すいませーん、遅れましたー
「遅いですよ、酒泉!一体どこをほっつき歩いていたんで────待ってください、その手はどうしたんですか?」
ん?これっすか?ああ……これはちょっとしたデモに巻き込まれたって言いますか……
「………傷は?」
弾丸がかすってちょっと肌が真っ赤になっちゃいましたけど、別に大した怪我じゃないっすよ
「………貴方は私の秘書なんですから勝手に怪我しないでくださいね」
了解っす
「…………」
──────────
「………随分と服がボロボロですね、一緒に並ぶのが恥ずかしいのでさっさと着替えてきてください」
はい……すいません……
「……一応聞いておきますけど……何があったんですか?」
ん?あー……いや、ちょっと転んだだけっすよ
「正直に答えなさい」
……飯食ってたら突然店が爆発しました
「………何故そのような状況に?」
ほら、アビドスから救援要請が来てたじゃないっすか
それで物資とか色々届けに行ってたんすよ………途中で戦闘が発生しましたけど
んで、戦闘も終えて用が済んだ帰り道で近くのラーメン屋で飯食ってたら………店が爆破されました
「全く繋がりがないのですが……」
………まあ、タイミングが悪かったんじゃないっすか?
「………そうですか」
──────────
いづっ………!っぅ……!
「………酒泉?大丈夫ですか!酒泉!?」
あ……不知火さん……すいませんね、情けないところ見せちゃって……っっ!
「な、なんで脚から血を─────……っ、そこで倒れてる者達は………」
以前から連邦生徒会に恨みがあったはぐれ者っすよ、見覚えあるでしょう?
「………ええ、大して努力もしてないのに〝自分達にも居場所を寄越せ!〟と被害者ぶっていたそこらのチンピラでしょう?」
言い方ってもんが────っい……てぇな……
「………貴方があの程度の連中に後れを取るとは思えません、何が起きたんですか?」
……別に、何も────
「私の前で嘘を吐くことは許しませんよ」
………避けようとしたら後ろにいたんすよ
「………市民ですか?」
でも……敵は……っ……全員倒したんで……ああ、クソッ……久しぶりにやらかした……
「貴方はここで大人しく待っててください………救護班を呼んだら手当てしますので」
ありがとう……ございます……
──────────
「……………」
「…………チッ、本能を抑えることもできない猿共め……」
「これだから野蛮な連中は……!自分達が好き勝手暴れた結果、どれ程の被害が出るのかも考えず……!」
「自分達の身体が頑丈だからと、銃口を他人に向けることの意味も考えずに……!」
「………ですが、いくら嘆いても長年の歴史で積み重ねられてしまった価値観を変えることはできませんからね………どうにかして猿共を落ち着かせる方法を考えなければ────」
「────歴史………そうだ、そうですよ!私がキヴォトスの歴史を変えてしまえばいいんですよ!」
「私がキヴォトスを支配し、私がキヴォトスのルールを変えてしまえばいずれはそのルールが浸透して……そしたら彼も!」
「……いえ、別に彼個人の為という訳ではありませんが………まあ、ずっと付き従ってくれてますし?偶には労いの一つでもしてあげた方が良いでしょう?」
「そうですね………とりあえず最初は〝銃弾を撃たれる心配のなくなったキヴォトス〟でもプレゼントしてあげましょうかね?簡単に身体を撃ち抜かれてしまう彼にとってこれ程嬉しいことはないでしょう!」
「……いえ、それはついでです。あくまでも私がキヴォトスを支配し、管理するついでです」
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「私達は戻るつもりなんてありませんからね!!!」
バンッ!とちゃぶ台を叩いて立ち上がる不知火さん、それ安物なんだから勘弁してほしい
そんな俺達の目の前には先生と七神さんが座っている
………どうしてこうなった
「……不知火元防衛室長、落ち着いて話を聞いてください。私達は貴女達を無理やり連れ戻しに来た訳ではなく、説得する為にここまでやって来たのです」
「説得?……面白い冗談を言いますね、我々の計画を邪魔した貴女方が直接説得をしにきたと?」
早速バッチバチやん、そんな喧嘩腰にならないでくれよ不知火さん
サーモバリック爆弾の件に関しては明らかに此方側が悪いんだから………
「………貴女達はまだ更生の余地があります、これからしっかりと更生プログラムを受けて心身共に問題無しと判断されれば再び連邦生徒会に────」
「更生?私は間違ったことをしたとはこれっぽっちも思っていませんよ?此方の定めたルールに従おうとしない野生動物共を躾けようとして何が悪いんですか?」
不知火さんは何一つ反省せずに堂々と正面から言い切る
すげえな……ここまで来ると清々しいな……
「大体、更生プログラムってなんですか?今更私達に小学校の道徳の授業でも受けさせるつもりですか?」
「………お二人にはそれぞれ別の施設で暮らし、定期的にカウンセリングを受けてもらいます」
「ごめんね、カヤ………本当は二人とも一緒に受けさせたかったんだけど、それだと互いの価値観だけで完結してしまうから駄目だって………」
先生が申し訳なさそうに頭を下げるが、不知火さんはフン!とそっぽを向く
すると、七神さんが無表情から少しだけ眉間にシワを寄せた状態に変わる
「不知火元防衛室長、貴女はそれで良いのかもしれませんが………その場合、彼の気持ちはどうなるのですか?」
「………はい?」
「貴女達の周辺の情報を調べさせてもらいました、どうやら衣食住全てを酒泉に依存しているようですが……」
「うぐっ……さ、最近は私だって料理を始めましたし?」
「………最近?待ってください、〝最近〟というのはそれまでずっと酒泉に頼りっきりだったということですか?」
七神さんの目が細められると、不知火さんが若干たじろぎ
「な、何が言いたいんですか……酒泉は私の秘書なんですから私を支えるのは当然の事でしょう!?」
「………だから酒泉に負担を強いても問題ない……と?」
「しゅ、酒泉だってそれを受け入れていますから!」
「……最初は少しずつ説得していくつもりでしたが……どうやらそんな悠長な事を言っている場合ではなさそうですね」
そう言って立ち上がると、七神さんは俺の方に視線を向けて封筒を取り出す
あれは……不知火さんが書き残した辞表か?
