「ねえ……あれって聖園さんじゃない……?」
「本当だ……とっても綺麗……」
「何て言うか……私達と同じ一年生とは思えない雰囲気だね」
「あれが近い将来、私達パテル分派を導いてくれる存在……」
勝手に担ぎ上げないで
「あの歳でもうあれ程の活躍を……」
「彼女さえいればトリニティの未来は安泰ですね!」
勝手に決めないで
「噂によれば彼女は実際の戦闘でも天賦の才を発揮するのだとか……」
「凄い……これならゲヘナの人達だって……!」
勝手に前に立たせないで、そんなに喧嘩がしたいなら私の後ろからじゃなくて自分で直接行けばいいのに
ていうか、そんな事するぐらいならナギちゃん達とお茶会してた方が有意義だし………
「見てください!あの方が聖園さんですよ!」
「あの人がパテル分派を一気に押し上げた……」
「なんて堂々とした佇まい……きっと、とても崇高な考えをお持ちの方なんでしょう……」
……またこのタイプの子達かぁ
「よく見ておきなさい、酒泉。あの方こそが、いずれ貴方を導いてくれる存在────」
────はあ、そっすか……
「………え?」
「なっ……酒泉!その態度は何ですか!あのお方は貴方がいずれ通う事になるであろう学校の支配者の様な存在……つまり未来の貴方の主にあたる存在なのですよ!」
いやぁ……あの人は支配者なんて柄じゃないでしょ、どっちかっていうと前線に出て暴れてる方が似合うタイプじゃないですか?
「な、なんて失礼な事を……!」
にしてもあの人も大変そうっすねぇ……周りに勝手に持ち上げられて……
「っ!酒泉、こちらに来なさい!どうやら貴方の態度について少し話す必要があるようですね……!」
てかそんなにパテル分派の勢力広げたいなら聖園さんを隠れ蓑にしないで自分で前に立てばいいじゃないですか
「我々に謀反を起こせというのですか!?」
聖園さんの後ろからコソコソと何かを企むよりは手っ取り早いと思いますよ?
「あ、貴方はどこまで私達を侮辱すれば……!」
すいませんね、俺は別にあの人に忠誠を誓う為にパテル分派の側についた訳じゃないんで、ただアリウ……トリニティの歴史の勉強がしたかっただけなんで
……あ、あと今の〝私達を侮辱すれば〟って発言なんですけど……聖園さんを侮辱したことに対して怒ってる訳じゃないんですね
やっぱその程度の忠誠心でしたか
「もういいです………酒泉、貴方には少し罰を───」
「へえ……酒泉君だっけ?貴方って随分失礼なこと言うんだね?」
「なっ……ミ、ミカ様!?」
うげっ……
「あはは!その反応は酷くなーい?わざわざ私の方から近づいてきてあげたのにさー」
だってアンタってそのうち変な問題起こしそうなタイプなんだもん……
「うーん……本当に失礼な子だね、私って貴方に何かした?」
まだ何もされてませんね
「……まだ?」
っと………まあ、何となく気に入らないだけですよ
「もう……少しぐらい敬ってくれてもよくない?こう見えても私ってちょっとだけ偉いんだよ?」
アンタにだけは絶対にヤダ、絶対に偉い人扱いはしてやんねー
「ふーん?」
「も、申し訳ございません!ミカ様!すぐにこの男に罰を────」
「今、彼と話してるから邪魔しないで」
「────なっ!?」
「貴方って何年生?どこのクラス?誰がこんな生意気な子に育てたのかな?」
………まだ中坊とだけ言っておきます
「隠しても無駄だよ?私がその気になれば貴方の情報くらい簡単に手に入るんだから」
堂々と職権乱用ですか、流石ですね
「ミ、ミカ様!彼の情報なら私が……!」
「別にいいよ、自分で調べるからさ」
「で、ですが……」
「しつこいなぁ………ねえ、酒泉君。この後暇?それならちょっと私の部屋まで来てよ」
「なっ!?お待ち下さい、ミカ様!彼はミカ様の事を嫌悪している危険な存在です!何か話があるのでしたら私が代わりに………」
「うーん……貴女じゃちょっとお話にならないかな?」
「そんな……」
……そもそも聖園さんの部屋に行くなんて一言も言ってませんけど
「あれ?もしかして緊張してる?」
………はあ?
