〝アリウス〟潰すゾ!!!   作:あば茶

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カーテンコール後の話です、意外とイブキの話が求められていましたので……

因みに単発なので続かない……か、他の番外編みたいに適当なタイミングで突然続きが出るかのどっちかだと思います


番外編~禁断のイブキルート~(イブキルート・未完結)
酒泉君がイブキちゃんのクレヨンを探すだけの話


 

 

 

 

「うぅ……クレヨンどこぉ……?」

 

 

 

〝誰も問題を起こしませんようにー〟っと祈りながら校内のパトロールをしていたら、とある教室の前でオロオロしているイブキさんを発見した

 

その表情はとても心細げで、ジワジワと瞳が潤んできていた

 

 

────どしたん?話聞こか?

 

「あっ……酒泉……」

 

 

流石に放置できないので声を掛けてみる

 

いたいけな少女の涙を見るのは心苦しいからな、因みに俺はロリコンではない

 

 

 

「実は……イブキのクレヨンが無くなっちゃったの……」

 

────無くなった?……落としちゃったのか?

 

「多分……」

 

────……えっと、場所に心当たりは?最後に絵を描いてた所とか……

 

「……この教室、だけど……どこを探しても見つからないの……」

 

────……そっか……よし!じゃあ俺と一緒にもう一度探してみるか!

 

「……え?手伝ってくれるの?」

 

 

 

自信無さげに頷くイブキさん

 

だが、此方も手を貸すと伝えると表情が少しだけ明るくなった

 

………何度も言うけど俺はロリコンじゃない

 

 

 

「ありがとう!酒泉!」

 

 

 

にぱーっと、ゲヘナには似つかわしくない笑みを浮かべるイブキさん

 

やっぱロリコンかもしれんわ俺………嘘です!全て嘘です!

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

────────

 

──────

 

 

 

 

身を屈め、床を探し回る

 

おいそこのスケバン、顔を赤くしてスカートを押さえているところ悪いが俺はお前の下着になんか興味ねえんだ

 

 

「うぅ……やっぱり落ちてない……」

 

 

モソモソと教卓の下から出てくるイブキさん

 

このクラスの人間って訳でもない俺達二人に視線が集まるが、皆さんには少しの間だけ我慢してもらいたい

 

だからそんな変質者を見る目で見つめないでください、俺は女子生徒の机の中に興味がある訳じゃないんです

 

 

「あの子……ピアノの……制服だと普通……」

 

「スーツ………っこよかっ……」

 

 

 

なんかヒソヒソ声まで聞こえてきた、違います僕は変態じゃないんです信じてください

 

 

「クレヨン?知らないなぁ……」

 

「拾った誰かにそこのゴミ箱とかに捨てられたんじゃないか?」

 

────いや、それが入ってなかったんですよね……

 

「じゃあ私達も分からないな……」

 

 

 

教室内の生徒達にも色々と聞いて回ってみる

 

答えてくれた二人に軽く礼を言ってから再び教室を探し回る

 

机の上、机の中……は勝手に触るのはマズイから見るだけ

 

実は椅子の上に落ちてたり……しないな

 

なら床をもう一度……駄目だ、無い

 

俺の眼でも探せないなんて、相当小さくなるまで使ったのかなー……なんて思いながらまたまた空のゴミ箱を漁る

 

 

「……やっぱりない」

 

────そうだなぁ……イブキさん、もう一度自分のポケットとか探してみてくれるか?

 

「うん……」

 

 

 

イブキさんにも協力を頼んでみる

 

落ち込んでいるところ手伝わせるのは申し訳ないのだが、こういうの落とし物って意外と近くにあったりするからな

 

ほら、スマホ持ってる時に〝あれ?スマホどこいったっけ?〟ってなる時あるだろ?………あれとは少し違うか

 

「……ない」

 

涙目でポツッと呟くイブキさん

 

うーん……子供の涙は非常に胸に突き刺さる、どうにかしてあげたいんだけどなぁ……

 

 

 

────えっと……イブキさん、もし良かったら俺が代わりのクレヨン買ってこよっか?

