〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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鬼方カヨコ元カノ概念と同一の世界線の話です




杏山カズサ女友達概念

 

 

 

 

私と酒泉の出会いは最悪だった

 

何せその頃は私がまだ〝キャスパリーグ〟なんて恥ずかしい呼び名で呼ばれていた時期で、実際に私自身もそんな異名が付けられてもおかしくないくらいには暴れていたのだから

 

そして出会いの原因はとあるスイーツ店の限定ブルーベリーパイだ

 

別にスケバン時代はそんなスイーツばっか食べてる訳じゃなかったけど、なんとなく〝限定〟という言葉が気になってそれを買おうと店に入ったが……

 

そこでわざわざゲヘナからトリニティに出向いてまで買おうとするほど当時から糖分を好んでいたアイツと偶然最後の1つを取り合う形になった

 

その頃の私は分け合うなんて考えは思い付かなかったし、穏便に解決とは行かず互いに……というよりも私の方から実力行使に出た

 

結果は────負け

 

確かその後は倒れ伏す私に構わず美味しそうにブルーベリーパイを食べるそいつを睨みながら〝次は負けないから〟なんて捨て台詞を吐いた気がする……まさか本当に次があるとは思ってなかったけどね

 

まあ、とにかくこれが一番最初の出会いだった

 

 

 

 

 

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酒泉と次に出会ったのは私がアイスクリームみたいな髪色をした声がバカデカい少女を倒した時だ

 

何度も何度もしつこく絡んでくるそいつには暫く眠っててもらおうと額に銃を突きつけるが、突然後ろから腕を掴んできた酒泉によってそれを止められた

 

〝決着はついた、もういいだろ〟と

 

酒泉はそれだけ言うと後ろでまだ終わってませんよー!と騒ぐそいつを無視してそのまま帰ろうとする

 

が、この出会いは私からすればあの時の仕返しをする良い機会でもあったし、当時スケバンだった私がそれを見逃すという選択を取るはずもなく私は当然のように喧嘩を挑んだ

 

……今思えば負けた悔しさよりも〝食べ物の恨み!〟って感情の方が強かったのかもしれない

 

そんな事は置いといて私は再び酒泉に喧嘩を売り、そして────また負けた

 

 

 

地に伏せながら悔しさを拳に乗せて地面に叩きつける

 

 

『……アンタさ、不良向いてないよ』

 

 

そんな私に酒泉はブルーベリーパイを差し出しながらそう語りかけた

 

またこれを買いに来ていたのか、だからトリニティに居たのか

 

それを理解はしたものの、どうしてそれを私に食べさせようとしたのかは理解できなかった

 

 

『ん?いや……なんとなく。スイーツとか好きそうだなーって、そう考えたら前回俺だけこれ食っちゃったのはちょっと申し訳なくてな』

『……なんかさ、そんな可愛らしいとこがあるならスケバンなんてやってないで普通の学生らしく過ごしてみればいいんじゃないか?』

 

『そしたらそんな荒くれた日常を送らなくてもいいようになるし、案外友達とかも沢山出来るかもしれんぞ?』

 

 

意味が分からなかった、酒泉が私にそんなアドバイスをした意味が

 

確かに私は無意識に内にそういう〝普通の女の子〟に憧れてはいたけど、当時はまだその自覚は持っていなかった

 

酒泉に提案されてからそれを意識するようになり、暫く経って〝ある出来事〟が起きて漸く自分の本心に気づく事ができた……まあ、2度目の敗北時は〝下らない〟ってバッサリ切り捨てちゃったけど

 

結局、ブルーベリーパイは受け取らなかった

 

 

 

 

 

 

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3度目の出会いは私が今まで倒してきた不良達に復讐された時だった

 

その時の相手は5か6人ほどで、正直その気になればそこそこ楽勝で勝てる程度の奴しか居なかった

 

……けど、その時の私は反撃する気があまり起きず、結構やられたい放題だった

 

理由はそんな大層なものじゃない、ただ最近1人の女の子を見ただけだ

 

私と同じ年齢くらいのその子は友達と楽しそうにお喋りしながらスイーツを食べていて、トリニティでは珍しくも何ともないそのありふれた光景が妙に輝いてみえた

 

