全員ifの記憶持ち&二週目(ただし酒泉君除く)
「ぐぅ……!馬鹿な、どこで私の計画を……!」
「貴様に従うつもりはない、私達は貴様の道具ではないのだからな」
「……ていうか、私の〝持ち主〟は決まってるし」
「えへへ……これで自由になれましたねぇ……」
「悪いけど、貴女の為に人生を捧げるつもりはないから………私の人生は彼と出会う為にある」
「ロイヤルブラッド……誰がここまで育てたと思って……!」
「私達が今日まで生きてこれたのは〝彼〟のおかげだよ」
「一体誰の話を……!」
「……とにかく、私達はこれ以上アリウス自治区に残るつもりはない」
「皆、退路の確保ができた」
「よくやった、アズサ」
「………じゃあ、さっさと脱出しようか」
「追っ手が来ちゃいそうですしね………」
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「……アリウススクワッドの入学手続きが終わりました」
「ほんと!?ナギちゃんありがとー!」
「いえ、私はただ〝先輩方〟に相談しただけですから………〝今の〟私達では出来ることは限られていますからね」
「これで受け入れる準備は出来たな……さて、後はエデン条約を結べば……」
「えー?そっちはどうでもよくなーい?」
「………まだそんな事を言ってるんですか、ミカさん」
「ごめんごめん!冗談だよ~」
「まあ、数年後の話を今しても意味がないか。ここは時が来るまで大人しく待っておくとしよう…………今度は暗殺しないでくれよ?ミカ」
「うぐっ……い、意地悪言わないでよセイアちゃん……」
「冗談だ冗談……さて、後は彼をどうトリニティに入学させるかだが……」
「………敵は他校だけじゃありません、私達以外の生徒達も〝記憶〟がありますからね」
「……蒼森ミネに歌住サクラコ、そして剣先ツルギ……か」
「確か古書館の彼女も……でしたよね?」
「………あんま悠長な事は言ってられなさそうだねー」
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「……全く……心配させないでくださいよ、ユメ先輩」
「あはは……ごめんねホシノちゃん……」
「……まあ、軽症で済んで良かったです」
「うぅ……面目無い……」
「………彼に会うまで二人で生き残ろうって約束したじゃないですか」
「……うん、そうだね」
「………本当に勘弁してくださいよ、また貴女を失うなんてのは御免ですからね」
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「……こ、これで起動……したんだよね?」
「うん、確か……」
【………起こすのが遅いですよ、王女を待ちくたびれさせるつもりですか?】
「うわあ!?いきなり喋らないでよ!?」
「びっくりしたぁ……」
「お、おはよう、ケイちゃん……」
「……ところで……アリスちゃんは?」
「はい!アリスもちゃんと起動しています!」
「よ、良かった……二人とも無事だね……」
「じゃあ、早速会長とヒマリ先輩の所に連れていって身体を検査してもらおっか!」
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「会長………いえ、未来の会長候補。先に言っておきますけど〝今回は〟勝手に居なくならないでくださいね?」
「うっ……やっぱり怒ってるよね、リンちゃん……」
「……当然でしょう」
「……ごめんね、色々押し付けちゃって」
「………それでも代理として背負っていくのを選んだのは私ですから」
「リンちゃん……」
「………ですが、それはそれとしてやっぱり怒っていますので」
「だ、だよね………でも大丈夫!今回はどこにも行かないから!また同じ事を繰り返して皆を悲しませたくないし、それに………」
「………ここまで繋いでくれた彼の努力を無駄にしない為に……ですよね」
「……うん」
「……そういえば……先生とは連絡は取れましたか?」
「うん、記憶もバッチリ残ってたよ!」
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それは突然起きた
ある者は就寝中に、ある者は戦闘中に、ある者は食事中に、ある者は産まれ落ちた瞬間に、ある者はいつの間に
何の前触れもなく、何の理由もなく、一切原因不明のまま〝未来の記憶〟や〝別の可能性の記憶〟が流れ込んできた
一体何の為に……などと疑問に思ったのは一瞬だった
〝これはチャンスだ〟
記憶を手に入れた全ての者達はそう思った
理由は勿論〝彼〟を自身の学園に……あわよくば自身の隣に置く為に、早い段階から行動できるからだ
己の欲望を満たす為に面倒事を解決し、誰よりも先に少年を手に入れようと各々が画策する
「おかしい………なんで……」
……ところで、皆さんはバタフライエフェクトというものをご存知だろうか?
具体的な説明をするとかなり長くなってしまうので簡潔に説明すると………〝蝶が一匹羽ばたいただけで世界に大きな変化をもたらす〟といったような感じだ
「この時期には既に酒泉は……中等部一年だったはず……」
各々が最善を尽くした結果、キヴォトスは平和な方へ導かれた
先生は本来の歴史よりも何年も早くキヴォトスにやって来て、ゲヘナの治安は前より大幅に改善され、トリニティの組織間の争いも収まった
アリウススクワッドはティーパーティーの力を借りて居場所を手に入れ、アビドスは大切な先輩と二人で学校を守り続け、ミレニアムは魔王も勇者も失わずに全てを解決した
「なのに……どうして────」
間違いなくハッピーエンド、誰がどう見ても文句無しの平和な学園都市キヴォトス
これで終わり、めでたしめでたし
……まあ、要するに────
「────どうして酒泉が居ないの……?」
────この世界に折川酒泉は必要なかった
そんな事実に気づかないまま、空崎ヒナは一人呟いた
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「酒泉っ!パス!」
───おっしゃあ!任せとけ!
