最近の弁当ってクオリティが高いのばかりだよな、しかもスーパーとかで買うと値引きされてる時もあったりするし
それでいてハンバーグだの唐揚げだの腹の膨れるもんが多種入ってるんだろ?こんなん世の少年達大歓喜不可避だろ
そして、この話は弁当だけでなく冷凍食品にも適用される
例えば冷凍チャーハン、これなんか一般家庭じゃ中々出せないパラパラ具合を再現してくれる奇跡の一品
冷凍のナゲットなんかも解凍してから軽くフライパンで焼くだけでカリカリになったりと味食感共に飲食店のそれと遜色無いものになったりする
まあ、ここまで色々語ったけど要するに俺が伝えたいのは手作りじゃなくても一定以上の味を出せるようになった世界の食文化すげぇって事だ
…………けどなぁ
「流石にこれは……ちょっと……」
「……?」
調月さんの隠れ家の隅っこに纏められているゴミ袋を確認すると、そこには大量の空弁当と冷凍食品の袋が捨てられていた
ラベルに書かれている文字は唐揚げ丼だの竜田揚げ弁当ばかり、後は申し訳程度にサプリメントのパッケージが捨てられているだけ
「その、調月さん?調月さんの食事って誰が作ってるんですか?」
「トキが居る日は彼女に任せているわ」
「……じゃあ、なんで市販の弁当のゴミばっかあるんですか?」
「あの子には……というよりC&Cには〝ある事件〟の事で潜入捜査をお願いしてるのよ」
「……ある事件?」
「ええ、今日呼び出したのはその〝ある事件〟の解決の為に貴方の力を借りようと思っていたからよ」
態々隠れ家に呼び出して話をしようとするとは、どうやら調月さんは何か面倒事に巻き込まれているらしい
それにしても事件解決の為に他校の生徒である俺を頼ってくれるなんて……一人で抱え込んでしまう悪癖は少しずつ改善されてきているみたいだ
「んで、その〝ある事件〟の全容は?」
「何も分かっていないわ」
「……んん?」
「誰かが、ミレニアムEXPOで、何かをしようとしている……今のところ判明しているのはそれだけ、騒ぎを起こそうとしている理由も事件の黒幕も何一つ掴めていないのが現状よ」
「ミレニアムEXPO……確か、色んな発明品を展示する行事でしたっけ?今年はトリニティの生徒達も呼んでるとか」
「概ねそんな感じよ。技術の祭典でもあるミレニアムEXPOは数多の生徒達が研鑽してきた己の技術を世に広める為の重要な場でもあるの、それを得体の知れない連中に妨害させる訳にはいかないわ」
成る程、つまり調月さんは水面下での解決を試みていると……それで飛鳥馬さんには別行動を取ってもらっているのか
一番手っ取り早い解決策はEXPOを中止する事だろうが、拘りを持つ生徒が多く在学するこの学園でそんな事をすれば当然不平不満も飛び出るだろう
「そこでEXPO当日に貴方の力を借りたいの……停電の中でも仕掛けられたトラップを全て見破り、あの慈愛の怪盗を追い詰めた貴方の〝眼〟を」
「それは良いですけど……俺は何をすればいいんですか?」
「当日はこれを被って一般の客に紛れてもらうわ」
ラグビーボールの様に横にまるっこい機械の塊、俺が手渡されたのはキヴォトスで暮らすロボット達と同じ見た目の頭だった
ま、まさかこれ……生首なんじゃ……!なんてのは冗談で、中身が綺麗に空洞になっている事から調月さんが作った偽物である事が窺える
「ミレニアムEXPOには生徒の発明品に興味を持った企業の人達も視察に来るわ。生徒側も自分達の活動費を稼ぐ為にスポンサーを募りたいと思っている筈だしこれを被って企業の人間を装えば歓迎こそされど疑われる事はない筈よ、だから貴方はその〝眼〟で怪しい動きをしている人物がいないか見回りをお願い」
「へー、自分の性別的にどう潜入しても目立っちゃうだろと危惧してましたけど……ちゃんと対策はバッチリなんですね」
女子だらけの学園に男が一人うろうろしてるも間違いなく目立つだろうし、何かしらの対策は必要だろう……と思っていたところで早速調月さんが便利そうな物を用意してくれた