 

「えっとね、気持ちは嬉しいけど………でも、イブキの好きなクレヨンはあれしかないから……」

 

 

 

ああー……バッドコミュニケーション、ミスった

 

そうだよな、イブキさんはその失くしたクレヨンで何枚も絵を書いてきたんだもんな……代わりなんて存在するはずがない

 

自分の考えが如何に浅慮だったのか思い知りながら、次の場所を探そうと空になったゴミ箱から手を離す

 

………ん?空になったゴミ箱?

 

 

 

 

────あの、もう一つだけ聞いてもいいですか?この教室ってもう掃除終わってます?

 

「うん、さっき掃除当番の人達が済ませてたよ」

 

「〝早めに掃除終わらせてどっか遊びにいこうぜー〟って言ってたよ」

 

 

 

先程と同じ生徒に尋ねてみると、予想通りの答えが返ってきた

 

……だとしたら……クレヨンはもう────いや、時間的に間に合うな

 

 

 

「……酒泉?どうしたの?」

 

────イブキさん、頼みがある。この階全ての教室を回ってまだ回収されていないゴミ袋を漁ってきてくれ、俺は外を探してくるから

 

「え?お外?イブキ、今日はお外で絵は描いてないよ?」

 

────とにかく頼んだ!

 

 

 

 

念の為に学校内の捜索もお願いしておき、俺は教室を出て駆け足で外に向かう

 

階段は一気に飛び降り、手すりも滑り台のように利用する

 

そのまま二階の廊下に着き、自分のクラスではない近くの教室に入る

 

 

 

「ん?誰……ひっ!?折川酒泉!?」

 

「ま、待て!今日はまだ何も問題は起こしてないぞ!?」

 

「暴力反対!」

 

教室に入ると中でババ抜きをしていたスケバン達が視界の端に映るが、それを無視して教室の窓に一直線に走る

 

今回は用は無いからな……あ、でも日頃から大人しくしてろよ!

 

 

「お、おい!そっちは窓だぞ!?」

 

 

背後から引き止める声が聞こえるが……心配御無用!ここは思い切って後ろ向きの状態で窓の外にジャンプする!

 

地面が近づいてくる、このままだと俺の足はボドボドダ!

 

だから────二本のナイフを取り出し、それを学校の外壁に押し付ける

 

ガリガリガリッ!と外壁を削る音と共に手に振動と痛みが走る

 

僅かに、本当に僅かにだが勢いが落ちる

 

そして、地面に激突するまで残り数メートルになったところで────両足を外壁につけてバネのように横に飛ぶ

 

落下の衝撃を完全に殺すことはできなかったが、それでもすぐに立ち上がれるくらいには軽微なダメージで済んだ

 

 

「おおー……見事」

 

「かっこいい~!あとでヒナっちに教えてあげよっと!」

 

 

着地地点の近くにいた下校中の帰宅部二人に軽く挨拶し、それから再び全力でダッシュする

 

風紀委員が校内で暴れていいのかって疑問に感じてる生徒達も居るだろうが………今回ばかりは許してほしい

 

たった一人の少女も助けられんで何が風紀だ

 

 

「うおっ!?何故彼がこんな所に?温泉を掘り当てようとしたのがバレたのか!?」

 

「部長~?どうする~?」

 

「マズイぞ!逃げろ!」

 

「どうして計画がバレたんだ!?」

 

 

勝手に勘違いして勝手に退散していく連中をスルー

 

 

「やばっ!?風紀委員が来たぞ!?」

 

 

これもスルー

 

 

「な、なんか凄い勢いで向かってくるぞ!?」

 

 

これもスルー

 

 

「キキキッ!止まってもらおうか、折川酒泉!まさか貴様が校内で暴れるとはなぁ!この責任、どう取って……お、おい!聞いているのか!?」

 

 

これもスルー

 

 

「あれ?酒泉君?」

 

 

これもスr……あ、こんにちは愛清さん

 

 

 

途中で会った知り合い達に軽く挨拶をしながらも、ずっと走り続ける

 

まだ間に合う、ていうか間に合ってくれないと困る

 

そんなことを願いながらたどり着いたのは────大量のゴミ袋が詰んである収集場

 

良かった……!まだ回収されてなかった……!