「おいっ!アイツまた3ポイントシュートするつもりだぞ!」
「止めろ!今すぐ止め────」
───からのパスッ!
「なにっ!?ここに来てワンマンからの連携!?」
「ナイス酒泉!……おらっ!」
「うおおお!また2点取られたあああ!」
「っしゃおら!」
───ナイスシュート!
「そっちもナイスパスだぜ!酒泉!」
学校の体育館で大勢の生徒達がバスケで遊んでいる
一人は獣人だったり一人は機械人だったりと種族に纏まりがないが、その中でも一際目立っている生徒がいる
彼は折川酒泉、この学校で唯一の人間の男子生徒だ
………ここは一切の区別無く、全ての種族の子供を生徒として受け入れる学校
そこに居る子供達は誰一人銃を持たず、代わりに互いの手を取り合って生きている
「お前、このままバスケ部に入ったらどうだ?」
───いや……俺、バイトしたいからさ……
「そうか……勿体ないなぁ……」
折川酒泉という少年は孤児院出身の少年だった
……とはいえ、金で謎の大人達に売られそうなところを逃げ出した過去持ちだが
そして本来の歴史であれば、折川酒泉は逃げ出した先で偶然ブラックマーケットから表の世界に出てきた生徒達と情報部の生徒達との戦いに巻き込まれ、そこで保護されるはずだった
だが、この世界は正史より平和だった………平和すぎた
その戦いは発生せず、折川酒泉はそこからかなり離れた場所で資金が尽きて行き倒れ、そこを親切な大人によって助けられた
その大人はジャンク屋を名乗り、右も左も分からない酒泉に帰れる居場所を与えた
更にはキヴォトスで比較的安全そうな学校にも通わせ、勉強もさせてくれた
………酒泉は〝どうしてこんなに親身になってくれるんですか?〟と尋ねたことがある
その際に帰ってきた答えが〝命を救ってもらったから〟だった
酒泉は何が何やらといった感じだったが、ジャンク屋本人が笑って誤魔化してくるからそれ以上問い詰めることはしなかった
だが、理由が何にしても彼に返しきれない恩が出来たのは事実
酒泉はその恩を返す為に中学生でもできるバイトを探し、暇さえあればその仕事をこなしてジャンク屋に給料を渡している
最初の方は〝子供なんだからそんなこと気にするな〟と断られたが、酒泉が土下座しながら〝受け取ってください〟と何度も地面に頭を打ち付けてる内にジャンク屋の方が折れ、結局その給料から酒泉の分の小遣いを抜いて残りを生活費に回すことで決着がついた
「……っと……こんな時間か……もうバイトだっけ?」
────ああ、悪い……また明日な
「おう!じゃーな!」
「おい酒泉!明日も体育館来いよ!今度こそ負かしてやるからな!」
────勝てんぜ……お前は……
「む、ムカつくな……!おいお前ら!もっと練習するぞ!アイツに吠え面かかせるぞ!」
「「「「おおー!」」」」
……まあ、とにかく折川酒泉は幸せだということだけ理解してもらえればいい
おめでとう!君達の愛する少年は危険な戦いに巻き込まれず、これからも多くの友人達と共に成長していくだろう!
銃の撃ち方を自分から覚えることはせず、誰かを傷つけることなく、平和に暮らしていくだろう!
もしかしたら恋人が出来るかもしれない、その子と結婚するかもしれない、子供ができるかもしれない、孫に囲まれて死ぬかもしれない
………だが、それはとても素晴らしいことだろう!何故なら─────
────この平和なキヴォトスで、折川酒泉は間違いなく幸せで満たされているのだから!
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「……マエストロ、聞きましたよ」
「……何の話だ、黒服」
「彼の身を狙った一部の組織を秘密裏に壊滅させたそうですね………何故、そのような事を?」
「………」
「貴方はある日突然、彼に興味を持ち始めました………それまで一切そんな素振りを見せていなかったのに」
「……それで?」
「いえ、ただの好奇心で聞いてみただけですので………お答えしたくなければそれでも構いません─────」
「気に入らなかった」
「─────はい?」
「芸術の価値を理解できぬ者達の手によって〝自然に産まれた芸術〟が汚されるのが気に入らなかった」
「……その芸術とは〝彼〟のことですか?」
「違う、彼とその周り全てだ」
「……周り?」
「少年の友人、少年の保護者、それら全ての者達が交わることによって産み出されるごく普通の在り来たりでありふれた光景の事だ」
「……なんともまあ……貴方らしくない答えですね」
「……まあ、礼でもあるがな」
「……礼……ですか?」
「…………気にするな、〝向こうの私〟の話だからな」
「……そうですか」