魚を無性に食いたい、今日は魚にしよう
折川酒泉がそう決めたから今日はお魚デー
「つーわけでさっさと牢に入れー陸ハマチさん、お仲間達が待ってるぞー」
「うぅ……どうしてこんな立て続けに邪魔されて────陸ハマチ!?」
しまった、魚のこと考えてたら名前が混ざった
それに陸って名字なのに海の魚の名前ってのもおかしいよな
「すいません間違えました陸ハマチさん」
「陸ハマチじゃなくて陸八魔よ!陸!八!魔!」
「陸ハマチ?」
「陸八魔!」
「陸ハマチ?」
「りーくーはーちーま!」
「りーくーはーちーま!」
「だから陸八魔じゃなくて陸ハマチって言ってるでしょう!?…………あら?」
「やっぱハマチじゃん」
「ハマチ……なのかしら……?」
〝ハマチ……?ハマチなの……?〟とボソボソ呟いているブリハマチさんを牢の中に入れる、なんだこの人ポンコツかわいいな
「そこで大人しく反省しててくださいよブリハマチフグさん」
「原型を留めてないじゃない……」
魚かぁ……魚と言っても色々あるが何にしようか
鮭のホイル焼き?白身魚のステーキ?シンプルに秋刀魚を焼いて醤油と大根おろしを……ってのも悪くないな
……よし!ホイル焼きにしよう!一番最初に思い付いたという事は俺の脳が無意識に欲しているという可能性もあるしな!
そうと決まれば帰りはスーパーに寄って魚を買わないとな……さっさと事件の報告書提出して帰宅準備しよっと
「────以上が今回の事件の経緯です、空崎さん」
「報告ありがとう……ところで酒泉」
「はい」
「その……この報告書にある〝ブリハマチフグ〟さんっていうのは……誰?」
「あっ」
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「嘘だろ……?魚が売り切れだと……?」
その日人類は思い出した……今日は魚類のセールの日だった事を
俺はいつもそうだ……失ってから大切な物の存在に気づいてしまう、俺は魚を守れなかった
俺が。俺が。俺が。俺が。俺が。俺が。俺が。俺が。俺が。俺が。俺が。
「うへぇ……お魚さんがぁ……ん?」
一つ残らず命を刈り取られたお魚さん達、その事実に絶望して挫けそうになっていると冷凍コーナーの方にポツンと置かれている品を発見する
あれは……牡蠣か?可哀想に……お前は一人だけ売れ残ったんだな、どうする?俺と来るか?そして一緒に地獄に落ちて地獄兄弟を名乗ろう
「やだ……酒泉君ってば牡蠣と兄弟になろうとしてる……」
「仕事の疲労が限界を越えちゃったのかしら……」
まあその兄弟の命を美味しく頂くんですけどね、魚は全部売り切れ……っていうより残ってる商品は量が中途半端だったりするし今日はこれでいいや
さて、当初はホイル焼きを作ろうとしていた事を前提に考えるなら牡蠣はそのままバターで焼くとしよう
今日は牡蠣のバター醤油焼きで優勝していく事にするわね……まあ私まだお酒飲めないんですけどねー
「バターは買うとして、醤油は家にあるから……あ、シロコさんに米炊いといてもらうか」
今頃自宅で自主トレでもしてそうな同居人の顔を思い浮かべながらモモトークにメッセージを送っておく
どうやらシロコさんはサイクリングに行った際に砂狼さんに体力不足を指摘されたらしく、それを見返す為に必死に身体を鍛えているらしい……遠くまで外出する為には先生か連邦生徒会の許可がいるし長距離ランニングとかはできないけど
シロコさん本人曰く〝私の体力が衰えたんじゃなくて色々成長して身体が大きくなっただけだから!〟と怒りながら弁明していたのは記憶に新しい、自分同士仲が良さそうでなによりだ
でもシロコさんが砂狼さんを〝よわシロコ〟って煽る度に〝ん、お宅の娘の教育はどうなってるの〟とクレームが入るのでそれはやめてほしい
それとこれは余談だがシロコさんに触発されたプラナもシッテム内で〝ふんす〟と気合いを入れながら真顔で腹筋してた