良かった、危うく女子生徒に扮して任務を遂行しろって無茶ぶりをされるのかと……
「そうね、当初は貴方に女装してもらうって方法も考えていたのだけど……」
「……勘弁してください」
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「よく来てくれたわね……一応確認しておくけど、隠れ家には……」
「大丈夫ですよ、誰にも付けられてませんでしたから」
現在時刻、早朝の04時25分
前日、シロコテラーとプラナの二人に早出する旨を伝えた酒泉は朝食と昼飯を作り置きしてから家を出ていた
夕飯は間に合うかどうか分からないので遅くなったら二人で出前でも注文して食べてほしい……と伝えた際にシロコテラーのケモミミがしょんぼりと垂れていたのは酒泉の記憶に新しい
「朝食はもう済ませた?多分……いえ、間違いなく長丁場になるでしょうし、もし食事がまだなら今の内にコンビニに行ってきてもいいけど……」
「大丈夫です、弁当作ってきたんで……ここで食ってもいいですか?」
「ええ、構わないわ」
「ありがとうございます……あ、そういや調月さんはもう朝食は食べたんですか?」
「私はまだだけど……それがどうかしたの?」
「いや、それなら丁度良いかなって」
「……丁度良い?」
酒泉はスクールバッグの中から風呂敷を取り出すと、更にそれを開いて中身を晒した
中に入っていたのはスカルマンの絵が描かれている二段弁当箱、一番上には箸が乗せられている
「これ、良かったらどうぞ」
「……え?」
「いや、なんか最近の食生活偏ってそうだなーって思って……」
「……心配してくれたの?」
「そりゃそうですよ、油物ばっか食って他の栄養はサプリだけで補うなんて……飛鳥馬さんが居ない間だけとはいえ、そんな生活続けてたら身体ぶっ壊れますよ」
サプリメントは足りない栄養を補う為の物に過ぎない、それはリオも理解している
しかしこんな食生活を延々と続けるつもりはなく、それはあくまでEXPO破綻を狙っている犯人を捕まえるまでの話だ
そんな短期間の偏った食生活程度で急に身体が壊れるなど考えられない、なんならこの後犯人確保の為の作戦の最終チェックを行わなければならない事を考えると態々食事で時間を潰すのも勿体無い、それが十分か十数分程度のロスだとしても
「まあ、要らないなら要らないでそのまま持って帰「いただくわ」あ、はい」
合理性とは駆け離れた行動、それを理解していても今のリオに〝折川酒泉の手作り弁当〟を無視する選択肢など存在していなかった
酒泉から弁当を受け取ったリオは弁当の一段目と二段目を分けてから弁当の蓋を外す
「これは……」
一段目はシンプルに白米、特に何の味付けもされていない真っ白な粒の集まり
リオの視線が釘付けにされているのは二段目の方、様々な料理が入ったおかずの段
まず、右端に唐揚げ。胡麻と共に薄茶色のタレが掛けられており、何らかの味付けが施されていることが窺える
「……頂きます」
改めて手を合わせてから箸を持つと、先に白米も何も掴まず唐揚げのみを口に運ぶ
瞬間、さくりという音と共に濃厚な味がリオの口内に広がる。
「これは……甘辛ダレ?」
「はい、普通の唐揚げは毎日食べ続けてるっぽかったんで」
それは飽きが来ないようにと酒泉が気を利かせて作ったタレ
味醂、醤油、砂糖、料理酒、そしてほんの少々のチューブにんにくの合わせ技がリオの食欲をそそり、箸を持つ手を自然と白米の方へと向かわせた
「……美味しい」
予想通りと言うべきか、甘辛い唐揚げが米に合わないわけがなかった
一口、二口、三口とリオにしては珍しく早々と米を口に運んでから、今度は唐揚げの隣に置かれている料理に目を向ける
そこにあるのは仕切り用の小さな紙カップ、その上に置かれているのはハンバーグ
(唐揚げにハンバーグ……結構ボリュームがあるのね────っ!?)