「そっかー……でも、貴方って確かに女の子の部屋に行ったこと無さそうな顔してるもんね!それなら仕方無いか!」
は?
「大丈夫だよ酒泉君!モテないのは悪いことじゃないからね☆」
あ゛!?上等だゴリラ!!!何処にでも行ってやろうじゃねーかこの野郎!!!
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「はぁ……」
ここ最近何も上手くいってないせいでストレスが溜まってしまう
セイアちゃんを脅かすのも失敗しちゃったし、シャーレから先生がやって来たせいで迂闊に動けなくなっちゃったし……
計画犯が私だということはバレなかった────とは断言できないし、ずっと綱渡り状態なのも心を苛つかせる一因になっている
「セイアちゃんの予知夢次第かなぁー……」
今後の行動を見破られていた場合、何かしらの対策を取ってくるはず……なんだけど
セイアちゃんはこっちが驚くほど何もしてこない
「見逃してるのか、見逃されてるのか……」
思考がどんどん嫌な感じになっていく
……そうだ!こういう時はいつもみたいに酒泉君を呼んで─────
「─────あ、酒泉君もう死んでるんだった」
……はぁ、まったく……
「何であんな弱い身体で無理しちゃうのかなぁ……」
私達のようなヘイローを持つ存在とは違い、普通の生身の人間程度の強度しか持たない彼の事を思い浮かべる
……いや、それでも普通の人の中では頑丈な方なんだけど
でも結局死んじゃったら何の意味も無いよね☆
「…………はぁ」
無理して強がってみたけど全然駄目だ、むしろもっと虚しくなってきた
彼が凄く大切だったとか、別にそういう訳じゃないけど………
でも、やっぱり………ほんの少しだけ寂しい
「……そう、ほんの少しだけだもん……別に何とも……」
本当に?
「何とも……思って……」
本当にそれだけなの?
「………」
私にとって彼はその程度の存在だったの?
「……その程度に決まってるじゃん……だって……だ、だってっ………その程度だって思わないと……私は……私は……!」
「まさかあの場に酒泉君が居るなんて思わなかったの!こんな事になるなんて分かってたらあんな馬鹿げた計画立てなかった!」
「ちょっとセイアちゃんを脅かすだけだったのに……!酒泉君が死んじゃうなんて……!」
「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい!」
「お願いだから戻ってきてよ!いつもみたいに何事も無かったような顔で!私にできることなら何でもやるから!どんな罰でも受けるから!」
「だから……だから……!」
直後にサオリとの連絡用の携帯が鳴り響く
私用だと周囲の目を誤魔化す為に無駄にデコレーションした機械が震えている
涙を拭いながら開くと、そこにはバレてもいいように適当に登録したサオリの偽名が表示されていた
「……何?」
『例の件で話がある』
「……今そんな気分じゃないから早めにね」
『一度作戦を失敗したことでティーパーティーの警戒が強まってしまったはずだ、そこをアズサに内部から崩してもらう』
「………」
『幸いなことにアズサの顔はまだ割れていないからな……作戦当日前、アズサには再びヘイローを破壊する爆弾を渡してそれで脅迫を────』
「いつ」
『────………二日後だ』
「ならそれでいいから早く終わらせて」
サオリの声を聞きたくなくて一方的に通話を切る