「そもそも、貴女達の退職願は受理されていません」
「はあ!?労働者の権利を奪うつもりですか!?」
「保護観察処分中の身でありながら勝手に辞表を出して勝手に姿を眩ました者にそんな権利はありません」
「あ、貴女にそれを決める権利など……!」
「あります、私は連邦生徒会長の〝代理〟ですので」
互いにヒートアップしていく口論
二人を止めようと俺と先生が同時に立ち上がったところで不知火さんがワナワナと震え始める
「……そうですか、そういうことですか……!貴女の本当の狙いが分かりましたよ!七神リン!」
………本当の狙い?一体何を言って────
「貴女は私から酒泉を奪おうとしているんですねっ!!?」
────場が凍りつく
……え?不知火さんどうしちゃったの?気でも狂ったのか?
「……何を言い出すかと思えば……そんな下らない事を────」
「誤魔化しても無駄ですよ……私は知っているんですからね」
「………何をですか」
「貴女が残業している日、度々休憩室で酒泉と二人でお喋りしていたのを!」
知られてたのか……あの光景を知っている人なんて由良木さんしか────普通にポロッと溢しそうだな、うん
「あれは作業効率を上げる為に少々休憩していただけです、息抜きは必要ですからね」
「でしたら他の方々を頼ったらいいじゃないですか!なんで酒泉が居る日だけ息抜きしているんですか!」
「………偶然です」
「酒泉が何処かしらで戦闘に巻き込まれた日は何かしらの理由をつけて遅くまで残ってますし!」
「………偶然です」
「本当は最初から酒泉を連れ帰ることが目的だったんでしょう!?連邦生徒会長が失踪したあの日からずっと自分を支えてくれたからって!各学園を駆け回って仕事の手伝いをしてくれたからって!」
「………貴女の勝手な思い込みです」
「私、聞いたことがあるんですからね!貴女が酒泉と話している時〝誰も見たことのないような表情をすることがある〟という噂を!」
「それも貴女の勝手な思い込み─────待ちなさい、一体どこでそんな噂を……」
「その無駄に育った身体で誘惑しようとしているんでしょう!?言っておきますがねぇ!そんな無駄な贅肉をぶら下げていたところで偉くもなんともないですからね!?」
不知火さんは全く止まる様子もなく、このあと暫くは騒ぎ続けた
結局、この日は一方的に当たり散らす不知火さんを静めただけで話し合いは終わってしまった
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「んぅ……なにをしているのですか、しゅせん……はやくそいつらをかたづけなさい……」
いかにもポンコツな面で寝言を吐く不知火さんを置いて外用の服に着替える
今日は朝から警備の仕事が入っている為、不知火さんを起こさないようにゆっくりと支度をしなければならない
「しゅせん………あなたのコーヒーのうでまえはあいかわらずそこそこですね………」
おう夢の中でまで文句言ってんじゃねえぞ、アホ毛引っこ抜いてやろうか
「や、やめなさい……わたしのいだいなかみのけになにを……」
いいぞ夢の中の俺、もっとやれ
………それにしても、ここで暮らし始めてから連邦生徒会時代の良い子ちゃん演技を全くしなくなったなぁ
この人も変な意地張らずに連邦生徒会に戻ればもっと贅沢な暮らしを出来るのにな………そもそもサーモバリック爆弾の件に関しては俺がやった事になってるんだから自分一人の罪だけ背負えばいいのによ
………まあ、先生にはバレてるかもしれないが
「んっ……しゅせん……」
お?なんだ?今度は夢の中でどんな文句を────
「どこにもいかないでくださいね………これからも………ずっとわたしと………いっしょに………」
────………分かってますよ、超人様
なんて事を考えている間に出勤準備を終える
……あっ、そういえば今日は朝から仕事だってこと不知火さんに伝えてなかったな
適当なチラシの裏に書き置きだけ残して玄関へ向かい、小さな声で〝行ってきます〟と伝えてから扉をゆっくり開ける
「きゃっ……」
すると、外から女性の驚いたような声が聞こえた
……なんだ?こんな早朝から……新聞勧誘か?
