「この人が魔女?目でも腐ってんのか?」
ハッキリと、明確な怒りを込めて睨む
全ての視線が此方に向けられるがそんな事は知ったこっちゃない
「……おや、気に障ってしまったのなら申し訳ございません。如何せん昔から好きな事を語るとつい気が昂ってしまう性格でして…………誤解されないように訂正しますと、これは私なりの称賛でして────」
「んなもんどうでもいい、俺がムカついたのはそこじゃねえ」
相手の言葉を遮って無理やり口を閉じさせる
もはやお見合いの空気ではないが、こんなクソロボットなんかに気を遣ってやる必要はない
「……いいか、この人は魔女なんて大それた存在じゃない……暴力的で短絡的で自分勝手で気に入らない事があればすぐに不機嫌になる、人間の短所を詰め込んで擬人化させた様なただのクソ女だ」
「は……はぁ!?ちょっと酒泉君!?」
「随分と貶してますね……貴女の恋人でしょう?」
「恋人だとしても擁護できないくらいのクソ女っぷりだって言ってるんだよ」
隣から聖園さんの文句が聞こえてくるがそれを無視する
今、俺が話しているのは目の前の初号機擬きのクソロボットだ
「残念ながらこの人はアンタが思ってるほど立派な人間じゃない、大層な覚悟も崇高な目的も持ち合わせちゃいない………アンタのイメージを勝手に押し付けるなよ」
この男は〝聖園ミカ〟を知ろうともしていない
エデン条約をぶっ壊そうとしたのは自分が気に入らないから、下らない理由だ
それを実行に移した時は百合園さんが死んだと思って後に引けなくなっていた、誰かを切り捨てる覚悟なんて持っていない
「偶々自分で想定してた以上の被害が出て、それで自分のやろうとした事の愚かさを漸く知って、それでも後戻りできなくなった………つまり場の空気に流されただけみたいなものだ、どうだ?これでもまだアンタの理想の相手と言えるのか?」
「………でも、彼女が自分の意思で友と戦う事を選んだのは事実でしょう?その時点で相当の覚悟は持っていたはずです」
「違う、ただ話し合いを拒んで誰にも相談しなかっただけの馬鹿だ」
恋人である筈の俺が聖園さんをボロクソに貶し、お見合い相手が聖園さんを褒め称えるという可笑しな状況になっている
だが、そうでもしないとコイツが聖園さんに抱いている幻想を打ち砕けないだろう
「その上、自分だって散々悪事を働いておきながらいざ誰かに裏切られたら逆恨みで襲いにくるし、戦闘中に突然泣き出して被害者面するし、かと思えば急に味方になってくるしで………とにかく行動に一貫性が無いんだよ」
「そ、そこまで言わなくてもいいじゃん!」
「全部事実ですぅ!………まあ、要するに俺が言いたいのは〝聖園ミカは立派な人間なんかじゃない〟って事だ」
俺の言葉を聞いた途端、目を細めて聖園さんを見つめるクソロボット
表情筋が存在しないにも関わらずその機械の顔はどこか不機嫌そうに見えた
「────もう一度言うぞ……ミカは魔女じゃない、その時の気分次第で行動が変わって自分の思い通りにならないとすぐに癇癪を起こすだけのクソガキだ」
「………先程からミカさんに厳しい言葉を投げすぎでは?」
「アンタみたいに全肯定するのがこの人の為になるってんなら喜んで甘やかしてやるよ」
前世では〝聖園ミカ〟という人間の事は画面越しに知れた、今世ではこの目で直接知れた
「俺は知っている、ミカがどんな思いで罪を償う事を選んだのかを………自分の行動が間違っていると、そう自覚しているからこそ他者からの批難も嫌がらせも全部耐えてきたんだ」
「でしたらそれを庇うのが恋人である貴方の役目では?先程から突き放してばかりのように見えますが……そこは彼女をトリニティから連れ出してでも護るべきですよ」
「知るか、自分で選んだ道なら自分で歩けってんだ」
「……薄情ですね」
心底蔑んだ様に呟かれる
……そもそも聖園さんが誰かに肯定される事だけを望んでいたのならさっさとトリニティから出ていってる筈だ
この男は聖園ミカという女をデータ上でしか知らないからそんな事も分からないのだろう
「アンタはさっきミカの行動を〝褒め称える〟とか言ってたが、俺からしたらその行為は罪を償うというミカの決意を踏みにじったも同然だ」
友を殺めそうになったことを褒める?大勢の人間を傷つけたことを褒める?