一方の私は誰かと喧嘩してそれに勝った帰りで、得た物は〝勝利〟なんていうスイーツの様に美味しくもないし友達の様に話し相手になってくれる訳でもない無意味な結果だけだった

 

それを意識した途端自分のやってきた事が全て虚しく感じてきて、それで………気づいたらいつの間にか〝あの子みたいになりたい〟って思うようになっていた

 

これがさっき言った〝ある出来事〟

 

……え?そのスイーツを食べていた子とは誰かだって?……それは内緒

 

まあとにかく、そんな思いを抱いてしまったせいでここで喧嘩を買ったら今までと何も変わらないと……〝あの子の様にはなれない〟と変な危機感が私の中に生まれてしまった

 

しかし今まで私にコテンパンにされてきた人達がそんな事情を察してくれるはずもなく、敵の弾丸は容赦なく私の身体を傷つけていった

 

やっぱこんなもんか、不良生徒が普通の学生に憧れたところでそう簡単には変われるはずがなかった

 

そう諦めながら、私が反撃しないと思い込んでいる目の前の不良共に銃口を突きつけようとして────まだ引き金を引いていないにも関わらず、その内の1人の後頭部に弾丸が直撃する

 

 

『……まあ、キヴォトスが銃社会である以上はゲヘナ以外でもこんな光景に出会す機会だってあるよな……』

 

 

恐らくその弾丸を放ったであろう男の声に反応して全ての不良生徒が振り向く

 

 

『おいアンタら、暴れたいなら俺が相手してやる……だからそいつか、ら……離…れ………マジか、まさかまた会うとは……』

 

 

ここまで来たら何となく察せるだろう……そう、私を助けたのは酒泉だった

 

キョトンとしながら私の顔を見つめる酒泉、だけどそれを見た不良共は途中で酒泉がビビったと判断してケラケラ笑いながら酒泉に近づいた

 

 

『おいおい!まさか今更怖じ気づ────ぎゃんっ!?』

 

 

そして馬鹿にしながら酒泉の額に銃口を突きつけようとした瞬間、酒泉は逆にその不良の額にスナイパーライフルを突きつけ返して容赦なく引き金を引いた

 

台詞を最後まで言わせるつもりはない、何なら最初から台詞なんて聞いてない、そんな感じの無慈悲な一撃だった

 

残りの不良達もそれを見て驚愕する間もなく、流れ作業の様に攻撃を続ける酒泉に次々と沈められていった

 

それを見た時は……なんていうか……まあ……私の時は手加減されてたんだなって

 

 

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『……大丈夫か?』

 

『……必要ない』

 

 

戦闘後、酒泉は手を差し伸べてきたけど私はそれを振り払う

 

酒泉はその行為に腹を立てるでもなく、軽く〝そうか〟とだけ言ってその手を引っ込める

 

 

『……あの程度なら私1人でどうにかできた』

 

『じゃあ何で反撃しなかったんだよ……強がりか?』

 

『……反撃する気が起きなかっただけだし』

 

 

実際に私の強がりだったんだけど、それを口に出して直接指摘されるとカチンとくる

 

だから言い訳の様に反撃しようとしなかった理由を説明しようとして────前に酒泉が言ってた事を思い出す

 

 

『……ねえ』

 

『おん?』

 

『アンタが前言ってた事さ、本当に私にもできると思う?』

 

『前言ってた?……どれだ?』

 

『いや、だから……不良を辞めて普通の学生みたいに過ごす……って』

 

『……今から頑張ればなれんじゃね?』

 

 

若干他人事の様な言い方にイラッとしたが、酒泉はお構い無しに話を続けた

 

 

『とりあえず喧嘩生活やめて普通に飯食って普通に友達と話して普通に学校で勉強して普通に帰ればなんとかなるだろ』

 

『……随分簡単に言ってくれるじゃん。私、それ全部まともにやったことないんだけど』

 

 

食事はともかく、友達なんて居ないし勉強だって嫌いだし帰るのだって喧嘩後とかだった

 

普通の子が当たり前の様にやってきたことを私は今までずっとサボってきた、そんな自業自得とも言える理由のせいで私はあまり自信が持てなかった

 

 

『……うーん……それなら……後は……よし』

 

『……?』

 

