか……

 

まあ、だとしてもそういう文化の事に関しては前世から変わらず〝信じたい人だけ信じればいいと思う〟程度の認識だったし別に嫌悪感とかは無かった

 

 

『酒泉、そういえば言い忘れてたけどウチの鍵は1つしかないから合鍵とかは……ん?何をボーッとしてんだい?』

 

『あ、水鶴さ……ばあちゃん』

 

 

何かを伝えにきたばあちゃんが二階に上がってくると神様の絵を眺めていた俺にばあちゃんが話しかけてくる

 

 

『……それが気になるのかい?』

 

『まあ、何となく……水鶴さ……ばあちゃんは神様とか信じてるんです……のか?』

 

『まあね、むしろ存在してもらわないと困るのさ』

 

『困る?なんで?』

 

『だって────神様が存在してないとぶん殴れないだろう?』

 

 

悪ガキの様にニヤリと笑うばあちゃんに〝どうして?〟その理由を問うと、ばあちゃんはその部屋のベッドに腰掛けて語り始めた

 

 

『アタシの家系は代々神様だのなんだのそういうのを信じていてね、その信仰強さは親戚の連中にまで広まっていたのさ』

 

『ふーん……ばあちゃんも?』

 

『今はね』

 

『じゃあ昔は信じてなかったんだ』

 

『ああ、むしろ神だの何だの曖昧な存在に縋るような連中の事は大嫌いだったさ。それでも信じるようになったのは……孫の影響かねぇ』

 

 

ばあちゃんはそう言ってベッドをぽんぽんと叩いてから部屋中を見渡す

 

ベッド、勉強机、天井、床、そして────さっきまで俺が眺めていた絵に順番に視線を向ける

 

 

『この部屋は元々孫が使ってた部屋でね、本当はもっと色んな物が置いてあったんだ。それこそ孫自身も信心深いのもあって神様にまつわる本だとか毎日綺麗に聖水で清め続けた神仏像だとか、当時のアタシからしたら大して興味も湧かない物ばかりだった』

 

『え?じゃあお孫さんの部屋を俺が勝手に使うのはまずいんじゃ……』

 

『気にする必要はないさ、もうこの世にいないんだから』

 

『……え?』

『ある日、アタシの息子とその嫁……要するに孫の両親が事故にあった』

 

『────っ』

 

『歩行者信号が青だったにも関わらず、居眠り運転したトラックに突っ込まれて即死だったんだとさ』

 

 

まさかいきなり重い話にまで発展するとは思っておらず間の抜けた声が出てきてしまった

 

しかもそれがどこかの誰かさんの死因とそっくりだったもんで、つい身体がほんの一瞬震えてしまう

 

 

『その日、両親は孫の13歳の誕生日記念としてどこかのレストランで食事をしに行った帰りだった。けど、どうやら孫だけレストランに携帯を忘れてきたみたいでねぇ』

 

『……まさか───』

 

『その通り、その忘れ物のお陰で孫は1人だけ助かったのさ』

 

 

命が助かった事に関しては運良く、両親に置いていかれた事に関しては運悪くか

 

俺は〝置いていく側〟になった事はあるけど〝置いていかれた側〟になった事はない、それでも1つだけハッキリと分かることがある

 

それは、孤独になる事の辛さだ

 

つい先日まで両親に与えられていた優しさを、愛情を、温もりを、それら全てを突然奪われる……そんなの13そこらの子供に耐えられるはずがない

 

 

『戻ってきた時には既に現場は血だらけ、さっきまで話していた筈の両親は喋らない肉の塊に、そんな現実を目の当たりにした孫はショックで心を病んじまった……そんなんだから縋っちまったのかねぇ、神様なんて存在に』

 

『何を───って、すいません……両親の事以外考えられませんよね……』

 

『そうさ、孫は毎日毎日神様に〝もう一度お父さんとお母さんに会わせてください〟って祈り続けてたんだ。自宅療養中も、多少精神が安定した後も、学校に通えるぐらい回復した後も、ずっとずぅーっとね』

 

『……精神が安定したのに神頼みを続けてたんだんですか?』

 

『……言い方が悪かったね、正しくは〝人前で心の傷を隠せる程度には回復した後も〟だ』

 

