酒泉君がミカと偽装カップルを演じる話・前編
「っけほ………は?偽装カップルになってほしい?」
「そうそう」
思わずメロンクリームソーダを吹き出しそうになるのを抑えながら、今言われた言葉を復唱する
聖園さんは何の躊躇いもなく頷いた
「実は最近パテル分派の子に〝私の知り合いとお見合いしてほしい〟ってしつこく迫られてねー」
「じゃあ断ればいいでしょ」
「それがさー……その子、まだ私がティーパーティーとして働いてた時に何度もお世話になった子なんだよね」
聖園さんはばつの悪そうな顔で愚痴りながらアップルパイを────おう待てやそれは俺が注文したやつだ
「こいつ……!」
「でさ?ハッキリ断るのも申し訳なくて〝私、内緒で付き合ってる彼氏が居るから!〟って嘘吐いたんだけど………」
「何事も無かったかのように話を進めやがって……!」
「そしたらその子が〝本当に彼氏が居るのなら連れてきてください!〟って言ってきてさ………向こうもお見合い相手連れてくるから直接会わせろだって」
成る程、自分の目で確かめないと信じないタイプの子か
……ん?待てよ?
「そもそも、なんで聖園さんがお見合いする事になったんだよ」
「あー……そのお見合い相手、結構良い所の社長の息子さんなんだよね。立場も財力も良い感じだし、これを機にパテル分派を立て直したいんじゃない」
「ふーん?要するに利用されそうになってんのか」
「そんな感じかな?」
「……お見合い相手の方は聖園さんのことどう思ってるんだ?」
「んー?〝一目惚れ〟……らしいよ?」
恥ずかしがる素振りも見せずアッサリ答えると、聖園さんは財布の中から1枚の写真を取り出した
「因みにこの人が私のお見合い相手ね」
「どれどれ────っ!?こ、これは……!」
そこに写っていたのはキヴォトスでよく見かける丸っこい頭をした機械人────などではなかった
紫の装甲にスラッとした顔、例えるならば某ゲリヲンに出てくる初号機の様なイケメンフェイスだった
「因みに名前は〝塩田ゴウキ〟さんね」
「塩田……ゴウキ……」
塩田ゴウキ……シオダゴウキ……しおだごうき……しょごうき………初号機!?
「全てが……繋がった……!」
「は?」
聖園さんが首を傾げて〝なんだコイツ〟みたいな目で見つめてくる
だが俺は聖園さんの視線を無視して写真をガン見し続ける………いやマジでカッコいいなおい内部機構とか調べさせてくれないかな
「……まあ、そういう訳だから……当然協力してくれるよね?酒泉君☆」
「……先生とかには頼まないんですか?」
「だって先生には迷惑掛けたくないし」
「そーかそーか、つまり俺に喧嘩を売ってるんですね表出ろや」
「いいよ?」
「しゃーねえな見逃してやるよ今回だけだからな」
こんな公衆の面前で聖園さんをボコるのは流石に可哀想だからな………許してやるよぉ!
「……で?受けてくれるの?」
「……そのお見合いの日ってのは?」
「明日」
「明日ですか………明日ぁ!?」
あまりにも急すぎる……まあ、幸いにも明日は何の予定もないけど
……いや、確か明日は午後から近所のスーパーで野菜割り引きセールがあったような……
「……まあいいか……その依頼、受けますよ」
「本当!?良かったぁ……」
心底安心した様に目の前で溜め息を吐かれる
そんなにお見合いしたくなかったのか………あんなイケロボと直接会えるってのに贅沢な人め
「たくっ……話が終わったならさっさと帰りますよー」
向こうも用は済んだだろうし、俺も残りのアップルパイを………あれ?
皿に……残ってない……?