 

息を整えながらゴミの山に近づき……鼻を抉るような臭いが襲ってくる

 

ごくり、と息を飲みながら覚悟を決め────そこに両手を突っ込む

 

出す、出す、とにかくゴミ袋を引っ張り出す

 

ゴミ袋を開けて中身を一気に床に落とし、手で適当にバラけさせながらこの〝眼〟でクレヨンらしき物がないか確認していく

 

無ければゴミを雑に袋に戻し、別の場所に置いておく

 

………地面に細かいゴミが残ったままだ、これが終わったら後でちゃんと箒で掃除しないとな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「イブキのクレヨン……どこぉ……?」

 

 

か細い声で校庭を歩くイブキ

 

日頃から優しくしてくれる万魔殿の皆、最近仲良くなった風紀委員、会う度に遊んでくれる帰宅部のお姉ちゃん達

 

自分の大好きな人達を描き、それを紙に残してきたクレヨン

 

彼女の探しているクレヨンは、そんな大切なクレヨンだった

 

 

「……イブキがずっと使ってるから、逃げちゃったのかな」

 

 

すり減ってもすり減っても大事に使ってきた、小さな身体に多くの思い出が詰め込まれている一本

 

そのたった一本を失っただけで意気消沈としてしまったイブキは瞳を滲ませながらも、それでも健気に探し続けている

 

 

「他の教室にもなかったし……」

 

 

〝諦め〟

 

その文字が思い浮かぶほどに落ち込んでしまったイブキは、目的地も無くフラフラと歩く

 

 

 

 

────……がう……ない……!

 

「……?今のは……酒泉の声……?」

 

 

 

校舎裏、ゴミ収集場付近

 

そこに近づいた辺りで聞き覚えのある声がイブキの耳に入ってきた

 

声の元まで歩いていくと、そこには想像通りの人物が居た

 

………大量のゴミ袋に囲まれて

 

 

 

 

────違う……これも違う……こっちにもない……!

 

 

 

「………もしかして、あれを全部探してくれてるの?」

 

 

ガサゴソと必死にゴミ袋の中に手を突っ込み、中身を取り出す酒泉

 

一通り目を通してから舌打ちすると、また次のゴミ袋を手に取る

 

 

 

────こっちも違っ……うおっ!?くっせえ!?魚ぁ!?まだ身が沢山残ってるじゃねえか!?勿体ねぇ事しやがって……!

 

────ん?手に何か……きたねぇ!?ガムがくっつきやがった!?

 

────あん?空のビール缶?………未成年飲酒か?これは風紀委員会に提出しとくか、次はこの袋………ぶぇっ!?虫湧いてんじゃねえか!?

 

 

────これは……俺の写真?めちゃくちゃ切り刻まれてんな……まあ、別に直接襲ってこなければスルーでいいか、どの問題児かは知らんがいくらでも恨んでくれ

 

 

────……うげぇ……誰だよ、ゴミ袋にゲロぶちまけた奴……近くの袋だったし、さっきのビールの奴と同一人物か?これは流石に探さなくてもいいよな、この中に入っててもどうせもう使えないだろうし

 

────誰だよ、エロ本捨てた奴………ん?袋の一番下に何か……埋もれて……クレヨン!?これか!?

 

 

身体を汚し、悪臭に包まれながらもクレヨンを探す酒泉

 

正直、何故そこまでしてくれるのかイブキには分からなかったが、それでも唯一理解できたのは────目の前の少年が、自分一人の為に必死になって手を動かしてくれているという事だけだった

 

 

「……………えっ!?見つかったの!?クレヨン!」

 

 

少し遅れてからイブキが反応する

 

その声を聞いた酒泉は後ろにイブキが居たことに驚くものの、すぐに笑顔でクレヨンを差し出す

 

 

「本当だ……イブキのクレヨンだ!」

 

────ちょっと臭いけど……でも、比較的綺麗な状態の袋に入ってたからまだ使えると思うぞ

 

「うん!ありがとう!酒泉!」

 

 

もう帰ってこないかもしれない、そう思っていた宝物が自らの元に帰ってきたことでイブキは跳び跳ねて喜ぶ

 

だが、次に視界に映ったのは服のあちこちが汚れ、頬にもゴミが付着している酒泉の姿だった

 

 

 

「あっ……イブキだけ喜んじゃってごめんなさい!イブキのせいで酒泉はこんなに汚れちゃったのに……」

 

────いやいや、こんなの拭けばいいだけだから

 

「でも……」

 

────気にするな、俺は気にしてない

 

「……うん」

 

 

 

落ち込みながら頷くイブキとは反対に笑顔で返す酒泉

 

そんな彼に、イブキは少々気になったことを尋ねることにした

 

 

「……ねえ、酒泉はどうしてこんな所を探してまでイブキのクレヨンを見つけてくれたの?」

 

────ん?