『……じゃあ、心の奥底ではずっと苦しみを抱え続けてたんですね』

 

『そうだ、そうして祈り続けた私の孫に神様は何をプレゼントしたと思う?』

 

『え?えっと……』

 

『余命宣告さ、あと2年でお前は死ぬぞってさ』

 

 

再び絶句してしまう

 

両親を喪い、自分だけ残り、そのショックを隠せる程度に心が回復してきたかと思えば今度は自身の命のタイムリミットを告げられる

 

これじゃまるで、世界そのものから理不尽を押し付けられてるような

 

 

『小児癌っていったかね?完治まではいかずとも大半の病気は進行を遅らせたりある程度回復させたりできる現代社会の医療技術だけど、運の悪い事にアタシの孫はその〝大半〟の中には入れなかった』

 

『……じゃあ、お孫さんは……』

 

『特に大した抵抗もできずあっさり死んだよ……でもね、孫は自分の死を全く恐れてなかった』

 

 

あり得ない、そう思ってしまった

 

前世の俺みたいに怯える暇もなく即死して、運良く転生して後から死の恐怖を感じるようになる……こういうのなら理解できる

 

でも、普通の子供が余命宣告されてるのに死への恐怖を一切感じないだなんて

 

 

『むしろ孫が一番恐れていたのは死ぬ事によってお祈りができなくなる事だった、〝もっと沢山神様に祈らないと神様は願いを叶えてくれないだろう〟って、孫は自分の命なんかより父親と母親に会いたいという願いの方が大切だったのさ……その再会もあの世ですることになるとはねぇ』

『……ばあちゃん、さっき〝孫の精神が安定した後も祈ってた〟みたいなこと言ってたよね。失礼な言い方になるかもしれないけどそれって────』

 

『分かってるよ……今にして思えば、本当は神様に依存して何とか精神を保たせてただけなんだろうね。それに……生前はお祈りは家族と毎日やってたみたいだし、祈るという行為そのものが家族との繋がりを感じられるあの子にとっての〝救い〟になってたんじゃないかね』

 

 

公園で見たばあちゃんの豪快な笑みはすっかり鳴りを潜め、今では寂しそうに笑っている

 

 

『……まあ、存在しているかも分からない者に祈りを捧げたところで病気が治るわけもなく、孫は医者の言ってた通り日に日に弱っていったよ。それでも孫は祈りをやめなかった、骨と見間違ってしまうようなほっそい腕になろうと点滴しか受け付けない身体になろうと、自らの命も惜しまずひたすら神に祈り続けた』

 

『……』

 

『そうしていよいよ死の淵に立たされたあの日、孫は最後の力を振り絞ってアタシに話しかけてきたんだ。〝迷惑掛けてごめんなさい〟〝一緒に暮らしてくれてありがとう〟……礼に謝罪、色んな言葉を吐かれたけどその中でも一番印象に残った言葉は……〝僕の祈り、意味が無かったのかな〟だ』

 

 

信心深い孫の最後の言葉は今までの自分の行動を全て否定する様な言葉だった

 

神に祈りが届いてないと思ったのか、それか死の淵に立って漸く神は存在しないと悟ったのか、それとも……その事を薄々と感じていたけどずっと気づかないフリをしていたのか

 

……そのどれが答えだとしても、救いの手が差し伸べられなかった事実に変わりはないか

 

 

『……アタシは震える手を必死に伸ばしながら問いかけてくる孫にこう答えた、〝だったらアタシがお前の代わりに祈り続けてやる〟ってな。アタシがあの世で孫と両親が再会できるようにずっと祈り続けてやる、何度もそう叫びながら孫の手を握ってやったんだ。そしたらあの子、安心した様に笑いながら眠りやがった』

 

『……それが、ばあちゃんが神様を信じる理由?』

 

『そうさ、もしアタシが神様の存在を否定したらそれは孫の祈りも全部否定した事になっちまう。だからひたすら神様の存在を信じて祈り続けることにしたのさ、そして直接会えた日にゃあ……〝どうしてあの子があんな目に遭わなきゃいけなかったんだ〟っておもいっきり殴り飛ばしてやるのさ』