『えっと、杏y……キャスパリーグ、ちょっと俺についてきてくれ』

 

『……は?なんで?』

 

『アンタのその願い、叶えられるかもしれんぞ』

 

 

何でお前なんかについていかないといけないんだって言おうとしたけど、最後の言葉に釣られて口を閉ざしてしまう

 

そして数十秒程黙り込んだ後、私は────無言で首を縦に振った

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

 

 

 

『ストロベリーとバニラ、どっちがいい?』

 

『……はぁ?』

 

 

数十分後、私達は何故かクレープ屋の前に居た

 

酒泉は両手にそれぞれクレープを持って私に問いかけてくる

 

 

『安心しろよ、俺の奢りだ』

 

『いや、そもそも何でクレープ屋?さっきの私の話聞いてた?どうしてクレープ食べただけで私の願いが叶うの?』

 

『知らんのか?普通の学生は帰り道に寄り道してなんか食ったりすることもあるんだぞ?』

 

 

そう言って酒泉は〝さっさと選べ〟と急かしてくる

 

渋々とストロベリー味のクレープを選び、それを受け取る

 

 

『……美味しい』

 

『だろ?』

 

 

ポロッと溢してしまった一言を拾うと、酒泉はニヤリと笑いながら言葉を返す

 

 

『別に普通の学生になることなんて簡単だろ、こうして誰かと気になったもん食って一緒に帰ったりすれば自然と〝普通〟になれてるだろうよ』

 

『……いや、だからその相手がいないんだけど……』

 

『……ぼっちちゃん?』

 

『う、うるさい!』

 

 

酒泉に生暖かい視線を浴びせられ、それがムカついて咄嗟に言い返してしまう

 

だが、残念な事に酒泉の言ったことは事実だった

 

スケバンの私に普通の生徒が近寄ってくるはずもなく、この時の私は精々同じスケバンに(喧嘩を売られる的な意味で)人気がある程度だった

 

 

『……じゃあ、アンタに友達ができるまでは俺がその相手になるか』

 

『……はぁ!?なんでアンタなんかと……』

 

『だから〝仮〟だよ〝仮〟……仮初めの友達って奴だ。アンタは俺の事なんか嫌いだろうけど、いつか本当に心の底から笑い合いながらこうして一緒にスイーツを食べる仲間が出来るまで俺が〝普通〟の練習相手になってやる』

 

『……なんで?』

 

『あん?』

 

『なんでそこまで気にかけてくれるの?』

 

『……あー、あれだ。青春ってのは学生の特権だろ?それを楽しめずに学生生活が終わるなんて勿体ないと思ってな……』

 

『……なにそれ』

 

 

助けてくれた理由はよく分からなかったけど、とりあえず酒泉の提案は私にとってはそこまで悪いものではなかった

 

これまでの敗北の積み重ねが私の頭を素直に頷かせるのを邪魔していたが、私はそれらの感情を飲み込んで酒泉の提案を受け入れた

 

 

『んじゃ、これからよろしくな……キャスパリーグ』

 

『……杏山カズサ、友達ごっこするなら名前の方がいいでしょ』

 

『……おう、よろしくな杏山さん……俺の事は折川でも酒泉でも好きなように呼んでくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほら、約束通り私とアイツの出会いを話してあげたよ、これで満足した?」

 

「まだだよカズサちゃん!その後のデートの話とかもいっぱいあるでしょ!?」

 

「ちょっ……アイリ!顔が近いって!」

 

「ぷふぅ────!!昔のアンタヤンキーすぎでしょ!?」

 

「ぐっ……自分から人の過去を聞いておいて……!」

 

「出会いは辛く、馴れ初めは甘く……その恋はまるで乙女の心の様にテイストを変え────ふぎゅっ」

 

「馴れ初めとか恋とか!そういうんじゃなくてただの友達だから!」

 

 

余計な事を口走りそうになるナツの口を抑えて咄嗟に黙らせる

 

 

「そうよね、今はまだただの友達だもんねぇ?」

 

「そうそう、本当にそれだけの関係だから」

 

 

何故かニヤニヤしているヨシミの言葉に頷く

 

そうだ、ヨシミの言う通り私と酒泉は今はまだ友達同士の関係だ

 

仮に付き合う機会があったとしてもそれはもっと先の話で────は?〝まだ〟?