 

「だって、イブキのクレヨンなんだよ?酒泉のじゃないんだよ?」

 

────そうだなぁ……そのクレヨンがこの世界で一つしか存在しない、イブキさんの宝物だからかな?

 

「……あ」

 

 

 

イブキは教室での自分の言葉を思い出す

 

 

 

────イブキさんの思い出が詰まっているクレヨンはそれしかないからな………新しい物を買ったところで、そっちの方は空っぽだからな

 

「……覚えててくれたの?それでイブキの為に?」

 

────だって、もう二度と手に入らない物を失うのは辛いだろ?

 

「……うん」

 

────俺も同じだよ

 

「……え?酒泉も?」

 

 

 

酒泉は自嘲するように呟き、空を見上げる

 

その瞳はまるで、ここには存在しない〝何か〟を見つめているようだった

 

 

 

 

────最近になってやっと気づいたんだ、自分の大切な……大好きな物を失ったことに、二度と触れられなくなってしまったことに

 

────気づいて、後悔して、泣いて、泣いて泣いて泣きまくって、それで………色々抱えながらも、漸く前に進む決心ができた

 

「……酒泉はそれでいいの?だって……大切な物だったんでしょ?」

 

────んー……正直、今でも思い出すとキツイ時はあるな、だからそんな時は……沢山泣くことにした!

 

「えっ?泣いちゃうの!?」

 

────ああ、泣いて、全部吐き出して……また前に進む。またキツくなったら……また泣く!

 

「……だ、大丈夫なの?苦しくないの?」

 

────まあ、苦しいっちゃ苦しいけど……でも、俺には〝そんな時は酒泉を支えてあげる〟って言ってくれた人が居るからな、その人の存在のお陰でなんとかなってるよ

 

「そっか……素敵な人だね!」

 

────更には腕っぷしも強い!俺が知る全学園の全生徒の中で!

 

 

 

 

ドヤァ!と自分の事のように得意気にする酒泉を見て笑みが溢れるイブキ

 

そんな彼女を見て酒泉も安心したのか、フッと笑って話を続ける

 

 

 

────……まあ、話がちょっと逸れちゃった要するに俺が言いたいのは……イブキさんには俺と同じ思いをしてほしくないってことだ

 

────取り戻せる物は取り戻せる内に取り戻して、愛したい物は愛せる内に愛してほしい

 

────だから……俺はイブキさんのクレヨンを見つけたかった、それだけの話だ

 

「酒泉……」

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、酒泉!酒泉が見つけてくれたこのクレヨン……」

 

ちょっと臭くて、汚れた笑顔

 

周囲はゴミ袋だらけ

 

そんなロマンの欠片も存在しない空間

 

だけど、イブキにとってそこで見せてくれた酒泉の笑みは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと大切にするね!」

 

 

何よりも輝いて見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────すいませんっ!!!遅れましたあああ!!!

 

「……はぁ……やっと来ましたか……どこで道草を食べていたんですか?」

 

────その……ゴミ袋を破っちゃって……その掃除を……

 

「遅すぎますよ……ヒナ委員長はずっと貴方を待って────エンッ!!!」

 

「うわあ!?酒泉に近づいたアコちゃんが鼻血を出して倒れた!?どうしたの!?ついに酒泉にも簡単に興奮するようになって────臭っ!?臭いよ酒泉!」

 

「い、一体何が────うっ!?これはちょっと……キツイ、ですね……」

 

「……酒泉、魚の骨が髪の毛に突き刺さってるよ」

 

────……すいません、一回シャワー浴びてきてもいいですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ふんふ~ん♪ふんふふ~ん♪」

 

「おや、イブキ……今日は随分とご機嫌ですね?」

 

 

鼻歌を歌いながらクレヨンで絵を描いているイブキにイロハが問いかける

 

紙には黄色い髪の少女と黒髪の人物が描かれていたが、黒髪の人物の方はまだ身体の部分が完成していなかった

 

 

「黒髪?これは……チアキですか?」

 

「イブキちゃん、私描いてくれてるの?嬉しい~!」

 

「ううん!違うよ!」

 