四回目ぐらいで息を切らしてた、えらいね
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「……酒泉に太らされた」
「人聞きの悪いことを言うんじゃありません」
《今回の食事で摂取したカロリーは────》
「プラナ、ストップ」
現実を叩きつけようとしてくるプラナの口が体重を気にする乙女の指によって止められる
女性というのはどうしてそんなに体重を気にするのだろうか、好きな物は好きなだけ食べた方が幸せだというのに
個人的には美食研究会の人達くらい遠慮せずに食べるタイプの方が好きだ、でも申し訳ないが拉致&テロはNG
「そんないきなり太る訳じゃあるまいし、そこまで気にする必要あるかぁ?」
「……酒泉に乙女の気持ちは分からない」
《同意、酒泉さんは女性の気持ちを理解する能力が酷く欠けています》
むっ、失礼な……俺だって女の子の気持ちぐらい理解でき……でき……
『先輩、すぐに女の子を名前呼びするのやめた方がいいですよ。普通に気持ち悪がる人もいますので……まあ、私は別に名前で呼ばれても気にしませんが』
『そうだったのか……すまん!これからはお前のことも名字で────』
『ふんっ!』
『ぐぼぁ!?』
問、この時なんで俺は前世の後輩ちゃんに腹を殴られたのか答えよ
答、さっぱりわかんねぇ……
やっぱ俺は乙女心を理解できない人間なのかもしれない、助けてニュータイプ
「……」
「……ん?どうした?」
前世の記憶を懐かしんでいるとシロコさんが俺の身体をジーッと見つめていた
表情はどこか不思議そう……いや、ちょっと怒ってる?
「逆に聞くけど、酒泉はどうやって身体を維持してるの?カロリーの高そうなスイーツばかり食べてるのに……やっぱり風紀委員の活動で動き回ってるから?」
「それもあるだろうけど……そもそも昔から食べ物食い過ぎてもめちゃくちゃ太るって事はないしな、俺」
「……は?」
「ちょっとだけ太るとかはあったけどそれだって昔から少し運動すればすぐに解決────痛い痛い痛い!?なんで頬をつねる!?」
「これはキヴォトス中の悩める乙女達の分────待って、ごわごわしてるけど意外と肌の触り心地も良い……?何かケアとかしてるの?」
「え?い、いや……そこまで美容に気を遣ったことは無────ぬおおおおおお!?千切れるううううううう!?」
「許せない、その身体を私に譲るべき」
無茶言わないでほしい、いくら前世のシロコさんが新キャラ実装される度にコラに使われる乗っ取りキャラだったからといってそれは流石に不可能だ
そもそも俺の肌なんて普通に戦闘の傷だらけで……いや、傷が残ってるのと肌が綺麗かどうかはあまり関係ないのか?
「もういい、私はふて寝する」
《行ってしまいました……どうしますか?》
「ほっとけほっとけ、どうせこのあとデザート食う時に戻ってくるから」
《デザート……》
「……プラナは杏仁豆腐があるだろ?」
じゅるりとデザートを欲する食いしん坊ぷりゃな、多分先輩に似てきて……いや元々こんなんだったかもしれんわ
最近寝言で〝今の私は無敵です、普段の二倍は強いです〟とか言い出したり意外とポンコツ属性があるのかもしれない
「さーて、デザートは風呂上がりに食うとしてまずは皿の片付けを……」
フライパンに近づくと鼻に届くバター醤油の香り、味が濃くこびりついたであろうそれは見ているだけで俺の食欲をそそる
……こういうフライパンに残った汁とか油とかって滅茶苦茶美味そうだよな
「……あ、そうだ」
咄嗟に思い出したかのように炊飯器を開ける、ご飯は……うん、まだ残ってるな
それを一旦茶碗に盛ってからコンロの火をつけてフライパンを暖める
《酒泉さん?何を……》
「まあ見とけって」
少しだけ固まっていたバターはまた溶け始め、再びフライパン中に広がる
そうしてパチパチと油が跳ねるような音が聞こえはじめたら……ご飯を投入!じゃっじゃと炒める!