 

 

「だーかーらー!まだとかじゃなくて!そもそもそういう感情は持っていないんだって!」

 

「あっははははは!!!気づくの遅すぎでしょ!?どんだけ大好きなのよ!?」

 

 

ぎゃはははと腹を抱えて笑うヨシミ、手を離そうとすれば再び訳の分からないことを言おうとするナツ、私の話を恋バナか何かと勘違いしているアイリ

 

それぞれがそれぞれの反応をするせいで誰から順番にツッコんでいけばいいのか分からない、これも全部あのクソボケが悪い

 

 

「それでそれで?カズサちゃんは酒泉君とどんな所行ったの!?どんな事をしたの!?」

 

「べ、別に……何も……」

 

「友達作りの練習してたなら何もしてないってことはないでしょ?」

 

「ほら、まだまだ隠している事があるんだろう?素直に吐き出すんだ」

 

 

絶対に逃がさないと言わんばかりに壁として立ちはだかるヨシミとナツ、今回はアイリもその後ろでノリノリで待ち構えている

 

そんな……私のアイリがあんな馬鹿コンビに汚染されるなんて……!

 

……仕方ない、今後もしつこく尋ねられ続けるのも面倒だし……ちょっとだけ答えようかな

 

 

 

「……ス」

 

「す?」

 

「スイーツを……一緒に食べに行ったり……」

 

「2人で?だとしたらそれはデートじゃないかな!?」

 

 

 

「ゆ、遊園地とかで……遊んだ日も……」

 

「それも2人で?」

 

「……そ、それが?」

 

「やっぱりデートじゃない!」

 

 

 

「あとは……2人で恋愛映画を観てきたりと……これぐらいかな……」

 

「ふむ、それはもう実質的な告白だね」

 

「なんでよ!?」

 

 

 

何をどう計算したらその答えに至るのか理解できない、コイツの頭は髪色と同じくピンクに染まりきっているのかもしれない

 

「何度も言わせないでよ……私も酒泉も互いに恋愛対象としては見てないって」

 

 

私を無視して勝手にキャーキャー盛り上がってる3人に訂正を入れるが、まるで聞こえていないかの様に話がヒートアップしていく

 

〝ツンデレ〟だの〝めんどくさそう〟だの失礼な言葉が出たかと思えば〝ゲヘナとトリニティの架け橋〟なんて大袈裟な言葉まで出てきた

 

「……全く……」

 

 

当人を置いて勝手に恋愛ストーリーを作り上げようとしている奴らに向けて溜め息を吐く

 

彼女達は何か勘違いしているが、そもそも酒泉の恋愛感情が私に向くことはないのだ

 

何故なら酒泉は────ずっと過去の傷を引きずっているのだから

 

 

 

 

 

 

 

「……本当、クソボケなんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

『えっ!?スイーツ好きの仲間ができたって!?』

 

『うん』

 

 

私が〝キャスパリーグ〟から〝スイーツ部の杏山カズサ〟に変わって暫く

 

その事を酒泉に報告すると、酒泉は微笑みながらそれを祝福してくれた

 

 

『そっかぁ……良かったな杏山さん、友達が出来て。』

 

『ありがと、これも酒泉が〝友達〟ってのを教えてくれたお陰かもね』

 

『いやいや……それにしても俺の役目もここまでかぁ』

 

『役目……?何が?』

 

『ほら、前に言っただろ?杏山さんに本当の友達ができるまでは俺が友達作りの練習相手になる……みたいな感じのこと』

 

 

ああ、そういえばと思い出す

 

確かに私が酒泉の提案を受け入れたあの日、そんな感じの事を言っていたのを覚えている

 

 

『ま、まあ……確かにそんな約束してたけどさ……でもあれは気にしなくていいんじゃない?これからは〝友達ごっこ〟じゃなくて〝友達〟ってことでさ』

 

『お?いいの?出会ったばかりの時の態度からてっきり嫌われてるもんだとばかり思ってたけど……』

 

『む、昔のことは忘れて!』

 

 

キャスパリーグ時代を思い出したくもない私は顔を赤くしながらもそれを必死に否定する

 

酒泉は〝悪い悪い〟と謝り、場の空気と共に話題を変える

 