違うだろ、聖園さんが求めてるのはそんな言葉じゃないはずだ
「俺達がやるべきなのは甘い言葉でミカを慰める事じゃない、心が折れそうな時におもいっきり尻をひっぱたいて無理矢理立ち上がらせる事だ……違うか?」
「……彼女の為とは言っているものの、貴方の行動はミカさんを傷つけるような行動ばかりです」
「今更すぎるな、とっくの昔から傷つけあってるよ」
思い起こすはアリウス自治区で戦った時の記憶
あの戦いからまだ1年も経っていないはずなのに、どうも懐かしく感じる
俺はあの時、聖園さんの〝傷〟を見た
後悔も絶望も憎悪も、ぐちゃぐちゃになった自分の感情をどうする事もできなくて復讐に走った……愚かな少女の心の傷を
私には何も残っていないと寂しがり、お前達も失えと理不尽な怒りをぶつけてきた、自分の感情を制御できない子供らしい聖園さんの姿を
「こんなクソガキ、アンタみたいな立派なお偉いさんの手には余るよ……俺みたいな同じクソガキと付き合うのがお似合いだ」
「……ふむ」
目の前の男は自身の顎に手を当てて何かを考え込む
それから顔を上げると、先程よりも冷たい声色で聖園さんに問いかけた
「ミカさん、1つ質問が………彼が述べていることは全て事実ですか?」
「え!?えっと……うん、全部本当の事だよ」
「………」
「その、私は貴方が思っているほど強い人間じゃないの……ナギちゃんやセイアちゃんを……友達を切り捨てる覚悟なんてないし、孤独に耐えられるほど強い心も持ってないよ」
「………そうですか」
「これで分かっただろ?ミカはクソザコメンタルを拗らせただけのクソ面倒な女だって事が」
「……むぅ」
隣から何かを訴えるような視線をぶつけられるが、これもまた無視
「とにかく……ミカの事はもう諦めな、アンタにはもっと相応しい人がいるはずだからよ」
「ええ、そうしましょう」
「……あ?」
「えっ!?し、塩田様!?」
クソロボットは結構アッサリと諦めてくれたが、それを見たパテル分派の少女は慌てながら止めようとする………そういえばお前居たな
「ま……待ってください!まだお話は終わってませんよ!?」
「いいえ、終わりましたよ。彼女が自分で自分の弱さを認めてしまったのですから……その時点で彼女は私が求める女性ではなくなりました」
「そんな……!」
ああー……なるほど、興味を失った途端手のひらクルリするタイプの奴かコイツ
もっと情報を集めてから聖園さんに会えば彼女がどういう人間か分かっただろうに………リサーチ不足だな
………多分、コイツは自分の理想の女性を探してるんじゃなくて自分の理想を押し付けられても耐えられる強さを持つ女性を探してるんだろうな、それも無意識に
だから〝この人はこうであってほしい〟という願望を込めて相手の事を知った風に語って、相手がそれを否定したら簡単に諦められる
「……だってよ、良かったなミカ」
「え?………きゃっ!?」
座っている聖園さんの手を引っ張って立ち上がらせる
そして聖園さんの肩を片腕で抱き寄せ、パテル分派の少女と容姿だけのクソロボットを睨み付ける
「俺だってさっきからずっとアンタの事が気に入らなかったんだ」
「ちょ、ちょっと!酒泉君!?ち、近っ……」
「────ミカは俺の女だ、アンタには渡さない」
「────っ」
怒りを込めて堂々と宣言するが目の前のガラクタポンコツクソロボットは一切の反応を示さない
ただ、静かに目を閉じるだけ………完全に興味を失くしたな
「……行くぞ」
「……は、はい」
何故か敬語で答える聖園さんを連れて俺達はそのまま外に出ていった
…………あ、もっと料理食ってから出ていけばよかったな
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「……はぁ、勝手に手を握ってすいませんでした……聖園さん」
「あ、うん……」
会場から離れて暫く
中央に噴水がある広場まで移動してから聖園さんの手を離す
「……その、呼び方戻したんだね」
「ん?……まあ、あの場でくらい名前呼びしないと本当に恋人かって疑われますからね」
まあ、最後はもうそれどころじゃなかったけど
……そういえば途中から相手を威圧する為に〝ミカは俺の女だ〟とか言ったけど……冷静に考えたら恥ずかしい発言なのでは?もっと言い様があったな……
「……お見合いを滅茶苦茶にしちゃってすいませんでした……もっと穏便に済ませられる方法もあったはずなのに」
「……ううん、気にしないで……向こうが諦めてくれたらそれで良いから」
少々感情を暴走させすぎたかと自己反省するが、聖園さんは気にするなと手を振ってくる
……なんか、あの時の俺って俺らしくなかったな
「そ、それにさ!?私も嬉しかったから!酒泉君が私の事を〝魔女じゃない〟って否定してくれて………代わりに色々と不名誉な事を言われたけど」
「クソガキ、クソ女、自分勝手」
「そう!それ!あんなに言う必要は無かったでしょ!?」
「適当にボロクソ言っとけば向こうからの評価も下がるでしょう?」
結果的にお見合いの話を無かった事にできたのだからむしろ褒めてほしい
「それにしても言い過ぎだもん……」
「じゃあなんです?もっと褒め殺した方が良かったですか?〝聖園ミカは誰にでも好かれて絶対に間違いを起こす事がない完全無欠のトリニティのリーダーです〟って」
「酒泉君にそんなに褒められると流石に気持ち悪いかなぁ」
「おう、俺も自分で言ってて吐き気がしてきた」
結局、俺と聖園さんの関係はこれくらいの距離感が丁度良いのかもしれない
「……ねえ、酒泉君」
「なんすか」
「ありがとね……私を見てくれて」
「……はい?」
「間違ってる事は間違ってるって言ってくれて、過ちを忘れないように傷口に触れてくれて、私が駄目にならないように厳しくしてくれて………あと────」
「ストップストップストップ!分かった!分かりましたから!アンタにそんな言われると寒気がする!」
「ふふん!さっきの私の気持ちが分かった?」
先程褒めたことへの仕返しか、聖園さんはイタズラっ子のような笑みを浮かべてくる
……褒めたのに仕返しされるっておかしくね?