「あ、ごめーん!あまりにも美味しかったから全部食べちゃった☆」
「……はああああ!?ちょっ……俺まだ二口ぐらいしか食ってませんよ!?」
「あはは!ごめんごめん!このモンブランあげるから許してよ☆」
「………ふん!」
「あっ!?ぜ、全部食べた!?私だってまだ一口しか食べてないのに!?」
「食い物の恨みを思い知れ……!」
「………ふん!」
「うああああああ!?俺のメロンクリームソーダが全部飲まれたああああああ!?」
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当日、お見合い会場にて
和風の部屋には似合わない、いつもの白い服で居心地悪そうに座る聖園さん
そんな彼女をニコニコと見つめながら時々聖園さんの隣に座っている俺にも視線を向けてくるイケメンロボットの塩田ゴウキさん
そしてその隣で普通に俺を睨んでくるパテル分派であろう生徒
最後に……目の前に並べられた料理達(特にふぐ刺し)に夢中な俺!以上!メンバー紹介終わり!
「こうして直接お会いするのは初めてですね……ミカさん」
「ええ、そうですね」
早速イケロボスマイルで話しかける塩田さんと作り笑いで対応する聖園さん
その表情は聖園さんがよくやる元気そうな笑みではなく、おしとやかそうな笑みだった………だがゴリラだ
「それで……隣の彼が?」
「あ、はい……現在私がお付き合いしている恋人、です……」
「………」
「……ほ、ほら!挨拶して!」
「ん?ああ……どうも、折川酒泉です。一応彼氏です」
「………一応?」
ついうっかり余計な言葉を付け加えてしまったせいで塩田さんに訝しげに見られてしまう
そんな俺の失態を咎める様に聖園さんが誰にも見えないように俺の背中を叩いてくる
「あ、あはは……彼ってば中々自信が持てないんですよー……〝一般生徒の自分が元ティーパーティーの恋人を名乗ってもいいのか〟って」
「あーそれですそれです」
「………そうですか」
適当に答える俺をジロリ、と見定める塩田さん
「────なら、そのプレッシャーに押し潰される前に別れた方がよろしいのでは?」
「は、はい!?」
かと思えば次の瞬間、いきなり口撃を仕掛けてきた
「ミカさん、貴女はこうして恋人を連れてきたら私が素直に諦めると思っているみたいですが………私の想いはその程度の物ではありませんよ」
「えっとぉ……」
「むしろその逆────益々その男から貴女を奪いたくなりました」
想像してたのと違う展開になってしまったせいでパニクっているのか、聖園さんは俺に助けを求める視線を向けてくる
一方で正面からは塩田さんの冷めきった視線をぶつけられる
「彼は恋人としての自信が持てない、と………貴女はそう言いましたね?」
「は、はい……」
「その様なネガティブな男など貴女には不似合いです、貴女の様な誇り高い女性にはもっと心身共に強い男が相応しい」
なんかボロクソ言われてるけど特に気にも留めず目の前のふぐ刺しに箸を伸ばす、うまうま
「ミカ様、塩田様はこのキヴォトスでアパレルブランドを立ち上げて成功しただけではなく、現在は飲食や建築など様々な業界に手を出してはその全てで必ず成果を上げてきた超一流の経営者です………勿論、全て自身のお力で」
「父の七光りとは言われたくないですからね」
「ソ、ソウナンデスネー」
すっげー片言で対応する聖園さんに気づかずイケロボスマイルを再び向ける塩田さん
このまま聖園さんとだけ話しててくれないかなーと思ってたら今度は俺に話しかけてきた
「……今度は貴方の話をお聞きしたいのですが」
「俺っすか?俺は特に……なんもやってませんけど、ただのゲヘナ生ですし」
「……ゲヘナというと……あの治安が悪い事で有名な?」
「そっすね、あの〝超〟治安が悪い事で有名なゲヘナです」
「………なんてこった、ミカさんはそんな所の生徒と付き合ってしまっているのか」
塩田さんは額を手で押さえると片目だけ開けて険しそうな表情で忠告してきた
「ミカさん、やはり貴女は彼と別れるべきです。〝元〟とはいえティーパーティーの生徒がゲヘナの生徒と付き合ってるなんて知られたらどんな面倒事に巻き込まれるか分かったものではありません」
