「…………」
「……駄目、この本にも載ってない」
「………」
「……こっちも違いますね」
「早く……早く見つけないと……」
「わ、私は絶対に認めませんから……酒泉さんが死んだなんて……」
「彼がいなくなるはずがないです……な、何かの冗談ですよ……」
「き、きっといつも通り、また古書館に来てくれるはずです……」
「……そ、そういえば、彼はアリウスについて熱心に調べてましたね……もしかしてアリウスに何かされたのでは……」
「………そ、そうだ、攫われたんだ!アリウスに誘拐されたんだ!きっとそうです!彼は死んでなんかいません!今も生きているに違いありません!」
「そうです……そうに決まってます……彼は生きてますよ……」
「そ、そうと決まれば早く見つけて助け出さないと……」
「だ、大丈夫ですよ、酒泉さん……わ、私が必ず助けますからね……」
「そしたら……こ、今度こそ私が護りますから……」
「………だから……どうかご無事で─────」
「─────っ!?うあぁあっ!うるさい!無事に決まってるでしょう!?彼が死ぬはずないんですから!」
「こ、このままじゃいけません……最悪の事態を考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな考えるな………」
「うぅ……ぅぅぅぅ……!」
「な、なんで……なんで勝手にいなくなっちゃうんですかぁ……!」
「も、もし見つけたら……今度こそいなくならないようにずっとこの古書館で────」
「────っ!?やめてくださいっ!!!〝もし〟なんて言わないで……っ!絶対に見つけるんですから……!」
「や、やだ……いやです……嫌な考えばかり思い浮かばないで……!」
「…………っ…………あ、あれ?この感じ……酒泉さん……?」
「ど、どこですか!?どこにいるんですか!?顔ぐらい見せてくださいよぉ……!」
「一体どこに………え?これは……酒泉さんが調べていた本から……?」
「あ、ああ……!こんな所にいたんですね、酒泉さん!良かったです……ずっと私の近くに居てくれたんですね!」
「もう……もう二度と離しませんから……これからはずっと一緒ですよ……でも、無事で本当良かった───」
「────……ぁ……ぁぁ……良くない……何が本当に良かったですかっ!良いはずがないでしょう!こんな偽物に縋って!」
「消えてください!お願いしますから消えてください!消えろ!消えろぉ!」
「はぁ……はぁ……!も、もういやです!助けてください、酒泉さん!」
「私は……私はずっと貴方を待っていますから……!」
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「委員長……今日も一人で喋って……」
──────────
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「どうしてですか、先輩!」
「私だって納得できません!でも……!」
正義実現委員会所属の生徒達が言い争っている
「酒泉を殺した犯人をまだ捕まえていないのに、それを差し置いて調印式の準備を始めるなんて!」
「仲間が殺されたんですよ!?」
「………だからといって、いつまでも職務を放棄し続ける訳にはいかないでしょ!?」
「亡くなった酒泉の為にも、我々は酒泉が誇れる組織であり続けなければならないのです!」
「そんな薄情な……」
「もしここで我々が動かなかったら……正義はどうなるんですか!?」
今にも掴みかかりそうな勢いで互いに捲し立てる生徒達、そんな騒ぎを聞きつけたのかハスミが止めに来た
「……皆さん、落ち着いてください。」
「っ!ハスミさん……でも!」
「エデン条約の調印式が控えている以上、事態を混乱させる様な真似は私が許しません」
「な、なんでそんなに冷静でいられるんですか!?」
「本来の役目を忘れて各々が感情のままに動けば、それは組織全体に亀裂が入ることに繋がります。そうなればティーパーティーが────」
感情的になる生徒達を冷静に抑えるハスミ、しかし次の瞬間────
「っ!ハスミさんにとって酒泉はその程度の存在だったんですか!?」
────一人の生徒の放った言葉に目を見開く
しかしそれでも何も言い返さないハスミの代わりに別の生徒が口を開いた
「貴女は何を言ってるんですか!ハスミさんは酒泉君のことを大切に思ってたんですよ!?そんな訳ないでしょう!」
「それならどうして犯人を探さないんですか!本当に大切なら今すぐにでも捜査を再開するべきですよ!」
「やめろ!二人とも落ち着け!」
「こ、こんなこと酒泉君は望んでいませんよ!」
「それなら貴女はこのままで良いんですか!?貴女だって任務中、彼に助けられたことがあるでしょう!?」
「わ、私だって悔しいですよ……!で、でも────」
「…………何の騒ぎだ」
少しずつ口論が激しくなっていく中、そこにツルギが現れる
「い、委員長……!?」
「……………調印式に備えるように命令を出したのは私だ、何かあるなら私の所まで来い」
「…………」
「それとハスミ………この後の任務、お前も同行しろ」
それだけ言い残すとツルギはハスミの腕を引っ張って去っていった
その場には先程まで言い争いをしていた者達が残っていたが、もはや誰も口を開くことはなかった
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──────
「いやぁ……正実もすっかり暗くなっちゃったっすねぇ……」
「そうですね……」
訓練の途中の休憩時間、イチカとマシロは演習場のベンチに腰かけて語り合っていた
「大丈夫っすか?元気なさそうっすけど」
「……正直なところ、大丈夫じゃないですね」
「……まあ、無理もないっすね。仕方無いから今日ぐらいは休んで────」