 

『そういえばさ……あの日以降、杏山さんにちょっかい掛けてくる連中って現れた?』

 

『んー……仕返ししようとしてくる奴はちょくちょく出てきたけど、そういう時は正実に連絡してから全力逃走で何とかやり過ごしたよ』

 

『そうか……怪我とかは?』

 

『特にはなかったけど……何?心配してくれてんの?』

 

『まあ、な……杏山さんがぶちギレて相手を血塗れにしてないかずっと心配だったよ』

 

『相手のかよ!』

 

 

ビシッ!と漫画のツッコミみたいに片手で酒泉の胸を叩く

 

あまりにもテンプレすぎる流れに2人揃ってクスクスと笑いが溢れる

 

 

『何だよその昔の漫画みたいなツッコミは……』

 

『そっちこそ昔の漫画みたいなボケしないでよね……』

 

 

昔の私にこの状況を見せたらどんな反応をするのだろうか

 

喧嘩で負けた相手と仲良くなるなんてあり得ないと否定する?それとも普通の学生らしい日常を送っている未来の私を羨む?

 

……どちらもありそうな反応だな

 

 

『……ねえ、酒泉』

 

『ん?』

 

『なんていうさ……今、すっごく充実してるんだ。皆で集まってコンビニスイーツ食べたり、時々馬鹿なことを提案する人が出てきて私もそれに乗ったりさ。こうなれたのも酒泉が色々教えてくれたお陰かもね』

 

『……いや、別に俺がいなくても杏山さんはその人達と出会って仲良くなれたと思うぞ』

 

『もう!素直に感謝された時は黙ってそれを受け取る!』

 

『あ、はい』

 

何故か申し訳なさそうな表情で私の言葉を否定してくる酒泉

 

こっちが折角素直になったのに相手側がそれを拒否してきたのが気に入らなくてつい怒ってしまう

 

 

『まあ、だから……ああもう!つまり私が言いたいのは〝出会ってくれてありがとうございます〟ってこと!』

 

『……なんか、思ってた以上に恥ずかしくなるような言葉が出てきたな』

 

『言うな!』

 

『顔も赤いし』

 

『言うなって言ってんでしょ!』

 

『ごめんなさいごめんなさい!謝るからデコピンは勘弁してくれ!』

 

指をグッと押さえてデコピンの動作をすると酒泉は慌てて謝罪してきた

 

 

『……てか、俺がやった事なんてただ杏山さん誘って遊んでただけだからな……』

 

『だからそれが嬉しかったって言ってるんだけど……って、酒泉は普通に友達いるしそういうのも特に気にしないか』

 

『まあ……』

 

『……一応聞いておくけど、もしかして他の友達とも私の時みたいに2人で遊園地に行ってたりしたの?』

 

『なんなら他の友達と行った方が先だな』

 

『もう……そうやって誰彼構わず気軽に接してたら女の子を勘違いさせちゃうよ?』

 

 

何となく発したその一言、酒泉ならいつもみたいに鈍感を発揮して笑いながら否定してくると思ってた

 

 

『……大丈夫、今更だからな』

 

『……?何?もしかして本当に女の子に勘違いでもされたの?』

 

 

でも、酒泉は否定するどころかむしろ肯定する様な言い方で呟いた

 

その無理して笑った様な顔で放たれた一言が妙に気になり、私は酒泉のその言葉の意味を問い詰めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや、ちょっと……勘違いが原因で元カノと別れた時の事を思い出してな……』

 

『─────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

元カノ、モトカノ、もとかの

 

それはつまり、酒泉は過去に誰かと付き合っていたということ

 

別に学生が多いキヴォトスじゃ珍しくもなんともない、この状況だってただ私の友達に元カノが居たってだけの普通の話

 

だから別に驚く必要はない、焦る必要もない

 

 

『……へ、へぇー!そう、だったんだぁ……』

 

 

なのに、私の声は動揺しているかの様に震えていた

 

それと同時に心の中で何かが大きくなるような感覚を覚える

 

心臓がぐじゅぐじゅと抉られて、そこから黒くてドロドロした何かが溢れてきて

 

 

『……ち……ちなみに、さ……それってどんな勘違いだったの?』

 

 

そこで聞くのを止めておけば良かったのに、私は更にその奥へと進んでしまった

 