「ありゃ?ハズレ?」

 

「まあ、確かにチアキの髪色は真っ黒って訳ではないですからね」

 

 

ガックシとするチアキを背後に、イブキは絵を描き続ける

すると、少しずつ身体の部分も完成に近づいていく

 

 

「ん?これは……黒い制服?」

 

「いえ、黒というよりも紺色に近いような……」

 

「イブキ……まさか私を描いてくれてるのか!?イブキイイイイイ!!!」

 

「マコトちゃんの制服は黒だし髪色に関しては白でしょ?」

 

 

サツキの言葉を受けた瞬間、この世の終わりのような表情を見せるマコト

 

そんな彼女を放って置いてイロハは考察を続ける

 

 

「この色合い……どこかで見た事があるような……」

 

「……あっ!分かった!この制服って風紀委員のでしょ!」

 

「せいかーい!」

 

 

チアキの予想は当たり、更に範囲を絞ることに成功する

 

 

「うーん……イブキ、他にヒントはありますか?」

 

「ヒント?……ヒントはね、えっと────イブキのヒーロー!」

 

「……ヒーロー?」

 

「……イ、イブキ?まさか……」

 

「落ち着いてください、マコト先輩………ほら、ヒーローという言葉は女性にも用いられる事があるじゃないですか」

 

………そしてイブキのお絵描きを見守り続けて数分後、ついに未完成だった人物の全体が完成した

 

黒いクレヨンでキリッ!とさせた少年のような眉、彼の身体は風紀委員の制服を纏っている

 

 

「……これは……」

 

「……確定ね」

 

「イブキ、この絵の人物は……酒泉ですね?」

 

「うん!上手に描けてるでしょ!?」

 

 

えへへ、と笑いながら誇らしげに絵を見せるイブキ

 

マコトはワナワナと震えながらイブキに近づく

 

 

「イ、イブキ……なんでよりによってその男の絵を……?わ、私のことが嫌いになってしまったのか……?」

 

「自分の絵が描かれなかったぐらいでどんな被害妄想してるんですか……」

 

「ううん!イブキ、マコト先輩は大好きだよ!もちろん万魔殿の皆も!」

 

「そ、そうか……キキキキキッ!そうかそうか!」

 

 

一瞬で上機嫌に戻るマコトに呆れた目を向けるイロハ

 

 

「でもね?マコト先輩への〝好き〟と酒泉への〝好き〟はなんだか違う気がするの……」

 

 

だが、次に発したイブキの言葉はマコトを再び固まらせるのに十分だった

 

そんなマコトに代わり、サツキが言葉の意味を尋ねる

 

 

「えっと……イブキちゃん?それはどういう意味?」

 

「えっとね、確かに万魔殿の皆は大好きだよ?皆優しくて、あったかくて、イブキの胸をポカポカさせてくれて………」

 

 

直後、少しだけイブキの表情に切なさが見えた

 

 

「でもね?酒泉のことを〝好き〟って思うとね?なんだか胸がキュッとするの………ちょっと痛いけど、でも苦しくはなくて……」

 

 

頬を染めながらモジモジと語るイブキ

 

そんな彼女の様子を見てマコトは無言で立ち上がった

 

 

「………」

 

「……マコト先輩?」

 

「イロハ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「折川酒泉を処刑せよ」

 

「風紀委員長に殺されますよ」

 

「ええい!離せ!あの男だけは生かしてはおけん!大体、どうしてあの男だけは呼び捨てで呼ばれているんだ!?私は未だに〝先輩〟呼びなのに!」

 

「それは、まあ……酒泉が小さい子に懐かれやすいから……とかじゃないですかね?知りませんけど………それに彼ってロリコン疑惑ありますし」

 

「やはりロリコンかっ!イブキを渡せない理由が更に増えたなぁ!?」

 

「おっ?やっちゃう?マコトちゃんやっちゃう?」

 

「敵の行動を封じるなら私に任せなさい!まずはこの催眠術で………」

 

「止めてください、またマコト先輩がおかし……いのは元からですね」

 

 

無謀にも風紀委員に挑もうとするマコトをなんとか止めようとするイロハ

 

だが、それ以外のメンバーはむしろ乗り気で攻め込もうとしている

 

 

「~♪」

 

 

そんな彼女達を置いて、イブキの絵は次の段階に入る

 