「思ってもないこと言わないでくださいよ、たくっ………じゃ、やる事はやったんで俺はもう帰りますね」
「え?もう行くの?」
「約束は果たしましたからねー」
〝またいつか〟と言い残して歩みを進める
さて、帰りはどうしようか………今からならスーパーの野菜割り引きセールに間に合うか────うおおおおっ!?
「手がいてぇ!?」
「あっ!?ご、ごめん!?」
突如手を掴まれてとんでもない痛みが走ってきた、この人どんな力で握ってんだ
「いたたたたっ……もう、なんですか?まだ何か用でも?」
「え?いや……あの……」
用があるのかと思えば何も言わない聖園さん
顔を赤くしてモジモジするのをひたすら繰り返している……なんだ?改めて礼でも言おうとしてるのか?
それで恥ずかしがって言葉にできないとか?
「……その、もうちょっとだけ恋人のフリしない?」
「……はぁ?なんで?」
「ほ、ほら!今後も同じ様な事が起きた時の為の練習になるでしょ!?」
「こんな事二度も起きませんよ……」
「念のためだから!ねっ!?」
しつこく食らいついてくる……と同時に聖園さんの手に再び力が込められる、このままだと砕かれるかもしれない
……まあ、今回は強引な方法でお見合いぶち壊しちゃったしそれのお詫びって事で
「分かりました、もうちょっとだけ続けましょっか」
「ほ……本当?いいの?」
「聖園さんが頼んできたんでしょ……」
まさか首を縦に振られるとは思っていなかったのか、聖園さんは目を見開いて驚愕する
「……で?恋人のフリって何をすればいいんですか?」
「え、えっと……映画館で何か観たり、一緒に食事したりとか?」
「映画は……この時期は特に気になってる作品はありませんね……聖園さんは?」
「私も……特に何も……」
「……じゃあ、どっか飯でも食いに行きますか?デザートのメニューが豊富な店とかあれば嬉しいんですけど」
「あ!それなら私知ってるよ!」
「お?マジっすか?じゃあ早速案内お願いしますね」
「うん、任せて!」
そう言うと聖園さんは────腕を絡ませてから手を繋いできた
「……これは?」
「……だって、今の私達は恋人なんでしょ?」
「だからってここまでする必要は────おあっ!?」
抗議しようとした瞬間、聖園さんは俺の肩に頭を置いて身体を預けてきた
「ほら、道案内はするから早く進んでよ」
「……最初から俺の事を恋人じゃなくて身体置き場として利用する気だったでしょ」
「悪い?」
「悪いです、離れてください」
「だーめ☆」
明るい笑顔でそう答えられる、ちょっとイラッとした
……そうだ、こっちも仕返ししよう
「えへへ……」
「聖園さん」
「ん?なーに?」
「聖園さんの手汗ヤバ─────」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふんふふーん♪」
「……随分とご機嫌じゃないか、ミカ」
「何か良いことでも?」
「んー?」
妙に高いテンションで鼻歌を歌いながらロールケーキを切り取るミカ
その上機嫌な姿に疑問を感じたナギサとセイアが〝何があったのか〟と問う
「んー…………内緒!」
しかし、幼い子供の様な笑みと共に返ってきたのは黙秘だった
「おやおや、また隠し事かい?」
「なになにー?セイアちゃんそんなに気になるのー?」
「そりゃあ、あれだけ楽しそうにしてたらね」
「あんなミカさん、久しぶりに見ましたからね」
「………因みに私の勘は彼絡みの事だと告げているのだが……」
「うぇ!?い、いや?別に~?酒泉君は関係無いし~?」
「ミカさん、セイアさんは〝彼〟としか言ってませんよ」
「あっ」
「分かりやすいですね………それで?ミカさんは彼と何を?」
予知夢の代わりに手に入れた新たな力によって一瞬で暴かれるミカの秘密
ナギサはそれがバレた時のミカの単純さに苦笑しつつ話の続きを待つ
「………ふへ」
「……ミカさん?」
この時、ミカの脳裏にはお見合いで発せられた酒泉の言葉が思い浮かんでいた