 

『……今の話、どうして俺に教えてくれたの?』

 

『……この家で暮らしていく以上、いつか話さないといけない日が来ると思ってね……それなら最初から全部打ち明けた方が色々と気が楽だろう?』

 

『まあ……』

 

『ほら、話はこれでしまいだ!さっさと降りるよ!』

 

これで全て話し終えたのか、ばあちゃんは一息吐いてからゆっくりと立ち上がった

 

そのまま下の階に降りるばあちゃんについていこうとして……突如、ばあちゃんが足を止める

 

『そういえば言い忘れてたね……酒泉、お前年齢的には中学生か?』

 

『え?まあ……年齢は12だから小学校在学中か中学入りたてかな?』

 

 

この世界での俺の誕生日(というよりも拾われた日)は5月15、そしてばあちゃんに出会った日は2月の話

 

つまり、もし俺が学生だとしたら中学に入学して1ヶ月後くらいにはすぐ誕生日を迎えることになる

 

そんな事を考えている俺にばあちゃんは突然ガラケーをぶん投げて渡してきた

 

 

『そうか、なら携帯貸してやるから適当に自分の通う中学調べておきな』

 

『……え?』

 

『じゃあね、決まったら返しにきてくれ』

『ま……待ってよばあちゃん!』

 

『なんだい?何か文句でも?』

 

『い、いや……そうじゃなくて……衣食住の用意までしてもらったのに学校まで通わせてもらうなんて、流石にそれは申し訳ないというか……』

 

『……たくっ、さっきも言ったけどガキが遠慮すんじゃないよ!子供は子供らしく大人に甘えてな!』

 

『いやっ、待っ────』

 

『待たん!』

 

 

それだけ言い残すとばあちゃんは怒ったように扉を勢いよく閉めてしまった

 

優しいけどそれ以上に豪快で元気なパワフルばあちゃん、とりあえずその日だけでここまでの人柄は理解できた

 

 

『えぇ……遠慮すんなって言われても学校とかめちゃくちゃ金掛かるだろうし……』

 

 

本当に良いのだろうかと思いながらもばあちゃんの厚意を無駄にしない為に携帯を開く

 

検索画面に〝近くの中学〟とか〝中学 バス 無料〟だとか色々打ち込んでいく

 

そうして1時間経ったぐらいのタイミングで漸く通う中学を決めることができ、未だに抱える罪悪感を押し殺しながら携帯を閉じた

 

 

『ごめんばあちゃん、お待たせ───って、あれ?』

『やっとかい……ちゃんと選び終わったんだろうね?』

 

『あ、うん……』

 

 

一階に下りてばあちゃんに携帯を返そうとすると、リビングのテーブルには沢山の料理が並べられていた

 

煮物とか魚とか漬物とか和風の物が多いけどどれも美味しそうだ

 

 

『だったらさっさと座りな、飯にするよ』

 

『えっと……お、俺も?』

 

『当たり前だろう?今日から一緒に暮らしていくんだから……ただし!食事当番は交代制だ!お前にもしっかり働いてもらうよ!』

 

 

交代制どころかここまでお世話になるのなら全部自分が担当でも構わなかった……が、それを進言する前に腹の虫が鳴いてしまった

 

どうやら俺の空腹が限界に達してしまったのでその辺りの事は食べながら話す事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、結局その日は飯食って風呂入って暫く休んでたら一気に眠くなってきたので大人しくベッドで寝たけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

『えっと……確か最初に掃除するのは壁……って言ってたよな?』

 

 

次の日、俺は例の聖堂まで足を運んでいた

 

因みにばあちゃんは家の中にいる、テレビで相撲を観るらしい

 

 

『壁の掃除の仕方は……〝とりあえず落とせる汚れだけ落とせばいい〟?大分雑だな……』

 

 

メモをポケットにしまって掃除の準備を始める

 

ばあちゃんの家なら持ってきたモップやデッキブラシを一旦壁に立て掛け、聖堂の近くにある川からバケツで水を組んでそれを持っていく

 

そしてバケツに入った水でデッキブラシを濡らしてから壁の掃除を始める……勿論、掃除用の洗剤スプレーを壁にかけるのも忘れずに

 