イブキは万魔殿の部屋全体を見渡すと、幾つかのクレヨンをその手に持つ

 

次は背景────自分と酒泉が並んでいる絵の背景を万魔殿にしようというのだ

 

それはイブキにとって最も慣れ親しんだ場所だからなのか

 

それとも〝酒泉と一緒に居たい〟という考えから無意識に〝万魔殿に来てほしい〟という願いが生み出された結果なのか

 

どちらにせよ、少女は満面の笑みで楽しそうに描き続ける

 

初めての感情に戸惑いながらも、自分と少年の未来を想って

 

 

(この絵をプレゼントしたら……酒泉、喜んでくれるかなぁ……?)

 

 

これからの彼との関係に希望を抱いて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁ……で?今度は何の用です?最近また風紀委員にちょっかい出してる羽沼さん?』

 

『そう邪険にするな……キキキッ!実はまたお前に頼みたいことがあってだな……』

 

『頼みぃ?アンタ、自分の立場忘れてないか?俺に何か頼める立場じゃないだろ?』

 

 

 

だからこそ、彼女は聞くべきではなかった

 

 

『相手を脅す時の効果的な方法を知っているか?それは相手側に時々飴を与えることだ………鞭を打つだけだといずれ反乱を起こされるぞ?』

 

『……まあいいよ、それで?ピアノの次は今度は何を頼もうって?』

 

『次はホワイトデー当日にダンスパーティーを行う!そして舞台ではこの私と踊ってもらうぞ!』

 

『おつかれっしたー』

 

 

イブキが絵を完成させた日からまた別の日

 

偶然……本当に偶然だった、万魔殿で酒泉がマコトと会話していたのも

 

その部屋の扉前にイブキがやってきたのも

 

 

 

『ま、待て!話はまだ終わっていないぞ!この話を受けてくれないと空崎ヒナの脳を破壊できないではないか!』

 

『俺と踊ったところでそうはならんだろ………てか、アンタと踊ってるところを空崎さんに見られるくらいなら死を選びますよ、俺は』

 

『ぐっ……!随分な言い様ではないか……折川酒泉』

 

『当然だろ……こちとらアンタのせいで死にかけてるんだからよ』

 

 

 

イブキは聞き耳を立てた

 

いきなり部屋に突入して皆を驚かせる為に、そのタイミングを見計らう為に

 

そんな子供らしいありふれた理由で、そして……

 

………酒泉に自らが描いた絵を、プレゼントする為に

 

 

 

『キキキキッ!あれは私が飛ばした訳では────待て待て、帰るな、落ち着け』

 

『………そこら辺で寝っ転がりながら話聞いててもいいっすか?なんかまともに相手すんの面倒になってきたんで』

 

『駄目に決まっているだろう!そもそも私が狙ったのは空崎ヒナだ!そこに勝手に移動したのはお前の判断だろう!』

 

『……まあ、それに関してはアンタの言う通りっすね』

 

『だろう!?』

 

『じゃあ俺の責任が1、ベアトリーチェの責任が5、アンタの責任が4ってことで』

 

『何故私が4なんだ!?アリウスはどうしたアリウスは!』

 

『洗脳されてる少年兵は話が別でしょう』

 

『ぐぬぬ……!綺麗事を……!』

 

『………まあ、身体のどっかでも奪われてたら流石に俺だって恨んでたかもしれませんけどね。綺麗事を言える程度の怪我で良かったですよ、本当に』

 

 

そんな会話は更に続き、ついにはイブキの知らなかった話が次々と出てくる

 

〝アリウス〟〝ベアトリーチェ〟

 

そして────〝巡航ミサイル〟

 

イブキも事件としては知っていたが、具体的な犯人の情報などは一つも知らなかった

 

だから、そこから先の会話は全て初めて聞いたものだった

 

キーキーと騒ぎながら突っかかるマコト、それを面倒そうな声で適当に流す酒泉

 

部屋からマコトの怒り声が響く中、イブキがポツリと呟く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マコト先輩が……ミサイルで酒泉を……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あり得ない

 

だって、マコト先輩は優しくて、かっこよくて、イブキと遊んでくれて

 

 

『チィッ……!ああ言えばこう言うな貴様は……そんなに私達万魔殿が嫌いか?』

 

 

そんなマコトの言葉に、酒泉は一瞬も迷うことなく答えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『嫌いに決まってるでしょ』

 

 

 

 

 

(……嫌い?)