私なら同じ女として元カノさんの気持ちを理解できるかもしれないと、そして今後酒泉が誰かと付き合ったらまた同じ失敗をしないようにアドバイスできるかもしれないと

 

明らかな嫉妬心を隠して〝酒泉の為〟と言い繕い、過去の女のことを吐かせようとしていた

 

そして語られていく────元カノとの思い出

 

2人は捨て猫が切っ掛けで出会ったこと、その里親を探している間に仲良くなったこと

 

酒泉が尊敬する上司を楽しませる為にデートの練習という名目で2人でお出掛けしたこと、元カノさんの推しのバンドのライブを2人で見に行ったこと

 

そして────告白された後の話も、全部

 

酒泉は話の最後まで元カノの名前を言おうとはしなかったけど、それでも思い出を語ってる時の表情は楽しそうだった

 

それを見るに元カノのことが嫌いになったから名前を言わなかった訳ではないだろう

 

 

『……確かに俺はその上司の人も好きだった、でも……恋愛的な意味で愛していたのは付き合っていた彼女だけだった』

 

『……ふーん……元カノさんは酒泉には尊敬する人がいるって知ってて自分から告白したのに別れも自分から切り出したんだ……ちょっと勝手じゃない?』

 

『そんな事はない、あの人はずっと耐えてくれてたんだ。むしろ悪いのは俺のこの性格だよ……誰か1人を愛するってのに向いてないのかもしれないなぁ』

 

元カノさんを庇う様な発言をする酒泉、それを聞いた私は自分の心が苛立っているのを感じながらもこう返した

 

 

 

 

 

 

 

 

『私だったら絶対別れないんだけどなぁ』

 

 

 

 

 

 

 

 

暗に〝元カノより私の方が器が大きいですよ〟アピールするが、それに気づいていない酒泉は苦笑で返す

 

 

『……まあ、次に付き合う人とは上手くいくといいね……そうだ、その事情を知ってる人と付き合えばある程度の交遊関係の広さは許してくれるんじゃない?』

 

『……いやぁ……当分の間そういうのは遠慮したいかなぁ……今回の件で自分の性格的に誰かと付き合うのは止めておいた方がいいって知れたし』

 

 

なんか、凄いムカついた

 

元カノが残した傷が未だに酒泉の胸に刻まれてることも、酒泉がその傷を大切にしていることも

 

ずるい、ズルい、狡い

 

自分の中でどす黒い何かが広がっていく、それと同時に漸く思い知った

 

 

(私は〝友達〟になって漸く酒泉の事を知れたのに)

 

(〝元〟なのに未だに酒泉の中に根付いているなんて)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒泉と出会うのが遅かった事を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それにしても……〝元カノ〟ねぇ……」

 

「……何?」

 

 

 

そして現在、酒泉宅にて

 

酒泉にそんな大きな傷を残した人が私の目の前にいる

 

他にも百鬼夜行から来た雌猫に黒マスクを着けたアリウスとやらから来た生徒もいるが……そっちは今は置いておこう

 

 

「気にしないで、ただ〝元カノ〟なのにまだ会ってるんだって気になっただけだから」

 

「別に喧嘩別れしたわけじゃないからね」

 

 

 

自己紹介の際、酒泉と出会った当時はスケバンだった事を隠したくて〝酒泉とはレイサを介して知り合った〟って嘘を吐いたけど……それに対して鬼方カヨコは恥ずかしげもなく堂々と〝酒泉の元カノだ〟って名乗ってきた

 

それなら私も最初から堂々と答えればよかった、そうしないとこの人に対して失礼だ

 

……そう、貴女と違って酒泉と喧嘩した事も、酒泉のお陰で普通の女の子に近づけた事も、貴女が酒泉と別れてくれたお陰で私が酒泉の隣に立てた事も

 

全て正直に────目の前の女にぶつければよかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……これは決してマウントを取ろうとしている訳ではない、だって全部本当のことなんだから

 

 

 

 




因みに酒泉君がカズサとお出掛けした場所の中にはカヨコとのデート特訓で回った場所もあります

クソボケ(ここ鬼方さんと行った時は楽しかったなぁ……きっと杏山さんも楽しんでくれるはずや!)

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