『うおっ……めっちゃ落ちる……』

 

 

柱に巻き付いてる蔦とかを見ると長年放置されてそうな建物だが、壁の汚れとかは意外と簡単に落ちる辺り手の届く範囲の掃除は最低限行ってそうだ

 

 

『天井とかその付近の掃除は……まずは背伸びで届く範囲を終わらせてからでいっか』

 

 

……まあ、それでもかなり時間を掛けて掃除しないといけないだろうけど……建物全体の汚れ具合を見ると天井の掃除や蔦の排除を除いても数ヶ月は掛かりそうだ

 

ばあちゃんも言ってたけど、これは本当に少しずつやるしか無さそうだ

 

 

『……ん?』

 

 

ごっしごっしとデッキブラシで擦りながら横移動していると、ふと昨日見掛けた蜘蛛を今日も発見した

 

この日は蝶々は巣に引っ掛かっていなかったが、代わりにハエが数匹引っ掛かっていた

 

 

『……そういや掃除するってんならこの巣も壊さないといけないな』

 

 

そう呟いてみる……が、蜘蛛に人間の言葉が伝わるはずもなく、そいつは俺の存在など気にせずハエに近づく

 

 

『……まあ、ここを片付けるのは最後にしてやるか。俺もお前も家を借りてる同士だからな、見逃してやるよ』

 

 

ちっちゃな住人を勝手に仲間認定して掃除を再開する

洗剤で落ちた汚れが水と混じり合い、茶色の汚水に変わる

 

しかしその光景に嫌悪を感じたり不快になったりする事はなく、むしろ汚れが落ちているという事実をハッキリと実感できて少しずつ気持ちよくなってきた

 

別に掃除が好きだという訳ではない、だけど綺麗になった部屋を見るのはなんとなく気分が良い

 

 

『……とりあえず1日1時間は絶対に掃除するとして……ん?』

 

 

今後のスケジュールを考えながら掃除を続けていると、聖堂の正面の壁に何かの絵が掛けられているのが見えた

 

いや、掛けられているというよりは……壁に直接描かれている……?

 

 

『……よし』

 

 

なんとなくその絵が気になった俺は左側の壁の掃除を中断し、やっぱり最初は正面の壁を綺麗にする事にした

 

洗剤をかけ、デッキブラシを使い、擦る

 

しかし今回は絵が傷つくのを恐れて力加減をしながら擦る、暫くそれを繰り返しているとなにやら人間の顔の様な部分が……

 

 

『……んー?』

 

 

どこかで見覚えがあるような、そんな事を考えながらその顔の周りを更に擦る

 

すると、そこには神様みたいな格好をした老人の絵が────

 

 

『……あ、これアレじゃん。俺が借りてる部屋に掛けられてた……』

 

お孫さんの部屋にあった絵と全く同じ顔が浮かび上がってきた

 

……もしかしてこの聖堂、あの神様を祀っている場所なのだろうか。お孫さんの部屋にコイツの絵があったのも近くにあったこの聖堂から影響を受けたからなのだろうか

 

 

『……なあ、どうしてばあちゃんの孫を助けてやらなかったんだ?』

 

 

ポロッと溢れた一言、返事は無いが別に期待してもいない

 

本当に何気なく出てきたその一言に反応する者なんて誰もいないはず────だった

 

 

『あっ……』

 

『……おん?』

 

 

ガサッという枯れ葉を踏むような音が背後から聞こえてきた

 

その直後に後ろを振り向いてみればそこには1人の少女が立っていた

 

 

『あ、あの……えっと……』

 

『……何か御用でも?』

 

 

冷静に尋ねながらも少女の容姿を確認してみる

 

瞳はピンクと紫の中間ぐらい……ルージュって言うのか?髪の毛は……銀髪なのか灰色なのかこれまた分かりづらい

 

しかし背中の白い銃には────どこか見覚えがあった

 

 

『その……この辺りに聖堂があるという噂を聞きまして────』

 

『────……あっ!?もしかして〝わっぴ~!〟か!?』

 

『は、はい……?』

 

 

その子は多分、これからそう遠くない未来で滅茶苦茶誤解されまくる少女だった

 

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