フライパンの音がキッチンから聞こえ、寝起きの顔でひょこっと覗いてみる
なんとキッチンではエプロン姿の桐藤さんが料理をしていたではありませんか
いやー、朝から美少女のエプロン姿を見れるなんて眼福眼福
「あら、もう起きたのですね……本当は私が優しく起こしに行きたかったのですが……」
じーっと見つめている俺に気づいた桐藤さんが語りかけてきた
「おはようございます、酒泉さん♪」
────はよざっす……
「もうすぐ出来上がりますので酒泉さんは顔を洗いにいってくださいね?」
朝から眩しい笑顔を向けられる、将来桐藤さんとくっつく男が居るのだとしたらその人は毎朝この笑顔を見れることになる
桐藤さんに言われるがまま風呂場前の洗面所に顔を洗いにいき、ぼんやりしていた意識を覚醒させる
顔は冷え、視界がハッキリし、思考が纏まり始める
欠伸をしながらリビングに戻るとそこでは既に桐藤さんがテーブルの上の皿に目玉焼きとベーコンを置いていた
うん、やっぱ朝はベーコンエッグだよな
「簡単なものになってしまって申し訳ありません……あ、それと冷蔵庫の余り物を勝手に使ってしまったのですがよろしかったでしょうか……?」
────はい、全然問題ないです
「ありがとうございます……では、早速朝食にしましょうか♪」
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「本日のご予定は?」
────今日は久々に休みなんで家でゆっくりしてようかなーと
「まあ!でしたら今日は一日中一緒に過ごせますね!」
うふふと嬉しそうに笑う桐藤さん、何この人めっちゃ可愛いじゃん
今となってはこんな人が〝ゴミはゴミ箱に〟みたいな発言をしたとか信じられない、当時はそれだけ心に余裕がなかったのだろうか
「はい、確か酒泉さんは目玉焼きにはお醤油派でしたよね?」
────よく知ってますね
「大好きな人の好みを把握するのは当然の事ですから」
ここまで正面から好意をぶつけられると色々と揺らいでしまう
しかし俺は漢折川酒泉、女子からの攻めなんていくらでも耐えてめっちゃいいにおいする
「あ、お昼は何か作ってほしいものとかありますか?」
マジか、まさかお昼も美少女の手作りご飯を食べられるのか
もしや俺は前世……は普通の高校生だから前々世で徳を積みまくっていたのかもしれない
……さて、現実逃避終了
「それか二人で……その……デートして外で食べるというのも……」
────そっすね、それもいいっすね……それよりも桐藤さん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど
「……も、もう……気が早いですよ、酒泉さん」
すいませんスリーサイズを聞きたい訳じゃないんです、だから身体を押さえて顔を赤らめないでください
……いや正直ヒップだけ気にな────げふんげふん
────桐藤さん、なんで勝手に俺の家に入ってるんですか?しかも朝っぱらから
「…………?」
キョトンじゃねーよキョトンとしたいのは俺だわ可愛いなちくしょう
おかしい、俺はしっかり鍵をかけてから寝たはずなのにどうしてこの人は平然と上がっているのだろうか
「普通に掛け忘れてましたよ?」
あ、疑ってごめんなさい。それとありがとうございm……だとしても勝手に上がらなくね?
セーフ、危うく普通に感謝するところだった
────桐藤さん、どうしてこんな事を?
「どうしてって……伴侶の事を知る為に多くの時間を共に過ごそうとするのは当然の事でしょう?それにほら、先日は風紀委員長に追い返されて酒泉さんと一緒に過ごす事ができませんでしたし……」
昨日は本当に大変だった、デストロイヤーを持った空崎さんが冷静さを取り戻すまで耐え続ける事は巡航ミサイルの余波を食らった状態でアリウススクワッドを相手にする事以上に大変だった
とりあえず桐藤さんの話は普通に却下されたけど……その後やけに素直に帰っていったのはこういう事だったのか
────あーっと……その……やっぱあの告白は本気なんですね?
「ええ、本気です……あの時直接〝口〟で伝えたでしょう?」
人差し指を俺の唇に当てられる
〝口〟で伝えた……か。まあ、確かにどっちの意味でも伝えられたな
「私は貴方だけを見ています、他の者に何を言われようと他の者にどれほど妨害を受けようと……私は貴方を諦めるつもりはありません」
────……そんなに好きなんです?