悪いですけど、ウチは余裕がないんで新聞は要らないですよ─────え?
「ごめんなさい、土曜日の朝からいきなり押し掛けてしまって………今日は午後から、明日は一日中予定が詰まっているから会いに行くならここしかないと思って………」
そう言って申し訳なさそうに頭を下げる女性
………そうか、七神さんにもバレてたんだし、当然連邦生徒会に所属している人達は俺達の居場所は把握しているのか
「………酒泉、少し時間を頂けないかしら」
……ええ、少しならいいですよ────扇喜さん
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「リン行政官から聞いたわ………例の話、断ったんでしょ?」
職場に向かう途中にある公園のベンチで気まずそうに俯いていると隣で座っている青髪の女性────扇喜アオイさんが遠慮なくズバッ!と切り込んできた
………若干ジト目で見つめられている気がするが
「どうして断ってしまったの?貴方達にとっても悪い話ではなかったはずなのに……」
なんていうか……その……不知火さんが戻りたくなさそうだったんで……
「………そう、あくまでも彼女を優先するのね」
俺はあの人には拾ってもらった恩があるからな……
例え不知火さんが自称超人のポンコツよわよわアホ少女だったとしても、本人が望む限りはどこまでも付き従うつもりだ
「……それだと生活が不自由でしょう?」
まあ、もう慣れましたから
「……本当に?身体に無理を強いていない?」
此方の腕をギュッと掴みながら見つめてくる扇喜さん
だが、心配ご無用!この通り身体は丈夫ですから!
……いや、キヴォトス人基準だと大して変わらないのか?
「貴方が防衛室長に恩を感じているのは分かっているけど………それでも自分の人生まで捧げてまで恩を返す必要は無いでしょう?」
んー……まあ、当時の俺にとっては居場所を与えてもらっただけでも嬉しかったんですよ
例えそれが〝利用できそう〟とか、そんな理由だったとしても……ね
「……居場所」
………ちょっと空気を重くしてしまったか?
「………居場所が欲しいなら財務室が空いているわよ」
扇喜さんがボソリと呟く
財務室……財務室か……仕事をしている自分を想像してみたけど全く似合わないな……
精々家計簿をつける程度の事しかできないしな……
「仕事のことなら心配無いわ、貴方が覚えられるまで私が直接教えてあげるから」
気持ちは嬉しいですけど遠慮しておきます、不知火さんが戻る意思を見せるまでは俺も戻るつもりはないんで
「……そこまでハッキリ断られると流石に傷つくわね」
………こんな犯罪者を受け入れると周囲から反感を買うでしょ?
「………私は貴方が犯人だとは思えないわ」
扇喜さんがポツリと呟く
犯人………ああ、事件の話か
………あれは誰がなんと言おうと俺が犯人ですよ
「貴方のような心優しい人がなんの罪もない一般市民を武力で脅そうとするなんて有り得ないもの」
その優しさだって全部演技ですよ
「私とリン行政官……リン先輩の仲を取り持ってくれたのも?」
………はい、そうですよ
「……信頼している人に嘘を吐く時、一瞬言葉が詰まる癖は直っていないのね」
あっさりと指摘されてしまう………自覚していても直せないもんだ
戦闘中にはブラフとか仕掛けられるんだけどなぁ……
「とにかく、私は信じているから………貴方は何の理由も無しに他者を傷つけたりなんかしないって」
………ありがとうございます
「……時間を取ってしまってごめんなさい、続きはまた今度話しましょう」
そう言って立ち上がると、扇喜さんはスマホを取り出してモモトークの画面を開く
「これ、私の連絡先よ。空いている日があれば連絡してちょうだい」
あ、了解っす……じゃあ、俺の方も─────あれ?
「……どうしたの?」
待ってください、確かポケットに………あっ
………そうだ、不知火さんを起こさないようにするのに集中しすぎて携帯を寝室に置いてきてしまった……多分、充電しっぱなしだな
「………同じ部屋で寝てるの?」
え?あ、はい……アパート暮らしなんで……
「………………そう」
しゃーない、今から戻ると遅刻しそうだし今日はこのまま行くか………どうせ今日の警備は昼に入ってくる別の人の繋ぎだし、そんな時間は掛からんだろうしな
「よかった……よかった……!帰って来てくれたんですね、酒泉……!」
「わ、私……昨日の話を聞いて、一人で連邦生徒会に戻ってしまったのかと……!」
「携帯も置きっぱなしですし………書き置きが本当なのかも分かりませんし………!」
「だ、だから私……わたし……みすてられたのかとおもって……!」
「しゅ、しゅせんはそんなことしませんよね?ずっとわたしをささえてくれますよね?」
「わたしがえらくなくなっても………それでもずっといっしょにいてくれますよね!?」
仕事から帰ってきたら俺の服をぐしゃぐしゃにしながら不知火さんが泣いていた
………どうしてこうなった