男の子らしい弁当だと微笑ましく思いながら口に運ぶリオ
しかし次の瞬間に味わったのは予想とは裏腹にさっぱりした味だった
「これは……ハンバーグ、なの?」
「ハンバーグですよ、肉使ってませんけど」
「……?」
「豆腐ハンバーグって知ってます?」
「豆腐……ハンバーグ……」
豆腐ハンバーグ、それは名前通り豆腐をメインに仕立てたハンバーグ
種として豆腐と肉を半々混ぜる事もあるが、今回酒泉が作ったのは肉を全く使わないタイプだった
玉ねぎ、人参、ほうれん草を細かく刻み、そこにパン粉とひじき、水切りした豆腐を混ぜ合わせて作ったハンバーグ
味の濃い唐揚げに続いてハンバーグまで食べさせるのは女性の胃には少々重たいかもしれない、そう考えた酒泉はこれまた気を利かせていた
味付けはポン酢が染み込んだおろし大根、あくまで汁を染み込ませる程度の量に抑えておくのが他の料理をポン酢浸しにしない為のコツだ
「貴方、こんな料理も作れるのね……シェフとして雇いたくなるほど美味しいわ」
「ははっ、世辞にしてはちょっと大袈裟すぎますよ」
「……結構本気で言ったつもりだったのだけど」
割と本心で発した言葉を軽く流されたことで少々むっとしたものの、すぐに気を取り直して次の品を選ぶリオ
箸が掴んだ三品目はトマト……をスライスチーズで包み、それをフードピックで止めただけのシンプルな料理
トマト&チーズ、言わずとも誰でも理解できる王道中の王道の組み合わせ。どう足掻いても美味しくしかならないそれは、チーズの濃厚さを堪能させると同時にトマトによって口の中をさっぱりさせていた
「これは……」
そして四品目を口に運ぼうとしたリオの箸が直前で止まる
縮こまるように弁当の隅っこに仕分けられていたのは何かの葉を炒めたような料理だった
「それは大根の葉と小松菜をごま油で炒めたやつですね」
「……大根の葉」
「味付けは軽く塩を振っただけです……と言ってもトマトで口をさっぱりさせた後ならそれでも十分だと思いますけど」
「んっ……そうね、しっかりと塩の味を感じられるわ」
大根の根と比べるとあまり食される事はないが、実は大根の葉もしっかりと栄養素が備わっていたりする
ビタミンCやカルシウムの多さは当然として美肌効果も見込めるらしく、一部の奥様方は必ず葉を捨てず料理に使用するのだとか
「あ、それとこれもどうぞ」
再びスクールバッグに手を突っ込むと、酒泉はその中からスープジャーらしき物を取り出す
蓋を開けた瞬間に湯気が立ち、僅かな寒さを感じさせる早朝の隠れ家を暖める
「実は野菜スープも作ってきたんですよね」
ジャーのカップ部分にスープを注ごうと容器を傾けると、その中からスープと共に多くの具材が流れてくる
人参、キャベツ、じゃがいも、そしてベーコン、コンソメで味付けされた海の上に数多の具材が広がる
「はい」
「……」
酒泉からスープの入ったカップを渡されたリオは無言で口を近づけると、幾つかの具材と共にスープを口に含む
美味しい、野菜もベーコンもスープも全て美味しい、だがそれ以上に
「……あたたかい」
「でしょう?」
体の芯と体の心を包み込むような暖かさがリオに理解不能な安心感を与える
以前の自分なら必要としなかった、しかし今の自分は何よりも必要としている〝最愛の人からの温もり〟がリオの中でじわじわ広がっていく
「酒泉、その……まだ全部食べ切っていないけど先に言っておくわ、美味しい弁当をありがとう」
「いえいえ、気に入っていただけたなら何よりです……俺だって調月さんには助けられっぱなしですし、ちょっとでも恩返ししていかないと」
アトラ・ハシースの件は自分一人では何も出来なかった、故にあの戦いで手を貸してくれた人達への感謝を酒泉は永遠に忘れない
しかしそれはリオにとっても同じ、彼女にとって酒泉は唯一自分の考えに理解を示してくれた理解者なのだから
人生二週目の癖にどこか大人に成り切れない少年、合理主義者でありながら子供らしい心の弱さを持つ少女
どこか似通った中途半端な二人は揃って肩を並べ、ぽつぽつと語り合いながら食事を続けた
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「そう……分かったわ、そのまま引き続き調査をお願い」
「ええ、また後で……あまり無茶はしないように」
「……待って、トキ」
「えっと……」
「…………」
「……その……」
「私にお弁当の作り方を教えてほしいのだけど……」
俺氏、リオの絆ストーリーを見て勝手に感情移入してしまう
一人暮らしを始めたばっかの話になるんですけど、やっぱ自炊慣れしてない時ってどうしても同じもんばっか作って食生活偏っちゃうんですよね
しかも自分の場合は料理自体面倒になってスーパーで唐揚げ弁当ばっか買ってました、流石に今は自炊するようになりましたけど