「はい、大好きです。私には貴方しか……いえ、私は貴方の事しか見えなくなってしまうほど心を奪われてしまっているのですから」
……貴方しか?
一瞬言い方に疑問を感じるが、その直後の堂々すぎる告白に思わず息を飲んでしまう
男としては非常に喜ばしいどころか、むしろ此方から土下座して〝告白してくれてありがとうございます〟と靴を舐めながら感謝しなければならない程の幸福だろう
幸福……なのだが……
「ふふっ……」
俺のことを好いてくれてる彼女の微笑みは、ちょっと可愛いけどちょっと変だ
言葉では言い表せない違和感、昨日の夜から一日の出来事を何度も思い返しているが、その違和感にずっと気づけない
何かがモヤモヤする、昨日今日と続いてずっとそれが晴れない
この人は……
「お慕いしております……酒泉さん」
この人は、本当に純粋な好意で─────
「ところで酒泉さん、この後ロールケーキの材料を買いに行こうと思っているのですが……一緒に行きませんか?」
────いぎだいっ!!!
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「~~~♪」
前世の俺へ、今頃貴方は野郎臭い友人達に囲まれていつも通り口喧嘩しているでしょう
しかし今世の俺はめっちゃいいにおいする女の子と二人でお買い物しています、しかも相手はあの桐藤ナギサだ
羨ましいか?羨ましいだろ?羨ましくてもこっちには来るんじゃないぞ、周りの人達を悲しませるんじゃない
────……あ、桐藤さん。卵ならここのスーパーよりちょっと先の方が安いからそっちで買おう
「まあ、そうなんですか?それなら今後の為に覚えておかないといけませんね」
────……今後?なんの?
「勿論、酒泉さんと一緒に暮らすにあたってですが?」
さらっと結婚生活を想定してらっしゃる?……いや待て、別に結婚生活とかじゃなくてただの同棲とかルームシェアの可能性もあったろ
なのにどうして結婚生活って決めつけてんだ俺は……もしや自分でも気付かぬ内に絆されてる?
あかん、俺のウォールアルコールが突破されかけとる……昨日から思考のどこかしらに必ず桐藤さんの存在がチラついてるし昨日からずっと抱きしめられた時の感触が身体に染みめっちゃいいにおいする付いて回ってお尻重かった駄目だ思考がめちゃくちゃになってきた
「そうですね……折角ですしこのまま晩御飯の分の材料も買っていきましょうか」
────……え゛っ、まさか夜も一緒に……?
「……?ええ、勿論そのつもりですが……」
駄目でしょうか?と上目遣いで言われてしまえば何も言い返せなくなってしまう
朝起こそうとしてくれて一緒に買い物して晩御飯も作ってくれるとか、そんな事されたら男の子なら皆俺に好意があるって勘違いしそうになるだろ────勘違いじゃねーやハッキリ告白されたんだった
……んー……本当にそうか?桐藤さんの好意は本物……なのか?色々とはっちゃけすぎてるし全くの別人かと思うほどキャラ崩壊までしてるし少し様子がおかしい気がする
しかも友達の百合園セイアや幼馴染みの聖園ミカより俺を優先するほど好感度が高いなんて、二人とも俺なんかより付き合いが長いはずなのに
いや、キスまでされておいて好意を疑うのは失礼だって分かってはいるんだけど……でも、やっぱりなんか……
「酒泉さん?どうかされましたか?」
────……いえ、何も。それより学園の方は大丈夫ですか?トリニティのトップがゲヘナのしたっぱと夜まで一緒に家に居たなんて誰かに知られたら学園が混乱するんじゃ……
「もしそうなっても私達には何の関係もないので問題ありません」
────えぇ……結構ヤバい事態になると思うんですけど……
「大丈夫です、向こうにはセイアさんだっていますし……それに一般の生徒の方々だってティーパーティーがいないと何も出来ないほど我々の存在に依存している訳ではないので」
いや、俺が心配しているのはそういう体裁的な話じゃなくてゴシップ的な────ん?依存?
────……繋がった
「……酒泉さん?」
────何でもないです、ただの独り言ですので
脳細胞がトップギア……かどうかはまだ分からない、確証はないし
とにかく、暫く様子を見てから答え合わせでもいいかもしれないな……合ってた時は桐藤さんにキッツいことを言わなきゃならんかもしれんけど
…………先に心の中で謝っておきます、ごめんなさい