………分かってる、悪いのは全て私だってことぐらい
自分で計画を立てたくせに被害者ぶるなんて、なんて都合の良い女なんだろうか
でも……それでも……
「……もうこうなった以上後戻りはできない」
ここで止めてしまったら、ただ酒泉君を殺しただけになってしまう
そうなるのだけは御免だ
「絶対に……絶対に成功させないと……」
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「どうすれば良いんでしょうか……」
補習授業部の皆が帰った後、ヒフミは一人で頭を抱えていた
その原因は勿論、コハルのことだ
「コハルちゃんには本当のことを伝えたいのですが………」
折川酒泉は生きている、アズサから聞いた話では確かにそう言っていた
「あんな重要な話、勝手に話してもよろしいのでしょうか……?」
アリウスを捕らえる為の危険な任務、それに就いている事が今のコハルに知られればどんな行動を取るのか分からない
最悪の場合、一人で酒泉を探しに行ってアリウスに存在を認知される可能性だってある
もしそうなれば……
「うぅ……」
想像したくない事が思い浮かんでしまい、思わず呻いてしまうヒフミ
とりあえず自宅に帰ってからゆっくり考えようと荷物をカバンにしまってから教室を出ようとした
「あっ………」
「あ、コハルちゃん……」
……が、扉の方へ振り向いた瞬間、コハルと出会す
「もしかして、また残ってお勉強ですか?それなら私も手伝いますよ!」
「……いい、一人で十分だから」
「で、ですが……その……ほら!二人でやった方がお互いの苦手な教科を教え合うことができますし!」
「いらない」
相変わらずバッサリと切り捨てるコハルに、ヒフミは心が折れそうになる
しかしコハルが頑なに心を開かない原因を知ったヒフミは、今度こそ彼女を助けたいと思って尚も食らいつく
「でも!もしコハルちゃんが無理をしすぎて倒れたりしたら……私達はとても悲しみます!」
「私には関係ないでしょ」
「そ、それに……その……ほら!酒泉君が帰って来た時、もしコハルちゃんが倒れていたりしたら酒泉君も悲しむと思いますよ!」
「………酒泉が?」
「あっ」
………だからこそ、ついうっかり言ってしまったのだろう
酒泉のことを……
(ど、どうしましょう……酒泉君が生きてること、勝手にバラしてしまいました……!)
「………信じてるの?」
「………え?」
「酒泉がまだ生きてるって……アンタも信じてるの?」
「……………も、勿論です!」
コハルが誤解していると分かると、咄嗟に話を合わせようと頷くヒフミ
……いや、話を合わせるも何も折川酒泉は実際に生きているのだが
「えっと……私は酒泉君とは知り合いではないんですけど、ハナコちゃんから話を聞いたことがあるんです!」
「ハナコが?……ていうか、ハナコって酒泉と知り合いだったんだ」
「酒泉君はとっても強くて、凄く優しくて、誰かを傷付けたりなんかしないと……そう仰ってました!」
「そう……そうよ、酒泉は強いのよ!そう簡単に負けたりなんかしないんだから!」
「え、ええ!ですから必ず生きているはずです!信じて待っていれば必ず帰ってくるはずですから!」
「そうよ……酒泉が約束を破るはずがない……」
「はい!そんな酒泉君が帰ってきた時の為にも、あまり無茶をしすぎずに休める時はちゃんと休んでおきましょう!」
「……………」
(だ、駄目でしょうか……?)
