空崎ヒナは中々に不憫なキャラクターである、だから〝推し〟である彼女に幸せになってほしくて俺はゲヘナに入学して風紀委員会に入った
とりあえず手伝える事は手伝ったし、先生とイチャイチャさせる為の時間を作る為に積極的に問題児の相手をしたりと色々率先して行ってきた……何故か空崎さんは俺の仕事を手伝おうとしてくれてたけど(本末転倒じゃん)
まあともかくそんな風に〝ブルアカ〟というゲームにおける面倒事イベントを消化し続けてきた
次はあれか、今度はあれだな、もうすぐメインストーリー始まるな、そうやって計画を自分の中で整理していくうちにふと思ったことがある
〝そういや桐藤ナギサも中々に不憫なキャラクターだよな〟
本当になんとなく……〝この後聖園ミカに裏切られてアリウスに身を狙われて浦和ハナコに脳を破壊されてー〟ってストーリーの流れを整理してたらなんとなく浮かんできただけだった
まあ、だとしても俺個人としては桐藤ナギサというキャラクターに対しては前世から〝可哀想だなー〟くらいの感情しか持っていなかったし特に気にする必要はなかった
……けど、ちょっとしたヒントというか、脳破壊された時のショックを抑える為にある程度情報は与えといてやるかと接触を図った
『っ……ま、まさか……貴方がセイアさんを……!?』
なんとか取り繕っているものの震えを隠せていない身体、強気に睨んでいても怯えを隠せていない目、冷静に質問しているつもりでも動揺を隠せていない声
なんというか、この時期の桐藤ナギサは俺が思っていた以上に不安定な状態になっていた
それもそのはず……誰が裏切り者なのかも分からない状態で、次は誰が殺されるかも分からない状態で、ただの一学生が平然としていられるはずもなかった
軽く裏切り者のヒントを与えて後は任せようと思っていた、これ以上関わる必要はないし原作が変わる可能性も考えると下手に行動する訳にもいかなかった
《やあ!どうしたんだい?折太くん!》
《ウタえも~ん!正体隠す道具貸して~!》
《しょうがないなぁ折太くんは~!後でミレニアムにきたまえ!》
……同情か、気まぐれか、だというのに俺は────いつの間にか必要以上に関わる決意を固めていた
正体を隠しながら定期的に情報を送り続けた、彼女が俺の送った情報に目を通しているのかは知らないがそれでも信用性を高く得られそうな情報を厳選して少しずつ信頼を得ようとしていた
《また貴方ですか……いい加減にしてください、私は貴方の戯れ言に付き合うつもりはありません。ミカさんが私を裏切るなど……》
まあ、結局最後まで無意味だったけどな。だから最後は強引な手段を使った……聖園ミカが事を起こすであろう日を狙って
補習授業部の動向を探れば大体どの辺りのタイミングで動き出すかは原作の流れから予想する事ができた。予め桐藤ナギサの部屋に向かい、俺は彼女を拐って────先生達と会わせた
それは例の〝あはは……〟イベントの前のシーン、つまりこっちから先に真実をぶつけてやろうという作戦だった
……まあ、ここまで来たらどうせ脳にダメージを受けるのは確定だろうし、だったらせめて幼馴染みに裏切られたショックだけに抑えてやろうという考えだった
自分達が向かうより前に自ら姿を現した桐藤ナギサに驚く先生と補習授業部の面々
勿論、先生達の行動を知った桐藤さんは〝ミカさんに何をするつもりですか〟とか〝ミカさんを罠に掛けるつもりですか〟とか色々と非難していた
……そりゃそうだ。いくら先生側に阿慈谷ヒフミがいるとはいえ、それでも長年付き添ってきた幼馴染みを優先するのは当然の事だ
だが、その疑心が続いたのも浦和ハナコと白洲アズサ……そして浦和ハナコを介して直接百合園セイアから話を聞くまでの間だけだった
全てを知った彼女は俯くと〝情報を整理したい〟と一人離れて別室に向かった
『えっと……それで?君は誰かな?』
『通りすがりのキヴォトス仮面だ、覚えておけ』
その間俺に向けられてた視線はめちゃくちゃ痛かったです、はい
冷静に考えたら先生達にとっては何故か〝あはは作戦〟の情報を俺に知られていたという状況なのでそりゃ変な目で見られてもおかしくないわ
何となく気まずくてその場に居づらくなった俺は〝少し彼女の様子を見てくる〟と言ってその場を離れた