「イチカ先輩……目の下の隈、隠せてないですよ?」
「────っ……たはは……バレちゃってたっすか?」
イチカは気恥ずかしそうに笑ってみせるが、その顔には疲労感が拭えない
その様子に気づいているであろうマシロから視線を逸らし、演習場の中央を見る
「……静かですね」
「そっすねぇ……いつもなら皆が休憩してる中、酒泉がツルギ先輩に『今日もお願いします!』つって模擬戦挑んでるんすけどね」
「最初は大半の人達が〝勝てるわけない〟って思ってましたけど………いつの間にか酒泉さんを応援する人が増えてましたよね」
「ツルギ先輩自身もいずれ自分を越えることを期待してましたからね……」
そのまま誰もいない景色を眺めながら思い出を語っていると、まるでそこに本当に酒泉がいるかの様に感じてきて─────
「……っ、はぁ……やっぱり簡単には割り切れないっすね」
─────現実から逃げるように目を閉じた
「……コハルさん、大丈夫でしょうか」
「……正直、このままだと危ないっすね」
「ハスミ先輩やツルギ先輩も止めたんですよね?」
「そっす、でも……」
「あの二人の言うことすら聞かないなんて……」
「……まあ、下手に行動を制限するよりかは良いかもしれないっすけどね」
「………そうかもしれませんね」
それからは休憩時間が終わるまでイチカもマシロも共に無言だった
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「コハルちゃん!私達でプールの掃除をしたんですけど、一緒に遊びに行きませんか?」
机にかじりつく様に勉強を続けるコハル、そんな彼女をヒフミが遊びに誘う
「…………行かない」
キッパリと断られるが、ヒフミは負けじと食らいつく
「きょ、今日は暑いですし涼んだ方が良いですよ!」
「………」
「た、確かにちょっと古っぽくてあまり綺麗ではないプールでしたけど………でも、ちゃんと掃除しましたから!」
「………」
「……そ、そうだ!遊び終わったら皆でアイスクリーム食べませんか!?私のオススメのアイス屋さんがあるんですけど────」
「っ!ああもう!うるさい!」
「────っ!ご、ごめんなさい………」
何度もしつこく誘ってくるヒフミに対してつい怒鳴ってしまうコハル
しかしその直後にすぐに〝やってしまった〟と言わんばかりの表情になる
「あ……ご、ごめん……」
「い、いえ!コハルちゃんのお勉強の邪魔をしてしまった私の方が悪いので……その、私の方こそごめんなさい……」
「………ちょっと出掛けてくる」
「え……?コ、コハルちゃん!?」
「先生が来るまでには戻るから」
コハルはそう言い残すと逃げる様に足早に去っていく
あとに残されたのはコハルを止めようとして手を伸ばしたまま佇んでいるヒフミと………
「今回も駄目でしたね……」
「コハル……」
コハルが出ていった扉とは別の扉から教室を覗いていたハナコとアズサだった
「あうぅ……一体どうすればいいのでしょうか……」
「コハルが頑なに心を開こうとしない理由が分かれば………」
「……そうですねぇ、もしかしたらあの事件が関係しているのかもしれませんね」
「……あの事件?」
「ハナコ、何か知っているのか?」
何かを知ってそうな態度をとるハナコに二人が問う
「今から少し前………補習授業部が作られるより前にトリニティで殺人事件が起きたのをご存知ですか?」
「は、はい、確か被害者の方の名前は折川酒泉さん……でしたよね?キヴォトスで唯一の人間の男子生徒だとか……」
「……っ!酒泉……」
「アズサちゃん?」
「……い、いや、何でもない」
一瞬だけアズサの身体がピクリと動く
ハナコはその様子を見逃さなかったが、それに触れる事はなく話を続ける
「その酒泉君のことなんですけど………彼、どうやらコハルちゃんと仲良しだったようなんです」
「………え?」
「コ、コハルが?」
「はい、ですから彼が亡くなったショックで今の状態になってしまった………というのが私の考えなんですけど、こればかりは本人に聞いてみないと分かりませんね」
「うぅ……そんな事聞けません……」
顔を伏せるヒフミ、だからこそ隣にいるアズサが動揺していることに気づかない
「………そうか、彼が」
「彼……?アズサちゃん、その酒泉さんという方と知り合いだったんですか?」
「い、いや……その……」
ヒフミの問いに言葉を詰まらせるアズサ
少し経ってから意を決した表情で口を開く
「その……コハルのこと、何とかできるかもしれない」
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「……やあ、来ると思ってたよ、ハナコ」
「うふふ♡こんな時間に二人きりなんて……何だかイケない事をしている気分になりますね♡」
「それで?話したい事とは?」
「コハルちゃんのことです、セイアちゃんなら当然分かっていますよね?私の伝えたい事……」
「……ああ、分かっているさ。だけどそれを受け入れる訳にはいかない」
「理由をお聞きしても?」
「彼は今、危険な任務に就いている。迂闊に動けば彼女達に………アリウスに存在を察知される」
「アズサちゃんはコハルちゃんを酒泉君に会わせるおつもりですよ?」
「…………」
「私としてもコハルちゃんの事は何とかしてあげたいのですが……」
「……随分と補習授業部の事を気に入ったみたいだね?」
「ええ♡大切なお友達ですから♡………ありのままの私を受け入れてくれる」
「受け入れる……か、そういえば君が彼を気に入った理由も同じだったね」
「彼ったら可愛いんですよ?普段は何ともない様な表情をしているのに、いざ身体を近づけられると必死に顔を逸らすんですから♡」
「別にそこまでは聞いていないが………仕方無い、話だけは通しておこう。ただし、どうするかは彼次第だ」
「ふふっ……ありがとうございます、セイアちゃん♡」