「はぁ~……いい香りだぁ……」
塩胡椒を少々、それ以外にはいらない
必要以上に味を付け足さずにフライパンに残ったものだけで基本を完成させるというのが最高なんだ
まあ、塩胡椒が無くてもバターと醤油と牡蠣の味だけで十分なんだけどな
「どうだプラナ、これが漢の雑メシだ」
雑メシ、ズボラ飯、手抜き飯、言い方は様々
言い方の悪さとは裏腹に滅茶苦茶飯テロ効果のあるこのシリーズは主に深夜辺りに無性に食いたくなる事で有名だ
いやぁ……俺もまだ弱っちかった頃によくバター醤油ご飯とか食ったなぁ……
風紀委員会の仕事量に対して全然体力が追い付いてなくて、帰ってきた時には料理する気力すら湧かない……そういう日は幾つもあった
そんな時によく食ってたのが〝バター醤油ご飯〟とか〝ツナマヨ丼〟だったりした
他には〝納豆卵かけご飯〟とか〝納豆キムチ卵かけご飯〟とか〝納豆キムチ明太子卵かけご飯〟とか……やっぱ納豆と卵って最強だわ
ちゃんと料理するようになってからはあまりそういうのは作らなくなっちゃったけどな……それに今はシロコさんに適当なもん食わせる訳にはいかないし
「……っと、できたできた」
完成〝バター醤油炒めご飯~牡蠣の風味を添えて~〟……ただの雑メシにつける名前でもねーか
《このまま食べるのですか?》
「おう」
フライパンに乗ったご飯を皿に移す……なんて事もせずフライパンの上のを直接スプーンで頂く
なんならリビングにも移動せず台所でそのまま立ちながら食べる、だって雑だから
「んー!やっぱ想像通り美味い!」
小刻みにした青ネギとかをぱらぱらと散らしてもいいんだろうけど今はそれすら放棄する、だって雑だから
大した食レポをするつもりもない、だって雑だから(免罪符)
「バター醤油の味は当然として牡蠣の味も仄かに残っている……これだよこれ!こういうのでいいんだよ!」
《なるほど、敢えて手抜きする事でしかあじわえないあひもあるほ……モニュモニュ》
「おう……って何か食ってるし」
気付けばシッテムの箱の中でいつの間にプラナが杏仁豆腐を食べていた、俺もこの後はアイスを食べる予定だ
買ってきたのはラムネ味のアイス……パッケージを見た時に何故か宇沢さんの顔を思い出したのは内緒だ
「……じー」
《むぐっ……酒泉さん》
「ん?……あ、シロコさん」
そのまま二人で食事を楽しんでいるとリビングの扉の隙間からシロコさんが顔を覗かせていた、料理の匂いにでも釣られたのだろうか
「……二人だけズルい」
「だって部屋から出ていっちゃうから……あ、じゃあシロコさんだけ先にデザート食うか?」
「私もそれがいい」
シロコさんが指差したのはフライパンに乗ってるバター醤油炒めご飯だった
うーん……こんな適当に作ったもんを食わせてもいいのだろうか、プレナパテスから託された身としてはシロコさんにはちゃんとしたものを食べさせてあげたいし……
「……私も酒泉と同じものが食べたい」
……まあ、偶にはこういう日があってもいいよな?プレ先?
「また酒泉のせいで私のお腹が大きくなっちゃう……」
「だから人聞き悪いって」
《モニュモニュ……》
「……それ二つ目?」