まあ、実際彼女の様子が気になってたのは事実だしちょっとだけ顔色を窺おうかと思いながら彼女が入ったであろう部屋にノックをし────風の吹き抜ける音が聞こえた
何か嫌な予感がしつつも咄嗟に扉を蹴り飛ばして中を覗いてみる
『あっ……』
『……随分お転婆なお嬢様だな?』
間一髪、もしこの部屋に来るのがあと一秒でも遅れていたら桐藤ナギサはこの部屋の窓から抜け出していただろう
理由は言われなくても分かっている、どうせ聖園ミカと直接話をしにいこうとしたのだろう
『……その、この事は誰にも……』
『言うに決まってんだろ、アンタ守ろうとしてんのにアンタが抜け出してどうすんだ』
『…………』
『……百合園セイアと白洲アズサの証言があっても未だに信じられないか?』
『だって……ミカさんが私を狙うなんて、そんな……!』
証拠は出揃った、それにこれからもっと多くの証拠が自分達から顔を現しにくる
そんな状況でも未だに心のどこかで幼馴染みの裏切りを信じられないのか、彼女の表情はずっと暗く陰が差していた
『セイアさんが無事で、嬉しくて……私が疑った人達は皆無実で……でも、私の信じてた人が裏切り者で、私を狙っているなんて……!何が、どうなって……誰を……信じればいいのか……!』
結果的に言えば俺の行動は無意味だったのだろう
幼馴染みに裏切られて傷つく、その未来が〝幼馴染みの裏切りを事前に知って傷つく〟という内容に変わっただけだった
中途半端に関わろうとした結果か、これが下らない偽善の行きつく先
原作通り本人が気絶してる間に事件を終わらせて後から後悔させるべきだったのか、それとも先に全てを知らせた方が傷が浅かったのかは分からない
涙をぽろぽろと溢す彼女を見て自らの考えの浅さを呪うと同時にある一つの決意をする
『……なら、聖園ミカ本人に直接聞けばいいさ』
『……え?』
『正体がバレる危険性を考えると先生達と一緒に戦ってやる事はできない、だが……代わりにここに向かってくるアリウスの雑兵共は俺が抑えといてやる』
『……』
『全員を食い止める事はできないが……それでも、そっちに向かう敵の人数が少なければ少しは問答する時間や余裕も生まれるだろ。だからその時になったら聖園ミカと直接話をすればいい』
『なぜ……そこまで……』
『……自分への罰みたいなものだ』
ハンカチを彼女の顔に押し付け、ごしごしと雑に拭く
その涙が流れているのは原作を変えられなかった自分のせいだと勝手に罪悪感を覚えながらそのまま部屋を後にした────
『うおっ!?地雷罠!?……やっべ、ちゃんと白洲アズサ達に罠を仕掛けた場所聞いとかねーと』
……さっき先生達とは一緒に戦えないっていったけど、流石に作戦の打ち合わせくらいはした方がいいかもしれない
じゃないと折川君の下半分川君が吹き飛んでしまう
ゲヘナとの会談は上手くいった……とは言い難いが、それでもナギサやセイアが想定していたよりは穏やかな進行具合だった
やはり会議の途中で茶々を入れられる(主に万魔殿の議長から)事はあったものの、それを誰よりも早く咎めたのはトリニティではなく同じゲヘナの風紀委員長だった
彼女の一睨みで蛇に睨まれた蛙のように体を固まらせた議長はそれ以降余計な口を挟むことはなく、少しでもその予兆を見せば即座に風紀委員長が議長の名前を呼ぶだけで黙りとしていた
……完全に力関係が逆転しているがそれは気のせいだろう
「……まあ、まずまずと言った感じだな」
「思っていた以上に穏便に終わりましたね」
「ああ……さて、先程から何度もしつこくモモトークを送ってくる彼女にも無事に終えた事を伝えないとな」
セイアのスマホの画面にはミカとのトーク画面が開かれており、内容は〝どう?〟〝大丈夫?〟〝なにもされてない?〟〝やっぱり行った方がいい?〟と同じ言葉の繰り返しだった
「全く……大丈夫だと何度も伝えているというのに」
「そうですね……〝たった今終わったのですぐに帰ります〟と伝えておいてくれますか?」
「ああ、もう送ってある……っと、もう返信がきたぞ」
モモトークに送られてくるグッドマークのスタンプ、恐らく彼女はずっと画面に張り付いていたのだろうと想像して苦笑する二人