 

 

嫌い、キライ、きらい

 

 

(酒泉は、万魔殿が、イブキが────嫌い?)

 

 

たった三文字の言葉がイブキの脳内で繰り返し囁かれる

 

 

(イブキのクレヨンを一緒に探してくれたのに?)

 

(クレヨンを見つけた時、あんなに優しい笑顔をイブキに向けてくれたのに?)

 

 

震える脚で、少しずつ扉の前から下がる

 

手に持っていた絵に涙が滲む

 

本当は今すぐ部屋に入りたかった、今の話が本当かすぐにでも問い掛けてみたかった

 

でも────それはできなかった

 

〝本当に嫌いなのか〟という問いに堂々と頷かれるのが怖かった

 

真実を確かめるのが、確定させるのが、幼い少女には怖かった

 

だから────逃げた

 

一歩ずつ、一歩ずつ、足音を立てないように

 

幸いにも……もしくは不幸にも、酒泉は扉の前のイブキの気配に気づいていなかった

 

それは酒泉が目の前の騒がしい女の相手をしていたり、その女の話の内容が思わず呆れ返ってしまうものであったりと様々な要因が重なった最悪なタイミングの奇跡だった

 

そして何より、その気配が敵意や殺意などを感じさせるものではなかったのが一番の理由だろう

 

ナイフを突きつけられている訳でも銃口を向けられている訳でもない、そこら辺の道を歩いている時になんとなく他人の背中を眺めているのと同じ

 

………逆に言うと、イブキはそれほど呆然としていたのだろう

 

故に、無意識に逃走を選んでいたイブキはその後の会話を聞くことはなかった

 

 

 

『トップはこんなクソカスだし部下は仕事をサボったり羽沼さんを調子に乗らせようとするし、催眠術とか訳の解らんものを使って面倒事を起こすし………なんで部下に催眠かけられてんですか、アンタ』

 

『あ、あれは事故というかなんというか……ええい!現場に居なかった人間が余計な口を出すな!』

 

『……とにかく、他にも風紀委員会の金を勝手に使ったり訓練時間にいちゃもんつけて無理やり増やそうとしたりと、とにかく好きになる理由がありませんよね………まあ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その中でも唯一、イブキさんだけは良い子ですけどね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お願い!アコ先輩!」

 

「そ、そうは言われましても……」

 

 

 

平日の放課後、イブキさんが天雨さんに必死に頭を下げていた

 

……なんだ?

 

 

 

「イブキ、頑張るから!頑張ってお仕事覚えるから!」

 

「えっと……とりあえず頭を上げてください、話ならゆっくり聞いてあげますから……ね?」

 

 

 

幼い少女が年上に何度も頭を下げてる光景は……なんていうか、その……

 

……非常に犯罪チックです、はい

 

もし俺が天雨さんと他人だったら〝お?カツアゲか?〟って思ってしまう

 

 

 

「……ん?酒泉?」

 

「っ!?」

 

────こんにちは……えっと、天雨さん?これは一体……?

 

「酒泉っ!!!」

 

 

 

さっきまで話していた天雨さんの横を通り抜け、俺の方に向かってくるイブキさん

 

その顔はどこか絶望しているような、少なくともイブキさんみたいな幼い子がするべきではない表情をしていた

 

 

「酒泉!お願い!私を風紀委員会に入れて!」

 

────………はあ!?風紀委員会に!?

 

「私をヒナ先輩に会わせて!」

 

 

突然の申し出に驚いてしまう……いやいやいや、万魔殿はどうするんだ?

 

こんな事が知られたら更にあのタヌキからの嫌がらせが……

 

 

「私っ!働くから!マコト先輩が迷惑を掛けた分もいっぱい働くから!」

 

 

そんなことを危惧していたらいつの間にかイブキさんの眼から涙が滲み出ていた

 

更には天雨さんからも〝今度は何をした〟みたいな視線を向けられる

 

待ってください、今回は……じゃなくて今回も本当に無実なんです

 

 

「酒泉が傷つけられた分も!イブキが守るから!」

 

────いや、待ってくれ。イブキさんは何の話を……

 

「だから!だか、ら……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「万魔殿を……イブキを嫌いにならないでぇ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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