ヒフミは無言で俯くコハルを見て説得に失敗したかと危惧する
が、少し間が空いてからコハルが顔を上げ、渋々と口を開く
「………………分かった、酒泉の為にも我慢する」
「よ、良かった……」
「………ねえ、ヒフミ」
「は、はい!なんでしょうか!?」
「………………今まで酷い態度を取ってごめんなさい、それと……その、ありがとう」
「い、いえ!良いんですよ!気にしなくても!」
「それじゃ……またね」
「は、はい!また明日です!」
少しだけ笑顔を見せて帰っていくコハル、そんな彼女の背中を見てヒフミはこう思った
「どうしましょう………」
「すっっっっっごく心が痛みます………!!!」
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月明かりのみが頼りになる暗闇の中、四人の少女が一人の少年に銃口を向けている
おそらく少女達のリーダーであろう者……錠前サオリはそれなりにダメージを受けているが、他の者達は全員軽症だった
一方で少年の方、こちらは遠目から見ても分かるほどボロボロだ
「まさかアズサちゃんが裏切るなんて……うぅ、向こうで美味しいご飯で餌付けされちゃったんでしょうか……」
「ヒヨリじゃないんだからそんな理由な訳無いでしょ……」
「わ、私だってそんな理由じゃ裏切りませんよ!?」
「…………」
「姫ちゃんもそう思ってたんですか!?ひ、酷いです!」
「ヒヨリ、騒がないで………それにしても、まさか折川酒泉が生きていたなんてね」
軽口を叩きながらも決して少年から意識を逸らさない三人
その少女達に「ちゃんと警戒しろ」と注意しつつ、少年にサオリが近付く
「まさか一対一であそこまで追い詰められるとはな……だが残念だったな、この程度の事態など想定済みだ」
ぐっ……!
「まあ、こちらの増援があと少しだけ遅れていたら地に伏していたのは私の方だったが………何はともあれこの戦いは私達の勝利だ」
…………
「このまま引き金を引くだけで軽くお前を殺す事ができるが………その前に幾つか質問をする、全て正直に話せば苦しませず楽に逝かせてやろう」
誰がお前ら……なんかに……
「まずは………お前は一体いつからこの辺りの調査をしていた?自力で発見したのか?」
………
「それともアズサからの情報か?」
……はぁ、やっぱ駄目か
「………質問に答えろ」
かなり好い線行ってると思ったんですけどね……やっぱり四対一じゃキツかったか……
「………今更後悔しているのか?」
いやぁ……結局力を借りないとなんもできないなーって思ってな……
「……何を訳の分からないことを言っている」
先程から質問に答えず半笑いで語り続ける酒泉に、サオリが一発目の弾丸を撃ち込もうと酒泉の足に銃口を移動させる
「………っ!?」
「爆発……!?」
……が、その直前にサオリの背後で突如爆発が起き、一瞬全員の気が逸れる
酒泉はその隙に態勢を立て直し、サオリに足払いを仕掛ける
しかしすぐに戦闘態勢に戻ったサオリはそれを後ろに下がって回避するが、酒泉もそれと同時に距離を取る
「……まさかまだそんな力を残していたとはな」
「時限式の爆弾……いつの間に……」
「………」
「ま、まだ抵抗するんですか……?」
見た目の傷とは裏腹に軽快な動きで危機を脱してみせた酒泉に驚くものの、状況はそれほど変わってはいなかった
「戦闘において重要な身体の部位へのダメージを殆ど避けていたのか……大したものだな」
………
「しかしこの状況では生存できる時間が多少延びただけだ、大人しく此方の質問に答えていれば良かったものを……」
あー……やっと終わる……
「……何も答えないまま楽に終われると思っているのか?」
そう言ってサオリは今度こそ目の前の男の動きを封じようと銃口を向け─────
「いいえ、これで終わりです」
「っ!?」
─────ようとしたその時、一人の少女の声が少し離れた位置から聞こえてきた
「あいつは……確かシスターフッドの……」
「……増援か」
サオリ達がその方向を睨むと、そこには堂々とした佇まいのサクラコが少数のシスターフッドの生徒達を連れて銃を構えていた
「どうやら間に合ったようですね……」
あ、歌住さん、わっぴ~!
「わっぴ~☆………じゃありません!いくらアズサさんが指定された時間に間に合わなかったら怪しまれてしまうとはいえ、一人でこんな無茶をするなんて……!」
「そうか………折川酒泉、お前はあくまで援軍が来るまでの時間稼ぎに徹していたという訳か。だが、その程度の人数で私達を倒せるとでも?」
三度銃を構えるサオリ、今度こそ確実に、且つ油断せずに敵を排除しようと走り出し────
「救…………」
「護っ!!!」
────瞬間、空から盾が落ちてきた