そんな幼馴染みの為に早くトリニティに向かおうと外に出ようとすると、ふと視界の端に風紀委員達が不良を連行している場面が映り込む
「おや、彼女達は先程の……」
「こんな時間まで戦っていたのか……流石にゲヘナで起こる事件となるとトリニティより激しそうだな」
「ええ、そうで────す……?」
ボロボロの制服で疲れ果てている風紀委員達を労うように同情の視線を向けるセイア
しかし直後に隣のナギサが言葉を詰まらせたのが気になったのか視線を横に向けて〝どうした?〟と声を掛けた
「……ナギサ……?」
……時にはもうナギサの姿は隣から消え、いつの間にか先程見た風紀委員達の元へと向かっていた
ナギサが一人の風紀委員……戦闘で脚を負傷したであろう箇所にハンカチを巻いている生徒に声を掛けるとその少女と何やら会話を始めた
後ろ姿しか見えなかった為かセイアにはナギサがどんな表情で会話しているのか分からなかったが、大方労いの言葉を掛けているのだろうと大人しく彼女の帰りを待つことにした
「……ん?え?は?」
そんなセイアが唖然と立ち尽くしたのは、会話を終えて戻ってくると思ったナギサが突如自分とは別の方向に全力疾走を始めたからか
「え?え?え?」
「…………えっ」
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────いやー応援助かりました、銀鏡さん
「事件現場が偶然任務帰りでよかったよ」
ゲヘナの廊下を歩きながら風紀委員室に向かうイオリと酒泉、その制服が少々傷ついている事から敵の不良グループの規模が想像以上に大きかった事が窺える
「この後はどうするの?」
────空崎さんの方も会議が終わって今こっちに向かってるらしいんで事後報告済ませて、その後は……上がりですかねぇ?
「ふーん……じゃあどうする?そのまま一緒に帰る?」
────そっすね、今日は空崎さんも仕事は終わりらしいし手伝うこともなさそうなんで一緒に……あ、でも途中でスーパー寄っていっすか?
「いいよ、どうせ私も買いたい物あったし」
この日の会議に備えて仕事を全力で終わらせていたお陰か、風紀委員会は今日発生した不良グループとの戦闘以外は特に急ぎで進めるべき仕事等もなかった
珍しく(普段と比べて比較的)穏やかな日常を過ごせそうな空気のまま、イオリと酒泉はだらだらと雑談を続けながら廊下の曲がり角を曲がろうとする
「…………」
「……ん?あれって……」
────……ティーパーティーの……桐藤ナギサさんっすね
だが、その曲がり角の先で廊下の真ん中にポツリと一人佇むナギサの姿を発見する
……よく見れば、少々息を切らして汗もかいている状態で
「……迷子?」
────かもしれませんね、誰も付き人居なさそうですし……
「とりあえず何処に行きたいか聞いてみる?」
迷子か、はたまたどこか目的地があるのか、そんなことを考えた酒泉とイオリはナギサに声をかけようか迷っていた
だが、ナギサは無言のまま二人に近づくと、困惑する二人などお構い無しに口を開く
「……貴方が折川酒泉さん、ですね?」
────え?は、はぁ……そう、ですけど……?
「…………」
────……あ、あの……何か?
「………」
ナギサが酒泉の前に立つと、にっこりとどこか意味あり気な笑みを酒泉に向ける
しかし何か言葉を発することはなく、酒泉の身体をジロジロと見つめるばかり
それを隣で見ていたイオリはあたふたとしながら酒泉の肩を揺さぶる
「ちょっ……ちょっと酒泉!一体何やらかしたのさ!?」
────え!?い、いや!俺なんもしてませんよ!?
「でもばっちしガン飛ばされてるじゃんか!何か失礼な事したんじゃないの!?」
────いやいやいや!会ったのは今日が初め………………初めてですよ!?
「なんで言い淀んだのさ!やっぱりどっかで失礼な事したんだろ!?」
トリニティの重鎮を前にしてもギャーギャーと喚く二人を前にしてもナギサの態度は変わらない
相も変わらずひたすらに酒泉だけを見ている
そして二人の喧嘩が始まってから数十秒後、ナギサが顔を下に向けたまま一歩踏み出すと、それに気圧された酒泉が一歩下がる
「……」
────あ、あの……?
一歩
「…………」
────な、なんすか……?