「そ、そんな大袈裟な……」
「これは貴女の為を想って言っているのです……政治の道具、互いの学園に対する人質、両校の機密情報入手の為の餌………貴女達の関係を利用する方法などいくらでも思いつきます」
苦笑で対応する聖園さんと真剣な表情で迫る塩田さん
その勢いに乗ったまま、塩田さんは自身の考えを堂々と述べる
「仮に私が似たような状況に巻き込まれたとしても、私の場合はそれを解決できる財力と繋がりがあります………ですが、彼にはそれが無いでしょう?」
「俺、目とかめっちゃ良いですよ」
「………話になりませんね」
此方に指を差してきたから自分の長所を述べてみたらそっぽを向かれた、解せぬ
「……あ、あの!さっきから話が急すぎると言うか……一旦落ち着いて互いの親睦を深めませんか?」
「………そうですね、出会って突然自分の考えを押し付けるなどとても紳士のする事ではありませんでしたね………申し訳ございません」
「じゃ、じゃあ……まずは塩田さんのご趣味から……」
「ええ、分かりました……ですがその前に……ミカさん、私の事は〝ゴウキ〟と名前で呼んでもらっても構いませんよ?」
「……あ、あはは……もうちょっと仲良くなったら名前で呼びますね」
グイグイ迫られるのに慣れていないのか、聖園さんの対応が後手に回っているような気がする
……まあ、本当にやばくなったら助け船を出せばいいか
「さて、私の趣味ですが………ヘッドハンティング、とでも答えておきましょうか」
「へ、ヘッドハンティングが趣味……ですか?」
「大好きなんですよ………強い覚悟を持って目的に挑む若者や向上心のある若者が、ね」
その機械の顔の奥の瞳がギラッと輝き、聖園さんを正面から射抜く
「例えば勇気と無謀の違いを知っていながらも不可能に挑む者、例えば現状に満足せず常に自身を高め続ける者、例えば────」
「貴女の様に〝全てを敵に回す覚悟〟を持ち、それを実行に移す者」
「……え?」
「ミカさん、私はお見合いをする理由を周りの者に〝ミカさんに一目惚れしたから〟と伝えていましたが………本当はそれだけではないのです」
塩田さんは聖園さんの様子が変わった事にも気づかずベラベラと喋り続ける
そこのパテル分派のおねえさーん、場の空気が気まずくなりそうなんでその人黙らせてもらってもいいですかねー
………なんて願いながら睨み付けるが、当然無反応
「貴女はエデン条約をゲヘナと結ぶ事に納得いかず、自らの親友を切り捨ててまで締結を阻止しようとした!私は容姿だけじゃなくその覚悟にも惹かれたのです!」
「あっ……わ、私はそんなんじゃ……」
「もし悪事がバレたとしたら全てを失う!仲間も権力も財力も!だが、貴女はその恐怖に打ち勝ち、見事計画を実行に移した!」
恐らく塩田さんは本気で聖園さんの事を褒めているのだろうが……それは逆効果だ
その証拠に聖園さんは何も言い返さず俯いている
「周りの愚か者達は貴女を責め立てただろうが………私はそんな事はしません!むしろ褒め称えましょう!」
「………」
「貴女は素晴らしい人です!他人の意見を押し退けてでも自分の意思を貫き通し、真相が明かされる最後の瞬間まで戦い抜いた!」
チラッと視線を下げてみれば聖園さんがスカートをギュッと握っていた
……よく見れば手も僅かに震えている
「トリニティには貴女の真の価値を理解できる者など1人も存在しない!エデン条約に不満を持ちながらも自ら動く度胸も無かった他の生徒達に貴女を責める資格などありません!」
「……そ、そう……ですか……」
「私は貴女の全てを受け入れます!貴女が裏切り者でも!貴女が魔女でも!私は貴女の全てを愛していますから!」
いつもの勢いをすっかり失くしてしまったのか、聖園さんはか細く答えるだけだ
……まあ、実際に聖園さんがやらかした事はシャレになってないし何も言い返せないだろうな
俺だって別に聖園さんを擁護しようとは微塵も思わないし、本人が反論せず言われっぱなしである事を選んだなら俺が止める理由も─────
「………あ?誰が〝魔女〟だって?」
コイツ、今なんて言った?