数秒経った後、それら全てを頭の中でリフレインさせたミカは口をほにゃっと緩ませてニマニマと笑いだした
「〝俺の女〟かぁ……えへ、えへへへへぇ………」
「ミカさんの顔が溶けて……」
「……待て……ミカ、その言葉はもしかして酒泉がミカに対して発言したものか?どういう状況で?」
ミカはナギサやセイアには迷惑を掛けまいと、お見合いの事は完全に伏せていた
だが、それが原因で2人に対して大きな誤解を生む事になってしまった
「もう、しょうがないなぁ酒泉君は………あんな乱暴な言い方されてついていく女の子なんて私しかいないじゃんね♪」
「………本当に何があった」
「……2人だけの秘密、みたいな?……えへへ」
笑みが抑えられないのか、だらしない表情のまま答えるミカ
本人的には挑発したつもりはないのだが、結果的にその態度はセイアの額に青筋を立てさせるのに十分だった
「……随分勿体振るな、君は」
「話を聞くに恐らくは酒泉さんとの仲を深めるような出来事が起きたようですが……」
ポケーっと虚空を見つめたかと思えば突然赤く染まった頬を両手で押さえて〝きゃー!〟と恥ずかしがったりと、挙動不審な様子を見せるミカ
結局、本人が落ち着くまで気長に待っていようと判断した
「ナギサ様っ!!大変ですっ!!」
────そんな2人に届いたのは、ナギサの側近の少女からの緊急報告だった
「……おや、問題発生かい?」
「……何かあったのですか?」
「つい先程、クロノス報道部が更新したネットニュースで────え!?ミカ様!?どうしてここに!?」
突然扉を開けられたにも関わらず、怒ることもなく冷静に側近からの報告を聞こうとする
だが、何かを喋りかけた側近はミカを見た矢先、口を濁してしまう
「あー……もしかして私、邪魔?」
「い、いえ!むしろミカ様も関係してると言いますか……」
「……ん?」
「……と、とにかく直接確認した方が早いかと!」
側近はミカを気遣う様子を見せてから自身のポケットに手を突っ込んでスマホを取り出す
そのままタップしてとあるネットニュースのサイトを開くと、その画面をミカ達3人に見えるようにテーブルの上においた
「なっ!?」
「こ、これは……」
そこに表示されていたのは記事の題名と1枚の写真、
その内容は────
〝元ティーパーティー・聖園ミカ氏、ゲヘナの風紀委員と熱愛か!?〟
そして写真は────
ミカが酒泉に腕を絡ませて自分から密着している写真だった
ギョッとした表情で画面を見つめた後、2人はぎこちない動きでミカに視線を向ける
「……ミカ、これは……」
「……なるほど、これがミカさんが上機嫌だった理由ですか」
「え、えっとぉ……その、これは……色々あってぇ……」
必死に言い訳を考えるミカ
顔を真っ赤にして俯きながらたじたじしているその姿は、まるで恋するお姫様の様だった
「酒泉、この記事はどういうこと?」
「違うんです空崎さん、これには深い事情が……」
「深い事情なんて無いでしょう、貴方が何かやらかす時は大抵クソボケムーブした時なんですから」
「はあ!?天雨さんのその無駄に露出された横乳よりは深い事情ですけど!?」
「む、無駄に!?言っておきますけど、これは胸元が苦しくなってきたから仕方なく……」
「だったら服のサイズでも変えればいいでしょう!?ええ!?」
「ぐっ……先輩に向かって生意気な口を……!」
「……酒泉、話を誤魔化さないで……今、私は冷静さを欠こうとしている」
「ほ、本当に違うんですよ!?決して空崎さんに内緒でトリニティと繋がっていた訳ではなくて……!」
「そういう事を言ってるんじゃ………まあ、いいや。酒泉がどんな言い訳をしたところで私の気は収まらないから」
「そ……そんなぁ……」
「……もし許してほしいなら……聖園ミカにやったのと同じ事を私にもやって」
「えっ」
「ねえ、チナツ……酒泉のスマホ、ずっとモモトークの通知が鳴ってるんだけど」
「……多分、大半が女性の方からでしょうね」
「教えなくていいの?」
「……火に油を注ぐことになりますよ?」
「……だよね」