また一歩
「………………」
────いやいやいや怖い怖い怖い!?なんか言ってくださいよぉ!?
またまた一歩
廊下の壁際に追い詰められた酒泉は震えながら顔を引き、自身に接近するナギサに恐怖することしかできなかった
その様子から流石に酒泉にも身に覚えのない出来事が起きていると判断したイオリは咄嗟にナギサに声を掛けて酒泉を庇おうとする
「あのっ!酒泉が何かしたならこっちから注意しておくから、だからここは一旦話を────「失礼します」────え?」
伸ばし掛けていたイオリの手が宙で止まる
それは単にナギサの行動に驚いたから……そう、失礼しますとだけ告げて許可もなく酒泉の胸元に顔を埋めたナギサの行動に
「…………」
────ぱえ?
「……え?」
間の抜けた顔で呆ける酒泉、何も喋らないナギサ
何事かとイオリの脳がフリーズして────数秒、思い出したかのようにイオリはわなわなと震え初め、大声で叫んだ
「なっ……なななななにしてるのさああああああ!?」
「…………」
「いきなりくっつくなんて……な、何でそんな事を……!?」
「…………」
顔を真っ赤にして慌てふためくイオリだが、ナギサは反応しない
……それどころか、酒泉の胸元からすぅーっと小さく息を吸う音が聞こえる
「ちょっと!?聞いてるの!?……ていうか酒泉もいつまでも固まってないでさっさと突き放してよ!?」
────めっちゃいいにおいする
「酒泉の馬鹿ぁ!!!」
────ペプシッ!?
尻尾による強烈な一撃が酒泉の頬に直撃する、その際の衝撃で酒泉がナギサから離れそうになる……が、ナギサが咄嗟に酒泉の背に手を回したことによってその事態は避けられた
そしてその光景を見たイオリは益々声を荒げて酒泉を問い詰める
「やっぱりどっかでこの人と会ってるんだろ!?今度は一体どんな口説き方したんだよ!?」
────だから本当に知らな……尻尾痛っ!?……マジで今日会ったばかり……痛い!?ペチペチしないで!?……俺は無実で……痛いっつってんだろおおおお!?
「ひゃうんっ!?尻尾を引っ張るなぁ!?」
ついに堪忍袋の緒が切れ、イオリの尻尾を掴んで上に引っ張る酒泉
そのままギャーギャーと再び言い合いが発生する……そう思われた瞬間、突如ナギサがふるふると震え始めた
「っ……ぅ……うぅ……!」
────うぇ!?な、泣いた!?ナンデ!?
「こ、今度は何したんだよ!?」
────だ、だから何も……俺はただ服に顔をくっつけられただけで……え?まさか俺の服が臭すぎるとか?スメハラ?だとしたら泣きますけど?
「……そうか?いつもの酒泉の匂いだけど?」
────いつもの酒泉の匂いって言い方、なんか引っかかるんですけど
「……そ、それは今はいいでしょ!それより本当にこの人が泣いてる理由に心当たりは────」
「見つけ……ました……」
「────え?」
「やっと……見つけました……!」
ナギサが酒泉の服から離れると、酒泉は漸く解放された事による安心感から肩の力が抜け落ちる
しかし見つけたとは何を、それを尋ねようとして────突如、ナギサが酒泉へと抱き付く
「……は?」
────めっちゃいいにおいする(何ですか突然!?)
「ふんっ!」
────めっちゃいいにおいする(尻尾痛いっ!?)
酒泉の足に尻尾を突き刺すイオリだがもはや彼の脳は痛がる余裕すらなくなっていた
それを知ってか知らずか、ナギサは酒泉に抱きついたまま感涙の声を上げる
「この温もり、この匂い、この安心感……やはり間違いありません……!」
「貴方だったのですね─────キヴォトス仮面様!」
オマケ、ナギサ・スタインベルトの演説
ナギサ「この度はゲヘナの皆さんに残念なお知らせがあります……折川酒泉はゲヘナの風紀委員ではありません、私と運命を共にする人生の伴侶だったのです♡」
酒泉「めっちゃいいにおいする」
ナギサ「今日から彼は桐藤酒泉♡彼は私の夫となります♡」
酒泉「めっちゃいいにおいする」
ナギサ「では……グッドラック♡♡♡♡♡」
めっちゃいいにおいする「酒泉」
ヒナ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」(酒泉をNTRされて脳破壊)
ミカ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」(幼馴染みをNTRされて脳破壊)